シャボン玉創立記念日(改訂版)
大橋むつお
初出 2011-08-22 06:22:17
全国の高校演劇は小規模演劇部に向いた脚本が不足しています。そこで、僭越とは思いましたが、小規模演劇部に特化した作品を紹介させていただきます。上演の際は全国高校演劇協議会の取り決めに従って、お手続きください(普通の方法です) お役に立てれば幸いです。
岡山市の中学校 相模原市の中学校などで上演していたがきました。
時 現代ある年
所 横浜にある町野高等学校
人物……女3
岸本夏子 高三
水本あき 高三
池島令 町野高校出身のシンガーソングライター
池島泉 令の娘十九歳(令と二役)
その他 コーラスライン(いなくても上演可能)
幕は開いたまま、式典にふさわしい曲が流れている。客電おち、ややあって舞台中央にスポットライト「……と、こみ上げる想いはつきませんが……オホン。これをもちまして町野高校創立五十周年の挨拶とさせていただきます。町野高等学校、学校長 林信彦」と校長の声。拍手の効果音流れる中、中央のスポット上手に消え、下手司会者席の夏子にライトがあたる。今、挨拶が終わって退場しつつある(という設定)校長を、客席の人々といっしょに拍手で送る。町野高校創立五十周年記念式典のクライマックスである。
夏子 校長先生の、おまとめのお言葉でした。ありがとうございました林信彦校長先生。それではみなさん、お待たせいたしました、式典のおひらき、フィナーレを飾っていただくため、スペシャルゲストをお招きいたしております。本校をン十年前に御卒業になり、現在、テレビ、ラジオ、そしてライブでご活躍中の、わが町野高校の大先輩、シンガーソングライター、鉄の令! 鉄アレーこと池島令さんにご登場願います。それでは池島先輩どうぞ!
校長の時以上の拍手で、中央又は上手から令があらわれる、式典らしく、ロングドレスを着てあらわれ、ビートの効いたロックを一曲歌い上げる。できたら、バックコーラス兼ダンサーがいるといい(ダンス部などとコラボしてもおもしろい)実際に歌えるといいのだが、軽音の人たちに歌ってもらったものなど既成の音源を使ってもいい、大事なことは自分でも声を出しておくこと、本当に歌ってるように聞こえる。
令 みなさん、今日は! 鉄の令こと池島令でーす! 知らない人も多いかも(拍手)どうもありがとう、普段大人相手の歌ばかり歌ってるから、どうかなと思ったんですけど、知ってくれていてありがとう……あたし、本名は池島令子っていいます。子があるかないかだけなんだけど、歌手デビューする時に、「もう子供じゃないんだ!」そんな思いで「子」の字をとりました……それと「令」という呼ばれ方には高校時代の思い出が……今日は式典なんでこんな似あわないロングドレス着てるけど普段は、パンツルック。高校生の時も、学校以外でスカートなんて履いたことなかったの。悪いことばっかしてて……たとえばこの講堂の上、あがれるんだよ、そこでタバコ吸ったり、下級生いじめてる男子にケリ入れて、いきおいあまって玄関の大きなガラス割ったり。そんなあたしを、先生方も友だちも令子とは呼んでくれない「コラ、令!」「しばき倒すぞ令!」……でも、ちっとも応えないから、ひどいのになると「鉄の令」「鉄アレー」だよ、今でも業界じゃ「鉄アレー」で通ってるけどね。こんなにか弱い乙女を……ハハハ「令子」って呼んでもらったのは卒業証書をもらう時だけ……そんなあたし、鉄アレーが、もう一曲みなさんに送る歌、さぞや、さっきみたいにジャズやロックとか、知ってる? ドガチャカにぎやかなやつ……違うんだぞー。実は、池島令にまだ「子」がついていたころ一番好きだった歌……笑っちゃやだよ。アハハハ……って 自分で 笑ってどーすんのっつうの、ね。その大好きな歌唄わせてもらいます。野口雨情作詞、中山晋平作曲「シャボン玉」……いいかな、バンマス……よし、じゃあいくよ!
令、「シャボン玉」を、ポップス風にアレンジし明るく歌いきる。ここ、相当上手にやらないと、芝居をこわしてしまうので注意。
令 どうだった? 意外に素直、でしょ。知ってたこの歌? この歌はシャボン玉を赤ちゃんや子供の命にたとえてあるんだって。昔は、生まれて一才までに死んじゃう子が多いから、その命のはかなさとか悲しさを、そうは感じさせないように明るく歌った……というのは大人になってから知ったことで。君らぐらいの時は、あたし、このシャボン玉って、少年時代の夢とか、あこがれのことかと思ってた。毎日いろんな新しいことに気をとられたり興味を持ったりして、なかなか自分に、本当に自分にあった、夢や、やりたいことがみつからない。あれおもしろい! と思ったら次の日にはそれがおもしろくなって、そしてまた別のおもしろいことが見つかって、シャボン玉のように消えていく楽しい歌だと思ってた。だからあたしは、そういうふうに歌ってます。でもシャボン玉ってすぐ消えちゃうから、これだって思ったら、両手でパチンとつかまえて、自分の体や頭にしみこませるの、シャボン玉を体に憶えさせるの。そうすると、いつか自分自身がけして割れないシャボン玉になれる。いい、余計なことを考えちゃダメ! 楽できそう、近くにあるから、お手頃だから、友だちもやってるから……そういうのはダメ! 直感で、これだって思えるシャボン玉、どうぞ、君たちも見つけてください、ヘヘ、ちょっと長い令のお話はこれでおひらき。それじゃ、五十周年おめでとう! 六十年七十年、いや百年めざしてがんばってくださーい!
手を振る令、拍手。フェードアウトして拍手はチャイムに置き換わって、放課後の学校の環境音が加わり明るくなる。あきが硬い表情、早足で校門を出ようとしている。夏子が、それを追い、なんとか追いつく。
夏子 あき、あき、ちょっと待ってよ、待ってったら。あき!
あき なに? 悪いけど、わたし急いでるから。
夏子 待ってよ、大事な話なんだから。
あき 携帯のアドレス変えた話ならしたじゃん。ごめん、今日は早く帰りたいの……
夏子 待ってたら。あき、進路変えるんだろ!?
あき 誰に?
夏子 誰に……?
あき 誰に聞いたの? 担任の上原……生徒の秘密しゃべるなんて最低だ!
夏子 違うよ。わたしの勘。あき、むつかしい顔して相談室、先生といっしょに入ったろ。出てきたら上原先生までむつかしい顔してて、一言「考えなおせよ」、それ無視して行ったよね。
あき 立ち聞きしてたの?
夏子 違うよ、今日の式典の司会やったから令さんがお帰りになる前に挨拶しとこうと思って校長室へ……三分もいなかった。令さんを車まで送ろうと思って校長室を出たら、ちょうどあきと上原先生とが出てくるところで……あき、廊下で令さんの娘さんとぶつかったのも憶えてないだろ? ムッとしてたよ。
あき え、令さんが!?
夏子 バカ、娘さんの方だよ。わたしがかわりに謝っといた。
あき ありがとう……でも……
夏子 わたし、その場で上原先生に聞いたの。「あき、進路変えるんですか」って。
あき 聞く方も聞く方だけど、しゃべる方もしゃべる方だ!
夏子 バカ、「人の問題に首をつっこむな!」上原先生は、そう言って職員室へ。それだけでわかったよ。そしてわたしが追いかけてきたってわけよ。
あき わたし、もう決めちゃったから。
夏子 清朋(せいほう)やめて明野(あけの)に替えるんだろ?
あき ……
夏子 このあたりの大学で音楽科もってるのは清朋しかないんだろ? 競争率高いけど、そのために十分勉強したし、準備もしたじゃないか。わたしなんか、将来わかんないから地元の明野だけど、あきは声楽目指すって一年の冬から決めてたじゃないか。
あき だって……
夏子 だってもあさってもない!
あき 夏子……
夏子 そのために……個人レッスンうけてきたんじゃないの、こんな言い方してごめん。うちもあきんとこもセレブなんかじゃないんだから……私立でも安上がりの、わたしは明野。あんたは清朋の音楽科でしぼってもらうのが一番……そう誓ったじゃないよ。
あき ……さっき、令さんの「シャボン玉」を聞いたろ?
夏子 う、うん……
あき わたし、圧倒されちゃった……
夏子 あ、アハハハハ……
あき 何よ?
夏子 あれ聞いてやめようと思ったわけ?ハハ、当然といやあ当然だけど。令さんプロだよ、童顔に見えてるけど「鉄アレー」この道二十年のベテラン。それが、余裕のヨッチャンで歌った童謡だよ、びっくりするほど上手くてあたりまえ。
あき 違うよ。たしかに、ロックシンガーで鳴らした池島令が、「シャボン玉」だもん ズッコケちゃって、驚いて、最後しびれちゃった……
夏子 それ、学校の都合。池島令って言や、うちの卒業生で一番有名じゃん。でも中村正太って卒業生の県会議員たてなきゃならないんだって、県の文教委員とかやっててソリャクにはあつかえないって、だから割当時間が二十五分、それも五分オーバー。それで令さん急きょ一曲減らして、もう一曲と、アドリブの「シャボン玉」だけにしたんだって。でも聞かせるよねえ……歌もいいし、話もいいし。シャボン玉が、夢とか希望とか……考えたらそうだよね、毎日、いろんなものに興味持ってさ。頭の中じゃ、もう二十くらいは仕事変えたわね……女子アナ、小説家、フリ-ライター、キャビンアテンダント、アニメーター、声優、ネイリスト、介護士、看護師、一年のころはモデルさんとか、アイドルとかさ。駅前にタイ焼き屋さんができたときは、タコ焼き屋さんになりたいとかさ。
あき なんで、タイ焼き屋さん見て、タコ焼き屋さんになるのよ?
夏子 だって、タイ焼き屋さんて、いっぱいできたじゃん。だからタコ焼き屋さんの方が、売れるって思ったわけよ。ほかにも幼稚園の先生とか、パン屋さん、コンビニのオネエサンてのもあったなあ。
あき アハハ、テレビのチャンネル回してるみたい。
夏子 素敵って思うだけ。ウインドウショッピングみたいなもんよ。次のお店のショーウインドウ見たら、もう前のお店のことなんか忘れてる、そういうこと、うまく表現してるって思った。
あき でも、令さん、こうも言ったんだよ。「楽そう、近くにあるから、お手頃だから、友だちもやってるから……そういうのはダメ!」
夏子 だからなによ?
あき わたし……動機が不純だから……
夏子 何が不純よ?
あき だって……杉村君が……
夏子 え……杉村とけんかでもしたの?
あき しないよ、けんかなんかするわけないでしょ!
夏子 怒ることないでしょ、可能性として聞いただけなんだから。
あき わたし、杉村君が受けるから清朋うける気になってたの。そうでしょ、令さん言ってた、友だちもやってるからっていうのはダメだって、ガーンて空が落ちてきた感じ、今まできれいな星や虹だと思ってたものが、落ちてきた空に書いてあったペンキ絵みたいなもんだって言われた感じ。
夏子 考えすぎだよそれ。
あき ううん違う。前から感じてたの、同じコーラス部で、いっしょに歌えるのが好きだった……
夏子 そこは告白する前に何度も聞いた。とばして言って。
あき DVDじゃないから早送りなんかできないよ。
夏子 じれったいって意味なの。
あき ごめん……
夏子 謝る暇あったらしゃべる!
あき だから、一年の冬に、彼が清朋受けるって言ったとき、わたしも受けるって……三年の一学期には受験のため、クラブも引退、時々話はするけど。あいつ夢でいっぱいなんだ、大学の声楽部はどこそこがいいとか、将来はオペラのなんとかでかんとかしてみたいとか、わたしはただ杉村君と同じところに居たいから。そういうことが令さんの話聞いてたら、そういうことがいっぺんに頭の中をグルグル回っちゃって友だちがやってるから……って令さん言ったとき、わたし、令さんと目が合っちゃって、まるで、心を読まれて、わたしに言われたみたいな気がして……
夏子 それで、まっすぐ上原先生のとこへ行ったんだ……わたし、最初保健室へ行った
んだよ、気分が悪いのかなあって思って。いなかったから、安心して校長室に挨拶に行ったら、ちょうど出入りのタイミングが適っちゃったってことよ……
あき そうなんだ、ありがとう……でも、もう決めちゃったことだから。
夏子 あのね、だからさ……
ちょうどその時上手から、あきたちよりは少し年上かと思われる、令の娘の泉があらわれる。地味なスタッフのなりで靴だけが赤い。首にはインカムをぶら下げている(令と二役)
泉 ちょっとごめん。
二人 は、はい?
泉 (あきに)あなた、さっき校長室の横の部屋から出てきた人ね?
夏子 あ、令さんの娘さんだ!
あき え!?
夏子 バカ、なにをボサっと。
あき あ、さっきは、すみません、頭がボーっとして、ぶつかったことも憶えてないん
んです。ほんとうにごめんなさい(泉の赤い靴に目をとめる)
泉 いいのよ、そんなこと、あたし鉄アレーの娘の泉。あ、これ? あんたとぶつかった時にヒモが切れちゃって、スペア。気にし無くっていいよ、もともとボロだったから(夏子に)あなた、司会をしてくれてた……夏子さんね。
夏子 は、はい、放送部の岸本夏子です。
泉 とても上手な司会だってお母さんが誉めてたわ。
夏子 ありがとうございます。校長室で令さんからもそう言われて、ボーっとしてたところです。たとえお世辞でも嬉しいです。
泉 あたしたちにも言うくらいだから、けしてお世辞じゃないわよ、あなた彼女の友だち?
夏子 はい、小学校からの友だちで、水本あきって言います。
泉 あきさん、ちょっと話していい?
あき は、はい……靴、すみません。
泉 もういいったら。よかったら夏子くんも、いいかな?
二人 は、はい……
泉 実は、お母さんに頼まれたんだけど、彼女忙しくって。そいでかわりに話しといてくれって。
あき はい。
泉 時間がおしてたんで、一曲はしょっちゃったし、話も中途ハンパでさ、お母さん気にしてんの、歌ってる時からすごい引力を感じる視線があって……
あき そりゃ、プロの歌手なんて初めて見ちゃったから、おまけに先輩で、美人で……
夏子 そういうことじゃなくってでしょ、泉さん。
泉 うん、なんか思いつめたような……前列のほうだから、よくわかったって。歌っているときに感動してもらうのはミュージシャンとしてとっても嬉しいことだけど……話しているときに、こう……引力が強くなってきてさ、目線が合ったの覚えてる?
あき はい。それで決心したんですから……
泉 やっぱし……そうか? 校長室にいても聞こえてくるんだって……上原先生だっけ?
あき はい。わたしの担任の先生です。
夏子 その分、校長先生、耳が遠いんです。
泉 ハハ、いいコンビだあんた達。でね、とぎれとぎれに話しの中味が聞こえて……お母さん、そういう耳と勘は鋭いの「あ、あたしのメッセージが間違って伝わってる」……決定的なのは部屋を出たとき、先生が大声で「考えなおせよ!」そして、あきちゃんが泣きそうな顔で、あたしにドシン!
あき すみません。
泉 あきちゃん、コーラス部だよね? 歌うことそのものは好きでしょ?
あき はい……
泉 で、誰だかわかんないけど、同じコーラス部の男の子好きになって同じ学校へ行こうって決めていたんだよね。
あき ……(顔を赤くしてうつむいている)
泉 「友だちがやってるからいっしょに……」は、だめなんだぞってとこらへんでドキッとしちゃったんでしょ?
夏子 すごい、そのとおりです。
泉 へへ、一応親子だからね。
あき わたし杉村君ほど上手くもないし、杉村君ほど大きな夢はないんです、ただ杉村君のそばにいて、好きな歌が一緒に歌えたら……
泉 それでいいんだよ。あきちゃんが歌と杉村君の両方が好きで!
あき でも……
泉 お母さんが言いたかったのは、ナンパや遊び友達とつるみたいだけの集まりは駄目
だって……ううん、それだってかまわない、男の子目的でクラブに入ってもいいの。
あき そんな……
泉 お母さんが言いたかったのは、ここ。いつまでもそれじゃだめだってこと! 彼と
いっしょにいたい、そこからでいいんだよ。それで歌が好きなら……あたしのお母さんね、ほんとは役者になりたかったの。
夏子 でも、時々ドラマとか出てるでしょ?
泉 それは副業。本業はあくまでロックズシンガー。
夏子 その役者志望がどうして……
泉 彼が役者だったの。ある時、デートしてて、会話が途切れちゃってさ。そう、横浜の山下公園、そこで彼が、不慣れな歌の話をしたの。男ってカッコつけたいときって、あるじゃん。「かもめの水兵さん」て知ってる?
あき 知ってます(歌う)かもめの水兵さん、ならんだ水兵さん(ここから泉も和して)白い帽子、白いシャツ、白い服、波にチャプチャプ浮かんでる。
三人 アハハハ……
泉 お互い古い歌知ってるね。
あき 泉さんも……
泉 お母さんとは、ちょっと趣味ちがうけどね。
夏子 あたし、それ知らない。
泉 ちょうどいい、今の歌、どんなふうに聞こえた?
夏子 えと、カモメがチャプチャプ。無邪気に子供が水遊びしてるみたいな……
泉 楽しい歌でしょ?
夏子 はい、保育所の生活発表会みたいな。
泉 あたしも、いい童謡だと思う。この歌に関してはお母さんと趣味一致。それがね、その彼は反戦歌だって言うの。
二人 ハンセンカ?
泉 戦争に反対する暗い歌。昔いた高校の校歌と同じくらいあたしは嫌い。
夏子 どうして、そんな風に聞こえるんですか?
泉 この歌、ゆっくり歌うとね、特に最後のとこ(歌う)白い帽子、白いシャツ、白い服、波にチャプチャプうかんでる……
夏子 変なの……
泉 でしょ。母さんの彼は、戦争で死んだ水兵さんの死体が浮いている姿を歌い込んだもんだって、知ったかぶりするわけよ。
あき 嘘でしょ、この歌は絶対そんな歌じゃない。
夏子 うん、わたしもそう思う。
泉 そう、お母さんもそう言った。昔、そういうひねくれた感覚で芝居すんのが流行ったんだって。彼も、ちょっと気の利いた話しをするつもりで、ついホラふいたんでしょうね。
あき それは歌を侮辱しています!
泉 そう怒るのは、あんたが歌を愛してるからよ! 広く言えば、お母さんや、あたしたちと同じ仲間だってこと。むろん、杉村君もね。
あき で、お母さんは、どうしたんですか? わたし、そっちの方も興味津々!?
泉 若かったのね、彼氏と別れたのはもちろんのこと、お芝居までやめちゃった……若い頃って、許せないとか悪いとか思っちゃうと、ハサミでものを切るように切っちゃう……と、うちのお母さんは言うわけ。でもこの彼氏って、けっきょくあたしのお父さんになるんだよ。
二人 え!?
泉 それから、切れた二人は方やジャズにロック、方やお芝居をグルグルっと遠回りして、三年後に出会ってくっつき直したってわけよ、おかげで娘のあたしは……どう、あき、ちっとは気が変わった?
あき はい、自信がわいてきました! 上原先生に、きちんと話してきます。
夏子 むろん、清朋だろ!?
あき もちろんよ! あ、泉さん、これからも手紙とか出していいですか?
泉 メールでいいよ、手紙書くの大変だろ?
あき わたしって、そういうとこ古風なんです。
泉 あたし筆不精だから三度に一回くらいしか出せない……メールでもいい?
あき もちろん!
夏子 住所とか電話は、わたしが伝えておくから、早く行かないと職会はじまって、清朋からはずされちゃうよ。今日は進路調整のための職会だから。
あき じゃ、またメール打ちます、ありがとうございました! じゃ夏子また明日!
夏子 さ、はやく行った行った!
あき うん、ごめん、じゃ、失礼します!(上手に退場)
しばらく見送ったあと泉は上手正面方向に、両手で大きな○を示す。
夏子 何してるんですか?
泉 杉村君に成果を報告してんのよ。(大声で)グッドラック!
夏子 あ。あいつあんなとこに。杉村……君、知ってたんですかこのこと?
泉 彼も、あの子に負けないくらい好きなのよあきのこと。青い顔して上原先生に……
夏子君と同じこと言われてた「人の問題に首を突っ込むな」それで、一肌脱いじゃったのよ。
夏子 じゃ、お母さんに頼まれたってのは?
泉 本当だよ、「正しく伝わるように話といて」そう言った。でも、お母さんは一枚上手……のつもり。
夏子 え?
泉 これ、あたしの名刺、あきに渡しといて。
夏子 はい。これ、あきのアドレスとか住所とか……(携帯で送る)
泉 ほい、いただきました。
夏子 あの、泉さん?
泉 え?
夏子 この肩書きに書いてあるキャデットってなんですか? キャデット・池島泉……
泉 へへ、すねっかじりをキザに書いただけさ。意味はいちおう士官候補生……わからない? これといった仕事もしないでブラブラしてるんだもん、カッコだけつけてね。
夏子 だって、泉さんは、お母さんのアシスタントやスタッフのお仕事を……
泉 何もしないで食わしてもらうわけにもいかないしさ……わたしに合うようなシャボ ン玉がまだ見つからないの。あたし高一で中退したから、資格は中卒……ほらほら、そういうめずらしい動物を見るような目で人を見ちゃいけません。
夏子 ご、ごめんなさい、そんなつもりじゃ……
泉 何かさせたいことがあるみたいだけど、ぜったい言わない。あのクソババア。
夏子 クソババア!?
泉 自分のしたいことは自分で見つけるしかないから。クソババアもそうやって生きて きたからね、今さら娘には言えないんでしょ。だから、こうやって自分の仕事にひき まわしていろいろパシリをさせるわけ。その中からなにかをつかむだろうって……
夏子 わたしみたいに、なんとなく大学いっちゃうのは軽蔑します?
泉 しない、遅い早いの違いだけだから。ただ、こういうあたしを軽蔑する奴をあたしは軽蔑する。
夏子 あ……
泉 どうかした?
夏子 この名刺、手描きじゃないですか!?
泉 え、うそ……ほんとだ、原版だ。
夏子 原版?
泉 うん、五ヶ月くらいで新しい名刺に替えてるの。原版は、ここ一番大切な時とか人用に……
夏子 返しましょうか……?
泉 いいよ、無意識だったけど、今日は、とっても大切な出会いの日だったのかもしれない……だからひょいと手描きの原版を……ハハハ、今日は創立記念日だ、ひょっとして。
夏子 はい?
泉 新しいいろんなもの、目標とか、友情とか、勇気とか、愛情とか。
夏子 はい……(涙ぐんでいる)
泉 ハハ、涙もろいんだ、あんたって……ま、とにかく諸々の創立記念日(インカムから声がする)わかった今いく。撤収の準備ができたみたい。夏子、家はどこだ?
夏子 駅前東の団地です。
泉 よし、途中までのっけてやろう。ただし、ミニバスのぎゆーぎゆーだけどな。
夏子 ほんと? 嬉しい!
泉 じゃ、あたしは準備あるから、裏門のミニバスのところで落ち合おう。うーん……五分後。いいかな?
夏子 はい、じゃあ!(元気よく上手に去る)
泉 (携帯を取り出す)……オヤジ、来なかったね……いいよ、言い訳は。今日が最後のチャンス。わかってたんだろ、今日がどんな日か……創立記念日? ばかやろう!とぼけんじゃないよ。お母さんとヨリをもどした日。いわば二人の結婚記念日。だから今日は来てって言ったんじゃないか!……いいわけないだろ、このままなんて! 今日お母さん何歌ったか分かる……それは、お母さんのイメージソングだから当然。もう一曲歌ったんだよ……カモメの水兵さん? そこまでひねくれてないよお母さん……シャボン玉だよ……そう、生徒にはそう説明してた。でも我が家では違う意味……知ってんだよ、わたし。この歌がどんなシュチュエーションで、お母さんが歌ったか……お母さんが?……言うわけないだろわたしに。マネージャーの滝川さんから聞いたんだよ。わたしが高校に入ってグレかけてたころに……なんでって? 滝川さんはわたしのことを思って、滝川さんは、わたしの父親代わり。でも、本当のお父さんはオヤジなんだからね……わたし信じてたんだよ! とっても楽しみにしてたんだよ! 今日やっと三人の家族が回復できるって。オヤジに渡そうと思って、手書きの名詞まで用意してたんだよわたし……笑ったな!?……子供っぽい? あたりまえじゃんかよ。わたしには子供時代なんて無かったんだよ。二人が別れてから、うちの時計は止まったまんまなんだよ。だから、わたしは九歳から出直し……バカ、バカ、バカ、オヤジの大バカヤロー!
携帯を乱暴に切り、溢れる涙をぬぐう泉。そこに夏子が駆け込んでくる。
夏子 泉さん……
泉 あ、やばいとこ見られちゃったね。
夏子 どうかしたんですか?
泉 ハハ、ちょっと携帯で友達とケンカしちゃって。夏子こそどうしたの?
夏子 あ、あきのアドレス古いの教えちゃったから。
泉 そっか、じゃあ新しいの教えて。
夏子 はい、これです……
泉 ほい……と。
夏子 泉さん……「オヤジの大バカヤロー」って言ってませんでした……? 泉 フフ……聞こえちゃったんだね。
夏子 ごめんなさい。
泉 いいよ聞こえちゃったんなら。 泉、携帯の父のアドレスを消去しようとする。とっさに携帯をひったくる夏子
夏子 ごめんなさい。でも、今、お父さんのアドレスを消去しようとしたでしょ?
泉 いい勘してんだね。
夏子 すみません。出過ぎたことしました(携帯を返す)
泉 いいよ、わたしも早まったことするとこだった。
夏子 泉さんも苦しいことってあるんですね。
泉 当たり前だよ、人間なんだから。
夏子 お父さんとうまくいってないんですか?
泉 シャボン玉とんだ。屋根までとんだ。屋根までとんで、こわれて消えた……(歌う)
夏子 ……?
泉 わたしがお母さんのおなかの中にできたとき、オヤジと二人で「港の見える丘公園」に散歩に行ってね。お母さん歌ったんだよ。さりげにオヤジの横で。
夏子 それって……
泉 うん、今日みんなの前で言った夢がどうのこうのって、そんなきれいごとじゃなくってね。 夏子 赤ちゃんが、どうのこうのってほうなんですね?
泉 オヤジはね、子供なんて欲しくなかったんだ。だから、さりげにお母さんを散歩なんかに連れ出して悟らせるつもりだったんだ。最初は中華街でも行って食事でもしてさ、切り出すつもりだったみたい。それが、お母さんが「港の見える丘公園」に行こうって……あの公園ね絶好のデートコース。普通の恋人同士でいたいってサイン。それにね、大昔はフランスとイギリスの軍隊が占領してたんだ。明治の初め頃ね。戦後はアメリカ軍に接収されて、日本人は入れなかったんだ。
夏子 そこにわざわざ行ったっていうのは……
泉 そう、オヤジ、大学じゃ日本近代史なんかやってたから、そのへんの事情はよく知ってる。あの公園は横浜の人間が二度外国から取り返したとこなんだ。そこで「シャボン玉」歌ったの。わかる?
夏子 泉さんのこと産むって決意だったんですね。
泉 うん。それを高一のとき、マネージャーの滝川さんに聞かされて。わたしグレかけてたからね。
夏子 泉さんがですか?
泉 そりゃあ九つで親が離婚して。母親は仕事ばっか、保育所の送り迎えなんかも、マネージャーさん。長いときは一ヶ月くらいお母さんにも会えなかった。グレもするわよ。
夏子 そうなんだ……
泉 わたし高一の時に援交やっててね。
夏子 エンコウって……援助交際ですか!?
泉 ほらほら、また、珍しい動物見てる顔になってるよ。
夏子 ごめんなさい。
泉 まあ、無理もないよね。天下のシンガーソングライター池島令の娘が援交やってんだもんね。でもね身体売ったりはしなかったんだよ。出会い系でオッサン呼び出してね、待たせとくの。で、それを陰から見ててね、目印にいろんなことやらせんの。歌唄えとか、鼻くそほじれとか。猿のマネさせたこともあったなあ。
夏子 ハハハ……
泉 オバサン呼び出したこともあるんだよ。男の声色つかって。
夏子 女の人でもやるんですか、そんなこと?
泉 いろんな人がいるからね、世の中。でね、やりすぎちゃってお巡りさんに捕まったってわけ。三十回目くらいのときかなあ。
夏子 マスコミとかに騒がれませんでした?
泉 マネージャーの滝川さんがもみ消してくれたんだ。その時にね「港の見える丘公園」の話聞かされたんだ。
夏子 それで……
泉 改心するほどアマチャンじゃないわよ。そのときはフンてなもんよ。いまさらなにを「お涙ちょうだい」なんちゃって。ただね……
夏子 ただ……?
泉 そのとき滝川さんに、思い切りしばかれてね。そのとき思わず口をついて出た言葉がね「親みたいなマネしないでよ!」
夏子 親みたいなマネ……
泉 自分でもびっくりした。そんな言葉がわたしの口からでてくるなんて。親みたいなマネ……親を欲しがってんだ、あたし……そう気づいたら、気持ちが整理できなくなっちゃって三日間、横浜の街をほっつき歩いてた。
夏子 捜索願とか出されなかったんですか?
泉 出せるわけないじゃん。スキャンダルでしょうが。でもね、お母さん自分で捜して歩いたんだ。病院にちょこっと入院したってことにして。
夏子 あ、鉄アレー入院って、昔ニュースになりましたよね?
泉 よく覚えてんね。
夏子 いちおう放送部ですから。
泉 なーる。
夏子 で、お母さんには会えたんですか?
泉 鉄アレーだからね、最初はトンチンカン。でも、三日目にはドンピシャ。
このとき、泉のインカムに連絡が入る
泉 はい、わたし……え、鍵が見つかんない?……うん、わかった待ってる。裏門の鍵が見つかんないんだって。ま、ちょうどいいや。話の途中だし。どこまで話したっけ?
夏子 三日目にドンピシャです。
泉 あ、そうそう。最初は山下公園に行ったんだよ。小さい頃、親子三人で行った数少ない思い出の場所。「赤い靴はいてた女の子の像」あれが一番好きだった。知ってる、あの話?
夏子 えーと……異人さんに連れられて……行っちゃうんですよね、アメリカかどこかに?
泉 ううん。 アメリカに行けずに病気で死んじゃったんだよ。
夏子 え、 そうなんですか!?
泉 あの子ね、岩崎きみちゃんていうの。
夏子 実在の人物なんですか?
泉 お父さんがだらしない人でね、お母さんは、きみちゃんを一人で育てたんだ。お母さんが別の男の人と再婚して北海道の開拓村に行くんだけどね、あまりに過酷な環境に耐えられなくなって、きみちゃんをアメリカ人の宣教師夫婦の養女にしちゃってね。そのアメリカ人宣教師がアメリカに帰るときに、きみちゃん病気になっちゃって。横浜の孤児院に預けられて九つで死んじゃったんだ。
夏子 ほんとですか!?
泉 わたしは、ほんとだと思ってる。お母さんがそう説明してくれたから。んで、ネットとかで調べても、この説が一番多いしね。
夏子 失礼なこと聞きますけど、泉さんのお家ってうまくいってなかったんですか?
泉 きみちゃんてね、ちょこんと体育座りしてね、目の右端に氷川丸を入れてずっと海のほう見てんだよ……あ、うちのことね?
夏子 すみません、立ち入ったこと聞いちゃって。
泉 わたしが九つのときに家庭崩壊。お母さんは稼ぐけど、家にはほとんどいなかったし。オヤジは家にはいたけど売れない脇役。なんとなく、物心ついたころから感じてたんだけどね。でも二人とも口に出しては言い合わなかった。独身のころ、それで失敗してるからね。でもね言い合ったほうがよかったんだよ。わたし、ちっこいころはいい子ぶってた。いい子でいたら、お母さんもオヤジも平和共存してくれるって無意識に思ってた。それが「赤い靴はいてた女の子」なんかで言い合いするんだもん。
夏子 きみちゃんのことで?
泉 さっきの、きみちゃんの話って、お母さんがしてくれたんだよ。それがオヤジには甲斐性のない亭主への当てこすりに聞こえんの。
夏子 ああ、取りようによってはそうなるか……
泉 で、オヤジもね、はっきり言やあよかったのよ「あてこすりか!?」って。そうしたら、平和な夫婦げんかで終われたのにね。それがオヤジの悪いとこなんだけどね、きみちゃんの解釈で反撃してくんの。赤い靴は、ある特定の思想のシンボルで、その思想への弾圧と挫折を野口雨情、あ、作詞した人ね。その野口さんが自嘲をこめて書いたものだって。
夏子 それって「カモメの水兵さん」と同じこじつけなんですか?
泉 ううん、オヤジもいつまでもバカじゃないからね。そういう説もあるにはあるんだ。けっこう有名な文化人がそう言ってたりする。でもね、そういう言い合いって、すごく陰湿。一事が万事で、けっきょく性格の不一致で離婚しちゃうんだもん。
夏子 子供には辛い話ですね。
泉 しばらくは、きみちゃんの横でおんなじように体育座りしてた。自分は何をしたいんだろう?なんのために生まれてきたんだろうって……そしたらね、きみちゃんがしゃべったんだよ。
夏子 え……?
泉 「困ったことだね」って。
夏子 困ったこと……
泉 うん、たしかにそう言った。一瞬生きてる人間みたいに「困ったことだね」……でも、その一言だけだった。びっくりしてきみちゃんのほうを見たら、気弱げに微笑んで海を見ているブロンズ像だった。あたりまえっちゃ、あたりまえなんだけどね。でも、きみちゃんはたしかにそう言った。九歳の女の子が、確かにそこでわたしに寄り添っていてくれた。ハハハ笑っちゃうよね、なんか安できの都市伝説みたいでさ。でもね、そのときは九歳の女の子なら、そうだろうって、ぬくもりながら納得しちゃった。もしね……
夏子 もし……?
泉 あの子の一言がなかったら、わたし前の海にとびこんでいたかもしれない……
夏子 泉さん……
泉 それからね。
夏子 それから?
泉 横浜の街をうろうろ。夜はツレのお姉さんのアパートに泊めてもらって、気が付いたら「港の見える丘公園」に来ていた。そこでお母さんとドンピシャ。で、それ以来お母さんのパシリをやってるというか、やらされてるというか。
夏子 今日、お父さんと会うことになってたんですか?
泉 うん。オヤジのほうからね言ってきたんだ。それまでは、わたしの方からたまにね。で、余計なことだったんだけど、お母さんにも言っちゃたんだ。なんせオヤジからのはじめてのアプローチだったから。
夏子 そうだったんですか。
泉 お母さん、なにも言わなかったけど、期待はしてたみたい。「シャボン玉」ただのアドリブじゃなかったんだよ。アドリブはやるにしても、あらかじめスタッフには、言っとくもんもんだから。
夏子 じゃあ、あれってお父さんへのメッセージだったんですか?
泉 そうだよ。だからわたしもPAやりながら、必死こいてオヤジ捜したもん。終わったあとでも、学校のどこかにいるんじゃないかって。だから、あきとぶつかたのも半分はわたしの責任(このとき、メールの着信音)あ、オヤジからだ……すまん、二度とおまえ達の目の前には現れない。母さんによろしく……ざけんじゃねーよ。この、くそオヤジ!
夏子 泉さん、おちついて。
泉 ごめん、つい地が出ちゃったね(父に電話をしている)オヤジ、なんだよこのメールは!?……そのとおり? これが結論? わかんないよ、これじゃあ! 再会のつもりがいきなりの縁切りだなんて、まったくも、納得もいかないよ! お母さんになんて言えば……適当に? テキトーなのはオヤジのほうじゃんかよ! どうして急に……え、オヤジの彼女が妊娠したぁ……いまさらこの歳でお姉ちゃんかよ、わたし……え、堕ろす!? どうして!?……高齢出産? そんなの言い訳だよ。今時四十代の初産だってめずらしくないんだよ。ちゃんと羊水検査とかしてもらって……このわからずや! わたしが直接豊子さんに電話して会いに行くよ……どうして知ってるかって?……オヤジ隙だらけだから、とっくに携帯の情報いただいてるわよ。そんなこと全部承知でオヤジには来て欲しかったんだよ。わたしも、お母さんも。豊子さんの妊娠は、想定外だったけどね……大丈夫。豊子さんには二度ほど会ってるから。じゃあ切るよ。
夏子 困ったことですね……
泉 ハハハ、きみちゃんと同じこと言うんだね。
夏子 すみません。
泉 いいんだよ、それで……それって、せいいっぱい人に寄り添って出てくる言葉なんだから。
このとき、あきが息をきらせてやってくる。
泉 オッス!
あき ども……
夏子 どうしたの、あき? ちゃんと先生には言ってきた?
あき うん。先生に報告して、職員室出たら、そこに杉村君がいて、で、舞い上がっちゃって、いっしょにそこまで帰る途中だったの。
泉 ヘヘヘ、やるね、杉村君も。
あき え?
泉 いや、べつに(携帯を出して、どう打ち込むか考える)
夏子 それがどうして、あき一人、息せき切ってもどってくんのよ?
あき 杉村君のロッカーに、絶交状入れてたの思い出して。
夏子 もう読んじゃったかもよ。
あき ううん、そんな様子は無かった。だから急いで、ごめん。ちょっと見てくる……あ、ありがとうございました、泉さん(上手に駆け去る)
夏子 ああ見えて、抜けてんですよね、あの子。
泉 ホレホレ(あきの絶交状をヒラヒラさせる)
夏子 あ、それ!?
泉 だてに歳くってないわよ……と言うほど開いてないけどね。あんたたちのやりそうなことって予想ついちゃう。
夏子 まあ、泉さん……
泉 待って、このメール打ち終わったら、あきに知らせるから。
夏子 案外、意地悪なんですね。
泉 これくらいあせっといたほうが、青春のいい思い出になるでしょ……よしっと!
夏子 豊子さんに打ったんですか?
泉 ホレ(携帯を見せる)
夏子 いいんですか見ても……「困ったことだね、今から行きます」
泉 いろいろ考えたけど、結局きみちゃんのパクリ(インカムがしゃべり出す)……わかった、今から行く。裏門の鍵見つかったって。
夏子 やりー!
泉 じゃ、行こうか。カバンとかとっといでよ。
夏子 はい、直接裏門のほうに行ってます。
夏子上手に駆け去る。見送る泉。
泉 ……今度は我が家の裏門の鍵か。かなりむつかしい鍵だなあ……
校内放送 ただ今から会場の後かたづけを始めますので、運動部のみなさんは体育館に集合してください。繰り返します……(フェードダウンしてつづく)
泉 そうか、今日は創立記念日だったんだ…(インカムに)わるい、もう四五分待ってて。うん、分かってる……分かってるって。裏門の鍵はしっかり開けといてね。なぜって? そりゃあ……そりゃあ、今日はシャボン玉創立記念日。困ったことも少しはあるけど……うん、なんでもない……そう。シャボン玉創立記念日なんだよ、シャボン玉創立記念日!
あふれる涙をグイっとぬぐい「シャボン玉」を辛さこらえて、しかし明るく口唄う泉。登場人物全員とコーラスラインが、それに和して現れ、全員でテーマ曲に昇華していく(シャボン玉や赤い靴はいてた女の子をモチーフにしたオリジナルがいい)BGMだけになって、登場人物、コーラスライン、スタッフの紹介。時間が押していたら、割愛。
全員 本日はありがとうございました!
大橋むつお《住所》〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町6-5-2