大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時かける少女 BETA・4《The implementation test=運用試験・2》

2016-04-26 06:52:30 | エッセー
時かける少女 BETA・4
《The implementation test=運用試験・2》



 ミナの瞳が鳶色に輝いた……エノラゲイのクルーたちは目がくらんだ。

 目が慣れると、とんでもないものが前方に見えた。
「機長、前方に自由の女神です……」
「バカな……」
「右一時方向に見えるのはロングアイランドでしょうか……」

 副操縦主のロバートが、小学生が先生に聞くように言った。

「ようこそ、ニューヨークへ。本機は間もなくマンハッタン島を北北東に縦断いたしま~す。真下に見えますのがシンシン刑務所。ニューヨーク湾上空にさしかかりました。しばらく黄昏染まる全米一のパノラマをご堪能くださ~い」
 ミナはニューヨーク観光ツアーガイドのように言った。
「機長、管区防空官制局が所属、飛行目的、目標地点を問い合わせてきました」
 無線通信士のリチャードが、ヘッドセットを外し、すがるような眼差しで機長のポールに言った。
「どこの防空官制局だ?」
「北米、ニューヨーク管区です……」
「オレの方に回せ!」
「回しました」
「こちら陸軍航空隊509混成部隊第6爆撃隊エノラゲイ。本機はただいま特殊任務のために日本本土に向かいつつあり。目標地点については軍規により答えることができない……いや、だから……チ、切れてしまった」
「切ってあげたの。混乱するだけだから。まもなくマンハッタン上空よ」
「……なんだ、舵が効かないぞ」
「コントロールはあたしが握っているの。あなたたちは、これから起こることをよく記憶して。そして歴史の証言者になって」

 眼下に、ヤンキーススタジアム、セントラルパークが通り過ぎて行った。

「もうすぐブロンクス。旋回するわよ」
「高度が低すぎる。ビルに接触するぞ!」
「この機体をよく見てもらうためよ。みんなびっくりしてるでしょ?」
「銃を構えている奴がいる!」
「下の人たちには、こう見えてるの……」

 機種方向に映像が映った。一瞬分からなかった……分かった瞬間最大のショックに襲われた。トニー(飛燕)から撮った映像でニューヨークの街を下にしたエノラゲイは濃緑色の塗装に日の丸が付いていた。
「これが、エノラゲイなのか!?」
「捕獲されたんだから、日本の色になるの。当たり前でしょ」
「いつの間に……」
「ハハ、一瞬で四国の上空からニューヨークへ移動したのよ。これくらいのことで驚かないで」
「迎撃機が上がってきた、どうすりゃいいんだ!?」
 後尾機銃手のジョージが叫んだ。
「大丈夫。ムスタングじゃ追いつけないわ。急上昇するからシートベルトきつく締めてね」
「な、なんだ、この速度と上昇角は!」

 エノラゲイは、60度の上昇角、500ノットで、たちまちのうちに高度10000に達した。

「あなたたちが行こうとしていた広島には13人のアメリカ人の捕虜がいたの。知らないでしょ……上層部は知っていた。でもあなたたちには伝えなかった……リトルボーイを投下するわよ」
「待て、下はニューヨークだぞ! 何十万という人間がいる!」
「広島にもいるわ」
「後生だ、止めてくれ!」
「もう遅いわ。今投下しちゃった……」
「オオ、#”=~|¥&%%&&\\\*=#''"$&!?~~%%!!!!!!」
 機長の叫びは言葉にはならなかった。最大の二乗の衝撃であった。

「人は殺さない。起爆は、高度5000に設定したわ。雲もあるし、直接見た人でも目が焼けることはないわ。5000ならワシントンからでも見えるでしょうね」

 直後5000メートル下、ニューヨーク湾の5000メートル上空でリトルボーイがさく裂した……。

「ファットマンは、モスクワの上空8000でさく裂させました。コビナタさん、なにか変化はありました?」
「モスクワのは、隕石の爆発って発表されたわ。ただクレムリンは知っているから、アメリカの優位は確定的ね。日本は15日に、ちょっとだけ有利な条件で降伏した。何十万という命が救われた……それが、どう影響するかわは、これからの楽しみね」

 コビナタとミナは、世界の木を見上げた。運用試験としては上出来だった……。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・145【わたしのAKB48】

2016-04-12 07:11:33 | ライトノベルセレクト

ライトノベルセレクト・145
【わたしのAKB48】
         初出:2014-01-26

 このごろ、AKB48を観なくなった。

 最後の学年末テストが終わったら、アキバまでリアルAKBを観にいこうと決めてもいた。
 それが、まるで、そんな気持ちが無くなった。
 自分でも、この心境の変化に驚いている。

 AKBの結成は2005年。今年で10年目……かな?
 わたしがハマリだしたのは、2006年の『会いたかった』のメジャーデビューから。小学校の4年生だった。

 あたしは群れるのが嫌いだ。

 保育所のころから「お手々つないで」とか「みんなそろってね」とか言われるのが苦手だった。保育所のころは年長組のとき、いつもパートナーになるシンちゃんって子が嫌いなせいかと思っていた。
 シンちゃんも、あたしよりも一つ前のルミちゃんの方ががいいのがよーく分かっていた。2年間手をつないでも、お互いの顔は見たこともない。

 小学校に入ったら、変わるかと思ったけどダメだった。

 そもそも、人と群れることがダメと気づいた。

 自分や相手の気持ちなんか、なんにも考えないで「さあ、仲良くね!」は、ゲロが出そうだった。

「亜季、お友だちと仲良くできないんだって?」

 最初の懇談から帰ってきたお母さんが、ため息ついて言ったのを覚えている。
 3年生までは、通知票に決まって「集団活動が苦手」と書かれていた。

 それが、AKBの『会いたかった』で、世界が変わった。

 こんなに、一生懸命いっしょになって歌ったり踊ったりすることができる子達がいるんだ!

 まさに、大発見だった。You tubeなんか観まくっていた。タカミナの「このオーディションに落ちたら諦めようと思ってました」にもビックリした。そしてオーディションの様子。みんな、あたしたちと変わらない年齢で、歌も踊りも上手だとは思えない。プロモの彼女たちとはまるで別人。それが、あのチームワークとテンションの高さ。
 なによりも「お手々つないで」の強制なしでやれているのが信じられなかった。

 4年生からのあたしは、ガラッと変わった。

 運動会や生活発表会でも進んで前に出て、みんなを引っ張っていった。AKBの主なレパートリーは、ほとんどカンコピできた。でも、みんなとやるときは「会いたかった」とか「ヘビロテ」とか、ポピュラーなものにした。
 AKBの真似だけじゃない。遠足や修学旅行でも、いつの間にか仕切り役をやるようになった。

 中学では、キンタローほどではないけどAKBのメンバーの真似なんかもやって喜んでいた。お母さんなんか「一度オーディション受けたら」って言ってくれた。戸惑った。そんな気はぜんぜんなかったから。

 なんて言ったらいいんだろう……。

 富士山に登ろうという人は沢山いるけど、富士山になろうという人はいない……ちょっと近い。

 AKBッポイドというセミプロのグループがある。あの人たちはAKBの真似はするけど、AKBに入ろうとは思っていない。分かるかなあ……。
 キザな言い方すると、AKBからは「やったらできるんだ」という精神に気づかされたのであって、自分がなるものじゃ無かった。

 高校では演劇部に入った。新入生歓迎会で「桜の木になろう」を部員一同でやってくれたから。東日本大震災があって直ぐだったので、正直グッときた。

 入ってガックリだった。AKBの真似は単なる人寄せ。部員も他のクラブを兼ねている者が多く、考えていた部活とは違った。でも、そんな一面だけで判断するほど子どもじゃなかった。がんばれば、何かが出来ると信じて練習に励んだ。

 一年の時、震災を取り上げた創作劇をやった。

 ここで違和感。震災を取り上げながら、フィールドワーク一つやらない。せめて疎開してきた人から話を聞くとか、肌で共感しなければ、震災をモチーフにした芝居はやっちゃいけないと思ったんだ。

 夏休み、日帰りだけど被災地を自分の目で見に行った。
 そしてAKBのキャラバンのミニコンサートと偶然出会った。

 コンサートは、炎天下のトレーラーの荷台が舞台だ。

 終わった後握手会。あたしもAKBシアターには何度か行って握手会にも並んだが、ここでは並んじゃいけないと思った。
 驚いたことに、お婆さんが握手会に並んでいる。そしてメンバーになにやら話すと、ディレクターみたいな人が間に入り、みんなでお婆ちゃんの仮設住宅に向かった。
 帰ってから、ブログで分かった。お婆ちゃんのお孫さんがAKBの大ファンで、お婆ちゃんは、孫の魂といっしょに見に行き。感動のあまり、孫に焼香してやってくれと頼んだのだ。

 わたしの芝居は、それから変わった。

 コンクールでは、それなりの成果もあげた。でも、現場も見ないで受賞だけ喜んでいる部員や顧問にはガックリきた。
 でも、一年は辛抱した。もっとまともな創作集団にしてやる。そんな思いでやった。

 しかし、演劇部は、そういう集団にはならなかった。

 演劇部でありながら、芝居も観なければ、脚本も読まない。あたしは一人浮いた存在になり、二年の一学期で辞めた。
 そのころから、AKBの創立メンバーの卒業が始まった。昨日なんか、小嶋陽菜、高橋みなみ、大島優子が「卒業する!」と宣言し渡辺麻友を驚かせるが、実は“今までのバイト探し”からの卒業宣言だったというものがテレビに出てきて笑っちゃった。

 あたしは、10年ぶりに一匹狼になった。

 毎日通いながら学校がひどく薄っぺらに感じるようになった。

 お父さんが、昨日同窓会に行って、盛り上がって帰ってきた。今朝も『高校三年生』という古い曲を調子っぱずれな声で歌いながら、フェイスブックでチャットをやっている。お父さんの時代は人間の粘着力が違ったような気がした。
 あたしは、たった三人だけど気の置けない友だちができた。念のため演劇部の子じゃない。それで十分だ。

 あたしは、将来同窓会にはいかないだろう。この仲良し三人組で十分だ。

 AKBも世代交代。あたしのAKBは終わりつつある。

 二月末には、あたしも卒業。進学しないで就職する。就職先はN物産の赤羽物流センター。

 イニシャルはAKBだ。

 それもセンターだぞ!

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