口説かれてみたい男に口説かれたおんなは海に星降るを見る 薬王華蔵
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口説かれてみたい男というのがそうそういるわけがない。嘘もほんともギュウギュウ掻き混ぜて男は口説いてくる。理性も倫理も道徳も放り投げて、悔いるところもなく。そんな既製品よりもあなたを仕留める方に生き甲斐を感じていると言わんばかりに。接近してくる。接近が終了する。境界線が消える。精子と卵子が初めて合体をして一つに溶け込んだように。すべての恐怖が消える。女の海に星が降って来る。それを陶然と見ているだけになる。世界が一変したのだ。
バイスバーサ。口説き切った男だって同じのはず。
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おとことおんな。二つの性しかないのだ。その営みが下劣であるはずはない。
そんなことをふらりと考えてみた。痛みがずいぶんやわらいでいるからだ。
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でもでもわたしはその範疇の男ではない。そこからもっとも遠い部類で、トンチンカンで、間抜けで、口説きなんぞに手を染めたことはない。これっぽちの情熱をも注いだこともない。