S新聞 読者の広場「おとこの星座」 投稿作品
「どうしてこうも寂しいのか」
寂しい。どうしてこうも寂しいのだろう。来る日も来る日も寂しい。老いたからだろうか。病んだからだろうか。柿紅葉する村里に、一人為すこともなく過ごしているからだろうか。「そりゃ、死んでいないからだよ」とAさん。そっけないAさん。だが、肯ける。なるほど、死んでしまったらもう寂しくはなくなるだろう。ということは? 生きている内は寂しい、観念しろ、ということになるのか。
兄より先に弟が死んでしまったからだろうか。それも一因だ。「おおい、兄貴、いるか」「今夜は月を賞でて、どうだ一献」の声が掛からない。人の世は無常で儚い。それを知る。
もしも楽し事が波のように押し寄せて来たら、寂しくなくなるのだろうか。しかし楽しい波のさざ波はやがてあっけなく消え、海に潮騒がして黄昏が来る。元の木阿弥となる。
今日は、なごやかに談笑しながら通り過ぎて行く人を見ている。と、行く人行く人、寂しさとは無縁に暮らしている人ばかりに見えて来る。学校へ急ぐ若者達は颯爽とペダルを漕いで行く。エプロン姿の母親達が園児を送り出している。みな明るい。多忙で活気が溢れている。これに慰められる。我が寂しさを忘れて、両手を挙げて万歳をしたくなる。
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10月28日に投稿したばかりだった。すぐに掲載になった。20字x25行だから、500字の原稿である。処処、補正が施してあった。上の文は投稿した原稿である。
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そんなに寂しいのか。寂しい。対処のしようがない。薬屋さんに行って処方箋を出してもらうわけにも行かない。楽しいことで帳消しになるか、というと、それがそうもいかない。すっぽり帳消しに出来るほどの楽しいことも、この醜悪な老人には起こらない。
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我が家の庭にも黄金石蕗の花が咲き出した。きれいだ。今日は病院に行って来た。帰りに薬をもらった。薬屋さんの庭先に、ふいといい匂いがした。ギンモクセイだった。