Aya-no-Uzuwa with Snow-covered K2
インドが好きだった! 筆者の地球千鳥足事始めがインド、若かりし日エジプトエアーを使ってボンベイ(現ムンバイ)に降り立ったが、飛行機は荷物をエジプトまで持って行ってしまい、筆者は下着1枚入った小バッグだけで12日間インド一人旅をした。だが自分の魂にズシンと響く人々の生き様や悠久の時が流れるこの国に魅せられた。筆者の脳裡には汚いガンジスの水で口を漱ぐ人々の光景が「幸福とは何か」の問いと共に常に存在し、愛と郷愁を胸に過去4回訪問、今回は5度目だった。印パ紛争が続き延期していた北部カシミール地方へ、ムンバイの旅行社で飛行機の切符とホテルを手配し、州都シュリナガールに向かった。空港の荷物検査は大変厳しく入出州時とも4回もチェックがあり幸先は悪かったが、まさか2回もホテルを逃げ出すことになろうとは!
「明日ダール湖を掃除します!」カシミール地方はインドでも一際風光明媚な地として知られる。カラコルム山脈を望む雄大な風景、バハルガムは溜め息止まらぬ別天地、ここでの乗馬はかけがえのない体験だ。ダール湖もかつては澄明で観光客を惹きつけたことだろう。今回はこの湖のハウスボート(以下H)宿泊が目玉だった。赤い布を敷き詰めた一見豪華な小舟で無数にあるどのHにもすぐ行ける。湖は想像していた美しさとは程遠く、汚水を好む水草が浮かんでいた。がっかりするには早かった。予約のカイバーではノッポの紳士が迎え入れ、美味しいカシミール茶を淹れてくれたが客は我々だけ、夜は停電で風呂も使えずお湯はチョロチョロ、聞けば政府が電力を供給しないと言うが他のHは明るかった。不便も時には厭わない筆者だが、情けなくなったのは窓外の湖水を見下ろした時だ。何と眼下にゴミが渦巻き藻は死んで水面に小蝿が舞っている。風やボートで起きる波で塵芥が丁度このHの横に押し寄せてくるのだ。問題があったら連絡を、と言われていたので旅行社に電話をすると男が来て、「明日この湖を掃除します!」と。「え、ハウスボート一宿泊者の声で翌日動くほどインド行政って即行?」が、翌日何も起こらなかった。ノッポの紳士も「明日本当に!」。一瞬信じた自分を笑った。紳士の笑顔は魅力だったが逃げ出し地上のホテルへ移動した。ここもムンバイの旅行社で予約したものだったがまた逃げ出すことになろうとは!(Aya-no-Uzuwa)