大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・159『海の中の木漏れ日』

2023-04-30 15:42:10 | 小説4

・159

『海の中の木漏れ日』ニッパチ 

 

 

 潜水モードにした機動車は深度20メートルで西に流されている。

 

「36時間は、このペースですが御辛抱ください」

「いいえ、こんなにゆったりとするのは久しぶりだから……それに、贅沢にも柔らかな木漏れ日も付いていますし」

「木漏れ日……ああ、これですね」

 ヨイチさんと見上げた海面には数万個の軽石が浮かんでいて、そこを透過した日光がまるで木漏れ日のよう。

 敵に探知されないように、機動車は動力を切って黒潮反流という海流にのって潜行している。

 時速0・5ノットほどだけども、流れは確実。この海流に乗っていく。時おりの小噴火で噴き上げられた軽石が南西諸島方面に流され、沖縄などで建材や装飾品の材料にされている。ヨイチさんは、その黒潮反流に機動車を潜らせ、ラダーを操作するだけで深度と進路を固定している。

「西之島は火山島だから緑が少ないでしょ、木漏れ日なんてショッピングモールのアプローチぐらいですから、とても和みます」

「ニッパチさんは西之島を出るのは初めてなんですね」

「はい、元々は本土で使われていたんですけど、単なる多用途作業機械でしたから記憶がありません」

「ロボットの登録はなさらないんですね?」

「ええ、島を出るつもりはありませんでしたから」

「技研に着いたら発行してもらいます」

「あ、それは……」

「むろんフェイクです。街を歩いたり交通機関を利用できる程度の」

「あ、それなら嬉しいです。胸のオペが終わったら基本的には用事がありませんから、お散歩できると嬉しいです」

「まあ、技研の周囲と江ノ島ぐらいですが」

「十分です」

「そうだ、このタブレットに観光案内が入っています。一昔前の10ペタモデルでおもちゃみたいなのですが」

「ありがとうございます! こういうのはオフラインがいいですね。ウィルスとか枝が付く心配とかありませんから」

「おお、少し流れが早くなってきました、1ノットあります。これなら20時間ほどで海面に出られます」

「わたしは、軽石の木漏れ日でもいいですよ」

「状況の許す限り可及的速やかに参ります」

「フフ、なんだか軍人さんみたい」

「アハハ、予備役ですが、陸軍准尉でありますから」

「あ、そうでしたそうでした。マイさん……元帥とは満州戦争からごいっしょなんですよね?」

「はい、興隆鎮以来副官を拝命しておりました」

「今は記念館の……」

「はい、管理人をやっております。あ、本土では元帥はお亡くなりになったことになっておりますので」

「承知して……ガガ ガ ピー……あら、ノイズ……が」

「ガガ……ケーブル直結……ピー……ですから」

「ですね、浮上でき……になったら、普通に……話せま……」

「そうしま……う」

 

 プチ

 

 ハンベに繋いだケーブルを抜くと、わたしもヨイチさんもダンマリになって、浮上の時を待った。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  •  

 

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RE・かの世界この世界:083『ポチの力』

2023-04-30 07:13:09 | 時かける少女

RE・

83『ポチの力』テル 

 

 

 変身にも驚いたが、玄武を一撃で撃退した力には、もっと驚いた!

 ポチはすごい力を身に着けて戻ってきたのだ!

 

「どうして、あんな力が身についたんだ?」

「あ、あたし……なにかやったの?」

 墜落のショックか、ポチ自身には自覚がない。しかし、言葉は人間のようにしっかりしてきてみんな感動した。

「「「おお(*_*)」」」

「ポ、ポチイイイイイ!」

「く、くゆしい……(。>ㅿ<。)!」

 ロキが、さっきよりも強く抱きしめるので手足をばたつかせる。それが、また可愛いので笑ってしまう。

「ちょっと離してやれ」

 タングリスに言われて、ロキはポチを肩の上に座らせてやる。必死でロキの首にしがみ付くのが可愛くて、みんな目をへの字にしてしまう。

「ポチの話を聞こう」

「えと……でも、こっちは何があったの?」

「そうだ、タングねえちゃん、おいらたちの話もしてやらなきゃ」

「実はな…………」

「ファウ(*_*;!」

 説明してやると、真っ青になってロキのシャツの中に逃げ込んでしまうポチ。

「そ、そんなこがあって、そんなことしたの!?」

 シャツの中をゴソゴソ動き回り「や、やめろ、くすぐったい(≧∇≦)!」と嫌がっているのか嬉しがっているのか分からないロキの襟首から顔を出した。

「思い出したよ! お空の上にぶっ飛んだら、シリンダーの群れの中に突っ込んで、そいつらが話しかけてくるんだよ! シリンダーが、それも大勢が喋るんで、気持ち悪くてビックリした!」

 自分自身がシリンダーであることを忘れ、顔を赤くして冒険のあれこれを喋りまくる。

「山の向こうには四号のみんなが居るし、早く知らせなきゃと思って急降下して地面にぶつかりそうになって、山の木や草に掴まりながらスピードを落として……気がついたら、手や足みたいなのが出てきて、それでも、うまく停まらなくて、あちこちぶつかってビュンビュン飛んでるうちに、みんなのところに出てきてしまったの」

「それで、ヨタついていたんだな」

「そしたら、みんなが亀の化け物みたいなのにやられそうになっていて、それで、突っ込んだら……やっつけられたんでビックリした!」

「しかし、あの力はすごかったぞ!」

「フフ、あれは無意識のうちに我が闇の力をチャージしてやっていたのだ、ポチはすでに我がリトルデーモンなるぞ」

「あ、それはない」

「ポチ、試しに、あの木をへし折ってみろ」

「ラジャー!」

 タングリスが示した木を見るや、一瞬のタメで突っ込んでいった。

 セイ!  ゴッチン!

「アイターーーー!」

 大きなタンコブを作っただけで、ヨタヨタとかえってくる。笑える状況なのだが、だれも笑わない。ロキなどは、ポチを抱え上げて、涙を流している。

「ポチ、おまえは、あの図体のでかい玄武の鼻先目がけて突っ込んでいったんだぞ」

「ただの成り行きか?」

「あ……えと……攻めるんだったら、あそこだなあって……思ったのかも……よく分かんない」

「ひょっとして……ポチにはアナライズの力があるんじゃないかな?」

「でも、今の木はヒビも入らなかったし」

「ひょっとしたら……ここ一番という時にしか目覚めない力なのかもな」

「よし、我が魔力によって、力を定着してやろう」

「いいから、行くぞ」

 ポコン

「あいた! ブツことないだろ! タングリス、なんか言ってやれよ」

「見ておりませんでした」

「プン、では出発するぞ!」

 履帯の修理の終わった四号に乗り組み、タングリスがイグニッションキーを回した。

 

 ブルン ブロロロローーー

 

 後ろのエグゾーストから黒い煙が噴き上がり、ブルンと四号が身震いする。

 機嫌のいいポチは、言われなくてもスパナを抱えて見張りの任務に戻る。

 カンカンカンカン!

「どうした!?」

「ストップストップ! 町長さんが! 町長さんが……!」

 ガックン

 動き出したばかりの四号はつんのめるようにして停車した。

 

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:5000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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くノ一その一今のうち・53『キネマ橋』

2023-04-29 15:06:18 | 小説3

くノ一その一今のうち

53『キネマ橋』 

 

 

「土井さんですか?」

「里中満智子さん?」

「いいえ、中村その子です」

 

 猫に言われた通りにやり取りすると、助手席のドアが開けられた。

 

 大工さんとか職人さんとかが着ている薄緑系の作業着、胸元には土井造園のロゴ……植木屋さんなんだろうけど肌が白い。

「隠居した植木屋です。楽隠居だから日焼けも抜けてしまいましてね……お袋は新地で芸者をやってたんで、地は色白でして、今でいうデフォルトってやつです。まあ、すぐにお屋敷に着きます」

「お屋敷?」

「聞いていませんか、キネマ屋敷ですよ」

「キネマ屋敷……ですか?」

「はい、日本を代表する映画人杵間さまのお屋敷」

「映画?」

「はい。まあ、じきに着きますから。年寄の下手な説明よりもご自分の目で確かめてください」

「あ、はい」

 川を渡ると四車線の一本道、標識には内環状線と書いてあるから幹線道路なんだろう。

 幹線道路だから、そんなに信号は多くない……んだけど、ほとんどの信号に引っかかる。

「ごめんなさいね、あちこちにご挨拶があるもんで」

 なるほど……忍びの者か妖の類かの視線を感じる。

「交差点ですからね、信号に注意してるふりして観察してるんです。大丈夫です、立ち向かってくるようなことはありませんから」

 神田の古書店街でも似たような気配に遭った(6『百地芸能事務所・1』)けど、あの時の剣呑さは無い。土井さんも大丈夫って言ってることだし、気にしないでおこう。

 それから近鉄線が見えたところで曲がって、しばらくいくと神田川を1/4にしたぐらいの川に出くわし、そのまま川辺の道に入った。

「雰囲気のいい川ですね」

「長瀬川です。きれいな小川ですが、昔の大和川の名残です」

 関西の川なんて知らないっていうか分からないんだけど、大和川って名前が由々し気だ。

 大和は国のまほろばとか国語で習ったような気がするし、宇宙戦艦ヤマトとかあるしね。

 川には小さな橋がいくつも掛かって川の両側を繋いでいるので、川が街を隔てているという感じがしない。

「この先に見えてきますのが樟徳館という屋敷です」

「ああ、あれが」

 広壮な日本建築のお屋敷が見えてきた。

「昭和三年から五年まで、ここに『東洋のハリウッド』と呼ばれた大きな撮影所がありました。火事で焼けてしまった跡に建てられたのが、あのお屋敷です。いろんな想いが凝っていましてね、ちょっとした次元の狭間みたいなものができてしまって、そこが、鈴木様のお役に立つというわけなんです」

「はあ……」

「もうしわけありません、ついフライングした物言いをしてしまいました。あそこに橋が見えますでしょ」

「えと……あのお屋敷の角のですか?」

「いえ、あれは『帝キネ橋』と申しまして別の橋です、その手前、ちょうど樟徳館の正面の方です」

 土井さんは、アクセルをゆっくり踏み、ハンドルも微妙に回す。

 なぜか、カメラのピントを合わせているような気がした。

「あ、見えました!」

「よかった、さすがは風魔流御宗家を継がれただけのことはあります。あの橋をお渡りください、お屋敷ではない景色が見えてくるはずです。そこが、その一さんの活動拠点になります」

「はい」

 ギッ

 土井さんがサイドブレーキを入れて、二人で軽トラを降りる。

「それでは、わたしはここまでです。ご健闘を祈ります」

「はい、ありがとうござ……」

 振り返ると、土井さんも軽トラックも消えてしまっていた。

 

「さて……」

 

 小さく深呼吸して橋に足を掛ける。

「あ、え……?」

 お屋敷に、もうひとつ別の景色が滲みだすようにして重なり、さらに足を踏み出すとお屋敷は消えて別の景色だけになった。

 

 黒っぽい塀が左右に延びて、わたしが立っているそこだけ、門が八の字に開かれ、門の上には虹のような看板が渡って『帝國キネマ撮影所』のデザイン文字が煌めいていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下

 

 

 

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RE・かの世界この世界:082『そいつの正体』

2023-04-29 06:58:24 | 時かける少女

RE・

82『そいつの正体』テル 

 

 

 誰だおまえは!?

 
 みんな警戒した。

 四人が手こずった玄武を一撃で戦闘不能にさせたのだ、それも十センチちょっとの身の丈で。

 いや、ほんとうにこいつがやったのか? 

 棚の裏側から十年ぶりに出てきたフィギュアみたいに薄汚れて精彩がない。魔法少女のようなナリはしているが、作り込みが甘く、千円の福袋の埋め草にでも入っていそうで、薄情なユーザーなら即捨ててしまいそうなやつだ。

 アーーーーーー

 なんとか口を開いたかと思うと、電池が切れたように白目をむいて真っ逆さまに墜ちていく。

 あ、待てーーーーー!

 ヒルデを先頭に落下するそいつを追いかけた。

 

 追いかけたわたしたちよりも、四号の上で見上げていたロキの方が早かった。

 地上に到達する数秒前には気づいて、砲塔の上で脱いだシャツを広げて待ち構え、落下地点を見定めるとジャンプしてシャツで包み込むようにしてキャッチした。

 ムヘン川でカエルを投げつけられたときから思っていたが、ロキは運動神経がいい。

「取ったあああ!」

 乱暴な言い回しの割には、やさしく保護していた。

 

「なんなんだ、そいつは?」

 

 ヒルデの問いかけにも、しばらく無言のロキ。

「………………」

 やがて、そいつの顔だけをシャツから出して、ロキがしみじみ言った。

「こいつ……ポチだよ」

「「「ええ!?」」」

「温もりってか、オーラで分かる、理由は分からないけど……ポチが変身したんだ」

 履帯の修理に掛かっていたタングリスもやってきて、そいつ、ポチを介抱した。

 シャツから出したポチは、疲れ果てて眠っているようだ。

 空中で見かけた時よりも、デテールがはっきりしてきて、1/12サイズではあるが、はっきりした女の子の形をしている。

「おまえは、ちょっとあっちに行ってろ」

 顔を赤くしているロキを遠ざける。

「受注生産の限定フィギュアくらいになってきたぞ」

 頬に赤みがさして、小さいなりに体のメリハリもハッキリしてきた。閉じた目には1/12にしては長いまつ毛がそよいでいて、ザンバラな髪の毛も手櫛で整えてやると、なんとも可愛い。

「これは服を着せてやらないと……」

 シリンダーであったころの名残が、なんとも言い難く。このままではロキに見せられない。

 

 ポチの服を作ってやる者と履帯の修理をする者に分かれて作業に掛かる。

 

「おまえは、履帯の修理な」

 ロキの首を抱えて、わたしは履帯の修理組に入る。ヒルデとケイトがポチの衣装係りだ。

 タングリスが重い履帯を起動輪の手前まで引っ張り出してくれていたので、作業ははかどった。

 十分ほどで履帯の修理が終わる。

「まだだ」

 ポチが気になって仕方がないロキを呼び止める。

「履帯のテンションを調整する。あと、ついでに整備もな」

 タップリ一時間を整備にあてて、ようやく終了。

「もういいだろう?」

「まだだ、町長さんをきれいにしてあげろ」

 砲塔に括り付けられている町長をきれいにしてやって、ようやくポチの衣装が出来あがった。

「ポ、ポチ……」

「ロ、ロキーー!」

 ポチはベッチョリとロキの顔に貼りついて再会の喜びを爆発させた。

 不可抗力ではあるが、ポチはロキの鼻と口を塞いでしまったので、あやうく主人を窒息させるところであった(^_^;)。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:5000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っているシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・022『ビートルズと資本論』

2023-04-28 17:32:39 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

022『ビートルズと資本論』   

 

 

 お昼をお弁当で済ませ、教室でビートルズを聴いている。

 

 この連休、みんなで出かける約束をした。

 行先は未定なんだけど、レコード屋さんに寄ることだけは確定。

 あれから、石垣に上の五人でビートルズのことが話題になった。

 みんなズブズブのファンというわけじゃないんだけど、分裂したこともあって話題になってる。

 で、話題の端々にビートルズと、その曲で盛り上がるもんだからね。

 

 じつは、昨日も中庭の端っこで聴こうと思ったんだけど、昼休の中庭って誘惑が多い。

 春の花が満開だし日差しはいいし、友だちは話しかけてくるし。けっきょくはビートルズの事なんか飛んでしまって、日向ぼっこしてお仕舞になる。

 それで、今日はお弁当が済むと、すぐにスマホのスイッチを入れた。耳には髪で隠したコードレスの骨伝導イヤホン。

 ビートルズっていうとイマジンをやっと思いついただけなんだけど、70年は、まだイマジンはリリースされてない。

 

 イエロー・サブマリンのあとにヘルプのイントロに入ったところで声がかかった。

 

 最初は他人のことだと思った。

 だって「親方ぁ、席あけてくれませんかぁ?」だったから。

「自分の席なんですけど、親方ぁ」

「え、わたし?」

 言ってから気づいた。窓際は人が多いんで、廊下側の適当な席に座って聴いていたんだ。

 それが、十円男の加藤高明の席だったわけで、目の前に立ってるのが、その加藤高明。

「あ、ごめん」

 おとなしく席を立つけど、ひとこと言う。

「でも、どうして親方?」

 留年生に親方と言われて、ちょっとひっかかった。

「え、時津風親方っているだろ?」

「う……ん?」

「相撲部屋だよ時津風部屋」

「トキツカサ」

「ん?」

「わたし、時司」

「あ、そうだっけ、失敬失敬」

 失敬失敬って、令和はむろん70年のこっち来ても聞いたことない。

 要はオチョクラレてる。

 絡むのも絡まれるのもいやだ……といって、自分の席は横田さんが友だちと楽しそうにガールズトークの真っ最中だから遠慮しておく。

 

「加藤君て、このクラスだよね?」

 

 二年の学年章付けたのが話しかけてくる。第一ボタンまで外して赤シャツの襟が覗いてる。髪は肩まで伸びてるし、一見して嫌なやつなんだけど、二年生だから、きちんと「はい、加藤高明くんならうちです。いますよ……」

 入り口出てすぐのところだから、呼んであげようとしたら、赤シャツが止める。

「あ、だったら、ごめん、この本返しといてくれるかな。じゃね、ありがとう」

「あ、ちょ!」

 聞こえてるはずなのに、赤シャツは逃げるように行ってしまった。

 もう…………押し付けられた本は二冊。

『資本論』と『共産党宣言』だよ(^▲^;)。

「フン、気の小さい奴だ」

「もう、分かってるんだったら自分で受け取ってよ!」

 すぐ後ろに来ていた加藤高明にビックリしたけど、おくびにも出さずにピシッと言う。

「失敬、あいつ、俺の顔見たとたんに親方に押し付けるんだもんな。失敬極まる」

 失敬はお前だ!

 

 キンコンカンコーン……キンコンカンコーン……

 

 思ったとたんに昼休終了のチャイム、全てをご破算にするような響きに気持ちも萎えて、出たばかりの教室に戻った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明             留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 妹尾先生:グラマー
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

 

 

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RE・かの世界この世界:081『遭遇戦・2』

2023-04-28 07:31:34 | 時かける少女

RE・

81『遭遇戦・2』テル 

 

 

 

 HPが満タンになった!

 

 アーチャー(弓兵)としてはイマイチのケイトだが、今の白魔法は上出来だ! あとで褒めてやろう!

 こっちも負けていられない!

 オリャアアアア…………あ?

 トールソードを振り上げ反撃しようとすると、雲に擬態した融合体は霧消した。

 

 ヒルデのツインテール攻撃が効いたのだろうか……いや、違う!

 霧のように飛び散ったシリンダーは、四か所で再び融合し始め、それぞれ特徴を持ったメスシリンダーに化けた!

 北のそれは玄武(頭はドラゴン尻尾は蛇の巨大な亀)に、南のそれは朱雀(巨大な火の鳥)に、西のは白虎(巨大な白い虎)に、東は青龍(巨大な青い竜)に擬態した。

 メスシリンダーは、ただ巨大なシリンダーであるだけだったが、より具体的な姿を持ち始めている。

 こいつらも進化しているのか!?

 ―― 殿下! ――

 四号に目を向けると、タングリスが操縦席のハッチから身を乗り出してヒルデを見上げている。

 ヒルデは、体を大の字にして敵のど真ん中の空間でゆっくり旋回している。

 ただの旋回ではない、目は血走った白目になって、全身が輝き、火花や稲光を放っている。

 タングリスは四号をオートにしてヒルデのサポートに回りたい様子だが、石化した町長がいる。それに、この敵の攻撃を受けている状況では安易にオートにはできない。

 さらにヒルデの目が険しくなって、全身が目を向けていられないほどに輝きだした!

 主神オーディンの娘なのだ、守り役のタングリスが不安に思うほどの力を秘めているのだろう。

 その力が制御されることなく放たれては、どんな効果、どんな影響があるか分からないんだ。

 

 分かっておるわあああああああああああああ(#>д<)!!

 

「白虎はテル! 朱雀はケイト! 青龍は我が! 玄武は四号が砲撃! 無理はするな、敵わぬと思ったら擬態していないメスシリンダーから片づけるのだ。かかれ!!」

 ヒルデは、暴発寸前で理性を取り戻した!

 ラジャー! 了解! 承知! 承りぃ!

 それぞれ四方に飛んで、指示されたメスシリンダーに挑みかかった。

 ボン!

 玄武の腹の甲羅で爆炎が上がる、四号の75ミリ徹甲弾が炸裂したのだ。その効果のほどを確認する間もなく白虎にソードを振り上げる。ケイトとヒルデのアタックもほとばしる。よし、いい連携だ!

 ブン!

 白虎の真っ向に振り下ろしたソードはむなしく空を切った。避けられたか!?

 いや、白虎は3D映像のように実態が無いのだ!

 フェイクだ!

 振り返ると、ケイトのアローもヒルデのツインテールも虚しく突き抜けたり空を切ったりするだけだ。

 
 実体があるのは玄武一つだけだ!

 
 その玄武は四号の75ミリが命中して爆炎を上げている!

 目を転じると、玄武がタメの姿勢で地上の四号を狙い始めたところだ。

「四号がやられる!」

 四号はドイツ兵の馬と言われたほど信頼性のある戦車だが、あの玄武に突っ込まれてはペシャンコになってしまうだろう。タングリス一人ならば、激突される寸前に脱出もできるだろうが、子どものロキと石化したミュンツァー町長がいるのだ。ぜったい助からない!

「玄武を止めろおおおおおお!!」

 ヒルデの叫びでわたしもケイトも突っ込んだ。

「カイナティックアロオオオオ!」

 ビュン!

 チュイン!

 渾身の力で放たれたケイトの矢は玄武の表面を掠っただけで弾き飛ばされる。

「喰らえ! ツイントルネードオオオオ!」

 ヒルデのツインテールは玄武との摩擦で先っぽが燃えている! すかさずケイトが矢を放って松明になりかけの先っぽを吹っ飛ばした!

 セイッ!!

 玄武の中心をわざと外して渾身の突きを入れる!

 ガキーーーーーーーーーン!!

 はじき返されるのは織り込み済みだ、衝撃で玄武の進路がわずかにズレた。

 ドッゴーーーーーーーーーン!!

 四号をわずかに外れて玄武は山肌に激突、木々や土砂をまき散らす。直後、飛翔しなおし、我々から数百メートル離れた上空まで上がると嘲弄するようにゆるゆると弧を描き再び四号への突入姿勢に入る。

「「「させるかああああああ!!」」」

 三人同時に声をあげ、玄武の進路を塞ぎにかかる。

 そう、悔しいが、進路を変えさせるのが関の山なのだ(-_-;)。

 タングリスの操縦も見事で、妨害が不発に終わった後もきわどくドリフトさせて躱している。

 
 しかし、もう限界だ(;゜Д゜)。

 
 ヒルデのツインテールはザンバラのショートヘアーになってしまい、ケイトの弓は弦が切れ、わたしのソードも真ん中でへし折れてしまった。

 ガピーン!

 まずい!

 おまけに四号の履帯が切れてしまった。

 四号は残った片方の履帯を動かしてグルグル回るだけだ。

 町長には申し訳ないが、ロキとタングリスだけでも逃げてくれ!

 そう念じた時、我々の鼻先を掠めて玄武に向かっていくものがあった。

 
 ズピーーーーーン!

 
 そいつは玄武の正面を掠めて、目にもとまらぬスピードで見えなくなってしまう。

 直後、玄武の速度が落ちて、酔っぱらいのようにふらついたかと思うと、上下逆さまになって静止した。

 なんと、玄武の鼻先が欠けて、尻尾の蛇が傷口を舐めている。

 効果があったのかなかったのか、玄武はしかめっ面をしたかと思うと、猛烈なスピードで南に逃げだした。

 ピューーーー!

 呆然と見送っていると、気配がした。

 あれは?

 振り返ると、1/12フィギュアみたいな妖精がヨタヨタと飛んでくるところだった……。

 

 

☆ ステータス

 HP:8000 MP:4000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1200ギル(リポ払い残高34600ギル)
 装備:剣士の装備レベル20(トールソード) 弓兵の装備レベル20(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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鳴かぬなら 信長転生記 120『浦島太郎の言い訳・2』

2023-04-27 16:26:43 | ノベル2

ら 信長転生記

120『浦島太郎の言い訳・2信長 

 

 

『鬼ヶ島に行くには舟がいるでしょ』『そうじゃそうじゃ』

 あっちゃんが当たり前のことを言って、思金神(おもいかね)が相槌を打つ。

 

「舟なら、子どもの頃から漕いでいるぞ」

『それは、尾張のお百姓の子どもたちとでしょ』

『用水路やため池で舟を漕ぐのとはわけが違うぞ』

『鬼ヶ島は、沖の向こうだし、沖に出たら陸地が見えないから方角も分からなくなるわ』

『さいわい、こやつは信長のことを乙姫と勘違いしておる』

『乙姫で押し通して鬼ヶ島に案内させなさい』

「なるほど、分かった。ついでに、こやつの性根も叩き直してやろう」

『あ、余計なことは……』

 うるさい! と思ったら再び時間が動き出した。

 

 俺は腰に手を当て、サルを叱る時のように吠えた。

 

「浦島太郎、乙姫は、これから鬼ヶ島の鬼退治に参るのだ!」

「お、鬼退治!?」

「鬼どもは、陸(おか)の村々を襲うだけでは飽き足らず、わが竜宮城にも狙いをつけてまいった。捨ておいては、陸も海も鬼どものいいようにされてしまう。よって、この乙姫自ら鬼退治に向かう。供をせよ」

「無理だよ、亀の背中は一人乗り。二人は無理だ、まして乙ちゃん武装して重いしかさばるし」

「だれが亀に乗って行くと申した!」

 そう叱りながら、浦島太郎の方がもっともと思える。亀の背中はおろか、この浜辺の舟で外洋に出るのは無理だ。

 と思ったら、市がゆるゆるのイージーモードでやるゲームのように玉手箱が光り出した。

「こういう時のために玉手箱を持たせたのだ。それを開けてみよ」

「でも、これは『何があっても開けてはなりません』て乙ちゃん……」

「その乙姫自身が言っているのだ!」

「でもでも、こういうのって、開けたり覗いたりしたらろくなことにならないって……そうだよ『鶴の恩返し』とか『黄泉の国に行ったイザナギ』とか、約束破って大変な目に遭うんじゃないか!」

「バカか!」

「乙ちゃん、怖いよ(;'∀')」

「『鶴の恩返し』も『黄泉の国のイザナギ』も、あそこで、開けるか覗くかしないと話が進まんだろ!」

「え、そいう理屈?」

「聞け!『鶴の恩返し』で男が覗かなかったら、鶴は男を喜ばせるために何度も何度も羽で布を織って衰弱死するぞ。そんな昔話を読む奴はおらん。読者の付かない物語なんて、投稿しても読んでもらえない小説と同じだ。モチベーション保てずに作者ごと消滅してしまうぞ! イザナギも、あそこで覗いてイザナミに追いかけられなければ、けっきょく天照大神も素戔嗚も生まれてこずに、日本の国は始まらないまま終わってしまうんだぞ! 物語は試練を経てアウフヘーベンされることで永遠になるんだ!」

「そ、そうなの?」

「そうだよ、浦島太郎。そういうことを、アイデンテティーのアウフヘーベンを知ってもらいたいために、この乙姫は玉手箱を渡したんだよ」

「わ、分かった。なんか、今の乙ちゃん立候補したら都知事くらい当選しそう」

 都知事だと……俺の望みはそんなに安くはないぞ……て、なにを言ってるんだ。

「分かったら、さっさと開けろ」

「うん」

 

 浦島太郎は額に汗をにじませ、震える指で、ゆっくりと赤い塞紐を解いて、そして、今一度大きくため息をついて玉手箱の蓋を持ち上げた。

 時限爆弾の解除に似ていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

 

 

 

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RE・かの世界この世界:080『遭遇戦・1』

2023-04-27 06:44:48 | 時かける少女

RE・

80『遭遇戦・1』テル 

 

 

 ポチーーーーーーーーーーッ!!

 

 叫んでみたが、ポチの姿はすぐに小さくなって見えなくなってしまった。

「落ち着いたら帰って来るさ」

 ロキの頭をワシャワシャ撫でて慰めてやる。ケイトも「こんなこともあるさ」と、ロキに付き合って空を見上げている。

「ポチは我が使い魔でもある。必ず戻って来る」

 中二病全開だけど、ヒルデも慰めている。

 慰めながらも思った。ヴァィゼンハオスで初めて見た時は空飛ぶ桃くらいにしか思っていなかったのだが、だんだん反応が犬っぽく……どうかすると人間の子どものようになってきた。シリンダーというのは口もきけない原始生物なのだが、ポチは個体進化の可能性を秘めた特異体なのかもしれない。

 そして、ポチの騒ぎで、みんなの車酔いはきれいさっぱり治ってしまった。

 

 ピピピ ピピピ ピピピ

 

 Cアラームが鳴った。

 ポチポチと鳴ればポチが帰ってきたシグナルだが、ピピピはクリーチャーの接近を表している。

「……ロキは町長を護れ! 方位は東だ、四号を出て戦うぞ! タングリスは四号を頼む!」

 一瞬のタメがあって、ごく自然にヒルデが凛とした声で命じる。

 ラジャー!  おお!  了解!

 ヒルデを先頭にケイトと共に東に駆ける。

 峠を越えると一気に空が曇ってきた。

 いや、雲ではない……雲に擬態したシリンダーの群れと、その融合体だ!

「ケイト、矢で穴を開けろ!」

 空がシリンダーで蓋をされたように見える。どこかに穴を開けなければ攻撃のとっかかりも掴めない。

「承知!」

 キリリと弓を引き絞ると「カイナティックアロー!」と叫んで、炎の矢を放った。

 ケイトも経験値を積んで進化しているようだ。

 

 ズボン!

 

 矢は雲に吸い込まれたところで、くぐもった音をたてて炸裂し、畳六畳ほどの穴が開いた。

「今だ!」

 穴に向かって飛び上がる。イケる、ジャンプ力もスピードも伸びている!

 ソードを腰だめに構え、ジワジワと窄まる空の綻びに突っ込む。

 トアーーーーーーーーーー!

 勢いをつけソードを8の字に振り回して綻びを広げる。雲はシリンダーの融合体、ムクムクと回復させつつある。剣先に触れた融合体は綿あめのように溶け、溶けた融合体は霧のようになって体にまといつく。

 まずい、体がベトベトしている、ベトベトが続けば水あめが絡みつくように自由を奪われる!

 オリャーーーーーーーーー!

 身体を急速旋回させ、遠心力でベトベトを振りとばし、数秒後にはクリーチャーの雲の上に出た。

 

 ヒヒヒヒヒヒヒヒ ヒヒヒヒヒヒヒヒ ヒヒヒヒヒヒヒヒ ヒヒヒヒヒヒヒヒ

 

 妖精の笑い声のような飛翔音に目を向けると、今度はプレパラートの大群だ!

 一センチ四方のガラス片に似たクリーチャー。それが雲霞のように迫ってくる!

 一つ一つはしれているが、叩き落すか躱さないと体中を切り刻まれる!

 

 オリャーーーーーーーーー! トオオーーーーーーーーー! トワアアーーーーーーーーー!

 

 四方八方に旋回しながら叩き落とすがキリがない、十秒とたたないうちに切られ始めた。

 旋回していると、遠心力で傷口から血が噴き出してしまう。

 このままでは失血死してしまう!

 

 気が遠くなりかけた時、下方の雲が円形に盛り上がり、ズボッと穴が開いたかと思うとツインテールをヘリコプターのように振り回してヒルデが上昇してきた。

「我が命を待たずに飛び出してはならぬぞ」

 不敵に笑いながらプレパラートの群れを包み込むようにせん滅してくれる。

 それに応えて攻撃を強めたいが、いかんせん力が出ない。

 いかん、HPが赤く点滅するところまで減っている!

 

 ケアルラアアアアアアア~

 

 雲の下から白魔法の詠唱が聞こえてきて、みるみるうちにHPバーがブルーに変わって満タンになった。

 ケイトの白魔法もレベルが上がってきたようだ。

 

☆ ステータス

 HP:6000 MP:3000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:800ギル(リポ払い残高35000ギル)
 装備:剣士の装備レベル20(トールソード) 弓兵の装備レベル20(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士 日ごろは縮めてヒルデと呼ぶ
 タングリス       トール元帥の副官  ヒルデの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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せやさかい・403『王宮某重大事件・2・救急搬送』

2023-04-26 10:31:23 | ノベル

・403

『王宮某重大事件・2・救急搬送』ヨリコ   

 

 

 王宮の廊下をこんなに長く感じたのは初めて。

 

 ソフィーからの連絡を受けて、ケージと呼ばれる皇太子用の別棟から渡り廊下を通って母屋の宮殿に向かっている。

 王族の者は空襲や襲撃にでも合わない限り宮殿の中では走ってはいけない。

 だから到着まで五分もかかった(あとで確認したら一分ちょっとだったけど、その時は、それくらいに感じた)。

 

「お祖母ちゃん!」

 

 プライベートで二人っきりの時以外、王宮では「陛下」と呼ばなくちゃいけないんだけど、この時は「お祖母ちゃん」になってしまった。

 そして、イザベラさんやソフィー、それに王宮警備の衛士さんたちが介抱している女性に気付いて悲鳴が出るところだった。

 ソフィーのメッセージは――陛下が階段から転落なさいました、第二図書室下の階段です――というものだった。

 この時間は、お祖母ちゃんがお気に入りの詩(ことは)さんを連れまわしている時間。きっと話に夢中になって階段を踏み外した……と思っていた。

 

 想像は、半分当って半分外れていた。

 

 日本人的礼儀と謙譲の美徳を兼ね備えた詩さんは、お祖母ちゃんの二段下の階段を上がっていて、足を踏み外して転げ落ちてくるお祖母ちゃんを全身で庇ってくれていた。

「ヨリコ、大変なことをしてしまったわ( ´༎ຶㅂ༎ຶ`)」

 こんなに動揺してるお祖母ちゃんは初めて。

「陛下、殿下も来られました。あとはわたしどもにお任せになって、医務室へ!」

 イザベラさんが急き立てるけど、お祖母ちゃんは首を横に振る。

「トマス、お連れして!」

 きっぱり言うと、ベテラン衛士のトマス曹長が部下と共に担ぐようにしてお祖母ちゃんを連れて行った。

「詩さんも……」

 医務室へ運んでと言おうとしたら、ソフィーが耳もとで囁いた。

「脊髄損傷のおそれがあります、動かせません」

「ええ(⊙▃⊙)!!?」

 

 その直後、王宮医師のフレデリック博士が駆けつけ、ソフィーの見立てが正しいことを証明した。

 

 詩さんは、フレデリック博士の指示によってドクターヘリに載せられて、三十分後には王立病院で緊急手術の運びとなった。

「車を出して! わたしも病院に行くから!」

 いっしょにヘリに乗ると言ったら「前例がない」と止められ、次善の策で車で急ぐことにした。

 ソフィーが用意してくれたのは職員の自家用車。王室の車では法定速度を守らなくてはならないから。

 途中信号に引っかかってイライラするんじゃないかと思ったけど、不思議と信号に引っかかることが無い。

 信号を気にしていると、時おり妖精の標識が目に入る。

 子どもの頃から見慣れて気にも留めない交通標識だけど――お願い、力を貸して――と思う。

 五つ目の信号も、寸前で青に変わって――妖精が、神さまが味方してくださってる――と感謝の十字をきっているとイザベラさんからの電話。

『陛下は右手首を捻挫されただけで済みました。念のために、これから精密検査を受けていただきますが、フレデリック博士の御忠言もあって、陛下は一つの決断をなさいました』

「え、まさか王位を譲るって言うんじゃないでしょうね?」

 憲法で国王は死ぬまで国王。でも、お祖母ちゃんなら言い出しかねない。

「来月の戴冠式は、陛下の名代として殿下に出ていただきます」

 ちょっと混乱してから気づいた。

 来月の6日はイギリス国王の戴冠式だ。これは引き受けざるを得ない。

「分かったわ、謹んでお引き受けすると、お祖母ちゃ……陛下に申し上げて」

「畏まりました」

 電話を切ると、ちょっと胃のあたりが痛い。

 戴冠式……親類のお祝い事に、ちょこっと顔を出す……ようなもんじゃない。

 しきたりやマナーがいっぱいある。外国の王族や皇族とも挨拶やお話もね、そのためのレクチャーやら情報収集やらもね。

 それと、詩さんのこと……さくらや如来寺のみなさんにどう伝えたらいいんだろう……。

 心配と重圧……そして、詩さんにヤマセンブルグに来ていただくように、あれこれ企んだのはわたしだ。

 みんなに良かれと思って……でも、結局は世間知らず王女の我がままだったのか……。

「そんなことありませんよ」

 ルームミラーのソフィーがお姉ちゃんのような微笑みを返してくれる。

 そして、数えて七つ目の信号も寸前に青に変わって、ヘリに遅れること二十分で病院に着いた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

  

 

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RE・かの世界この世界:079『ポチの冒険・2』

2023-04-26 06:19:31 | 時かける少女

RE・

79『ポチの冒険・2』テル 

 

 

 上昇気流に乗って尾根を越え、勢いのまま雲を突き抜けるとシリンダーの群れが居た。

 
 ポチはシリンダーの幼生であるけど、ごく小さいころからロキたちヴァィゼンハオスの子たちと暮らしてきたので、大人のシリンダーを見ても親近感などは湧かない。

 ヤ、ヤバイところに出てきてしまった!

 とっさに思ったのは、このままUターンして尾根一つ戻ったところを上って来る四号に戻ることだ。

 しかし、軽い体を思いっきり強い上昇気流に吹き上げられているので容易には速度が落ちない。

 

 プニョ~ン プニョ~ン

 

 大人のシリンダーに二度ばかりぶつかって、やっと群れのど真ん中で停まった。

「おや、お母さんとはぐれてしまったのか?」

「保育所のお散歩の途中かい?」

「ここらじゃ見ない顔だね」

 人間とは違う言葉で話しかけられるが意味は分かる。どうやらポチを迷子かなんかと思っているようだ。

 人間の話を聞いたり、戦闘中なのを遠くからしか見たことがないのだけど、同じシリンダーなので分かってしまう。

「え……えと……えと……(;゚Д゚)」

 初めて間近に出会ったシリンダー、それも、何千何万もうじゃうじゃと囲まれて、とっさに言葉も出てこない。

 それに、尾根の向こうからは四号戦車のみんながやってくる。

 このままでは、こいつらに出くわしてしまう。みんなに知らせてやらなきゃ!

 そう思うと、ポチはクルンと方向転換して眼下の雲海にダイブした。

 

 早く知らせなきゃ!

 

 がむしゃらに雲海を突き抜けていると、弾力のある雲にぶつかってしまった。

 プニョ~~~~~~~~ン!

 弾き飛ばされながら横目で見ると、それは、雲に擬態したシリンダーの融合体だ!

 さっきの群れにも驚いたが、融合体からは猛烈な邪悪な思念が放射されていて、さっきの百倍も恐ろしい!

 

 ヒヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 人間の女の子のような悲鳴を上げて一気に十キロほども逃げてしまった。

―― フレアがフレイの背中にブリ虫を入れて、びっくりしたフレイがヴァィゼンハオス中に響き渡る悲鳴を上げた時のようだなあ ――

 逃げながらも、そんな呑気なことを思うポチだ。

―― 女の子にイタズラされて、女の子みたいな悲鳴をあげるんじゃないわよ ――

 フリッグ先生に呆れられていたっけ……いけない、そろそろ止まらなきゃとんでもないところまで行ってしまう!

 ポチは、ボールのようにまんまるい体なので空気抵抗がない。

 意に反して勢いの付いた体は、なかなか止まらない。

 ヤバイ!

 こんな時、ロキたちはどうしていたっけ?

 ムヘン川の土手を滑り降りて、そのままの勢いだと川に飛び込んでしまいそう……そうだ!

 子どもたちは、土手の草に手を伸ばして、草をむしってブレーキにしていたっけ!

 そう思うと、まん丸の体から可愛らしい突起が伸びてくる。

 突起は四本が二センチくらいで、一本が一センチほど。

 ああ、土手を滑り降りるフレイアのイメージだ。

 フレイもロキもいっしょだったのに、なんで女の子のフレイアのイメージなんだろう?

 あ、フレイアが一番運動神経発達してたもんな!

 ザザザザーーーー

 ポチは、フレイアのイメージで足元を流れていく草や木の葉っぱに突起を触れさせてブレーキをかけていった。 

 

☆ ステータス

 HP:6000 MP:3000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:800ギル(リポ払い残高35000ギル)
 装備:剣士の装備レベル20(トールソード) 弓兵の装備レベル20(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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銀河太平記・158『47人救えた』

2023-04-25 13:40:27 | 小説4

・158

『47人救えた』メグミ 

 

 

 47人救えた。

 

 西海岸で集めた半導体で使えるものは半分に満たない。

 予想に反して上陸用舟艇も作業機械も旧式のものは少なく、中には見かけだけ旧式で中身は最新というものもあった。

 フェイクなのか間に合わせなのかは分からないけど、漢明の装備は見かけほどにポンコツではない。

 せっかくマイさん(児玉元帥)が時間を稼いでくれたのに申し訳ない。

「なあに、こっちも色々分かったし、橋頭保としては使い物にならないくらい破壊できたし、問題ないわよ」

 明るく答えるマイさんだけど、手足の包帯が痛々しい。

「手足にパルス砲を仕込んでたんですね」

「あ、ナイショね。これ使う時って凄い格好になるから(^_^;)」

「すみません、大きなことを言っておきながら半分しか救えませんでした」

「ううん、47人救えた。忠臣蔵と同じ数で縁起がいいわよ」

 

「ちょっといいかな」

 

「あ、市長」

 目の下にクマを作った市長が、さっき提出した報告書を手に割り込んできた。

「蘇生完了のロボット数なんだけどね」

「すみません、全員救えなくて」

「あ、いやいや、47人も救ってもらって感謝してます」

「なにか不具合が?」

「人(にん)という表記が困るんです」

「え?」

 西之島では人もロボットも区別しない。数え方は人(にん)だ。

 市長は元々は島に派遣された国交省の役人、ちょっと杓子定規。マイさんも白けた顔をしている。

「いや、戦いが終わったら日本政府に経費やら損害賠償を請求しようと思ってるんです。日本政府の書式ではロボットは『〇台』あるいは『〇機』と表現するんです」

「あ、ああ(^▽^)!」

「ロボット平等法とかありますけど、手続きや書式は旧態依然でしてね。まあ、二重線で消して『人』に直して訂正印押しとけばいいことですから」

「はい、分かりました」

 チャッチャと訂正、でも、市長は、まだ屈託あり気な顔のまま。

「実は、これが本題なんでありますが……」

 う、言葉が丁寧になってきた。こういう丁寧モードに入ると市長は無理なことや困ったことを言う。

「なんでしょうか?」

 こっちもつられて丁寧になる。

「こちらの被害もけっこうな量になりまして、ニッパチを本土に送ってやる機材がないんです」

「東のブンカ―に予備のボートがあったはずです」

 救急の連絡を受けて、直前に確認した。

「たった今、敵の襲撃を受けて、撃退はしたのですが、ボートは二隻とも……」

「修理は出来ないんですか?」

「ちょっと難しいようです」

「実は……」

 マイさんが口を開いた。

「南の空港で王春華という凄腕と渡り合ってきました、大統領府直属の戦闘ヒュ-マノイドです。敵勢力は粗かた駆逐しましたが、王春華は健康なままです」

「そのヒューマノイドが?」

「こちらの手の内を知っているわけでなありませんが、一矢報いるために手近な東のブンカ―を襲ったのでしょう」

 ガチャガチャガチャ

 直してやったばかりのロボットたちが、いびつな音をたてながら集まってきた。

「ちょ、あんたたち、駆動系とかはリペアしきれてないんだから!」

 ガチャ

 代表めいたのが、一歩前に出てきた。

「ワタシタチ モ イッシムクイマショウ!」

「アハハ、気持ちは嬉しいけど、まだ駄目だって(^_^;)」

「労基法にも抵触するから、おさえておさえて(^o^;)」

「いいわ、ニッパチの輸送は任せて」

「元帥、いや、マイさん!?」

「ヨイチ准尉!」

 

「はい、御用でありましょうか、閣下?」

 

「至急、パルス車を出してくれ」

「お戻りになるんですか?」

「後送の任務だ、要人一名を軍の技研まで送ってくれ。敵の囲みは厳しいが、貴様の技量なら大丈夫だろ」

「はい、多少の欺瞞進路をとりますので、通常の倍は掛かるかと思います」

「かまわん、確実なことが大事な任務だ。後送するのはニッパチ、西之島技研の要員でもあり、西之島銀行の頭取でもある。安全第一でいけ」

「帰りが明後日以降になるおそれがあります」

「戻って来んでいい。任務が終わったら江ノ島で待機していてくれ」

「それでは、戦闘に加われません」

「戦闘は、これが最後ではない」

「しかし」

「大丈夫、この戦争には勝つ。以上だ」

「……了解しました。ヨイチ准尉ニッパチ殿を本土技研まで後送いたします」

「よし、かかれ!」

 ビシッと敬礼を決めると准尉は行ってしまった。

「なにかな?」

「完全に元帥に戻ってますけど」

「あ……あははは、今のは見なかったということでぇ……さ、そろそろ作戦会議の時間ですので、これで失礼しますね」

 それでも軍人丸出しの回れ右をきめて、作戦室のラッタルを上がるマイさんだった。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  •  

 

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:078『ポチの冒険・1』

2023-04-25 06:32:46 | 時かける少女

RE・

78『ポチの冒険・1』テル 

 

 

 前にも言ったが、ムヘンは菱餅の形をしている。

 
 ムヘンブルグ城塞を出た我々は菱餅の頂点である北辺の港町ノルデンハーフェンを目指している。あたりまえに行けば三日ほどの行程なのだが、あちこち用事が出来てしまって二週間ほどになるというのに、いっこうにノルデンハーフェンには向かえない。

 いまは、ローゼンシュタットのミュンツァー町長の石化を解くために東のエスナルの泉に進路を取っている。

 

「こんな山道だとは思わなかったぞ……(-_-;)」

 

 ヒルデがキューポラの縁に突っ伏してしまった。

 操縦しているタングリスを除いた全員がハッチから半身を出している。

 つづら折れの山道は険しくて、四号戦車は、今までになくグニャグニャ揺れるのだ。

 戦車と言うのは鉄の塊で、走る感じはガタゴトという擬音が相応しく思われるが、じっさいはグニャグニャなのだ。

 トーションバーというサスペンションが効いていて、そのストロークは自動車の倍ほどもある。だから揺れると自動車の倍ほどに揺れ幅になって、おまけに窓が無いので、車内でじっとしていたら高い確率で酔ってしまう。

 万一、酔ってリバースしてしまうと悲惨なことになる。戦車の車内は複雑でリバースした反吐は回収が難しく臭いが立ち込めてしまう。ちなみに、戦車兵の第一のタブーは車内でオナラをすることだ。

 平気なのは、石化してしまったミュンツァー町長とシリンダーの幼生であるポチだけだ。

 てっきり一人ぼっちで町長の見張りと覚悟していたのに、みんなが車外に姿を見せたのでピョンピョン跳ねて喜んでいる。

「あいて!」

 スパナを咥えたまま飛び跳ねるので、ロキの頭に当たってしまった。

「嬉しいのは分かるけど、もうちょっと大人しくしてろよ……」

 みんなグロッキーで遊んでもらえないポチは、ちょっと拗ねてしまう。

 
 カンカンカンカン!

 
 揺れたふりをして、砲塔をカンカン叩く。もし口が効けたら「遊んでよ! 遊んでよ!」と駄々をこねるところだろ。

「うるさい! 暗黒世界の奈落に沈めてしまうぞ!」

 ヒルデに叱られる。

 ブーーーー

 スパナを咥えたままうめき声をあげる。

「屁のような唸り声をあげるな」

 ウーーーーー!

「じゃかましいいいいい(ノꐦ ⊙曲ఠ)!」

 今度は、わたしが切れた。ポチはケイト、ロキ、ヒルデの顔を交互に見る。見ると言っても目は無いのだが、スリットの形や、けっこう変わる顔色?で、そのように思う。

 
 ムーーーッ(`_´)!!

 
 だれも相手にしてくれないポチは、一声強く唸ると、上空高く飛び上がってしまった。

「ポ、ポチーーー!」

 ガチャン

 スパナだけが砲塔の天蓋に落ちてきて、ボールほどのポチは、瞬くうちに見えなくなってしまった。

 

☆ ステータス

 HP:6000 MP:3000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:800ギル(リポ払い残高35000ギル)
 装備:剣士の装備レベル20(トールソード) 弓兵の装備レベル20(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ブリの世話係 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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くノ一その一今のうち・52『大阪へ』

2023-04-24 14:48:47 | 小説3

くノ一その一今のうち

52『大阪へ』 

 

 

 魔石は戻ってきたようだね。

 

 高速にはいったところでルームミラーの嫁持ちさんが目を細める。

「戻ってるんですか?」

「手ごたえはあったんだろ?」

「あ、でも消えてしまって」

 セーラーの胸当てを引っ張た時の感触が蘇って顔が熱くなる。

「魔石とのキズナが深まったんだ。喜ばしいことだよ」

「そうなんですか?」

「頭領として経験を積めば、そうなるらしいよ。これは、意識しなくても魔石の力が使えるかもしれない」

「そうなんですか? っていうか、大阪で何をするんですか?」

 うすうす分かっているけども聞いてみる。

「信玄の埋蔵金、その一部が大阪に持ち込まれた」

 やっぱり。

「それが、いささか厄介なところに隠されたようで、ボクたち下忍では手が出せないようなんだ」

「わたしだって下忍です」

「でも、風魔流の頭領だ、魔石だって馴染んだみたいだし」

「…………」

「大阪までは時間がかかる。すこし寝ておくといい」

 ウワ!

 シートが勝手に倒れてベッドになる。

「大阪までは七時間。寝だめしておくのも忍術の内だよ」

「フフ」

「おかしいかい?」

「いいえ」

 忍術というのは、素人っぽい、あるいは子どもじみた言い方だ。

 嫁持ちさん的な労わりなんだ。

 そう思うと、車の振動も揺りかごのように心地よく、ゆっくりと眠りに落ちていった……。

 

 着いたよ。

 

 上体を起こすと、フロントガラスの向こうに『放出』と白地に青の標識が見える。左右からも車が走っていて交差点のようだ。

「ほうしゅつ?」

「ハナテンと読むんだ。難解地名のベストテンに入る大阪の東の外れ」

「なんか、放り出される感じ」

「うん、大坂で所払いになると、ここで放り出されたらしい」

「プ、ほんとうですか?」

「逆に言うと、ここからが大阪の核心部で、よその忍びは断りなしでは入れない」

「う……なんか、胃が痛くなります」

「ソノッチのことは話が付いている」

「え、どんな風に!?」

「下忍には分からないよ。健闘を祈る」

「は、はい。でも、一ついいですか?」

「ボクに答えられることなら」

「まあやの世話は誰が見るんですか?」

「分からないよ……でも、そんなに時間はかからないと思う。社長も平気な顔してたし」

「そうですか」

「そろそろ時間だ。ここで待っていれば迎えが来る」

「はい」

 

 けっきょく、核心に触れることはなにも聞かされず、交差点の手前で文字通り放り出される。

 時計を見ると四時前、日本中の高校生が下校の真っ最中という時間。じっさい、交差点を渡って向こうへ行く高校生たちがチラホラ。スマホのナビで確認すると、もう少し行ったところにJRの駅がある。

――そのままで聞いて――

 忍び語り、それも思念で送って来る高等なやつ。

 気配に足元を見ると、見たことのある猫がお座りしている。

――そのままでって言ったろ――

――ごめん――

――じきに軽トラックがやってくる。運転席の窓が開いてるから「土井さんですか?」って聞いて――

――うん――

――すると運転手は「里中満智子ちゃん?」と聞くから「いいえ、中村その子です」って応えるの――

――うん――

――そうしたら車に乗せてくれる、いいわね――

――了解――

 

 数秒答えがないので、ゆっくり足もとを視野の端に捉えると、もう猫の姿は無かった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下

 

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RE・かの世界この世界:077『ローゼンシュタットを出発』

2023-04-24 07:01:51 | 時かける少女

RE・

77『ローゼンシュタットを出発』テル 

 

 

 

 見送りは町長夫人だけだった。

 
 ローゼンシュタットの町は降誕祭の後始末……というよりは、メデューサ被害の後始末で、とてもわたしたちの見送りどころではないのだ。

 石化した町長に成り代わって夫人が指揮を執っている。その蝶々夫人が少しの間助役に指揮を任せて見送ってくれる。

「あくまでも、降誕祭の後始末です」

 きっぱり言い切ったのは、町の人々が落ち込まないようにとの配慮からだろう。

 広場を中心に道路や建物が破壊されただけではなく、石化が解けた人たちも倦怠感の他に関節痛などの後遺症が出ているのだ。

「じゃ、出来るだけ早く金の針を手に入れて町長さんを治療してお返しします」

「よろしくお願いします」

 

 ブロン ブロロロ~~~~~

 

 四号戦車は軽快に走り出した。

 町長は石化して文字通り石像のようになっているので車内に入れることはできず、砲塔後部のゲペックカステン(物入れ)に括りつけてある。

 車体の振動くらいで壊れることはないだろうが、クリーチャーの襲撃があるかもしれず、見張りの為にポチが張り付いている。

「ポチ、もう一回練習だ」

 ロキが声を掛けると、ポチは砲塔の上で跳ねまわる。ただ跳ねまわっただけでは車内に伝わらないので、スパナを持たせてある。跳ねながらスパナで叩けということだ。

 でも、シリンダーであるポチにはスパナを持つべき手が無いので、割れ目の所で咥えさせている。

「健気ではあるが、なんかイメージが……」

 ヒルデは言葉を濁すが、意味はよく分かる。シリンダーと言うのはボール状のプニプニした体にスリットというか割れ目があって、淡いピンク色の肌とあいまって、桃のように……あるいは桃によく似た体の一部のように見える。

 そいつが、やる気満々でスパナを咥えているのは猥褻な感じが拭えない(^_^;)。

 

 カンカンカンカン!

 

 スパナを振ってポチが砲塔を叩く。

「なにか、怒ってるみたいだな」

「みたいじゃなくて、怒ってるよ」

 あちこちのハッチから身を乗り出したクルーが「ホーー」と感心する。

 ポチはシリンダーではあるがヴァイゼンハオスの子どもたちと暮らすうちに知能が発達したんだろう。

「意外に可愛いものだな」

 根は素直な性質のようで、ポチは割れ目の両脇の所をポッと赤くしている。

「まあ、ロキもポチもがんばれ」

「うん!」

「ペギーからメールが入ってるぞ!」

 操縦手ハッチから顔を出したタングリスが通信手ハッチを指さす。

「いけね!」

 猿のようなすばしこさでロキが戻る。通信はロキの役割だ。二秒で通信主席に戻って電信文を確認した。

「ムヘン街道との合流点で待ってるって!」

 

 東に進路を取って、合流点を目指した。

 

 幸い、クリーチャーに出くわすこともなく半日で合流点が見えてきた。

「あ、出店を開いてる」

 ペギーは、十字路の南東の角に屋台を出して景気よく商売の真っ最中だ。

「やあ、メールもらったのに済まなかったね、ちょっと忙しくしていたもんで。ちょっと頼むね……」

 いつに間に雇ったのか、二人のバイトに任せて通りに出てきた。

「ここじゃ、通行の邪魔になるから……あっちの空き地で」

 街道は相変わらずの混雑ぶりだ。ペギーが交通整理をして四号を空き地に誘導してくれた。

「この石像みたいなのが、ローゼンシュタットの町長さんなんだ。金の針で治してやりたいんだが」

「あーーーーこりゃ無理だね」

「無理か?」

「強力な石化魔法がかかっている上に時間がたちすぎている、金の針でも無理だ」

「我にエスナの黒魔法が使えれば……」

 額に皴を寄せ右手の五本の指をあてるという中二病ポーズでヒルデが呟く。ムヘンブルグ以来立派な姫騎士に戻っているのだが、時どき発作が出る(^_^;)。

「あんたは、もうエスナが使えるよ」

「ほ、本当か!?」

「ただ、この町長さんの石化はエスナラ以上の力が無いと解除できない。それにエスナは白魔法だからね」

「わ、我は、漆黒の堕天使なるぞ(`Δ´)o」

「手立てはないのか?」

 電波なヒルデは放置して、クルーはペギーを囲んだ。

「む、無視すんなああ(;`O´)o!」

「あるにはあるが……」

「どこだ?」

「東の果てにエスナルの泉がある。そのエスナルの水で清めれば治るだろう」

「東の果てか……」

 

 我々は、北のノルデンハーフェンを目指している、それを東に変更……。

 また、大そうな寄り道になりそうだ……。

 

☆ ステータス

 HP:6000 MP:3000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:800ギル(リポ払い残高35000ギル)
 装備:剣士の装備レベル20(トールソード) 弓兵の装備レベル20(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・021『春高楼の花の宴』

2023-04-23 17:31:55 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

021『春高楼の花の宴』   

 

 

 身体測定の日は学食はお休み。

 

 お弁当ってほどじゃないけど、城山(宮之森城址公園)には売店も自販機も無いということなので、ちょっとお買い物。

 

 学校を出て道を渡ったところにお店がある。

 

 いちおう大手パンメーカーの看板は掛かってるんだけど、お店の中ではもんじゃやらお好み焼きとかも食べられて、子供向きの駄菓子とかも置いてる。

「あら、お花見? いいわねえ、オバチャンの時代は女子挺身隊だったからね、お花見どころじゃなかった」

 お店のオバチャンはリアル女子挺身隊(^_^;)

「五人分はかさばるから、紙袋あげるね」

 ひとり二個のパンと飲み物。一人分ずつを小袋に入れて、それをまとめて西武百貨店の袋に入れてくれる。

 この時代、レジ袋もコンビニも存在していない。

「なにシゲシゲ見てんの?」

 ジュースのパックを見ていると吉本さんに見咎められる。

わたし:「ああ、変わったパックだから」

吉本:「え、普通のテトラパックじゃないの?」

辻本:「給食の牛乳これだったね」

ロコ:「うちは、ビン牛乳だった」

吉本:「三年まで脱脂粉乳だった!」

横田:「あ、あれは飲めたもんじゃなかったよねぇ」

辻本:「アメリカじゃブタの餌だし」

ロコ:「ブーブー!」

吉本:「ブタはブヒブヒだぞ」

ロコ:「ブーブー!」

吉本:「ブヒブヒ!」

横田:「もう、食べ物屋さんでブタごっこはいけません」

みんな:「「「「「アハハハハハハハ」」」」」

 

 なんか、早くもみんなお友だちの雰囲気で城山を目指した。

 

吉本:「八重桜はゴージャスだねえ!」

 感嘆の声を上げたのは吉本さん。

 天守閣とか建物の無いお城って、どんなのかと思ったけど、苔むした石垣との対比がステキだ。

辻本:「来てよかった……」

横田:「そうね、荒城の月って、こんな感じよね」

ロコ:「あれって、夜の歌じゃないんですか?」

吉本:「ああ、月は夜だよね」

横田:「夜になるのは四番よ、一番は『春 高楼の花の宴~』よ。お城でやったお花見がテーマ」

辻本:「そうね、めぐる盃ぃ~かげさしてぇ~♪」

吉本:「よし、あたしらも盃にしよう!」

みんな:「「「「「おお!」」」」」

 高島屋の袋からパンと飲み物を出し、石垣の縁に立ってグビグビ、チビチビ。

ロコ:「メグさん、シミジミしてますねえ」

わたし:「え、あ、なんかモノノアワレ的なみたいな?」

横田:「あ、そうね。荒城の月って、昔を偲んでシミジミする歌なんだよね。時司さん、正しいわよ」

わたし:「いえいえ、そんなあ(^_^;)」

 

『荒城の月』知らないだけだしぃ(#^_^#)

 

吉本:「う~ん、写真撮りたいねえ」

辻本:「あ、そうね、青春の一コマ的かもね」

 うう……スマホあるから簡単に撮れるんだけど、出すわけにはいかない。

ロコ:「スケッチしましょうか?」

みんな:「「「「スケッチ?」」」」

ロコ:「あ、ほんのクロッキー的なもんです。期待されると困るんですけど(^o^;)」

みんな:「「「「やってやって!」」」」

 

 みんなで桜の木の下に立ち、つつましくポーズをとった。

 ロコは、自分の立ち位置とポーズを決めると一段高い石垣に上がり、器用に五分余りで書き上げた。

 今日は、一気に友だちが五人になった。

 めでたしめでたし。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明             留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 妹尾先生:グラマー
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

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