大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・229『騒東鈴』

2024-06-30 11:57:12 | 小説4
・229

『騒東鈴』孫大人 




 ブ~~~~~~ン


 主電源を入れると、蚊の鳴くような起動音がしてJR東の目玉がクルクル回る。目を閉じているので目蓋がグリグリするだけなんだが、これを目蓋が開いた状態でやられると、ちょっとシュールだろう。

 ウィーーーーン

 カプセルが開くと、スチームアイロンの残り湯を捨てた程度の蒸気が漏れる。JRの生体組織を守るために還流していた蒸気が解放される音だ。

 キューーコロコロコロ……

 続いて、育ち盛りの子どもがお腹を減らした時のような音がする。休眠していた内臓が働きだしたんだ。Jシリーズのロボットの生体組織は人間同様の食物摂取で維持されている。モスボールが解かれると、その生体組織が急速に働きを取り戻す。

「老けましたね、マスター」

「ああ、かれこれ三十年ぶりだからな。きみは相変わらずだ」

「生体組織の加齢処理をしますか?」

「いいや、これでいいアルヨ」

「おお、懐かしい……マスターのアルアル言葉。緊張した時とか、なにか誤魔化したいときにアルアル語になるんですよね」

「うるさいアルヨ、直すアル。なんで、いま、起動したアルか?」

「なにかプログラムされていたっぽいのですが、分かりません」

「ええと……とりあえず、なにか身につけようか」

 タッチパネルを押してカプセルの下に格納されている衣装ラックを出してやる。

「え……ああ、こういう時は恥ずかしがらなきゃいけないんですよね……あ、ハ、ズ、カ、シ、イ」

「なんか、おざなりアル」

「まだ情緒表現のデータベースが起動しきれていないので……」

「よっこいしょ……」

 人間らしい掛け声をかけてカプセルから出てくるJR東。

 プ~~~~~~

「あ、思わず排気してしまった」

「早く、服着るアルヨ(''◇'')!」

「ハイ、アルヨ('◇')ゞ」

「おちょくるなぁ! アルヨ(^_^;)!」


 カジュアルなジーンズとブルゾンを着たJR東を真カルチェタランに連れていき飯を食わせる。


「總經理(ヅォン ヂィン リィー)、この子を店で働かせるんでございますか?」

 支配人が耳もとで囁く。JR東の雰囲気は、高級店と言われる真カルチェタランにはそぐわない。

「え、あ、鈴麗の妹、行儀見習いで俺の秘書……アル」

「秘書ですか!?」

「あ……まあ、当分は仕事も見習いアル。今日は飯食いに来ただけアル」

「承知いたしました。ご注文は?」

「ええとね……これとあれと、それと、あれもこれも……」

 満漢全席かというくらいのオーダーをするJR東。

「JR東、おまえ、そんなキャラだったあるか? それとも、まだデータベースが起動しきれてないアルか?」

「ああ、なんか、これで固着してしまったかな(^_^;)、まあ、スペック的には問題ないから、ムシャムシャ」

「しかし、なんで今、起動したアルかぁ?」

「さあ……それより、ムシャムシャ、名前つけてよ、いちいちJR東じゃ言いにくいっしょ。わたしもヤダし、ハムハム……」

「グヌヌ、居続ける気マンマンアルなあ」

「こうやって目覚めたってことは意味があるんだろうからさ、ムシャムシャ……」

「グヌヌ……じゃあ、宋東鈴アル!」

「いいねえ、字で書くとどうかなぁ……ソウトンリン……」

 騒東鈴

 ハンベをモニターにして出てきた文字は「ソウ」の字が違うが、印象としてはピッタリアル。

「ねえ、203地点に行きたい」

 水餃子の最後の一個をかっさらうようにして口に放り込み、青島ビールで飲み下すと、指を立てて宣言する。

「203地点……」

「うん、あの203地点」

 203地点……それは、奉天包囲戦のさ中、児玉元帥がまさかの敵弾をくらって、肉体的に戦死した地点。人類史上初めてPIが成された記念の地だったアル。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)075・渡り廊下でハグすんなぁ(''◇'')!

2024-06-30 07:28:32 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
075・渡り廊下でハグすんなぁ(''◇'')!      





 転校生が全校集会で紹介されることはありえへん。


 普通、クラスの朝礼で担任が紹介しておしまい。

 せやけど、交換留学生は違うみたい。

 始業式、校長先生の挨拶と訓話が短かった。

 え、もうおしまい? 

 思ってると教頭先生に合図されて一人の男子生徒が朝礼台の上に現れよった。

 女子に比べてダサダサと言われている男子のブレザーをカッコよく着てる。上背があって脚も長い。

 オオォ……

 とたんに女子を中心としてどよめきが起こる。

 制服という属性の為に気ぃつくのが遅れたけど、こいつは外人や、それも多分アメリカ人。

「今日から始まる二学期いっぱい一緒に勉強するミッキー・ドナルド君です。アメリカのサンフランシスコからやってきました。学年は二年生です。ドナルド君は……あ、ファーストネームね、ミッキー君は地元の高校では生徒会の副会長をやっています。クラブ活動や生徒会活動に関心があるようです。えーーそもそも交換留学生というのは……」

 訓話が短かった分の演説が始まりだしたので、みんなは校長の声を意識から遮断して、壇上のミッキー・ドナルドをシゲシゲと観察し始める。

 全校生徒、特に女子の観察には大変な圧があって、ミッキーはみるみるうちに赤なっていく。

 で、わたしも立派な交換留学生なんですけどもぉ。

 なんせ、入学した時から普通に存在しているんで、今さら交換留学生という認識はされてへんのでありがたい。

 中三の時にもカナダから交換留学生がやってきて、同じ北米大陸の人間やということだけで担当にされて嫌な思いをした(フランス語圏のやつやし、トルドー支持やし)。

 ま、交換留学四年生としては、そっとしてほしいというのが本音。

 ところが、始業式終わって教室に向かうとこでミッキーの方から声を掛けられてしまった。

「やーミリー!」

 な、なんであたしの名前を知ってるんや( ゚Д゚)!?

 まわりの生徒は、やっぱアメリカ人同士ってな温かい目で見てるんやけど、あたしとしては新年度の初日(アメリカは秋が学年の始まりやから)に面倒そうな男子に声かけられたって感じ。
 正直、ヌソっとしとって民主党的建て前で生きてますって男子は引いてしまう。そやかて、そういう男子は粘着質のグローバリストに決まってるから。ほら、日本にもいてるでしょ『宇宙人』の二つ名の元首相。

「オー、ナイスチューミーチュー!」
 
 あとあと祟られたくないので、17年の人生で身に付いた渾身の外交辞礼的スマイルで握手の手を伸ばす。

 握ってきた手の温もりがやりきれへんけど、おくびにも出さんと簡単な自己紹介をする。

「あ、覚えてないかな、ボクのこと?」

「え……?」

 ディズニーキャラを親類に持った覚えはないので瞬間凍り付く。

「ほら、シスコのチャイナタウンで隣のテーブル……」

「あ……あ……あーーーーーーーーーーーーーーーーーーー( ゚Д゚)!?」


 思い出した!


 フォーチュンクッキーで盛り上がってた時に……隣のテーブルから声をかけてきたのは……?

「I think you were with Michal Setouchi, right? (たしか、ミハル・セトウチといっしょだったわよね?)」

 演劇部因縁の生徒会副会長との有りうべからずの邂逅を思い出して英語で聞いてしまう。

「そうそう、ミス・ミハル!!」

 なんで感嘆詞が二つも付くんや?

「ミハルはなんで三年生なんだろうなぁーーー (*´Д`) 」

 なんでため息? なんで体中の幸運が逃げ出してしまいそうな顔?

「ミハルと同じクラスになると思っていたのにーーーー」

 190はあろうかというドンガラが萎んで消えてしまいそう。

「あ、え、えと、二年生だったわよね?」

「あ、うん、ボクはミス・ヒメダのクラス」

 背中を脊髄に沿ってゾゾゾと来るものがあった。

「それって……あたしのクラスやん( ゚Д゚)!?」

「What?」

 あわてて英語に直す。

「C'est... ma classe( >Д<)!?」

「Wow! ( ゚Д゚)!」

 ミッキーは地獄で仏のような笑顔……まではええんやけども。

「オーーーアメイジング!」


 コラー! 渡り廊下でハグなんかすんなよおおおおおおおおお(''◇'')!



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)074・夏の断末魔

2024-06-29 06:46:03 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
074・夏の断末魔                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 あ、中山先生!?


 四年の歳月を経ても直ぐに名前が出てきたのは、わたしの記憶力が優れているからではなく、先生の姿が四年前とちっとも変わらないためでもない。

 いや、先生の外見は全然変わっていた。

 軽いメタボ気味だった体形はライザップでもに行ったんじゃないかと思うくらい細くなってるし、朝のショートホームルームの度に冷やかされていたフサフサ寝癖頭は寝癖の元になる髪の毛ごと消えていた。

 人間は、人生の一時期にドスンと老けていくもんだと思ってる(うちの母も祖母も、いずれそんな時がくるはず)けど、そのドスンが一ぺんに二回分くらいきたんじゃないかってくらいの様変わりだ。

 それでも師弟共々一発で認識できたのは、学校の階段と廊下というロケーションに身を置いていたからだと思う。

――また遅刻かあ!――試験前やぞう!――寝てたらあんぞ!――宿題出せよ!――などなどを、こういうロケーションで言われてきたからね。

 それに、わたしのミテクレは、相変わらずの惣堀高校三年生。


「先生、どうして?」


 中山先生は、わたしの学年を持ったあと、京橋高校に転勤したはずだ。

「いろいろあって、今はちょと休んでる。それより、それは何のコスプレや?」

 二十二歳の制服姿は、とっさには理解できないようだ。

「え……まだ卒業とかしてないもんで」

 先生の目が丸くなった。

「え……いや、留年したのは知ってたけど……」

「あれから六回連続の留年なんですよ、アハハハ」

「思い出した! 府立高校で一人だけ六回目の三年生やってる生徒が居てるいう噂! 松井のことやったんかーー!?」

「え、あ、たぶん……(¬д¬。) 」

 すると、先生の顔が急に曇り始めた。

「やっぱり、俺が受け持ってたときに、もっとしっかり指導しとくんやったなあ……すまん、辛い思いさせたなあ(-_-;)」

 中山先生は、こういう人だ。

 生徒の不始末は担任である自分に責任があると思ってしまう人なんだ。

 あのころは、先生の処世術だと思っていた。折々の指導さえ抜かりなくやっておけば「担任たる私の責任!」と言っておけば、生徒も保護者も学校も――先生に罪は有りませんよ――と暖かく見てくれる。

 でも、先生は本心から、そう思っていたんだ。

 わたしも二十四歳。そう言う点での嘘と本当は分かるようになってきた。

「アハハ、やだなあ先生。わたし楽しくやってますよ。留年も六回やるとベテランでしょ、もう、学校の主みたいで、気楽なもんすよぉ(''◇'')ゞ」

 左手を頭の後ろに、右手はヒラヒラさせて笑った。

 でも、そんなアクションはただただ痛々しい強がりにしか見えないようで、先生は目をそらす。

「それやったら、朝倉さんは懐かしかったやろ。なんせ最初の席替えやるまでは隣同士の席やったはずやからなあ!」

 痛々しさのあまり、先生は朝倉さんに話を振った。

「え( #˙꒳˙ #)」

 朝倉さんは、どうしていいか分からずに顔を赤くしてワタワタしている。

 そりゃそうだろ、演劇部の副顧問までやって、地区総会の引率をやっても、わたしが同級生だったとは気づかない人だったんだから。

 さすがのわたしも、どんな顔をしていいか分からなくなった。

「あ、えと、わたし急いでるんで(^_^;)」

 身震い一つして、廊下向こうのトイレに駆けだすわたしだった。

 不自然には見えなかったはずだ、トイレに行きたいというのは本島だったんだから。

 用を足して廊下に出ると、元担任と元同級生の姿はなかった。


 くたばり損ないの蝉が唐突に鳴きだした。


 たぶん、夏の断末魔。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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鳴かぬなら 信長転生記 189『決戦武漢城!』

2024-06-28 11:09:44 | ノベル2
ら 信長転生記
189『決戦武漢城!』信長 




 グイィィィィ~~~~ッ!

 琥珀浄瓶 (こはくじょうへい)の口に固く栓をする。

「猪八戒、芭蕉扇でこいつを宇宙のかなたまで吹き飛ばせ!」

 市の猪八戒に命じながら筋斗雲を急上昇させる。

「兄き、投げて!」

 猪八戒としてなのか妹としてなのか分からない声を上げて芭蕉扇を構える市。

 ゾワ

 芭蕉扇は取り出しただけで、一里四方の空気が騒ぐ。

 ん?

 琥珀浄瓶のくびれを握る手に嫌な振動が伝わる。

 ビリビリビリ……ビリビリビリ……

 瓶の中で曹操が暴れている、こいつ、まだ力があるのか!?

 急がなければ!

 トリャアアア!!

 ピシ!

 俺が投げるのと瓶にひびが入るのが同時だった!

 バッビュン!!

 続いて芭蕉扇が振るわれて、最初の風が衝撃波となって駆け上がって来る!

 巻き込まれる寸前に身を翻す! 

 回転する視界の中に信じがたいものが見えた……暴風の先駆けに身を震わせる琥珀浄瓶は、その瞬間に破裂して闇が現れ。その闇は瞬時にゴジラほどに巨大な魔神と化し、吹きつのる暴風を僅かに超える速度で地上に降りてくるではないか!

 ジリ……ジリ……ジリ……ジリジリ……

「芭蕉扇でも吹き飛ばせないブヒ!」

「加勢するッパ!」

 バビュン! バビュン! バビビユン! ババビユン!

 茶姫の沙悟浄も加わって芭蕉扇を扇ぐ姿は、猛烈な火災にホースを構える果敢な消防士のようだ。

「関羽! 張飛! 皆を遠ざけて!」

 孔明が叫ぶ。

「みなさん、あっちへ逃げて!」

 大橋も二人の横にあって退くことを知らない。

 この事態に至っても全体として崩れずにおれるのは、城壁に立つ三人の姿があればこそなのかもしれない。

 避難民が一町も下がると、大橋も芭蕉扇の柄を握り、微力ながらも力を振るう!

 ジリジリ……ジリジリ……ジリジリ……ジリジリ……ジリジリ……

 バビビユン! ババビユン! バビビユン! ババビユン!

 ジリジリ……ジリジリ……

 いかん、僅かではあるが大魔神の方が早いぞ、それに……瓦礫の陰に逃げ遅れた子どもたちの姿が!

 筋斗雲を踏む脚に力を入れた、その刹那。

 ドドキューーン! 

 銃声がしたかと思うと、大魔神の両眼が朱に染まった!

 シュキーン!

 金属音がしたかと思うと、地上にあと一歩というところで、大魔神は脚を停めて跪いた。

 見ると、武蔵が折れた太刀を持ってジグザグに駆け抜けていく。城壁の上には銃を構えたままのリュドミラが――今のうちに――という顔で筋斗雲の俺を見上げている。

「みんな、これに乗れ!」

「ありがとう、悟空のおにいちゃん!」

 年かさの男の子の礼だけ聞いて、残りのチビ三人を乗せる。

「おにいちゃんは!?」

「自分の脚がある」

 そう言って、筋斗雲の尻を叩く。

 リュドミラが瞳の真ん中を撃ち抜き、武蔵が太刀を下りながらも脚の腱を切り、しばらく大魔神は動けないと思った。

 ウォーーン!

 くそ、子どもたちを救助した僅か五六秒で大魔神は立ち直って、地上に足を付けた。

 ドドキューーン! チチン!

 リュドミラの二撃目は瞬時に現れたシールドに弾かれてしまう。

 こいつ、戦闘状況に合わせて進化している……!?

 
 是非に及ばず!


 敵わぬまでも、この信長が抗ってやるか。


 如意棒を構えると、それは生前使い慣れた薬研藤四郎の太刀に変わった。


 姿も元の信長に……と思ったが、悟空を解除した姿は転生学院の制服。

 この美少女姿にも磨きがかかってきた。この形で果てるのも面白いか。

 さて……

 尻を探ると、ちゃんとスパッツも履いている。生パンでくたばってはみっともないからな。


 人間五十年~ 下天のうちを比ぶれば~


 自然と幸若舞の敦盛が口を突いて出てくるぞ。


 夢幻の如くなり~ ひとたび生を受け~ 


 あと一節……


 スタ


 軽やかに音を立てて降りてくる者がある。

 それは……猪八戒の姿も解除した転生学園制服姿の市だった。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)073・故障につき使用禁止

2024-06-28 06:52:43 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
073・故障につき使用禁止                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 女というのはいつからオバサンになるんだろう?


 松井須磨に限っては数十年先だと思っていた。

 えと、松井須磨ってのは自分のことなんだけど、まあ、客観視してるってことでよろしく。

 うちの母も祖母もオバサンという感じはしない。

 二人とも仕事に趣味に忙しい人で、私の目から見ても若やぎ過ぎている。

 ま、そういう自分が価値基準になってるので、八年目の女子高生をやっている娘にも特段の批判が無いのはありがたい。

「須磨ちゃんなんて、まだまだ蕾よ」

 六十を過ぎてなおポニテのショートパンツで週二回のテニスに励んでいる祖母の足どりは、そのまま空に飛んで行ってしまうじゃないかってくらいに軽い。

 十八で私を生んだ母は、ドクモから始めたモデル業を驀進中。

 そういう二人からすれば、孫であり娘であるわたしは、まだまだ蕾なんだろう。

「あぢーーーーーーーーーーーーー」
 
 思わず出てしまった唸り声に我ながらオバサン……どころかオバハンを感じてしまう。

「一学期はこんなじゃなかったんだけどなーーーーーーー」

 六回目の三年生をやっているわたしは教室で授業を受けることを許されていない。

 生徒指導分室という、ほとんど倉庫のようなタコ部屋に軟禁されている。

 一応は「課題が出来たら教室に戻してやる」ということになっているけど、それが仕上がらないもので、見通し無しの軟禁が続く。

 放課後は、ここが演劇部の部室になるんだけど、あまりの暑さに六月の下旬から部活は図書室を使っている。

 今は夏休み明けの短縮授業で十二時になれば図書室へいけるんだけど、それまでは朝の八時には三十度を超えているというタコ部屋に居なければならない。
 
 バケツ二杯に水を張って、それぞれ足を突っ込んでいる。

 なんで二杯かというと大股を開いておきたいから。

 足を閉じているとスカートの中の暑気は耐え難い。

 対面の椅子の上にミニ扇風機置いて下半身を強制冷却……しても暑い。

 タコ部屋備品の扇風機は日によって右前か左前で首を振っている。風向きを固定していると喉をやられるので首を振らせているのよ。ブラウスは第四ボタンまで外して胸を晒す。

 タコ部屋二年目の夏からはフロントホックのブラにしている。

 少しでも涼しくしたいための工夫なんだけど、全面御開帳にならないように右と左のフックに輪ゴムを掛けてリミッターにしている。
 首には農協でもらったタオルを巻いて、頭は後ろからロンゲをすくい上げ、端っこをちょいと捻ってクリップで留める。

 ぐああああああああああああああああああ~~~~(''◇'')ゞ

 喘ぐ姿は立派なオバハンだ。

 とても花の女子高生のナリではない。って、六回目の三年生で、もう二十四歳なんだけどね。

 これだけクソ暑いのにやっぱり二時間に一回はトイレに行く。

 子どものころから人の倍は水分を摂っている。机の上には空になったのと1/3くらいになったペットボトル。

 お情けの冷蔵庫には、まだ三本入っている。

 ま、これだけ飲んでりゃ行くよね。

「おーーーし!」

 タオルで胸から腋の下まで拭って、倉庫を挟んだ隣のトイレを目指す。


 ああ……故障につき使用禁止(-_-;)


 仕方がないので、廊下の突き当り、反対側のトイレを目指す。

 上の階から覚えのある声がしてくる。

 あ、かつての同級生で、今は新任の教師にして演劇部副顧問の朝倉さんだ。

 それに加えてオッサンの声。どこかで聞いたことがある……。

 二人は知り合いのようで、なんだか声が弾んでいる。

 ま、こんなタコ部屋の住人に声かけるような教職員はいないので、空気みたくなって階段の前を通り過ぎる、過ぎようとして声が掛かった。


「あ、あんたは!?」


 不用意に声を出したのはオッサンの方だった……。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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やくもあやかし物語2・054『キーストーンを奪われていた!』

2024-06-27 10:40:44 | カントリーロード
くもやかし物語 2
054『キーストーンを奪われていた!』 


 

 アテンション! アテンション! 校舎内の生徒および教職員は全員校舎の外に避難! 繰り返す、校舎内の生徒および教職員は全員校舎の外に避難せよ!

 
 侵入した妖の大半をやっつけ、残ったやつも逃げ出して、やっと平常に戻ったかと思うと緊急の校内放送。

 警備副司令を兼ねている魔法学のソフィー先生の声だ。


 ガチャン

 
 玄関前の広場に集合すると、玄関の鍵をかけてみんなの前に立つソフィー先生。

 先生の後ろには、少し下がって他の先生たち。横には警備犬のボビーが顎を上げてお座りしてる。どうやら、この場はソフィー先生が仕切る様子。

「やくもと森の住人の働きで妖を退治、あるいは撃退できたが、とんでもない事態が起こった」

 冷静ではあるけど厳しい声に、生徒も先生たちも言葉が無いよ。

「逃げた妖が学校のキーストーンを盗んでいった!」

 
 キーストーン?


 わたし同様に?マークの浮いている顔と、目を剥いて驚いている顔がある。

「キーストーンは、学校のホール天井の魔石だ」

 先生が手を上げるとホール天井の3D映像が浮かび上がった。

 みんな振り仰いで天井を見る。

 わたしも見たけど、アーチ型になった天井の石はどこも欠けてはいない。

「先生、どれがキーストーンなんでしょうか?」

 メイソン・ヒルが質問して、みんなも先生の顔に目を向ける。

「これだ」

 先生が指を動かすと、天井の五か所の石が光った。五つの石を繋ぐと星の形になるんだけど、星の真ん中は黒く抜けている。

「魔石のキーストーンはリアルの石に重ねてあるので普通では見えない。見えないからこそ発見が遅れた」

「でも先生、要石は他にもあるし、建物自身、耐震基準を満たしていると聞いています。緊急にどうこうということは無いんじゃないですか?」

「魔石のキーストーンが抜けた状態で使用していると、魔法的には全く無防備だ。呪いをかけられたら持ちこたえられん。ナザニエル卿が王宮の敷地全体に結界を張ってくださっているが、それとても万全では無いし、未だに工事中でもある。寄宿舎部分には影響はないので普通に過ごしてもらって問題は無い。授業や実習は宮殿の一部を拝借して継続する」

 やっと収まったのにどうなるんだろう……思っていると先生の顔がこっちを向いた。

「やくも、君の魔法特性が合っている」

 え、え?

「魔界経験値が他の者よりも二桁高い」

 たしかに、中学にいるころいろんな妖に関わったから、先生たちよりも魔界慣れしているかもしれない。

「そうだ、やくもほどに魔界耐性があるのは、わたしぐらいのものなんだが、わたしには王宮全体の警備任務がある。侵入した妖を撃退したばかりで申し訳ないが、魔界に踏み込んでキーストーンを取り返してきてほしい」

 え……ええ!?

「人によっては二日程度の同行が可能だ。生徒、教職員の中から交代で支援に向かう。がんばってくれ」

 みんなの目がわたしを見てる。

 大丈夫、及ばずながら力になるというのから、勘弁してくれというのとか色々。

 日本にいる時もそうだったけど、こういう状況で断ることができない。

 でも、なにか言いたい。聞きたい。言いわけしたい。

「では、自室に戻って準備してくれ。こちらは最初の同伴者を選んでおくからな」

 有無を言わせぬソフィー先生。

「は、はい……」

 唇をかんで自分の部屋に向かうやくもだったよ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精)  プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖)
   

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)072・やってられるかーー(。`Д´。) !!

2024-06-27 06:46:19 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
072・やってられるかーー(。`Д´。) !!                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 一日ボーっとして……それからブチギレてしもた。


 時差ボケもあるんやろけど、アメリカで過ごした四週間ちょっとが頭と体の両方でハジケてしもて、どないもならんかった。

 例えて言うと、小三のころ初体験したポップコーン。

 コンビニとか映画館で売ってる完成品と違て、カラカラに乾燥させた粒々の方。

 親父が買うてきてたのを、留守のお袋に代わって作ろうとした。

 フライパンにバターを溶かしてポップコーンのタネをザラザラぶちまける。

 蓋をして弱火で加熱すること二分半。それは爆発的に起こってしまった。

 ポン! ポン! ポポポン! ポポポポポポポポポポ! ボッコーン!!!

 フライパンの中で爆ぜまくったポップコーンはトドメに大爆発して、家中にポップコーンが飛び散った。

 あれと相似形の感覚と驚きや。

 爆発はやり残していた夏休みの宿題を見た時で、同時にミリーの言葉を思いだした。

――アメリカの夏休みは3カ月よ。6月7月8月、うん、もち連続。宿題? なんでえ? そんなもんあったら休みにならへんでしょ!?――

 そう言いながら、しっかりやり遂げてしまうのが留学五年目『郷に入れば郷に従え』のミリー。

 俺は、ミリーの後半の言葉を意識の底に沈めて、こう叫んだ。

 やってられるかーーーーー(。`Д´。)!!

 叫んだだけではいつもの夏休み。

 俺は一計を案じた。あのミリーも、この夏休みは宿題どころやなかったやろ。なんせいっしょにアメリカ旅行に行ってたんやさかい。


「ちょっとぉ、なんやのんこれは!?」


 教壇に立った姫ちゃん先生も叫んだ!

 教卓の上にはパンパンに膨らんだ通学カバンに体操服入れの袋、それから総重量三キロは有ろうかという紙袋。

「新学期の初日に必要なもの全部そろえたらそうなるんです(ㆆ_ㆆ) 」

「もー、とにかくじゃっまっ!……うう、重いいいいい(*`Д´*) 」

「先生らは一人一人勝手に宿題やら提出物を『こんなもんやろ』と指定するんやろけど、まとめるとそれだけになるんです。この残暑厳しき折に、まさに拷問やと思いませんかあ?」

「そうやねえ……(-_-;)」

 姫ちゃんは腕を組んだ。

 こういう時にまともに反応するところが姫ちゃんのええとこや。

 声にこそ出せへんけど――そーやそーや――の空気が教室に満ちる。

「アメリカの学校は三か月も夏休みで、宿題なんかはカケラもあれへんのですよ」

「そうや、啓介夏休み中アメリカ行ってたんやなあ」

 セーヤンが汗を拭きながら思い出す。

「じっさい向こうの高校生から聞いた話なんですよ」

「なるほどね、勉強してきたいうわけやねえ……しかし偉いね、小山内くん。新学期初日に宿題やりとげて、これだけの荷物担いでくんねんもんねえ……」

「あ、センセ、ちょ……」

 姫ちゃんはおもむろに宿題の袋を開き始めた。

「ん……どれもこれも白紙に見えるんやけど……(´¬_¬) ?」

「あ、せやから、全部集めたらこうなるいう見本で(^_^;)」

「こうなるいうこと見せても、宿題やれへんことの免罪符にはなれへんからね」

「いや、せやから……(^_^;)」

「そういや、ミリーもいっしょに行ってたんやね?」

「はい、行ってました。あ、クラスのみんなにお土産です。少ないけどみんなで食べてぇ」

 ミリーはマカダミアナッツチョコの箱を二つ取り出した。

 さすがはミリー!

 ミリー称賛の声が教室に満ち溢れる。

「で、ミリー宿題はどないしたんや?」

 小声で聞くと、ニンマリ笑ってささやいた。

「やったよ、今日持ってこうへんでも、最初の授業で出したらええねんし」

「な……!」

「ニヘヘヘ……」

「ちょ、あとで見せて……」

「宿題は自分でやんなさい!」

 姫ちゃんは無情に宣告するのであった。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・106『笹をどうする!?』

2024-06-26 12:27:50 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
106『笹をどうする!?』   




「ところで、笹はどうするの?」


 倉田先生のOKをもらって(あんまり積極手にではないけど)生徒会室のドアに手をかけたところで真知子が質問する。

「え、どこかにあるでしょ」

 気楽に言ったのは、ここが1971年だという気持ちがあったからだろう。

 なんせ昭和だよ。令和から平成の30年を跨いで、ずっと遡った昭和46年。

 スマホもネットも無い時代、笹ぐらいどこかに生えてると思う。

「あんまり見かけないかもよぉ」

 たみ子が首をひねる。わたしより15センチ高いところで首をひねられると圧が高い。

「万博会場の周りとか笹だらけだったじゃん」

「万博会場は元々竹藪だったからでしょ、ここら辺に竹藪とか無いわよ」

「え、そうなの?」

 ちょっと昭和を見くびっていた。

「あのう……」

 え?

 ロコが声を上げるので、三人とも期待の眼差しを向けてしまう。

「アテがあるの!?」

 たみ子の圧に、わたし以上にビビるロコ。

「いえ、そのぉ、竹と笹は違いますから」

 え……?

「笹は、タケノコの時の皮がずっと残ったままで、そんなに大きくなりません。学校とか自治体とかで大規模にやる時は竹で代用することもあるんだそうですが」

 そうか、目の前の真知子とたみ子の違いぐらいなんだと思った。アグレッシブなところなんか二人ともいい勝負だし。

「それで、アテは?」

「アテはありません、違いがあるって話をしただけですよぉ」

「「「なんだぁ」」」

 ガラ!

「「「「わ!?」」」」

 いきなり生徒会室のドアが開いて声が出てしまう。

「なにか、生徒会に用かしら!?」

 美人生徒会長が眉毛を逆立てている。たみ子どころではない圧があって、こちらには提案の基礎となる笹の調達方法が無くって、これでは話にならなくって、真知子でさえ直には言葉が出てこない。

「いえ、あ……また出直します!」

 四人揃って回れ右して一階に下りる。玄関前に出ると、相変わらずドンヨリの梅雨空。ポツポツと雨まで降り出してくる。


 おーーい!


 体育館の横っちょから声がかかったかと思うと、女バレのユニホームの佳奈子が――どうだった?――という顔で走って来る。
 今の今まで練習をしていたんだ、汗ビチャなんだけど部活モードで、わたしらの十倍くらい電圧の高い顔になっている。

「ああ、じつはね……」

「なんだ、そこで躓いてんのか」

 わが友ながら、ちょっとムカつく。

 でも、タオルでクルリと顔を拭いて発した言葉は、梅雨のスイッチをパチンと切ったみたいだ。

「それなら、あたしにアテがあるよ」

 え、ほんと( ゚Д゚)!?

「うん、実は……」

 詳しく話そうとしたら「吉本センパーイ!」と一年部員たちの声。

「今いく! じゃ、後でグッチに電話するからあ!」

 頼もしいセッターは、わたしの顔を指さして体育館に戻って行った。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
 
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)071・夏休み編 美晴の思い出ポロリ 

2024-06-26 07:17:02 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
071・夏休み編 美晴の思い出ポロリ                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 Tシャツを脱いだのがまずかった。

 ゆるーい山なりのボールだったので、楽にスパイクできると思ったのも浅はかだった。

「テーーッ!」

 感じとしては70センチくらいジャンプして、思いっきりスパイクした。

 バチコーン!

 で、ボールは相手チームのミドルブロッカーのボブの頭にヒットした。

 ボブは運動神経のいいマッチョで、それまで打ち込まれたスパイクを全部返している。

 そのボブがとりこぼした。

 胸のすく思い!

 で、ゲームが停まってしまって、敵味方の視線が集まってくる。

 一瞬の後、男子の視線が動物的で女子の視線が――かわいそう!――になっているのに気付く。

 なんと水着の上がずり上がって、わたしの控えめな胸が露出しているではないか!!

「ウグッ」

 踏まれたカエルみたいな声が出てしゃがみ込んでしまった。


 タイムタイム!


 女子リーダー格のアガサと二人ほどが寄ってきて早口で慰めてくれる。

 いそいで水着を整えて「ドンマイドンマイ」を連発。ドンマイの用法間違ってると思いながら、でも気持ちは通じたようで、わたしの不幸なアクシデントへのシンパシーを感じた。

「いいこと! 今のことは頭からディレートしときなさい! 特に男子!」

 男子は真剣な顔でコクコクヾ(〃゚ー゚〃)ノヾ(〃。。〃)ノヾ(〃゚ー゚〃)ノヾ(〃。。〃)ノ、みんないい人だ! 

 でも、一人ミッキーが鼻血を流している。

「ちょ、ミッキー(ꐦ°᷄д°᷅) !」

 アガサが非難すると、やにわにミッキーはアサッテの方角にダッシュ。

――え、なに?――

 水着を直して振り返ると、二つ向こうのコートで数人の男子とどつき合いになっている!

 #@$!%¥O#$!+#%!*@W##!@$!%¥O#$!+#%!*@W##!!

 罵倒し合う声はわたしの語学力じゃ理解不能。

 そのうち、こっちの男子が全部向こうに行って、ミッキーに加勢し始めた。


 その後、ホテルの警備員が三人やってきて、なんとか収まる。


「あいつらが、こっちのアクシデントを撮ってたからさ(๑`^´๑)!」

「けっきょくはミッキーの早とちりだったんだけどね」

「ミッキーは悪くないぜ、ああいう状況でスマホ見ながらニヤニヤしてりゃそうだと思う(#`^´#)」

「あいつらゲーム始めた時から、ヤラシー目でチラ見してた(#°д°#) 」

「こっち見んな(ꐦ°д°) !って思ってたもん」

 みんな頭から湯気を出しながら怒ってる。
 

 あれからホテル併設の温泉に浸かっている。


 アメリカで温泉なんて意外なんだけど、アメリカの西海岸は地震地帯で、地震あるところには温泉がある。

 世界高校生徒会会議が流れたので、ミッキーが仲間を集めて一泊の温泉旅行を企画してくれたんだ。

 ビーチバレーを始めた時は他の女の子の心配ばかりしてた。

 だって、みんなスゴイ胸だからゲーム中にポロリしてしまうんじゃないかとね。

 で、実際は、わたしの胸では滑り止めにもならないでポロッったわけ(-_-;)。

 めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど、それ以上にみんなの心遣いが嬉しかった。
 
 温泉と言っても、日本と違って水着で入る。

 で、ほとんど温水プールなんだよね。マジ、殺菌用の塩素の臭いがきつかったりする。

 温泉上がって宴会ってことにもならないしね、設備だって有馬や白浜を思い浮かべると残念だったりするんだけど、それを補って余りあるサンフランシスコ。やっぱ、根本は人間なんだ……。

 ガチャンガラガラ!

 付き添いのリンカーン先生がプールサイドのプラスチックの椅子を蹴倒しながらやってきた。

「ミッキー喜べ! 君の交換留学が決定したぞ!」

「え、え、この時期にですか?」

 アメリカの新学年は目前の九月からだから、決まるとしたら、もう一か月は早く決まっているはずだ。

「急に参加できない子が出て、補欠合格だ!」

「で、どこの国の学校ですか?」

 留学にも当たり外れがあるようで、決まっただけでは喜ばない。

「日本のソウホリ高校だ!」

 日本ということで、みんなは口笛ヒューヒューで祝福する。

 悪いやつじゃないんだけど、ちょっと気が重くなった。

 わたし、瀬戸内美晴の夏休みはサンフランシスコの温泉で終わりを迎えようとしていた……ま、いいんだけど。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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勇者乙の天路歴程 027『大名行列対処法』

2024-06-25 11:12:42 | 自己紹介
勇者路歴程

027『大名行列対処法』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




「いえ、旅の者ですが」


 正直に答えると、村長は不安と安心の入り混じったような顔をした。

 よそ者が関わり合うべきではないとは思ったが、スクナの一言でそうもいかなくなる。

スクナ:「焼き芋屋でも来るのお?」

 薩摩守→薩摩芋→焼き芋、単純な奴だ(-_-;)。

村長:「滅相もない、 従四位下の薩摩守様ですよ!」

中村:「ひょっとして、島津の殿さまですか?」

村長:「はい、お大名の御行列が通るのは初めてのことなので、とりあえず思いつく限りのことをやってるんですが、もう分からないことだらけで困惑して……」

中村:「ここは始まりの村、薩摩様のご支配地ではないんですから、道の脇に寄って邪魔をしなければ大丈夫です」

村長:「え、そうなんですか? 土下座とかしなくてもいいんでしょうか?」

中村:「はい、大声を出すとか行列を横切るとかしなければ、なにも問題ありません」

ビクニ:「島津は72万石だから、行列は1000から1500、人足を入れると3000ちょっとというところか」

 さすがは八百比丘尼、引退教師の俺よりも詳しい。

村長:「3000……間には荷車や籠も入るでしょうから、総延長5キロとか6キロというところでしょうか」

ビクニ:「うむ、そんなところかな。まあ、勇者の言う通り露骨に邪魔をするとか横切るとかしなければ咎められることもない」

 いつの間にか、周囲に人が集まり始めて、ちょっと戸惑う。

村人1:「でも、よそで土下座したって話も聞くぞ」

村人2:「5キロ6キロの行列っていやあ、通過するだけで3時間くらいはかかるべ」

村人3:「行列って言うのは遅えから、もっとかかるべえ」

村人2:「うええ」

ビクニ:「飛脚と産婆は横切ってもお咎めなしだぞ」

村長:「そうなんですか!?」

中村:「土下座は支配地の領民にしかさせません。大丈夫ですよ。まあ、軽く掃除をして打ち水でもしておけばいいんじゃないですか」

村長:「いやあ、そうだったんですか。それを伺って安心いたしましたぁ(^_^;)」

『村長ぉ! 来たあ! 大名行列が来たずらぁ! いま、峠を越えて来たぁ!』

 教会の塔に上っていた見張りが大声で広場のみんなに告げる。

「よし、西門から東門まで打ち水するぞお、撒きすぎて水浸しにせんようになあ! ゴミの取り残しやら犬のウンコとかも気を付けてなあ!」

 おお! がってんだ! まかしといてぇ!

 いろんな声が上がって、あっという間にやり遂げて、静かに薩摩守の行列を待ち受ける始まりの村だった。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • ビクニ        八百比丘尼  タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • ヤガミヒメ      大国主の最初の妻 白兎のボス
  • ヒコナ        ヤガミヒメの新米侍女
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)070・夏休み編 ネヴァダ幻想

2024-06-25 08:50:10 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
070・夏休み編 ネヴァダ幻想                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 ちょっと待って……。


 感覚が追いついてこないのよ……ほんとに。

 一昨日まではサンフランシスコに居て、昨日はラスベガスだった。

 ラスベガスは砂漠の中に忽然と現れた夢の国、あるいは異世界みたい。

 着いたのが夜だったこともあって、ほんとにファンタスティック。

 どこのナイター中継だってくらい街中が煌煌と輝いていて、その輝きの中にピラミッドやスフィンクスやエッフェル塔が建っていて「うわーー!」なんて感動してたら、いつの間にか周囲はホテルやカジノ。

「ラスベガスは泊るだけだから、食事の後でショーが観れるだけなんだぁ、ごめんね(^_^;)」

 シンディーは恐縮してたけど、わたし的には十分だった。先輩たちも「へえー!」「ほう~!」「すごいすごい!」を連発してたから同じだと思う。

 さすがはアメリカ、スケールが違う( ゚Д゚)。ご飯食べてショーを見て、寝る前には、みんなわたしの部屋に集まって「せっかくラスベガスに来たんだから、カードやろう!」ということになって、ブラックジャックで盛り上がる。壁掛けの大型モニターにラスベガスのプロモーションを流し、ソフトドリンクで盛り上がって、須磨先輩が一人勝ち! 「さすが年の功!」と称賛した啓介先輩がはり倒されたり、シンディーが目を丸くしたりして楽しく過ごした。


 その興奮のままのあくる朝……目の前に広がった景色は反則だよ。


「これもアメリカよ」

 シンディーが見せたかったのは旅情あふれるサンフランシスコでもなく、ラスベガスのアミューズメントでもないことが分かった。

「ここって地球だわよね?」

 須磨先輩のこわばりが介助してくれている車いすのフレームを伝わってくる。

 シンディーの手配でキャタピラ付の車いすになったんだけど、その意味が分かった。

 ここはキャタピラでなきゃ車いすは動けない。と言ってワイキキビーチの楽しさなんかかけらもない。

「火星みたいや……」

 啓介先輩がポツリ。

 映画だったら、ここでカメラは引きのアップになって、パノラマになった景色の上にタイトルが浮かんでくるだろう。
 
 デスプラネット……とかね。

「ここに勝てるとしたら、原爆投下直後のヒロシマかナガサキだけよね」
 
 そう、ここは世界で一番核兵器が炸裂したネヴァダ砂漠の核実験場痕なんだよ。

シンディー:「1057回もやったのよ、ほんとクレージー」

 1057回……(;'∀')

啓介:「ほんなら、あのクレ-ターて、みんな核爆発のんか?」

シンディー:「そうよ、こんな景色、月面か火星の地表でしかお目にかかれないでしょうね」

 しばらく歩くと赤茶けた金庫が半ば砂に埋まっているのが見えた。

須磨:「岩かと思った!」

 わたしは『猿の惑星』で、海岸の砂浜に突き出てた自由の女神の腕を思い出した。

シンディー:「何回目かの実験に金庫の耐久性の実験に置いたのよ。金庫屋がスポンサーになったのかも」

千春:「核実験にスポンサーが居たんですか?」

 真面目に聞くもんだから、シンディーはクスっと笑った。

シンディ―:「1057回もやったから、いろんなことを試したくなるんでしょうね。最初はシェルターとか軍用車両とか各種の建築物とか防護服だったけど、でも金庫はほんとにCMに使ったのよ。さて、みんなスマホ出して、あっちの方にかざしてくれる」

 このネヴァダツアーに行くについて、みんなはアプリを入れている。

 要所要所でかざすと、その場所の情報が映るらしい。


 クチュン!


 太陽が眩しくて横を向いてクシャミした。

 その拍子にさっきの金庫が画面に入った……すると、金庫のテレビCMが始まった。

 グラマーなオネエサンがにこやかに金庫を指し示し、明るい声でなんだか言ってる。次の瞬間には原爆のキノコ雲……そして、吹っ飛んで焼け焦げた金庫が映って、防護服の人たちが開けたら中身はぜんぜん傷んでなくて、オネエサンが白い歯を見せて――いかがかしらぁ(^▽^)――のポーズ。

 アハハハ……(´°ᗜ°)(꒪ꇴ꒪|||)(ᐡᯣ ̫ ᯣᐡ)(꒪⌓꒪;)

「おっかしいなあ、見えるはずなんだけど……」

 顔を上げるとアプリの調子が悪いのか、シンディーが悪戦苦闘している。


「調子が悪いようだね」


 声に振り返ると、アメリカ人にしては小柄な男性が笑顔で立っている。

「あ、あ、伯父さん!」

 シンディーの顔がパッと明るくなった。

「あ、えと、わたしの伯父さん。どうしてぇ、もう何年も会ってないのに!?」

「忙しくてな、シンディーこそ、この子たちは友だちかい?」

「うん、日本の友だちで……」

 わたしたち四人を紹介してアプリの調子が悪いことを説明した。

 なんだか子供っぽく甘えた口調になっている。きっと大好きな伯父さんなんだろうね。

「スマホ使わなくたって見えるよ」

 そう言って伯父さんは、ワイパーのように腕を振った。

 すると、一キロほど目の先に広くて大きな工場がかげろうの向こうに揺れて見えてきた。

「あれは?」

「ロスアラモスの原爆工場だよ」


 ロスアラモスって……少し不思議だけど、目の前にあるんだからそうなんだろう。


「あそこで核兵器を作ったの?」

「そうだよ、こんな砂漠の真ん中にね……ここなら人の目にもつかないだろう、まだ人工衛星も無い時代だからね」

「えと、工場の上に家が建ってるみたいなんだけど」

「宿舎かなんかですか?」

「上から見たら分かるよ」

 オジサンがそう言うと、みんなの体がゆっくりと浮かび上がった。


 え、えーーーー!?


「大丈夫、怖かったら手を繋いでいるといい」

 怖くって、車いすの背もたれに背中を押し付けてしまう。

 ちょっとね、むき出しで宙に浮くのは苦手なんだ。

 悲鳴が出るところだった。

 須磨先輩は、そんなわたしを車いすごと抱きかかえてくれる。

「これは……!?」

「なんてこと!?」

「目の錯覚?」

「こんなこと……」

 そのあとは言葉も出ない。

 なんと、工場の上には街が出来ている。

「飛行機が上を通っても街があるとしか見えない、敵からも味方からも知られない完璧なカモフラージュだよ。作ったのはディズニーのスタッフたちだ。うまくやるもんだろ」

 わたしたちは空に浮かんだまま工場とカモフラージュの街を見た。数十秒か数分か、そうやって。ゆっくりと地上に戻った。

「あれ……伯父さんは?」

 地上に着くと伯父さんの姿は無かった。

「ちょっと待って……あんな伯父さん、覚えがない……」

 シンディー自身が一番ショックだったようで、スマホを取り出して電話を掛けている。

「もしもし、あ、お祖母ちゃん?」

 お祖母ちゃんに電話で確かめたところ、シンディーが生まれるずっと前に亡くなった伯父さんがいたそうだ。

 軍隊で核兵器の開発と管理の仕事をしていて、何度も核実験に立ち会って若くして亡くなった人らしい。

 ディズニーとかのアニメが大好きで、オタク風に言うとアメコミファンだったらしい。

 うまくやるもんだろうと言っていた。

 面白がっているようにも非難しているようにも感じられる。

 ずっと考えているには暑すぎるネヴァダ砂漠だった。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


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銀河太平記・228『孫大人の倉庫』

2024-06-24 11:06:01 | 小説4
・228

『孫大人の倉庫』孫大人 




「やっぱり、ここじゃダメだったんですよ、小爺(シャオイェ)」

「ああ、もう言わんで欲しいアルヨ老婆婆(ラオポゥポゥ)」

「 昔からですよ、小爺はいつも大事なものを仕舞っては忘れてしまって『どこにいったんだ!?』と大騒ぎするんですからね」

「隠したのは確かだけど、忘れたわけじゃないアルヨ。分かってるだろ老婆婆?」

「ほんとうに大事なものなら、この小鈴にお頼みなさい。もう閉めますよぉ小爺」

「おまえはもう帰っていいよ、俺は、もうしばらく見ていくアルヨ」

「そうですか、じゃあ、晩ご飯までには帰ってくるんですよ小爺」

「ああ、お前も気を付けるアルヨ、老婆婆」

「はい、じゃあ、鍵お願いしますよ小爺」

 老婆婆は皺くちゃの小さな手で俺のでかい手を包むようにして鍵を渡し、念入りに二回揺すって階段を上って行く。

「家まで見届けておくれ鈴麗(リンレイ)」

「お一人になりますが……總經理(ヅォン ヂィン リィー)?」

「ああ、もう少しここにいるよ」

「では、直近の警衛を一人まわしておきます」

 有能な秘書は、護衛の手配を一瞬で済ますと、孫家でただ一人生身の老婆婆の見送りに行った。

 さて、一人になって見ると、このカルチェタランは広い。

 隣接するビルの地下も買い取って、延べ輿床面積は400平米を超える。

 グランマがここを畳むと聞いて、即金で買ったのは、ついこないだという気がするが、もう四半世紀以上も昔のことだ。
 
 満州戦争で奉天が灰燼に帰すのは目に見えていた。

 できることなら、北大街全部を保全して守りたかったが、このカルチェタランを含む奉天物産公司ビルと隣のビルを買い取って保全するのが精いっぱいだった。

 戦後、一ブロック先に別のビルを建てて真カルチェタランとして営業、それ以来ここはモスボール状態で法的にはただの倉庫だ。戦後、登記するのに役人に見せたとき「これは高級風俗店ですよ、孫大人」と言われたが「カルチェタランは文化財アルヨ」と、日漢双方の学者の鑑定書を見せて事なきを得た。
 じっさい、真カルチェタランは、季節ごとにここから持ち出した備品で模様替えをやっている。

 ここの番人は老婆婆の小鈴に任せた。

 小鈴は父の代からの使用人で、若いころは孫家の家政を取り仕切り、俺が生まれてからは乳母を兼ねてくれていた。だから、小鈴が管理する物件は世間からも身内からも、孫悟兵のガラクタ番だと思われていた。

 小鈴が番をしてくれているうちはJRは無事だった。

 しかし、戦後二年目に小鈴が体を壊して、それ以来番頭たちの勧めもあって、ここの管理と警備はAIとロボットに任せるようになった。

 そして、まんまとJRを盗まれてしまった。

 気づいたのは劉宏大統領がPI(パーフェクトインストール)をして西之島を訪れた時だ。大統領はプールの事故で心停止した時に秘書の王春華にPIした。そのことは知っていたが、それがJRであるとは知らなかった。奉天に立ち寄る度に倉庫のことは確認していたからな。

 未練たらしいのだが、もう一度バックヤードに入ってみる。

 Aブロックには季節ごとの什器が保管され、奥のBブロックにはカルチェタランで踊り子をやっていたロボットたちがモスボールされている。

 そのモスボールの中央に佇立しているのがJR。

 JRは二体ある、JR西とJR東。

 なんだか昔の日本の鉄道のようだが、造った敷島教授のラボが西と東にあったことに由来しているかららしい。俺が付けるならJR悟とJR兵だ。

 盗まれたのは西の方だ。

 巧妙な盗まれ方をしたので、つい最近まで気づかなかった。

 なんせ、ボディーはオリジナルのままでコアだけが汎用品と入れ換えられている。コア以外はオリジナルだから電源を切ったモスボールの状態では区別がつかない。

 JR東は演舞集団北大街を作った時に解凍したんだが、演舞集団を休止するときに再びモスボールした。

 そのモスボールしたJR東の口が動いた。

「ねえ、主電源入れてくださらないかしら」

 ちょっとビックリしたアル。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)069・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・7

2024-06-23 08:29:42 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
069・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・7                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 オタク文化の経済的波及効果は4兆円だって!


 大阪府の年間予算が3兆円、東京都が8兆円だから、そのすごさが分かる。

 ちなみに世界の国々で年間予算が4兆円に達しない国が80%だから、その気になってオタクが団結すればそこそこの経済規模の国が出来てしまう。

 こんなことを思い知ったのは、二日前に行ったカセイドールで仲良くなったメイド長シンディーのおかげ。

「ヤッホー、お言葉に甘えてやってきちゃいました(^▽^)/」

 達者な日本語でホテルに現れたシンディーは、お店のフリフリメイド服と打って変わって、カットソーにダメージジーンズ。

 化粧っ気も全くなしなんだけど、内から輝くものがある人で、人間の美しさは内面からなんだと思い知る。

「だけどミリーもすごいわよ、てかウラヤマよね。日本に五年も留学してるんだなんて、いったいどんな星の元に生まれたんだろうね」

 シンディーはノーパソを持ってきてくれた。

「先週終わったばかりの夏コミ情報だよ」

 ノーパソを部屋のテレビに繋いで、みんなで鑑賞。


 うわーー!!

 ぶったまげた!


 東京ビッグサイトは駅から会場まで――民族の大移動か!?――っちゅうくらいの人波。

 けして人ごみやない。猛暑の中、みんな整然と並んで順番を待ってる。

「日本人てすごいよね、大震災が起こっても、年二回のコミケでもキチンと秩序正しいんだよね。世界がオタクを認めるのはカルチャーとかクォリティーの高さもさることながら、こういうところにも惹かれるんだと思うわよ」

 日本に来て五年目やけど、コミケは知らんかった。他の三人も同じようで、画面を観ながら感心してる。

「でも、今年は三万人も少なかったんだよ」

「え、どれほど来てるの?」

「五十万人、三日間の合計だけど」

「「「「五十万人!?」」」」

「これだけのイベントなのに、日本じゃほんのトピックスにしかならないんだよね」

「五十万人言うたら、夏の甲子園よりも多いんちゃうかなあ!」

 啓介がときめいて、中学から久しく見なかった貧乏揺すりをしだした。

 ベンチで打順待ってる時にツーラン満塁とか、前のバッターがヘボな時にようやっとった。

「甲子園の80万人には及ばないけど、一日あたりは絶対コミケの方が多いわよ。もし、甲子園と同じ15日間やったら、絶対にコミケの方が勝っちゃうでしょうけどね。高校野球の経済効果は350億円ほどにしかならないんだよ、オタクは4兆円。日本政府もマスコミももっと力いれるべきだよ」

「うん、そうだね!」「そうね!」「せやな!」

「で、夏コミってなんですか?」

 千歳の基本的過ぎる質問にはズッコケてしまった(^_^;)。

「これを見てちょうだい!」

 シンディーはリュックの中から数冊の同人誌やらゲームを出した。

「ネットオークションで手に入れたの、半年かかったわ。まだ二冊手に入れてないんだ。日本に居たら、ぜったい朝から並んでゲットするんだけどねえ」

 わたしらが見たらマンガとかアニメとかのパンフくらいにしか見えへんねんけど。すごいお宝やということは、シンディーの熱気から伝わってくる。

「『葬送のフリーレン』と『薬屋のひとり言』が基本なんだけどね、『スパイファミリー』と『魔法使いの嫁』も外せないんだよねえ」

ミリー:「あれ、鬼滅とかはあれへんのん?」

 ホームステイ先の渡辺家で一番人気のアニメがないんで、ちょっと意外。

シンディー:「う~ん……あれは沼だからねぇ(^_^;)」

須磨:「え、沼?」

啓介:「ハマったら、なかなか抜け出されへんいう意味や」

千歳:「ああ、啓介先輩の『グローバルクラブ』みたいな」

シンディー:「え、グロクラやってるの!?」

 ちょっと空気が凍る、あれはグローバルと違てエロ-バルやし。部室の害虫騒ぎの時に不可抗力で初期化してしもて、啓介はムンクの『叫び』みたいになってしもて、以来うちらは黙認してる。いわば、演劇部のアンタッチャブルやし!

啓介:「え、いや、その……(-_-;)」

シンディー:「グロクラはキャラクリゲーとしては最高峰なんだよ! 課金してると、それこそ底なし沼でさ、友だちでハマってるのが居て……そうそう、その子にあたしのキャラ作ってもらったの!」

 カチャカチャカチャ……キーを秒速10回くらいで叩くと、シンディーをアニメ化したようなキャラが三種類出てきた。

 オオ……( ゚Д゚)

「リアル系とねアニメ系が二つ、わたし的にはこれなんだけど」

 アマロリのメイド服のアバターは、アニメ系なんだけど、ほんとうにシンディーの特徴をよくとらえてる。

シンディー:「うちのメイドの子たちも作ってもらってバッジにして付けようと思ったんだけどね」

千歳:「あ、かわいいと思いますよ!」

シンディー:「いや、さすがにね(^_^;)」

 あ、なるほど、そっち系のお店と誤解されるか。

千歳:「あ、ひょっとしてシンディーさんて、声優さんでチョイスしてません?」

シンディー:「ええ、千歳、分かる人なのお!?」

千歳:「アハハ、ちょっとだけですけど。アーニャとマオマオが同じ声優さんだと分かった時は感動しました!」

シンディー:「そうなのよ! 他にもねぇ……」

 不二家のペコちゃんみたいな顔になってキーを押して、声優さんの代表作品の声を聴かせてくれる。

 いやはや、今日はもう、アニメ談議で終わってもええかと思たんやけど、一時間ちょっと集中豪雨的に喋りまくったあと、ちゃんと旅行の話しもしてくれる。

「サンフランシスコ観光ならここね!」


 あくる日。


 シンディーのアドバイスで、アルカトラズ島の気合いの入ったプリズンミュージアムとロンバートストリートと日本庭園に行った。

 ヨセミテ公園とかゴールデンゲートブリッジとかもあったんだけど、天気が良かったらの条件付きやったので流れてしもた。

「オタク的なところは無いんですね」

 千歳はホテルでのノリがあったので、そいうところに行くもんだと思っていた。

『ハハハ、そういうのは日本が本場なんだから!』

 シンディーは電話の向こうで笑っていた。

 ちなみにシンディーはカセイドールの仕事があるのでプランを立ててくれるだけ。ただ新鮮なフィードバックが欲しいので、観た後は必ず電話かメールをするように言っていた。

『明日お勧めのところがあるの、わたしも同行するから行ってみない?』

 シスコ最終日に、シンディーは思いもよらないところを勧めてきた……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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鳴かぬなら 信長転生記 188『荒ぶる魔王曹操に打つ手なし!?』

2024-06-22 10:55:13 | ノベル2
ら 信長転生記
188『荒ぶる魔王曹操に打つ手なし!?』信長 




 これがスケボーならオリンピックの金メダル!


 そんなテクニックと見の軽さで筋斗雲を操り、大上段! 打ち込み! 薙ぎ払い! すり上げ! 受け返し! さらに突きからの胴払い!

 ビュン! ズサ! ジャキン! シャリン! ドスドス! ガキーーン!

 曹操は大魔人と化したが、その分動きが大きく、間近に迫り懐に入ってしまえばヒットを加えることは難しくない。

 しかし、その都度視覚化されるヒットポイントは一桁、良くて10とか12までだ!

 曹操の頭上のHPゲージは下が赤、上が金色の二本。

 赤はゲージは100万、金ゲージには数字も目盛りもない。

 ラスボス決戦のパターン、よくあるやつだ。

 赤ゲージを全壊させて、金ゲージはようやく1/3に減じ、再び赤ゲージが満杯になり、こちらも再び立ち向かって赤ゲージを削っていく。そういうことを三度繰り返さなければならんという鬼仕様!

 おそらく、曹操のHPは300万は超えるだろう。

 エイ! トォー! セイ! オリャー! 

 視界の端に猪八戒と沙悟浄の姿、敵わぬまでも健気に打ちかかっては遠ざかり、遠ざかっては打ちかかり……しかし、その効果は俺と同じ一桁、たまに10のヒットポイントでしかない。

 ドッゴーーン!!

 脇をすり抜け上空へ飛ぼうとした俺をぶち殺そうと、巨大な右腕が手刀となって擦り上げられ、内庭の城壁と楼門が一度に破壊される!

「止せ、猪八戒!」

 猪八戒の市が力任せに石垣の巨石を持ち上げる! しかし、こちらも動きが遅く、気づいた曹操が蹴りを食らわせようと腰を捻る!

 ブブーン!! ドゲシ!!

 八戒を載せたまま東の城壁の半分が吹き飛ぶ!

 ウワアアアアア! キャアアアアアア!

 東に逃げた避難民や町の者たちが悲鳴を上げる。もし、悲鳴に僅かなりと攻撃力が籠っていたら、僅かばかりでも大魔神のHPを削れただろうが、民衆の声や悲鳴に力があった例は三国志にも信長公記にもゲームの中にさえ無い。

 孔明はいち早く蠅タタキを振るい、心得た関羽と張飛が民衆を左右に逃がす。この危機においても孔明の避難指導に抜かりはない。

 ビョオオオオオオ!

 芭蕉扇を食らわせる沙悟浄! 

 烈風は北の宮殿と城壁を吹き飛ばす! 

 だが、曹操は冠を飛ばされ、髷が崩れただけで、かえって大魔神の禍々しさを際立たせてしまった!

――信長、これを使え!――

 三蔵が一言主の地声で秘密兵器を送って来る!

「これは!?」

――琥珀浄瓶 (こはくじょうへい)じゃ、名前を呼んで返事をすれば、どんなものでも吸い込んで融かしてしまう秘密兵器じゃ――

「こんなもの、どこで?」

――牛魔王の倉庫じゃ、自分の水筒と間違えて持ってきてしまった。ぶっそうだから水筒としてしか使うとらんかった――

 よし、これさえあれば。

 しかし、どうだろう。魔人になってからの曹操は言葉を喋っていないが?

 ええい、魔人の吼え声でも返事に違いはなかろう! 

 当たって砕けろ!

――八戒、沙悟浄、やつの注意を引け、ウキ!――

「「おお!」」

 俺の思念に応えて、八戒と沙悟浄が前から打ちかかる!

「曹操おおおおおおおおお!!」

 背後から筋斗雲ごと急降下して、奴の名前を呼ぶ!

 むろん琥珀浄瓶の口は寛げている。

「グオオオ!!」

 雄たけびを上げながら振り向く曹操!

 至近に迫る曹操の大口! 効き目が無ければ、俺は筋斗雲ごと呑み込まれてしまい、奴のウンコになり果てるだろう!

 南無三!

 ズボ!!

 掃除機が異物を吸い込むような音がして、振り返ると奴の姿は無かった。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
   
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)068・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・6

2024-06-22 07:14:21 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
068・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・6                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 知らへんかった(;'∀')。


 カリフォルニアは大阪府の姉妹都市で、サンフランシスコは大阪市の姉妹都市……やった!

 大阪市は例の等身大のお人形さんの問題で、先年姉妹都市を解消しているので過去形なんや。

 それでも、日本や大阪へのシンパシーは強いみたい。

 普通のアメリカ人なら知らへんでも不思議やない。

 普通の日本人でも大阪府民でも大阪市民でも知らなくても当たり前。

 一般市民やったら姉妹都市なんか、ふだん意識せえへんしね。

 そやけど、三年も交換留学生で府立高校に通っているわたし、ミリー・オーエンが知らへんかったのは面目次第もあれへんのよ。ちょっとだけでも、友好の手助けになったらええのにと思う。

 千歳と須磨先輩は爆睡中。啓介はリアルメイドさんにあてられて口を半開きにしとおる。

 あたしは、シスコに来てからのことが頭に浮かんでる。

 チャイナタウンでたらふく中華料理を食べて、おまけに隣の席に生徒会の瀬戸内美晴が居るというハプニング。

 で、その前には、ホテルまで車いす押して不安な気持ちで坂道をエッチラオッチラ。
 途中でグリーンエンジェルスのアンチャンに助けてもろたけど――こいつら大丈夫?――って神経使った。

 まあ、爆睡こいても店の雰囲気にあてられても無理はない。


 わたしはホテルに帰ってからスマホでググりまくった。 

 これや!

 ググること30分でヒットした!

 ♡カセイドール♡

 フィッシャーマンズワーフ南のSアベニューにピカピカのロゴマークが初々しい(^▽^)。

 お帰りなさいませぇ~旦那様ぁ~お嬢様ぁ~!(大阪弁のアクセント)

 ガチオタなら震えが来るほどの萌えボイスの合唱! それも大阪訛!

 メイド喫茶には一度も踏み込んだことのないあたしらでも、大阪弁アクセントの出迎えを受けるとグッとくるものがある。

 見渡すとメイドさんたちは日本人のようで、よく見ると奥の方にアメリカ人らしいメイドさんたちも控えている。

 カセイドールは日本橋(にっぽんばし)で老舗のメイド喫茶。姉妹都市のよしみ(公には解消されてるけど、民間レベルでの関係はええ)で、この夏にオープンしたところ。

 サンフランシスコは西海岸では知る人ぞ知るアニオタのメッカ……らしい。

 アニメやオタクのフェスなども頻繁に行われてて、ネットで発見したレイヤーさんたちも気合いが入っていてファイナルファンタジーとかのコスプレは「CGちゃうんか!?」と見紛うばかり。
 東京の夏コミとかのコスプレも本場とあって気合いは入っているけど、やっぱりアップで撮ったりするとアメリカ人の方がイケてると思う。ゲーム画面を見てもキャラは外人っぽいもんね。

 物珍し気にあちこち見ていると大型モニターにシスコで行われたコスプレフェスの動画が流れている。

「やっぱ、脚の長さと顔の造作だよね……」

 須磨先輩も目ぇ覚ましてしみじみと感想を述べる。

「おお、リアルグローバルクラブ!」

 啓介はあいかわらず。

 注:グローバルクラブとは啓介が部室のパソコンでやってる育成系エロゲ

「でもね……心映えだとも思いますよ」

 千歳が付け加える。

「心映え?」

「はい、あのティファとかユウナとか、パッと見には『なに考えてんだろー』ってくらいにおデブさんですけど、なんか『心から楽しんでます!』って感じで愉快じゃないですか(^▽^)」

「なるほどな、ああいうのって照れられると見てるほうが恥ずかしくなるもんな」

「アメリカ人て、こういうノリ大好きだから合ってるかもしれないわね」

 日本よりはゆったりした四人掛けの席でオタク文化についてのディスカッションになってきた。

 ディスカッションできるということは、なかなかオーダーをとりに来てくれないということでもある。

 カセイドールはけっこうな大きさで、厨房で突き当りかと思われた横の方にも人の出入りがあって昨日いった中華レストランよりも広い。どうやら大きなL字型のフロアになってて、席数は100超えてるかもしれへん。
 
「カセイドールは稼いどーる!(^〇^;)」

 啓介が下手なギャグを思いついたころで、メイドさんが二人やってきた。

「オーダーヲオネガイイタシマスネ、オジョ-サマ」

 ネイティブのメイドさんで、ミテクレはバッチリなんだけど、カタコトなので萌え損ねる。

 オーダーを伝えると「ショショオマチクダサイ」とお辞儀して去っていくけど、やっぱ外人さんのお辞儀。

「メイドいうのは欧米文化かと思てたけど、日本のんは日本風やってんなあ」

 啓介が感心すると、須磨先輩が口を開く。

「ミリーやってみてよ」

「まかしときぃ!」

 いつもやったら絶対やらへんねんけど、さっきコスプレ談義したせいか調子づいてしまった。

「ご注文をお願いいたします、お嬢様……」

 オーダーを承って、きれいにお辞儀する。

「さっすがミリー、板についてる!」

 やんややんやの喝さい……なんと周囲のお客さんや控えのメイドさんたちからも沸き上がる。

 でもって、オーダーしたあれこれがやってきた時、メイド長さんがやってきた。

「お嬢様、よろしければ体験メイド……いえ、お手本メイドをやっていただけませんでしょうか?」

「え、えーーーー!?」


 調子をこいたわたしは、にわかメイドさんをやる羽目になってしまった(^_^;)。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
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