ハンナ・アーレントがあの絶対的暗黒時代にあってなお、
世界の希望と信頼を思い描いたという(「活動的生」)。
今夜も沼から這い上がるすべを思いつかないまま沼底から
ふつふつと渦巻く悲しみに抗えずにいる。
木々を皆伐り払い赤茶の土を高く積み上げた東京ドーム
150個分の土地にソーラーパネルを敷き詰めグリーン
エネルギーと呼ぶのは何の冗談か。東京ドームは4.7㌶だ。
「上海電力日本」が孫請け会社を使って取得した一帯は
620㌶、改変面積は240㌶、幅2㎞、長さ3㎞に及び
巨大な黒いパネルの海が出現し、周辺から緑の木々が消え牧草地が消えた。
化石燃料でなくクリーンなエネルギーだといえば
反対する人は少ないだろうが、それが豊かな自然を
破壊して生み出されていること、それが期限付き
方法であることまで知る人は少ない。
使用済みパネルの残骸と日光を遮断し荒廃した土は
容易には生き返らない。農地には戻せない。
そもそも環境アセスメントで絶滅危惧種オオタカの
生息地の存在がある場所だと住民説明会で指摘され、
事業主は「我々が新しい巣を作り区域外へ引っ越して
もらいます」と答え住民を呆れさせた。
万事その調子でいったん福島県の許可を得た事業主は
一歩たりとも譲ることはないまま、着工した。
その広大さを目のあたりにし新たに後悔と不安に
かられている住民は監視の目を厳しくしているが、
すでに民間企業の土地だ。敷居も壁も高い。進行中の
工事現場で何がどうなされているのか確認しようがないのである。
たとえば貯水池の設置、排水設備の問題など懸念している。
自宅までの道でウリ坊数頭を連れた猪を見かける頻度が増えた。
ある日は小柄な鹿が横たわるのを工事現場そばで見た。
道端に血痕が線を引き車の背後まで続いていた。
ダンプが土埃をあげて行き交う広いアスファルト
道路は列島改造論時代からの、使い道のないいわく
つきの立派すぎる舗装道路だった。
横に広がる那須連山を見渡し、広い空へ向け一直線に
続く道は自転車競技のアスリートが練習場所にしていた。
いかにも安全で平穏な場所だった。
両脇に長い桜並木が続いて見事だった。毎年写真を撮った。
花吹雪の下を車で走る爽快感。隠れた名所だったが、
昨年も今年も手入れをされなくなった枝についた花は
埃のせいか精彩を欠き、見物客は見当たらなかった。
ひっきりなしに走りゆくダンプと桜ほど似合わないものはない。
このメガソーラー電力事業主の正体は中国国有独資会社
(国家が100%出資)である。つまりこの広大な土地を
買い占めたのは表向きはどうあれ中国政府である。
彼らは福島原発事故後の2013年からこの地での計画を
順々と進め、世界各地で展開する再エネ事業の数値目標を
引き上げるために日本を重要な拠点としている。
設置から20年間、日本政府が買い上げを保証した
電力事業で懐を潤わせるのは日本企業ではなく
一番は彼らだ。条件の良さに柳の下に泥鰌よろしく
参入者が増えすぎ、慌てて買い上げ額が値下げされたが、
先に契約した彼らは20年間そのままの買取額が保証されている。
次々と各地の緑を剥ぎ取り続けあるいは転売利益を得ている。
毎月の電気料金に上載せされて強制的に集金される
のは脱炭素化対策として再生可能エネルギーへシフト
しやすくする政策だったはずが、世界的投資グループや
他国企業へ利益供与する仕組みであるとは国民の大半は
いまだに知らないだろう。
問題は電気事業に隠れて国土喪失をし続けている
ということだ。そのうち富士山さえも買収されかねない
お粗末な政府、経産省法務省財務省環境省。
彼らは国民の利益を守らずして公僕といえるのか。
わが国の近現代史を見れば、その無慈悲さと残酷と
醜悪さはいまに始まったことではないとわかりきったこと。
だがしかし、だ。
この30年間の堕落のツケが日本の国土をこうまでも
変えてしまうとは、鉄槌を食らったような、自分の
怠惰を嗤われているような情けなさである。
希望など言ってられないという気持ち、どうしようもない。
喪われる自然(植物だけでなく動物たちも)を前に
いいようも表しようもない怒りと悲しみが久しく全身を被う。
わたしを沼へ押しやるこの現実を、調査取材し、事実を
つきつめた本は「サイレント国土買収 再エネ礼賛の罠」
平野英樹著(角川新書)である。
この近隣だけでなく全国で起きている国土買収の実態が
データ入りで書かれている。知るべき事実である。
これまた自民党の裏金問題が決して解決しないことと
無関係ではないだろう。各地名と施設、事業内容を読んで
いくうち自民党や維新の地元代議士の顔が重なる。
そういうことだったのかと遠く離れていても合点がいく。
地元住民にはそのつながりは知られている話ではないだろうか。
けれども止める手立てがない。
普通に暮らす一般国民が公共の財である国土を他国に
いいようにされていくのを文句もいえないのが現行日本の
法律だ。
辺野古米軍基地建設しかり、海外のために国民に犠牲を
強いる政府のお仕事を、日々、私たちは見続けなければならないという‥
沼に落ち沈み、泣く。声を上げて泣く。
泣きたくないけれどもほかにすべがないという無力感に
さらに悲しみは膨らんでいく。
いまのわたしは悲しいということを訴えるしか能がない。
平野英樹氏は他に「日本はすでに侵略されている」(新潮新書)
「日本買います」(新潮社)「領土消失」(共著・角川新書)
「奪われる日本の森」(共著・新潮文庫)がある。
ぜひお手にとって一緒に考えていただきたい。
世界の希望と信頼を思い描いたという(「活動的生」)。
今夜も沼から這い上がるすべを思いつかないまま沼底から
ふつふつと渦巻く悲しみに抗えずにいる。
木々を皆伐り払い赤茶の土を高く積み上げた東京ドーム
150個分の土地にソーラーパネルを敷き詰めグリーン
エネルギーと呼ぶのは何の冗談か。東京ドームは4.7㌶だ。
「上海電力日本」が孫請け会社を使って取得した一帯は
620㌶、改変面積は240㌶、幅2㎞、長さ3㎞に及び
巨大な黒いパネルの海が出現し、周辺から緑の木々が消え牧草地が消えた。
化石燃料でなくクリーンなエネルギーだといえば
反対する人は少ないだろうが、それが豊かな自然を
破壊して生み出されていること、それが期限付き
方法であることまで知る人は少ない。
使用済みパネルの残骸と日光を遮断し荒廃した土は
容易には生き返らない。農地には戻せない。
そもそも環境アセスメントで絶滅危惧種オオタカの
生息地の存在がある場所だと住民説明会で指摘され、
事業主は「我々が新しい巣を作り区域外へ引っ越して
もらいます」と答え住民を呆れさせた。
万事その調子でいったん福島県の許可を得た事業主は
一歩たりとも譲ることはないまま、着工した。
その広大さを目のあたりにし新たに後悔と不安に
かられている住民は監視の目を厳しくしているが、
すでに民間企業の土地だ。敷居も壁も高い。進行中の
工事現場で何がどうなされているのか確認しようがないのである。
たとえば貯水池の設置、排水設備の問題など懸念している。
自宅までの道でウリ坊数頭を連れた猪を見かける頻度が増えた。
ある日は小柄な鹿が横たわるのを工事現場そばで見た。
道端に血痕が線を引き車の背後まで続いていた。
ダンプが土埃をあげて行き交う広いアスファルト
道路は列島改造論時代からの、使い道のないいわく
つきの立派すぎる舗装道路だった。
横に広がる那須連山を見渡し、広い空へ向け一直線に
続く道は自転車競技のアスリートが練習場所にしていた。
いかにも安全で平穏な場所だった。
両脇に長い桜並木が続いて見事だった。毎年写真を撮った。
花吹雪の下を車で走る爽快感。隠れた名所だったが、
昨年も今年も手入れをされなくなった枝についた花は
埃のせいか精彩を欠き、見物客は見当たらなかった。
ひっきりなしに走りゆくダンプと桜ほど似合わないものはない。
このメガソーラー電力事業主の正体は中国国有独資会社
(国家が100%出資)である。つまりこの広大な土地を
買い占めたのは表向きはどうあれ中国政府である。
彼らは福島原発事故後の2013年からこの地での計画を
順々と進め、世界各地で展開する再エネ事業の数値目標を
引き上げるために日本を重要な拠点としている。
設置から20年間、日本政府が買い上げを保証した
電力事業で懐を潤わせるのは日本企業ではなく
一番は彼らだ。条件の良さに柳の下に泥鰌よろしく
参入者が増えすぎ、慌てて買い上げ額が値下げされたが、
先に契約した彼らは20年間そのままの買取額が保証されている。
次々と各地の緑を剥ぎ取り続けあるいは転売利益を得ている。
毎月の電気料金に上載せされて強制的に集金される
のは脱炭素化対策として再生可能エネルギーへシフト
しやすくする政策だったはずが、世界的投資グループや
他国企業へ利益供与する仕組みであるとは国民の大半は
いまだに知らないだろう。
問題は電気事業に隠れて国土喪失をし続けている
ということだ。そのうち富士山さえも買収されかねない
お粗末な政府、経産省法務省財務省環境省。
彼らは国民の利益を守らずして公僕といえるのか。
わが国の近現代史を見れば、その無慈悲さと残酷と
醜悪さはいまに始まったことではないとわかりきったこと。
だがしかし、だ。
この30年間の堕落のツケが日本の国土をこうまでも
変えてしまうとは、鉄槌を食らったような、自分の
怠惰を嗤われているような情けなさである。
希望など言ってられないという気持ち、どうしようもない。
喪われる自然(植物だけでなく動物たちも)を前に
いいようも表しようもない怒りと悲しみが久しく全身を被う。
わたしを沼へ押しやるこの現実を、調査取材し、事実を
つきつめた本は「サイレント国土買収 再エネ礼賛の罠」
平野英樹著(角川新書)である。
この近隣だけでなく全国で起きている国土買収の実態が
データ入りで書かれている。知るべき事実である。
これまた自民党の裏金問題が決して解決しないことと
無関係ではないだろう。各地名と施設、事業内容を読んで
いくうち自民党や維新の地元代議士の顔が重なる。
そういうことだったのかと遠く離れていても合点がいく。
地元住民にはそのつながりは知られている話ではないだろうか。
けれども止める手立てがない。
普通に暮らす一般国民が公共の財である国土を他国に
いいようにされていくのを文句もいえないのが現行日本の
法律だ。
辺野古米軍基地建設しかり、海外のために国民に犠牲を
強いる政府のお仕事を、日々、私たちは見続けなければならないという‥
沼に落ち沈み、泣く。声を上げて泣く。
泣きたくないけれどもほかにすべがないという無力感に
さらに悲しみは膨らんでいく。
いまのわたしは悲しいということを訴えるしか能がない。
平野英樹氏は他に「日本はすでに侵略されている」(新潮新書)
「日本買います」(新潮社)「領土消失」(共著・角川新書)
「奪われる日本の森」(共著・新潮文庫)がある。
ぜひお手にとって一緒に考えていただきたい。