想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

クララ・リルケ=ヴェストホフ 人と作品 藤坂信子 著

2021-01-06 23:00:39 | 
「クララ・リルケ=ヴェストホフ
人と作品」
藤坂信子 著
(2019.12 トライ出版刊)
同作品展が下記で開催予定。
カフェレストランみなみのかぜ
(熊本市中央区出水)
https://minaminokaze.org
1月8日〜29日



リルケに関する著作は数多くあるが
詩人藤坂氏によって、ようやく
その妻クララの生涯と作品の詳細を
知ることが叶った。
クララはリルケの陰に生きたのでは
なく、自立した一個の芸術家として
生ききった人である。

クララにスポットを当てれば詩人の顔
以外のリルケもまた垣間見えてくる。
短い結婚生活と、その後のリルケを
俗世間の常識で測れば身勝手にしか
映らないというのが一般の見方であり
そこに触れれば男女問わず、婉曲に
あるいはストレートに非難がましい。



クララはリルケを慕い励まし、何より
芸術家としての姿勢を学んでいく。
二人は普通の夫婦ではなく芸術の成果
を求めて違いに協力し、また切磋琢磨
していったようにも映る。
藤坂氏はリルケの熱心な読者で研究者
だが、妻としてのクララの心情を慮る
ことを忘れず、不在のリルケには冷徹
な一言を添えている。そこに真実を
感じられ、人間の複雑さと業を思った。

一方リルケが生涯をかけた詩を読めば
他を犠牲にしたのではなく詩のみを選び
とったということもわかるのだ。
芸術家といえど世間は広しだが、
リルケの凄惨なまでの決意は詩に結実し
その名をヨーロッパ中が知るところと
なったのだから、クララと女児ルート
以外の者は黙って詩を読むべしと思う。

リルケは命を削って詩を書いた。
その詩は人の世の実りを称え、
啓示を書き取り、喪失の嘆きを伝えた。
それとクララの熱い情念の作品は対の
ように私には思える。

クララの彫刻作品について語る時、
藤坂氏はそこに人なつこい温もりの
人間性を見ている。
その温もりは平穏な暮らしを棄てたリルケ
にとって、心中に灯る明かりではなかった
だろうか。
二兎を追わず詩神に仕えたリルケの孤独
をクララが理解しないはずはない。

リルケの悲歌があまりにすばらしく
また生涯がドラマティックであるが
故に、日の当たらない脇役(それも
過去形の)であったクララだが、
藤坂氏によって語られた人物は魅力に
溢れている。
未知の女性たちの興味を大いに惹き、
20世紀前半をたくましく前衛的に生きた
姿に励まされることと思う。

参考:藤坂信子 著
「リルケを辿る」
「藤坂信子 詩集」

発行 土曜美術出版
【目次】
詩集「あなたでないだれか」抄
詩集「われらのものがわれらを去る」抄
詩集「野分」抄
「藤坂信子詩集」抄
1 未刊詩集「塵の眼」抄
2 未刊詩集「生命の周辺」抄
3 未刊詩集「夢の家族」抄
エッセイ
解説
年譜
 





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