イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

ありがとう、君と

2009-07-08 22:11:12 | CM

たぶん日本全国で一千万人ぐらいの人が同じことを考えていると思いますが、オンエア始まったのは先週からかな?復帰した草彅剛さんがスーツ姿でカート引いてビジホの部屋に入ってホッと溜め息をつくP&G“アリエール”CM

「どこにいても、君が洗った真っ白なシャツが、ボクを包んでくれる。」

……よろしいですか?さぁ、皆さんご一緒に、

「 だ っ た ら 脱 ぐ な よ ! ! ! 」

………まぁ、まじめに、ポジティヴに考えれば、P&Gはイメキャラとしてよほど草彅さんを気に入っているんでしょうね。“衣類の汚れをきれいに落とします”“ウチので洗った衣類は気持ちよく着られますよ”というアピールをTVでするのに、こともあろうに“衣類何もかもぜんぶ脱いじゃった”人、「かねてから、お酒が回ると脱ぎたがる傾向はあった」、つまり、“着てるより脱いでるほうを快に感じているらしい”と世間に知れ渡ってしまった人を起用し続けるんですからね。

この洗剤CMシリーズ、一貫して「妻が~」「妻の~」と、草彅さんヴォイスのナレーションが入るので、耳にとまり始めた頃は、主婦層に人気の既婚男性タレントさんはいくらでもいるだろうに、なぜ未婚の草彅さんに「妻云々」言わせるのかなと不思議に思ったものです。それほど草彅さん個人、もしくはSMAP、ジャニーズブランドの市場的訴求力が高く買われているのかなと。

でも最近気がつきました。未婚のタレントを“幸せな既婚者”キャラで使ってる限り、「離婚・不仲・不倫スキャンダルで降板させるゴタゴタが無くて済む」

結婚絡みのトラブルから自由なことにおいて、“結婚していない”は最強無敵です。

実生活でのご夫婦芸能人による夫婦役CMが、いつの間にか流れなくなったなと思ったら、案の定間もなく別居、離婚が報じられた、なんてよくある話。ご夫婦出演じゃなく単独出演でも、既婚タレントさんは既婚じゃなくなるとかなり商品価値が下がるらしい。洗剤や柔軟剤や入浴剤を店頭で選ぶほうは、「CMしているタレントさんが実生活でもちゃんとしてるかどうか」なんて全然考えちゃいませんけどね。

それに比べると先般の草彅さんの“全裸事件”なんかは全然軽微なほうだと、スポンサーサイドは考えているのかもしれない。草彅さんが本当に誰かと結婚して「妻が~」のナレがリアル必然になったら、逆に「リスクが高まった」と考えて、イメキャラ交代となるのかも。

さて、P&GのこのCMがレギュラーで耳にとまる番組と言えば『夏の秘密』

こんなんでかりにも逮捕、裁判立件、本当に成立したのか?ってぐらいあっさり、みのり殺害事件が自殺認定にひるがえり、龍一(内浦純一さん)は無罪放免となったにもかかわらず、いまだ夕顔荘に借りた部屋を撤収できず立ち寄り続ける紀保(山田麻衣子さん)。彼女の中では、みのりが自殺に追い込まれた理由がわかるまで、事件が終わった気がしないのでしょう。

と言うより、“幸せにしてやりたかったみのりの、死の真相がわからないと、肩の荷が下りない”伊織(瀬川亮さん)の苦悩を、自分も共有したいという気持ちが紀保にすでに芽生えている。

単純に、「優しくて賢くて完璧だったフィアンセが、嵌められたとは言え他の女性と肉体関係を持って子をなし、要求されてカネまで渡しながら自分には隠していたとわかり、事件前に比べて薄汚れて見えてきた」「そこへ、自分のいままで知らなかった(貧乏で影があり無愛想な)タイプのイケメンが視野に入ってきて、時間や行動をともにするうちに心が傾いてきた」というだけの話ではない。紀保にとって、1819話で遭遇した、家賃滞納失業男の自殺の件と、それに関連しての伊織の言葉が重要だったと思う。「命に別状なくてよかった」と何げなく口にした紀保に、「“よかった”じゃ済まされない、あの人が本当に苦しいのはこれからだ、あんたは本当の貧しさってものがどういうことかわかっていない」「貧しいってことは食べるものや住む場所がなくなるだけじゃない、希望や夢を見る力も奪われる、そういうことなんだ」と硬い表情で断じる伊織。

紀保はこの後アトリエに帰りますが、自分の本業で得意分野である高価なオーダーメイドのドレス、海外出張帰りの父からの土産のスイーツ、王族から馬を購わないかとプレゼンされた話、興じる若い女性スタッフたち。いままで何の疑いも懸念も持たなかったホームグラウンドの世界が、不意に絵空事に思えて、会話に入って行けません。

紀保が伊織に心惹かれる動機は、斜陽町工場の長女フキ(小橋めぐみさん)が伊織に夢中になる動機と、対極なようで相似していると思う。

衰退する村と老親の家業に縛りつけられたカントリーガールが、どこからともなく馬に乗って現れた放浪の凄腕ガンマンに恋をするように、フキは伊織に“土着でないがゆえに、自分の人生を上り坂に転じさせてくれる可能性”を見て必死に「ずっとここにいて、私と生きて」と縋っていますが、紀保は伊織に暗に「あんたの住んでる世界は、(必死に生きてきた)俺から見ると甘っちょろくて薄っぺらだね」と指摘されたような気がしている。どちらも伊織が“自分の知らない、外の世界から来た(どこに去って行くかわからない)エトランゼ”だからこそ惹かれているのです。

紀保にとって、みのりが死に至った経緯と真相を究明したいと思うことは、伊織という男の内面、人となりを知りたいと願うことにほかならない。誇らかに輝いていた自分の世界を、一瞬のうちに安っぽい書き割りに変えた魔法使い=伊織の心が、紀保にはワンダーランドになった。

潔白が法的に立証された龍一が、再び“ふさわしい理想の婚約者”に返り咲いても、客観的に潔白で瑕疵がなければないほど、彼との結婚のレールに戻ることはすでに“色あせて見えはじめた日常”に過ぎなくなった。

カッコいいから好きになる、秘密ありそげだから興味を持つ、ふとしたとき優しくしてくれたからほだされる、そういうレベルの話ではない。紀保にとって、あるいはシャドウ・キャビネットならぬシャドウヒロインのフキにとって、伊織と、あるいは伊織への自分の思いと、向き合い対処することは、20代後半にして遅れて訪れた“世界との出会い”そのものなのです。

コメント
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