やくもあやかし物語・136
ホワイトタイガー!?
アキバ子が空き箱の隙間から目だけ覗かせて叫んだ。
犬だと思っていたのが虎だったのだから、アキバ子でなくても驚く。
「いや、あれは犬を載せていた白いモヤモヤであるぞよ!」
「犬がやっつけられたんで、姿を現したんだ!」
そうか、犬と虎でワンセットだったんだ……でも、なんで虎と犬の組み合わせ?
「「どうしてだろ?」」
チカコとアキバ子は首をひねる。
「犬は十二支で戌の刻、戌の刻は10時の方向。10時は西方の白虎が支配する……だから、犬と虎の二段構えなのよ!」
「御息所さん、頭いいですぅ」
アキバ子が感心するのを謙遜もせずに御息所は続ける。
「わらわは、東宮の妃じゃぞ。今風に言えば皇太子のお妃じゃ。学識がそなたらとは違うぞえ」
「ふん、女の子しか産めなくて、御所を放り出されたくせに」
「チカコこそ、東エビスの嫁に……」
「ワーー、それ言うなあ!」
「痛い、髪を掴むな!」
「こら、ケンカしてる場合か!」
パチン!
「「いて!」」
二人同時にデコピンを食らわせてやる。
「おのれ、連発デコピンを会得しおったな!」
「やくものくせに、生意気よ!」
「まあまあ(^_^;)」
「いい加減にして! 白虎がこっち睨んでる!」
ガオオオオオオ!
「吠えた!」「こっち来る!」「逃げましょう!」
ピューーーーーー!
あんまりのスピードで逃げるので、四人の悲鳴がホイッスルの音みたくなってしまう。
ガオオオオオオオ!
白虎も追いかけてくる。図体が大きいくせにスピードはほとんどいっしょ!
「あ、なんか、曲がっていくよ(;'∀')」
真っ直ぐ飛んでいるつもりなのに、しだいに左に寄っていく。
「土星の引力に引っ張られてるんです!」
「やくもがノロマだからじゃ」
「御息所喋り過ぎ!」
バタン
「「「フギャ!?」」」
うるさいので箱のふたをしめてやる。
そうだ、コルトガバメントを撃たなきゃ!
パン パン パン パン
「うう、ダメだ……」
土星は丸いので、後ろに撃った弾は、丸みのスレスレ向こうを追いかけてくる白虎の頭上を掠めて宇宙空間の彼方に消えていく。
『スピードを落とせ!』
『少し近くなれば水平になって当たりやすくなるわよ!』
『お二人とも、ここは、やくもさんにまかせましょう!』
もう、三人は無視! ひたすら逃げる!
ピューーーーーー!!
しかし、相変わらず、白虎の頭は丸みの向こうに見え隠れしている。距離が開かないよ!
『わたしたちもお手伝いしましょう!』
『どうやって?』
『やくもはフタをしてしまいおったのじゃぞ』
『やくもさん、少しフタを開けてください』
「どうすんの?」
『わたしたちも、ピューって息を噴いて推進力の助けになります!』
「え、息で?」
『三人の息ぐらいではどうにもならないでしょ』
『気は心というやつか?』
『いえ、宇宙空間では、ちょっとした力でも大きな結果を産みます。ボイジャーの推力なんて、ほとんど人の鼻息ほどなんですから。それで、太陽系を飛び出せるんですから!』
『そうなの?』
『はい』
「じゃ、やってみる?」
『『『おお!』』』
フタを少し開けてやると、三人の口が仲良く揃って息を噴きだす。
フーー! フーー! フーー!
「おお………」
やってみるもんね、白虎の姿は、少しずつ丸みの向こうに消えていく。
フーー! フーー! フーー!
フーー! フーー! フーー!
フーー! フーー! フーー!
フーー フー フ…………………
「ちょっとどうしたの?」
「ちょっと……」
「頭がクラクラ……」
「……してきました」
ちょっと頼りない……よし、わたしも頑張らなくちゃ!
わたしも、コルトガバメントを撃つだけじゃなくて、いっしょに後ろに向かって息を噴く!
フーー! フーー! フーー! フーー!
パン パン パン パン
やってみるものね、空き箱のスピードは目に見えて速くなってなってきたよ!
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王