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1962年のデビュー・アルバム、BOB DYLAN発売からずっとコロンビア・レコードに所属していたボブ・ディランが、1973年にアセイラム・レコードに移籍することになった。コロンビア・レコードはその報復として過去二作のアルバム、SELF PORTRAITとNEW MORNING、の制作時のアウト・テークをかき集めて一枚のレコードにまとめ、アルバム・タイトルをDYLANとして1973年に発売した。
アウト・テーク、即ちなんらかの理由でオリジナル・アルバムに収録される選からもれた曲、の寄せ集めであるため、当然批評家からの評価は芳しくはなかった。また、このレコードには9曲が収録され、その中に自作曲はなく全曲が作者不詳のトラッドか他者の作品で、ディランのセールス・ポイントであるシンガー・ソング・ライターを売りにすることが出来ない代物でもあった。
それにもかかわらず、全米チャート17位でゴールド・レコードとなったのは、ディランというビッグネームのお陰で、アウト・テーク集であってもある程度は売れるという計算だったのであろう。
しかし、アルバムを通して聴いてみると、個性のあるディランの歌唱が、他人の曲をあたかも彼の自作曲のように聴かせるのである。
特に、プレスリーがかって歌った、CAN’T HELP FALLING IN LOVEやジェリー・ジェフ・ウォーカーの作品、MR. BOJANGLESなどはピッタリとはまっている。ジョニ・ミッチェル作のBIG YELLOW TAXIなどはどうなるのかと思ったのではあるが、かなり力の抜けた歌い方で、アウト・テークとはいえ、SELF PORTRAITのアルバムの雰囲気に良く似ていて、そのアルバムに含まれていてもおかしくない出来の様に思えた。
90年代からディランのブートレッグの音源がシリーズ化され数多くの未発表曲がCD化されたのだが、このアルバムの音源はそれらには含まれなかった。
また、このアルバムのレコードは世界各国で少量ではあるが再発され、廃盤になった後の90年代初めに、オフィシャルでは日本で一度CD化されたのみで、それもすぐに廃盤となった。 (iTuneでは配信されていたようだが、やっぱりジャケがないと所有感は満たせない)
というわけで、少し前までならば、このレコードは結構希少価値があったのではあるが、一昨年のディランのボックス・セットにこのアルバムが復刻され、また昨年には、日本でも独自に紙ジャケで復刻され、マニア以外でも音源が入手出来る様になった。
他人の曲は、ディランの自作曲よりはメロディーがしっかりしているし、字余りの歌詞もないので結構聴き易いかも?
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