ただ、その実績を思うといささか疑問に思うところが出てくるのが、今月急逝したサッカー元日本代表であり、横浜Fマリノスの名物選手であり、その後JFLのチームに移籍した松田直樹選手だ。
180を越す長身であり、気の強さ、身体の強健さは世界レベルのDFだと言われていた。柱谷、井原が引退した後、日本代表を支えるのは松田だと言われたこともある。
トルシェ率いる日本代表選手として日韓ワールドカップでは、フラット3といわれたDFラインの一翼を担う選手の一人として活躍。
その後、ジーコ監督の逆鱗に触れて以来、代表からは遠ざかったが、横浜Fマリノスの中心選手としてJリーグで活躍してきた名選手であった。まだまだ活躍できると思ったが、よもやの死であり、多くのサッカーファンを驚かせ、嘆かせた。
規律を重んじるジーコの主張は分るが、もしドイツ大会の時に、松田が代表にいたのなら、あれほど惨めな敗退はなかったと思う。怪我で帰国の田中誠、不調の中沢、信頼喪失の宮本とDF陣崩壊こそが、ドイツ大会の敗退原因だったと思うので、あの時ほど松田の存在が重要に思えたときはなかった。
それだけに早すぎる死を嘆く気持ちは、私にも相当強い。
ただ、ここはもう少し冷静に考えてみたい。松田が日本サッカー界期待の大型DFであったのは事実だ。だが、その実力には、いささか疑問符が付くと、私は考える。
たしかに松田は、日本人としては大柄で身体能力も高いが、世界レベルで、とりわけヨーロッパの大型DFと比べれば見劣りする。また海外の大型FW選手に力負け、スピード負けしていたのも事実だ。
これは松田に限らない。日本人よりも大型の選手に対抗するのに、日本人の体格サイズは物足りない。だからこそ、外国人監督は、日本人DFに長身や体格を求めない。
オシムが言うように俊敏さや、クレバーなプレー、規律と統率力など日本人の資質を活かしたディフェンスをすることで、海外の大型選手に対抗させるのが、最も有効な手法なのだろう。
しかし、私は少々疑問に思っていた。やはり長身DFは必要ではないか。身体の強さ、体格の大きさもDFには必要ではないかと思っていた。
しかし、先月の女子ワールドカップにおいて、小柄な日本人DFたちがヨーロッパの大型FWを押さえ切ってみせたのには驚愕した。どうみてもふた周りは大型のスウェーデン、ドイツ、アメリカの選手たちを、なでしこジャパンの選手たちは凌いでみせた。
やはり、日本人には日本人にあった戦術をとるべきなのだと、よく分った。小柄なDFでも、十分海外の大型選手に通用する。それを実証してみせたわけだ。
そう考えると、松田直樹のような大型DFにこだわることは、あまり賢明とはいえないのだろう。松田を重用したトルシェ監督でさえ、常時出場させたのは松田よりも小柄な中田浩二であり、フラット3の残り二つを森岡と宮本、松田に争わせて出場させていた。
ジーコも松田よりも小柄な宮本や田中誠を重視した。自分の才幹に自信をもっていた松田が不満を抱いての造反であった。そして、その造反をジーコは決して許さなかった。それゆえ、松田選手が日本代表としてピッチに立つことはなくなった。
日本人の俊敏さを活かすことを重視したオシムは、当然松田を呼ぶことはなかった。また、いささか不思議だが、マリノスを率いたこともある岡田監督も、もはや松田を呼ぶことをしなかった。
私は長身のDFは必要だと、今でも思っているが、長身大柄であることにこだわりすぎる必要はないと考えるようになった。
ただ、そうは思っても松田選手は見る価値のある選手でしたよ。なにしろ熱い、額にバンダナを巻きつけた松田が、前線に向かって走ると、観客はついつい期待して注目せざるえませんでした。それほど得点力のある選手ではなかったのですが、人目を引きつける熱いプレーは、まさにプロ。
その意味で、早すぎる死を惜しむ気持ちは強いですね。