自動車免許を取った直後、父から与えられた車がHONDAのシビックだった。
以来30年以上、HONDA車を乗り継いできた。好きなメーカーでもあるし、トヨタや日産とは明らかに異なる自動車作りに惹かれていた。ちなみに中古車が3台、新車で2台乗り継いでいる。
だからHONDA車の良い点も悪い点も、自身の実体験から熟知している。良いのはエンジンだ。快適といよりも快感を得られるエンジンだ。特にマニュアルシフトを上手く駆使してエンジンの回転数を2千から3千あたりで走ると力強く、かつ快適なパワーが得られる。このエンジンの良さはオートマでは満喫できない。
しかし年齢と共に渋滞でのクラッチ操作が面倒に感じるようになり、営業に薦められて初代フィットを購入した。これが非常に良く出来た車で、長年販売数トップを独占していたトヨタのカローラから首位を奪取して大ヒットした。
ただしHONDA車の伝統的な欠点も引き継いでいた。それが電装系の故障の多さ。他にもシートのへたりとか、細かい欠点はあったが、慣れていたので気にならなかった。しかし、クーラーの故障には参った。あれは忘れもしない夏の盆休みに東名高速をドライブしていた時だ。
富士市を過ぎたあたりから急に車内が暑く感じた。なんと熱風がクーラーの送風口から出ている。夏の真っ盛りにクーラーが壊れやがった。急遽近場のHONDAディーラーに駆け込むが、応急処置も無理とのこと。しかたなく旅行は中断して帰京。正直頭にきていた。何故なら二週間前に半年に一度の定期点検を済ませていたからだ。
日中は避けて深夜に窓を全開にして帰宅し、朝一番で購入したディーラーに持ち込んだ。店長やメカニックと交渉して無料で交換させたが、盆休みに無理云って治させたので工賃だけは払った。この時の経験から、担当メカニックと親しくなり、後々助かることになる。
次の車も二代目フィットであり、これはデザイン的にも使い勝っても向上した良い車であった。しかし、二度目の車検を終えて二年、それそろ買い替えようかと考えていた。その時の候補は、3代目フィットではなく、二代目のフリードであった。現行のフリードとは異なりデザインも格好良く、スライドドアやら細かい改善点も多く、内心こちらに決めていた。
試乗させてもらい、工場裏のパーキングに戻した時だった。件の担当メカニックの方が近寄ってきて「後、二年待ったほうが良いですよ」と小声で話しかけてきた。周囲を気にしているようなので詳細は聞けなかったが、私は直感的にその言を信じた。
営業には次の車検時に買い替えると告げて、その場は立ち去った。その後、心臓疾患でしばらく運転が出来なくなったので、車は引きとってもらった。運転中に心臓疾患で事故を起こすのは真っ平である。
その後のことだが妙な噂を耳にした。日光の観光名所であるいろは坂でHONDAの車が故障を多発しているとのこと。他にも坂道の多い中央高速でも故障して止まっているHONDAの車の話を聞くことがあった。その時私が思い出したのは、フリードを試乗して戻ってきた時のメカニックの方の「後2年待った方が良い」との言葉であった。
ただし、この件でリコールが発表されることはなかった。おそらく内々で処理したのだと思う。ちなみに、車両の欠陥を公表して修理を求めるリコール制度は、自動車メーカーにとって経済的にも、またイメージ的にも印象が悪く、欠陥の公表を避ける傾向がある。
もっと言えば、死傷事故が起きてようやくリコールを宣する醜態を見せる大メーカーは珍しくない。これは欧米の自動車メーカーも同様であり、我が国でも隠して欠陥を治して知らん顔をすることが多い。ひどいのになるとリコールを発表しても治す技術がないメーカーもある始末である。日本ではあまり売れないメーカーなので知られていないが、欧米でも東南アジアでも悪評ぷんぷんである。
実はこの冬休み中、偶然だが某ホテルのビュッフェで件のメカニックの方と再会した。互いに連れがいたので、短い時間ではあったが真相を教えてくれた。やはり当時のHONDA車に搭載されていたハイブリッド・システムの構造上の欠陥が原因であった。
ハイブリッド車といえばトヨタが先行するが、HONDAはトヨタ方式ではないシステムを開発して使っている。そのシステムの構造上の問題で、坂道などで低速でのノロノロ運転を繰り返すとギアボックス内で高熱が生じ、それが原因で故障することを防ぐために安全機構が働きエンジンを止めてしまう。これがHONDA車が坂道で故障する原因であった。
故障はしても、事故にはならないということでリコールはしなかったらしい。しかも根幹的な改良が出来ず、最終的には別のハイブリッド・システムを開発して搭載することで問題を解決したらしい。つまり現在売られているHONDAの車には、同じ問題は起きないとのことであった。
メカニックの方は「もう大丈夫ですから安心して乗ってください」と笑っていたが、私は内心そういう問題じゃないだろうと思っている。これは私の邪推だが、HONDAの車がデザインを一新したのは、故障するイメージを払拭するための意味もあるのではないかと思っている。
私も新しいフリードを試乗したので、中身が良くなっているのは知っている。だが敢えて何故にこのようなダサい外観にしたのかが分からなかった。だが、故障の原因を知ったことで、なんとなくだがHONDAの経営陣が無難な外観を選択したのかが分かった気がする。
かつてHONDAは、創業者の宗一郎が固執した空冷エンジンを断固として止めさせて、水冷エンジンに切り替えた歴史がある。断固とした決断を下した若き経営者の判断に最初は憮然とした本田宗一郎も、結果的に優れたエンジンを見て納得し、引退を決意したという。
会社は大きくなり、経営に携わる取締役も増えたが、逆に決断力、判断力は衰えたように思えてならない。私は次に選ぶ車はHONDA以外から選ぶと思います。