遅まきながらUSドラマ『24(トゥウェンティ・フォー)』のプチ・マイブームが来ています。
そもそもは2004年の春頃、当地のローカルフジテレビ系で深夜に、シーズンⅠが週一、2エピソード=2時間分ずつ放送されていたんです。DVDですでにはまっている人も多いと聞いていたので、第2週から途中参入して、一応、最終話まで録画視聴しました。
そのときの印象というか、読後感がいまいちだったんですよね。「USでヒットした理由はわかるし、DVDではまる人の気持ちもわかるけど、あまりにも“はまらせ狙い”であざといなあ」「人物が次から次“出しては退場させ、出しては退場させ”で“あの人、あの後どうなっただろう、こうなっていてほしい”という観客の心情を掬い取ってくれないし、ドラマじゃなくてむしろゲームのテイスト」、何よりホラ、ジャック・バウアー妻にしてキンバリーの母親=テリーの妊娠とそのカミングアウトが、土壇場に来て事態を一変させる、まあそれだけが文字通りの“引き金”ではなかったのかもしれないけど、女性の妊娠、子供を身ごもったことをああいう展開のためのツールとして使う姿勢が、「大枚の製作予算かけて、結局、日本の昼帯と思考が一緒じゃん」と思えて、言わば生理的に受けつけず自分の中では“要らないタイトル”入りをしていたのです。
当然その後の、シーズンⅡ以降の放送もノーチェック、ノータッチで何年も過ぎていました。
しかし、脱税も年金未払いも不正受給も、5年経ちゃ時効になるわけですよ(関係ないにもほどがある)。この暑さですからねえ。うちの高齢組がふらふら外出して熱中症になられちゃたまらないので、インドアにつなぎとめておくためのハラモチのいい、ヴォリュームのあるソフトを何かしらあてがっておく必要がある。特に春以降は、ウチじゅうでいちばん録画っ子だったはずの月河のレギュラー録画視聴番組が、実質『ゲゲゲの女房』だけなので、レコーダーも休眠時間が多いのです。
ネコにかつぶし、高齢者には時代劇……とは言えヤッコさんたち、『鬼平犯科帳』も『剣客商売』も、『仕掛人梅安』の小林桂樹さん版も渡辺謙さん版も、緒形拳さん版も気がつけば踏破してるのね(年が年だからシリーズの最初のほうもう一度見せたら忘れてるかもしんないけど)。
そこで、試しに『24』の、月河は放送録画で視聴済みのシーズンⅠ序盤を見せてみて反応をみていたところ、思いのほか食いつきが良く、「早く続きが見たい」と言い出したので、プチブームの始まりとなったわけです。
懸念していた「展開が速すぎ複雑すぎてわけがわからない」「誰がいい人で、誰が悪人なのかわからない」のたぐいの不評も出ませんでした。とにかく主人公のジャック・バウアーが毎話、毎局面、即断即決で話を前に進めていくのが気持ちいい様子。
月河が「うわぁ…」と思った終盤のテリーの運命も、DVDでは“もうひとつのエンディング”が収録されていたり、テリー役のレスリー・ホープが、劇中の蹌踉たる挙措とは真逆のつやつやきれいめメイクでインタヴューにニコニコキャッキャと答えていたりで、だいぶ救われました。たぶん早い段階で、ふた通りのエンディングが書かれ撮影されていたのでしょうが、シーズンⅡの製作が決まり、ジャックが罪悪感喪失感に悩み自己処罰願望にとらわれている状態でⅡをスタートさせたほうが作りやすい…ぐらいの経緯で、放送されたほうのエンディング採用になったのではないでしょうかね。
そんなこんな“内輪事情”に想像を逞しくする脇道方法論も覚え、初見から6年以上過ぎて、月河も“あざとさ耐性”ができたようで、再生中の三分の二ぐらいは高齢組と一緒に楽しめていますね。
「腰抜け野心家ロス支部長メイソン役の俳優さんと、東欧系般若顔のニーナ・マイヤーズ役の女優さんは共演が縁で結婚してもう子供も2人いるらしいよ」「“第二の波”のサイエド・アリ役の俳優さんは『道』のアンソニー・クインの息子だよ、顔似てね?」とか紙媒体の立ち読みやネット覗き見で拾った豆知識を投下しながら、どうにか高齢組の興味をつなぎつつシーズンⅢまで来ました。
「トニー、ヘリで現場入り似合わないなと思ったら速攻撃たれてんの」「キムはどっか座敷牢閉じ込めといたほうがいいな」など、高齢組なりにレギュラーキャラの人となりを掴んできたようです。本家USではラストシーズン放送済みのようですが、ウチも早晩ラストまで踏破できそう。
でもキーファー・サザーランドと言えば月河にとってはいまだにジャック・バウアーよりは『スタンド・バイ・ミー』のエース・メリルなんですよね。1983年、初めてのUS渡航時、サムソナイトに詰められる限りのペーパーバックを土産に買い込んだ中にスティーヴン・キングの『Different Seasons』があり、帰りのユナイテッド機の中で不眠で読んだ『FALL FROM INNOCENCE The Body』でひと目惚れならぬ“一読惚れ”したエース・メリル。85年にこの小説の映画化情報を知り、87年、「どんな俳優さんがどんな演技でエースに扮するんだろう?」だけが興味で『スタンド・バイ・ミー』公開の劇場に飛び込みました。
クレジットを確かめずとも、登場ファーストカットで「あーーーコイツがエースだ!」とピンと…と言うより、ドッカーンと来ましたね。ちょっとレッディッシュなブロンド短髪、“栄養の良いめのオオカミ”みたいな風貌。主人公の年少組ボーイズにジャックナイフを構える姿勢は、いま思えばバウアー捜査官から「ワキが甘い!」と駄目が出そうでしたが、“中学生でオープンカーを乗り回してたブラックシャドウズ時代の花形満”みたいな危ういカッコよさがバチバチ放射していて、「よくぞこんなにぴったんこのエース役を…」と月河、ほとんど泣きそうでした。
大御所性格俳優のドナルド・サザーランドの二世。いま思えば、コネオファーだったのかもしれないんですけれどね。エミリオ・エステベスやチャーリー・シーンらブラット・パック仲間と共演した『ヤングガン』『ヤングガン2』のドクも魅力的な役で、「オレにもっといい場面よこせよー」「オマエ前のシーンでくさい台詞あっただろ、ここはオレだよ」「さっきもオマエアップとったじゃんずるいぞー」みたいな同世代俳優くんたちのやりとりがあったっぽくて、映画としての出来とは別に興趣尽きなかったですね。
ジュリア・ロバーツと婚約→ドタキャン以後は、いちいち食いついてやきもきするのもバカバカしいぐらいのやんちゃゴシップ製造機ぶりを発揮し続けているキーファーですが、エース・メリルは永遠なり。おそらくはやんちゃの度が過ぎたがゆえに、ややしばらくメジャー映画界のメジャーな役に縁が薄かったのでしょう。
映画界で干されたがゆえに格落ちのTVで開花し全米的人気を得るというのもよく聞く話。ヒョウタンからコマ。災い転じて福となす。ロバーツドタキャン事件以後二度ばかり結婚はして、娘さんもあるようです。
映画原作『The Body』のラストでは、映画で描写された晩夏から18年後、顔まで太った冴えない四十路男になったエースが再び登場し、成人した主人公少年たちのひとりと対面して、昔を思い出すこともなく背を向けて去ります。拷問シーンなど見るにつけいささかメタボながら、24時間は飲まず食わずで走れる戦える高燃費ヒーロー、ジャック・バウアーが、くたびれたエースを見たらどう言うか。
一段落したら高齢組に『スタンド・~』と『ヤングガン』正続シリーズも見せてみたいですな。ルー・ダイヤモンド=フィリップスは見分けがつくかな。