お、いたね、卑弥呼ちゃん。
ひーちゃん。
とても久しぶりだね
おばちゃんを覚えてる?
かがみこんでiphoneを向けたら
水飲みをやめて振り向いた。
まぶしいね、
元気だったかい
ひーちゃんはゆっくりと立ち、
玄関ポーチの脇から家の裏の方へ
入っていった。
隣家との間は猫道。
よそ様の玄関なのだが通るときに
つい覗き見るようになった。
名前を知ってしまうと、ゆきずりの
野良猫ではなくなった。
やっと会えた、ずいぶん久しぶりに。
2月半ばから、会いたいからといって
すぐには会えるわけではないという
ことが当たり前になってきた。
緊急事態宣言は解除されたがすぐに
元どおりにはなるわけではないし、
「元」には戻らず新しいスタイルをと
言われ始めた。
会う、会えない、会いたい、会いたくない。
会えないとき、会いたい。
会いたくないときに会わねばならない。
会う、meet / see / get together
いつも思っている こころのなかで
会えるよ
いつも思っている いつも会いたいと
見て触れて抱きしめたいと
二つの会いたいが対立する。
生きているから目で見て肌で感じられる
それは亡き人ならば、違うのか
遠く会えない人の声を、電話で聞く
亡き人に語りかけ、思い出をなぞり
なぞりながらその感触を思い出す
声音はないが何かに揺さぶられ、感じる。
生者と死者と、会いたいときの感触を
比べながら、考えた。
会うということについて。
それは現実か空かではなくて
思いの強さなのだと思った。
会えない時間、この世とあの世のと
どちらも濃密につながり、感じた。
与えられた温もりに慰められた。
まるで初めてかのように強く感じた。
母の慈しみ
父のいのち
ふたりに包まれて、抱かれて
ようやく私はさみしがらなくなった。
すごく時間がかかった。
人にやさしく、人に親切に
そう教えてくれたのに、わたしは
悪い子でした。
とても恥ずかしい。
あれこれ思い出すと、
取り返しがつかないことばかりだ。
とても悪かった。
母は父が生きているときも死後も
我慢強く生きてきたので、人を頼ること
ができない。
長生きして、良いことばかりではない。
身体が思うように動かせなくなった。
心臓も弱った。
「介護」というお手伝いに頼ることが
できなくて、身の回り全般を自分で
どうにかしてやろうとしていた。
介護の人は、がんばりなさるから手が
出せないと言い訳する。
システムどおりにはうまく回らない。
車椅子に乗り換えトイレに自分で行く。
母はなんども倒れ、
何度も死にかかった。
私はお金を払ってお願いしているから
頼んでいいよ、頼まないといけないよ
となんども言った。
そんな言葉は無駄だった。
「排泄介助を初めてしてあげました、
お礼にと言って、お母様がお茶の
ボトルをあとから追いかけて
持ってこられましたから、
ありがたくいただきました」
スタッフからそう聞いた。
母は、もう楽をしていいのだと
会えない時間に学んだ。
長い長い長い、忍耐と頑張りの果てに
嬉しかっただろうと思う。
やさしさに身を委ねることができて。
できないことがたくさんある。
詫びたいことがたくさんある。
ひーちゃん。
とても久しぶりだね
おばちゃんを覚えてる?
かがみこんでiphoneを向けたら
水飲みをやめて振り向いた。
まぶしいね、
元気だったかい
ひーちゃんはゆっくりと立ち、
玄関ポーチの脇から家の裏の方へ
入っていった。
隣家との間は猫道。
よそ様の玄関なのだが通るときに
つい覗き見るようになった。
名前を知ってしまうと、ゆきずりの
野良猫ではなくなった。
やっと会えた、ずいぶん久しぶりに。
2月半ばから、会いたいからといって
すぐには会えるわけではないという
ことが当たり前になってきた。
緊急事態宣言は解除されたがすぐに
元どおりにはなるわけではないし、
「元」には戻らず新しいスタイルをと
言われ始めた。
会う、会えない、会いたい、会いたくない。
会えないとき、会いたい。
会いたくないときに会わねばならない。
会う、meet / see / get together
いつも思っている こころのなかで
会えるよ
いつも思っている いつも会いたいと
見て触れて抱きしめたいと
二つの会いたいが対立する。
生きているから目で見て肌で感じられる
それは亡き人ならば、違うのか
遠く会えない人の声を、電話で聞く
亡き人に語りかけ、思い出をなぞり
なぞりながらその感触を思い出す
声音はないが何かに揺さぶられ、感じる。
生者と死者と、会いたいときの感触を
比べながら、考えた。
会うということについて。
それは現実か空かではなくて
思いの強さなのだと思った。
会えない時間、この世とあの世のと
どちらも濃密につながり、感じた。
与えられた温もりに慰められた。
まるで初めてかのように強く感じた。
母の慈しみ
父のいのち
ふたりに包まれて、抱かれて
ようやく私はさみしがらなくなった。
すごく時間がかかった。
人にやさしく、人に親切に
そう教えてくれたのに、わたしは
悪い子でした。
とても恥ずかしい。
あれこれ思い出すと、
取り返しがつかないことばかりだ。
とても悪かった。
母は父が生きているときも死後も
我慢強く生きてきたので、人を頼ること
ができない。
長生きして、良いことばかりではない。
身体が思うように動かせなくなった。
心臓も弱った。
「介護」というお手伝いに頼ることが
できなくて、身の回り全般を自分で
どうにかしてやろうとしていた。
介護の人は、がんばりなさるから手が
出せないと言い訳する。
システムどおりにはうまく回らない。
車椅子に乗り換えトイレに自分で行く。
母はなんども倒れ、
何度も死にかかった。
私はお金を払ってお願いしているから
頼んでいいよ、頼まないといけないよ
となんども言った。
そんな言葉は無駄だった。
「排泄介助を初めてしてあげました、
お礼にと言って、お母様がお茶の
ボトルをあとから追いかけて
持ってこられましたから、
ありがたくいただきました」
スタッフからそう聞いた。
母は、もう楽をしていいのだと
会えない時間に学んだ。
長い長い長い、忍耐と頑張りの果てに
嬉しかっただろうと思う。
やさしさに身を委ねることができて。
できないことがたくさんある。
詫びたいことがたくさんある。