「心の刻 十三月」に宿泊すると、カードキーが渡されます。
隣接する「藤三旅館」と繋がる廊下で、キーをかざし、向こう側へ。
まず、匂い。
空気感。
そこにあるのは、昭和のなつかしさが濃密に漂う空間。
白糸の滝を目の前にした、展望半露天風呂「白糸の湯」
時間帯によって貸切できる「銀の湯」。
桂の木の根本から湧き出たという鉛温泉の由来から名を取った「桂の湯」。
内風呂と露天風呂があり、露天に入れば川のせせらぎが心地よいお風呂です。
藤三旅館のお湯は、どれも源泉から湧き出した温泉を加熱、加水、循環さなしの源泉かけ流しのお湯です。
源泉は5本あるというのですから、まさに本物の温泉ですね。
藤三旅館の歴史が綴られています。
今から600年程前、当館・藤井家の遠い祖先が高倉山麓でキコリをしている時に、岩窟から出てきた1匹の白猿が、カツラの木の根元から湧出する泉で手足の傷を癒しているのを見て、これが温泉の湧出であることを知り、1443年頃に仮小屋を建て、一族が天然風呂として開いたと伝えられているそうです。
その後、大衆の浴場とするべく、1786年に長屋を建て温泉旅館として開業したのが始まりなのだそうです。
というと、今から約230年前にこの建物の原型ができたのですね。
源泉と宿を何百年に渡り守ってきた、歴史ある温泉宿です。
さて、温泉発見に「白猿」さんが関係したことから「白猿の湯」と名付けたそうです。
「白猿の湯」のお風呂の深さは、約1.25mの立って入る珍しい温泉です。
立位浴は、全身にまんべんなく湯圧がかかり循環器系を整えるほか、血行促進にも効果があると言われているそうです。
天然の岩をくりぬいて作ったお風呂の底からは、源泉がこんこんと湧き出していて、大地のエナジーを感じ、不思議な気分です。
体はすぐにポカポカと温まり、体の要所要所にジンワリと浸透するような、とても素晴らしいお湯です。
見上げると、天井まで3階の高さがあると思われるほど、解放感があります。
ふと、この浴槽に入っていると心に浮かぶものがあります。
創業からの長い歴史のお中では、ハネムーンで利用された時代も・・・多くの文人にも愛され(※)・・・痛みを抱えた多くの湯治客の体も癒し続けてきたのですよね・・・。
いつまでも残ってほしい希少な温泉遺産です。
※田宮虎彦が1ヶ月あまりの間、玄関上の3階お部屋(20号室)に逗留して執筆した小説「銀心中」の舞台になったのも、宮沢賢治も当家との遠戚関係からよく訪れたそうです。