大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・358『百武真鈴 改訂版を書く・3』

2022-10-31 17:03:30 | ノベル

・358

百武真鈴 改訂版を書く・3さくら    

 

 

 

サクラ・ウメ大戦

3『オッケー!』

 

作・大橋むつお  脚色・百武真鈴

時 ある日ある時
所 桜梅公園

人物 

(やさぐれ白梅隊)   (はみだし八重桜隊)

ゆき(園城寺ゆき)    さくら(長船さくら)  (ITVスタッフ)
咲江           百江           リポーター
ルミ           純子           カメラ
春奈           ねね           音声
千恵           やや

その他いっぱいいれば なお良し(^▽^)/ 

 

 カメラ、ゆきとさくらの鍔のアップからひいて、舞台を上手から下手へ、ゆっくりなめる。(平行移動しながら撮る)、舞台が狭い時は、カメラ、音声共に舞台下に降りて撮っても良し。しかし、ここ一番撮ってますっていうカメラマンの気迫は示してほしい。カメラ下手まで周りきったところで、リポーターのOKサイン。

 

リポーター: オッケー!

カメラ: よかった、バッテリーちょうどいっぱいでした(^_^;)。

やや: 残り一分も無かったよ……

カメラ: アップとロングくりかえすと、早くあがっちゃうんですよバッテリー。

やや: そうなんだ。

さくら: みんなありがとう。

ゆき: ギャラは出ないけど(^_^;)

リポーター: 図書カードあげるわ、人数分、カメラさん、くばってあげて、

一同: ワーイ!

 
 図書カードが配られている間、レポーター、爪をかんで考えていたが……アイデアが浮かんで手を叩く。


リポーター: 音声さんはまだバッテリーいけたわよね!?

音声: はい、こっちは大丈夫です。

リポーター: みんなね、絵は撮れないけど、音声が生きてるの。あの婆ちゃん(なるべく古く、でも観客のみんながのりそうな歌、例「青い山脈」「上を向いて歩こう」等々)の歌が好きだから、どうだろ、大先輩のために、アカペラだけど歌ってもらえるかなあ、番組のBGMに使いたいの、お婆ちゃん、きっとよろこぶよ!

 
「わたし知ってる!」「賛成賛成!」「やろうやろう!」「全部は知らない」「知ってるところだけでいいよ」「アアアアアー(発声練習)」などなどあって……

 
レポーター: じゃいきます……オオ!?(カラオケが鳴り出す、文化祭などなら、カラオケという設定でピアノなどの生演奏の方がいい)

音声: スマホ繋いでカラオケ流してます!

リポーター: さすがITV(田舎テレビ)の音声さん! さあ、観客のみなさんもごいっしょに! せえの!……

 
 舞台全員、そして観客席もまきこんだ大合唱になる。

 のり方によっては曲を丸々フルコーラスでやっても良し!

 幕。

 

 

 ラストの、この部分を真鈴さんは十分ほどで書き上げた!

 生徒会の文化委員長がブースに控えていて、ちょうどのタイミングで『恋するマネキン』のテーマを流すと、期せずして視聴覚室に居たみんなで大合唱!

 なんや『サクラ・ウメ大戦』のスピリットがみんなに乗り移ったみたいで、まだ台本ができたばっかりやのに、もうできあがってしまったみたいにノリノリになってきた。

 

「ちょっと、いいですか、真鈴さん」

 

 フルコーラス歌って大拍手になったとこで、留美ちゃんが手を挙げた。

「はい、なんだろ、榊原さん?」

 瞬間で真面目な顔になって応える真鈴さん。

 留美ちゃんの声で真面目な質問やいうことを読み取ってるんや。

「昨日今日で、ザっとコスプレグッズを見たんですけど、女子高の制服めいたのは人数分は揃えられません」

 留美ちゃんもさすが、昨日と今日で山のようなコスプレグッズ(ハローウィンの置き土産)をチェックしたんや。

「あ……ああ、なるほどね」

 そう言うと、パソコンの画面をスクロールして十秒で対策を考えた!

 視聴覚室のみんなが息を呑む。

「よし、ハローウィングッズのままでもやれるだろ! でも、なにか……そう、色とか形とか、ジャンルとかで白梅と八重桜の特徴は出そう。それでいけるよ! あ……そうだ!」

 真鈴さんは、さらに、なにか思いついた!

「お芝居そのものは十分ちょっとで終わっちゃう。三班でやるとしても三十分。ちょっともったいないから、コスのまんまパレードしよう!」

「それいい!」「ブラバンにも入ってもらおう!」「ダンス部も!」「カラーガードとかも!」

 話は、瞬間でグレードアップした!

「よし! これは先生たちや地元とも協議しなきゃだけど、いっそ駅前までパレードしようぜ!」

「「「「「「「「オオ!」」」」」」」」

 

 たった三日で、文化祭のメインイベントができあがってしもた!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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ピボット高校アーカイ部・29『転がり落ちる』

2022-10-31 14:52:50 | 小説6

高校部     

29『転がり落ちる』

 

 

 ダウンジングのL字棒は、あと十メートル程で正門を出てしまうというところで動きを停めた。

 

「このあたりだ」

「でも、魔法陣は見えませんけど……」

「ああ、水平方向にはな……集中しろ、微妙に下を指しているようだぞ」

 L字棒を握る手を少しだけ緩めると、ほんの少しだけL字棒の先が斜め下を指す。

「どうやら、少し地面にめり込んで見えなくなっているようだな」

「え、魔法陣がですか?」

「近くに居さえすれば、多少上下にズレていてもL字棒は機能する」

「でも、どこが魔法陣か……」

「そうだな……おぼろにも見えるようにしないとな……よし!」

 ムギュ!

「ちょ、先輩!」

 ただでも密着しているのを、さらに僕の背中に手を回して抱きしめるようにしてくる。

「ほら、浮かび上がってきたぞ!」

 僕たちの周囲に相撲の土俵ぐらいの魔法陣が浮かび上がってきた。浮かび上がってきたんだけど、氷の下を浮き沈みしているようにボンヤリしていて頼りない。

「もう少しだ、鋲もきつく抱き付いてこい!」

「は、はい(#;'∀'#)!」

 ムギューーー!

 氷の下なら五センチぐらいのところまで魔法陣が浮かび上がってきた。

 しかし、放課後すぐの正門の内側、下校しかけや部活に向かう生徒たちがいっぱいいる。

「え、なにぃ?」「ちょ!」「やだぁ!」「うわぁ!」「びっくりぃ!」「おぞぃぃい!」

 遠巻きにしている中には中井さんやカミングアウト……って、このごろ現れすぎ。

「今だ、ジャンプ!」

「はひぃ!」

 ピョン

 バキバキッ!

 まさに、氷が割れるような音がして、僕たちは時空を飛んだ。

 

 ドスン! ゴロゴゴロゴロ!

 

 落ちたと思ったら転がり出した!

 うわああああああ!

 先輩と抱き合ったまま果てしなく転がり落ちていく……というのは衝撃と恐怖心からの錯覚なんだろうけど、感覚的には数分転がり落ちた。

 ズサ

 ようやく平らなところに落ち着いたと思ったら、ちょっと息苦しい。

「フガ……先輩、もう大丈夫みたいですから」

「そ、そうか」

「プハーー」

「ああ、すまん。わたしの胸がもう少し大きければ窒息させていたところだったな」

「あ、いえ……咄嗟に庇ってもらったみたいで、ありがとうございます」

「フフ、日ごろの愛情がなせる業だ、気にするな」

「は、はあ」

「しかし、こういうことになるのなら、いっそブラを外してくるんだったな(^o^;)」

「あ、そういう冗談はいいですから、よかったらどいてくれませんか?」

「そうか……なんだか、このまま転がって昼寝でもしたい感じだがな」

 どうやら川の土手の斜面に出てしまって、そのまま転がり落ちてしまったようだ。

 土手は二段構造になっていて、真ん中あたりで留まることができた。

「いつの時代の、どこなんでしょう?」

 いつもの魔法陣だと、ゲートを通るか、あらかじめ場所が分かっているので、こういう飛び方をすると見当がつかない。

「ちょっと調べてみよう」

 先輩が、ワイパーのように手を振ると異世界系アニメのように仮想インタフェイスが現れた。

「明治25年(1893)の牛込区……今の新宿区だな」

「要の街を飛び出してしまったんですか?」

「ああ、やはりバージョンアップしているようだな。せっかくの東京、サイトシーングしてみたいところだが……」

「なにか任務があるんですか?」

「ああ、クエストのアイコンが点滅している……」

「……クリックしないんですか?」

「見たら放っておくわけにもいかんだろうしな」

「いいんですか?」

「せっかくの東京、それも明治25年だぞ、散歩ぐらいしても罰は当たらんだろう……」

 ドスン! ゴロゴゴロゴロ!

 うわ!?

 僕たちが落ちてきた同じ空間に、ピボット高校の女生徒が落ちてきて土手を転がり落ちてきた!

 うわああああああ!

 とっさのことに身を庇うこともできず、僕たちは、落ちてきたそいつと一緒に土手の一番下まで転がり落ちてしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・10『わたし、やります!』

2022-10-31 06:42:38 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

10『わたし、やります!』  

 

 

「潤香が倒れた」

 全員が揃うと、マリ先生は組んだ腕をほどきもせずに冷静に告げた。

「今朝、玄関で靴を履こうとして……今は、意識不明で病院だ」


 え……


 あとは声も出ない、遠く彼方を飛ぶ飛行機の無機質な音が耳についた。

「わたしは、これから病院にいく。で、本番のことなんだけど……」

 そうだ、三時間先には本番……でも、主役の潤香先輩がいなっくちゃ……。

「選択肢一、残念だけど今年は棄権する」

 そりゃそうでしょうね。みんなうつむいた……そして、先生の次の言葉に驚いた。

「選択肢二、誰かが潤香の代役をやる」

 !?

 みんなは息を呑んだ……わたしはカッと体が熱くなった。

「ハハ、無理よね。ごめん、変なこと言っちゃって。ヤマちゃん、地区代表の福井先生に棄権するって言っといて。トラックは定刻に来るから、段取り通り。戻れたら戻ってくるけど、柚木先生、あとをお願いします」

「は、はい、分かりました!」

 副顧問の柚木先生の言葉でスイッチが入って、山埼先輩とマリ先生が動き出し、ほかのみんなは肩を落とした……で。

「わたし、やります(,,꒪꒫꒪,,)!」

 クチバシッテしまった……。

 みんながフリーズし、山埼先輩はつんのめって、マリ先生は怒ったような顔で振り返って、わたしを見つめた。

「まどか、本気……?」

 柚木先生が、暴言を吐いた生徒をとがめるように言った。

「……」

 マリ先生は地殻変動を観察する地質学者のように沈黙して、わたしの目を見つめている。

「わたし、潤香先輩に憧れて、演劇部に……いいえ、乃木坂に入ったんです。コロスだけど、稽古中はずっと潤香先輩の演技見てました。台詞だって覚えています。動きも、こっそりトレースしてました。潤香先輩のそっくりショーやったら優勝まちがいなしです!」

 一気にまくしたてた。

「上等じゃない……その目、入部したころの潤香そっくり。小生意気で、挑戦的で、向こう見ず。心の底じゃビビッテるくせに、もう一人の自分が、その尻を叩いている……やってみなアンダースタディー(この意味はあとで言います)」

「ほんとですか!?」

「まどかは、潤香よりタッパで三センチ、バストは四センチ、ヒップは二センチちっこい。ウエストはまんま。衣装補正して。本番までに一回、台詞だけでいいから通しておくこと!」

 マリ先生は、わたしの肉体的コンプレックスを遠慮無く指摘して楽屋を去っていった。

 スカートの丈を少し補正しただけで、衣装の問題は解決……させた。

 衣装係の、今時めずらしいお下げで、かわゆげな一年のイト(伊藤)チャンは、こう言った。

「バストの補正って大変なんですウ。なんだったら『寄せて上げるブラ』買ってこよっか?」

 真顔なところがシャクに障る。

「これで問題なし!」

「だって……」

「先生の指摘は目分量。そんなに違いはないのよサ!」

 と、胸と見栄を張って、おしまい。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
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せやさかい・357『百武真鈴 改訂版を書く・2』

2022-10-30 10:24:53 | ノベル

・357

百武真鈴 改訂版を書く・2さくら    

 

 

サクラ・ウメ大戦

2『おつかれさまあ』

 

作・大橋むつお  脚色・百武真鈴

時 ある日ある時
所 桜梅公園

人物 

(やさぐれ白梅隊)   (はみだし八重桜隊)

ゆき(園城寺ゆき)    さくら(長船さくら)  (ITVスタッフ)
咲江           百江           リポーター
ルミ           純子           カメラ
春奈           ねね           音声
千恵           やや

その他いっぱいいれば なお良し(^▽^)/ 

 

 

リポーター: おつかれさまあ。

ゆき: なんだ、そんなところから撮ってたんですか?

リポーター: いい絵がとれたわよ。

さくら: すみません、本当は、二人とも千鳥(前に進みながらザコを打ち倒すこと)の末に、取り巻きをバックに太刀打ちってことになっていたんですけど……みんな、サッサと死んじゃって。

ゆき: やっぱ――テキトーにチャンバラって――ト書きが雑過ぎなんかなあ。

さくら: だって、殺陣の用語って、そんなに知らないし。

ゆき: まあ、自分でやるのと、人にフリ付けんのは別だしな。

 

 二人が言い訳を言ってるうちに、カメラが舞台に上がってきて、双方の切られた者たちもカメラ目線で生き返ったり、袖から出てきたりする。

 

リポーター: 大丈夫、クライマックスのとこはローアングルのバストアップで撮ったから、大丈夫よ。

咲江: ローアングルって、下から撮ること?

ルミ: パンツ写っちゃうんじゃない。

ゆき: 大丈夫スパッツ穿いてっから。

リポーター: 大丈夫よ、バストアップで撮ってから。

百江: さくらってペチャパイだからね。

純子: 下から撮ったら胸も大きく写るんじゃね?

 みんな、カメラを意識してワチャワチャやってる。

ゆき: ちょ!

さくら: うっさいよ、あんたたち!

リポーター: ほんとはもっとカメラ使って交互にカットバックでいきたかったんだけどね。編集で、なんとかするわ。

みんな: えーー! あたしたちはぁ?

ゆき: ちょっ、ギューギュー寄ってくるんじゃないわよ!

さくら: 今ごろになって、出てくるんだもんなあ!

ねね: だって、あたしたちも写りたいしィ。

やや: そうだよ二人だけ目立っちゃって。

リポーター: 今、カメラ回ってないよ、ね、沢田さん。

カメラ: はい、バッテリーもったいないですから。

春奈: ええ!? じゃ、どうしてカメラ構えてんのよ。

リポーター: いつシャッターチャンスがきても撮れるように構えてるのよ、プロの常識。

春奈: ええ、せっかくファンデやり直したのに。

千恵: あたしずっとカメラ目線でいたんだよ。

百江: 放送局のケチ!

音声: 音声は生きてるんだけど……

百江: え! 音声さん美人よ! ね、ねえ!

純子: ねえ、マイクの棒持つ手なんかスラッとしちゃって。

咲江: ア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オ……

ルミ: 今頃発声練習してどうすんのよ。

ゆき: あんたたちねえ! あ、入ってんだ。

音声: いま切った。

さくら: ほんとに、あんたたち、さくらも満足にできないのね。

春奈: だって、あなたたち桜女子と違うしィ

さくら: その他多勢、モブ、NPCって意味だよ!

一同: だって……!

やや: ねえ……

ねね: わけわかんないうちに連れてこられて百均の刀渡されて。

千恵: こっちも似たようなものよ、

ゆき: ちゃんと説明したろ。

さくら: 聞いてないんだろ。

百江: やっぱマニュアルとかさ……

リポーター: これはね、老人ホームに取材に行ったらね。お婆ちゃんたち、旧制女学校のころ、白梅と、八重桜の二校で果し合いしたって、なつかしい話になってね。それで急きょ後輩のあなた達に頼んで、模擬果しあいをしてもらったってわけよ。

ルミ: そういや、ゆきが老人ホームがどうとかって……

春奈: ああ、食堂でラーメンすすってた時。

純子: そう言や、さくらも、昼休みに、おにぎりかぶりつきながらゆってた。

さくら: 飯時でなきゃ、みんあ集まらないだろうが!

ゆき: 先生達の気持ちがわかるよ……

咲江: だって……

リポーター: わかった。見せ場だけ、もっかい撮ろう!

 

「と、まあ、中盤はこんな感じなんだけど、ノリと成り行きで、どんどん変わるからね!」

 ノドチンコまで見えそうな笑顔で中盤の盛り上がりを一人で演じて見せた真鈴さん!

 遮音カーテンで半分に区切った視聴覚教室には参加希望のクラスやら個人やらが集まって、中盤まで改定された台本を聞きに来てる。

 台本は、そのつどネットに上げられてるんやけど『視聴覚室で書きながら制作の話もしてるよ(^▽^)/』と書かれてるんで、自然発生的に集まった。

 なんせ、人気の高校生声優が、ノリノリで一人芝居(本人は「読んでるだけ」と頭を掻いてる)をやってくれるんで、制作発表から二日しかたってないのに、雰囲気はマックス!

「おお、キミは頼子さんの妹分の……そうか、キミはリアルさくらだったんだ! 後ろのノッポさんは!?」

「こ、古閑巡里です」

「よし、そのコンビ面白い! B班、主役決定!」

「「え、ええ!?」」

 パチパチパチパチ!

 ノリと勢いというものは恐ろしいもので、A班、B班の他のキャストも次々に決まっていく。

「これだけ増えると、衣装とか道具とかも大変だと思うんですけど……」

 キャストは絶対イヤという留美ちゃんが的確な質問をする。

「おお、いい質問だねぇ!」

「えと、そっちに目途があるようなら、そっちのスタッフで……」

「よし、キミを……一年B組の榊原留美さん、キミを舞台監督に任命しよう!」

「か、監督だなんて(;'∀')」

「じゃあ、衣装・道具係りだ!」

「あ、でも、アテはあるんですか?」

「もちろんだとも、キミたち、昨日はなんの日だったか分かっちょるかねぇ?」

 あ……!?

 みんなが息を呑んだ。

「そうだよ、夕べ、世界中がハローウィンのバカ騒ぎをやっとったんだよ! コスプレの衣装や道具は、一夜明ければゴミ同然!」

 というか、もうゴミとして回収されてるんちゃうん?

「心配ご無用!」

 パチン

 真鈴さんが指を鳴らすと、ファンファーレと共に後ろの遮音カーテンがスルスルと開いて、トラック一杯分ほどのハローウィングッズが現れた!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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宇宙戦艦三笠4[旅立ちの時・2]

2022-10-30 07:57:08 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

4[旅立ちの時・2]   

 

 

「みんなCIC(戦闘指揮所)に集まって!」

 神さまが命じると、オレたちはまるであらかじめ知っていたかのように三笠の中央部にあるCICに走り、それぞれの席に着いた。

「シールドA展開! 砲術長、航海長、現状報告!」

 オレは、当たり前のように天音と樟葉に命じた。なんで、オレ、こんなに偉そうなんだ!?

「右舷3時方向0・04パーセクに敵艦多数。フェザー砲飽和攻撃の感あり! 弾着まで5秒」

「機関長、ミニワープで敵の真ん中に出る。同時に艦載砲すべてでフェーザー攻撃」

「てーっ!」

「ミニワープ!」

 機関長のトシが、今まで聞いたことのない冷静かつしっかりした声で応えた。

 ズゥイン

 掃除機を弱で起動したような音がしたかと思うと、モニターの星々が前方に集中し、後方モニターの星々は消えて真っ暗になった。

 シュイン

 ワープカウンターが05を示すと、掃除機が停止するような音がして、モニターに星空が戻ってゴマ粒のような敵艦隊が映し出された!

「全フェーザー砲射撃オート!」

「てーー!」

 シュビビビビビビ

 俺が命じ砲術長の天音が応えて、弾幕シューティングゲームのような射撃音が続く。

「捻りこみ最大戦速で敵旗艦に並走、一斉射後9時方向0・01パーセクにミニワープ」

 シュビビビビビビ……ズィン

 射撃音の後に掃除機の誤作動のようなミニワープの音が続く。

 ウッ(;'∀')

 瞬間のミニワープが終わると敵直衛艦のどてっ腹が迫って、思わず唸ってしまう。

 シュビビビビビビ

 ワープの寸前から撃ちっぱなしのフェーザー射撃の束が直衛艦の腹を舐めていき、捻り込み運動が完了する寸前に大爆発!

 その爆発エネルギーをも推進力の足しにして0・2秒間敵旗艦と並走。こちらのシールドで、敵艦のシールドを中和、主砲と左舷の全副砲で0距離射撃。敵が爆沈する寸前にミニワープ。9時方向でステルスシールドに切り替えた。

「敵艦123隻中40隻を撃沈23隻撃破」
「残存艦にフェーザー攻撃。初元位置にミニワープ」
「敵残存艦32隻、ワープしつつ逃走しあり……」

「「「「勝った」」」」

「チュートリアルクリア、全員合格よ」

 神さまが静かに微笑んだ。

「どうして、俺たちに、こんなことができるわけ……?」

「これからの航海に必要なアビリティーはダウンロードしてある。インストールが完璧なことも、今のチュートリアルで確認できたわ」

 飛躍した現実に付いていけず長い沈黙になった。

「……どうして、わたしたちなんだ?」

 数分の沈黙を破って天音が口を開いた。

「東郷君の霊波動が、わたしに合うの」

「え、俺が!?」

「それと、あなたたちの喪失感。潜在的な一体感……そういうものが総合的に適合した……で、納得してくれる?」

「……で、できるか! わたしたち、学校やら自分の生活があるんだぞ!」

「ワープ移動がほとんどになるから、遅くとも明日の朝には戻れるわ。上手くいきすぎたら、それよりも前に戻るかも、光速以上で移動すると時間は逆行するから」

「あの……それって、ボクが引きこもる前に戻れる可能性もあるってことですか?」

「そこまでは……でも、この旅で秋山くん(トシの苗字)の引きこもりは完治すると思うわ」

「そ、そうなんだ」

「で、あなたのことは、なんて呼んだらいいのかしら?」

 樟葉が取り持つように続ける。

「アマテラスオオミカミさんじゃ言いにくいかな(^_^;)」

「アマさん……じゃ変?」

「っていうか、あたしが呼ばれてるみたいだぞ」

「「ああ」」

 トシが入部したての頃天音を、そう呼んでたな。声に元気がないもんだからアマネのネが発音しきれなかったんだ。

「ん~と、みかさんでいいわ」

「「「みかさん?」」」

「三笠の船霊だから『三笠さん』でしょ。『みかささん』じゃ舌噛みそうだし『みかさん』。うん、これでいこう。じゃ、今夜は休んで。明日から本格的なミッションに入るから。じゃ、よろしく!」

 みかさんは、エフェクトも無く消えてしまった。オレたちは目的も目的地も敵のなんたるかも知らずじまい、地球の寒冷化と言われても、いま一つピンとこないまま始まってしまった……。


☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 みかさん(神さま)   戦艦三笠の船霊

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宇宙戦艦三笠3[旅立ちの時・1]

2022-10-30 06:42:21 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

3[旅立ちの時・1]   

 

 

「あ、ごめん! そのままの姿で連れてきちゃった!」

 パチン

 お下げの神さまが、そう言って指を鳴らすと、オレたち四人は紺色の軍服姿に変わった。

「わ!」「え!」「お!」「う!」

 四人四様の声をあげて驚いた。

 オレの網膜には天音の白い裸が強烈に焼き付いたので、数秒ダブって見えちまった。で、記憶に間違いがなければ、四人の軍服は戦艦三笠を観に行った時に展示してあった帝国海軍のそれだ。襟元の階級章は天音と樟葉が中佐、トシが少佐。自分のは……見えないので良く分からない。

 周りを見渡すと、立派な応接室のようだけど、部屋全体が三角形で、ところどころの窓が小さくて丸い……記憶に間違いがなければ、これは三笠公園の戦艦三笠の司令長官室にそっくりだ。

「そう、戦艦三笠の司令長官室ですのよ」

 お下げの神さまが、口をωにして言った。

「な……なんで、こんなところに?」

 質問しようとしたら、樟葉に先を越されてしまった。

「言ったでしょ。戦艦三笠に乗ってくださいって」

「いや」「だから」「なんで」

「「「「戦艦三笠に?」」」」


「地球を救ってもらうためです」

「「「「地球を救う( ゜д゜ )!?」」」」


「地球は、氷河期を迎えようとしています。温暖化しているというのは国際的な利権がらみの大嘘です。これを見て……」

 神さまが指差すと、スクリーンが現れ、そこに南極大陸の白い姿が現れた。

「これは去年の冬の姿だけど、観測史上最大の氷面積になっています。で、これが北極。氷は完全に回復しています。そして、世界各国の近年の冬の様子……エジプトで雪が降っています」

「でも……これって、温暖化の前の特異現象……」

「そんなこと、まともに信じているのは、日本と某国営放送ぐらいのもの。二酸化炭素の排出権が利権化していることや、水資源の取り合いのための目くらましにすぎないわ。世界の人々が寒冷化に気づきはじめている、やっとね……そして、寒冷化は人々の予測を超えて進み始めているのです。あと100年もたたずに地球は氷河期に突入して、人類は滅亡する。恐竜が絶滅したように、ごく短時間でね」

「それで、なんで戦艦三笠なの?」

「地球を救うのは、日本の戦艦に決まっています」

「それって、ヤマトの専売特許じゃないの?」

「だって……現物で残っている戦艦は、この三笠だけですから」

 ホワン

 そう言うと、神さまは四人に分身した。

 おそらくこの分身が、ブンケンのメンバーをそれぞれ連れてきたんだろう。

「船には、それぞれ船霊(ふなだま)がいるの」

「戦艦大和には大和神社(おおやまとじんじゃ)の大国魂神(おおくにたまのかみ)」

「戦艦長門には厳島神社」

「戦艦山城には賀茂神社」

「などの、神社の神さまが分祀されていたわ」

「でも、船が沈む前に、船霊は、その船を離れてしまうの」

「で、唯一、わたしだけが三笠に留まっているわけ」

「じゃ、あなたは……」

 ホワン

 樟葉の言葉で、分身していた神さまが一つになった。

 一つになっても、相変わらずお下げのセーラー服。

「一応、天照大神(あまてらすおおみかみ)。でも、大そうに思ってくれなくていいのよ(^_^;)」

「それにしても、アマテラスさんがセーラー服の女子高生じゃなあ」

 と、オレが言うと、トシが初めて口をきいた。

「分かるよ! 日本人の大方が、その程度にしか思ってないから、こんなお姿なんでしょ?」

「あ、それはね、それはみんなに親しみ持ってもらいたいからかな……アハハハ」

 なんだか無理して笑っているような気がした。案外トシの一言は図星なのかもしれない。

「で、なんであたしたちなんですか?」

「それは、まあ、チュートリアルやりながら……」

 ドッカーン!!

 ウワアアア!

 三笠のどこかに弾が当たったような衝撃がした!


☆ 主な登場人物

 修一      横須賀国際高校二年
 樟葉      横須賀国際高校二年
 天音      横須賀国際高校二年
 トシ      横須賀国際高校一年
 神さま     戦艦三笠の船霊

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・9『もの動かす時は声かける!』

2022-10-30 06:35:36 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

9『もの動かす時は声かける!』  

 

 

 結局(日付、時間、芝居のタイトル、フェリペの場所)だけをメールでヤツに打った。


 ドーン! と、晴れ渡った秋空に花火は上がらなかったけど、城中地区の予選が始まった。


 全てが順調だった、その時までは……。


 私たちの乃木坂学院は抽選で出番は二日目の大ラスになっていた。

 部長の峯岸先輩は、初日から全ての芝居を観ている。峯岸先輩は三年生がみんな引退した中、ただ一人、現場に残ってくれている。特別推薦で進学が確定していたからでもあるけど、次期部長に決まっている舞台監督の山埼先輩に、部長としての有りようを示すためだと、わたしは思っている。

 前日の朝、乃木坂の講堂で最後のリハをやった。午後は実行委員の仕事として割り当てられている舞台係(搬入、搬出、仕込み、バラシの手伝い)と受付をやった。

 潤香先輩は、カワユク受付……と、思いきや、がち袋を腰に、ペットボトルを太ももにガムテープで留め(バラシのときに出る釘や、木っ端なんか、要するに舞台上に残った危ない小物を拾うため)長い髪をヒッツメにして働いていた。

 初日最後のK高校のバラシの最中、K高校のスタッフが声をかけないで、三六(サブロク)の平台を片づけようとして、二人で担架のように担いでいた。落ちた木っ端を拾っていた先輩がちょうど立ち上がり、その平台の横面に頭をしたたかに打ちつけた。

 ゴッツン!

「アイテー! だめでしょ、もの動かす時は声かける!」

「すみません」

 先輩は、インカムを外して、痛む頭をなでてみた。

「でかいタンコブができちゃった……気をつけてよね!」

 他校の生徒でも、エラーには手厳しい。K高校のスタッフは、二人揃って頭を下げ、そのあと上目づかいにこう聞いた。

「すみません……あのう、乃木坂の芹沢……潤香さんですか?」

「え、ええ、そうだけど……」

「ウ、ウワー! ホンモノだ(๑✧∀✧๑)!」

 ポニーテールが叫んだ。

「わたしたち、去年の『レジスト』観て感動したんです(๑✧∀✧๑)!」

 カチューシャも叫んだ。

「あ、それは、ドモ……」

 潤香先輩は戸惑った。

 K高の二人のテンションは高く、ミニ握手会になった。で、写真を撮って、番号の交換までやった……ところで、マリ先生の声が飛んできた。

「そこ! なに遊んでんの!?」


 そのときは、それで済んだ……。


 二日目は、本番二時間前に楽屋に充てられた教室に集合することになっていた。

 たいていの部員は朝からやってきて、他の学校の芝居を「客席を少しでもにぎやかに(実際、力のない学校は、自分の部員数ほども観客動員ができない)するため」ということで睥睨(へいげい=偉そうに見下す)するように観劇していた。
 さすがに峯岸先輩は、冷静に化学実験を見るように、時々ペンライトで、ノートにメモをとっていた。昼の部が始まる前にはみんな会場や楽屋に集まっていた。

「潤香が、まだ来てません」

 山埼先輩がマリ先生にそっと耳打ちした。

「潤香が……?」

「サリゲにメールしてみます」

 山埼先輩の応えに、先生は軽くうなずいた。

 昼一番の芝居が終わると、部員全員、楽屋に招集された。予定よりも二時間も早い。

 楽屋に行くと、マリ先生が腕組みをして背中を向け、窓から見える四角い空を見上げている。峯岸先輩と、山埼先輩が付き従うように立っている。

「先生、なにが……」

「全員が揃ってから……」

 山埼先輩がつぶやいた。

 え……なに、この気持ち悪い緊張感は?

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達

 

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せやさかい・356『百武真鈴 改訂版を書く・1』

2022-10-29 09:00:29 | ノベル

・356

百武真鈴 改訂版を書く・1さくら    

 

 

 大した人よねぇ!

 

 朝の昇降口で出会った頼子さんは、うちらの「お早うございます」に応えもせんと、下足のローファーを左手に、右手にはスマホを持ったまま感嘆の声を上げた。

「え、なにがですか?」

 留美ちゃんが穏やかに聞き返すと、頼子さんの守護霊みたいに立ってるソフィーが――モモタケマリン――と口の形だけで教えてくれた。

 それで、一瞬自分のスマホを出しそうになったんやけど、ソフィーの斜め横に立って頼子さんのスマホを覗き込む。

 ほんまは、校内でスマホはご禁制。一年のうちらは、とっさに遠慮する気持ちが先に立つ。昨日、職員室前でスマホを開いたのは、真鈴さんの勢いがあったから。

 まあ、こういう慎みと要領の良さが同居してるのは、うち(真理愛学院)の生徒のええとこです。

 

 それで、スマホに出てたのは『サクラ・ウメ大戦 聖真理愛学院版』というタイトル!

 

「真鈴、学校の現状に合わせて手を入れてるのよ。昨日の今日だよ!」

「いや、まだ13時間しか経ってない」

 ソフィーが冷静に付け加える。

 

 昇降口では目立つので、教室に行ってから窓のカーテンでガードして、メグリンも加えた三人でスマホを開いた。

 

※ サクラ・ウメ大戦の改訂版です。取り組み状況に合わせて改定していきます。

 注……授業中には読まないでね(^_^;)

 


サクラ・ウメ大戦

1『やさぐれ白梅隊、はみだし八重桜隊』

 

作・大橋むつお  脚色・百武真鈴

時 ある日ある時
所 桜梅公園

人物 

(やさぐれ白梅隊)   (はみだし八重桜隊)

ゆき(園城寺ゆき)    さくら(長船さくら)  (ITVスタッフ)
咲江           百江           リポーター
ルミ           純子           カメラ
春奈           ねね           音声
千恵           やや

その他いっぱいいれば なお良し(^▽^)/ 

 

 荒野の決闘を思わせるような曲が流れるうちに幕があがる。そろいのセーラー服に、それぞれ寸をつめたり、スカートの丈をかえたり、リボンの結び方が違ったり、それぞれ制服でありながら個性を主張するいでたちの十数名の集団が、スケバンのゆきを中心に、ドスをきかせながら(本物のワルになりきれない可愛さを残すこと)客席奥を睨んでいる。睨んだその先には(客席後方)違う制服の集団が似たような人数、いでたちで、舞台上の集団を睨んでいる。こちらのスケバンはさくらという。双方手に、百均のビニールの刀、ビニールのバット、水鉄砲など、いかにもチープな得物(武器)を構えている。

 前者を白梅学園女子中等部やさぐれ白梅隊と言い、後者を八重桜女学院中等部はみだし八重桜隊と言い、戦前の女学校時代からの宿敵同志である。この年、とある理由から何十年ぶりに、両校の中ほどに位置する桜梅ケ原と昔は言った、桜梅公園の東西にわかれ、果し合いの寸前である。

 
ゆき: おう、八重桜女学院中等部の諸君! 本日は白梅学園中等部の我々が、高等部のお姉様連になりかわり、宿怨のうらみを果たしにこの桜梅ケ原、現桜梅公園に打ちそろった。すぐる大正三年の創立以来の雌雄をここに決する覚悟、かく言うあたしは白梅学園中等部三年一組、出席番号四番、やさぐれ白梅隊隊長園城寺ゆき! 尋常に勝負しろい! それとも、このゆき姉さんの啖呵に恐れ入ってしっぽを巻いて逃げ出してもいいんだぜ……

さくら: なにぬかしゃあがる。昔の夏休みみてえに長げえ御託並べやがって、こちとら気が短えんだ。おめえたちみてえに高えところに登らなきゃあ、威勢の出ねえ弱虫は一人もいねえ! 負ける前にこれだけは覚えておきな。あたいたちは八重桜女学院中等部、はみ出し八重桜隊! そしてこのあたいが総長の長船さくらだ! 逃げたい奴は、今のうちだ、こちとら気が短え、三つ読む間にそこを降りなきゃ、引き摺り下ろして、三つにたたんでやらあ!……ひとおっつ……ふたあっつ……みっつ……ほう……いい根性だ。女郎ども、百年のカタキだ! たたんじまえ! 

 この掛け声をきっかけに、大昔のチャンバラのBGМ、客席で黄色い声をあげながら、双方二十秒ばかり戦う。数組が舞台で戦っていたが、それも三十秒も立つ間に、ゆきとさくらだけになってしまう。二人つばぜり合いをしながら……

ゆき: ちょ、ちょっと、あたしたちだけになっちまってるよ。

さくら: え、ええ!?

ゆき: どうする?

さくら: だってカメラまわってんだろ、どっかで!?

ゆき: 声が大きい、マイクに入っちゃうよ。

さくら: だって……

ゆき: 一応、決めたとおりに……

さくら: 相打ちってことで……

ゆき: 山形三回(上段の構えで三回打ち合うこと)

さくら: ぐるっとまわって、場所入れ替わって天地(上段と下段の打ち合い)三回、さっと離れて、あたしが胴を。

ゆき: 胴抜きはあたし、さくらは面打ち!

さくら: 声が大きい!

ゆき: あんたに言われたかないわよ。

さくら: じゃ、いくよ!

 

 チャンバラのBGM、急速にフェードアップ、クライマックスを暗示する。テキスト通り山形と天地を打ち合った後、気合とともに相打ちとなり、二人とも、あらかじめ仕込んでおいた血の紙ふぶきを派手に撒きあげて、見栄をきる。大向こう(客席後方)から「よっ、ゆきちゃん!」「ゆっきー、かっくいい!」「ゆっきちゃーん!」「さくらや!」「千両桜!」などと掛け声がかかる。上手寄りの客席からカメラとリポーターが上がってくる。

 

「すごい、めっちゃテンポええやんか!」

「ねえ、このさくらって、あて書きかなあ!?」

 メグリンが尊敬のまなざしで見てくれる。

「でやろ!?」

「原作がさくらになってるよ」

 留美ちゃんが冷静に言う。

 ちょっと残念。まあ、うちはガラやないけどね。

 

 スクロールした最後の一行でビックリした!

 

A班・配役

 ゆき(園城寺ゆき)…………夕陽丘 頼子  さくら(長船さくら)…………百武真鈴

B班・配役  未定

 

 適材適所と早い者勝ちを旨としてプロディユーサーが独断と偏見で決めます。

 文句とやる気のある者は生徒会室まで!

 

「す、すごい!」

「『恋するマネキン』のゴールデンコンビだよ!」

「すごすぎる!」

 

 ちょっと、そこの三人!

 

 気ぃついたら朝のSHR、教壇でペコちゃんが怖い顔してた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・8『コスモスの花ことば』

2022-10-29 06:12:48 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

8『コスモスの花ことば』  

 

 

 その時も二人の顔は至近距離にあった。

 

 観覧車の、わたしたちのゴンドラがテッペンにきたときだった……。

「……オレ達、恋人にならないか!?」

「え……あ……ええ!?」

 この突然には予感があったんだけど、イザとなったら言葉が出ない。

「オレは青山学園、まどかは乃木坂だろ、別れ別れになっちまうしさ……」

「う、うん……」

「だから、この際はっきりと……」

 わたしは「恋人」という言葉で、文化祭のときの、あの感覚がクチビルに蘇ってきてとまどった。

 わたしは、せいぜい「卒業しても、いっしょにいよう。つき合っていこう」ぐらいの言葉しか予感していなかった。

 うつむいて、言葉を探しているうちにゴンドラは地上に着いた。これが他の、もっと大きい大観覧車だったら、わたしも、それなりのリアクションとれたんだけどね……。

 

 観覧車を降りると、なんだかみんなが二人のことを見ているような気がした。

 

 順番待ちをしていたクソガキが「あ、アベック! アベック!」なんて言うもんだから、わたしは大急ぎで、気の利いたつもりで、こう言ってしまった。

「キミの名前と同じくらいでいようよ」

 彼は、わたしから「キミ」などという二人称で呼ばれたことないもんだから、コワバッて聞き返してきた。

「キ、キミの名前って……」

「自分の名前忘れたの?」

「え、ええ……?」

「大久保忠友クン」

 あらためて言っとく、ヤツの名前は大久保忠友。

 ここで、ピンときた人はかなりの歴史大好きさんです。

 そう、ヤツは大久保彦左衛門(天下のご意見番で、江戸っ子ならたいてい、一心太助とセットで知っている)の子孫。彦左衛門の名前は正確には「忠教(ただたか)」で、代々の大久保家では、男の子の名前に「忠」の字がつく。そいでヤツは「忠友(ただとも)」ってわけよ。

 偉い人の子孫に織田信成って元フィギュアースケートの選手がいるのは知ってる?

 信成さんはオチャメな人で、ご先祖の織田信長さんが「鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス」って言ったのをうけて、「鳴かぬなら、それでいいじゃんホトトギス」と言ったとか。ヤツには、そんなウィットがないもんだから「え、ええ……」になっちゃうわけよ。だから、わたしも言わずもがなの解説しちゃったわけ。

「大久保クンは忠友でしょ、タダトモ!」

 これ、なんか携帯のコマーシャルにあったなあと、そのとき頭に……ヤツの頭にも浮かんだみたい。

「それって、テレビのCMでやってたよな……」

「うん」

「ただの友達か、おれたちって……」

「……うん」

「そうか……」

 わたしたちは、意味もなく黙って園内を歩いた。

――そんなシビアな反応しないでよ。わたしはヤツの背中をにらんだ。

「あ、コスモス……」

 植え込みに、遅咲きのコスモスが一輪。

 わたしは機転を利かして、そのコスモスを手折った(われながら、ミヤビヤカだと思ったのだ)

「これ……」

「植え込みの花とっちゃダメだろ」
 
 ……ばか!

「いいじゃん、一つぐらい」

「で、なんだよ。この花?」

「コスモス。家帰って、ネットとかで調べなよ!」

 この唐変木!

 わたしは一輪のコスモスを不器用に持てあましているヤツを置いて、さっさとゲートをくぐり、一人で都電に乗って家に帰った。


 コスモスの花言葉はね「乙女の愛情」なんだぞ……。

 


☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達

 

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せやさかい・355『百武真鈴(田中真央)の企み』

2022-10-28 16:43:04 | ノベル

・355

百武真鈴(田中真央)の企みさくら    

 

 

 百武真鈴、いや田中真央生徒会長の狙いは、こうなんです!

 

 今から、ひと月余りでやっても大半の取り組みは空中分解するか、ショボいもんしかつくられへん。

 それやったら、経験も豊富で、かつ最初で最後の文化祭で熱が入ってる三年生、それもイベントとかに経験のある者が中心に一二年生を引っ張って行ったら、短期間でもええもんが作れる。

 せやさかい、この文化祭を三年生に任せてほしいという要求! いや、提案なんですわ。

「むろん、従前どおり自分のところでやるというクラスまで、節を曲げて参加してほしいということではありません。まだ決まっていない、途方に暮れているクラスがありましたら、この生徒会長田中真央の、この指とーまれ! という訳です。いかがでしょうか、先生方!?」

 この演説をAランク、経験値マックスの女騎士みたいな声でやらはるんですから、外野で聞いてるうちらも惚れ惚れです!

「田中さん」

 教頭先生の後ろから声がかかった。

 教頭先生の後ろはドアになってて、給湯室を挟んで校長室に繋がってる。

 そう、つまり校長先生が出て来はったんです。

「それは、単なる呼びかけだから、許可をとるようなことではないと思いますよ。けして強制にならないよう、無理にならないような取り組みを考えて、できるだけ早く企画書を……」

「はい、それならば、ここにあります、魔王陛下! あ、すみません『異世界大戦』のノリで言ってしまいました(^_^;) 岸田さん、お配りして」

 総理大臣と同じ苗字の書記に命じて、あっという間に先生らだけでなく、廊下で見てたうちらにも企画書のプリントを配ってくれました。

「あ、これ知ってる!」

 企画書を手に取った留美ちゃんが声を上げて、メグリンも「どれどれ(._.)」と覗き込む。

 

 それは『サクラ・ウメ大戦』というクラス劇用の台本で、登場人物は最低13人で、40人くらいには、いくらでも増やせるというスグレモノ。

 劇中に、歌やらダンスやらも入って、それでいて上演時間は20分ほど。

「いい役者が居るようでしたら、ダブルキャストで、二回公演も可能です。ステージが苦手な人は、道具やら音響やらのスタッフの仕事もあります。また、学校の許可が出るようなら、動画で流してみようとも思います」

「う~~ん、まず、台本を読んでみたいかなあ……」

 教頭先生が腕を組む。

「それなら、企画書にQRコードを貼り付けてありますので、スマホでご覧になれます」

 職員室と廊下に居てるものがいっせいにスマホでQRコードを読みはじめる。

 なんか、みんな魔法にかかったみたいで、ちょっと面白い。

 うちの横でスマホを見てる頼子さんは早くも台本を読み始めてガッツポーズ。

 ひょっとしたら、事前にイッチョカミしてたんかもしれへん。

 

 で、六時間目のホームルームが終わるころには全学年から7クラスが田中先輩の企画に乗ることになった。

 むろん、うちらのB組も参加することになりました。

 やっぱり、三年生の情熱と突破力はすごいもんです……というか、田中真央(声優名・百武真鈴)はスゴイ人です。

 聖真理愛学院三年ぶりの文化祭は、がぜん熱をもってきたやおまへんか!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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やくもあやかし物語・160『千両みかん』

2022-10-28 11:16:50 | ライトノベルセレクト

やく物語

160『千両みかん 

 

 

「いえ、文章の文に子どもの子と書いて文子でございます」

「あ、ああ文子さん! あ、ごめんなさい」

「少々珍しい読み方をいたしますので、お間違いになってもしかたありません。両親は町人の娘らしく文と書いて『あや』と付けたのでございますが……」

「あ、あやちゃん、おあやさん、うんうん、普通だよね(^_^;)」

「文左衛門、祖父なのですが。あ、わたしの文は祖父の文左衛門の『文』からきているのですが『文だけではいかにも軽々しい、文の下に一字を付けて堂々とするべきだ』と申しまして『文子』とついた次第でございます」

 なるほど……文左衛門というお祖父ちゃんも、なかなか押し出しの強い人のようだ。

「親は、せめて『あやこ』と柔らかく読ませようとしたのですが『それでは天子様のお姫様のようだ』と反対してブンコと読むようになりました」

 あ、そういえば、うちの居候も親子と書いてチカコだったもんね、チカコどうしてるんだろう……

「しかし、ブンコで良かったと思います」

「そう?」

「はい、紀伊国屋文左衛門の文を頂いたからこそ、このようにミカンの神さまに御守護頂けているのです! 無事に江戸につきますまで、どうぞよろしくお守りいただけますよう、紀伊国屋文子、伏してお願い申し上げます~」

「は、はひ(^△^;)」

 

 ブンコおおお! 風が止んできたあああ!

 

 甲板の方から声がして、文子さんは「ほんとかあ!?」と声を上げて船室を出て行った。わたしも、なんとかバランスをとりながら揺れる船室を出て甲板に出ると、進行方向の雲が切れ始め、みるみる風が収まってきた。

「よーし、帆を上げろ! 今度は風の災いを福に変えて、一気に江戸を目指すぞ!」

「「「「合点!」」」」

 ふんどし一丁のおじさんたちが、いっせいにキビキビ動き出して、あっと言う間に〇の中に紀と染め上げた帆を張って、船はグングンと速度を上げていった。

 

「これも、神さまのおかげでございます!」

 

 江戸の港で無事に積み荷のミカンを下ろすと、文子さんはじめ乗り組みのおじさんたちが平伏した。

「いえ、そんな(^_^;)。みなさんの腕が良かったから乗り切れたんです、みなさん大したものです!」

「いえいえ、これで、文左衛門祖父ちゃんの跡を継げます、ほんとうにありがとうございました!」

「アハハ、喜んでいただけたら何よりです」

「ようがしたねぇ、これで、ブンちゃん……文子さんも、やっと一人前の紀伊国屋の跡取りだ! ほんとうによかった!」

 年かさのおじさんが、涙を流して喜んでる。

「ありがとう、みんな! 血のつながらない孫だけど、やっと面目が立ったよ!」

 え、文子さん、血のつながりがなかったの?

「赤ん坊を拾われてきた時は『お寺にでも預けちまいなさい』と言っていたところを、親方は『この子には福相がある、神さまの授かりものだよ』っていって、子どものねえ若旦那夫婦の子になさった。まさに、その通りになりやした!」

「うんうん、みんなありがとう。そうだ、神さまにお礼をしなくっちゃ!」

「文子さーん、売り上げの金が届きやしたああ!」

 船べりから外を見ると、千両箱を積んだ荷車が浜についている。

「しめて五千両か! 思った以上に高値で売れたねえ、とりあえず一箱持って上がっとくれ」

「へい!」

 ドサ

 重厚な音をさせて千両箱が置かれた。

「神さま、せめてものお賽銭です。千両お受け取り下さい」

「え!? いえ、そんな!」

「きちんとお礼をしないと、祖父、文左衛門の名も汚してしまいます。どうぞお納めを」

「え、あ、だって……」

「どうぞ!」

「そ、それじゃあ、おミカンいただいていきますぅ!」

 まだ積み下ろしていないミカンを両手に一個ずつ持つと……目が覚めた。

 

 突っ伏した机の上には、夢で掴んだミカンが二つ載っていたよ。 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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せやさかい・354『文化祭が決まれへん!』

2022-10-27 14:55:19 | ノベル

・354

文化祭が決まれへん!さくら    

 

 

 文化祭の取り組みが遅れてる。

 

 うちのクラスだけやなくって、学校全体が遅れてる。

 なんでかっちゅうと、コロナですわ。

 外国人旅行者への規制もほぼなくなってインバウンド(中身に凝ったバウンドケーキみたい(^O^))もコロナ前に回復し始めてんねんけども、相変わらずテレビとかでは『本日の感染者数』を発表してて、『第八波の流行が危ぶまれる!』とかワイドショーで煽ってるんで、先生やら理事やらPTAの一部なんかが二の足、三の足ですねんわ!

 先生 理事 PTAの偉いさん……共通点は、みんな年寄り! 年寄りはテレビのワイドショーばっかり見てるからね。

 それで二の足、三の足。

 年度初めの行事予定では10月の15日、16日やったんやけど、ズルズル遅れて11月の23日、一日だけの開催。

 中止の声も大きかったんやけど、三年生は入学以来一回も文化祭を経験してへん。

 その三年生からの強い要望やら、OBからの声援やら、近隣の実施状況やらを鑑みて、やっと実施のみこみ。

 せやけど、一年生は、ちょっと冷めてきてます。

 クラスでも、ペコちゃんが取り組みのアンケートをとってHRを盛り上げようとしたんやけど、どうも盛り上がれへん。

 アンケートでは、たこ焼き屋とかクレープ屋とかの模擬店が半分以上やったんやけど、いざ、話し合いをすると熱が無い。飲食店は、調理に関わる者は検便せならあかんというのが分かると、さらに熱が下がる。

「う~~ん、もう一つ議論が深まってこないわねえ……(^_^;)」

 ペコちゃんは、この三月までは安泰中学で、うちらの担任やってたさかい、生徒の事がよう分かってる。

 この状態で決めたら空中分解して悲惨な状況になるのん分かってるねんわ。

 ペコちゃん、舞台で合唱するという腹案を持ってるらしいねんけど、担任が押し付けるようなことはしたくない。

 それに、あんまり盛り上がれへんことは、口に出してこそ言わへんけど、ペコちゃんにもうちらにも予想はつきます。

 三年ぶりの文化祭、やっぱり熱の高いもんやりたいです。

 

「ねえ、ちょっと様子を見に行こうよ」

 

 留美ちゃんの提案で、昼休、職員室にメグリンも居れて三人でペコちゃんを訪ねることにしました。

「失礼しま……」

 職員室に入って、ペコちゃんの席を見ると、聖真理愛学院の重鎮が一二年生の先生らに熱く語りかけてるのが目に飛び込んできた!

「我儘なことを言っているのは百も承知です。でも、このままでは文化祭の取り組みの大方は空中分解してしまいます。われわれ三年生には最初で最後の文化祭になります。どうか、取り組みが未定のクラスがありましたら、三年生有志学級と合同の取り組みにご協力ください!」

 まるで、ラスボスの魔王を倒すのにギルドで仲間を募ってる女騎士長!

 というか、その声はまさに今春一番人気アニメやった『異世界大戦』のヒロイン、シャルロッテ・ヒンデンブルグ。その前は『恋するマネキン』でヒロイン、マネキとネキンの声を一人でこなした声優生徒会長の百武真鈴こと田中真央!

 声は、もともとスゴイとこへもってきて、120%の闘志がみなぎってて、これに賛同せえへんやつは、よっぽどの悪党か玉無しのヘタレという感じ。

「全体像を一分で示します、これをご覧ください」

 生徒会書記の眼鏡っ子が、国会中継の野党議員みたいに大型のフリップを掲げた。

 その声と手際の良さに、先生らのほとんどが視線を向け、わたしの肩には手が置かれた。

「え?」

 振り返ると、我らが姫騎士、頼子先輩がガードのソフィーを引き連れて立ってる!

 まるで、勇者を見送りにお城から出てきたお姫様みたいやったやおまへんか!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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宇宙戦艦三笠2[黎明の時・2]

2022-10-27 06:44:13 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

2[黎明の時・2]   

 

 なかなか寝付けなかった。

 潰した当事者が言うのもなんだけど、ブンケンは学校での唯一の居場所だった。

 と言っても、ブンケン以外でシカトされたり、学校そのものが嫌になっていたわけじゃない。一年生のトシを除いて樟葉も天音も横須賀国際高校の生徒としてはテキトーに順応して立ち回っている、むろん俺もな。

 でも、なんちゅうか、本音で付き合えたのはブンケンの仲間だけ。でも、そのことをブンケン同士で言うのは気恥ずかしくって言ったことは無い。フランクに生きているようでも、高校生というのはめんどくせえもんだよな。

 ブンケン(横須賀文化研究部)という地味なクラブは元来が横須賀を舞台にしたRPGの聖地巡礼のオタクが集まってできたクラブだけあって、仲間内の結びつきは強かった。

 オレたちが入部したころ、NHKの『坂の上の雲』がネット配信で何度目かのブームになっていた。聖地巡礼みたいに戦艦三笠やロケ地を巡って部活のホームページに上げたり、SNSで動画をアップしたり、イベントなんかは実況したり。広告料やスパチャも少しはあったりして、部活の機材を揃えたり取材費に使えたりして充実していた。

 でも高校生の悲しさ、半年もやると横須賀ネタが途切れてきた。調べると横須賀ネタは『坂の上の雲』の他は『つ〇きす』とかがあるんだけど、R指定なんで取り上げるわけにもいかない。純粋に自衛隊や米軍がらみのネタは歴史にしろリアルにしろ、ブンケンでは及びもつかないオタクや大人の人ばかりで太刀打ちできない。

 それで頭を巡らせると、隣接する横浜や湘南を舞台にした映画やドラマやアニメはいくらでもあることに気付く。それで、放課後や休日に足を伸ばしてネタを仕込むんだけど、やはりニワカがアクセス稼ぎにでっち上げても、そうそうアタリをとれるもんじゃない。

「まあ、資金も少しはできたし、あとは君たちでがんばんなよ」
「うんうん、自分でやってこその部活だからね」

 三年生の広瀬先輩、杉野先輩に励まされて、なんとか頑張ってきたけど。目立った成果もあげられず、部活の最低要件である――部員五人以上――も割ってしまって部室を明け渡すことになってしまった。

 

 トシ

 

 トシは、この春、たった一人の新入部員として入ってきた。

 でも、一学期の終わりごろから不登校になっちまって、二学期になったら……という願いも虚しく、本物の引きこもりになっちまった。何度か家まで行ったけど、会うことさえできなかった。校門前で解散の一本締めをやったとき電柱三つ分先に来れたのはトシにしては上出来。

 三人の結びつきは……正直ただの「同級生」になってしまいそうだな。天音も樟葉もわけもなく群れるのは良しとしないタイプだ。

 寝られないままパソコンを点けた。立ち上がると習慣でブンケンのアイコンをクリックしてしまう。

 あ……そうか。

 削除したので何も出てこない。

「天音と同じことやってどーすんだよ……」

 樟葉か天音とチャットとも思ったけど、午前0時半という時間を考えれば気が引ける。それに、こういう傷の舐めあいみたいなことは樟葉は苦手だし天音は嫌いだしな。

 もう切ろう……そう思った時、画面に『後ろを見て』という文字が浮かび上がった。


 え……なんだろう?


 振り返ると……セーラー服にお下げという古典的な女生徒が、オレのベッドにハニカミながら座っていた。

「ども……」

「だれ……?」

「えー……神さまだったり……します(*´∀`*)」

「か、神さま!?」

「あ、一応って枕詞がつくけどね(^_^;)」

 ハニカミながら、でも、どこか真剣な眼差しは、ジブリの『コクリコ坂から』に出てくるメルに似ている。

 スーーーー

 その子は座った姿勢のままオレの傍に寄ってきた……つまり座ったまま宙に浮いている。

「え……神さまが、なんの用……っすか?」

「宇宙戦艦三笠に乗ってもらえないかしら?」

「……は?」

「うん(^_^;)」 

 とたんに周りのものの存在が希薄になり、すぐに真っ白になったかと思うと急に椅子の存在が無くなり、20センチほど自由落下した。 

 わ!? 

 腹にズンときて落ちたところは、革張りのソフアーの上だった。

 テーブルを挟んで右側に樟葉と天音。左側にはトシが居る。

 で、二秒ほどして気づいた。天音が素っ裸。

 で、次の瞬間天音の悲鳴が、世界中の熟睡者を起こすぐらいに響き渡った……。


 キャーーーーーーーーー!!

 


☆ 主な登場人物

 修一      横須賀国際高校二年
 樟葉      横須賀国際高校二年
 天音      横須賀国際高校二年
 トシ      横須賀国際高校一年

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・7『スマホ片手に悶々』

2022-10-27 06:20:53 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

7『スマホ片手に悶々』  

 

 

 寝床でスマホを手に悶々(もんもん)としている。

 

 悶々って「もだえ苦しむ」って意味だけど、もだえてはいなっかった。じっと仰向けになってスマホとにらめっこ。でも心はもだえていた……でもって、ラノベくらいしか読まないわたしのボキャブラリーでは、この表現が精一杯。

 なにを悶々としていたかというと……観客動員ですよ。

 コンクールの観客って、手の空いた出場校や、出演者の友達、家族、その程度。まちがってもコンビニでチケ買ったり、ネットで予約してくるお客さんなんかいないんだ。

 だいたい、入場料そのものとらないんだもん。とったら、それこそ誰も来なくなる。甲子園の「高校野球大会」はアルプス自由席でも五百円の入場料をとっている。高校生のお芝居だって、三百円くらいはとってもいいんじゃないかと、乃木坂で演劇部やってると思うんだけど(それだけ、プライドと自信はある)

 でも、他の学校は、ひどいのになると学芸会。とても、お金とって他人様にお見せはできません。

 それと、入場料とると、既成脚本の場合、上演料が一万円を超えちゃう。

 なによりも入場料とっちゃうと、劇中で使う音楽や効果音の使用に著作権というヤヤコシイ問題がおこってくる。無料であるからこそJASURACも「曲や歌詞に改変を加えない限り、使用許可も、使用料もいらない」ってことになっている。

 じゃあ、乃木坂の看板で観客……せいぜい百人くらいしか集まらない。
 フェリペのキャパは四百。ちょっとキビシイ。

 で、マリ先生のご命令で、一ヶ月も前から各自観客動員に力を入れている。
 わたしも主だった友達なんかにはメールを送りまくった。

 でも、リハの夜になってもメールを送りかねているヤツが一人……。


 わたしのモトカレ、大久保忠友……。


 アイツとは、去年の秋、あらかわ遊園でデートして以来会っていない……。

 受験をひかえた去年の秋、久々に「デートしようぜ」ってことになり、互いにガキンチョのころからお馴染みのあらかわ遊園。

 都電「荒川区役所前」から、九つ目があらかわ遊園前。お互い小学校の遠足で来て以来。ガキンチョに戻ったようにはしゃいでいた。都電の中でも、遊園地の中でも。
 互いに意識していたんだ、このデートが特別なものになる予感……それが嬉しくって、怖くって、はしゃいでいた。

 カレとは、中二のときに同じクラスになり、いっしょに学級委員をやったのが縁。

 二人ともお祭り騒ぎが大好きだったんで、クラスのイベントは二人で企画して意気投合。

 意識したのは、文化祭の取り組みで一等賞をとったとき。

 実行副委員長をやっていたはるかちゃんが表彰状を読み上げてくれた。実行委員長の山本って先輩が、閉会式の直前に足をくじいて保健室に担ぎ込まれていたので、はるかちゃんが代読。

「……よって、これを表します。南千住中学文化祭実行委員長 山本純一。代読五代はるか。おめでとう……」

 幼なじみの顔になって、はるかちゃんが表彰状を渡そうとしたとき、突然いたずらな風が吹いてきて、表彰状が朝礼台の前で舞い上がってしまった。

「「あ、ああ……!」」

 慌てたカレとわたしは、表彰状を追いかけてキャッチ……そして、お互いもキャッチ……つまりね(思い出しても顔が赤くなる)偶然ハグ……ってか、モロ抱き合っってしまった(#´ω`#)。

 それも、なんという運命のいたずら。互いのクチビルが重なってしまったんだ!

 わたしにとって……多分アイツにとっても、ファーストキスは何百人という生徒と先生たちの公衆の面前で行わてしまったんだ((;'∀'))よね!


☆ 主な登場人物

仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問

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銀河太平記・130『件の露頭でシゲさんと再会』

2022-10-26 16:39:48 | 小説4

・130

『件の露頭でシゲさんと再会』心子内親王  

 

 

 火星には二十幾つの国があって、その全てが地球の国々にルーツがある。

 元をただせば、地球の国々の植民地や入植地だったところが発展して国になったからだと中学部で習った。

 扶桑は日本 マス漢は漢明(中国) 連合国はアメリカ という感じ。

 高等部では――国連(第三次国連)の精神で火星政府を作っていれば無駄な戦争などしなくて済んだ!――と、世界史の先生が息巻いていた。

 先生の言う通り、火星では二度の大戦争が起こり、直近のマース戦争では大勢の犠牲者が出た。

 わたしの立場から先生に反論するわけにはいかなかったけど、違うと思う。

 地球でも二十年前の満州戦争を始め、紛争や戦争が絶えない。けして火星の見本になれるようなものじゃないと思う。

 先生たちだって、組合が三つもあって、去年は内ゲバで若い先生たちに負傷者まで出ている。

 バカなマスコミが、たまたま東京駅で出くわしたシゲさん(森ノ宮茂仁親王)にインタビューした。

『若いころに左翼闘争に走らない人は情熱が足りないでしょ』

 皇族らしからぬ答えを引き出して、マスコミはシゲさんを、進歩的皇族だと賞賛した。シゲさんは――ピュアな情熱があるからこそ殴り合いにもなるんでしょう――と笑顔で感想を締めくくった。

 なんて答えをするんだ! 正直ビックリしたわ。

 でもね、伯母さんはニヤニヤして、こう教えてくれた。

『それは、チャーチルの言葉をもじってるのよ。チャーチルのその言葉には後半があってね「大人になって左翼から抜けられない奴は知恵が足りない」って続くのよ』

 いやはや、一筋縄ではいかない人なんだと感心したわ。

 

「この岩の向こうが現場のようでござる」

 ナビをインストールしたサンパチさんの案内で、いよいよ現場は目前。

「御城下では分からなかったけど、扶桑の国も、この辺りまで来ると荒涼としているわね」

 火星では、雑草でさえ人が面倒をみてやらなければ生えることが無い。

 府道を外れて二キロあまり、人工的な草原もまばらになって、この先は人類未踏の頃の火星と変わりがないらしい。

 

 あれ?

 

 岩を周ってすぐに件の露頭は見えてきたんだけど、ハンベのナビが示すそこには先客が跪いていた。

 ささやかだけど、お花を捧げて、お線香の煙が立っている。

「先客のようでござるな」

「ちょっと待っていましょうか」

 声が届く距離じゃないんだけど、その人は、ちょうどのタイミングで立ち上がった。

 

 え……シゲさん!?

 

 たったいま、思い出していたシゲさん本人がリアルに居るのでビックリしてしまった!

「あ……いやあ! キミは、ココちゃんではないですか!」

 シゲさんも、わたしに気が付いて、ドスドスト走ってきた。

「ビックリした! シゲさん、火星にいたんですね!?」

「そっちこそ、西之島に住み着いたって、それで、沖縄に用事で行って事故に遭ったとか、僕は信じていなかったけど」

「シゲさんこそ、伯母さんが心配してましたよ」

「え、陛下が……」

 やっぱり、伯母さんのことになると、この人は真顔になる。

「また、なにか悪だくみしてるんじゃないかって」

「あ、あはは、御即位の前は、陛下にも悪戯しましたからねえ(^_^;) あれこれ落ち着いたらお知らせするつもりではいたんです。こちらの美少女は?」

「西之島で同じラボに居たサンパチさんです」

「これはこれは(#⊙ꇴ⊙#)」

「シゲさん、目つきがあぶない(^_^;)」

「西之島の住人サンパチでござる」

「え(?△?)」

 見た目とのギャップにビックリするシゲさん。

「汎用作業機械でござる。人でもロボットでもござらぬのでご承知おきを」

「はあ、こちらこそ、ココちゃんの親類の茂仁です」

 サンパチさんはロボットのように並列化されていないので、島外の人はネットで繋がっていないハンベを見るような、自分の敷地からは外に出ない車を見るような奇妙な感じがするらしい。

「シゲさんも、お参りに来たんですか?」

「うん、あれを発見したのは僕なんでね、毎月発見した日にはお線香をあげにくるんだ」

「発見者はシゲさんだったんですか!?」

「まあね、公式には旅行者が発見したことになっている。僕が火星に居ることは内緒だからね」

「わたしと一緒ね」

「まあ、今のところは深く考えないことにしている」

「ですね」

「それよりも、ココちゃん、さっきの速報は見た?」

「あ、そう言えば、ハンベが速報のアラーム……」

 自分のハンベを見る前にシゲさんが、すごいことを言った。

「日本と漢明国が戦争になっちゃったね……」

「え!?」

 起動したハンベは、西之島を巡って日漢の紛争が起こったことを知らせていた……。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

   

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