大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

大阪放送劇団『闇に咲く花ー愛嬌稲荷神社物語』

2014-11-15 21:57:03 | 評論
大阪放送劇団第58回公演
『闇に咲く花ー愛嬌稲荷神社物語』



 作:井上ひさし  演出:西山辰夫 会場:A&Hホール


 キャパ100ちょっとの会場は桟敷席や補助席も出て満員の盛況でした。200~300近く入っていたように感じました。慶祝の至りです。
 勘定したわけではありませんが、若いお客さんの率がよそよりも高く、10代から80代(と思われる)多世代のお客さんが、まんべんなく揃っていて、放送劇団の歴史と観客層の厚さを感じました。

 この作品は、井上ひさしの「昭和三部作」の一つで、どうやら連作でおやりになるようです。

 舞台は、昭和22年の東京の愛嬌稲荷という、名前を聞いただけで「井上喜劇そのもの」を感じさせる設定です。
 戦災で半分焼けたような拝殿兼本殿に宮司の牛木公麿が観客に背を向けて昼寝しているところから始まります。
 本ベルと同時に舞台下手に、やけにギターのうまいオジサンが居て、BGをライブで流しています。昔小劇場で流行った生ギターの奏者かと思っていましたが。事実プウ吉さんというプロのギター弾きの方で、芝居の最後に、この人も、深刻な過去と過酷な現実を持った登場人物であることが分かります。

 で、昼寝の最中に米の買い出しに行った、5人のオバサンが大きなおなかを抱えて帰ってきます。若い人には分からないでしょうが、終戦直後のぼてバラと言えば、ヤミ米の買い出しです。この5人の登場から喜劇が始まります。境内の中に小屋を作り玩具のお面づくりに精を出している5人組ですが、みな戦時中にこの愛嬌稲荷から夫を出征させた経験があり、神社、神さま、日本そのものの有り方まで、一家言がありますが、それは芝居の進行に従って、ちっとも悲劇的にではなく分かってきます。

 この神社には、健太郎という一人息子が居て、戦死したことになっています。

 この健太郎が、ひょっこり帰ってくるところから、ドラマは大きく二転三転します。井上ひさしらしいどんでん返しや、ひっかけが随所にあり、観ている者を飽きさせません。
 演出の西山さんはアンサンブルの名手だと思いました。役者の個性と役の個性をよく見極めて、配役されています。また、広くもない舞台に戯曲が要求している道具を全部出し、最大で12人ほどが同時に板についているのを、上手く配置されていました。役者の立ち位置や移動に不自然さや、舞台の狭さを感じさせません。簡単で自然に見える立ち位置や動きを付けるのは、役者にも納得させなければならず、けっこう難しいものです。さすがは放送劇団です。

 ただ、惜しむらくは、爆笑になるところがクスグリで終わってしまっていることです。戦死したはずの健太郎が帰ってきたときなどは、一瞬の間があって、爆笑になっていいシーンです。
 プロの方々を相手に申し訳ないのですが、舞台上の「驚きが」偽物です。驚き(弱いものは発見)は喜怒哀楽の起点になる基礎の感情表現です。きちんと驚けなければ、あとの喜怒哀楽が作り物になってしまって、観客の共感は鈍くなってしまいます。
 細かいところでは、健太郎が復員してきたときの衣装が、70年代のミリタリー風にしか見えないこと。野球のユニホームが当時のダボッとしたものでなく現代的なのが気になりました。

 しかし、難しいことを面白く、面白いものをより深くという井上ひさしの精神は十分に表現されていました。

 ラストなどは、当たり前に状況を見れば悲惨の極みなのですが、井上ひさしの作品で、西山さんの演出にかかると、人間のいじらしさと可愛らしさが十二分に出てきます。人間て、日本人ていいものだと思える二時間半でした。

 私事になりますが、先日友人の劇団の芝居を観に行って、中西武夫さんにお会いしお話ししたうえ握手までしていただきました。むかし演劇雑誌で褒められたりけなされたりしましたが、『部長刑事』の名プロデューサーでもあられました。そして、今日は会場の前で西警部の西山さんのお姿が拝めました。今月はついていると思いつつ、夕やみ迫る北千里を後にしました。



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