大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・136『白いモヤモヤの正体は白虎』

2022-04-30 10:11:20 | ライトノベルセレクト

やく物語・136

『白いモヤモヤの正体は白虎』

 

 

 ホワイトタイガー!?

 アキバ子が空き箱の隙間から目だけ覗かせて叫んだ。

 犬だと思っていたのが虎だったのだから、アキバ子でなくても驚く。

「いや、あれは犬を載せていた白いモヤモヤであるぞよ!」

「犬がやっつけられたんで、姿を現したんだ!」

 そうか、犬と虎でワンセットだったんだ……でも、なんで虎と犬の組み合わせ?

「「どうしてだろ?」」

 チカコとアキバ子は首をひねる。

「犬は十二支で戌の刻、戌の刻は10時の方向。10時は西方の白虎が支配する……だから、犬と虎の二段構えなのよ!」

「御息所さん、頭いいですぅ」

 アキバ子が感心するのを謙遜もせずに御息所は続ける。

「わらわは、東宮の妃じゃぞ。今風に言えば皇太子のお妃じゃ。学識がそなたらとは違うぞえ」

「ふん、女の子しか産めなくて、御所を放り出されたくせに」

「チカコこそ、東エビスの嫁に……」

「ワーー、それ言うなあ!」

「痛い、髪を掴むな!」

「こら、ケンカしてる場合か!」

 パチン!

「「いて!」」

 二人同時にデコピンを食らわせてやる。

「おのれ、連発デコピンを会得しおったな!」

「やくものくせに、生意気よ!」

「まあまあ(^_^;)」

「いい加減にして! 白虎がこっち睨んでる!」

 

 ガオオオオオオ!

 

「吠えた!」「こっち来る!」「逃げましょう!」

 ピューーーーーー!

 あんまりのスピードで逃げるので、四人の悲鳴がホイッスルの音みたくなってしまう。

 ガオオオオオオオ!

 白虎も追いかけてくる。図体が大きいくせにスピードはほとんどいっしょ!

「あ、なんか、曲がっていくよ(;'∀')」

 真っ直ぐ飛んでいるつもりなのに、しだいに左に寄っていく。

「土星の引力に引っ張られてるんです!」

「やくもがノロマだからじゃ」

「御息所喋り過ぎ!」

 バタン

「「「フギャ!?」」」

 うるさいので箱のふたをしめてやる。

 そうだ、コルトガバメントを撃たなきゃ!

 パン パン パン パン

「うう、ダメだ……」

 土星は丸いので、後ろに撃った弾は、丸みのスレスレ向こうを追いかけてくる白虎の頭上を掠めて宇宙空間の彼方に消えていく。

『スピードを落とせ!』

『少し近くなれば水平になって当たりやすくなるわよ!』

『お二人とも、ここは、やくもさんにまかせましょう!』

 もう、三人は無視! ひたすら逃げる!

 ピューーーーーー!!

 しかし、相変わらず、白虎の頭は丸みの向こうに見え隠れしている。距離が開かないよ!

『わたしたちもお手伝いしましょう!』

『どうやって?』

『やくもはフタをしてしまいおったのじゃぞ』

『やくもさん、少しフタを開けてください』

「どうすんの?」

『わたしたちも、ピューって息を噴いて推進力の助けになります!』

「え、息で?」

『三人の息ぐらいではどうにもならないでしょ』

『気は心というやつか?』

『いえ、宇宙空間では、ちょっとした力でも大きな結果を産みます。ボイジャーの推力なんて、ほとんど人の鼻息ほどなんですから。それで、太陽系を飛び出せるんですから!』

『そうなの?』

『はい』

「じゃ、やってみる?」

『『『おお!』』』

 フタを少し開けてやると、三人の口が仲良く揃って息を噴きだす。

 フーー! フーー! フーー!

「おお………」

 やってみるもんね、白虎の姿は、少しずつ丸みの向こうに消えていく。

 フーー! フーー! フーー!

 フーー! フーー! フーー!

 フーー! フーー! フーー!

 フーー フー フ…………………

「ちょっとどうしたの?」

「ちょっと……」

「頭がクラクラ……」

「……してきました」

 ちょっと頼りない……よし、わたしも頑張らなくちゃ!

 わたしも、コルトガバメントを撃つだけじゃなくて、いっしょに後ろに向かって息を噴く!

 フーー! フーー! フーー! フーー!

 パン パン パン パン

 やってみるものね、空き箱のスピードは目に見えて速くなってなってきたよ!

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・33『運命の金ばさみ』

2022-04-30 06:08:28 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

33『運命の金ばさみ』 

        


 月曜は朝から雨だったので、学校周りの掃除は今日の火曜日に延期された。

 掃除の班は学年の縦割りで、栞とさくやは、偶然同じ班になった。

「あら、さくや!?」「嬉しいなあ、先輩といっしょ(^▽^)/」

 しかし、栞たちの受け持ちは、駅から少し離れた切り通しの道という運の悪さだった。何故かというと、そこは先日の地震で地盤が弱っており、地域の人たちも「危ない」と言って近づかない場所だったからだ。乙女先生以外はほとんど地域と連携のないと言っていい希望ヶ丘高校には、事前にそういう連絡がまるで入らず、担当の桑田先生は、あっさりと、そこも清掃区域に入れてしまった。

「どうして、みんなさっさと帰っちゃうかなあ」

 低い切り通しで、その気になれば、薮になった奥まで入っていけるのだが、みんな道ばたの紙くずや空き缶を拾っただけでさっさと学校に引き上げた。
 確かに、そこは片側が切り通し。反対側はちょっとした小川を隔てて傾斜地になった曲がり角で、あまり人目にもつかない。やっぱり、人に見られていないところでは、なけなしの義務感などは、どこかに行ってしまうのが人情というものである。

「奥の方に、ゴミいっぱいありそうですよ……」
「さくやは、無駄に目がいいんだもんなあ……」

 さすがの栞も、そこはパスしたかったが、どこに人の目があるか分からない。近頃では、こういう不用心なところには監視カメラが付けられていることも多い。まして、二人は、ついこないだMNBの五期生に合格し、例の『進行妨害事件』では、栞の顔は地域の人たちに知れ渡っている。

「仕方ないか……」

 栞とさくやは、イヤイヤながら薮に足を踏み入れた、

「う……」
「先輩、ここ見かけは草原やけど、中ジュルジュル~」
「もう、そこのゴミだけ拾って退散しよう!」

 二人は不法投棄されたゴミ袋を三つばかり拾って出てきた……。

「はい、ご苦労さまあ! 集めたゴミは口を縛ってここに置いてねぇ!」

 集積所係の真美ちゃん先生がハンドマイクで声を張り上げていた。
 技師のボス格である鈴木のオヤジが、ゴミ拾いの金ばさみを回収している。

「こら、ちゃんと洗うて返さんか!」

 鈴木のオヤジの声で、栞は気がついた。

「しまった、金ばさみ!」

 ジュルジュルに足と気を取られて、忘れてきたのである。

「先輩、さくやが行ってきます」
「いいわよ、忘れたのわたしだもん。行ってくるわ」
「これもMNBの修行や思てなあ。次の授業遅れんなよ!」

 学年生指の磯野が、大きな声で嫌みを言う。
 栞は、振り向けば皮肉の一つも出そうなので、何も言わずに校門を出た。
 こんなことで遅刻して、ネチコく言われるのも願い下げだったので、現場まで駆け足で向かった。

 グチュグチュ~

 靴は一足ごとに水を含んだ音がした。買って、まだ半月ほどのローファーがダメになるなあと思いながら、時計ばかり気にして現場へと向かった。

 さすがに途中でローファーと靴下は脱いだ。グチュグチュはグニュグニュに変わって薮の中に突き刺したままの金ばさみに気づいた。

「あった~!」

 そして、次の一歩を踏み出したところで、空と地面がひっくり返った……。

 キャーーーーーーー!

 

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魔法少女マヂカ・270『富士山頂決戦・1』

2022-04-29 11:47:51 | 小説

魔法少女マヂカ・270

『富士山頂決戦・1語り手:マヂカ  

 

 

 上るにつれて鈍色に深まる雲中に山頂の輪郭が浮かんでくる。

 グオーー! ズズズーーン!

 裂ぱくの咆哮と地響きは、まるで富士の噴火をいざなうように激しくなり、衝突や斬撃の火花までがチカチカと見えるようになってきた。

 ガシガシ! ガシガシガシ!

 打ち合う音が続いたかと思うと、二つの何かが、もつれ合うようにして転がり落ちてきた!

「こんにゃろー! くたばれえ! 犬化け!」

「させるかあ! 死ねえ! クソガキ!」

 悪態をつきながら転がり落ちていくのは、ファントムの黒犬と詰子だ。

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…………

 声を掛ける暇もなく、二人は目の前を転がり落ちていく。

「……あいつ、寝ていたんじゃないのか?」

「後部座席で涎を垂らして寝ていたよ……」

 ズダダダダ、バシ!

 あっという間に駆け上がってきて、きれいなファイティングポーズを決める詰子。

「敵を欺くには味方から! 御殿場からは黒犬が付けてきていたワン!」

「え?」「そうだったのか?」

「二人が登って行った後を、あいつが付いていくので、先回りして戦っていたワン!」

 ズダダダダ

 下から黒犬が駆けあがって来る。

「二人は、先に上がって! あいつは詰子が相手しておくから!」

「よし、頼んだ! 行くよ、ブリンダ!」

「おお!」

 駆けるのももどかしく、山腹の岩々を蹴り、勢いをつけて山頂のカルデラに降り立つ。

 決めポーズ!……している暇はなかった。

 トオオオオオオオオオオ!

 カルデラの四方から声がしたかと思うと、四つの火の玉が飛び上がり、山頂300メートルほどの高みでもつれ合う二つの玉の片方に四方から激突した!

 ピシャーーーーーーーーン!!

 目もくらむようなスパークが起こったように見えたが、四つの火の玉は勢いを削がれて放物線を描いてカルデラの反対側に着地、火は四人の巫女の姿に戻っている。

「あれは、神田明神の巫女たちか?」

「うん、赤・黒・白・青の四人の巫女レンジャー……ちょっと敵わないみたいね」

 四人の巫女は、端正な姿勢は保ってはいるけど、巫女服はズタズタ、髪もザンバラになって、もう二三合打ち合えば、実体を失ってしまいそう。

 ゴオオオオオオオオオオオ!

 もう一つの大玉が激しく振動し、数秒で人の形をとる。

 ビシャーーーーーン!

 派手なスパークがしたかと思うと、スパークは緋縅の大鎧の荒くれ武者の形になった。

「将門どの……!」

「あれが神田明神の!?」

 ブリンダは、瞬間、神田明神・将門の迫力に目を奪われる。

 日本を代表する荒ぶる神に驚嘆してくれるのは、長年の友としても、ちょっと嬉しい。

 天神や毘沙門天などとは違って、素性が荒武者の平将門、ピカピカの五月人形よりは戦の真っ最中という荒くれ姿の方が頼もしい。

「どうだ、赤地錦の直垂に緋縅の大鎧、大星八間兜の大鍬形の間には憤怒の獅噛、弦走りには不動明王、据文には三つ巴、ナメクジ巴の金物打って、箙(えびら)を緩めに取り回し、黄金づくりの大太刀を流し下段に構えた姿は、ほれぼれとするだろう……!」

「い、いや、その説明、ちょっと難しいぞ(^_^;)」

「そうか、まるで銀幕から飛び出してきた、市川歌右衛門か片岡千恵蔵、いや長谷川一夫の風格じゃないか!」

「そ、それも分からん(;'∀')」

「チ」

「舌打ちすんな!」

「仕方ない、アメリカ人だもんね」

「渡辺謙とかなら分かるぞ。ゴジラとセットだしな……あ、うん、ゴジラに通じるものがあるかもな」

「そう?」

「うん、ゴジラに似て、安定の短足だ!」

 ズコ

 微妙な、しかしハッキリしたエフェクト付きで将門がズッコケる。

 グゥオーーーーーーン!

 その隙を狙って、ファントムの大剣が振り下ろされ、寸でのところで将門は大太刀で受け止める。

 ガキーーーン!

「マヂカさま、感激なさるのは嬉しいのですが……どうか……」

 赤巫女が恨めしそうな目を向け、黒・白・青が続ける。

「「「ご助勢を!」」」

「ごめん、つい見とれてしまった(#-。-#)」

「いくぞ、マヂカ!」

「おお!」

 ブリンダと二人、将門・ファントムの間を割るように跳躍した! 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・32『合格発表』

2022-04-29 06:05:03 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

32『合格発表』 

          


 今日は、合格発表の日だ。

 なんの? もちMNB24第五期生オーディションの合格発表だ!

 さくやも栞も三時までは津久茂屋で働いた。今日はオーディション二日目で、それが終わると三十分で選考、その場で発表になる。

 当然朝から気が気ではなかったが、バイトの仕事に打ち込むことで忘れることにした。
 もう四月も半ば過ぎだというのに、連休前の日曜日は、朝から肌寒かった。

「こりゃ、お茶引きかなあ」

 恭子さんのお姉さんの育子さんが言ったが、予想に反して、お客さんは多かった。それも大半がシルバー世代で、これから、池田の五月山や、中には六甲の山を目指すという老人クラブの団体さんもいて、どのお年寄りも気負うことなくお茶を済ますと、ちょっと散歩に出かけるような穏やかさで店の長屋門から出発していった。

―― わたしたちも平常心でいかなきゃ! ――

 二人で頷きあったが、栞はオーダーミスを二回、さくやはお茶碗を三個も割ってしまった。

 そして、三時でバイトが終わると、栞とさくやは、オーディションを受けた難波の越本興業のビルに急いだ。

「えー、それではMNB24第五期生オーディションの合格発表をいたします。受験番号を呼ばれた人は前に……受験番号、1番 3番 6番……47番」

―― やったー! ――

 自分の受験番号を呼ばれたとき、心ではそう叫んだが、56人の落ちた子達のために、あえてその喜びは封印した――喜ぶのは、いつでもできる。今は冷静に噛み締めよう。これが礼儀だ――

 そのイマシメは、『事後の説明』のあとに行われた記者会見で、もろくも崩れた。

「あなた、希望ヶ丘の手島栞さんですよね!?」

 週刊日々の記者が皮切りだった。マスコミでは下火になりかけているとはいえ、手島栞の名前と顔は、記者やレポーターたちの記憶には十分新しい。ほんの数十秒だったけど、栞にカメラと質問が集中した。

「こないだの事件から、なんだか180度の転身に見えるんだけど、なにか、きっかけとか、葛藤とかあったんですか?」
「いいえ、ごく普通にこうなりました。やりたいことがやれる場所ってことで考えると、自然にMNBになりました」
「栞ちゃんは、落ち着いて、とても自信たっぷりにみえるんだけど、その自信はどこからくるのかなあ?」

 栞は、ここにいたるまでの、いろいろな事が頭に浮かんだが、四捨五入して、こう言った。

「はい、根拠のない自信です」

 プロディユーサーの杉本寛が大笑い。一拍遅れて、会場のみんなに笑われてまった。

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・31『根拠のない自信』

2022-04-28 06:39:37 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

31『根拠のない自信』

           


 朝、目が覚めて思い出した……今日は……オーディションの日だ!

 むろん夕べは憶えていた……というより、胸がドキドキして、なかなか寝つけなかった。まるで、小学校六年の運動会の前日のようだ。あの時はリレーのアンカーに選ばれて、責任の重大さに押しつぶされそうになっていた。いや、あの時以上の緊張(|||O⌓O;)。

 MNB24の五期生の応募は、1600人余り。書類選考で80人に絞られ、今日と明日二日に分かれ、午前の部と午後の部に分かれてオーディションが行われる。栞は、午後二時からの部だったので、午前中は、津久茂屋のバイトに行った。学校も、あまりやかましいことを言わなくなったので作務衣風のお仕着せに着替えて店に出る。ここでは、これが戦闘服だ。今は、そう思っている。
 駅前には喫茶店が一軒しかないので、朝から北摂のハイキングを楽しむ人たちが利用したり、近頃は栞目当てのチラホラ客もいて、けっこう忙しい。

「ごめんなあ、今日は大事なオーディションやいうのに……あ、いらっしゃいませ……」

 恭子さんも、済まなさそうではあるのだが、まだ、きちんと挨拶もできていない。

「いらっしゃい……先生!」

 お通しとお茶を出すと、校長先生と乙女先生が庭の席に座っていた。

「お座敷空いてますから、どうぞ……」
「いや、ボクは顔を出しただけだよ。さくやクンは?」
「あの子、午前の部なんで、今、真っ最中です」 
「そうだったのか、じゃ、ボクは仕事があるから。乙女先生よろしく。じゃ、がんばってね」

 校長は、手をあげると行ってしまった。

「団子と、オウスちょうだい」
「はい」
「お団子、オウス通りました!」

 栞が、奥に声を掛けようとすると、返事の方が先に帰ってきた。

「あれは?」
「はい、恭子さんのお姉さんが入ってくださってるんです」

 栞は申し訳なさそうに言った。

「これ、校長先生から。さくやは帰ったら渡したげて」

 乙女先生が、渡してくれた小さな紙袋には車折神社(くるまざきじんじゃ)のお守りが入っていた。

「ま、これって、芸能の神さまなんですよね。クルマオレ神社」
「ハハハ、栞でもスカタン言うときあんねんな。クルマザキ神社や。校長さんの家のネキやさかい」
「あ、ありがとうございます」
「それから、桑田先生が、合格しても学校の授業はサボらせへんぞ、て」
「え、あの筋肉アスパラ……」
「ブキッチョな人やけど、あんたら生徒のことは、考えてるみたい」
「お団子、オウスあがったわよ!」
「はーい!」

 昼前に、さくやが帰ってきた。「どんな感じ?」と聞く暇もなく、乙女先生から預かったお守りを渡すと、栞は制服に着替えて、津久茂屋を飛び出した。恭子さんのお姉さんが、何か渡してくれたが、お礼を一言言っただけで、駅のホームに向かった。

 次の準急までに十二分もある。

 いつになく慌てている自分が腹立たしく、また、何年かぶりでお腹の虫が鳴くのを聞いた。そして、恭子さんのお姉さんが渡してくれたのが、焼きお握りとお茶のペットボトルであることが分かった……。

 指定された時間よりも四十分も早く着いてしまった。で、自分だけではなく、大半の子が同じころに着いている。

―― アハハ、みんないっしょなんだ(^_^;) ――ちょっと落ち着いた。

 控え室で、赤いスウェットに着替え、貴重品は部屋の隅のロッカーにしまって、席に着くと再び緊張。

 最初は、集団でダンスのテストなので、ストレッチをしてみた。すると、それが、まるで合図であったかのように、みんながストレッチを始めた。大きなミラーに映る自分のストレッチをみんなが真似しているではないか!

「あ、あの……わたし、インストラクターじゃありませんから」

 そう言うと、みんな戸惑ったような顔をしていたが。一人の子が言った。

「じっとしていても落ち着かないから、あなたがインストラクターでいいわよ」

 で、なんだかリハーサル室のようになり、なまじっか鏡なんかがあるので、ストレッチにも熱が入り、呼び出しのアシスタントの人は、部屋に入るなり驚いてしまった。

「オーディションは、これからなんだけど……」

 さすがに、呼び出しがかかると、みんなは審査会場へと、急いだ。

「あ、忘れるとこだった!」

 栞は、慌ててロッカーからお守りを取りだした。

 ダンスのテストは十人一組、振り付けの先生から十分間振りを教えてもらい。三十秒のダンスを、五人ずついっぺんに審査する。それを二回くり返すと一組が終わり、次の組みになる。
 栞は、一カ所振りを間違えたが、明るく元気に踊り終えた。「弁護が不利になったときほど、落ち着いて穏やかに」という父の言葉を思い出したからである。振りと不利が掛詞になっていることに気づき、思わず笑ってしまいそうになるくらいであった。

 歌唱テストは、さすがに一人ずつだった。歌はなんとかこなしたが、問題は、その後のスピーチだった。テスト課題には載っていなかった。

「最近のアイドル界、どう思います?」

 いきなりだった。

「……正直、音楽とかCDの世界って縮小の方向じゃないですか。でも、これをマイナスにとらえるんじゃなくて、アイドルが自分の力で、自分の形を作っていく良いチャンスだと思うんです。ブームの時は型にハメルだけでカッコつくようなところがありますけど、今はそんな時代じゃありません。アイドルにもプロデューサーにとっても面白い時代だと思います」
「アイドルにとって、大事なモノはなんですか?」
「自信です! 根拠のない自信。根拠のある自信は、その世界に自分を閉じこめてしまいますが、根拠が無ければ、いろいろ試して持てばいいんですから」
「じゃ、手島さんの、今の明るさは……」
「はい、ただの自然な爽快感です」
 
 栞は、思い切りの根拠無しの笑顔に輝いていた……。

 

 

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ピボット高校アーカイ部・4『さよなら三角また来て四角』

2022-04-27 11:40:32 | 小説6

高校部     

4『さよなら三角また来て四角』

 

 

 え……着替えるんですか?

 

「言ったろ、部活中は着替えるって。今日から正式な部活が始まるんだ。鋲も着替えなくちゃならんだろ」

「えと……だって、これセーラー服ですよ(^_^;)」

「あ……トランスなんとかで五月蠅いんだったな。じゃ、選ばせてやる……どっちにする?」

「じゃあ、学生服の方で」

「そうかぁ……ほれ」

「なんで、つまらなさそうにするんですか(^_^;)」

「いや、セーラー服の方が似合うと思っていたんでな。ま、気にするな」

「じゃ、着替えてきます」

「ここで着替えるんだ。部活中は部室を出てはいかん」

「え、そうなんですか?」

「ああ、集中力の要る部活だからな」

「ええと……」

 

 部室を見渡す……教室一つ分の大きさはあるんだけど、身を隠すところがない。

 

「手間のかかる奴だなあ……よし、こうすれば恥ずかしくないだろ」

 段ボールの中から唐草模様の風呂敷を出したかと思うと、先輩の制服をかけたマネキン人形に持たせて目隠しにした。

「えと……ま、いいや」

 覚悟を決めて目隠しの陰で着替える。学生服なんて着たことが無いから、首元の窮屈さが馴染めない。

「ほう……着やせするタイプなんだな」

「え?」

「すまん、そこの鏡に映るもんでな。あ、向こうを向いていよう」

「……(////·-·´///)」

 さっさとズボンを履き替えて、上着を着る。

「着替えました!」

「よし……なんだ、ちゃんと襟を留めんか」

「留めるんですか?」

「当たり前だ、詰襟を留めないのは、制服のリボンが無いのと同じだぞ」

「……えと……あれ……」

 初めての詰襟なので、なかなか留まらない。

「不器用だなあ……」

「え……あ……」

 先輩が寄ってきて留めてくれる、鼻息のかかる近さ! シャンプーの匂いとかするし!

「よし、これでいい……顔が赤いぞ」

「あ、アハハ……」

「そうか、こんな近くに異性に迫られるのは初めてなのか」

「あ、その……」

「わたしも不器用なんでな、ま、鋲も慣れろ」

「はい」

「じゃ、さっそく始めよう。そこに座ってくれ」

 

 先輩は、部屋の隅にある向かい合わせの椅子を示した。

 座ると、足もとが明るくなる……え、魔法陣?

 

「最初は目が回るかもしれん、目をつぶってもいいぞ」

「はい」

 素直に目をつぶると、足もとがグラッとした。

 グィーーーン

 遊園地のコーヒーカップが回るのに似ているけど、そこまでは激しくない。

「よし、目を開けていいぞ」

 

「…………ここは?」

「始まりの地だ」

 

 オフホワイトというかライトグレーというか、目に痛くない程度の白い世界。何も描いていない液タブの画面的な感じ。

「ええと……そこだ」

 先輩が少し離れたところを指さす。

 何もないと思っていたら、音もなく大きな横になった三角形が現れた。

「よっと」

 先輩が小さく蹴ると、三角は膝の高さほどに浮きあがった。

「なんですか、この三角は?」

「アーカイブのゲートだ。しばらく使っていなかったので三角になってしまったんだ……そっちの方を持ってくれるか?」

「あ、はい」

 先輩と二人で三角の一辺を持つ。

「暖かい」

「うん、起動し始めてるんだ。だが、入り口として機能させるには、もうひと手間いる。わたしの合図で引っ張ってくれ。リヤカーを引っ張るくらいの力でいいぞ」

「リヤカーなんて曳いたことないです」

「えと……じゃ、適当にやれ、いくぞ……イチ、ニイ、サン!」

 ギイイ…………ポン!

 軽いショックがあって、三角は変形した。

「四角になりましたね!」

「ああ、これで、しばらく置いておけば安定する。今日はここまでだ。じゃ、戻るぞ」

「あ、はい」

 

 来た時とは逆の順序で部室に戻った。

 

「あの三角と四角はなんなんですか?」

「言ったろ、アーカイブへのゲートだ」

「はあ……」

「さよなら三角また来て四角だ」

「は?」

「分かりやすいだろ」

「はあ」

「じゃあ、今日はここまでだ。わたしは後片付けするから、先に帰っていいぞ」

「あ、はい」

―― え、これでおしまい? ――

 思ったけど、口にしたら、また変なことが起こりそうなので、大人しく校舎の外に出る。

「ええ?」

 

 ほんの十分ほどしかたっていないと思っていたけど、もう西の空に日が沈みかけていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなかびょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなからこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・30『赤いスウェット』

2022-04-27 06:36:46 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

30『赤いスウェット』

          


「お母さんには二度会い、お父さんには一度も会えへんもん、なーんや!?」

 今日の日本史Aの始まりが、これだった。
 まるでナゾナゾ。いや、ナゾナゾそのものだった。そもそも最初の授業がデーダラボッチの話だった。

「むか~しむかし、常陸の国にデーダラボッチいう、雲を突くような大男がおった。毎日こいつが海岸に行っては、しこたま貝を口に含んで、もぐもぐしながら住みかに帰っては、ぺぺぺと貝がらを吐き出した……これから何が分かる?」

 正解は貝塚であった。

 関東地方の貝塚は海岸線から遠く離れたところで発見される。これは縄文時代の温暖な海進期に、海岸線が関東平野の奥まで達していて、たくさんの貝が採れ貝塚ができた。二千年ほど昔に始まった海退によって海岸線がひいて、今のそれと変わらなくなり、古代人たちは「なんで、こんな海から離れたとこに貝殻がいっぱいあんねん?」と、思った。で、まさか海岸線が移動したりするなんて思いもつかなかった。ほんでデーダラボッチいう巨人をしたてて、つじつまを合わせた。

「ファンタジーや思えへんか!?」

 で、デーダラボッチ、ダイダラボッチの分布範囲を黒板の地図に記す。

「これで、縄文時代が温かったのが、ようわかる。農業せんでも、食い物はどこにでもあった。ジブリの作品にも、こいつが出てくるなあ」

 で、ひとしきりジブリの話をして、あとは教科書○ページから○ページまで読んどけ。で、プレ縄文と縄文時代の話はおしまいである。並の教師なら二週間はかかる。乙女先生の信念は近現代史にある。それまでは、こんな調子。三年の生徒達は、乙女先生の授業をバラエティー番組のように思っている。

「答えわかったか?」

 生徒たちは、顔を見交わし、クスクス笑うだけ。

「イマジネーションのないやつらやなあ。正解はクチビルや!」
「ええ!?」
「クチビル付けて母て言うてみい」

 生徒たちは、パパとかババとか言って喜んでいる。

「平安時代は、そない発音したんや。微妙にクチビルが付く。で『ファファ』になる。ほかにも濁音の前には『ん』が入る。今でも年寄りの言葉に名残がある。『ゆうべ』は『ゆんべ』になる。せやから、当時の発音で源氏物語を読んだら『いんどぅれの、おふぉんときにてぃかふぁ……』」

 表情筋を総動員してやるので、笑い死に寸前のようになる者も出る。乙女先生は、半分冗談で酸素吸入器を持ち歩いている。

「で、こういう言葉を表現しよ思たら、漢字では間に合わんよって、片仮名・平仮名が生まれた『お』と『を』の発音の違い分かるか?」

 何人かが手をあげる。「O」と「WO」を使い分ける。クラスの1/3が分からない。で、生徒たちに教えあいをさせる。「え」と「ゑ」の違いも披露し、今の日本語が平板でつまらなくなってきたと脱線して、「国風文化」が終わりとなり、来週はめでたく摂関政治と院政のだめ押しをやって「武家社会」に入る。

 乙女先生は、無意識ではあるが、日本史Aという授業の中で、総合学習をやっている。ちなみに、乙女先生は、日本史とはいわずに国史と……たまに言う。

「えー、こんなのもらってもいいの!?」

 栞が、喜びと驚きを同時に表現した。昨日来たさくやのお姉さんがMNB受験のためにスウェットの上下とタンクトップをくれたのである。

「へへ、お姉ちゃんも、若かったらやりたいとこや言うてました」
「変わったブランドだね『UZUME』いうロゴが入ってる」
「まあ、一回着てやってみましょか?」

 そこは女の子同士、チャッチャッと着替えてスタンバイ。以前も思ったが、さくやはナイスバディーだと思った。この子が制服を着ると、とたんにありふれたジミ系の女子高生になるから不思議だ。似たようなことはさくやも思った。制服の栞は硬派の真面目人間に見えるが、歌ったり踊ったりすると、目を疑うほど奔放になる。

「これ、ステップとターンが、とても楽にできる!」
「それは、なによりですう!」

 MNBのオーディションは明日に迫っていた……。

 

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せやさかい・303『メグリン』

2022-04-26 16:13:35 | ノベル

・303

『メグリン』さくら   

 

 

 集めてるというほどやないけど、テイ兄ちゃんは10個ほどのフィギュアを持ってる。

 ときどき「ええやろ~(^▽^)」言うて見せてくれるんやけど、ちょっとキショク悪い。

「この子だけ大きいなあ」と感心したのがある。

 スクールアイドルのんやけど、マイク持ってサビの決めポーズみたいな、その子だけが首一つ大きい。

「スケールが違うねん」

「スケール?」

 言われんでも、スケール=大きさが違うさかいに、言うてる意味が分かれへん。

「いや、縮尺や。他のは1/7とか1/8やけども、このメグリンは1/6やねん」

「……なんか、圧倒的な存在感やねえ」

「そら、値段もそれなりやったし、スケールが大きい分作り込みもちゃうしなあ(#´ε`# )」

「ああ……そう(^_^;)」

「ほら、これ見てみい」

 慣れた手つきでスマホを操作すると、メグリンのイラストがいっぱい。

 イラストは普通の背丈で他のメンバーと並んでも違和感はない。

 せやけど、テイ兄ちゃんの他のフィギュアと並ぶと、やっぱり圧倒的。

 

 そのメグリンの印象が、ググっと頭に浮かんだ!

 

 留美ちゃんは提出物があるので、今朝は、一人で教室に向かった。

「おはよ……」

 と、ドアを開けて声が停まってしもた。

 例の席にメグリンが座ってる!

 1/7の世界に紛れ込んできた1/6!

 窮屈そうに1/7の席に座って頬杖付いて外を見てる。たまたま朝一番やったんで、この瞬間、教室はうちとメグリンの二人。

 他の子が居ったらごまかしようもあるんやけど、二人だけやから、対応せんと気まずいやおまへんか!

「~~~ヾ(^∇^)おはよー♪」

 メグリンが振り返って笑顔で挨拶してくれる。

「あ、ああ、~~~ヾ(^∇^)おはよー♪」

 おんなじテンションで返す。

 人間関係は最初が大事。

 なんか気の利いたことを言お思て、一拍遅れてしもた。

「いや、隣の席なんだね、よろしく、古閑(こげん)めぐり。よろしくね」

「はいぃ、うち酒井さくら。よろ~」

「ごめん、座ったままだたね、よいしょっと……」

「うお~~~!」

「アハハ、背丈だけはあるから、もうしわけない(^_^;)」

 立ち上がると、メグリンとは、まるまる首一個分違う。

「なんぼあるのん?」

「ひゃくななじゅう……ごせんち……かな?」

「153センチやし……」

「ああ……いいよね、それくらいが……」

「いやいや、そんなことあれへんよ! 背丈なんて、数ある個性の一つやし」

「あはは、そうだよね、酒井さん」

「あ、うちのことは『さくら』でええさかいに!」

「そうか、じゃ、わたしのこともメグリンでいいよ」

「メグリンて呼ばれてたん?」

「ううん、メグとかメグッチとか、進撃の巨人とか」

「ああ……」

「メグミって間違われることが多かったけど、正しくはめぐりだからね、メグリンはいいと思う」

「そうか、メグリやねんねえ、大阪におったわりには訛ないねんねえ、あ、うち安泰中学やったし」

「そうか、先生が言ってた隣の中学ってさくらのことだったんだ!」

「あ、もう一人おるよ。ほら、いま入ってきた子」

 ちょうど留美ちゃんが入ってきた。さすがに、うちみたいな無作法な反応はせえへん。

「おはよう」

「あ、おはよう……」

 ポーカーフェイスで座ろうとするから、フォローする。

「榊原留美、おんなじ安泰中学、留美ちゃんも標準語っぽいから馴染みやすいと思うわ」

「よろしくね、榊原さん。わたし、親の仕事で日本中渡り歩いてるから、どこの方言にもなじめなくって……まあ、そういうことでよろしくね」

「は、はい、こちらこそよろしく」

 メグリンは、わざとらしくかがんだりせんと話してくれる。

 背丈なんかは、生まれ持った個性やさかい、お互い変な気の遣い方はせん方がええと思う。

 内申書のこともあるしね。

 

 うちが気楽に喋れたこともあって、それから続々と入ってきた同級生とも普通にやれてた。

 まあ、一年生やし、真理愛学院は真面目っぽい子多いし。

 ペコちゃん先生は特になにも言わんと出席とってショートホームルームやって、おしまい。

 一時間目が終わったら、入学式からいっしょに居ったみたいになった。

 ただ、廊下とか歩いてたら、他のクラスの子ぉらは、ちょっとビックリしてたけどね。

 メグリンがスクールアイドルアニメのキャラやと言うたげると、喜んで検索。

 アニメのメグリンは『目黒凛』という名前やいうのが分かった。

「おお、ツンデレ! かわいいねえ!」

 本人も気に入って、めでたしめでたしの一日やった。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 めぐり    さくらと留美のクラスメート メグリン
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鳴かぬなら 信長転生記 70『卯盃の城門』

2022-04-26 10:41:13 | ノベル2

ら 信長転生記

70『卯盃の城門』市   

 

 

 サル(秀吉)に似ていると思った。

 

 見かけじゃないわよ、曹茶姫はわたしの次くらいの美人よ。

 もし、ミス転生コンテストとかがあったら、茶姫は間違いなくミス三国志。わたしはミス扶桑よ。

 そして、三国志・扶桑の決勝戦で、あの子は一票差ぐらいで準ミス転生。

「あなたもなかなかだったわ、もし、審査基準に権謀術数とかがあったら、わたしに勝ち目はなかったかも」

 と讃えてあげる。

 そうなのよ、豊盃で出会って以来、茶姫には意表を突かれてばかり。

 皆虎の街では南進すると見せかけて、まさかのUターン、閉ざされていた出征門を爆破すると同時に北進。

 一瞬騙されたと唇をかんだ。

 たった今まで、信長と、その妹のわたしを取り込んで……実は人質にして扶桑の国(転生の美称)を攻めるのかと思ったもの。

 悔しいけど、兄の信長はその反転を見抜いていて、出征門を出る時もニヤニヤして――オレと並ぶほどかも――とか思ってやがるのよ。

 このどんでん返しが、サルの中国大返しに似てると思う。

 ほら、兄貴の一生一代の大ポカ。本能寺で光秀にぶち殺されて、その知らせを受けたサルが、毛利と和睦して、たった三日で姫路に駆け戻って、山崎で光秀ぶちのめしたあれよ。あの決断力と敏捷さ。

 血の滲む唇をなだめながら、転生のみんなに見せびらかすように国境の森の前を西に進む茶姫軍。

 その中軍を近衛騎兵として疾駆するわたし。

 途中、丘の上に信信コンビと武蔵が望遠鏡でこっち見ているのに気付く。

 斥候なんだろうから、もっと身を隠しなさいよって思うんだけど、堂々と身を晒して、それがまたカッコいいからムカつく。

 痛っ!

 また唇を噛んでしまった。

 謙信なんか、馬の背中に立って双眼鏡構えて、あれって……大坂城落城の時の木村君のパクリじゃん。

 木村君、木村重成よ。大坂方随一のイケメン。

 最後の出撃じゃ、覚悟して兜に香を焚き締めて、討ち取られてからも家康に「天晴れなイケメン!」と惜しまれた木村君よ。

 

 わたしに尽くす男子は、みんな幸薄のイケメン。

 

 旦那の浅井長政、大野治長・治胤兄弟、無骨だけど柴田勝家、そして木村重成。

 木村君は、戦国時代のキムタクなのよ。そうよ、キムタクよ。

 平和が続いたら、朝廷に働きかけて内匠頭(たくみのかみ)に叙任させてあげるつもりだった。

 そしたら、名実ともにキムタクだもんね!

 馬の背中に乗って、燃える大坂城に手を合わせるって、とってもクールでしょ! 泣かせるでしょ!

 男って、ルックスだけじゃダメだと思う。

 悲劇的な局面でも、クールに振舞えてこその男子よ!

 一ノ谷の合戦で熊谷直実に首を盗られた平敦盛、最年少で赤穂浪士に加わった矢頭右衛門七、そして木村君。

 この三人は、日本史上の三大イケメンなのよ!

「オレなんか、馬の背に立って立小便してたぞ」

 兄貴が馬を寄せてきたかと思うと馬鹿を言う。

「うっさい!」

「サルは、馬の尻で逆立ちして笑わせてくれた」

「うっさいうっさい! あっち行け!」

「尖がってないで、あっちを見ろ。あれは卯盃(ぼうはい)の城門だ」

「ボウハイ?」

「卯の盃と書く。三国志、東の果てだ」

「あそこに入るの?」

「ああ、三国志と扶桑の境を一気に駆け抜けて、敵味方に存在感を誇示して……さて、茶姫は、この先をどうするつもりだぁ?」

「ちょっと、ニヤニヤしないでよね」

「見ろ、城門を」

「え……うさ耳!?」

 なんと、接近するにつれて、城門の屋根に大きなうさ耳が立ち上がってきた。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・29『デベソが丘の御宅皇子』

2022-04-26 06:20:59 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

29『デベソが丘の御宅皇子』

          

 

 技師の立川さんは驚いた。

 たったいま登ってきた階段の下、そこにあるベンチに、桜色のワンピースを着た長い髪の女性が座っていたからである。

 中庭の「デベソが丘」は、前身の府立高校を作るにあたって方墳を調査の後取り壊したのであるが、地元からも惜しむ声が強く、記念に1/4サイズのものを作り、記念碑のようにしたものである。

 文化財保護と第二次ベビーブームの新設高校建設の両方を迫られる大阪府としては、なんとかギリギリの妥協の産物であった。むろんお祀りや、神道の行事めいたことはいっさいやっていない。

 青春高校の前身のころは、生徒のいい遊び場であったが、怪我人がちょくちょく出るので、学校としては立ち入り禁止にしようとまで考えたが、生徒の方が自然と寄りつかなくなった。怪我だけではなく、ここに登ったカップルは別れてしまうというジンクスがたったからである。

 一応、中庭の掃除にあたった生徒が、ここも掃除することになっていたが、立川さんは、方墳の真ん中、ほんの一坪分に校内にあった石を貼り付けてフキイシとし、中央に大きなまな板ほどの石を置いて、見る者が見れば塚らしく見えるようにして、この一坪余りの掃除は自分で朝夕二回するようになった。

 朝は、ほんのひとつまみの塩を置き、白いおちょこに水を供え、軽く手を合わす。水は、そのあとすぐに塩にかけて、宗教じみた痕跡は残らないように気を付けている。
 
 今日も、その日課を果たすため、このデベソが丘に登って、儀式を終えたところである。

 それが振り返ってみると、今の今まで気づかなかった桃色のワンピースと目が合って、まるで悪戯を見つけられた子供のようにうろたえた。

「どうぞ、そのままで……」

 女性は、ほとんど声も出さず、口のかたちと仕草で、気持ちを伝えた。

「卒業生の方ですか?」
「いえ、こう見えましても保護者です」
「え……あ、お姉さんですか?」
「はい。近所なもので、ついでに寄らせていただきました。御宅皇子(おたくのみこ)のお墓守をしていただいてありがとうございます」
「さすが、ご近所。お若いのに、この塚の主をご存じなんですねえ」
「継体天皇の、六番目の皇子……ってことぐらいしか分かりませんが、昔から、この在所の鎮守さま同然でしたから。ひい婆ちゃんなんかは、毎朝、ここと鎮守様には手を合わせていました」

 そういうと、女性は、ささやかに三回手を打って、軽く頭を下げた。

「ご用はお済みですか。なんなら担任の先生に……」
「ええ、もう用事はすみました。あの子の元気な姿も見られましたし」
「妹さんには……」
「フフ、ほんの一睨みだけ。それでは、ごめんなさいませ」
「はい、あ、どうも……」

 立川技師は、年甲斐もなくときめいている自分を持て余し。腰にぶら下げたタオルで顔を一拭きした。

「……でも、どうして妹って分かったんだろう?」

 立川は、その子の顔まで分かったような気がした。顔も、性格もまるで違うのに……。

「ということで、来週月曜は、臨時の全校集会とし、駅までの清掃をいたしますので、ご協力お願いいたします。役割分担等は、レジメに記してありますのでよろしく。ま、細かいところは保健部出水先生に、よろしく」

 定例の職員会議で、生指部長を兼ねる首席の筋肉アスパラガス桑田が発言した。

 前回の生指部会は、官制研修で抜けていたので、乙女先生は知らなかった。近所で評判が悪いことを知っているのは自分ばかりではなかった。そういう安心感はあったが、せめて一言言えよなあ、と乙女先生は思った。

 職会で報告されるということは、運営委員会でも発議されているはずで、それ以前に部会にかけて……。

 そこまで思って、乙女先生は、自分の官僚主義的な考えに苦笑した。この半月は栞にまつわる事件……と言っても栞に落ち度はないんだけど、落ち着いた学校運営など出来ていなかった。これぐらいのフライングは良しとすべきであろう……と、乙女先生は思い直した。

 

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せやさかい・302『あの子、来てへん』

2022-04-25 16:15:22 | ノベル

・302

『あの子、来てへん』さくら 

 

 

 酒井さん!

 はひ!

 クスクスクス( ^ิ艸^ิ゚) ププ(Ŏ艸Ŏ) ウフ(❁´ω`❁) アハ( ^ิ艸^ิ゚)

 また笑われてしもた(-_-;)

 これで三回目。

 

 朝、教室に入って見たら、窓側の机が一つ多い。

 ピンときた。ペコちゃん先生が言うてた例の子や。

 安泰中学の隣の中学出身で、なんでか入学が今日からの子。

 たぶん、堺市が発表してた内申の成績間違うて付けられてた子。

 75人も付け間違いがあって、高めに付いてた子もいてるけど、中にはホンマの成績よりも低く目に付けられてた子も居てて、本人が希望したら、その子らは追加合格になるとニュースで言うてた。

 それに違いない。

 なんかの事情で登校が遅れてるだけやったら、定員の中に入ってて、入学の日から名列にあるやろし、席もあるはず。

 それが、今日からやいうことは、やっぱり……そうやねんわ。

 それに、内申のわずかな加点で合格が決まるいうことは、テストの点数は低い『わたしはアホです』言うてんのといっしょ。

 やっぱり、いざ、登校するとなると……抵抗あるやろなあ……自分を、その立場に当てはめてみると、そういう結論になる。

 それに、入学の日から机の右前に貼ってある名前の紙が、その机には貼ったあれへん。

 いや……よう見ると、机の、その場所には、いったん貼って剥がしたようにセロテープの跡がある。

 やっぱり、朝になったら、ようこうへんようになってしもて、朝一番で学校に電話して、ペコちゃん先生が慌てて教室に行って名札を剥がした。

 ペコちゃん先生は、学校の裏手の神社やさかいに、走ったら一分もかからんと学校に来れる。

 そうなんや、ペコちゃん先生が安泰中学辞めて、真理愛学院に来たんは、そういう職業倫理感みたいなもんもあるさかいや。

 直接、うちらには言わへんけど、ようできた先生や。

「こら、さくら!」

「ハヒ!」

 いつのまにか、次のペコちゃん先生の現社になってしもてて、慣れた口調で怒られてしもた。

 (灬º 艸º灬)(灬º 艸º灬)(灬º 艸º灬)(灬º 艸º灬)(灬º 艸º灬)

 教室のクラスメートのみなさんは必至で笑うのん我慢してるし(≧▽≦)。

 

「せんせー!」

 授業が終わると、うちは、廊下に飛び出してペコちゃん先生を掴まえた。

「せんせ、例の子は!?」

「え、あ、ちょっとね……そんなことより、授業中はちゃんと集中しなきゃダメだぞ」

「そら無理です! あんなに前振りされてしもたら気になってしゃあないです!」

「先生、他にも言ったよ」

「はい、分かってます!」

 廊下で説教されてはかなわへんので、すぐに回れ右。

 教室の前で留美ちゃんが二人分の体操服抱えて待ってる。

 せや、次は体育の授業やった!

 一年生の真面目さで、もう、教室に残ってるもんは一人も居てへん。

 日直の○○さんが(まだ名前憶えてへん)困った顔して後ろのドアの前に立ってる。

 せや、日直は戸締りせんと行かれへんねんや!

「ごめん、えと……」

 いちおう謝るけど、名前を付けて謝られへん。

 ああ、なんか横柄に聞こえたやろなあ……。

「伊達さんだよ(-_-;)」

 留美ちゃんが教えてくれるけど、本人は、ちゃっちゃと走って、すでに後姿。

 挨拶とか声かけとかは、タイミングを失うと言われへんもんです。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
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銀河太平記・105『西之島市役所の邂逅』

2022-04-25 10:47:00 | 小説4

・105

『西之島市役所の邂逅』越萌マイ(児玉隆三)  

 

 

 西之島市の市長は元国交省の及川軍平だ。

 及川は数年前に、パルスガ鉱の商業採掘が可能になって、発展が見込まれるというので、それまで自治区同然だった西之島を本土並みの管理、つまり、美味しいところは全部国が持っていくための政府責任者として送られてきた。

 しゃくし定規に本土の制度や法律を導入して、短時日の間に開発の主導権を握ろうとしたが、社長・村長・主席をリーダーとする島民の怒りを買った。

 危うく、ナバホ村のマヌエリト村長に殺されそうになったが、同時に、その不手際を政府から糾弾され西之島開発局長の任を解かれ、あやうく西之島でホームレスになりかけたところを、カンパニー社員食堂のお岩さんに拾われて、一島民として生きていく決心をしたのが五年前の秋。

 紆余曲折はあったが、その行政手腕と総合力を買われて西之島市の初代市長に押されたのだ。

 

「いやあ、さすが及川君だ、敵の尻の毛まで読んでいたなあ」

 髪の毛のことごとくが鼻の下に移動したような頭をピシャピシャやりながら孫大人は面白がった。

「やつらの考えていることは、省益と身の保全です。それを担保にするような提案には乗って来ません」

「これで、三度目の持ち帰りになったな」

「北区の新規事業は総合開発です。採鉱、選鉱、輸送、移民、IR誘致、総合リゾート開発、国防拠点造成、新教育機構の構築、水産事業、宇宙港、それらをいっぺんにやろうというのです。国交省や通産省の官僚の手には負えません」

「まるでレプリケーターのメニューのようだ」

「なにをおっしゃる。孫大人こそ、世界の五本の指に入ろうかというコングロマリットではありませんか」

「コングロマリット……他の奴が言うと別称だが、及川君に言われると誉め言葉に聞こえる」

「いや、じっさい褒めてるんです。我々が目指すのは海のマンチュリア、壮大な志が無ければ実現できません」

「そうさなあ……マンチュリアは良くやっているが、北はロシア、南に漢明中華が地続きだ。そこへ行けば西之島は四方が海。世界の30%の産出力を誇るパルス鉱。氷室カンパニー、ナバホ村、フートンで培われた突破力、団結力。それに、及川君の人脈と行政力だ。儂の方こそ期待しているよ」

「相手は日本政府です、一見与しやすいが、老獪です。背景には皇室の権威と国民の『和を以て貴しとなす』の空気があります」

「そうだな、日本人の『みなさんそうなさってます』根性は侮りがたい……」

「行政的汚れ仕事は全てわたしが引き受けます、その他の汚れ仕事は孫大人が引き受けてください」

「及川の倅も言うようになったもんだ」

 ワハハハハハハハ(^O^)(^Д^)

 

 孫大人と及川市長の高笑いは、ちょっと男前にした越後屋と悪代官のようだ(^_^;)

 

「あははは……(^_^;)」

 さすがのメイも頬が引きつってる。

「どうして、ここまで見せるんですかあ」

「いやあ、越萌姉妹社とは裏表のない付き合いをしたいんでなあ」

「西之島市の行政コンセプトは透明性ですから」

 そう言うと、笑いながら、ホログラムのスイッチを切る市長。

 わたしとメイが訪れる直前まで、国交省と通産省の役人を凹ませていたところだ。

「お待たせしました、それでは西之島北東部開発について……」

「市長、それはホログラムでは無くて、リアルの現場を見てやりましょう」

「それは、いいご提案です。では、担当部署の責任者も同行してもらいます。もしもし、総務課長……」

 総務課長に連絡をとろうとする及川を孫大人が制した。

「市長、越萌さんとも久方ぶりなんで、儂の車で行くよ。いいだろマイさん」

「はい、喜んで」

「お姉ちゃん、わたしは市長と行くわ。担当の人たちの顔早く見たいから」

「そう、じゃあ現地でね」

 

「あらあ、馬なんですか?」

 駐車場に下りると二頭の馬(オートホース)が繋がれている。

「少しの間、北大街の昔を思い出すのもいいでしょう、元帥」

「フフ、元帥はモスボールしましたよ」

「じゃあ、お互い幻になったつもりで……ほら、日も高くなって、道に逃げ水も揺蕩うている」

「そうね……では、行くか」

 ポックリポックリと北区の新開発地区を目指した。

 百メートルも行かないうちに市役所のマークを付けたバンが追い抜いて行く。同乗の役人たちには、コングロマリットの総帥孫大人と越萌姉妹社の越萌社長がいい仲に見えたかもしれない。

 あの満州の野は『北京秋天』の青空が似合ったが、西之島には蒼空に湧き出でる入道雲が似つかわしい。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・28『は・し・た・な・い』

2022-04-25 06:21:55 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

28『は・し・た・な・い』

 

 

 来客用のお茶をすすりながら、乙女先生は考えをまとめている。
 
 といって、校長室で乙女先生が来客の待遇を受けているわけではない。

 直前まで来ていた来客が口も付けずに飲み残していったお茶がモッタイナイからである。更年期……と言ったら張り倒されそうだが、乙女先生は、よく喉が渇く。昨日栞とさくやを連れて行った『H(アイのてまえ)』でも、コーヒーを二杯、水を三杯も飲んだ。まだ連休前だというのにすぐに汗になる。タオルハンカチで遠慮無く汗を拭く。

 校長は苦笑いした。

 着任当時より乙女先生は飾らない態度をとるようになった。なんせ生まれも育ちも、『ド』付きの河内、岸和田のネエチャンである。仲良くなれば、すぐにメッキが剥がれる。その年齢相応な河内のオバチャンぶりと、見ようによっては20代の後半に見える若々しさのギャップが、楽しくも哀しくもある。亭主も時々言う。

「せめて、脇の下拭くときぐらいは、見えんようにしてくれへんか」
「ええやんか、股の下とちゃうねんから」

 亭主は、見てくれの段階でプロポ-ズしたことを後悔する。

「先生が、職会でおっしゃっていた、改善委員会に地元の方を加える話ですが……」
「今までの町会長は、ありえませんね」
「同感です。学校を見る目がアウェーだ」
「言うときますけど、アウェーやない人なんかめったにいてませんよ」
「その中で、あえて推薦していただけるとしたら、どなたでしょうなあ……」

 校長は、さりげなく窓を開けに行った。乙女先生が考える間をとるためと、さすがにブリトラでは暑いせいだろう。

「確認しときますけど、校長さん、この改革が上手いこといくとは思てはれへんでしょうね」
「は……?」
「梅田はんら三人懲戒にかけて、改善委員会つくって。言うたら、学校が全部被って、府教委は何にもせえへんのでしょ?」

 校長は、空いた湯飲みに水を入れ、観葉植物に水をやった。

「なるほど、言わずもがなでんなあ。水やるフリやいうのんは、とうにご承知」
「いや、これは、単なるわたしの癖です。これでもけっこうゴムの木は育つようです」
「枯れぬよう、伸びぬよう……」
「辛辣だなあ……こいつは、わたしが赴任したころには枯れかけていたんですよ」

 そう言って、校長はゴムの鉢植えの向きをを変えた。植物用の栄養剤が二本刺されている。

「失礼しました。そやけど府教委は、学校を鉢植えのまんま大きい実を付けろいうてるようなもんです」
「ごもっとも、そんなことをしたら鉢植えは枯れるかひっくり返るか……」
「ひっくり返る頃には、エライサンはみんな定年で、関係なし」
「それでも水をやり続けるのが、我々の仕事でしょう」
「それやったら、津久茂屋の恭子さんでしょ」

 

 そのころ、新子とさくやは、第二音楽室を使って、歌とダンスの練習の真っ最中だった。

 君のハート全て ボクのもの~♪ イェイ!

「「キマッタ!!」」

「ああ、汗だくだあ」
「今日、昼から夏日ですからね」

 栞はガラリと窓を開けた。思いがけない涼風が吹いてきた。

「ああ、生き返る……」

 そう言いながら、ポカリを飲みながら体操服の上をパカパカやった。

「先輩、おへそ丸出し」
「いいの、男子いないから」
「でも、こう言っちゃなんですけど、わたしらエエ線いってる思いません?」

 と、不思議に汗もかかない顔で言った。

「自分のことはよく分からないけど、サク、かなりいけてんじゃん」
「先輩のパワーには、負けます」
「今の、チェックしとこうか」

 二人でビデオを再生してみた。

「せんぱ~い、ほんまにイケてますよ。こないだの偉い先生との対談からは、想像できませんよ(^▽^)!」
「わたしって、つい真面目で、真っ直ぐな子だって思われるじゃない」
「昔から?」
「うん、小学校のころから」
「弁護士の子やし」
「ああ、それ言われんの、一番いや!」
「それで、家ではハジケてたんですね」
「ほんとは、賑やか好きのオメデタイ女なの。サクチャンこそ、これだけ踊って、なんで汗かかないの?」
「顔だけです。首から下は汗びちゃ」

 体操服とハーパンをめくってみせた。チラっとイチゴのお揃いの下着の上下が見え、湯気をたてている。
 そのとき、さくやは視線を感じ、窓の下に目を奪われた。

「あ、ああ……お姉ちゃんヾ(◎o◎,,;)ノ!」

 さくやのおねえちゃんは「は・し・た・な・い」という口をして、校舎の玄関に入っていった。

 

 

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せやさかい・301『え(#°д°#)!?』

2022-04-24 10:32:02 | ノベル

・301

『え(#°д°#)!?』さくら 

 

 

 殺生やなあ……

 

 朝ごはんの食器を洗てたら、ダイニングのテーブルでテイ兄ちゃんの声。

「なにが殺生やのん?」

 残りの食器を取りにリビングへ行くと、新聞見ながら口を尖らせとおる。

「中学の内申書、75人分も間違うてて、合格するハズやった子が入試落とされてたんや。逆に、ほんまの内申よりも高くなった子もおって、わやくちゃや」

「ええ、どこの間抜けな街?」

「堺市や」

 

 え(#°д°#)!?

 

 思わず持ってた食器を落としてしもた!

「あっと!」

 うちの性格をよう知ってる留美ちゃんが、ダッシュして来て受け止めてくれる。

「アハハハハ」

 笑ってごまかしたけど、ちょっと足元の地面が無くなってしもた感じ。

 

 入学以来、学校の中が珍しくって留美ちゃんと探検しまくり。探検しすぎてクラスの事には目ぇ向いてへんので、担任のペコちゃん先生に怒られた。

 留美ちゃんは、ええ子やさかいに、直ぐに切り替えられたけど、うちはあきません。

 むろん教室には居るようにしたんやけど、じっとしてると眠たなってくる。

 ほんでもって、どうかすると授業中も寝てしまう。

 さすがに、現社の時間、ペコちゃん先生にあてられて「ハヒ!?」って返事して起きたんやけど、寝起きのブチャムクレ。デボチンは赤いし、ヨダレは垂れてるし、クラスのみんなに笑われるし。

 他の教科でもウツラウツラすることが多くて、これではあかんなあと思う。

 

 うちは、ほかの子ぉよりもアホなんちゃうやろか……?

 

 そんなことをチラホラ思てたとこ。

 そこに『内申書間違い事件』ですやんか、それも、ほんまの内申よりも高くなった子も居るって!

 きっとうちのことや!

 どないしょ!

『酒井さん、あなたの入試成績は、本来の合格点に達していないことが判明しました。申し訳ないけど、合格を取り消します』

 校長室に呼び出されて校長先生から宣告されてる姿が浮かび上がって来る。

「ちょっと、へんな妄想するんじゃないわよ(^_^;)」

 今や姉妹同然の留美ちゃんには、すぐに知れてしもて恥ずかしい。

「アハハ、だいじょぶだいじょぶ(^_^;)」

 

 で、家の手伝いやらしてるうちに忘れてしもたら、なんとペコちゃん先生がやってきた。

 

「やっぱ、お寺とか神社とかは落ち着くね……」

 ご本尊の阿弥陀さんに手を合わせてから、振り返るペコちゃん。

「学校に残してるもの取りにきたついで」

 この場合の学校は安泰中学。先生も寛いでしまうと地が出てしまうみたい。

「ところで……」

 切り出されて、朝の事が蘇る。

 いきなり校長先生に言われたらショックやから、担任のペコちゃん先生が下話に来た!?

 ちょ、留美ちゃん、なんでうちの手ぇ握るん!?

「じつはね……」

「はひ(;'∀')」

「月曜からうちのクラスに入って来る子がいるの」

「「え?」」

「わけは言えないんだけど、堺の中学の子でね。うちのクラスで堺から来てるのはさくらと留美ちゃんだから、気に掛けてあげてくれると嬉しいの」

「「え、あ……」」

「ハハ、ますます、本当の姉妹みたいになってきたね」

「ハハ、よう言われます」

「えと、その人の名前とかは?」

「……ま、月曜のお楽しみということで。じゃ、これで失礼するわ」

「はい」

 

 山門まで見送りに行くと、ピザ屋のデリバリーみたいな赤い屋根付きバイク。

「中古で買ったの、屋根も付いてるし三輪だしね、荷物もっぱい入るんだよ。嬉しくってワックス掛けたらピッカピカ」

「新車みたいですね!」

「ボディーに不二家って書いたらピッタリ!」

「え、あ、アハハハハ」

 ふり残りの雨が、バイクのボディーにもペコちゃん先生の頬っぺたにも小気味よく弾かれて、ええ感じ。

 思わずスマホを出して三人で写真を撮りました。山門の葉桜がきれいな緑で、うちらもバイクも瑞々しく栄えて、ちょっと嬉しかったです。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・27『アイの手前にて』

2022-04-24 06:11:29 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

27『アイの手前にて』

      

 


 どこかで見たことのあるやつらだなあ……乙女先生は思った。

 生指の官制研修のあと、前任校の先生と心斎橋通りを歩いていて気づいたのだ。ギンガムチェックと生成のサマージャケットの二人連れが歩いている。ギンガムチェックが、笑い転げた拍子にストローハットを飛ばしてしまった。それが乙女先生の足もとまで転がってきて確信になった。

「さやかと栞!?」

 と言うわけで、栞とさやかのコンビは乙女先生馴染みの喫茶店の奥に座っている。奥と言っても個室ではなく、L字の店の底辺にあたるところで、乙女先生が学生時代からの指定席である。前任校の友人は、カウンターの中で甲斐甲斐しく働いている。

 そう、ここは、その友人の両親が、半ば趣味でやっている、その道の(乙女先生のような人種)通の店である。
 店の名前は「H」と書いて「あいの手前」と読む。

「なるほど……!」

 看板を見て、さくやは笑い、栞は感心した。

「これって、『愛』と『遭い』を掛けてるんですね。だから『H』なんて、ドキッとするような字でも品よく見えるんですよね」

 乙女先生の友人は、その感覚を喜んだが、乙女先生の顔は、ちょっと厳しかった。

「栞、あんたは最近ちょっとした有名人やねんさかい、あんまり、こんなとこうろつかんといて欲しいな」
「あ、だから、私服で髪も変えてきたんです」
「せやけど、分かってしもた」
「そら、乙女ちゃんやさかいに」

 ミックスジュースと、ブラックコーヒーをテーブルに置きながら、友人が言った。

「確かに、よう見たら、SNSでお馴染みの栞ちゃんやて分かるけど、普通にしてたら分からへんよ。ま、もっとも、その眼力で淀屋橋高校の校長のアデランス見抜いたんやろけど」
「あのオッサンは、そのまた前任校でいっしょやったさかい、誰でも分かる」
「まあ、はよ本題に入って解放したげえよ。問題行動あったわけやないねんさかい」
「せや、本題や。あんたら何しとったんや?」

 さくやは、ソワソワと。栞は、じっと乙女先生の目を見ている。短い付き合いではあるが中身が濃いので、栞が、なにか計算しているらしいことはすぐに分かった。

「結果がでるまでは内緒にしていただけますか?」
「話の中身によるなあ……」

 甘い顔をしてはいけないと、乙女先生はブラックコーヒーを口に含んだ。

「わたしたち、MNBを受けるんです」
「ウ……!?」

 久々に飲む『H』のブラックコーヒーの香りで、予期せぬ感動の顔になってしまった。

「うわー、先生も驚いて、喜んでくれはるんですね!」

 さくやが見事に誤解した。

「うちも、最初はぶったまげて、ほんで嬉しなってしもたんです♪」
「なんでまた、MNBなんか?」

「フライングゲットです。和訳すれば、発展的な先取りです」

「どういうこっちゃ?」
「半分は、先生の責任です」
「は……?」
「箕亜のダンス部見たじゃないですか!」
「まあ、あんたらのしょぼくれた演劇部の刺激になったら思てな」
「すばらしかったです。でも、あんなのうちの学校じゃ無理です。ウェブでも調べましたけど、箕亜は、あそこまで行くのに20年かかってます。わたしたち、20年も高校生やってられません」
「いや、あれは気合いを……」
「気合いは、しっかり入りました。で、この実行です。こんどのことでは教育委員会も動いているようですけど、けしてうまくいきません。いままで、教育委員会が音頭を取ってうまくいった例はありません。説明は、これで十分だと思います」

 乙女先生の頭には、特色ある学校づくり・ゆとり教育・必修クラブ・宿泊学習・体験学習など、ほとんど失敗に終わった取り組みが頭を巡った。

「考えたんです。高校演劇とは、高校生がやる演劇です。間違ってないですよね?」
「うん。愛ちゃん、コーヒーお代わり!」

 さくやが、いそいそとコーヒーのお代わりを運びにかかった。

「演劇とは、広い意味で肉体を使うパフォーマンスのことです。だったらMNBも同じです。あそこの構成メンバーの半分は現役の高校生です。在阪のパフォーマンス集団の中で、一番ビビットに活動でき、可能性があるのがMNBだと結論づけました。なにか間違ってます?」
「そやけど、あそこ、平日2時間、土日は6時間のレッスンやで」
「先生、詳しい~。はい、コーヒーお代わりです♪」
「部活も熱を入れればそんなもんです。部活を教育活動から外して、地域のスポーツ・文化活動にしよう……府教委が、将来的に考えてることですよね」
「ほんまに、栞はよう知ってんねんな」
「先生は、わたしがやることに心配なんですよね……ありがとうございます」

 確かに、近頃理論派高校生として名前が出始めている栞がやることに……世間の栞を見る目が心配ではあった。

 当の栞はヒョットコみたいな顔で、ミックスジュースを飲み干すと、勝ち誇った顔になった。

 この顔が波乱を呼ぶような気が、乙女先生はした……。

 

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