大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・148『及川軍平走る』

2023-02-28 10:37:04 | 小説4

・148

『及川軍平走る』及川軍平 

 

 

 舐められている!

 グチャ

 

 口には出さないが、電信文を握りつぶした手には力が籠りすぎている。

「お、お預かりします」

 手を差し伸ばした通信員の目は困惑している。

 漢明の攻撃を予想して、三日前から災害対策本部を設置している。軍事攻撃を受けても自治体が設置できる司令部は『災害対策本部』の名称しか付けられない。地方自治法に明記されているからだ。数千、数万の犠牲者が出る軍事攻撃を受けても、日本国政府は地震や台風と同じ『災害』という名称しか使わせない。

 砲弾やミサイルやパルス波が飛び交い、本部が血まみれの特設救急病院(世界の常識では野戦病院)を兼ね、五分おきに死者や再生不能のロボットが出ても、戦争と戦争を思わせる名称は使えない。

 元来が通産官僚だったから、役所の杓子定規や前例主義には慣れている。

 しかし、現実に敵に上陸され蹂躙の限りを尽くされ、この三日で万余の犠牲者を出しても、日本政府の対応は変わらない。

―― 繰り返し、政府は遺憾の意を表明し、漢明政府との折衝を重ねつつあり。西之島開発特例法によって島の警備警察権は一義的に西之島自治政府の属すところである。貴職にあっては自治政府特別市の市長職として島の安全と掌握に務められることを望む。重傷者の移送、救援物資の搬入については漢明政府と引き続き折衝中につき、貴職において単独に漢明軍、漢明政府との交渉協議は控えられたし。――

 切望していた救援軍派遣要請については黙殺された――西之島開発特例法によって島の警備警察権は一義的に西之島自治政府の属すところである――と毎回書いているのは――国としては島の防衛には関わらないという意味だ。

 パルス鉱の採掘と販売に関して島の独立性を、あの手この手で勝ち取ってきたことの日本政府の意趣返しだ。

 ひょっとしたら、島のパルス鉱についても、日本政府と漢明政府との間には密約があるのかもしれない。

「市長、附則です……」

 通信係りが、もう一枚の通信紙を差し出す。

―― 戦傷者、戦死者の表記は不適、被災者、災害関連死者(略称・死者)とされたし ――

「くそ!」

 さらに力を加えて通信紙を握りつぶす。

 通信係りは、それを丁寧に伸ばして日報に綴じていく。

 日ごろの通信はデジタルデバイスを使ってインタフェイスに表示する。

 しかし、三日前からは、それに合わせてアナログの通信文を残すように指示した。モミクチャに握りつぶした痕や、血や涙やヨダレの痕がリアルに残せるからだ。通信というのは、その内容以外に、どんな気持ちで、それに接したかということが重要だと思ったからだ。

 子どもの頃、父に連れられてアメリカの戦争博物館に行ったことがある。アメリカらしく、功績の有った戦車や軍用機をピカピカにして並べていて、兵器の新旧など分からない子供には大きなおもちゃの展示場で、「わースゲー!」「かっこいい!」を連発していた。

 ショックだったのは、文書資料室だ。

 文書の中身はデジタルでいくらでも検索できるが、200年前に書かれたメモや日記、通信文が訴えかけてくる力は圧倒的だった。汗や血にまみれ、変色し、あるいは千切れ、あるいはシワクチャにヨレた姿は、記載された内容よりも雄弁だった。どこから手に入れたのか、事故で沈没した日本の潜水艇の艇長が死の直前まで書き綴った手帳が展示されていた。薄れゆく意識、酸欠の苦しさの中で、艇長は艇内の状況、事故原因の推測などを細かく記載していた。最後の一ページは、もう文字の体裁を成しておらず、内容も不明だったが、全頁で最も雄弁だった。

 翻って日本の文書保管は無機質だ。

 ネットでのアーカイブ検索が主流だ。むろん、三度に渡る大戦のアナログ資料を検索することもできるが、数を当るのにはデジタルのアーカイブだ。だから、この西之島がどうなろうとも、アナログの記録を残そうと決心した。 

 

「南に行ってくる」

 

「市長!」

 助役が顔色を変える、他の職員もこちらを向いたり、思わず作業の手が停まったりしている。

 敵弾飛び交う中を、市役所のシェルターから出ることさえ無謀なのだ。最前線の南(カンパニーの略称)に行くなど、ほとんど自殺行為だ。

「写真を撮ります」

 通信係が、通信文の綴りを置いてカメラ機能にしたハンベを向ける。

「ああ、そうだった。ありのままに撮ってくれたまえ」

 通信文だけではない、折に触れて本部の写真を残している。わたしが行動を起こす時は、必ずわたし一人の写真を撮る。

 意味は通信文と同じだ。

 カシャ

「いつも笑顔のピースサインなんですね……」

「これ以外は、証明写真用の仏頂面しかできなくてね」

「お気をつけて」

「大丈夫さ。四年前、ナバホ村のインディアンに追いかけまわされたことを思えば(100『及川軍平の遭難』)なんでもない」

「インディアン?」

 採用二年目の通信係は市議会議長のマヌエリトが、めちゃくちゃ怖いナバホの酋長だったことを知らない。

「いや、なんでもないさ」

 

 本部のみんなに手を振って、徒歩で南に向かう。

 

 途中、分隊ぐるみ壊滅させられた敵の遺棄死体や残骸を見る。水浸しの上に大きな岩石がいくつも転がっている。

 自然ながけ崩れではないだろう、ナバホ村かカンパニーか、いや、フートンの水滸伝好きたちか。仲間たちは、まだまだ意気軒高だ。その意気のまま、敵の攻撃を受けることも無くカンパニーのシェルターに着くことができた。

 

「氷室社長! いや、睦仁王殿下! 義軍徴募の令旨を出してください!」

 

 わたしの大時代な要請に秋宮空子(ときのみやそらこ)内親王殿下の玄孫は目を丸くした。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

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宇宙戦艦三笠37[20年の歳月]

2023-02-28 06:49:38 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

37[20年の歳月] 修一  

 

 

 体が鉛のように重い……手足も痺れたように動かない……視界もボケている。

 でも、どうやら20年の眠りから覚めたんだ……そう理解するのに30分ほどかかったんじゃないだろうか。

「オ! 艦長の目が覚めたニャー!」

 一瞬ネコミミの女の子の顔が覗いたかと思うと、パタパタと音が続いて、ネコミミが四つに増えた。

 ネコの惑星……いや、耳以外は人間だし?

「ウフフ、寝ぼけているニャ」「可愛いニャ」「おひさニャ!」

 あ……シロメ……クロメ……チャメ……ミケメ……?

「おーい、はやくはやく、艦長目覚めたニャ(^▽^)/」

 あ……

 パタパタパタ……ネコメイドたちだと認識できた瞬間、四人とも誰かを呼びに行く気配。

 プシュっと音がしてカプセルの蓋が開く、恐る恐る上体を起こし、首をひねって息を呑んだ。

 え……!?

「もう、大丈夫ですよ」

 優しい声が聞こえたが、誰の声であるのか思い出すのに数秒かかった。

 えっ……え?…………ええ!?

 後ろでニコニコ笑顔で並んでいるネコメイドたちと、あまりにかけ離れた姿に言葉が出ない。

 目の前にいるのは、スケルトンだった。

 くたびれたユニホームと声からなんとか本人だと想像する。

「クレアなのか?、その姿は……?」

「生体組織のメンテナンスに使うエネルギーも三笠の蘇生に使いました。三笠がダルを抜けたら、元に戻します。しばらく見苦しいでしょうが辛抱してください」

「ごめん、他の乗員は?」

「こちらです」

 クレアが案内してくれたのは浴室だ。浴室は戦闘時には戦死者の安置室になる、血が流れてもシャワーで洗い流せるためで、日露戦争の時は数十名の戦死者が安置された。余計な知識が悪い予感をさせる。

「換気と密閉性に優れた施設だからです。艦長も一昨日まではここに収容していたんですよ」

「そ、そうか……」
 
 よかった、とりあえずは生きているようだ(^_^;)

 
 救命カプセルは、船内で使う場合、状態を視認できるように半面が透明になっている。樟葉と天音のカプセルを見てドキリとした。

「なんで裸?」

「服は、体を締め付けます。そこから皮膚や内臓に負担をかけてしまうので、みなさんが眠りについたあと、裸にしました」

「オレは、服を着てるけど」

「蘇生の兆候が見えたので、昨日服を着せました」

「え、クレアが着せてくれたの(#^_^#)?」

「はい、ちゃんと着せたつもりなんですけど、不具合があったら、ご自分で直してください」

「クレアこそ、そのスケルトン、なんとかしろよ。他の三人が目を覚ましたら、オレよりビックリするぜ」

「ダルを抜けるまで気が抜けません」

「そうか……トシのカプセルは?」

「トシさんのカプセルは、こちらです」

 トシのカプセルは、隣のキャビンに移されていた。


「お早う。東郷君が一番だったわね」


 みかさんがカプセルに寄り添ってくれていた。悪い予感がした。トシのカプセルには白い布がかけられているのだ。

「トシは……?」

「カプセルとの相性が悪くて五年しかもたなかった。ごめんなさいね……」

「そんな!」

 白布を剥ぎ取った。

 透明なカプセルの中にいたのは、ミイラ化したトシの変わり果てた姿だった。

「どうにもならなかったの……?」

「秋山君を助けようと思ったら、その分三笠の復旧が遅れる。カプセルは20年しかもたないのよ」

「機関長を助けようとしたら、全員助からなかったです」

「そうなんだ……」

「そこで相談があるの。三笠の復旧も終わったし、秋山君のクローンを作ろうかと思うの。これからの航海に機関長は欠かせないわ」

「どうしてオレに聞くんだよ。オレに黙ってやってくれたら、こんなショック受けずにすんだのに!」

「だって、あなたは艦長だもの、全てのことを知っておく必要があるわ」

「じゃ、クローンでもいいから再生してやってくれよ。トシは、やっと立ち直ったところなんだから」

「その前に、秋山……トシくんの最後をしっかり見ておいてあげて」

「う、うん……」

 トシのカプセルの蓋が開けられた。

 賞味期限が過ぎたスルメのような臭いがした。トシが胸に抱いているスマホを手に取った。

 皮肉なことに、スマホの電池は残っていた。日本の電池技術はすごいぜ。

 マチウケは、亡くなった妹の写真だった。

 ホームセンターで自転車を買ってもらったばかりの写真。

 嬉しくてたまらない顔でピースサインをしている。あまりにいい顔なので思わず撮ったのだろう。その数分後にバイクに跳ねられて死んでしまうとも知らずに。

「じゃ、カプセルを閉じて。再生するわ」

 ミカさんは、ミイラ化したトシの皮膚のかけらに息を吹きかけた。目の前のベッドが人型に光った。

 光が収まると、そこには寝息を立てているトシがいた。そして、みかさんが指を一振りすると、カプセルの中のミイラは、煙になって消えてしまった。

「ミイラがいたんじゃ、話のつじつまがあわないから。あくまで、トシくんは東郷君と同じように目覚めた……忘れないでちょうだいね。それからクレアさんも、それじゃあんまり。生体組織再生しときましょうね」

 クレアが、元に戻ると同時にクローンのトシが、ベッドで目覚めて伸びをした。

「ああ……よく寝たあ。やっぱ先輩の方が目覚めるの早かったっすね。樟葉さんと天音さんは?」

「隣の部屋、あ、おい……」

「せんぱーい!」

 お気楽に、トシは隣の浴室に行った。数秒後真っ赤な顔をしてトシが戻って来た。

「な、なにも着てないんですね(# ゚Д゚#)……で、ウレシコワさんは?」

「あ?」

 虚を突かれたような気がした。ウレシコワのことは、今の今まで忘れていた。

 ネコメイドたちが揃って目をそらせた。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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RE・かの世界この世界:023『8時58分 わたしのリアル』

2023-02-28 06:08:39 | 時かける少女

RE・

023『8時58分 わたしのリアル』   

 

 

 こうなったら屋上から飛ぶしかないのかも……

 
 学校中を捜してもピッタリの鍵穴は見つからず、昇降口の階段でヘタってしまう。

 ヘタってしまうと、さっきまでの勢いはどこかに行ってしまって、わたしの呟きにギクッとする健人。

「もう飛ぶ気も無くなったんでしょ?」

「ん、んなことねー」

 熱しやすく冷めやすい健人、これ以上言うと、このまま家に帰って布団をかぶってしまいそう。

 とりあえず……お互い呼吸を整えてからだと口をつぐむ。

 無人の昇降口に、せわしない二人のブレスだけが際立つ。


 ダイブは、三年に一度、学校で七人だけが許される。

 
 この世界は、わたしが寺井光子として存在していた世界に酷似しているけど、根本のところが違う。

 この世界は対応する異世界と対になっていて、異世界が混乱すると、その影響がモロに出る。

 想定外の事故や災害は、異世界の混乱に原因がある。

 想定外の事故や災害の数カ月後に、選ばれた学校に白羽の矢が立つ。

 矢が立つと言っても、本物の矢が飛んでくるわけではない。

 生徒のスマホや携帯にメールの形でやってくる。選ばれた生徒はメールに指示された相手に応諾を伝えたうえで創立記念の日にダイブする。

 応諾を伝える相手は、年によって変わる。

 校長先生である場合、特定の生徒である場合、先生の誰かである場合もあれば、特定のクラスの掃除用具入れである場合もあり、トイレの便器であったり校庭の桜の木であったりもする。

 ダイブし、異世界で成果を上げれば、成果の出来に従って、こちらの世界の災いが軽減される。

 そして成果を上げたダイバーも、成果に応じた報酬を受けられる……とされている。

 
 されている……というのは、こちらに戻った時には、なにが報酬であったかを忘れるからだ。

 
 健人はスマホのメールに気づくのが遅れた。

―― 有効期限が切れました。ダイブは六人で行われますが、どうしても参加したい場合は六人の同意を得るか屋上から命を懸けてダイブするか、いずれかの方法でも可能です。その場合でも、リミットは創立記念日の午前九時までです。あなたの報告相手は幼なじみの小早川照姫です ――

 健人は六人に頼み込んだが、ダイブの朝、女装して来ることを条件にされてしまったのだ。

 そして、この昇降口に至っている。

 これってなんだ? まるでヘタレ系転生ラノベのプロローグみたいじゃない?

 頭に一冊のノートが浮かぶ……『アイデア帳・1』の表題の下には小早川照姫と一字ずつ色を変えて記名してある……ペンネーム? 

 そうだ、寺井光子のペンネーム……始めて作ったアイデア帳だ。ふと浮かんだアイデアをチマチマと書き連ねた落書き帳……その中に、こういうアイデアがあったんだ。

 寺井光子の脳内幻想の欠片たち……でも、昇降口でヘタレの健人と並んで息を整えているのは光子ではなくて小早川照姫。口から飛び出しそうな心臓、額やこめかみから伝う汗はめっぽうリアルで、唇に垂れてきたのを舌でなぞると、ちゃんとしょっぱい。

 ここは小早川照姫がリアルな世界……え? わたしのリアルは光子……光代? 光姫? 苗字は?

「なんとかしてよ、テル」

「なんとかって、健人の問題でしょうが!」

「だって、テルが引っ張り回すから」

 ムカ!

 張り倒してやりたくなるが、ここは押える。時間がないんだ!

「いちど屋上に行ってみよう」

「屋上? え、やっぱり飛び降りるの?」

「行くよ!」

 健人の襟首を掴まえて屋上への階段を駆け上がる!

「うわあ、待ってぇ!」

 健人の叫びを無視して見た時計は8時58分を指している。

 もう一つの名前はもう思い出せなくなってしまった……

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 
  •  小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ
  •  

 

 

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宇宙戦艦三笠36[虚無宇宙域 ダル・2]

2023-02-27 09:20:55 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

36[虚無宇宙域 ダル・2] 修一  

 

 

 20パーセクワープしたつもりが、わずかに0・7パーセクで停まってしまった。

 つまり、直径1・5パーセクある虚無宇宙域のど真ん中で立ち往生してしまったわけだ。

 

―― 20パーセク行ける出力で、たった0・7パーセクしか進めないのか!? ――

 

 さすがに言葉もなかった。

「非常電源で、艦内機能を維持するのが背一杯です。もう三笠は一ミリも動きません」

 機関長のトシが肩を落とした。

 他のクルーたちも元気は無かったが、俺の決定を責めるような空気は無かった。

 ダルを抜けなければ迂回する以外に手立てがないが、迂回すれば、待ち構えているグリンヘルドとシュトルハーヘンとの戦いは避けられない。20万の敵を相手にしても顎が出ていた。推定100万の敵艦隊に抗する術は無いのをみんな知っているんだ。

「もう20パーセクワープするエネルギーを溜めこむのに、どれくらいかかる?」

「楽観的に見て20年です……」

 トシが力なく答えた。

 

 三笠は虚無宇宙域のど真ん中で孤立してしまった。

 

「アクアリンドのクリスタルは使えないの?」

 航海長の樟葉が聞いた。

「エネルギーコアがあるにはあるんですが、エネルギーに変換されるのは80年後です。それに、三笠の光子機関との接続方法もわかりません」

「トシって、ダメな結果を言う時の方が答えがはっきりしてるな」

 天音が毒を吐くが、トシを含め、だれも反論する元気は無かった。

 そんな乗組員の前で頭を抱えるわけにもいかず、船霊のミカさんに聞きにいった。

「アメノミナカヌシは、虚無から世界をお創りになりました」

 ニコニコと、古事記の創世記を聞かせてくれた。

「みんなで決心してやったことだもの、誰も責められないわ。自然の流れに乗っていくしかないでしょう」

 そこまで言うと、影が薄くなって神棚に隠れてしまった。


 二日がたった。


「なんだ、この非常食は!?」

 食卓に、非常用の乾パンが載っているのを見て、天音が悲鳴をあげた。

「生命維持に必要なエネルギーを優先的に残すためです」

 クレアが事務的な声で言った。

「アクアリンドで補給しただろ?」

「さっき調べだっきゃ、補給品はなもかも消えであった。水さ流れでまったが、ダルの影響が……申す訳ね」

「レイアのせいじゃないさ」

「すたばって、わっきゃ、この宇宙域の人間だよ、暗黒星団のレイマ姫だよ……」

「いいさ、どこにだって未知なことはあるもんさ。だから、宇宙は面白い!」

「艦長……」

「ネコメイドたちは?」

「チャペの姿さ戻って丸ぐなっちゃーよ」

「チャペ?」

「あ、津軽弁で猫のことだす」

 ネコメイドの変身も艦のエネルギーを使うんだろう。

「チャペ、なんか可愛いな」

 樟葉がフォローしてくれて、少しだけ和んだ。

「よし、とにかく考えよう」

 ガリ……イテ。

 俺は乾パンを齧った。舌を噛んでしまって、みんなが笑う。


 四日がたった。


「重大な提案があります」

 トシが憔悴しきった顔で言った。食卓の乾パンは、さらに半分に減っていた。

「クレアさんと相談したんです。救命カプセルに入って冬眠状態になろうと思います」

「わたしとウレシコワさんは残ります。二人は人間じゃないから、入る必要がありません」

「でも、クレアの義体の表面は生体組織だ。それにメンテナンスもしなきゃ、持たないよ」

「生存の可能性は、みなさんの何倍もあります。ウレシコワさんは船霊だから、このままで残れると思います」

『賭けてみましょう』

 ミカさんの声だけがした。

 薄情なのかと思ったら、実体化するだけで船のエネエルギーを使ってしまうらしかった。

 気になって見に行くと、ネコメイドたちはガンルームの隅で猫の姿で丸まって、置物のように硬くなっていた。

―― 一足先に冬眠したか ――

 こうして、俺、トシ、樟葉、天音、レイマ姫の四人は救命カプセルで冬眠することになった。

 そして、20年の歳月がたった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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RE・かの世界この世界:022『鍵穴はどこだ!?』

2023-02-27 06:24:20 | 時かける少女

RE・

022『鍵穴はどこだ!?』   

 

 

 え、これが……?        
 

 涙を拭いながら、わたしの手を見つめる健人。

 そのまま手肌クリームのCMに使えそうなほどきれいな手に感心したのでもなく、わたしの手相に世界の運命を見たわけでもない。

 わたしの手の平に載っている、なんの変哲もない真鍮製の鍵に感動しているんだ。鍵に触ろうとした指はまだ涙に濡れている。こういう感情と好奇心の起伏は子供なんだけど、健人の憎めない所でもある。

「真鍮の鍵って珍しいよ」

「そう言えば……」

 いまどき真鍮製の鍵なんて、昭和、それもアルミサッシとか無い時代の木造校舎の窓とか住宅の玄関とか、木製ロッカーとかでしかお目に掛かれない。

 アニメとか昔の映画とかで観る感じ、例えば『トトロ』のさつきの家とか『けいおん!』の桜が丘高校とか。何の変哲もないと感じたのは、自分のイメージ。ラノベや小説を読んだりプロット立てる時の鍵は、こんなイメージだ。わたしの感覚ってリアルとはちょっとズレているかもしれない。

 実用本位に作られていて、鍵穴に入ってシリンダーのメス鍵を回す部分はシンプルなEの形をしている。

 Eの背中の部分は長さ五センチほどの柄になっていて、親指と人差し指で握るところは……スライムのシルエットの形。スライムの口にあたるところに直径三ミリほどの穴が開いていて、ひもを付けたりフックに掛けておいたりするようになっている。その先っぽのEからスライムの部分まで装飾らしいところは一つもない真鍮の棒。

 このダイブの鍵を、わたしが持っていることには説明がいるんだけど、健人は、その余裕をくれないだろう。

 
「これで、どこを開けるんだ?」

「しっかりしてよ、異世界の扉に決まってるでしょうが」

「でも、この鍵に合う扉って……」

 健人の戸惑いはもっともだ、実用品として、こんな鍵は見たこともないだろうから。

「言い伝えでは、身の回りというか周辺の鍵穴の一つが、これに合うように変身してるって」

「ということは、学校の中だな!」

「たぶん!」

 
 教室を飛び出して学校中の鍵穴にあたってみた。


 ところが、学校の鍵穴は、どこもかしこもそっけないマイナスかイナヅマ型だ。

 真鍮鍵の鍵穴はこけし型と言うか前方後円墳型だ。

 ニ十分ほどかかって学校中の鍵穴にあたってみたが、これに合う鍵穴は一つもなかった……。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
  •  
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せやさかい・391『ヤマセンブルグの卒業式』

2023-02-26 13:10:21 | ノベル

・391

『ヤマセンブルグの卒業式』さくら   

 

 

 前回は飛行機の他に鉄道を使ったり、途中で泊まったりして四日もかかったけど、今回は大回りしたとはいえ、なんとか二十時間ほどでヤマセンブルグに着いた。

 全行程の操縦を覚悟してたソニーやけど、操縦桿を握ってたのは離陸の時と途中の四時間余り。今回の操縦は、操縦技能の昇級テスト兼ねてるんやとか。

 大半はお馴染みのジョン・スミスのおっちゃん。おっちゃんは、ソニーの昇級テストの教官と検定官も兼ねてるんやとか。

 ジョン・スミスは領事館の勤務を解かれて情報局に戻ってたんやけど、ソフィーが頼子さんと共に国に戻ると決まった時に、また領事館に戻ってきた。ヤマセンブルグはNATOの中で一番小さな国やけど、大国に任せっきりにすることなく、積極的に動いてるらしいです。

 

 空港には、頼子さん自身とソフィー、我が従姉の詩(ことは)ちゃんが出迎えてくれてて感激やった。

 ソニーは到着の挨拶もそこそこ空港のビルへ。それでも、空港を離れて王宮に向かう頃には戻って来て『無事』に昇級テストに合格したことを嫌そうに教えてくれた。

 頼子さんの話によると、昇級すると仕事もメチャ増えるらしい。

 

「それでは……聖真理愛学院2022年度の卒業証書授与式を行います。全員起立!」

 

 卒業証書の授与は、なんと、歴代国王の戴冠式が行われるライオンキングチャーチ(獅子王教会)で行われる。

 ライオンキングというのはディズニーとタイアップしたわけと違って、第三代国王が獅子王と呼ばれる勇猛な王様やったんで、それにちなんでるらしい。

 それから、卒業証書の授与は女王陛下、つまり頼子さんのお祖母さまが聖真理愛学院学院長のローブを取り寄せて、本格的な代理として行われます。

 式場には、日本大使や教育大臣、統合参謀本部議長、ヤマセンブルグ大司教、侍従長、侍女長、他にえらいさんいっぱい(^_^;)

 式壇の上には、ヤマセンブルグ国旗、王室旗、日章旗、それから聖真理愛学院の校旗が並んでる。

 でもって、式壇に近い右前列には、もう二度とは見られへんと思てた制服姿の頼子さんとソフィー。

 左前列には、同じく制服姿のうちら(さくら 留美ちゃん メグリン ソニー)が控えてる。真鈴先輩は後ろの来賓席、真鈴先輩は卒業式終わってるもんね。せやけど、なんでか制服姿。

 うちらが制服着てるのん見て、自分一人私服なのが寂しくなってトイレで着替えたんやとか。でも、校章やらは外しててケジメはつけてはります。

 式そのものは小規模やけど、こないだやった卒業式よりも立派です(^_^;)

 で、卒業式よりも凄いのは、参列してるヤマセンブルグ国民の人ら!

 教会は800人入れるんやけど満席! 入りきれへん人らは教会の前に3000人余り(もっと居てるねんけど、教会前の広場は3000人が定員)、教会から王宮までは人垣ができて、もう、戴冠式かいうくらいに賑わってるそうです。

「Singing the national anthem Everyone stand up!(国歌斉唱 全員起立)!」

 なんと、女王陛下の音頭で君が代斉唱。その後にヤマセンブルグ国歌。

 教会の内と外からも大合唱! で、早手回しに花火の爆ぜる音。

 もう、なんやお祭りですわ。

「卒業証書授与、ソフィア・ヒギンズ」

「はい」

 ちゃんと日本語で返事して式壇に進む。ちなみに、女王陛下は英語。

「ヨリコ スミス メアリー アントナーペ エディンバラ エリーネ ビクトリア ストラトフォード エイボン マンチェスター ヤマセン」

 毎回すごいと思うねんけど、女王陛下は、頼子さんの正式名を一息で言うてしまう。これに勝てる名前は落語の寿限無しかないやろね(^_^;)

 名前呼ぶときは証書見てないから、空で言うてはる……と思て、あとで見せてもろたけど、小さな字でほんまに書いたった! 学校もきっちりやってます!

「在校生代表、送辞」

「はい」

 え!?

 ビックリした、留美ちゃんが静々と式壇に!

「The chirping of birds flying in the sky. warm spring light. Full bloom of plum blossoms
Cherry blossom buds in the schoolyard about to open. It seems that all of them are celebrating the departure of seniors……」

 なんと英語で送辞をブチかまし始めた!

 日本語やとトツトツとしてる留美ちゃんやけど、英語でやると、なんとクリアでハキハキしてることか!

 これも後で聞いたんやけど、詩ちゃんを通じて極秘で要請があったらしい。

 極秘やいうのは頼子さんの気遣い―― さくらが気にするからね ――です。

 アハハ ちょっと複雑な心境。

 続いて頼子さんの答辞やねんけど、これは、また改めてね。

 どっちも感動的で、教会の内外から盛大な拍手が起こった。送辞答辞ともに日本語訳が式次第に挟んであって、あとで読み返してシミジミでした。

 

「真鈴ちゃん、やっぱすごいよねえ……」

 詩ちゃんがしみじみ呟いたのは、全てが終わって、戻ってきた宮殿の庭。

 外から引き込まれた小川が流れてたりしてて雰囲気。

 実は、ソニーに教えてもろた―― お話するんだったら、小川の傍 ――やて。

 無口で武骨で、そのくせ黙ってたら姉のソフィーよりも可愛らしい陸軍伍長という変な奴。

 せやけど、こういう雰囲気のええとこを勧めてくれるとは、やっぱり持つべきものは友だち。この際、親友のカテゴリーに入れたろかと思ったりした。

 で、真鈴先輩。

 ライオンキング教会から駅前までのパレード、沿道は式が始まる前の三倍ぐらいに増えてて、街路樹に上ってる人もおってお巡りさんに怒られとった(王族を見下ろしてはいけないという伝統と警備上の問題)り、迷子案内の放送が掛かったり(^_^;)。

 で、パレードに移ると、一番人気は頼子さんと女王陛下。ま、これはいつものこと。

 で、同じくらい人気やったんが真鈴先輩!

 

 キャーーマリン! コイスルマネキン! マネキ! ネキン! キャー!

 

 声優百武真鈴の人気は日本以上かもしれへん。

 頼子さんも最終回にノルンの女神役で出て評判やったんやけど、やっぱりレギュラーで、それも恋する二人の恋人の声を一人でやってのけたのは超有名な話で、ファンの数もハンパやない。

 それに、女子高生の制服姿いうのは海外のオタクさんたちにも人気で、人気の真鈴が人気の制服姿やねんから、もう人気爆発!

 で、地元の放送局の要請で、急きょサイン会。

 むろんサインだけで済むはずもなく、放送局前でライブをおやりになっています。

「日本の放送局が企んだんだろうけど、あれは、今回の卒業式も含めて真鈴ちゃんの力だと思う」

「あ、それは思う!」

 大江戸プロに呼ばれたことやら、文化祭のことやらが頭に溢れる。

「うん、わたしもSNSで見たし、ここじゃ、地上波でもやってたしね。真鈴ちゃんは声優としてもすごいけど、プロディユーサーの才能もあると思う」

「うん、頼子さんもノセてしまうほどの人たらしやしぃ!」

「さくらも、そういうとこあるよ」

「ええ、ないない、それはない!」

 うちは単なるオッチョコチョイ。

「わたしね、こっち来て仲良くなった人がいるんだよ」

「ええ!?」

 おっちゃん、おばちゃん心配するでえ!

「あ、男の人じゃないよ」

「いや、きょうびLGチーズの時代やし」

「え、ああLGBTS?」

「アハハ そういうボケも才能だあ」

「もう、いじらんといて!」

「ごめんごめん、仲良くしてくださってるのはイザベラさんだよ」

「ええ、あのサッチャー!」

「うん、宮廷の作法や伝統に詳しくってね、フォークロアや民間伝承のことも造詣が深いの。さすがは女王陛下の秘書ね。近ごろじゃ月に三回ほど呼んでくださって、いろいろレクチャーしてもらってるのよ。陛下もたいてい顔を出されて、議論に加わってくださったり」

「いやあ、あのオバハンと五分以上話ができるのは、やっぱり超才能やしぃ!」

 他の人が聞いたらリップサービスと思うかもしれへんけど、従妹のうちはよう分かる。

「ぜったい、才能や!」

「アハハ、ソニーがここを勧めてくれたわけが分かったよ(^_^;)」

「へ?」

 小川のせせらぎが絶好の防音壁になると気が付いたのは日本に帰ってからでした。

 くそ!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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宇宙戦艦三笠35[虚無宇宙域 ダル・1]

2023-02-26 06:14:49 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

35[虚無宇宙域 ダル・1] 修一  

 

 


 アクアリンドのクリスタルは、クレアが送った情報をもとに三笠でレプリカをつくって交換した。

「組成や形態がいっしょだから、80年たたなければ偽物とは気づかないわ」


 クレアも、レプリカを作ったトシも自信満々だった。


 本物は、三笠の二つある機関の真ん中に置かれた。仮にも一つの星の運命を握っていたクリスタルだ、いまは眠っているような状態だが、数百年の記憶を取り戻し稼動し始めた時に巨大なエネルギーを放出する恐れがあった。三笠の中央に置かなければ、いざと言う時に、船のバランスを崩すおそれがあるという僧官長の意見に従ったものだ。


「微弱だけど、クリスタルから波動が出るようになった。なにか感じているみたいだよ」

 トシがインジケーターを指さした。

「さすが世界一の殊勲艦。与える影響も違うんだ!」

 ウレシコワが感心して言った。

 クチュン

 神棚でみかさんが小さくクシャミをしたようだ。

「で、なにか三笠の役に立ちそうなエネルギーとかは出てないの?」

「居候なんだから、なんかの役にたってもらわないとね」

 天音と樟葉は、夢が無いというか現実的だ(^_^;)。


「樟葉、これからの航路は?」

 艦長らしく航海長としての樟葉に聞く。

 樟葉も航海長の顔に戻って応えてくれる。

「5パーセク先が分岐になりそう。直進すれば、ダル宇宙域に突入するわ」

「避けるのか?」

 樟葉のニュアンスから、修一は先回りをして聞いた。

「ダル宇宙域の外周は、グリンヘルドと、シュトルハーヘンの艦隊が百万単位で待ち伏せている。切り抜けられないことはないけど、三笠も無事ではすまないわ」

「四十万の飽和攻撃で、シールドが耐えられなかったからな……」

 ダル宇宙域を突破するしかないという気持ちになってきた。

「待って艦長、ダル宇宙域は、恒星が二個あって、その恒星も惑星も公転していないわ。とてつもない負のエネルギーが満ちているような気がする」

「アナライズの結果か?」

「エネルギーそのものは感じないけど、全ての星が動いていないということは、動いていないだけの理由があるはずよ。グリンヘルドもシュトルハーヘンも、哨戒艦すらここには出していない。状況から考えて未知の何かがある」

「しかし、ここを避けたら、敵の待ち伏せのど真ん中に突っ込んでしまう。確実な脅威に飛び込むよりは、未知の可能性に賭けてみたい。みんなはどうだ?」

 ……………………。

 艦橋のみんなに言葉は無かった。

「しかたがない。ミカさんに聞いてみよう」

 神棚のあるホールにいくと、ミカさんはセーラー服でニコニコ待っていた。

「その顔は、ミカさん、いい答えを持ってるんだね!?」

「ううん、みんなが前向きの気持ちだから嬉しいの。わたしがここにいるというのは、三笠に差し迫った危機がないということだから、みんなが話し合った結果でいいんじゃないかしら」

「ミカさま、お茶の用意ができましたニャ(^▽^)/」
 
 ミケメがワゴンを押してやってきた。他の三人のネコメイドたちも『猫ふんじゃった』をハミングしながらテーブルを整えたり、ティーカップを並べたり。

「気楽だなあ。それで今まで、どれだけの危機に出会ったか」

「でも、結果として三笠は無事でしょ? まだまだ試練はあるだろうけど、大丈夫。いまのあなたたちなら乗り越えられるわ」

「そうニャそうニャ」「みんなもお茶するといいニャ」「ダージリンニャ」「オレンジペコニャ」

「いいのよ、みんなで出した結論で進みなさい。100パーセント問題なしに進める道はないわ。でも、みんなに前に進む勇気が出てきたのなら、それで十分よ」

「そうだねミカさん。決めたんだ、迷わずに前に進むよ」

「そう、それがいいわ。ワープの準備が済んだら、ここにいらっしゃい。ちょっと寛いで、それからワープすればいいから」

「分かった。じゃあ、ブリッジに戻ってワープの準備だ。それから、お茶にして、一気に切り抜けるぞ!」

「「「ラジャ('◇')ゞ」」」


 寛いでいるようだったけど、ミカさんは、それとなくダル宇宙域突破を示唆してくれた。
 
 やんわりとだけど、俺の方針を後押ししてくれた。

「よし、ワープで一気に抜けるぞ。ダル宇宙域は1・5パーセクしかない。最大ワープで抜けるぞ!」

「じゃ20パーセクで」

 トシは、機関室へ向かおうとした。

「いや、100パーセクだ!」

「100パーセクもワープしたら……二三日動けなくなってしまうよ。その間に攻撃されたら、反撃することもバリアーを張ることもできなくなる」

「勘だよ。それだけワープして、やっとダル宇宙域を突破できるぐらいだと思う」

「でも」

「ものごとやってみなければ、前には進めん……だろ」

「う、うん」

「よし、では100パーセクのワープの準備をして、お茶会だ」

 了解!!

 みんなの声が揃って、三笠は能力の五倍を超えるワープの準備に入った……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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RE・かの世界この世界:021『ダイブの鍵』

2023-02-26 04:37:24 | 時かける少女

 RE・

021『ダイブの鍵』   

 

 

 ドッシーーーーーン!!

 
 いまどきアニメでも使わないような擬音が鳴り響いて倒れた。

 アイターーー!!

 これまた戦車アニメの戦車隊長が吶喊直後に撃破された時のような悲鳴が出た。

「ごめんなさい、急いでたもんだから」

 スカートを掃いながら立ち上がって絶句した。

「け、健人! なに女装してんのよ!?」

「イ、イテーなあ……くそ、食べかけのトーストがあああああ、邪魔すんなよテル!」

 砂まみれのトーストを投げ捨て、ズレたボブのウィッグを直しながら健人は行ってしまった。

「なによ、意地も誇りもないってかあ! 舐めてんのか照姫を!」

 ドラゴンボールの敵役みたく仁王立ちしたわたしはテル、小早川照姫(こばやかわてるき)と名乗るようだ。

 前回は三十年前の世界にデフォルトの自分で飛び込んだけど、今回は、その上に上書きされた人格のようだ。詳細は分からない、とにかく走る!

 砂ぼこりを払って健人の後を追うころには、テルの人格に成りきっていた。

 視界の左上はインターフェイスのようで。レベル・3 経験値・5 HP・55 MP・55と表示されている。

 
 他にもいろいろ表示があるが、先を急がなきゃならない。

 
 健人はつまらない賭けをしやがった。

 マヤのグループとどっちが先にダイブするかで賭けたんだ。

 マヤのグループは揃って成績優秀、スポーツも、それぞれ運動部の部長が務まるくらいの奴ばっかり。

 タイマンならまだしも、一対七、あっさり負けを認めれば恥をかくだけで済んだのに、マヤの挑発に乗ってしまった。

 
 これを着て八時までに登校したら一緒にダイブさせてやるわよ( ´艸`)。

 
 そう言って投げ出された女子の制服。

 恥ずかしい真似はさせられない! たとえ遅れてダイブすることになっても見っともない真似はさせない! メッセを打ちながら後を追う。

―― 馬鹿な真似なんかしねーよ ――

 返事は返ってきたけど、馬鹿な真似の意味がわたしとは違うんじゃないか?

 予感がして寄ってみたら、このざまだ。

 
 馬鹿はよせ……

 
 祈りながらの学校へ。

 昇降口を二階へ上がってすぐの教室に入ると、誰も居ない教室の真ん中に健人は立ちつくしていた。

「なんちゅー格好なのよ!」

「るっせー」

 汗みずくの崩れた女装が痛々しいを通り越して不潔で惨めったらしい。

「テルとぶつかってなきゃ……」

「人のせいにすんな!」

「あいつらだけじゃ勝てっこないし、俺が一人ダイブしたってどれほどのこともできゃしねーよ」

「ただのゲームに、なんでそこまでムキになんのよ」

「テルには分かんねーよ」

 そう言うと、健人は背中を見せて後ろのドアから出て行こうとした。

 あーーーイライラする奴だ!

「どこにいくのよ」

「屋上からダイブする。地上スレスレで飛べば追いつくかもしれない」

「100パーセント死ぬよ」

「俺なら行ける」

「止してよ、創立記念日の学校で女装のまま墜落死するなんて!」

「…………!」

 

 キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン……キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン……

 

 健人が抗弁しようと息を吸ったところでチャイムが鳴った。

 健人の目からホロホロと涙の粒が落ちていく。

 どうやらチャイムがタイムリミットの合図であったようだ。

 
 分かったア、わたしが付いて行ってやるから。

 
 無意識にポケットから出したのは……ダイブの鍵だった。

 
 で、ちょっと待って。この設定って、中二の時にプロットの状態で放り出したラノベの設定に似ている。ヘタレの幼なじみを異世界の中で鍛え直すって物語……その冒頭の部分に似ている。

 えと、このあとどうなるんだったっけ? 幾百と書いたプロットやアイデア、中には途中で挫折したのもあって、この先の展開が思い出せない……だめだ、チャイムがリフレインのキンコンカンコンを打ち始めた!

 ダイブの鍵。

 ……とても危険なものなんだというアラームが頭の中で明滅している!

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
  •  

 

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宇宙戦艦三笠34[水の惑星アクアリンド・4・水に流す]

2023-02-25 10:26:38 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

34[水の惑星アクアリンド・4・水に流す] クレア  

 

 

「この星では、全てのものの寿命が80年しかないのです」

 長い沈黙のあと、僧官長は覚悟を決めたように言った。


「どういう意味でしょう……」

「クレアさん、御神体のクリスタルに手を触れて、アナライズしてくださらんか」


 全て見通している僧官長は、クレアを偽名ではなく、本名で呼んだ。そしてクレアのアナライザーとしての役割も知った様子たった。


「……この星、80年以上の寿命を持っているのは、星本体と、僧官長さまだけです……なんということ……海の中には四つの大陸が沈んでいる」

「「え?」」

「待って、続きが……」

「やはり、続きは、わたしからお話しましょう。辛いことを先延ばしにしたり人任せにすることはアクアリンド人の悪い癖です」


 僧官長は後ろ手を組んで、クリスタルにも修一やわたしにも背を向けるようにして言った。


「この星は、地球に似た星で、かつて五つの大陸がありました。人口も50億と、穏やかな、星の容量に見合った数でした。しかし、地球がそうであったように、この星は大きな戦争や紛争を繰り返してきました……」

 アクアリンドの戦争や紛争の歴史がVR映像のようにフラッシュバックしていく。あらかじめ聞かされていなければ、頭も心もかき回されてしまいそうな凶暴さだ。

「ある日、ある戦争でICBMが撃たれました。落ちてくれば国の二つ三つが吹き飛んでしまうぐらいに強力な核ミサイルです。星を半周して大気圏に再突入しようとした時、突然流星が軌道を変えて、このミサイルに触れて、その弾みで核ミサイルは宇宙の彼方に弾き飛ばされたのです。流星は、衝突で速度を落として、大気圏で燃え尽きることなく、ここに落ちてきました。それでも巨大な隕石であることに変わりはなく、半径10キロが破壊され、大勢の犠牲者が出ました」

 ひょっとして……

「そうです、それが、このクリスタルなのです。クリスタルは囁きました『わたしを崇めれば、全てを水に流してやろう。そして、一からやり直しなさい。試しに、わたしの墜落で壊してしまった半径10キロを墜落前の状態に戻してみよう』、クリスタルが輝いたかと思うと……表現が難しいのですが、半ば実体化した水が流れて墜落の痕を洗い流していきました。そして、半径10キロは墜落前の状態に戻りました」

「そんなことが……」

 修一が漏らした言葉は怖れを含んでいる。正常な反応で安心した。

 僧官長の横顔は―― ここで間違った ――という表情だった。

「この星の指導者は、これに頼ってしまったのです。クリスタルに頼み、この星が真に平和になるまで水に流して欲しいと……」

「水に流すとは?」

「人の寿命は80になりました。あらゆるものを80年で更新するようにしました。その結果、大きな破綻や戦争が起こることは無くなりましたが、小さな不満や破綻は絶えることがありません。クリスタルは、この星の人間が満足していないと判断して、80年周期の更新をやめません。一時はクリスタルの破壊や星の外への移送を考えましたが、クリスタルは、この星の人間が触れることを許しません、このように……」

 僧官長が手を伸ばすと、あと30センチというところでスパークが走る。

「試しに、わたしの体を押してみてください」

「じゃあ、俺が」

 修一が押すが、30センチのところでスパークが走るばかりで僧官長とクリスタルの隙間は埋まらない。

「という次第です……流してしまったものは全て水になって海に流れ込み、四つの大陸は海に沈んでしまいました。まもなく、この星の人口は1億を割り、このままでは、最後に残されたアクア大陸も水没してしまうでしょう」


「それって……?」


「星が滅亡してしまうということ」

 思わず、無機質な言い方をしてしまった。

「そうです、クレアさんはお優しい。こういう話は情緒的に話してしまえば、嘆きしか残りませんからね。わたしは嘆くために、こんな話をしているわけじゃない。この星を元に戻したいのです。滅びに向かいつつある星なので、グリンヘルドもシュトルハーヘンも征服しようとは思いませんでした。この星を覆う水を減らせるかどうかは分かりませんが、残ったアクア大陸だけでも元の姿に戻したいのです」

 いつの間にか天窓が開き、潮騒が聞こえてくるようになっていた。地球同様に心が癒される波音ではあった。

「海の安らぎに頼り過ぎた姿が、このアクアリンドなんです」

 

 でも……


 そこまで言いかけて、あとは修一に任せた。

 言いにくいことをまわしたともとれるし、決意を伴う話になりそうなので、修一が話を付けるべきと譲ったともとれた。

 潮騒の音が大きくなってきた。なにやら大きな波が岩肌にぶつかるような音もし始めた。

「で、ぼくたちに、なにをしろと……」

「このクリスタルを、三笠で持ち出していただきたい」

「え……?」

「これは賭けです。グリンヘルドとシュトルハーヘンの戦いの中で、このクリスタルは、本来の存在意義を取り戻すと思うのです。80年の周期で、全てを更新し、水に流す愚かしさに気づいてくれるのではと思うのです。今のアクアのクリスタルは優しすぎます。その優しさが、この星を滅ぼすことに気づかせたいのです。それに、クリスタルには秘めた力があります。万一の時は、きっと、三笠のお役にもたちます……お願いできんだろうか」

 三笠は、アクアリウムのクリスタルを預かることになった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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RE・かの世界この世界:020『みっちゃん飛んで!』

2023-02-25 07:51:38 | 時かける少女

RE・

020『みっちゃん飛んで!』   

 

 

 あ………

 
 中臣先輩は息をのんだ。

 切り揃えた前髪で眉が隠れ表情が読めない。

 中臣先輩は表情の核心が眉、特に眉頭に現れる人なんだ。ピクリとしたかと思うと前髪で隠れてしまった。

 眉を見せてください……とも言えずに志村先輩に目を向ける。キリリとしたポーカーフェイスで、さっきまでの陽気さが無い。

 次の任務は、さらに大変そうだ。

 
 モニターには、どこにでもある一軒家が映っている。

 
 二階建てで、カーポートと十坪ほどの庭が付いている。

 ラノベの主人公が住んでいそうな中産階級の見本のような家。今にもトーストを咥えた女子高生が飛び出してきそうな雰囲気。そして、最初の角を曲がったところで男の子とぶつかって―― 失礼な奴! ――お互いに思う。そして学校に着いたら、そいつが転校生でビックリして、そこからお話が始まるとか……。

「ミッチャンの思ってる通りよ、しばらくしたら誰かが飛び出してきて、角を曲がったところでミッチャンとぶつかるの」

「そんなラブコメみたいな任務なんですか?」

「ラブコメではないと思うぞ。でも、そういうフラグが立っているのは分かる」

「そう、フラグなのよ……」

 志村先輩がマウスを操作すると、カメラが引きになりながら上昇……屋並みの向こうに学校が見えてくる。

「この学校が舞台なんですか?」

「これは小学校……見て、屋上のフラグ……」

「あ」

 それは、前の任務でも見た『白丸』だ。

「この『白丸』を『日の丸』に戻さなきゃクリアにはならないと思う」

「えと……旗を付け替えるとかじゃダメ……なんですよね(^_^;)?」

「この世界全てが当たり前に日の丸を掲げていなければだめだろ、白丸になっているというのは、歴史のどこかが狂ってしまった証拠だからな」

「じょ、冗談です(-_-;)」

 中臣先輩が言うのは、もっとシビアだった。

「でも、それは、このステージの任務ではないと思う」

「そうだな」

「チュートリアルに毛の生えたような任務だと思うわ。白丸に関わるのは、まだ先のような気がする。時美、設定画面を出して」

 カチ

 志村先輩がクリックすると、わたしの全身像が現れた。

「どうする、初期設定はリアルのままだけど」

「これでいいです、キャラクリしてもアビリティーは変わらないでしょうから」

「アビリティーは……HP50 MP50……それだけみたいだな」

「あ、あっさりしてますねえ(;'∀')」

「他に、なにかないの!?」

 気の毒に思った中臣先輩が手を伸ばすと、アバターがすごい速さで切り替わっていく。

 勇者 魔導士 錬金術師 剣士 弓兵 僧兵 妖精 鍛冶職人 スライム クリーチャー

 アバターの下には、HP、MP以外にもいろいろ出てくるんだけど、早すぎて読めない。

「あわわ(;#'∀'#)」

「美空、手を離せ!」

「ご、ごめんなさい!」

「……と、これでよし!」

 志村先輩が、なんとか元に戻すと、設定画面自体が点滅し始めた。

「時間が迫ってる。時実、ダブルクリック!」

「おお!」

 志村先輩がカチカチとクリックすると、ドアからトースト咥えて飛び出してきたショートヘアーの女の子……外股だ……え……え? 女装男子!?

「時間よ、みっちゃん飛んで!」

「は、はい!」

 返事すると同時にホワイトアウト、再び次元の狭間に投げ出されるわたしだった…… 

 

 ☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
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せやさかい・390『卒業式のサプライズ』

2023-02-24 15:03:36 | ノベル

・390

『卒業式のサプライズ』さくら   

 

 

 …………と、いろいろな出来事やさまざまな思いがありましたが、無事に目出度く卒業の日を迎えることができました。

 こんな身勝手な三年生に付いて来てくれた在校生のみなさん、導いてくださった先生方、職員のみなさん。お父さんお母さん、家族のみんな。商店街を始めとするご近所の方々。そして、入学以来ここまで見守り、我々の魂を磨いてくださったマリア様に感謝の誠を捧げ、卒業の言葉といたします。

 2023年 2月 24日    卒業生代表 田中真央

 

 シーーーーーーーーーーーン

 

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!

 

 さすがは百武真鈴! いや、卒業生代表田中真央!

 式場の全員、聞きほれてしもて、とっさには拍手がでけんと、シーンとしてしもてからの大拍手!

 三年に及んだ流行り病のために、授業やら行事が押せ押せになって、例年より一週間遅れての卒業式。

 でも、もうマスクもせんでええし、ソーシャルディスタンスもいらんし、真鈴先輩の名調子も拝聴できたし。

 これで雨やなかったら120点の卒業式やった!

 

 で、折り入って話があるんだが……

 

 学食の外テーブル。

 散策部の四人で、午後の紅茶を頂きながら卒業式の感動を噛み締めてると、本人の真鈴先輩がやってきた。

「先輩、さっきの答辞、めっちゃよかったですよ!」

「百武真鈴の新境地ですね!」

「あはは、うんうん、好きなだけ褒めてくれていいんだぞぉ……と言いたいんだが、直ぐに結論を出さなければならない相談があるんだ」

「「「「え?」」」」

 四人揃ってびっくりし、わたしが代表で聞いた。

「なんですか?」

「実はな、この金土日と君たち散策部に付き合ってもらいたいんだ」

 え?

 期待半分心配半分(^_^;)

 文化祭のパレードといい、こないだの『犬が西向きゃ尾は東』と言い、真鈴先輩の「ちょっと相談」というのは絶対ちょっとやないからね。

「実はな、頼子に卒業証書を持って行ってやりたいんだ。ついてはわたし一人ではつまらないし、みんなにもいっしょに付いて来てもらいたいんだが。みんな、パスポートは切れてないだろう?」

「はい、大丈夫です!!」

 わたしが代表して、行く気まんまん!

「でも、費用とか飛行機のチケットとかは……」

「うん、むろんこっち持ち。っていうことは放送局の企画なんだけどね(^_^;)」

「いくいく!」

「大丈夫です!」

「わたしはダメだ」

「ええ、ソニーあかんのん?」

「部長から金曜の夜から仕事だと言われてる」

「部長って、ミスター・ジョン・スミスだよね?」

「うん、あっちは大佐、こっちは伍長だからね」

「ああ……軍務なら仕方ないよね」

 お父さんが自衛隊のメグリンは俯いてしまう。

「ええと、その反応は想定内だったりしてね……」

 先輩が言葉を継ごうとしたら、ソニーのスマホが鳴った。

「ちょっと、ごめん」

 スマホを持ってピロティーの方へ行くソニー。

「忙しそうだね……」

 メグリンが同情の眼差しを向ける。

 英語でやり取りしてるソニー、むろん話が聞こえる距離やないねんけど、うちらと話す時とは違う軍人さんの姿勢。

「なんか、草薙素子みたいだね」

 先輩は声優の大先輩がやってるキャラの印象みたいに言う。

「イエッサー!」

 なんか、最後はやけくそみたいに返事して戻ってきた。

「わたしも行くことになった!」

 よかったあ(^▽^)/…………うちらが喜ぶ割には、冴えへんソニー。

「最後まで聞け、使う飛行機はヤマセンブルグの公用機、そしてパイロットは、このソニーだ」

 

 え!?

 

 みんな口を開けたままフリーズしてしもた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・009『宮田博子』

2023-02-24 11:06:59 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

009『宮田博子』   

 

 

 ジャンボジェットの子だ!

 

 ほら、合格者説明会が終わって帰ろうとしたら、空見上げててぶつかってきた子。

「どこの航空会社のなんですか?」

「え、ああ……家にあったの持ってきただけでぇ」

「ロゴとか……無いのは、きっと特別製なんですねえ、聞いたことあります。ベテランのスチュワーデスは特注のキャリー持ってるって! へーー、いいなあ、カッコいいなあ」

「アハハ(^_^;)」

「え、ひょっとして椅子になるんじゃないですかあ!?」

「え、椅子?」

「ちょと、失礼……ここを、こうやって……」

 カチャカチャ

「ほら!」

「あ、ああ……」

 これは究極のババキャリーだ……ほら、くたびれたお婆ちゃんが、公園とかでキャリーを椅子にして寛いでる。若者は絶対持ち歩かない奴だよ(-_-;)。

「スゴイです! 特注中のトクチュ……テ、舌噛んでしまいました(;'∀')」

「あはは」

 こないだのジャンボジェットほどじゃないけど、チラ見していく人が結構いる。半分は、この飛行機オタクっ子のせいだけどね。

 見渡すと、キャリーを持ってきているのはわたし一人……どうやら1970年、キャリーバッグを使っているのはスチュワーデスぐらいみたいだ。

「あ、わたし宮田博子っていいます。よかったら、いっしょに周りませんか?」

「え、あ、そうね」

 と、成り行きと勢いで、いろいろの受け渡しをいっしょに周ることになった。

「あたし、時司巡。よろしくね」

 わたしにも常識はある。相手が名乗ったなら、こっちも名乗らなくちゃね。

「トキツカサ?」

「あ、時間の時に、司会の司と書いて時司。めぐりは巡査の巡」

「時間の時に司会の司……」

 手のひらに指で書いて憶えてる、なんか可愛い。

 そう言えば、この子の身長はわたしの鼻の頭くらい。陽気で押し出しが強いせいか、小柄なのに気付かなかった。

「テヘ、物覚え悪いんで」

 おお、テヘペロ! リアルで見るのは初めてかも!

「ううん、いい記憶法だと思うよ」

「お祖父ちゃんに教わったんです」

「そうなんだ。あたしのキャリーもお祖母ちゃんに『持ってけ』って言われて、あ、スチュワーデスとかじゃないんだけどね」

「え、そうなんだ。年寄の言うことって、含蓄ありますよねえ。あ、まあ半分くらいは」

「うん、そうかもね。あ、教科書が早いみたい!」

 校舎の入り口で係りの先生が―― 教科書空いてまーす ――と言ってくれてる。

 教科書は選択授業によって変わるので要注意。

 宮田さんと注意し合って列に並ぶ。

「あ、芸術は同じですね」

「宮田さんも美術なんだ」

「副読本多いですねえ(^_^;)」

「うん、ちょっと多すぎかも」

 地理の地図帳、白地図帳、英語の辞書二冊(英和辞典 和英辞典)、高等英文解釈、国語便覧……

『教科書、副読本は一覧表を基に確認して下さ~い。空き教室を用意していますのでご活用くださ~い』

 不足や間違いがあると、販売店まで行かなければならないらしいので、みんな真剣に確認。

 先に制服の受け渡しをやった子たちは、制服の箱が邪魔そう。

「オッケーです、制服いきましょう!」

 制服は本館前の植え込み前。ゼミ机で結界を張り新入生全員分の制服の箱が積んである。

 フフフ

 やっと憧れの制服だ。

 これのために、わざわざ五十年先の令和から越境入学したんだ。思わず笑みがこぼれる。

「やっぱ、制服はスーツですよね!」

 宮田さんも同類みたいだ。

「靴もね、ローファーを買ってもらったんです。高校の制服って、最後は足もとで締めなくっちゃいけませんからねえ」

「あ、わかる~、中学まではスニーカーでしょ、スニーカーって子どもっぽくって」

「スニーカー?」

「え、あ、これ」

 足元を示すと、また目を見開く宮田さん(^_^;)

「おお……さりげなくもイカシた運動靴ですねえ! 靴底の厚さといい、くるぶしあたりの肉の厚さといい、言われて見なければ分からないさりげなさですけど、自己主張してますねえ……そうか、スニーカーってメーカーなんですねえ」

 スカートの膝のところでスニーカーってなぞってるし(^o^;)

「あ、そういうわけじゃあ……あ、体操服!」

 流れに沿って体操服の場所に移動。

「ゲ、ブルマ!?」

 受け取ってビックリ。

 男子はジャージの上下に丸首の体操服だけど、女子のは体操服の下はブルマだよ( ゚Д゚)。

「仕方ないですねえ、昔から女子はブルマですからあ」

 ぬかっていたあ……まあ、時代なんだ。みんなで穿けば怖くない。

 

 人ごみを抜けて、あとは帰るだけ。これも縁だから宮田さんに声をかける。

 

「じゃ、そこまでいっしょに帰ろうか?」

「あ、わたし、もう一つ寄るところあるから」

「え、なにか忘れてたかな!?」

「あ、あそこのね……」

 宮田さんが指差した先には『奨学金申し込⇒』の張り紙。

「え、あ、そか」

「あ、じゃあね、バイバイですぅ」

「う、うん」

「入学式楽しみですねえ、同じクラスになれたらいいですね!」

 健気に手を振って校舎の中に入っていく宮田さん。

 微妙におたついたけど、ほんと、同じクラスになれたらと思った。

 

 校門を出て仰いだ空、ジャンボジェットが飛んでいく。

 見上げる人は、もういなかった。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 宮田博子

 

 

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宇宙戦艦三笠33[水の惑星アクアリンド・3]

2023-02-24 06:32:37 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

33[水の惑星アクアリンド・3] 修一  

 

 


 あくる日は視察と親善訪問でいっぱいのスケジュ-ルだった。

 アクアリンドのIT施設、生命科学研究所、老人介護施設、交通システム管理センター、軍の閲兵、そして、たまたま日が重なった三年に一度の高校総合文化祭の観覧と目白押しだった。

―― やっぱ、この星おかしい ――

 クレアの言葉が、直接頭に飛び込んできた。老人介護施設の訪問が終わろうとした時だった。

「この星の歓待ぶりは格別だね……」

 俺は、会話の流れとしては自然な一言を発した。

 次の瞬間、俺とクレアはデコイと入れ替わった。

 昨夜、クレアとバーチャル映像を監視カメラなどにかましながら決めた合言葉だった。クレアが用意した修一とクレアそっくりのデコイと瞬時に入れ替わっていた。瞬間各種のカメラに微弱なノイズが入るが、気が付く者はいないだろう。また気づいたとしても、ノイズを解析し、二人がやったことに気づくころには三笠は、この星を離れている。


「これはこれは珍しい。旅の修行僧のお方とは」

 アクアリンド大陸南端の密林の中に、それはあった。


 アクア神の唯一の神殿であるセントアクア聖殿である。僧官長のアリウスが両手を広げ、若い修行僧姿の修一とクレアを神殿に招き入れた。アリウスは、どうやら二人の正体と、訪れた目的を知っている様子である。

「夕べ、夢を見ましてな。北の方角から、若い修行僧二人が訪れると。これもアクア神の賜物でしょう」

「僧官長さまのお教えと、アクア神のお導きがいただきたく、大陸のあちらこちらを経めぐり、ようやくアクアの神殿にたどりつくことができました」

「いずこから来られた方であろうと、このアクア神のみ教えを拝する方は同志です。どうぞ聖殿に入られよ」

「我々のような修行浅い者が、聖殿などに入ってよろしいのですか?」

「聖殿でなければ、神の声は聞こえませんでな……」

 聖殿は神殿の奥にある八角形の台座で、その上にマリア像に似たアクア神の神像があった。

「入られよ」

「「失礼いたします」」


 僧官長にいざなわれ、俺たちは台座の中に入った。中央に八角形の大きなクリスタルが、様々な色に変わりながら輝いて、中央でゆっくりと旋回していた。

「これが、アクア神の御神体。上の神像は、人の目を欺く……と言ってはなんですが、分かりやすく人に見せるために作られた、祈りの象徴にすぎません。八十年に一度新しいものと交換いたします。本当の神のお姿はこのクリスタルです。地球のお方」

「やはり、ご存じだったんですね」

「この星で、八十年以上前の記憶を持っているのは、わたし一人です。わたしは、今年で二百八十歳になりますが、世間には八十歳で通しています。だれも怪しみません」

「それは……みんな八十年以上前の記憶がないからですね」

 クレアの言葉に僧官長は、かすかな笑みをたたえて沈黙してしまった。

 深遠な、すごみのある沈黙だった。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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RE・かの世界この世界:019『新しい任務が表示された』

2023-02-24 06:11:49 | 時かける少女

RE・

019『新しい任務が表示された』   

 

 

 ……白い闇の真ん中がドーナツ状に凝縮していき、二呼吸するほどの間にUFOのような発光体になった。

 拉致られる!? キャトられる!? 異世界にとばされる!? 

 弾けるように妄想が膨らむと、リング状の蛍光灯だと合点がいく。

 どこかで見たような……考えていると霧が晴れるように白い闇が消えていき、部室の天井だと分かる。

 ウ……

 分かると同時に背中に引力を感じる。

 何のことは無い、見えているのが天井ならば背中は床だ。床方向に引力があるのはあたりまえ。

 どうも、わたしの感覚は視覚的なようだ。

 
 気が付いたか?

 
 ギクッとした。

 視界の左にピーターパンみたいな志村先輩の心配顔。

 ホッと吐息が漏れる。

 右側にかぐや姫みたいに中臣先輩。

 
 突然見えたみたいだけど、さっきから居たんだろう。私の感覚は聴覚的?

 
「大変だったわねぇ」

「そっと起きるんだぞ」

「あ、はい……ああ……」

 上半身を起こすと部室がグラ~っと回って、わたしはカエルを潰したように腹這いになった。めちゃくちゃ気持ちが悪い。

 体中の穴から寺井光子の実体が溶けだしてクラゲかバクテリアになってしまいそう。

 
 ソロリと先輩の優しい手で上向きにされる……すると中臣先輩の顔がズ~ンと寄って来た。

 どうやら抱き起されている……先輩の美しい顔はさらに寄って来る。先輩のロンゲがハラリと頬に掛かった。

 ア……

 わたしの口が先輩の唇で覆われてしまった。

 生まれて初めてのキスが先輩……すると口移しに爽やかなものが流し込まれ、ビックリしたけど不快じゃない。

 爽やかなものは、瞬くうちに全身に漲って平衡感覚が戻って来た。

「初めてだから次元酔いしたのよ」

「次元酔い?」

「口移しにしてごめんね」

「あたしの方が良かったかぁ( ̄∀ ̄)?」

「茶化しちゃダメよ時美」

「ハハ、この次は自分で飲みな、冷蔵庫に冷やしてあるから」

「は、はい。ありがとうございました志村先輩」

 て……この次があるの(;'∀')?

「よかった無事に戻ってきて……あれを見て」

 
 先輩が指したモニターを見ると、三本の柱の右端のが青みを増している。ようく見ると、柱は無数の小部屋と言うか細胞というかで出来ていて、その半分ほどが青くなっている。残りは赤やどっちつかずの白。見ようによっては無数のフランス国旗が埋め込まれているように見える。

「ミッチャンのお蔭よ」

「わたしですか?」

「うん、光子がミカドの窓際に座ったんで、あの学生と営業見習い風の女は出会わずに済んだ」

「あ、あの二人……」

「二人が出会うと、二年後には結婚して子供が生まれるの」

「男の子なんだけど、五十年後に総理大臣になるんだ」

「そして国策を誤って、日本どころか世界をメチャクチャにしてしまう」

「メチャクチャに?」

「うん、でも生まれないことになったから、多分大丈夫よ」

「あの青いところが安全になった世界なんですね」

「そう、青が安全。赤は滅亡、白は一進一退というところだ」

「真ん中のひときわ明るい青がね、ミッチャンが修正したところ」

「あ、でも……」

 
 思い出した。わたしと出会ったことで三十年前のお母さんは死んでしまうんだ。

 
「……そう。危機は回避したけど光子は生まれない世界になってしまったのね」

「それで戻ってきたんですか?」

「まあ……でも、あの世界は大丈夫だからな」

 自分が生まれない世界と言うのは釈然としないが、母親の事故死を防げなかったという衝撃は小さくなった。

 だって、他の世界、真ん中と左側の柱には、母が生きていて、当然わたしも生まれている世界がたくさん残っているんだ。

「そして、光子が冴子を殺さずに済む世界も、まだ現れてないんだ」

「それって……」

「もうひと頑張りしなくっちゃ……」

 志村先輩がノーパソを操作すると、モニターに新しい任務が表示された。

 

 ☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
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くノ一その一今のうち・42『甲府城・3・夜の稲荷曲輪』

2023-02-23 14:34:02 | 小説3

くノ一その一今のうち

42『甲府城・3・夜の稲荷曲輪』 

 

 

 その深夜、改めて天守台に潜んでいる。

 

 昼間は中断した。観光客に化けた敵がうろついていたからだ。

 眼下の稲荷曲輪では監督やスタッフたちが来週撮影予定の深夜ロケの下調と準備に余念がない。

「昼間の続きだ」

 声まで違う。

 今は、課長代理の服部半三そのもので、軟弱脚本家三村紘一の片鱗も見せない。

「稲荷櫓が再建されたのは、再建工事にことよせて信玄のお宝を探すためだ」

「木下が工事を請け負ったんですか?」

「いや、甲府の地元にもお宝を狙っている者がいる」

「地元にもですか?」

「見ろ、あの謝恩碑」

 本丸の対角線方向に聳える謝恩碑はライトアップされて発射の時を待っているロケットのようだ。

「あの明治の大水害でも、信玄の埋蔵金には手を付けなかった。まあ、探しても容易に見つかるお宝ではないがな。武田家には三つ者と呼ばれる忍びたちがいたんだが、その裔の者たちがあの謝恩碑に『埋蔵金に手を出すべからず』と暗号を記している」

「え?」

「忍びの仕込文字だ、見た目には分からん。その三つ者たちが甲府市や県まで動かして再建したのが稲荷櫓。床下から地下道が……掘ったのか見つけたのか存在する」

「潜ってみたんですか?」

「何度かな……善光寺の戒壇巡りよりも難しい」

「課長代理でも……」

「あの石垣を見ろ」

 目を凝らすと、稲荷曲輪の石垣にいびつなところが見えた。幅五メートルほどの崩れがあって、崩れた石垣の中には別の石垣が覗いている。前には二重石垣の説明版も見える。

「最初に甲府城を築いたのは太閤殿下だ。その後、家康が天下を取って築き直した」

「大坂城と同じですね」

「太閤殿下は『信玄の埋蔵金などタカが知れておるわ』と申されて、この地にあったとされる手がかりごと埋め立てて城を築かれた」

「そして、家康が、さらにその上に城を築いてしまったというわけですか」

「本来の隠し場所、その上の城、そのまた上の城、工事を重ねるにしたがって、複雑に呪がかけられている」

 呪とは、おまじない。

 安倍晴明のように術として掛けることもあれば、作事や工事、人の想いが重なってかかってしまうこともある。

「その両方がかかっている」

 う……あいかわらず、心を読まれる。

「……気配を感じます」

「ああ、敵も焦っているようだ」

 身を隠すために天守台の石垣ギリギリのところで腹ばいになっているので、微かな地中の気配でも感じてしまうんだ。

「モグラが居る……昼間地上に出ていたモグラのようだな」

 確かに似た気配だ。しかし地中……稲荷櫓の床下から潜るのか?

「あそこから潜るぞ」

 課長代理が示したのは稲荷曲輪の端にある井戸の跡だった。

「承知」

 応えた時には、すでに課長代理はヤモリのように石垣を下りはじめている。

 

 監督たちは、ロケの背景にする稲荷櫓の周辺で、照明やカメラアングルのテストに余念がない。衣装やメイクさんたちもなにやらタブレットと台本片手に真剣だ。おそらく、夜の光や櫓の白壁に合わせる工夫をしているんだ。昼間は大学のサークルみたいなノリでやっているけど、やっぱりプロ。大したものだと思う。

 その分、曲輪の反対側、井戸の周辺は人気(ひとけ)が無い。

「やはりな」

 課長代理の呟きの意味は直ぐに分かった。

 井戸蓋の鉄格子の鍵は外されていた。敵は、ここから侵入したんだ。

―― それだけではない ――

―― え? ――

―― 開けたからには閉める者がいる ――

 そうだ、忍者は忍び込むにあたって複数の侵入口を確保する。入ったところから出ては発見される確率が高くなる。

 ここは城址公園、朝になれば観光客が来る。係員の見回りもある。

―― ロケチームの中に敵がいる? ――

―― 朝になれば分かる、行くぞ ――

―― 応 ――

 忍び語りになっても、課長代理は多弁だ。駆け出し下忍のわたしを教育しようという意味もあるんだろう。

―― 性分だ、気にするな ――

―― 応 ――

 

 昨日の戒壇巡りでは、それとなく夜目の準備を指示されたが、今回は無い。言われなくても天守台を降りる時から片目をつぶって準備していたけどね。

 三十メートルほど行ったところで足が止まった。

 自分で停まっておきながら、瞬間は訳が分からない。

 忍者の五感は常人とは違って、脳みそが判断する前に反応する。一呼吸おいて脳みそも追いついた。

―― この先、広い空間になってます ――

―― 少し探るぞ ――

 わたしも課長代理も呼吸をおさえ、五感全てを動員して様子を探った……

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
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