福岡伸一 著『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)読了。
医学・分子生物学の見地から生命とはどういった状態であるのか、説明した本を読むのは初めてかもしれない。とても新鮮に感じたし、おもしろい本だった。
本では生命とはなにかを細胞よりも小さい世界から説明するとりかかりとして、野口英世の実際の業績や生涯にも触れているが、偉人化神格化された野口英世像を信じている人にはかなり辛い内容となっている。しかし私もやはり野口英世はお札の肖像にはふさわしくないと思う。
もちろんこの本は医学界の過去の「偉人たち」の業績が時代に耐え得なかったことを知らしめ、神格化された学者のイメージ像を粉砕することを目的にして書かれているわけではない。本の最大のテーマは野口英世の時代には見ることのできなかったウイルスやタンパク質やDNAの働きを紹介し、生命活動とはどういったものかを示すことが最大のテーマである。自分の細胞やタンパク質は絶え間なく働いていて、そういった世界では「人は絶えず変化している」のだけれども、それを意識することはないといっていい。昨日の自分と今日の自分とでは分子レベルでは変わってしまっているはずなのに、さも自分は自分であり続けることを疑わない状態ともいえる。
人間の生命活動は常に動的平衡状態にあるわけだが、考えてみれば不思議なものだと改めて思った。そして過去に放送された福岡氏とカズオ・イシグロ氏との対談で語っていた内容がじわりと心にしみた。私は化学や生物学に関してはちゃらんぽらんで、学校での授業も適当に聞いていたし、テストで点さえ取れればいいと思っていた子どもだったが、医学や化学の視点からでも人間を人間足らしめているものは何かを考えることは難しいことでも何でもないことを今さらではあるが教えられた。
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