イスカ 真説邪気眼電波伝・04
「幻想神殿・1」
《幻想神殿》のタイトルが浮かび上がる。
瞬間でオレの脳みそはクリアーになる。
オープニングのアニメなんてすっ飛ばせばいいんだけど、オレは毎回きちんと観る。
最初は、どこにでもある六畳ほどの部屋。
ポタポタと蛇口から水が滴る音がして、それが気になって部屋を出て階段を下りる。下りて直角に曲がるとリビングダイニングのドア……オレの家に似ている……ドアを開けると、ますますオレん家に似たリビング。カウンターの向こうがキッチン……カランが緩く、蛇口から水滴が落ちている。シンクは水がいっぱいで、今まさに溢れそう。手を伸ばしてカランに手を掛けギュっと締める。
とたんにシンク一杯の水は渦を巻いてオレは呑み込まれる。
呑み込まれるとどんどん深みに吸い込まれ、周囲が薄暗くなって、オレは必死でもがく、もがく、もがく……向こうに針の穴のような光が見えて、光に向かって泳いでいくと加速度がつき、溺れる寸前に水面に出る。ゼーゼー言いながら見上げた空、そこの雲の頂に幻想神殿が見え――あそこだ!――そう悟ると、潜水艦から撃ちだされたトマホークミサイルみたいに空中に飛び出す。
ずんずん飛んでいくんだけど幻想神殿はいっこうに近づいてこず、最下層の雲に着地する。
着地すると、雲は大地に代わり、目の前にメニューが現れる。最初のころは運営さんのアバターが待ち受けていて親切に解説とチュートリアルの手助けをしてくれる。三年目になろうとするオレは手早くHP、MP、アイテムを確認するとアバターの選択をスキップ(予備のアバターは三つあるが基本的にはデフォルトに近い剣士だ)し、メニューウィンドウを呼び出し、攻略中の48層をクリックする。
メールが三通入っていたが即削除。
見なくても分かってる、オレの戦闘を垣間見たプレーヤからのお誘いとか招待状だ。
オレはギルドには入らない、いわゆるソロプレイヤーだ。ハンドルネームはデルス・ウザーラ。黒沢映画に出てくる孤高の狩人の名前だ。アニメの背景を検索していたら黒沢映画にたどり着きググっているうちに『デルス・ウザーラ』にヒットし、ガラにもなく観てしまった。ま、よほどの映画マニアでなければ知らない名前だ。
48層は草原と森林が多い。全体のマップを把握していないんで見た限りなんだけど、大小の湖とかもあるようで、しばらく腰を落ち着けるにはいいところだと思う。
林の中に罠を仕掛けてある。ピーボアのコロニーを発見したんだ。
おいしい猪の一種で、まとめて売ればいい値段になる。
あくせく狩に精を出したり、攻略に血道を上げる人間じゃないんで、このゲームで生きていくに必要なスキルとアイテムが手に入ればいいんだ。
罠を仕掛けた窪地まで来てビックリした。
罠に女の子がかかっていたのだ!