「春中田園作」 春中田園の作 王維
屋上春鳩鳴 屋上に春鳩 鳴いて
村辺杏花白 村辺に杏花 白し
持斧伐遠揚 斧を持して 遠揚を伐る
荷鋤覗泉脈 鋤を荷ないて 泉脈を覗う
帰燕識故巣 帰燕は 故巣を識り
旧人看新暦 旧人は 新暦を看る
臨觴忽不御 觴に臨んで 忽ち御せず
惆帳遠行客 惆帳す 遠行の客を
☆
屋根の上に春の鳩が来て鳴いて
村里には杏の花が真っ白に咲いて
まあ何と長閑(のどか)なんだろう
斧を持ち出して来て伸びた枝を切っている人
鋤を背負って穴を掘って水が出て来る泉脈を探している人
人間はまあ忙しい忙しい
燕は元の巣を見つけ出して帰って来たようだが
年を取っているわしは、暦を眺めてこれからの思案
どっちがいいやら
觴(さかずき)になみなみと酒を注いでみたが、飲めなくなったよ
遠く旅に出ている我が友のことを思ってさ
悲しくやるせなくなってしまったんだよ
☆
季節は春。数羽の山鳩が屋根の上に下りて来て、いい気持ちに歌を歌っている。村里には杏の白い花がいま盛り。ゆっくりそれを愛でていればいいものを、それがそうできぬ。盃を手にすれば、今は此処に居ない我が友のことを思って、寂しさ哀しみが増してくる。いい年を取っているというのに、これだ。愛すべき故郷に暮らしていながら、これだ。制御不能の我が身が恥じられて来る。王維はそれを詩にしているのか。