大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト325『北浜演劇賞最優秀助演女優賞』

2015-07-03 17:30:00 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト325
『北浜演劇賞最優秀助演女優賞』



「おめでとうございます。本年度北浜演劇賞最優秀助演女優賞に決定いたしました!」

「あ、ありがとうございます!」
 と、素直な喜びが湧いて、フワッと体が浮いたような気がした。北浜演劇賞は関西の演劇界では最も権威の高い演劇賞で、プロの登竜門と言われている。関西にも本格的な演劇の土壌を作ろうということで、文化に造詣の深い企業や文化人が資金と知恵を出し合って今世紀初めに出来た賞である。一新の会の府政の失敗により、文化不毛の地と成り果てた大阪では、まさに嵐の中の灯台であった。

 受賞の連絡は演劇部の練習中にかかってきたので、スマホに最敬礼する古河友子を見て様子を察した生徒たちも喜んでくれた。

「おめでとうございます、なんか偉い賞受賞しはったんでしょ、古河(こが)先生!?」
「おれ聞こえたで。北浜演劇賞ナンチャラ賞!」
「うち、最優秀助演女優賞いうのん聞こえたわ!」
「やったね、トモチン! 箕作高校の『幕が上がる』や!」
 生徒の部分的な記憶は、たちまち統合されて、一分後には、府立箕作高校演劇部はお祭り騒ぎになってしまった。

「ちょっとヤバイかな……」

 友子の独り言は、生徒の嬌声にかき消されたが、受賞により世間は友子のあれこれを知ってしまった。
 大阪は、公務員の兼職については、ひどくやかましい。まずSNSの職業欄を劇団名にしていることが問題になったが、たかがSNSはお遊び、履歴に本当のことを書くと、公務員はいろいろカモにされると、同じSNS仲間や、テレビのワイドショーなどが養護してくれた。

「そ、うちの劇団はアマチュアですから」

 この発言には、劇団の内外に波紋をおこした。
「古河(こが)先輩、あたしらアマチュアやったんですか!」
 若手劇団員や研究生に泣かれたのには往生した。関西のプロ劇団からも「北浜賞は、食えんでもプロの意識を持った者に対して出される賞や。アマチュアやったら辞退しろ!」というやっかみ半分の批評が出た。一新派のやり方に馴染んだ府民からも同様な声が上がり始めた。

「古河先生、あなたはうちの吉岡先生ですよ。あなたは箕作の幕を上げた」

 民間人校長の言葉は意味深だった『幕が上がる』の吉岡先生にひっかけて、誉めながら選択を迫ってくる。
 最後の一押しは、意外にも地元の農協や商店会だった。
「昔から農具の箕ぃ作ることしかなかった箕作に光をあててくれはったんや。応援してます。ぜひプロとして頑張ってください!」
 
 友子は決意した。

 友子の血筋には、ジャンルは違うが日本歌謡曲の重鎮がいた。戦後のどさくさで、苗字の一字を変えたので、世間で知るものはほとんどいないが、友子のアーティストとしてのバックボーンの一つになっていた。

「古河友子、箕作の吉岡先生に!」

 メディアもキャプションを付けてしまった。
「人生一度きりや……」と、友子は決心した!

 気づくとよだれを垂らしていた。別に記念のデコレーションケーキが出てきたわけではない。
「先生、道具のデコレーション、こんなもんでええですか?」

 大道具の二年生が誇らしげに聞いてきた。真夏には、ちょっと早い宵寝の夢であった……。



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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト324『おのれのドキンタマ!』

2015-07-02 09:42:27 | ライトノベルセレクト

ライトノベルセレクト324
『おのれのドキンタマ!』



「もう、おのれのドキンタマ、どこに付いてんねん!?」

 美憂先輩は形のいい口のどこから、こんな言葉がでてくるのかというくらいの河内弁で、口火を切った。
 あたしら、三人の一年部員は、ただ息をつめて聞いてるしかなかった。
「なんのための枕詞や――OPF大阪高等学校演劇フェスティバルの講評委員の 先生方をはじめ、いかなる個人や団体に対しても攻撃・中傷を加える意図は含まれていません――うちは、これも逃げを打ってるようでいややった。そやけど、これ入れる条件で、思うた通りのこと書くいうのが、クラブの総意やなかったん!? それを、なんや、これは!?」
 美憂先輩は、パソコンの画面を叩きながら、美しい目を逆三角形にしてた。こめかみには青筋が立ってる。

 なんで美憂先輩の顔の描写が飛び飛びなんかいうと、美憂先輩の顔が怖いんで、下の方からしか見られへんかったから、口、目、こめかみと上がっていく。

 正直、うちらの演劇部のブログのアクセスは落ちてた。最初の頃は大阪……全国でも珍しい演劇部のデイリーブログとして、三年で15万件のアクセスがあった。それが、このごろアクセスが少ない。一日のPVが100を割る日も出てきた。
「他のクラブも、真似してやるとこ出てきたから、読者も分散。全体としては演劇部へのアクセスは増えてると思う。ボクらはパイオニアとしての役割は果たせたんや」
「工藤君、それて問題のすり替えや。うちのアクセスが落ちてることの説明にはなってへん」
「コンクールの時期になったら、また回復するて」
「そんな、逃げうたんといて。アクセスが落ちてんのは、記事がおもんないからや。OPHにしても、ワケ分からへんいうのが、クラブの感想やったやんか。それを誉め倒す講評委員は間違うてるいうのが、うちらの意見やったよね。それを書こう言うたら、工藤君がフニャフニャ言うさかい、枕詞つけることで妥協や。しっかりうちらの感じたまま書いてや!」

 これが、OPF大阪高等学校演劇フェスティバルを観た後の、あたしらの誓いやった。

 それが、昨日の記事は、一年のあたしらが見ても腰砕けやった。
「ワケ分からん」は「理解が、やや難しい」に、「台詞は叫んでるだけや」は「最高のシャウトだけど、僕たちの未熟かもしれないけど、静かな語りがあってもいいかなと感じる女子部員もいた」
 万事が、まるで検閲されたみたいに変わってた。

 あたしらのブログは、以前はアップしたら、すぐに「大阪の高校演劇」で検索したら、24時間ですぐにトップになったけど、このごろは、出てけえへん日が多くなった。たまに出ても、数時間で消えてしまう。
 同じことは、美憂先輩だけと違うて、あたしらも感じてた。

 そんで、今日は、美憂先輩の頭の線が切れてしもて「おのれのドキンタマ!」になってしもた。

「返事もないん……もうしまいやね」
 そう言うと、美憂先輩はクラブのバッジを外すと、工藤部長に投げつけた。

 物事にはタイミングというもんがあるもんやと、講習会で習うた講師の先生のことばが蘇ってきた。
 美憂先輩は工藤部長の顔に向かって投げたんやけど、工藤部長が中腰で立ち上がったもんやから、まともに股間に当たってしもた。

 あんな小さなバッジやのに、当たり所やねんやろな。部長は悶絶した。

 あたしらは、部長の痛いとこさすってあげるわけにもいかんで、美憂先輩を追いかけた。美憂先輩なしでは、うちの演劇部はなり立てへん。
「美憂先輩!」
「工藤のことやったら、ほっとき。痛そうな真似してるだけや。あんな芝居だけ上手なりよってさかいに」
 そう言い捨てて、先輩は行ってしもた。

 部室に戻ると、部長が気絶……演技かリアルかわからへんから、放っといて部室を出た。
 もう二度と戻ることがないかもしれん部室を……。



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