ピボット高校アーカイ部
「こちらに、青山さんのお店でよろしいでしょうか?」
帳場の女の子が「はい、姓は青山、屋号は肥前屋ですが」と笑顔を向けてくる。
「キャ、かわいい……」
揃って横に立っている麗二郎、いや麗が恥ずかしくなるほどときめいて、巾着持ったままの手を口元に持っていく。
カミングアウトしたんじゃねえのか! つっこみたいけど我慢。
「こちらに、おリボン置いてらっしゃるって伺ってきたんですけど」
「あら、よくご存じですね、リボンはこちらです。あまり出ないもんだから、お父さんが奥に引っ込めちゃって……こっちに……」
左手で袂を押え、身を乗り出してリボンが入った箱に腕を伸ばす。
うなじと右手の肘から先が露わになる。その色の白さと容の良さに、僕もドキッとする。
うなじも肘の裏側も、街でも学校でも普通に見てるんだけどね……お祖父ちゃんが言っていた『秘すれば華』という言葉が浮かぶ。
いやいや、僕まで時めいてどうするんだ(^_^;)
「ご維新も二十五年、そうそう古着も売れないんで、いいところを採って、小間物が作れないかって、取りあえずリボンから初めてみたんです」
籐籠の中には再生品と言われなければ分からない、きれいなリボンが一クラス分ほど並んでいる。
「左前の打合せとか帯で隠れるところとか、けっこう状態のいい生地が採れるんですよ。古着の売れ残りは、雑巾ぐらいにしかならないんです。西洋じゃパッチワークなんてツギハギが伝統的だったりするんですけどね、日本人は好みません。それで、こんな風に」
「そうですね、古手を粗末に扱えば付喪神(つくもがみ)が祟るって言いますものね」
「あら、女学生さんなのに、古風なことをご存知ね」
「貧乏旗本の裔ですからね、モノは大事にいたします」
「それは、よい心がけですね。わたしも同様ですよ、そして、古いものを新しく。明治を生きる古道具屋の心意気です」
ポンと、小気味いい音をさせて帯を叩く。
令和の時代なら中学生かというくらいに小柄な人だけど、言葉や表情が小気味よくって先輩と対等に会話ができている。
「過ぎたお洒落はひかえなくてはいけないんですけど、おリボンぐらいは……女学生の心意気!」
ポン
アハハハハ
先輩も帯を叩いて調子が揃って、店の中に花が咲いたようになる。
その明るさにつられたのか、数人のお客が店を覗き始め、奥から主人が出てきて対応を始める。
こういうのも女子力って言うんだろうか、傍で見ているだけで楽しくなってくる。
―― 勝負に出る、お前たちもリボンを手にとれ ――
え、勝負?
任務の詳細を聞いていないので面食らう、でも、慣れている「これなんかもいいなあ」と呟いてオレンジ色のリボンを手に取る。麗もエンジ色を髪にかざしている。
「着物との釣り合いを見たいから、表で見比べていいかしら?」
「そうですね、お日様にあてると色合いがかわりますからね」
四人でウキウキしながら通りに出て、髪にリボンをかざしてみる。
―― 脇に寄れ! ――
先輩の命令は、いつも突然。反射的に看板の方に身を寄せ、先輩は逆に道の真ん中に近づく。
ガラス戸を鏡にしてリボンの映り具合を見ている感じになる。
ドン!
通行人とぶつかって先輩が倒れ、通行人の大男がタタラを踏む。
「オウ、コレハ、スミマッセーン」
大男が片言の日本語で謝りながら先輩に手を差し伸べる。
「いえ、わたしこそ、往来の真ん中で……」
そこで、先輩と大男の目が合った。
ドッキン
アニメならエフェクト付きで心臓の音がしただろう。
大男は、先輩に一目ぼれしてしまった。
―― チ、しまった! ――
先輩の舌打ちが盛大に頭に響いて、僕らは緊急タイムリープした……。
☆彡 主な登場人物
- 田中 鋲(たなか びょう) ピボット高校一年 アーカイ部
- 真中 螺子(まなか らこ) ピボット高校三年 アーカイブ部部長
- 中井さん ピボット高校一年 鋲のクラスメート
- 西郷 麗二郎 or 麗 ピボット高校一年三組
- 田中 勲(たなか いさお) 鋲の祖父
- 田中 博(たなか ひろし) 鋲の叔父 新聞社勤務
- プッペの人たち マスター イルネ ろって
- 一石 軍太 ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン) 精霊技師