ワット・プラケオでもそうだったように、この宮殿でも襟付きシャツと長ズボンの着用でないと入らせてもらえない。私のすぐあとからチケットブースにやってきた観光客はTシャツに短パンの格好だったので職員から更衣室に案内されていたくらいだ。
また宮殿では手荷物(カバン類)だけでなくカメラ、携帯電話などのモバイル類や筆記用具も無料の見学者用ロッカーに預ける。服装規定もあり、撮影もメモも禁止で、手ぶらのみで入館という厳格な宮殿だ。宮殿の入口には職員がいて入場券の確認ののち、金属探知機をくぐってからボディチェックを経、オーディオガイドを貸し出されてようやく入れたように記憶している。ただ、私の検札とボディチェックを担当した女性職員が私のタイ語でのあいさつに日本語で返事してくれて素敵な笑顔で接してくれたので明るい気持ちになれたのはよかった。宮殿内に入る時もオーディオガイドの日本語設定を教えてくれて「いってらっしゃい」と見送ってくれたことを覚えている。
宮殿内は別世界だった。二階へ上がる階段が最初なのだが、階段を上っているだけで天井画を仰ぎ見ざるを得なくなったことに圧倒された。ルネサンス様式の宮殿は外観だけじゃなかった。国立博物館でも玉座や輿や山車を見ていたものの、宮殿内に展示されているものは筆舌に尽くしがたい「特注品」ばかりで、金や銀や青や緑の宝石のような輝きを放っていない物がないくらいだ。オーディオガイドから聞こえる「~即位何年を記念して作られ、制作には数年を要しました」という説明はざらだ。玉虫で覆われた屏風だったか物入れもあり、玉虫厨子の現代豪華版みたいなものがあったことも覚えている。また「特注品」などに「SK」とサインがあり、それは国王のイニシャルで国王直筆サインであることも記憶している。
二階のフロアで圧倒された気持ちで展示物を見ていると、眼鏡を掛けたスーツの男性が私の方に歩いてきて、その男性には警備員がこぞって両手を合わせて挨拶をしている。宮殿内の管理者で警備員にとっては上司にあたる人なのだろう。するとスーツの男性が、You're the first person today.と私に話しかけてきた。たまたま最初の来館者を出迎えるようなタイミングになったのかも。Where are you from? と訊かれたので、手を合わせてタイ語でマ・サーク・プラテート・イープン(日本から来ました)と答えたら、「こんにちは。ようこそ」と日本語での返事だ(笑)。入館時といい二階のフロアでのことといい、旅の最後に訪れる宮殿で胸のすくような気持になれるとは嬉しいものだ。こういったこともあって、時間の許す限りじっくり見学した。