歯医者さんが好きな子供は滅多にいないと思う。
実際、子供の頃に通った歯医者さんはおじいさん医師で、虫歯があるとすぐに抜きたがる人だった。麻酔は上手かったと思うが、あの歯を削るドリルの音は子供心にも不愉快であった。そんな時、商店街の一角に新しい歯医者が出来た。
評判が良く、行ってみると従来の黒椅子ではなく落ち着いた緑色の寝椅子で、ドリルの音も控えめで不快を感じることも少なかった。数年間はその新しい歯医者に通った。しかし、独り身になった祖父を心配して引っ越すことになったため通うのが難しくなった。
大学生の頃だが、歯が痛くなり新たに歯医者を探すと丁度駅前に看板があった。居酒屋の二階にある歯科医院であり、若い男性の歯医者さんだった。丁寧な治療で気に入ったので、そこに通い始めた。以来、40年以上お世話になっている。
昨日のことだがその歯医者さんからの葉書が届いていた。読むと今年6月をもって引退し、若い後輩に医院を任せるとのこと。
確かにだいぶお年を召されたとは感じていた。髪にも白髪が目立つようになっていたのは気付いていたが、ご自身で引退を決意されたとは驚きだった。葉書には開業48年とあったから、私は開業して二年目くらいの患者だったのだろう。
業種は違うが私も個人事業主だ。いつかは引退するときが来るはずだ。師匠のS先生は自分の死期が近いことを予想して、亡くなる数年前から半引退状態であったから引き継ぐのは容易であった。事務所の合併を提言されたN先生は突然に亡くなられたので、引継ぎは混乱を伴った。実は現在、病気療養を理由にW先生から業務の引継ぎ依頼が来ており、前回の失敗を踏まえて徐々に引継ぎを行っている最中でもある。
ところで私である。心臓疾患で除細動器を胸に埋め込んだ私であるからして、そう長生きは出来まい。そうなると次を考えておかねば顧客や事務所スタッフを放り出すことになってしまう。でも仕事、楽しいんだよね。
そう考えると、歯科医師のH先生はよくぞ決断したと思う。現在、虫歯の治療中だが、やはり医院のなかでは一番上手いのはH医師だ。それでも引退を決意されるのだから、相当な葛藤があったのだろうとも思う。私としては引退される6月までに歯の治療を一通り終わっておきたいものだ。
まだ早すぎますが、H先生、長い間ありがとうございました。
去年は近所のお医者さんの引退が相次いで、さてどうしたものかと考えてました。
医院というハードウェアはそのままに診療科目が変わったりとか、新しく出来たりと今は一段落ついてます。
近所の医者はいつかかるかわからないので、入れ替わりは要チェックです。