我が病状はすでに峠を越えた。下りの坂道に掛かった。もう大丈夫だ。安心感に包まれる。
でも、飲む薬の量は変わらない。油断はならない。快復はゆっくりである。
今日は見舞いの客人が3組もあった。励ましを添えて下さった。元気を分けていただいた。有難いことだった。
心配をしておいで下さったのに、患者に心配すべきところがなくて、騙しているような罪悪感を、わたしは持った。
わたしは平常、まるきり冷酷な人間なのに、こうしてあたたかい情愛を注いでくださるのである。すまないと思う。
我が病状はすでに峠を越えた。下りの坂道に掛かった。もう大丈夫だ。安心感に包まれる。
でも、飲む薬の量は変わらない。油断はならない。快復はゆっくりである。
今日は見舞いの客人が3組もあった。励ましを添えて下さった。元気を分けていただいた。有難いことだった。
心配をしておいで下さったのに、患者に心配すべきところがなくて、騙しているような罪悪感を、わたしは持った。
わたしは平常、まるきり冷酷な人間なのに、こうしてあたたかい情愛を注いでくださるのである。すまないと思う。
生まれた者がみな通って行った道です。その道をわたしも通って行きます。生から老への道、老から病への道、病から死への道です。逃れる道はありません。であれば、嫌だ嫌だ、辛い悲しい苦しいを連発しながらも、これに準じて、この一道を行くしかありません。
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ベルトコンベアが回る道というのがあります。これに乗っているときには、わたしが歩くことがありません。わたしは立っているだけで、連れ去られて行きます。老へ老へ、病へ病へ、死へ死へと。わたしはこの動きに抗うことができません。
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このコンベアの道は、連れ去られた後にも回っています。わたしの足がここに張り付いています。この世のベルトコンベアが見えなくなると、あの世に進みます。あの世でもまたこのベルトコンベア、時間というコンベアがやはり回っています。
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あの世の先でコンベアは、くるりと反転します。するとその先がまたこの世になっているのです。二回目の生がここからスタートします。
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はじめの道は往相という道、次のが還相という道です。行き道と帰り道です。浄土への行き道とそこからの帰り道です。
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お浄土で、私たちは成仏させられて、仏陀になります。するとそこから仏陀としての実践生活が始まります。苦しむ者を救うという実践に入ります。実践なしには仏陀とは言えません。これが還相の道行きとなります。
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行き掛けの往相道では、自らが苦悩を背負い込みます。苦難の重荷を自らの全身で背負い込み、唸ります。この経験が役立つのです。還相の帰り道で役立つのです。この世における苦悩苦労苦難が無駄になってはいなかったのです。
仏教は、転迷開悟の教え。迷妄が一転させられると、そこに悟りが明るく開示されている。天空にある明月と暗雲が、わたしの地上にも降下して、わが内陣でもドラマ展開を見せる。
わたしの内陣の場合は、ことさらに暗雲ばかりが長々と長々と続く。そして束の間に雲が切れる。そこから、明月の光が降り注いで来る。ことさらに明るく美しく。
それもこれも見せられる。迷いの雲も見せられる。悟りの月も見せられる。自力によらず、他力によって。
苦しんで苦しんで、悲しんで悲しんで、それでもそれでいい。そういうことなのかもしれぬ。それがあるので、たまにたまに眺める月光が明るく明るく見えて来るのである。
わたしの病もどうやら峠は越したように思われる。入院している北向の部屋の窓には、秋の名月は、人伝に聞くばかりで、玉なす光が差し入れて来ることはなかった。
あ、嬉しい知らせだ。新聞社からの電話が今しがた。一月も前に、読者の声の、オピニオン欄に、投稿していた原稿が採用されることになったらしい。もう没になったと思って、諦めていた。
担当記者さん曰く、棄てられませんでした、この日が来るまで大事にとっておきました、と。
ふふ、地獄の三丁目にいる我にも、ちょいとはいいこともある。
生きている内に何でも見ておけ、体験しておけということなのだろうか。苦しみも嬉しさも、辛いことも楽しいことも。苦痛苦難も歓びも。
片方だけの受領ではないらしいなあ。行きつ戻りつを繰り返す。そこから、何を掴むのか。いろいろと学ばさせられる。
反転してみないと対極が感じとられない仕組み。闇と明るさゅよう。陰と陽のよう。正と負のよう。順と逆のよう。上がって下がる。下がって上がる。
朝方、よく冷えました。冷え込みました。毛布の布団を重ねました。起きたら、ジャンパーを着込みました。それでも寒いですね。その代わりに、空が高い。青い。深い。入院室の窓から見上げています。
皮膚の全身のアレルギー反応症状は、劇的改善ではありませんが、快方に向かっているようです。より酷くなってはいません。治療は、抗アレルギーのステロイド抑制剤の薬を飲んでいます。塗り薬も1日一回。痒み痛みは続いています。
皮膚は偉いなあと思います。わたしの気持ちはすぐに腐るのに、全身の皮膚はすべからく真面目を通して立ち向かって、じっとして耐えています。頭が下がります。
長期戦になりそうです。でもここで完治させておきたいです。再発はごめんですね。ともかくも、この高齢で、辛い苦しい体験になりました。