1962年
新人といっても二年生、昨年八月、大牟田東洋高圧から入団した。二十二歳、身長1㍍78、体重75㌔というからとび抜けた体力の持主ではない。昨年は二度登板、一敗を記録した。出来ばえはさえず、大型選手ばかりの西鉄で本当に役に立つだろうか、とさえ思われたほどだ。ところが今シーズンは第十一節終了で、18試合に登板して6勝7敗、投球回数は88回2/3、被安打57、自責点16、防御率は1・62。投手成績はリーグでトップの尾崎(東映)に次いで第二位と素晴らしい。稲尾、若生だけといわれる西鉄投手陣にとって、田中はいまは全くの新戦力である。右投げ、上手ややスリークォーターから快速球を投げるが、投球モーションが非常に大きい。高々とワインドアップ、次いでサッと左足のヒザを胸にくいこむ程けり上げ、大きくツマ先を前方に踏み出す。特徴のあるその動作と反論で力一ぱいの速球を投げ出す。球を握る手首が肩に近い低い位置から出てくるので、打者としては球を見きわめ難い変則型の投球である。球質は重いという程ではないが、全身のすべてのバネをきかすので、スピードがあり球足がのびる。外角低目の速球が武器で、外角打ちの巧い打者でも簡単には打ちこめない。最近はシュートのキレが鋭くなったので、カーブの威力も一段と増してきた。まだ真正面に投げこんで打者の手元近くでストンと落ちるドロップ、また時たまフォークボールも混じえるので大振りの打者はキリキリ舞いする。左、右打ちどちらも気にせず、打者とまともに勝負をいどみ、決して逃げるピッチングはやらない。強気の性格と自信を示すものだ。だが、全力投球の一本ヤリなので、七回ごろから球威が衰え、また走者を出すと、盗塁を防ぐために投球操作が早くなり、ペースを乱し勝ちになる欠点もある。しかし、これまで完投4、先発6、救援8の登板で被安打は六本が最高、集中打はうけていないし、四球の連発でくずれる大きな心配もない。たまたま投げ損じたのを野村(南海)衆樹、中田(阪急)に本塁打されたが、四球も38ときわめて少ないからコントロールも上々、安心してまかせられる投手である。西鉄は十六日、今シーズンはじめてのベスト打線で活気あふれた打力をみせたが、田中は今後この援護で相当な勝星をかせぐだろう。田中にしてみれば、一番大切な試練期が投手陣不振のため連投となり、四㌔も体重を減らした程だったが、これは、これは田中には幸運な経験だった。この周囲に好投手の素質を示すことが出来たからである。田中の今後は全力投球とスタミナの課題をどう解決するかである。
田中勉投手の話 プロの打者は一番から五番まで威圧を感じる。息がぬけない。特に大毎打線はうるさく、こわい。しかし相手が左打ちで別に苦はならない。それに一人の打者にかためて打たれていないし、どの打線からも集中打をうけていないので十分にやっていける自信がついた。私はリリーフより完投の方が好きだ。連投するとやはりしこりが残るが、三日も休養すれば大丈夫だ。夏場は社会人野球で鍛えているのでこれからはもっとがんばれると思う。
阪急衆樹選手の話 田中から一本、本塁打したが(五月十六日)あの球は外角の高目の球だった。彼の武器はやはり外角低目に決まる速球だろう。なかなか威力があり打ち固い。田中はモーションの大きい動作だが、球がどこから出てくるか見にくいので打者は非常にとまどう。シュートやカーブはそれ程威力があるとは思わぬがコントロールがいい。
新人といっても二年生、昨年八月、大牟田東洋高圧から入団した。二十二歳、身長1㍍78、体重75㌔というからとび抜けた体力の持主ではない。昨年は二度登板、一敗を記録した。出来ばえはさえず、大型選手ばかりの西鉄で本当に役に立つだろうか、とさえ思われたほどだ。ところが今シーズンは第十一節終了で、18試合に登板して6勝7敗、投球回数は88回2/3、被安打57、自責点16、防御率は1・62。投手成績はリーグでトップの尾崎(東映)に次いで第二位と素晴らしい。稲尾、若生だけといわれる西鉄投手陣にとって、田中はいまは全くの新戦力である。右投げ、上手ややスリークォーターから快速球を投げるが、投球モーションが非常に大きい。高々とワインドアップ、次いでサッと左足のヒザを胸にくいこむ程けり上げ、大きくツマ先を前方に踏み出す。特徴のあるその動作と反論で力一ぱいの速球を投げ出す。球を握る手首が肩に近い低い位置から出てくるので、打者としては球を見きわめ難い変則型の投球である。球質は重いという程ではないが、全身のすべてのバネをきかすので、スピードがあり球足がのびる。外角低目の速球が武器で、外角打ちの巧い打者でも簡単には打ちこめない。最近はシュートのキレが鋭くなったので、カーブの威力も一段と増してきた。まだ真正面に投げこんで打者の手元近くでストンと落ちるドロップ、また時たまフォークボールも混じえるので大振りの打者はキリキリ舞いする。左、右打ちどちらも気にせず、打者とまともに勝負をいどみ、決して逃げるピッチングはやらない。強気の性格と自信を示すものだ。だが、全力投球の一本ヤリなので、七回ごろから球威が衰え、また走者を出すと、盗塁を防ぐために投球操作が早くなり、ペースを乱し勝ちになる欠点もある。しかし、これまで完投4、先発6、救援8の登板で被安打は六本が最高、集中打はうけていないし、四球の連発でくずれる大きな心配もない。たまたま投げ損じたのを野村(南海)衆樹、中田(阪急)に本塁打されたが、四球も38ときわめて少ないからコントロールも上々、安心してまかせられる投手である。西鉄は十六日、今シーズンはじめてのベスト打線で活気あふれた打力をみせたが、田中は今後この援護で相当な勝星をかせぐだろう。田中にしてみれば、一番大切な試練期が投手陣不振のため連投となり、四㌔も体重を減らした程だったが、これは、これは田中には幸運な経験だった。この周囲に好投手の素質を示すことが出来たからである。田中の今後は全力投球とスタミナの課題をどう解決するかである。
田中勉投手の話 プロの打者は一番から五番まで威圧を感じる。息がぬけない。特に大毎打線はうるさく、こわい。しかし相手が左打ちで別に苦はならない。それに一人の打者にかためて打たれていないし、どの打線からも集中打をうけていないので十分にやっていける自信がついた。私はリリーフより完投の方が好きだ。連投するとやはりしこりが残るが、三日も休養すれば大丈夫だ。夏場は社会人野球で鍛えているのでこれからはもっとがんばれると思う。
阪急衆樹選手の話 田中から一本、本塁打したが(五月十六日)あの球は外角の高目の球だった。彼の武器はやはり外角低目に決まる速球だろう。なかなか威力があり打ち固い。田中はモーションの大きい動作だが、球がどこから出てくるか見にくいので打者は非常にとまどう。シュートやカーブはそれ程威力があるとは思わぬがコントロールがいい。