大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 003『頭上で楠の葉が戦ぐ』

2024-02-29 10:51:18 | 自己紹介
勇者路歴程

003『頭上で楠の葉が戦ぐ』 





 サワサワサワ……サワサワサ……サワサワサ……


 頭上で楠の葉が戦ぐ。

 戦ぐと書いて「そよぐ」と読む。

 演劇部の顧問をしていたころ『これでソヨグと読むんですか!?』と台本の字の読みを教えてやって驚かれたことがある。その生徒は『たたかぐ』と読んでいた。『戦い』と書いて『タタカイ』なのだから、『タタカグ』と発音してしまったんだ。

 そうなんだ、戦ぐとは、一枚一枚の木の葉が、隣り合う木の葉に当って音を立てる様子を現す言葉なんだ。

 それが、何千、何万、何十万、何百万と重なるとサワサワサワになり、林や森ぐるみ山ぐるみになると、ザワザワ、時にゴウゴウと猛々しい音に成ったりする。

 校舎の屋上で日の丸がはためいている。

 学校で国旗を掲揚するようになったのは今世紀に入ってからだったかなぁ。

 本来は、正門を入った玄関の前あたりにポールを立てて掲揚するものだ。人の目に付かなくては掲揚の意味がない。

 しかし、長年、組合が反対したことで屋上という妥協策になった。

 屋上ならば、校内に居る限り目につくことは無い。外からは、こうして見えるし、災害時には広域避難場所のいい目印になる。

 そうそう、学園紛争の嵐が吹きまくった70年ごろ、屋上とポンプ室のあたりは反戦生徒のたまり場だった。
 割れたヘルメットや立て看板やらペンキの缶やら、壁には「造反有理!」とか「安保反対!」とか「米帝粉砕!」書きたくってあった。

 お茶を一口あおると、人の気配。

 離れたベンチに自分より一回り半は年上、ひょっとしたら百に近いのかもしれないお爺さん。歩くのもやっとなんだろう、老婆が使うような手押し車のアームに顎を載せて眠ったように目を閉じている。

 全然気配がしなかった……まあ、こっちもポンコツだし、お互いの静謐を尊重しよう。

 上半分が覗いている体育館は二代目で、初代のは平屋の体育館。記憶と重ねて見ると、ここからなら屋根が見える程度だったか。

 入学式、卒業式、文化祭や新入生歓迎会、生徒会選挙の立会演説会……校長をつるし上げた大衆団交も、あそこでやったんだ。芸術鑑賞で劇団を呼んだ時、体育館の舞台は張り出しが付けられて倍ほどに広くなり、持ち込まれた照明や音響の機材で劇場のようになった。

 体育館の前には銀杏木が佇立していて、銀杏の実を拾い集め、みんなで食ったこともあった。臭いがすごくて、困っていると、家庭科のF先生が助けてくれた。日ごろは国防婦人会と揶揄されていたF先生だったけど、頼りになるオバサンだと見直したっけ。

 グラウンドの端の当たりに覗いているのは、創立以来の楡の木だ。

 あの木の下で告白すると、将来結ばれるという伝説があった。

 告白した相手には速攻で袖にされたがなあ……まあ、おかげで、亡くなったカミさんと出会うことができたんだが。

 苦笑して、お茶の残りを飲み干す。

 すると、また、お爺さんが視界に入って……いや、お婆さんだった(^_^;)

 歳をとると性別なんかほとんど意味がない。


 サワサワサワ……サワサワサ……サワサワサ……


 また楠が戦ぐ。

 どうも、無用の事ばかり思い出してしまう。

 明日からは……どうしようかぁ。

 非常勤講師という最後の肩書も取れて、社会的には70歳の無職老人。

 独立した息子は、この正月にも帰ってこななかった。

 まあ、所帯を持ったら自分たちのことで精いっぱい。便りが無いのは元気な証拠。人生の先達としては喜んでやるべきだろうなぁ。

 ザワザワザワ

 楠が戦ぐ、今までよりも強く。

 真上の楠だけでなく、公園全ての木々が嵐の前触れのように戦ぎだした。

 春一番か? 

 それにしては、学校の銀杏木や楡は手抜きアニメの停め絵のようだ。

 局所的春一番?

 ビル風か? 

 風の谷のナウいシカ。

 授業でカマしたら、ジト目で笑われそうなダジャレが浮かぶ。 

 そして異変が起こった。

 お婆さんが立ち上がったかと思うと、ぐっと背筋が伸び始め、白髪がグレーに、そして、息をのむうちに緑の黒髪に……身の丈、体つきも変じ、頬にも唇にも朱がさして、身に着けたものは、額田王(ぬかだのおおきみ)か卑弥呼かというような古代衣装に変じた。

「ようやく……ようやく……通じる者に巡り合うた……」

 古代衣装が口をきいた。

 

☆彡 主な登場人物 
  • 中村一郎       71歳の老教師
  • 原田光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉大輔       二代目学食のオヤジ
  
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第95話《さつき今日この頃・3》

2024-02-29 08:34:27 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第95話《さつき今日この頃・3》さつき 





「そ、それ、本物の関の孫六! 触れただけで頸動脈が切れちゃうよ(;'∀')」


 さっきまでの落ち着きはどこへやら、だるまさんがころんだで鬼が振り返った時のようなへっぴり腰で刀を指さす忠八君。

 恩華の首筋からは一筋の血が流れ、カットソーの襟を赤く染めている。

 まるで部屋の中に揮発したガソリンが充満していくような危うさだ。ほんの身じろぎ一つで恩華の心の火が充満したそれを爆発させてしまいそう。

 忠八クンは、それ以上何も言えなくなり、あたしは息をするのも苦しくなってきた。篤子さんはわたしたちと恩華の間に立って、わずかに眉を傾け、三人の中で、ただ一人恩華を刺激しない存在に成りおおせている。部屋の空気が爆発しないで済んでいるのは篤子さんの茫洋とした温かさなのかもしれない。

 しかし、篤子さんにしても爆発させないことが限度で、恩華の首から孫六を離させることはできないようだ。

 フワリ…………

 気づくと、朝顔の匂いが巡ってきた。いつの間にか窓が半分開いて、窓辺に一輪の朝顔が茎の付いたままで置かれている。

―― 忠八さん、とうとう成功しましてよぉ。夕方までもつ朝顔 ――

 窓の外で柔らかな声がした。

 人の手の平ほどの朝顔は、微かな風に花と葉っぱを揺らせ、それに魔法がかけられたようにみんなは見入ってしまった。

 ほんの数秒かと思われた時間のうちに声の主は、ドアを開けて朝顔の化身のようにソヨソヨと立っている。

「このお家に来てから、ずっと探していたんです。朝顔が夕方まで枯れずにおられる気をもった場所を……それが、このお部屋の窓の下。ちょっと拝借ね」

 そう言って、朝顔の化身は恩華から孫六を受け取ると、水差しの中でサラリと水切りをして、朝顔を一輪挿しに活けた。

 朝顔の香りが、いっそう芳醇になってきて、気が付けば、みんなが朝顔の化身を取り囲んで、話を聞く格好になっていた。


「……というわけで、わたしは四ノ宮忠八さんの奥さんになりました」


 朝顔の化身は、自分が忠八クンのお嫁さんになったいきさつを、小学生の朝顔の観察記録のような短い文節を重ねるだけで納得させてしまった。化身の名は孫文桜という。

「朝顔は朝に咲いて、お日様が顔を出したころには萎んでしまいます。それが朝顔の決められたあり方。ただね、場所や条件さえよければ、こうやって夕方ぐらいまではもたせることができるの。ね、あなた」

 化身は、忠八クンに振った。

「ああ、そうなんだ。国にも、花のような生理があるんだ。朝顔のように暑い夏に涼しそうな花を付けて終わってしまうようなもの。うまく人の手を加えると、寿命はのばせるけど、何年ももたせることはできない。でも、種はしっかり残って、来年にはまた花を咲かせる。桜は葉っぱのままの時期が一番長い。満開に花を咲かせるのは、ほんの一週間ほど」

「まあ、桜は品種や育つ場所で咲く時期や長さが違いますね。さつきさんの妹さんは、やっと咲き始め。わたしは……忠八さんの育て方次第」

 朝顔の化身は、いつの間にか桜の化身になっている。

「Cという国は、ラフレシアのように巨大な花になったり、程よい大きさのいくつもの花に変わったり。でも、その両方ともCという国なんだ。そして、その境目には自分も痛むし、他の国に影響を与えることもある。でも、その大きくなったり程よく分かれたりする中で、良くも悪くも周りの国に影響を与える。それがアジアというお花畑のありようだと思うんだ。お花畑には花守がいる。ここにいるみんなも、その花守の一人だと思うんだ……いい花を咲かそうよ」

 孫桜さんが窓を開けた。暑さとともに庭の花々の匂いがいっせいに押し寄せてきた。

「さあ、この香りの中には何種類の花があるでしょうか?」

 いたずらっぽく言う孫桜さんは、どことなくさくらに似ていた……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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勇者乙の天路歴程 002『若宮第二公園』

2024-02-28 14:51:53 | 自己紹介
勇者路歴程

002『若宮第二公園』 





 正門を出て65m50㎝。

 耐寒マラソンをやる時に測ったから正確だ。

 学校南東側の交差点、ここを斜め横断した角に立てば、校舎の二階から上が見える。

 アリバイの為に、今は自販機だけになってしまった元酒屋の自販機で缶コーヒーを買う。これを飲んでいるうちは、壁越しに校舎を拝んで感傷に更けられる……と思ったら小銭がない。

 プルルン

 仕方がないと上体を起こしたところでバイクが停まった。

「先生、いまお帰りですか?」

 バイクの主は学食のオヤジだ。オヤジといっても二代目。

 先代そっくりの髭面が目尻と口元にしわを寄せる。

「アハハ、歳なんで、ちょっと休憩中」

 芸の無い返事をすると、オヤジはバイクを歩道に上げて、後ろに積んだケースから紙パックのお茶を出して、グイッと突き出す。

「どうぞ、こんど入れようと思ってる試供品です」

「あ、すまん、ありがとう」

「学食の収入源は自販機ですからね、季節や需要に合ったものを入れんと儲けになりませんからねぇ」

「ああ、昔に比べたら生徒数は半分だもんなあ。まだ、やっていけそう?」

「なんとか西校と掛け持ちで」

「そうか、近ごろは学食止める学校も出てきたから、がんばってね。高校は、やっぱり学食と購買部が無いとね。中学と変わらなくなっちまう」

「あ、購買も四月からは、うちでやるんですよ」

「え、岸田のオバチャン、辞めるのぉ?」

「アハハ、僕らにはオバアチャンですけどね、階段下の購買は体に堪えるんで、引退だそうです」

「あ、あ、そうか……オバチャン、俺よりも年上だったなあ、挨拶しときゃよかった」

「あ、先生も?」

「あ、うん。荷物整理したら、このバッグ一つで間に合った」

「いや、申しわけない。気が付かなかった。どうも、長年ごくろうさまでした」

「あ、いやいや、退職そのものは10年前に済ませてるからね。あ、そろそろ学食開く時間でしょ」

「あ、じゃあ、また近くに来たら寄ってください」

「ありがとう、お父さんによろしくね」

「じゃ、失礼します!」

 ブルルル~~ン

 バイクが行ってしまうと、自販機の前で紙パックのお茶を飲んでいるのも決まりが悪く、もう、このまま駅に向かおうかと歩き出した。


 あ、この公園。


 次の四辻に行くと、取り壊し中の民家の向こうに公園が見える。

 手前に家があったので、普段はほとんど忘れている。

 もらったパック茶を飲んでしまおう、この公園からでも校舎は見えたと思うしな。

 若宮第二公園……くすんだ石柱に半ばゴミ収集場所を示す札に隠れた陰刻の文字に気付いて、そういう名前だったかと思い出す。

 学校の近所だから、一度や二度は来たかもしれない。たしかに、園内の楠や奥まったところが一段高くなった様子には見覚えがある。

 そうか、学校が荒れていたころ、校外パトロールで立ち寄ったことがあるのかもしれない。

 三カ所ほど遊具が設置されていた跡も見えるが、撤去されたあとに更新もされていない。その分、ベンチが三つ設えてあって、公園というよりは、散歩途中の休憩所という感じだ。

 真ん中に『野球、サッカーなどの球技を禁じます』と、野球をやったらピッチャーマウンドのところに看板が立ててある。子どもには魅力のない空間だ。

 少し駅寄りに学校の敷地ほどに大きい若宮公園があるので、こっちはオマケのようなものだろう。年寄の憩いや保育園児のあそび場には向いている。

 振り返ると校舎も上の方だけだが見えるから、ま、ここでいいか。

 どっこいしょ。

 木の下のベンチに腰掛ける。

 サワサワと、葉の戦ぐ音に包まれて、意外に心地よかった。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村一郎       71歳の老教師
  • 原田光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉大輔       二代目学食のオヤジ

 

 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第94話《さつき今日この頃・2》

2024-02-28 07:08:54 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第94話《さつき今日この頃・2》さつき 





 意外な人が周恩華さんの身元引受人になってカタがついた。


 なんと、裏のアパートの冴えない住人、四ノ宮忠八クンだ。

「よかったら、さつきさんもどうぞ」

 というので、迎えのタクシーにいっしょに乗った。

 違和感は、ここからだった。

 四ノ宮クンと言えば東京大学に籍があることだけが取り柄の、冴えない上に貧乏な学生という認識しかない。

「四ノ宮クン、どこに行くの?」

「恥ずかしながら、僕の実家」

 そう言ったなり黙りこくってしまった。

 タクシーは山の手の高級住宅街に入って、ひときわ大きなお屋敷が見えてきた……と思ったら、お屋敷の八の字に開いた門を抜けて、玄関の前の車寄せで止まった。

 クシーのドアが自動で開くのは当たり前だけど、開いたドアの前に執事さんとメイドさんが出迎えているのにはタマゲタ。

「四ノ宮クン、あなたって……」

「めったに、ここには来ないんだけどね……」

「奥の座敷になさいますか? それとも坊ちゃんのお部屋で?」

「僕の部屋。肩の凝らないところがいいだろうから」

「若奥様は、間もなくお出でになります」

「え、まだ来てないの。桜だけが頼りなのに」

「え、さくら!?」

「あ、来てから説明するけど、あの『さくらちゃん』じゃないから。ま、どうぞ。南さん、お茶だけおねがいします」

「かしこまりました」

 アキバや渋谷のまがい物ではないメイドの南さんが言った。メイドも本物になると迫力と気品がちがう。

 四ノ宮クンの部屋は広いだけが取り柄のガラクタ部屋だ(^_^;)。

 プラモデルやフィギュアの類なら、まだ理解はできるけど、かなりの量のプラレールや、骨董品屋さんの倉庫のように鎧があったり、模擬刀なんだろうけど刀があったり、壺や茶わんや掛け軸。よく見ると、なんかの専門書や漫画などがゴタマゼで平積みになっている。天井からは、モビールやら、模型飛行機なんかもぶら下がって乱雑、いや、熟成した趣味を感じさせる(^_^;)。

 あたしはぶっタマゲタだけだけど、恩華さんは不快を絵にかいたような顔になっていた。

 二三分すると、メイドではないかわいい子がワゴンにお茶とケーキを載せて現れた。

 若奥さんではないと思った。身に着いた気品や、そこはかとなく感じる人としての幅が四ノ宮クンとはかけ離れ過ぎている。
 言ってみれば、この娘さんはドラマで主役が張れそう。で、四ノ宮君は、どう見ても通行人というかエキストラというかモブの学生A。

「妹の篤子です。こないだまではオレのお目付け役だった」

「過去形で言わないでくれます、お兄様」

「おいおい、じゃ、お目付け役が二人も居るってことかい?」

「たった二人だと思ってたの? まあ、頼りない兄で申し訳ありません。そういうわたしも盲腸のときはさくらさんにお世話になりましたけど。どうぞ恩華さん」

 恩華は、お茶を受け取るふりをして、少し先にあった脇差を抜くと自分の喉元に当てた!

「恩華さん!」

「来ないで!」

 それ以上近づけば、自殺しかねない勢い!

 誰も身動きができなかった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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鳴かぬなら 信長転生記 167『孔明来訪』

2024-02-27 10:45:40 | ノベル2
ら 信長転生記
167『孔明来訪』信長 




「お久しぶりにございますなあ、ニイ少佐どの」


 面食らった。

 長鬚五尺に身の丈六尺半はあろうかという巨漢が発した声は、メゾソプラノの女の声だ。それに、悟空の姿に変えたというのに、俺のことを『ニイ少佐』の偽名で呼んでいる。

 ムム……

「あまりの名月に、いささか興を覚え、狸のような真似をいたしました」

「丞相殿、もうよいか?」

「ああ、すまん。もう前に出る」

 そう言って、関羽雲長 の後ろから出てきたのは、蜀の丞相であり大軍師である諸葛茶孔明だ。

 あいかわらず、薄物のワンピの上にガウンめいたのを羽織って、手には例の団扇かハエたたきか分からんものを戦がせている。

 関羽の前に出て、さらに数歩迫って来ると、背後の月光を受けて、薄物とガウンが透け、女子化した俺が見てもハッと息を呑むようなプロポ―ションが露わになる。

「三蔵法師御一行が現れたのは玉門関の頃から噂に聞いて、調べておりました。最初は、魏の曹茶姫様が姿をやつして戻ってこられたのではないかと」

 油断のならんやつだ(;'∀')

「最初の最初は、三蔵法師が茶姫様。お弟子三人の内、お一人がニイ少佐、もう一人がシイ少尉かと見積もっておりましたが、それでは一人余ってしまう。敦煌までのお働きを精査して、どうやら、お弟子三人が、茶姫、ニイ少佐、シイ少尉と見当がつきました。あの連携の取れた戦いぶりは御三方に違いが無い」

 ムムム……

「しかし、そうすると、三蔵法師が分からなくなる。最初はただの木偶かと思っておりましたが、西安からこの豊盃までを観察するところ、ただの木偶ではなく、ひとかどの大僧正……いや、仏教者の枠では捉えきれぬほどのお方であると拝察し、蜀を出て、豊盃で待ち受けていたのです」

「では、昼間の大説法会も」

「はい、関羽と張飛は目立つので公園の樹木と岩の陰に隠れさせておりましたが、この孔明は、オーディエンスに紛れて、説法をお聞きしておりました」

「それでは、あの大行進にも……」

「いやあ、あのボレロのリズムとパッション、血が騒ぎましたなあ!」

「孔明が、ボレロを!?」

「ハハハ、この孔明、いささかのパリピでございましてな」

 ドカドカドカ

 騒がしい足音がしたかと思うと、偉丈夫が鉞のような矛を担いでやってきた。

「軍師殿、寺の周囲一町四方を見て周ったが怪しの者は見えなかったぞ」

「ごくろう張飛将軍」

「それで、この寺には何用でこられたのだ」

「それは、申すまでもなく、三蔵法師猊下に御目文字賜らんがため」

 ウ……三蔵法師は結跏趺坐の姿勢で、ただのフィギュアになっている。

 会わせるわけにはいかんぞ(;'∀')



 
☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第93話《さつき今日この頃・1》

2024-02-27 08:50:10 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第93話《さつき今日この頃・1》さつき 





 アッと思ったら、手のスマホが無くなっていた。


 目の前電柱一本分先を走っているカットソーとジーンズの女の子が犯人だということに理解が及ぶのに数秒かかった。

「スマホドロボー(*>д<) !」

 叫ぶのに、さらに二秒かかった。

 犯人はとっくに、豪徳寺の高架を抜けて右に曲がって姿が見えなくなっていた。これは、もう駄目だろうという諦めが湧いてきた。

 え!?

 と、思ったら、高架の右側から犯人が左側に駆け抜けていった。

「ド、ド、ドロボー(*>▢<)!!」

 あたしは改めて叫んで追いかけた。

 なんといっても豪徳寺は地元だ、姿さえ見えていたら、路地裏の奥まで追いかけられる。

 と思って走っていると、自転車に乗った北側署の香取巡査が自転車で追いかけていた。


「一応窃盗だからね」


 香取巡査が、取調室で、あたしと犯人の両方に言った。スマホドロボーは、なんと、あたしと同じ東都大の留学生だった!

「周恩華さん、前は無いみたいだけど、単に検挙されてないだけで、初めてだったって言い訳は通用しないよ。さつきさん、どこも怪我してません? ひっかき傷でもしてたら強盗致傷になるからね」

 香取巡査は、冷たい麦茶を置きながら首筋の汗を拭いた。使ったタオルハンカチは、その横で調書を取っている女性警官のものらしく嫌な顔をしている。

「怪我はしていません。スマホが戻ったら、あたしはいいんです」

 周恩華という同学の留学生は、固く口をつぐんだまま机の上を見ている。覚悟はしているようだった。

 あたしは、この周さんは、本当に初めて、あるいは手馴れていないのだと思った。慣れていたら、こんな豪徳寺みたいなローカルなところじゃやらないだろう。

 でも、なんで豪徳寺なんかに来たんだろうって、疑問は残った。

「なんで豪徳寺なんかに来たの? あなたの寮は大学の近所でしょう?」

「……佐倉惣一の家が知りたかった、さつきのスマホ見たら惣一の住所分かる」

「兄貴の住所?」

「そうよ、佐倉惣一は佐世保沖海戦の英雄だから、どこの高級住宅に引っ越したのかと思って」

「え……?」

「どこよ、成城? 軽井沢? ひょっとして、特別に赤坂御料地の中とか?」

「なに言ってんの?」

「だって、英雄でしょ? 海戦の立役者でしょ? だったら、政府からの特別待遇で、どこかの高級住宅街で、セレブな家に越してるんでしょ?」

「えと……海上勤務で、あんまり帰ってこないけど、一応、うちが現住所なんだけど」

「う、うそ!?」

「いや、ほんと」

「ええー! だったら、さつきの後、付けていくだけで済んだあ!?」

「きみねえ、反省してない! 反省してないし、挑戦的だし」

 香取巡査は、再び汗を拭いた。

「あたし、被害届出しません」

「出しなさいよ。そんなことで恩にきたりしないから。麦茶、もう一杯、お巡りさん」

「可愛くないなあ……」

 そう言いながらも、お茶を淹れにいくところが、香取巡査のいいところだろう。

 ドン

「はい、どうぞ。でもね、なんで佐倉さんのお兄さんを?」

 あたしも、それには興味があった。

「佐倉惣一は、たかやすの乗り組み士官。それに『MAMORI』の記事で、佐世保沖の大虐殺の正当化をやってる!」

「そんな言い方やめてくれる。あれはC国の軍艦がドローン船を発進させたから」

「嘘! ドロ-ン船なんかじゃない! あの漁船には人が乗っていた!」

「いや、最初はそう言われてたけど、自衛官の人が乗りこんでビデオに撮ってネットで流してたじゃない。マネキンだったよぉ」

「ああ、あれ流した三等海曹、懲戒免職になったんですよね」

 調書をとっている婦警さんが顔を上げて付け加えた。

「嘘! あれはフェイクだ! フェイクでなくても、別の船だ! 撃沈されたのには人が乗ってた!」

「周さん……」

「アハハ」

 さすがに香取巡査も笑ってしまった。

「笑うな! あの漁船で燃えていたのは、わたしの兄さんなんだから!」

「「「え?」」」

「実家に警察から連絡があった『あんたの息子は漁船に乗ってて、日本の軍艦に撃たれて爆発して死んだ』って」

「そんなバカなぁ!」

「なにが馬鹿よ! 政府は気の毒に思って弔慰金までくれたんだから! その弔慰金、うちのお母さん、ぜんぶわたしの口座に入れてくれて、それで、今年も留学続けられて……でも、お兄さんの命の代償で留学続けられても、嬉しくないよぉ……」

 そこまで言うと、周さんは机に突っ伏して泣きじゃくった。

 ああ……これ、どうしたらいいんだ(-_-;)?


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第92話《MAMORIの明菜》

2024-02-26 09:40:59 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第92話《MAMORIの明菜》惣一 





 人相書きが出回っているというので、馬毛島からの帰りは陸自のC1だ。

 C1はC2が出回るにつれて順次退役させられている輸送機で、俺が同乗させてもらうC1も、これが最後のフライトで、横田基地に着いた後は退役させられるらしい。

 護衛艦たかやす、たかやすの艦長、そしてC1輸送機。

 ここのところ退役に付き合っているというか縁がある。

「佐倉一尉、横須賀からの指令電報です」

 たかやすが瀬戸内海を通って馬毛島に向かえと言われた熊野灘沖にさしかかったところで、乗員から電文を受け取る。

――横須賀到着後、創設70周年記念行事室出頭せよ――

 そうだ、この六月で自衛隊は創設70年になる……防大を出て任官した年に60周年だったから、俺の官歴も10年になる……と思うと同時に、海自は俺をもてあましているとも感じた。

 七月には記念式典を迎える記念行事は、大方できあがっている。今さら、広報の経験もない砲雷屋が出向いても、そうそう任務はないだろう。艦長のようにクビにするわけにもいかず、当分は棚ざらしで辛抱しろということだ。
 
 
 そんな棚ざらしも一週間を超えて初めての休日。俺は私服に着替えて横須賀の街に出た。


 明菜はカウンターの奥に座っていた。


「半年ぶりだな」

 そう言いながら、マスターに「いつもの」という顔をしておいた。

 この店は、ヨコチン志忠屋といい、大阪、東京に次ぐ3号店で、イタ飯屋の看板をあげた無国籍料理と酒の店だ。

 ヨコチンという妙なカンムリは、旧海軍時代、横須賀の海軍は『横須賀鎮守府』と呼ばれていたことからきている。別の意味もあるが、いささか下品なので説明は省く。

「あたし、こんなことをやってるの」

 明菜が名刺を出すのと、ピザが出てくるのが一緒だった。

「あ、あたしのピザなのに……」

 ピザの一枚を見敵必殺の呼吸でかっさらうと、明菜がさくらを思い出させるように膨れた。

「妹みたいなこというなよ」

「さくらちゃんはスターよ」

「明菜だってスターだ」

「あたしが?」

「流れ星だけどな。一瞬輝いたかと思うと、すぐに消えちまう……丸川書店MAMORI編集 白川明菜。今度は雑誌社か」

「元防大で採用してくれた。女子にターゲットを絞った防衛雑誌なんだけどね。実はね……」

 明菜は、この半年を超える空白を埋めるように多弁だった。以前は、こんなに自分から喋る奴じゃなかった。

「はい、いつもの。特盛とレギュラーにしといたよ」

 マスターが、そう言いながら定番の海の幸のパスタを並べてくれた。

「レギュラーじゃ足りないだろう。オレの少しやるわ」

 フォークとスプーンで、適量分けてやる。

「マスター、ソーセージの盛り合わせも。二人分ください」

「佐世保沖のことならとうぶん書けないぜ。書けたとしても室長の許可はとらなきゃいけないけどな」

「単に海戦のことだけじゃなくて……」

「海戦言うな」

「手のひら返したような政府と国民の意識も平行して、これは、あたしが書くんだけど」

 そうなんだ、この一週間で事情が変わった。

 ネットで、一連の佐世保沖の事件は世界中が検証して、C国が証拠とした映像は、AIに作らせたフェイク動画と判明、大方は俺たちが報告した内容通りだということが、ほぼ証明された。

 検証の中心になったのはアメリカだ。アメリカは、この事件に関する日本政府の不手際を深刻にとらえ、今の内閣には当事者能力がないと踏んで、俺たちを称揚することで、現在のK内閣を倒そうとしている。

 信じられないだろうが、戦後アメリカの意向やコントロールで倒れた内閣は、片手の指くらいはある。

 それに、分裂の途上にあるC国の中にも、手のひらを返して西側の理解と協力を得ようという、主に独立を宣言した北部二省のような勢力が台頭し、状況は変わりつつある。

「書いた原稿は、あらかじめ見せてくれよな。うちは表に関わることは書けないから」

「ええ、検閲しようってのぉ、佐世保沖とは関係ないネタでもぉ」

「まだまだデリケートなんだよ、無事に70周年も迎えたいしな」

「まあ、いいけど。一つ朗報」

「なんだ?」

「吉本一佐、ミネアポリスの教官に招へいされるんだって」

「え、ほんとかよ!?」

「そんで……これ」

 ゴソゴソと手札サイズの写真を出した。

「ええ!?」

 写真には、米海軍少将の階級章を付けた艦長が、大統領と握手している姿が写っている。

「外国籍だから、正式には少将待遇の教官、軍属なんだけどね、これの持つ意味は大きいわよ」

 そう言うと、明菜は写真をベリベリに破ってポケットに突っ込んだ。

「うちに帰ってから焼却処分。正式な発表は、明日の午後だから」

 なるほど、タブレットやスマホに残すよりは安全で確実だ。

「それから、もう一つは……これは、まだ確実じゃないから、発表を待ってもらうか……」

 明菜は、かなりの情報原をもっているようだ。逆に言うと、こちらの情報も持っていかれるということだから、防大以来の仲とはいえ、ちょっと身構えてしまう。

「ただの雑誌記者よ、70周年じゃ、海自の事、もっとアピールしたいから、その範囲でよろしくということよ。まあ、とにかく飲もう!」

「お、おう」

 そのあと、薩摩白波を飲みながら、脈絡のない話の末に、明菜がポツリと言った。

「惣一……」

「うん……?」

 オレは前を向いたまま、明菜の言葉を待った。変な沈黙になってしまった。

「じゃ、今夜はありがとう。これがうまくいったら、本採用になれるかもね。いいからいいから、経費で落としとくから」


 そういうと明菜は伝票を掴んで、レジに行った。


「あ、小銭ないから、崩すね」

 マスターは、そう言って万札をオレにつきつけた。

「もう少し砕けろや。私服なんだしよ」

「え、ああ……」

 万札を崩しながら、あいまいな返事にしかならない。

「あ、経費なら領収書いるよね。ごめん切らしてるから、こいつに買わせにいかせるから。一尉さん、そこの文具屋まで走ってくれよ」

 言われるままに領収書を買ってきた。マスターはゆっくりと領収書を書いた。

「今度、惣一が命令するとこ見たいわね。あんた、年上の部下にはまだ『実施』としか言えないんでしょ」

「んなことねえよ。明菜も……」

「なによ」

「いつか、かっこよく命令するとこ見せてやっから」

「ハハ、できたら、You Tubeにでも投稿しといて。じゃ、またね」


 最後は、いつもの調子で明菜は、ドアの外に消えた。


 ドガ!


 マスターに、思い切りケツを蹴り上げられた。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
 
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銀河太平記・206『恩師の素性とガタガタ道』

2024-02-25 14:04:29 | 小説4
・206

『恩師の素性とガタガタ道』ミク 



 扶桑の月世界は狭い。

 まあ、月自体が地球よりも火星よりも小さいんだけどね。

 その中でも扶桑自治領は、代官所のあるプラトンの他は、初期開拓地が拡大発展したアルキメデス、ピタゴラス、そして鉱山が集中してるパスカルの三つ。

 あとは、開拓村とかラボという程度のドーム集落があるだけで、ほかの国々の自治領と比べると見劣りがする。

 扶桑は幕府の体制をとっているのに、なんで、パスカルとかプラトンとか、古代ギリシャめいた名前が付いているのかというと、人類が月に到達するずっと前から、そういう名前が付いていたからよ。

 ウソだと思ったら、検索してみて。

 扶桑は、火星こそ自分流の地名や名称を付けたけど、それ以外は元々の名称を大事にする。大事にすることで侵略的というか帝国主義的な領土欲は持っていないことを地味にアピールしている。

 その狭い扶桑自治領でも、火星からフラ~とやってきたオッサン一人見つけるのは、ちょっと骨折り。

「ちょっと調べてみた」

 ピタゴラスに向かう街道に入って、高機動車をオートに切り替えると、そのまま指を車載ハンベのダッシュボードに伸ばして画面を出した。

「え、これって、姉崎先生の勤務評定……税務調査……医療記録……え、マースマーケットの購買記録に通信記録……って、個人情報全部じゃん!」

「ああ、空港からの足取りがつかめないと分かった時に調べたんだ」

「って、いくら警備隊でも、ちょっち違法なんじゃないのぉ?」

「プロファイリングしなきゃ、そうそう絞れねえからな」

「あれぇ、先生、給料の半分マースバンクに振り込んでる」

「うん、誰かに貢いでるか仕送りしてるかだろうと思う」

「ああ……でも、誰の口座に送ってるとかまでは分からないみたいね」

「ああ、俺の権限では、そこまでしかな」

「若いころは月で力仕事ばっかり……」

「まあ、あのガタイだからなあ。Bの8を見てくれ」

「Bの8……あ、パスワードいるよ」

「〇〇〇の〇〇〇〇」

「〇〇〇の〇〇〇〇……え、ダメだよ」

「じゃあ、〇〇〇の〇〇〇〇」

「……え、これもダメ」

「それじゃあ……」

 七つ目でヒットした。

「ああ……軍隊に入っていたんだ……」

「静かの海紛争の直後に除隊してる……それから地球で大学に入りなおして教員免許とって、うちらの学校に来てる……ええ! 音楽と家庭科の免許も持ってるんだ!」

「え、ほんとかよ?」

「ええぇ、てっきり体育の、それも格闘技専門かと思ってた」

「他には、なにか無いのか?」

「ええと……現役の軍人だったころは、飲み代の出費が多かったみたい……うわあ、ピタゴラスの主な呑屋踏破してるっぽいよぉ……」

「どんな呑屋だ……」

 ガックンガクガク ガックン ガックン

「ウワ!」

「キャ! ちょ、なんでこんなに揺れんのよ!?」

「工事区間だ」

「あ、でも人口重力は効いてるみたい」

「不安定なんだ、メンテナンスが間に合ってないんだ、イヘッ(>.<) ……舌噛んだ」

 月には大気が無いんで、太陽風や紫外線的な、時には隕石やらデブリやらがそのまま降り注いで、人工物でも自然物でも劣化が早い。

 数年前にテルが考案して、真っ先に月で試されたんだけど、やはり、月面の過酷な条件では寿命が短いんだろう。

 今度はパルス病のワクチンも作って大活躍の同窓生、流行り病が落ち着いたら、人口重力の安定化にも頑張ってほしいと思うデコボココンビだった(^_^;)

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第91話《退役艦たかやす回航記》

2024-02-25 09:50:51 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第91話《退役艦たかやす回航記》惣一 




 江田島で艦長を見送ったあと、横須賀に戻ることになった。横須賀に係留されたままの『たかやす』を種子島沖の馬毛島に移送することになったからだ。

 横須賀には連日マスコミや反対派の市民団体、野党系団体、活動家、擁護派、マニアなどが押しかけ、いろいろ問題が起こりそうなので標的になる『たかやす』を再び移動させることになったのだ。僚艦の『いこま』と『かつらぎ』は、そのまま係留。全艦移動させては風当たりが強くなるということらしい。

 なんとも中途半端なその場しのぎなのだが、ドローン船事件以来、C国の内情はグチャグチャなのだ。

 国内に溜まった不平不満や危機感が『善良なC国漁船を撃沈した日本艦隊と日本政府』に向いた。C国漁船は実際にはドローン船で、爆発したのは巡視船に挟まれて停船させられた時なのだが、C国内では、たかやすを旗艦とする日本艦隊のミサイルと砲撃によって撃沈させられたことになっている。

 ご丁寧なことに、精密なCGも作られて、それがC国内では『真実』だと流布されている。反日活動は暴動に発展し、地方政府の半ば以上は武装警察による鎮圧すらできないでいる。軍も動員されて、一部では鎮圧に成功したが、出動に応じない部隊が出始めると、あえて人民の反発を買いたくない部隊は出動を渋り、三日前からは公然と民衆側に付き、とうとう北部の二省と南部の一省が独立を宣言した。
 
 この動乱の全ての責任はたかやすと日本政府にあるという点では、中央政府も地方政府も大方のC国人民の共通認識だ。

 日本政府は『遺憾の意を表明』するのが『重大な関心を持って注視』するに変わっただけで、たかやすと、その乗組員を積極的に守ろうという姿勢は無い。七十余年前、ミッドウェー海戦で大敗北した空母艦隊の生き残りを、最前線に送って磨り潰したことに似ている。

 出航の朝は、基地の司令以下十数名の見送りがあっただけで、恒例の「軍艦マーチ」の演奏すら無かった。

 しかし、よく見ると基地の建物の中から、みんな挙手の敬礼で見送ってくれている。近くの岸壁では、市民や活動家たち数百人が抗議のデモにきていて、マスコミが彼らを中心に取材しているのがブリッジにいても分かった。

「艦長が人身御供になって退役しただけでも足らんようだな」

「ま、我々だけでも日系日本人でいましょう」

 一瞬意味の分からない顔をした船務長だったが、ブリッジのみんなには分かったようで、ブリッジは少し和んで、遅れて船務長も微笑んだ。

「真田三曹が見えます!」

 ウィングの見張り員が、基地のフェンスの外から手を振っているのを見つけた。

 免職になった彼は、基地の外から密かに自衛艦旗の小旗で『航海の安全を祈る』と手旗信号を送ってくれていた。

「アンサー送ろうか」

 ブリッジの誰かが言ったが、どうせ動画に撮られている。あとで悶着になっては真田三曹にも迷惑がかかるので、ウイングの見張りが「帽振れ」で応えただけになった。真田三曹には、それでも通じていて、後日、葉書で礼を伝えてきた。

 遠州沖を通過して熊野灘に差し掛かった時、沖合の海中にC国潜水艦が潜んでいる恐れがあるので、瀬戸内海を通れという指令が入った。

「ガセだろう」

 副長も航海長も言ったが、海上幕僚長の指令なので従わざるを得ず、けっこうな燃料と時間を費やして紀伊水道から瀬戸内海に入る。 

 瀬戸大橋の下をくぐると、数百個の生卵が『たかやす』目がけて落とされた。大半は海に落ちたが数十個が艦体に当たった。

「ここまでやるか……」

 もう怒りを通り越して苦笑が出てくる。

「今の様子は記録しておきました。橋の上の人物と車も撮影しておきました」

 両舷の見張り員が報告にきた。

「船舶往来妨害だな。一応映像をつけて海保に通報」


 艦内は淡々としていた。


 さすがに海保や警察が動いてくれて、来島海峡大橋で待ち構えていた卵部隊は解散検挙された。


 13時間分の燃料と時間を無駄にして、ようやく我々のたかやすは馬毛島に到着した。

 馬毛島はほぼ全島が3000メートル級の滑走路二本を擁する自衛隊の海上基地で、本土からは隔絶されている。

 その馬毛島の自衛隊専用ふ頭、折から入港していた海自最大の空母型護衛艦『あかぎ』の陰に隠れるように接岸させられた。

 言うまでもなく『あかぎ』は俺の本籍地と言っていい艦だ。

 なんだか、外に出てさんざん苦労した息子が、やっと実家に戻ってきたような気がしないでもなかった。

「あれ?」

 下艦のため、荷物をまとめていると、さくらにもらった小さなまねき猫が出てきた。

 入れた覚えはないのだが、この程度の癒し系の不思議はあってもいいと思った。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
 
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やくもあやかし物語2・032『記念樹のヒメシャラと風呂掃除』

2024-02-24 15:08:17 | カントリーロード
くもやかし物語 2
032『記念樹のヒメシャラと風呂掃除』 




 その木の別名を思い出して、ハイジが転ぶのを連想してしまった。


「え、なんだぁ?」

 ハイジが睨みつけてきて、ネルがクスクス笑う。

「なんだよ、ネルにまで笑われちゃあ立つ瀬がねえぞ」

「これはね、ヒメシャラっていうんだよ」

「ヒメシャラぁ?」

 その記念樹は、聖真理愛学院の人たちが植えてった記念樹。

 物事は正確にというカーナボン卿の意見でStewartia monadelpha という学名が最初に書いてあり、その下に姫沙羅・赤栴檀と漢字で書いてある。

 横文字はラテン語だし、漢字は日本人のわたしでも『姫』の一字以外は苦しい。

 水やりをご一緒した王女さまが「サルスベリと呼ばれることもあるのよ」と教えて下さった。

 で、今朝は三人で水やりしていて、王女さまが言った「 サルスベリ」を思い出してしまったんだよ。

 桜を植えようという意見もあったらしいんだけど、これから開花期を迎える桜は、花を咲かせるのに力を使ってしまう。そして、土に馴染めなくて、大して花も咲かせられず、ストレスばかり溜まって枯らす恐れがあるというので、ヒメシャラに決められたそうだよ。夏には、小さな花をいっぱい咲かせるそうで、ちょっと楽しみ。

 さて、当番の風呂掃除。

 福の湯の方は、別の班なんで、あたしらは露天風呂。

 露天風呂の方は入浴で入るのは人気だけども、掃除の方は不人気。

「これってよぉ、最後に使った奴が掃除するのがいいんじゃね?」

 ハイジがプータレる。

「それやると、みんな自分は最後じゃないとか言って、掃除しなくなると思うぞ」

 ブラシをかけながら、ネルが答える。

「そうだよね、入浴のついでだと、掃除してる間に湯冷めしちゃうなあ」

「ええ、掃除してから、もっかい浸かればいいじゃん」

「う~ん……そういう発想はなかったなあ……けど、それじゃあ、掃除したことにならないような気がする」

「そうなのかぁ、ネルはどう思うよ?」

 端っこまでモップかけて、振り返りながらハイジ。それとすれ違いながらネルが答える。

「う~ん……正直、よく分からないけどさ。今はやくもの言う通りやってればいいと思うよ」

「そうなのかぁ」

「たとえば……ハイジ、そっち持てよ」

「おう」

 すのこ大を二人で持ち上げ、わたしがモップでガシガシ。

「たとえば、風呂入るついでに、みんなの下着とか洗濯機にかけたとする」

「おお」

「早風呂のハイジは、さっさと上がって服を着る」

「おお、ハイジは何をやっても早えからな」

「で、パンツ穿こうと思ったら、忘れてきた」

「アハハ、たまにやるなあ(^_^;)」

「そしたら、他のやつが新品の着替えのパンツを脱衣籠に用意してるんで、ちょっと拝借」

「ええぇ!?」

「ちゃんと、きれいに前も後ろも拭いてからな。それで、急いで部屋に戻って、自分のパンツに履き替えて、風呂に戻って借りた新品パンツを返しておく」

 アハハハハ(((ᵔᗜᵔ*)))

 思わず三人いっしょに笑ってしまう。

 でも、掃除の手は止まらないで、もう一枚のすのこにとりかかる。

「そういう時はよぉ、パンツ穿かないで部屋に帰るぞ。返しに戻るのめんどくせえ」

 アハハハハ(((ᵔᗜᵔ*)))ワハハハハ(((ᵔᗜᵔ*)))キャハハハハ(((ᵔᗜᵔ*)))

 バカなことを言いながらも、ちゃんと掃除は進んでいく。

 ちょっと前は、飽き性で、遊んでばかりいたハイジ。考え事をすると他のことは御留守になりがちだったネル。

 意識してないだろうけど、みんな変わりつつある。

 そして、三人のバカな掃除を脱衣場の屋根から見ているデラシネも噴き出しそうになって( ´艸`)手で口を押えてる。

 デラシネは、みんなからは姿が見えないようにして、それでも、悪さはしなくなって、こんな風に観察するようになった。

 つまり、わたしにだけは見えてるんだけどね。

 それは、もうしばらく、やくもとデラシネの秘密だよ。


☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方
 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第90話《長徳寺の終戦・3》

2024-02-24 07:09:21 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第90話《長徳寺の終戦・3》さくら 





 たまに高射砲に当たって墜ちてくる敵機がいる。

 間抜けとも不運とも言える。高射砲というのは時限信管と云って、弾が一定の高度に達したときに爆発するらしい。
 だから、現代のミサイルと違って、相手目がけてとんでいって爆発するようなシロモノじゃないんだ。
 直撃なんか、まずありえない、爆発半径10メートル以内に飛び込んできて、運悪く、その弾片を食らったものが落ちてくる。
 まあ、空を飛んでる雀の群れに石を投げて墜とすよりも確率が低い。

 で、その不幸……と言うより間抜けの部類に入る飛行機が落ちてきた。正式にはP38ムスタングっていうんだけど、みんなは、省略してP公と呼んでいた。

 日和山の高射砲陣地には、それまで敵機を一機も落としたことのない高射砲陣地があった。

 まあ、八王子まで飛んでくる敵機はあまりいないので、チャンスにも恵まれなかったこともある……というのは日和山の兵隊さんの言い訳だとみんな思っていた。
 でも、予備役応召の隊長さんや、どう見ても半分以上は明治生まれだろう兵隊さんに悪いので、米軍機も性能がよくなったし、とか、威嚇の役割は十分果たしていますよ。などと、取りようによってはオチョクリになりそうな慰めの言葉をかけていた。
 それでも、日和山の隊長さんも兵隊さんも怒ることもなく、頭を掻いているだけだった。

 その高射砲が敵機を墜とした。陣地の兵隊さんも、里の村人も茫然だった。

 敵の間抜けさは、パイロットが脱出して決定的なものになった。

 なんと敵のパイロットは、長徳寺の本堂の上に降りてきてしまったのだ。屋根のてっぺんに落下傘がひっかかり、降りてくることができない。なんとか落下傘は外したけど、小なりと言えどお寺の本堂。とても飛び降りられる高さではない。

 そのうち、村人や憲兵さんたちがやってきたけど、容易に手が出せない。敵のパイロットは拳銃を持っているのだ。パイロットは大汗をかきながら喚いている。だが意味が分からない。

「この暑いのに、あれじゃ、半日ももたねえよ」

 かづゑの父が長閑に言った。兵隊さんたちも下手に本堂の大屋根に上るのは得策ではないと手をこまねいている。だれも口に出しては言わないけど、日本の劣勢は明らかで、捕虜には死んでもらいたくはない。


 で、かづゑがセーラー服にモンペ姿で大屋根にあがることになった。


 女学校4年のかづゑは、一年だけ英語の授業を受けたことがあるので、選ばれてしまったのである。

「ハウ、ドウユードウー。アイム、ア、エルダードーター、オブ、ディステンプル。スクールガール。OK?」

「ヤー、アイム、マイク・ルーニー。キャンユー スピーク イングリッシュ?」

「イエス、アイ キャンスピーク リトゥル。アーユー、サースティー?」

 そう言って、かづゑは水筒を差し出した。マイクは弱っていて、水筒を落としてしまった。とても悲しそうな顔になった。

「アーユー サッド?」

 マイクは、力なくうなづいた。かづゑは頭の回転のいい子であった。

「すみませーん。そこの消防ポンプのホース、投げてくれません!」

 村人が、ホースの口を投げあげ、兵隊たちが、手押しポンプを漕ぐと、ホースから勢いよく水が吹き出し、本堂の上に虹がかかった。マイクも日本人も一瞬感動した。かづゑは、マイクに水をかけてやった。

「オー ナイス! カムファタブル!」

 マイクは、素直に喜び、直にホースの口から水を飲んだ後、真上に向けて水を撒き、さっきより大きな虹が本堂の上に現れた。

 その虹は、CG処理され、三越紀香のときよりも盛大な虹になった。


 スタッフとマイク役のジョ-ジの提案で『長徳寺の終戦 ファーストレインボウ』と改題された。


 この後、終戦の日に防空壕を掘るという間抜けたエピソードが入り、クランクアップになった。

 この三越紀香のピンチヒッターで入ったドラマが意外な反響を呼び、さくらの運命を変えることになるとは、だれも想像できなかった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・083『第五回MITAKAは作法室で』

2024-02-23 11:05:20 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
083『第五回MITAKAは作法室で』   





 今日は久々のMITAKA(みんなでたのしく語る会)だ。


 学校は、いわゆるテスト休みという奴で、実質春休みと変わらない。

 だからね、数えて五回目になる今日は学校の作法室を借りて朝の10時からやっている。

 作法室というのは、小中学校には無かった教室。

 一年の教室がある北館の一階に、調理実習室、洗濯実習室、作法室と並んでいる。
 普通教室二つ分の作法室は二つに分かれている。

 一つは洋間。板敷で暖炉が設えてあって、テーブル席とソファーの席がある。隅っこに小テーブルに載った給水機みたいなの、寸胴に猫脚、下の方にガスコンロが入ってるけど、ガスのホースは外してある。

「ああ、サモワールだ」

 真知子が、田舎で骨とう品を見つけたように珍しがる。

「おお、サモワール!」と喜ぶ者と「え、サモワール?」と、わたし同然の者もいる。

「ロシアの湯沸かし器だ、ブルジョアは、これで湯を沸かしてお茶ばかリ飲んでた」

 これは10円男の感想。

「チェーホフの作品によく出てくるわ。この一角だけ切り取ったら、そのまま『ワーニャ伯父さん』とか『三人姉妹』とかできそうね」

 これは、代議会で堂々、生徒規約と部活動の現状の矛盾を突いて部室の確保を確約させた演劇部の牧内千秋。

「集まりは、隣の和室だからね。ここで落ち着いちゃダメよ」

 たみ子の一言で、みんな和室に移動。

 和室は、旅館みたく玄関があって、上がると、八畳が二間。一つには茶の湯の風呂もあって、横には、ちゃんと水屋もある。普段は、茶道部、華道部、筝曲部で使っているらしい。

「おお、電気カーペットですよぉ!」

 ペチ

 ロコが足元の絨毯が電気カーペットであることに気付いてスイッチを入れる。

「これだけじゃ足りないから、洋間の方にストーブあったでしょ」

 真知子が言うと、男子三人が立ち上がってストーブを取りに行き、女子は、すでに沸いている電気ポットでお茶の用意。残ったみんなで座卓テーブルの脚を出して四つくっつける。

 いやはや、五回目となると、みんな段取りがよくなった(^_^;)。

 今日は特に予定していた話題は無い。真知子は「いやあ、ただのズボラよ」と謙遜するけど、狙いはいいと思うよ。人の集まりだから、世話役はいるし、自然にリーダー的になってしまうけど、けして、議論とかの方向付けはしない。グループとして色とか傾向性は持たないでおこうというのは大賛成。

「畳敷きだから暖かいかと思ったけど、落ち着くと、やっぱり寒いねえ」

 バレー部の佳奈子も、じっとしていると寒いようだ。電気カーペットとストーブでかなりマシにはなってるんだけど、エアコンの無い鉄筋校舎は寒いよ。

「寒いって言えばさぁ、昼からストーブ切るのは勘弁してほしい」

 四組の自称冷え性さんがこぼす。

「ああ、15度だったか18度だったか超えたら切らなきゃならないって決まりなんだろ」

 高峰君が三杯目のお茶を飲みながら付け加える。

「花ちゃん(花園先生)が言ってたけど、事務所で温度計ってるらしいよ」

「え、事務所って、いつ行ってもストーブ、ガンガンに焚いてるわよ」

「ああ、職員室とか教官室とかもぉ」

「教室はちがうのにねえ」

「でも、ストーブの前の席って、暑くてボーっとしてしまう」

「うん、逆に窓際は隙間風とかひどくて、水滴さえつかない」

「水滴って?」

「外との温度差でさ、窓が汗かくじゃん」

「ああ、うちらの席は汗かいてるよ」

「ええ、あたしだけなのぉ!?」

「いや、俺の席も、そうだし」

「男子はいいわよ、パッチとか履けるしぃ。女子はスカートなんだよぉ」

「なんで、女はスカートって決めつけるのかなあ」

「そりゃあ」

「あ、加藤君、目がやらしい」

「ああ、言いがかりだ!」

「だって、もう今年で19でしょ」

「19だって未成年だ!」

 アハハ、令和じゃ、18から選挙権あるし(^_^;)。

「歳の話はフェアじゃないから」

 真知子が一言。

 まあ、令和の感覚じゃナンチャラハラになるんだろうけど、昭和の時代は、けっこう無頓着。

「思うんだけどな」

 挽回するように10円男は続ける。

「教室に扇風機を付けるべきだと思う」

「ええ、暖房の話してるんだけど」

「いや、だからな。教室の部分、上とか下とか、真ん中とか窓際とかで、ずいぶん温度がちがうはずなんだ。だから、扇風機を付けて空気を攪拌すれば、相当な改善になると思う」

「それ、いいかもな。いきなり全教室というのは無理かもしれないけど、実験的にやってみればいいんじゃないかなあ」

「さすが高峰君」

「いや、アイデアは加藤君だ」

「さすが年の功!」

「年の功言うなあ!」

 アハハハハハ

 それから、いろんな話題が出た。

 ビックリしたのは、ロコの新聞ネタ。

「いやあ、朝刊の訃報記事に慶応生まれのお爺さんが無くなったって出てましたよ」

「ああ、明治元年は1869年だから……まだ居るだろうねえ江戸時代生まれ」

「ああ、文久ぐらいはいるかもねぇ」

 なんか、昭和って、江戸時代と地続きみたいだ(^_^;)。

「東京で、ソ連人男性不審死とかもあります。S新聞によると、去年3人で、今年はもう2人目らしいですよ」

「ロシア人はウォッカ飲むからねえ」

 ちょっとビビった。

 令和じゃ三日前に、そういうのあったばかりだしぃ。


 無駄話をしようということだったけど、扇風機とか、実りのあるMITAKだった。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  

 

 


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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第89話《長徳寺の終戦・2》

2024-02-23 08:38:01 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第89話《長徳寺の終戦・2》さくら 





 なるほど……後ろ姿はそっくりだ。


 初日、衣装を着けメイクも仕上げてカメラテスト。前後左右から撮られ、モニターで確認していると、ディレクターが呟いた。

 自分でも、そう思った。

 横顔のロングも違和感がない。豪徳寺で三越紀香さんに会ったときは、似てるのは背の高さぐらいかと思ったけど、四か所ほど、同じ姿勢、動きでやってみると、我ながら似ている。

「さくら君、事前にかなり読み込んでくれたね」

 監督も誉めてくれたけど、わたしは一回しか読んでいない。期末テストの勉強だってあるし、戦時中の設定なので、分からない言葉が二三ページに一つは出てくる。

 たとえば訓導という役職の先生。生活指導みたいなものかと思ったけど、どうやら、それより強い力を持ってるみたいでおっかない。子どもに対してだけじゃなくて、先生たちにもビシバシ文句を言う。
 
 配属将校。これも分からない。

 学校に、軍人。それも将校がいるのは、まるで惣一兄ちゃんがうちの学校にいるようなもんで、想像したら吹き出してしまった。

 とにかく、ざっと読んだだけなんだけど。明るくて頭の回転がよくて、でも、大きなところで抜けているのが、かづゑという役だと理解した。


 あ、そうそう。まず最初に、この名前が分からなかった。


「え、かづ……最後の字はなんて読むんだ?」

 この「る」だか「ん」だか、よく分からない字一つで一時間。あたしは、そういうところで引っかかると次に進めない性質なので、苦労したよ(^_^;)。

 あいにくお母さんも出かけてて、お姉ちゃんにスマホで「かづゑ」を写して送ったけど、忙しいのか返事がかえってこない。

 仕方がないので裏のアパートのチュウクンに聞いてみる。あっさり「かづえ」と読みがいっしょだと分かったけど、ちょっと驚いた。
 アパートに妹の篤子さんとは違うきれいな女の人がいたのだ。質問に来た身であるので、あからさまに聞くことははばかられ、ちょっと演技した。

「あのぅ、もう一個聞きたいんだけど」

 そうやって、チュウクンを廊下に呼び出した。

「なんだ?」

「ちょっと、だれなのよ、あのきれいな人?」

「ないしょ(>〇<)!」

 そう言われると気になるもんで、アパートの住人のハニエさんに聞いてみる。

「フフ、それがね。サクラって言うらしいわよ」

 と、ニューハーフの聞き耳頭巾は教えてくれた。

「え、あたしと、同じ名前?」

「うん、なんかわけあり。偶然なのか、倒錯したさくらちゃんへの愛情からなのか……興味津々なのよね( ´艸`)!」

 と、ここでも三十分ほどのロス。

 ま、こんな感じでトロトロ読んでいるもんだから、昨日の本番までに一回しか読めなかった。


 最初の撮影は家族九人の集合写真。他の役者さんも来るのかと思ったら。撮影は、わたし一人。あとはデジタルのはめ込みでやるらしい。

 他のシーンも、大方このやり方。

 かづゑのお父さんは住職兼学校の先生で、よく休むので、父親の欠席届を出してから自分の学校に行く。それも、一番下の妹の子守をしながら。

「お父さん、また休みぃ? この非常時にぃ……あ、戦死した中村さんのお葬式? じゃ、昼からは出勤できるわね。そう言っとくよ」

「糸枝ちゃん、あたしがするから。いいよ気にしなくっても」

「あ、すみません。急いでたもんで!」「回覧板でーす!」「衣料切符どこぉ?」「美佐江ちゃーん、風呂焚きお願い!」「総代さん、今年の報恩講は……」「お母さん、賢慈に赤紙きた!」「賢正、兄ちゃんいないんだから鐘撞きぐらいやんな!」「今月、お米大丈夫かなあ……」「え、挺身隊の招集かかっちゃった!」「あとは、頼んだよ糸枝!」

 などなどの台詞を相手役無しでやる。後ろ向き横向きは三越さんのをまんま使って、声だけ吹き替える。どうにもやりにくい。

 でも、一番やりにくいのは、相手役ありの撮りなおしだった。はめ込みでも処理できないことはないんだけど。相手がこだわりのある人で納得しないらしい。

 それで。

 その相手役は、なんと、この撮り直しのためだけにアメリカから来たんだよ!



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
 

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RE・かの世界この世界:231(最終回)『また明日』

2024-02-22 11:35:10 | 時かける少女
RE・
230(最終回)『 また明日』テル 




「アハハ、嘘よ、嘘(*^ω^*) 」


 目をへの字に、口をωにする美空先輩。

 清楚で真面目一方の先輩が、こんなお道化た表情をするのは初めてなので、この表情だけで上手くいったんだと分かった。

「もー、先輩」

「ごめんごめん、時美はね、あそこ」

 先輩が指差したのは模式図の左側、ちょっと不安定でチラチラしているやつだ。

「あそこって……」

「うん、なんとか峠は越えたし、ミッチャン一人に任せておくのも申し訳ないって……」

「一人で飛び込んだんですか?」

「うん、時美、ベテランだしね。心配ないわよ」

「そうだったんですか」

 安心した。

 でも、ちょっと申し訳ない。

 ムヘンと日本神話と二つの異世界を経巡って、どちらも完全には取り戻せてはいない。もう一度あの世界に戻れと言われたら、正直、尻餅ついて立ち上がれないだろう。

 それに、あの、キリリとした時美先輩なら大丈夫だろうし。

 頭を切り替えた。

「ちょっと、外に出てきます」

「それなら、もう帰った方がいいわよ。わたしも、ミッチャンが元気になったら帰るつもりでいたから」

 そうだ、先輩は丸二日、わたしに付き添ってくれていたんだ。

「じゃあ、いっしょに」

「ありがとう、でも後始末があるから、構わないで先にいって」

「そうですか、それでは、お先に失礼します」

 お茶のお点前みたいにお辞儀をして、部室を、旧校舎を出た。


 日差しが傾き始めた中庭は、大団円を予感させるように、微かにセピアが混じる。校舎も木々も草花も穏やかに影を伸ばし、飛行機雲は風に千切れてfineの崩し文字を描きそう。

 なべて世はことも無し。

「「ワ!」」

 中庭を出てピロティーに向かおうとしたら、校舎の向こうから急に人が出てきて、互いにビックリ!

「光子ぉ、もう捜したんだからねぇ」

「さ、冴子……」

「もう、カバンほっぽり出していっちゃうんだもん。ホレ」

 グイッとカバンんを押し付ける。

 見ると、冴子はカバンの他にサブバッグと傘を持っている。

 あの時、階段を転げ落ちて胸を貫いた、あの傘……ちょっと頬が引きつる。

「そんな呪物を見るような目で見ないでよ。てっきり夕方からは雨だと思ったのよ。天気予報も当てにならない、ほら、天気予報、まだ雨のままだよ」

 スマホのお天気画面を見せる冴子。

「あれ、マチウケ変えたの?」

 冴子のは、高校に入って以来、和風アニメの『まほろば戦記』のキャラだった。新キャラが出るたびに変更してお守りのようにしていた。

「なに言ってんの、そんなのは一年で卒業。来年は、もう三年なんだしさ、いつまでも成ろう系やってらんないって、光子が言い出したんじゃない」

「え……」

 言われて、自分の心を探る。

 ブリュンヒルデ……トール……ラグナロク……主神オーディン……タングリスとタングニョ-スト……世界樹ユグドラシル……懐かしい単語とイメージがフワフワ浮んでは消えていく。

 なにかの拍子で、熱中したアニメとか思い出して――そんな時代もあったんだ――と、瘡蓋をカリカリ触ったような感覚。


「あ、ヤックンだ……」

 
 冴子が呟いたのは、降りたばかりのローカル、二両前に乗り込むヤックンに気が付いたんだ。
 電車のドアは『ドアが閉まります』のアナウンスのと共に閉まって、発車ベルが鳴って、ゴミ収集車が次に行くような感じでローカルは出て行った。

「ヤックンも大変ねえ……ね、光子」

「あ、え?」

「神社、工事中だからさぁ、お神楽の練習市民会館でやってるそーよ。交通費は出るらしいけど大変ねえ、去年で終わってて正解だったねぇ、うちらは」

 お神楽しなくていいんだ……それに『ヤックン』ていう冴子の声にはお友だち以上の熱が無い。

 まあ、いいか。

 とにかく、平和なリアルに戻ってきたんだ。

 これが、わたしのリアルなんだ。

 微妙な寂しさはあるけど、それは、レールの彼方、カーブを曲がって姿を消そうとしているローカルのお尻を見ているせいだろう。

 ゴロゴロゴロ……

 ローカルが曲がった向こうで雷が鳴った。

「お、天気予報当たったじゃん」

「でも、こっちに来る頃には家についてるね」

 ヤックンは傘を持っていなかった。

 でも、あいつはモテるから、きっと大丈夫。

 改札を出ると、ロータリーの信号が点滅。

 冴子は――エイ!――と渡って、わたしは渡れなかった。気の早い軽自動車が動き出していたからね。

「先に行ってぇ!」

 手をメガホンにして叫ぶと、冴子は傘を振って行ってしまった。

 うん、どうせ信号を渡ったら家は逆方向。『また明日』とか言って分かれるんだもんね。



 RE・かの世界この世界 第一期 終わり



☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 


 


 
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第89話《長徳寺の終戦・2》

2024-02-22 07:01:00 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第89話《長徳寺の終戦・2》さくら 






 なるほど、後ろ姿はそっくりだ。


 初日、衣装を着けメイクが終わってカメラテストで前後左右から撮られ、モニターで確認していると、ディレクターが呟いた。

 自分でも、そう思った。

 横顔のロングも違和感がない。豪徳寺で三越紀香さんに会ったときは、似てるのは背の高さぐらいかと思ったけど、四か所ほど、同じ姿勢、動きでやってみると、我ながら似ている。

「さくら君、事前にかなり読み込んでくれたね」

 ディレクターは誉めてくれたけど、あたしは、一回しか読んでいない。期末テストの勉強だってあるし、戦時中の設定なので、分からない言葉が二三ページに一つは出てくる。

 たとえば訓導という役職の先生。生活指導みたいなもんかと思ったけど、どうやら、それより強い力を持ってるみたい。お寺に疎開してくる学童の世話を懸命にやっている先生で、人柄は良さそうだった。で、その人柄に対しての演技でぶつかってみようと思った。

 配属将校。これも分からない。

 学校に、軍人。それも将校がいるのは、まるで惣一兄ちゃんがうちの学校にいるようなもんで、想像したら吹き出してしまった。

 とにかく、ざっと読んだだけなんだけど、明るくて頭の回転がよくて、でも大きなところで抜けているのが、あたしの役のかづゑという役だと理解した。

 そうそう、まず最初に、この名前が分からなかった。

「え、かづ……最後の字はなんて読むんだ?」

 この「る」だか「ん」だか、よく分からない字一つで一時間。あたしは、そういうところで引っかかると次に進めない性質なので、苦労したよ(^_^;)。

 あいにくお母さんも出かけてて、お姉ちゃんにスマホで「かづゑ」を写して送ったけど、忙しいのか返事がかえってこない。

 仕方がないので裏のアパートのチュウクンに聞いてみる。あっさり「かづえ」と読みがいっしょだと分かったけど、ちょっと驚いた。
 アパートに妹の篤子さんとは違うきれいな女の人がいたのだ。質問に来た身であるので、あからさまに聞くことははばかられ、ちょっと演技した。

「あのぅ、もう一個聞きたいんだけど」

 そうやって、チュウクンを廊下に呼び出した。

「なんだ?」

「ちょっと、だれなのよ、あのきれいな人?」

「ないしょ!」

 そう言われると気になるもんで、アパートの住人のハニーさんに聞いてみる。

「フフ、それがね。サクラって言うらしいわよ」

 と、ニューハーフの聞き耳頭巾は教えてくれた。

「え、あたしと、同じ名前?」

「うん、なんかわけあり。偶然なのか、倒錯したさくらちゃんへの愛情からなのか……興味津々なのよね( ´艸`)!」


 と、ここでも三十分ほどのロス。


 ま、こんな感じでトロトロ読んでいるもんだから、昨日の本番までに一回しか読めなかった。

 最初の撮影は家族九人の集合写真。他の役者さんも来るのかと思ったら。撮影は、あたし一人。あとはデジタルのはめ込みでやるらしい。


 他のシーンも、大方このやり方。


「糸枝ちゃん、あたしがするから。いいよ気にしなくっても」

「お父さん、また休み? この非常時にぃ……あ、戦死した中村さんのお葬式? じゃ、昼からは出勤できるわね。そう言っとくよ(かづゑのお父さんは住職兼学校の先生)」

「あ、すみません。急いでたもんで!」

 などなどの台詞を相手役無しでやる。後ろ向き横向きは三越さんのをまんま使って、声だけ吹き替える。どうにもやりにくい。

 でも、一番やりにくいのは、相手役ありの撮りなおしだった。はめ込みでも処理できないことはないんだけど。相手がこだわりのある人で納得しないらしい。

 それで。

 その相手役は、なんと、この撮り直しのためだけにアメリカから来たんだ!


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
 
コメント
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