ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

永遠に去りぬ ロバート・ゴダード

2022-04-14 11:32:00 | 

なにも無かった。会話を交わした記憶さえない。第一、もう名前も思い出せない。

それなのに、その美貌だけは覚えている。いや、正確には40年ちかく忘れていたのに思い出してしまった。高校の同級生ではあるが、クラスも違ったし、部活も違う。接点は本来なかったはず。

だが一回だけ紹介されたように思う。あれは高校一年の文化祭の時だ。当時、どちらかといえば女嫌いであった私だが、ちょっと大人しめに見えて、実は少年めいた明るさをもったY子と仲良くなっていた。そのY子に文化祭の時、彼女が入部しているクラブのイベントに誘われた時に紹介された。。

ずば抜けて美人な子が彼女であった。一度見たら忘れられない美貌ではあったが、なによりも優しげな笑顔が魅惑的な子であった。が、しかし当時女嫌いというか女性不信の気が強かった私は、無意識に警戒してしまった。

同時に連れてきてくれたY子に不義理はしてはならぬと、敢えてその美人さんとは素っ気無く対応した。それで終わったはずであった。

もっとも肝心のY子は親の都合で翌春には海外へ引っ越してしまった。私としては、かなりの衝撃であったが、そのせいか学外での勉強と遊びに傾倒するようになった。

ところがいつの頃からか、気が付くと偶に視界の中に、あの美人さんがいることがあった。目立つ子なので、偶然だと思っていた。卒業までに何度も見かけることがあったが、私の記憶では話すことも挨拶さえもした覚えがない。

実は彼女には男嫌いの噂があった。あくまで噂話だが、彼女に告白した男で成功した奴はいないらしく、そのせいで彼女にはレズ疑惑まであったほどだ。それを漠然と聞きながら、はて?男嫌いな感じはしなかったなァと思ったが、それを口に出したことはない。

もちろん卒業後は、まったく縁がなく、その美人さんの進路もその後もまったく知らない。

ところが表題の書を読んで、真っ先に思い出したのが、あの美人さんであった。ちなみに恋愛小説ではなく、重厚で上質なミステリーである。特にこの作品で使われるプロットは斬新であり、さすがミステリーの大家ゴダードであると感心した。

この名作の冒頭で、主人公はハイキングの最中に見知らぬ美しい女性と遇い、ほんの短い会話を交わす。ただ、それだけなのにひどく記憶に残った女性であった。そしてハイキングを終えて帰宅すると目にした新聞には、その女性が殺人事件の被害者として取り上げられていた。

おそらく主人公は、その女性が殺人犯以外で最後に遇った人間であったらしい。当然に警察に協力もしたし、裁判で証言台に立つことにも協力した。ほんの短い邂逅であったはずなのに、徐々に主人公は事件に巻き込まれていく。そんな冒頭を読んだその日の夜に、私は高校時代に出会ったあの美人さんを思い出していた。

私はさほど見た目の良い男性ではないから、女性のほうから積極的に声をかけられた覚えがない。いや、正確にはそのような態度の女性に巡り合っても気が付かなかった鈍感男である。その自覚があるからこそ、私はあの美人さんのことを思い出したのであろう。

決してモテる男性ではなかったが、高校時代は割合と有名人であった。高校3年間ずっと成績はトップ3に入りながらも、酒、煙草、パチンコ、夜遊びと一通り遊んでいた変わり者であったので、知名度は高かったらしい。

モテないといいつつ、実はラブレターを貰ったこともあるし、2月14日にチョコを見知らぬ子からもらったこともある。ただ、なにかに夢中になると他のことが意識に入らなくなる悪癖がある私は、女性に冷淡な面が確かにあった。

1年の文化祭の時、Y子の紹介で知り合ったあの美人さんは、素っ気無かった私に、もしかしたら興味を覚えたのかもしれない。だとしたら彼女、あまり男を見る目がないのかな。まァ私もたいがいだけど。

ところで表題の作品だけど、かなり分厚い本なので、読むのに苦労するかもしれない。でも、それだけの価値はあります。特にエンディングが素晴らしい。どこぞの良識ある売れっ子作家に爪の垢を飲ませたいほどだ。

え、誰かって。いや~、言えませんよ、Hだなんて。まァ本書を読めば分かる人は分かるはずです。


コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 突然死 | トップ | 車の整備 »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (大俗物)
2022-04-14 12:51:18
こんにちわ。
ふむふむ。いや良い書評!
ヌマンタさんの実体験記憶の美女と、本の内容が
イメージ交錯しながら進むので、単なる書評を越えた読後感あり。ほろ苦く時に痛いが懐かしい……
そういう記憶ってありますね。そこをくすぐってくる味わい。書評も記事である以上、単なるオススメや分析を越えた読みではあっても良いはず。
ただですね……ヌマンタさんの書評って、シンプルに面白い事が多いので、本を手に取らな事(笑)
ヌマンタさんが、特にフィクションては、プロット粗筋に深く触れないのは、その辺りをご自覚きているからだと思います。
返信する
Unknown (ヌマンタ)
2022-04-15 12:00:17
大俗物さん、こんにちは。未だに戸惑っています。ずっと忘れていたのに、この本を読みだした最初の夜に、あの美人さんを思い出しました。ゴダードの語り口に想起したからだと思いますが、私の記憶のスイッチでどこにあるのか自分でも良く分かりません。

なお、この作品自体は非常に上質で重厚なミステリーですから、お薦めの作品なのは間違いないです。
返信する

コメントを投稿

」カテゴリの最新記事