あけぼの

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「こんにちは」に歴史の重み 完

2010-10-18 20:14:20 | アート・文化

Tadaaki_uzbekistan_aizu_gekkabiji_2 日本人墓地の世話をするファジルミラールさんと

 ムスリム墓地の一廓にあるとは聞いていたものの広くて見当もつかない。諦めて帰ろうとしたその途中、布を広げた縁台にぽつねんと座っていた老人にその場所を訪ね、案内してもらった。200mも奥の道から左に入ったところだった。案内人無くしてわかる筈のない場所、運に救われた。その人こそ三代にわたって日本人墓地を管理していた二代目、ファジルミラール(68歳)さんであった。第二次大戦後中央アジアに抑留された日本人は64000人、内2000人が亡くなっている。ソ連に抑留され強制労働させられてこの地で没した79名の日本人が、殆んど飲まず食わずの労働の果てに病気や衰弱で倒れ眠っている墓地だ。石碑には出身県と氏名が刻まれていた。今は桜の木が十数本植えられ花壇も作られている。彼が植えたと言っていた。彼の父が路上に転がっている日本人の死体を一人一人埋葬したのだったと。日本人は勤勉でよく働いたことが美談として二代目の彼に語り継がれていた。ソ連兵に支配されたウズベキタン人が見た、従順で懸命に働く日本人のその魂が物語として伝えられ、人々の「こんにちは」に象徴されたのではなかろうか。帰りには縁台で熱いお茶をご馳走になり、自分が取り上げられた日本の新聞を見せてくれた。平成7年の日経だった。言葉はうまく通じなくとも彼の行為に謝辞を述べ、持っていた日本の物をお礼に渡した。世界遺産より人間遺産の偉大さを改めて考えさせられた旅だった。(自悠人)