雨雲が去りきらない午後
緑川に架かる橋を渡り
十ヶ月ぶりに母に会いに行った
施設のコロナ対策で
建物の外からガラス窓越しに
母を見た
車椅子の母は窓を見上げた
笑顔になるまで間があって
ああ、と私の名前をちゃんづけで
呼んだ
小さくなった顔 小さくなった肩幅
ガラス窓は閉じたままなので
触れることができない
母の手が好きだ
会うたびに握手して別れた
ぶらんぶらんぶらん揺すって
引き寄せて 名残り惜しんだ
柔らかでふわりとあたたかい
白く透きとおり
年取った娘を小さな子のように
包んで抱きしめてくれた
母の手に触れたいと思う気持ちが
日ごと募って会いに行った
ガラス窓をすこしだけ開けるのを
どうか見逃してはくれませんか
見つめあって
笑いあって
話などないから困った
そばに立つ作業療法士に気兼ねして
母はぎこちない
静止画像の中にいるようで
面会時間10分は終わった
壮絶な拷問の暗闇を耐え続け
不信の悲しみを生き抜いた
歳月とうらはらに柔らかく美しい手
信じなさい 信じていればいい
諭すように繰りかえすのは
節くれだったわたしの手が憐れで
今にもあやまちをしそうだから
愚かだった自分を思い出すから
触れるたび聞こえる
和かに生きよ 一途に生きよと
羽田空港の灯りを下に見ながら
母の、あのぬくもりを思った
緑川に架かる橋を渡り
十ヶ月ぶりに母に会いに行った
施設のコロナ対策で
建物の外からガラス窓越しに
母を見た
車椅子の母は窓を見上げた
笑顔になるまで間があって
ああ、と私の名前をちゃんづけで
呼んだ
小さくなった顔 小さくなった肩幅
ガラス窓は閉じたままなので
触れることができない
母の手が好きだ
会うたびに握手して別れた
ぶらんぶらんぶらん揺すって
引き寄せて 名残り惜しんだ
柔らかでふわりとあたたかい
白く透きとおり
年取った娘を小さな子のように
包んで抱きしめてくれた
母の手に触れたいと思う気持ちが
日ごと募って会いに行った
ガラス窓をすこしだけ開けるのを
どうか見逃してはくれませんか
見つめあって
笑いあって
話などないから困った
そばに立つ作業療法士に気兼ねして
母はぎこちない
静止画像の中にいるようで
面会時間10分は終わった
壮絶な拷問の暗闇を耐え続け
不信の悲しみを生き抜いた
歳月とうらはらに柔らかく美しい手
信じなさい 信じていればいい
諭すように繰りかえすのは
節くれだったわたしの手が憐れで
今にもあやまちをしそうだから
愚かだった自分を思い出すから
触れるたび聞こえる
和かに生きよ 一途に生きよと
羽田空港の灯りを下に見ながら
母の、あのぬくもりを思った