昨年のコンクールで二十本ほどの芝居を見せていただきました。感想は二つです。
ああ、一生懸命やっているなあ……という尊敬の気持ちです。先生方も校務で忙しい中、よく指導されていると、頭が下がりました。
生徒諸君は「けなげ」の一言につきます。先生やコーチの指示を一生懸命にこなそうとする姿勢。また、暗中模索しながら「ああ、自分らで考えたんやろなあ」と思われる工夫が随所に見られ、もし「敢闘賞」という賞があるなら、差し上げたいという学校がたくさんありました。
僭越ですが、基本を外しているな、という学校が多かったこともたしかです。百の努力が舞台表現としては五十にもなっていません。
何故でしょう? 野球には三要素があります。「走、攻、守」の三点です。このことはみなさんご存じですよね。いくら、球場の施設がよかったり、ユニホームがかっこよくて、選手がイケメンであってもこの「走、攻、守」ができていないチームは脱落せざるを得ません。
演劇にも三要素があります「観客、戯曲、役者」の三つです。
極論すれば、照明も、大道具、小道具、音響などは、全て無くてもいいのです。宇野重吉という役者さんが劇団民芸におられました。寺尾聡さんのお父さんです。生前、よくこうおっしゃっていました「劇場なんかいらんでしょう。その気になればお座敷でだって芝居はできますよ」
島田省吾さんという新国劇の名優がいらっしゃいました。晩年は「シラノドベルジュラック」を翻案して一人芝居にされて、気軽にお座敷で一人芝居でおやりになっていました。イッセー尾形という役者さんがいらっしゃいます。ずっと一貫して一人芝居をやっておられます。道具はほとんど無し。明かりもつけっぱなしの地明かり。亡くなられたつかこうへいさんの芝居の多くも初期のころ道具はほとんどありませんでた。でもみなすごい人気でした。どうしてでしょう?
本(戯曲)と。役者がいいのです。観客は良い芝居には自然とついてきます。
今の高校演劇は、ユニホームがよくてイケメンであるだけの野球選手のようなものです。戯曲と、役者が弱いと感じました。
コンクールでたまげました。なんと道具の多いことか、大きいことか。中にはトラック二台で搬入された学校もありました。リハや本番で、スタッフの人たちが困っていました。照明も懲りすぎなところが多かったように思います。大事なリハを照明の調整だけで時間をとってしまっていました。道具を立てただけで「○○高校時間です」といわれていました。
で、本と役者はどうか。一部の例外を除いて、ただ声が大きく、一発芸的な「芸」ができるだけです。
わたしは、芝居を観るとき、台詞をしゃべっていない役者を見ます。ぶっちゃけていうとリアクションができていません。怒る演技、笑う演技があったとすると、怒りや、笑いのポイントになるところで反応していません。バラバラの演技がいっぺんに舞台でおこなわれているだけす。
そして、本が弱い。役の心情を人間の葛藤としてのドラマではなく、ただの説明に終わっています「わたしは、これこれで腹が立つんだ!」と、言ってしまっています。失礼ですがドラマの基本、「人の言動が、他者に影響し他者に葛藤を起こさせ、状況が変化し、それに向かって人間が行動変化する」ようにはできていません。
今の高校演劇に必要なのは、この演劇の三要素、特に「戯曲、役者」に立ち戻ることではないかと思いました。
そして、その基本。高校演劇入門を分かりやすく書き残しておく必要があると考え……というより、想いで書きました。
昔のように堅苦しい本ではありません。個人的なブログです。四十四年高校演劇に関わってきたものとして、演劇の基本に立ち戻って欲しい想いで書きました。
『はるか 真田山学院高校演劇部物語』です。今までには無か った小説形式にしました。読みやすくするためでありますが、役者の成長は役者個人の成長と切り離せないからです。
「どうしたら、人の心に届く芝居ができるんだろう? エンタメでなくドラマをやりたい」と思っている諸君。また、高校演劇の作品のあり ように?と感じておられるOB、OG、先生方がいらっしゃいましたら、一度ブログを覗いてはいただけないでしょうか。
駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
大橋むつお
『ホンワカ女子高生HBが本格的に演劇部にとりくむまで』略称『女子高生HB』
部員がうまく集まらなかったり、基礎練習のやり方がわからなかったり、部活の人間関係に悩んでいませんか?
部員が5人ほどで、「こんな少ない人数でやれるんだろうか」と、ため息をついたりしていませんか?
演劇部の基礎に関する本は「高校演劇の、演技・演出・劇作・道具・照明・音響・などなど」いろんなものが出ていますが、教科書のようにむつかしく、なんだかレベルが高い。そしてなによりマネジメント(毎日の部活をどうやっていけばいいか)について書かれた本はなかったんじゃないでしょうか。
そういう演劇部のために、小説のカタチで入門書を書いてみました。『ホンワカ女子高生HBが本格的に演劇部にとりくむまで』長ったらしいタイトルですが『女子高生HB』で検索できます。
この本は、私自身がコーチとして一年余つき合った、大阪の某高校演劇部での体験がもとになっています。たった2人の演劇部を6人にまで増やし、コンクールの予選で、キャスト全員が個人演技賞、そして最優秀賞を受賞して府大会まで出ました。そういう少人数演劇部に的をしぼった、お話です。
東京からHB(坂東はるか)が、公立のY高校に転校してきて、新しい環境に慣れ(マックをマクドというのにも違和感を感じていた)新しい友だち、部員や、クラスメートとのいざこざ、恋いのすれ違い……などに泣き笑いしながら、しだいに高校演劇にのめり込んでいく姿を、演劇部の変化とともに描いています。はるかの日常に、アハハと笑い、ちょっと涙しているうちに「ああ、演劇部ってこうやるんだ!」ということが自然に分かる仕掛けになっています。
近々、門土社から電子書籍として発売されますが、その前に全8章を立ち読みできるようにしてもらいました。ぜひ『女子高生HB』で検索してください。 わたしの本業は若い人向けの劇作です。もう全国150ほどの学校の演劇部や、若い人の劇団でとりあげていただきました。昨年はわたしの本で、福岡、大阪、神奈川の高校が本選出場を果たしました。そういう作品に興味のある方は大橋むつおで検索してください。
気持ちはあるんだけど、どうやっていいか立ち止まっている演劇部の人たちの力になれれば幸いです。
大橋むつお