大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・153『だけじゃん言うな』

2021-01-26 09:14:46 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)153

『だけじゃん言うな』 啓介    

 

 

 運命って、あいまいなもんだと思う。

 

 俺の親父は二人姉弟の長男だ。

 親父の父親、つまり祖父さんは寅さん風に言うと職工で、カミさんと子供二人を養っていくのがやっとだった。

 親父は、この爺さんと婆さんの二番目の子どもで、上が女なんで、長男と言うことだ。

 長男だから、貧しいところをオッツカッツで、なんとか大学まで出してもらった。そして、大学を出て働いた職場でお袋と出会って結婚して俺が生まれた。

 実は、親父の姉、つまり伯母さんの上にもう一人いた。

 男の子だ。

 七カ月の早産で生後三十分で死んでしまった。

 もし、この男の子が早産でなくて、ふつうに十月十日(とつきとおか)で生まれていたら、親父は生まれてこなかった。

 爺さんは三人も子どもを育てる余裕は無かったから、親父のあとにできた子供は始末している。つまり婆さんと相談して堕ろしちまった。上の男の子が生まれていたら、親父は三番目なんで、始末されていたってことだ。

 上の男の子が早産になったのは、洗濯物を干そうとして躓いたせいなんだ。だから、婆さんが躓かなければ、普通に生まれていたはずだ。そして、親父は妊娠三カ月くらいで堕されている。

 親父が生まれてこなければ、あたりまえだけど、俺が生まれてくることは無かった。

 ひょっとしたらさ、俺の息子とか孫あたりが総理大臣とか偉い学者とかになって、日本や世界の危機を救うってことがあるかもしれない。いや、救うんだ!

 そのためには、俺の親父が生まれなければならないわけで、ひょっとして、未来から密命を帯びた工作員とかがタイムリープしてきて、洗濯物を干そうとしていた婆さんを転ばせたんじゃないかなあ?

 婆さんは、そそっかしい人だった。呼び鈴が鳴ったりすると、狭い家の中でもドタドタ走って玄関に急ぐ人だった。じっさい、七十三の歳に、これで大腿骨折をやってる。

 俺が千歳にコクらなかったのも、こんな偶然、いや、未来からやってきた工作員のせいかも知れない。

 中庭で千歳に出会って、あと一呼吸したらコクっていた。

 コクらなかったのは視線を感じたからだ。

 本館四階の生徒会倉庫から生徒会長の瀬戸内先輩が見ていたのは気づいていた。瀬戸内先輩は部室移転問題からの腐れ縁だから、そうは気にならない。目にしたからって、口笛拭いてヒューヒューからかうような人じゃねえからな。

 実は、中庭の向こう、渡り廊下の下から「プッ(* ´艸`)」って笑う奴がいた。

 反射的に目をやると、一瞬目が合った一年の女子が、口押さえて逃げ去っていくところだった。

 きっと、奴は未来世界の工作員だ。

 で、千歳のことは、それっきりになってしまった……。

 ドン!

「なに妄想の世界に入ってんのよ!」

 ミリーが、背中をドヤしつけて俺の前に座った。

「な、なんだよ、勝手に妄想とかあり得ねえし」

「ちょっと相談なんだけど、クラブで調理実習とかやってみない?」

「調理実習ぅ?」

「うさんくさそうな顔しないでよ、ちょっとした縁で調理実習することになったのよ」

「うちは演劇部だぞ」

「看板だけじゃん」

「だけじゃん言うな」

「ちょっと、面白いってゆうか、運命なのよ……」

 なんだか、新しい運命が開けてしまう……。

 

 主な登場人物

  •  小山内 啓介      二年生 演劇部部長 
  •  沢村  千歳      一年生 空堀高校を辞めるために入部した
  •  ミリー・オーウェン   二年生 啓介と同じクラス アメリカからの交換留学生
  •  松井  須磨      三年生(ただし、六回目の)
  •  瀬戸内 美晴      二年生 生徒会副会長
  •  姫田  姫乃      姫ちゃん先生 啓介とミリーの担任
  •  朝倉  佐和      演劇部顧問 空堀の卒業生で須磨と同級だった新任先生

☆ このセクションの人物 

  • 杉本先生
  • Sさん
  • 蜂須賀小鈴
  • 蜂須賀小七

 

 

 

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オフステージ・152『家庭科クラブの謎・3』

2021-01-19 07:29:52 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)152

『家庭科クラブの謎・3』 ミリー    

 

 

 明治時代に、こんな事があったんだ……

 手を温めるようにして湯呑を抱えて、蜂須賀くんは続ける。

 ちょっと年寄りじみてるんだけど、こういうシミジミ感はタナカのお婆ちゃんに通じるものが合って好きだよ。

「五代前のお祖父ちゃんが、明治天皇に呼ばれて宮中に参内したときのことなんだけどね、あ、宮中とか参内とか分かる?」

「うん、パレスに呼ばれたってことだよね」

「それで、明治天皇の居間みたいなところで、気楽に昔話とかしてたんだ。明治天皇は人と話すのが好きで、お暇な時には、いろんな人を呼んでお話になっていた」

 わたしも、湯呑を抱えてくつろいでしまう。

「そのうちに、明治天皇が御用で席を外したんだ。テーブルの上には来客用にたばこのケースが置いてあるんだけど、宮中のたばこって、たいして高級じゃないんだけど、一本一本に菊の御紋が付いていてね、それが世間ではありがたがられたんだ」

「ああ『恩賜のタバコ』とか言うんだよね」

「古いこと知ってるねえ」

「うん、実家の隣に日系のお婆ちゃんが居てね、いろいろ聞いてるから」

「五代前のお祖父ちゃんは、そのケースから半分ほどとってポケットに入れたんだよ。家に持って帰って、みんなを喜ばせたかったんだね」

「それで?」

 二人、同じタイミングでお茶をすすって、話が続く。

「御用の済んだ明治天皇は、たばこのケースに気が付いてね『蜂須賀、先祖はあらそえんのう』と笑われた」

「あはは、いい話ね」

「そうなんだけどね、五代前のお祖父ちゃんは真っ赤になって恐縮して、でも、タバコは返さない」

「先回りして悪いけど、その話、聞いた事がある」

「ええ?」

「気にした蜂須賀さんは、大学の先生たちに頼んでご先祖様の事を調べさせたんだよね」

「そうそう、初代の蜂須賀小六は夜盗だって、講談とかでは常識だったからね」

「太閤記とかでも、小六がひと稼ぎした後、手下を連れてヤハギブリッジを渡ってるところで少年時代の秀吉に出会ったって」

「うん、そうそう。その当時は、まだ矢作橋は無かったとか、依頼を受けた先生たちは調べたんだ。でもね、数年調べた結果、やっぱり夜盗だったって結論になって」

「わたし、好きだよ、この話。大学の先生たちも、雇われた立場なのに、きちんと正しい答えを出すし。蜂須賀さんも残念には思うけど、怒ったりしないしね」

「うん、世間も明治天皇も、そういう蜂須賀家を『正直だ』『可愛い』って肯定的に捉えて面白がってくれた」

「いい話だと思うわよ、わたしも田中のお婆ちゃんに聞いてホッコリしたもん」

「うん、でもね、蜂須賀の家じゃ、ちょっと気にしていてね『我が子孫は、この恥辱をすすぐために、それぞれの道を究めよ』ということになって、みんな偉い軍人やら実業家や学者やらになったんだ。それで、蜂須賀の分家の分家にあたる我が家じゃ料理で身を立てるって、五代前のお祖父ちゃんに誓ったんだ」

「へ、へえ、そうなんだ……」

 明治時代の、日本人の律義さを現わしたエピソードだと思っていたんだけど、目の前の同学年生が畏まってしまうと、思わず居住まいを正してしまう。

「それで、分家の分家として励んだんだけどね……それからは、日露戦争、関東大震災、昭和恐慌、大東亜戦争と続いて、戦後は食べることさえ大変で、けっきょく、親父の代になっても実現できなかった。それで、六代目にあたる僕が実現しなくちゃならない……」

 そこまで言うと、蜂須賀くんはホッと照れ笑いして湯呑を置いた。

「それで、家庭科クラブに……」

「うん、小鈴は面白がってるだけだけどね。杉本先生の家も、この駄菓子屋も昔は蜂須賀家の家臣の家系でね、その……協力してくれているんだ」

 なるほど……面白くって……ちょっと重たい話だった。

 

☆ 主な登場人物

  •  小山内 啓介      二年生 演劇部部長 
  •  沢村  千歳      一年生 空堀高校を辞めるために入部した
  •  ミリー・オーウェン   二年生 啓介と同じクラス アメリカからの交換留学生
  •  松井  須磨      三年生(ただし、六回目の)
  •  瀬戸内 美晴      二年生 生徒会副会長
  •  姫田  姫乃      姫ちゃん先生 啓介とミリーの担任
  •  朝倉  佐和      演劇部顧問 空堀の卒業生で須磨と同級だった新任先生

☆ このセクションの人物 

  • 杉本先生
  • Sさん
  • 蜂須賀小鈴
  • 蜂須賀小七
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オフステージ・151『家庭科クラブの謎・2』

2021-01-10 14:28:20 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)151

『家庭科クラブの謎・2』 ミリー    

 

 

 外で話そう。     

 そう言うと蜂須賀小七くんは、通学カバンを持ったわたしを先導した。       

 校門を出て、普通なら地下鉄の駅を目指して商店街を東に向かう。

 商店街は東に向かって上り坂になってるんだけども、下校の開放感があるので、僅かだけども楽園に向かっているような趣があるのよ。アーケードの向こうには、上り坂だから青空が広がっていたりするしね。その青空に、ポッカリ雲なんかが浮いていると、まさに『坂の上の雲』って感じで、人生を前向きに考えようというような雰囲気になる。

 登校するときは、逆に下り道になっている商店街に突っ込む。下りになってるから微妙に勢いが付く。下り坂だから勢いがついて、平地になっているよりも数十秒速くなる。人によっては一分くらい早く学校に着く。このことが空堀高校の生徒の心を明るくしている。

 なんだか屁理屈めいているけど、去年転勤した生活指導の先生が言っていたことで、いつもは忘れている。

 それを思い出したのは、小七くんが、商店街を西に下り始めたから。

 西に下るのは初めて。

 少しだけれど、気が進まない。なんで? 自問したら、いま言った生指の先生の言葉を思い出した。

「ここだよ」

 小七くんが指差したのは、平成どころか昭和の、それも、わたしの母国であるアメリカとの戦争も始まっていないころの昭和かという佇まいの駄菓子屋さん。

「おばちゃん、奥借りるね」

「いやあ、若ぼん、お久しぶり」

 おばちゃんは、そう言うと、百均で売っていそうなミニチュアのレジカゴを渡してくれる。

「あ、えと」

「おもてなしはしてくれないから、セルフサービス。好きな駄菓子を入れて持っていくんだ」

「え、いいの?」

「若ぼんの言わはる通り、遠慮のう……言うても、そないは入らへんけど(^▽^)」

「はい、じゃあ」

 小七くんの真似をして、三つほど入れる。

 ノレンカーテンを潜って奥に進むと、小さくてかわいい庭を横目に見るところで靴を脱ぐ。廊下を進んだところの六畳ほどの和室に入る。和室の向こうにも小さな庭があって、空堀商店街とは思えないくらいの静寂な空間になっている。

 僕の家は蜂須賀っていうんだけど、聞いたことある?

 お茶を淹れながら小七くんが問いかけてくる。

 シカゴに居たころから井上のおばあちゃんの話を聞いたり、本を借りたりして並みの高校生よりは知識がある。ちょこっとだけだけどね。ヨシカワエイジとかヤマオカソウハチとかシバリョウタロウとかね。

「えと、戦国時代の大名だよね、ヤハギブリッジで少年のころの豊臣秀吉と出会って、出世していくんだよね」

「正解。さすがはミリー、よく知ってるね」

「え、あ、うん……」

 正解と言いながら、小七くんの顔は冴えない。

 二つの湯飲みに交互に急須のお茶を淹れ、最後の一滴を絞るように急須を上下させ、お茶のお点前のように湯呑を差し出してから、小七くんは後を続けた。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  小山内 啓介      二年生 演劇部部長 
  •  沢村  千歳      一年生 空堀高校を辞めるために入部した
  •  ミリー・オーウェン   二年生 啓介と同じクラス アメリカからの交換留学生
  •  松井  須磨      三年生(ただし、六回目の)
  •  瀬戸内 美晴      二年生 生徒会副会長
  •  姫田  姫乃      姫ちゃん先生 啓介とミリーの担任
  •  朝倉  佐和      演劇部顧問 空堀の卒業生で須磨と同級だった新任先生

 

☆ このセクションの人物 

  • 杉本先生
  • Sさん
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  • 蜂須賀小七

 

 

 

 

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オフステージ・150『家庭科クラブの謎・1』

2021-01-02 12:01:44 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)150

『家庭科クラブの謎・1』 ミリー    

 

 

―― 家庭科クラブ 家庭科クラブの部員は直ぐに家庭科準備室に集合しなさい ――

 

 NHKに女子アナウンサー部というのがあって、そこに、NHKの会長から懇願されて定年を五年も過ぎて現役で女子アナウンス部の部長がいたらこんな風だという感じで杉本先生はアナウンスした。

 待つこと15秒ほどで最初の「失礼します!」の声があって、その後1分以内に七人の部員が集まった。

 学年章で二年が二人と一年が五人と分かる。男は二年の男子が一人で、あとは全員女子。

「演劇部のミリーと一年のSさんが、たくさんお弁当作ってきてくれたから、勉強のため、みんなでいただきましょう」

 え、さすがに十人で食べる量じゃないんだけど。

 おなじ思いなんだろう、家庭科クラブのメンバーも戸惑ったように顔を見かわしている。

「大丈夫よ、わたしの試作品も用意してあるから、調理室の方にいきましょ(^▽^)/」

 先生が準備室と調理室の間のドアを示す。

「あ、先生」

「なに?」

 振り向いた杉本先生は笑顔なんだけど目が怖い。大河ドラマで見た徳川家康の顔を思い出した。

「お昼済ませてきちゃって……」

「野球部のマネージャーの打合せが……」

「テニス部のコート整備が……」

「吹部の楽器の……」

「美術部の……」

 一年は、みんな他の部活とかけもちのようだ。

「あ、そ……無理を言ったわね。二年は大丈夫よね?」

「「は、はい!」」

「じゃ、一年はいいわ。あとでテイクアウトのパックにしてあげるから、五時間目が始まるまでに取りに来てくれる」

「あ、始業ギリギリになるかもしれません」

「ぼくたちが届けますよ」

「先輩、そんな……」

「放課後に跨ったら忘れるかもしれないし、先生もずっと待ってなきゃいけないから」

「そうね、じゃ、そうして」

「「「「「はい! ありがとうございます!」」」」」

 明るく返事して、それより大きな声で「「「「「失礼します!」」」」」を合唱して消えてしまった。

 調理室に入ると、二つのテーブルに五人分に分けて昼食の準備がされていた。

 片方のテーブルにはテイクアウト用のパックが真ん中に置かれていて、どうやら杉本先生は一年生の反応をあらかじめ予感していた感じがする。

「じゃ、お味噌汁いれて、五人でいただきましょう」

「はい!」

 空気に飲まれたのかSさんが大きな声で返事をする。

 煮物と揚げ物とサラダということしか分からないけど、先生が用意したものは、そのままデパートの食堂に出せるくらいのクオリティに見える。

「じゃ、二人のは真ん中に置いて、取り皿で分けましょう……あ、そうそう、二人を紹介しておくわね」

 二年の家庭科クラブに視線を送ると、いったん座った席から立って自己紹介してくれる。

「家庭科クラブ部長をやってます、二年の蜂須賀小鈴(こりん)です」

「えと、副部長の蜂須賀小七(こしち)。よろしく」

 え、苗字いっしょ、名前も似てる。

「二人は従兄妹同士なの、日ごろは下の名前でいいわよ」

「は、はあ」

「じゃ、いただきましょうか」

 なんかありそうな家庭科クラブなんだけど、初対面だし、雰囲気も変だし、質問もできないまま昼食会が始まる。

 質問できなかったのには、もう一つ理由があるのよ。

 わたしとSさんのお弁当も美味しかったけど、杉本先生が作ったのは見かけ以上の美味しさで、色気よりも食い気の女子高生は、ごちそうさまを言うまで食べることに専念してしまったからね。

 そのあと、ごちそうさまをして、わたしとSさんも手伝ってテイクアウトの配達に向かたよ。

「なんか変でしたね……」

 預かった二人分を届けてSさんがこぼす。

 たしかに、もらった一年生は「ありがとうございます」とお礼は言うんだけども、気持ちの底に迷惑そうな感じがしたのよ。

 でも、こういう謎めいたことが好きなようで、Sさんが少し元気を取り戻したのは嬉しいよ。

 そして、家庭科クラブの謎は、放課後再会した蜂須賀小七君が教えてくれた。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  小山内 啓介      二年生 演劇部部長 
  •  沢村  千歳      一年生 空堀高校を辞めるために入部した
  •  ミリー・オーウェン   二年生 啓介と同じクラス アメリカからの交換留学生
  •  松井  須磨      三年生(ただし、六回目の)
  •  瀬戸内 美晴      二年生 生徒会副会長
  •  姫田  姫乃      姫ちゃん先生 啓介とミリーの担任
  •  朝倉  佐和      演劇部顧問 空堀の卒業生で須磨と同級だった新任先生

 

☆ このセクションの人物 

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オフステージ・149『ミリーの頼まれごと・5』

2020-12-27 10:44:10 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)149

『ミリーの頼まれごと・5』ミリー    

 

 

 大食いアニメキャラが好き!

 

 そんなにたくさんアニメを観ているわけじゃないけど、アニメの大食いは観ているだけで幸せになるよ。

 イチオシは『ガルパン』の五十鈴華。

 華道の家元の娘で、四号のあんこうチームの中では一番の正統派美少女。

 車内の配置は砲手。数々の戦いで大洗女子高校を勝利に導いた西住みほの指揮も彼女の射撃力あったればこそ。

 最初は気づかないんだけども、繰り返し観ているうちに、食事シーンでの、彼女の盛りのすごさにはビックリよ。丼物でも揚げ物でも定食のご飯の量でも、他のキャラの五倍はある。

 『けいおん』の天然キャラのムギちゃんもビックリするくらい多い。のほほんしたお嬢様キャラが大食いなのは、見ていて、とても癒される。

 アメリカ人はデブであることは非難もするし、自己嫌悪であったりもするんだけど、大食いコンテストは大好き。ホットドッグとかハンバーガーとかジャンキーなのをバカバカ食べているのは愉快になる。

 わたしがトランプさんを好きになったのも、ハンバーガーにケチャップをドバドバかけて食べるのを見たからで、彼が大統領として、どんな仕事をしたかというのは二の次だったよ。

 こないだ、コロナの重症者病棟で治療の指揮をとっているドクターのドキュメントをテレビでやっていた。

 防護服に身を包んだドクターが「日本のみなさん、わたしの力の元はこれですよ(^▽^)!」って出したランチがハンバーガー。直径が日本の1・5倍はある。直径が1・5倍ってことは質量は3倍くらい? 数学苦手だから、興味のある人は計算してみて!

 そのドクターは上背はあるけどデブじゃなかったし、チョー古いんだけど、ポパイがほうれん草の缶詰をバカバカと口の中に流し込んでる感じで頼もしい。

 他にもね、アニメの大食いキャラはいっぱいいるよ。

『艦これ』の赤城さん 『とある魔術の禁書目録』のインデックス 『ラブライブ』シリーズの小泉花陽・国木田花丸 『進撃の巨人』のサシャ・ブラウス 『フェイト』のセイバー 『政宗くんのリベンジ』の足立垣愛姫 『アイマス』の四条貴音……などなどね。

 

「それって、みんな女子じゃない!?」

 

 なんと、杉本先生がリアクション。

「え……あ、そうですね!」

 言ったわたしも驚いた。

 驚きの意味は二つだよ。

 一つは、文字通り女子ばっかりということ。

 もう一つは家庭科のボスである杉本先生がアニメにも詳しかったこと。

 そして、目の前でタッパーの三段重ねを開いたSさんは「そうなんですか(#^0^#)!」と頬を染めながら喜んでいる。

 Sさん自身が大食いなのかは分からないけど、三段重ねのタッパー一杯のお弁当はリアルでは、ちょっと引いてしまう。

 だからね、とっさに「大食いのアニメキャラって可愛いわよね(^▽^)/」ってカマしたのよ。

「しかし、二人ともお料理上手ねえ!」

 あやまたず、杉本先生は二の矢のフォロー。

 わたしのはホームステイ先の渡辺さんの指導が入ってるんだけどね。花が開くようにニコっとしたSさんは掛け値なしに自分で作ったようよ。

 どうやら、杉本先生はSさんの事情を知っていて、このお弁当会を利用して、なにごとかを仕掛けようとしているようとしている?

 そう思ったのは、大食いアニメキャラの話が尽きたら、本題のラブレターの話にならなきゃいけないもんね。

 なんとかしてあげなきゃという気持ちはあったんだけど、Sさんの並みはずれたお弁当を見て、生半可なアドバイスでは乗り切れないなあと思っていたところなのよ。

 でもね、この世の中には、やっぱりバタフライ効果というか風が吹けば桶屋が儲かる式の展開ってあるものなのよ。

「こりゃ、三人でも多いから人数を増やそう!」

 そう言って、杉本先生は校内電話の受話器をとった。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  小山内 啓介      二年生 演劇部部長 
  •  沢村  千歳      一年生 空堀高校を辞めるために入部した
  •  ミリー・オーウェン   二年生 啓介と同じクラス アメリカからの交換留学生
  •  松井  須磨      三年生(ただし、六回目の)
  •  瀬戸内 美晴      二年生 生徒会副会長
  •  姫田  姫乃      姫ちゃん先生 啓介とミリーの担任
  •  朝倉  佐和      演劇部顧問 空堀の卒業生で須磨と同級だった新任先生
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オフステージ・148『ミリーの頼まれごと・4』

2020-12-17 11:12:35 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)148

『ミリーの頼まれごと・4』ミリー    

 

 

 お弁当箱の入った巾着袋を抱えて家庭科準備室へ、階段の踊り場から正門が見える。

 

 遅刻した生徒は、正門を入ったところの守衛室で入室許可書をもらわなければならない。守衛室のカウンターに見覚えのある女生徒……Sさんだ!?

 体調悪いのに大丈夫……?

 この距離でも気配を悟ったのか、わたしの姿に気が付いて、ピョンピョン跳ねながら手を振って来る。

 可愛く健気な姿に、窓から身を乗り出して手を振り返す。

「家庭科準備室行くから! Sさんもいっしょにおいで!」

 我ながら、こういうところはアメリカ人。

 ここをアニメにしたとしたら、顔の上半分を二つのへの字、下半分をノドチンコむき出しの口にして、陽気に叫んでいる金髪女子だね。それで、十秒スポットの予告編になりそう。

 事情を説明すると――わたしもですか?――という表情をするけど、わたしの圧が強いのか、Sさんは大人しく付いてきた。

「体は大丈夫?」

「はい、お弁当張り切り過ぎて、心配かけました」

「そっか、元気ならなによりなにより(^▽^)/」

「でも、なんで家庭科準備室なんですか?」

「ああ、それはね……」

 いきさつを話すと、Sさんも「そうなんですか」と笑ってくれる。

 ほんとうは、目論見なんかあるわけない。なりゆきよ。

 相談にのるとは言ったものの、冷静に考えると、啓介がSさんを受け入れる可能性は低い。

 でも、啓介自身千歳への気持ちが固まっているとも言い難い。

 だからね、Sさんという変数を加えて見れば、結果はともかく、事態は動くと……ちょっと乱暴かもしれないけどね。

「「失礼しまーーーす」」

 二人で挨拶すると『どーーぞ』と先生の声。

「あら、Sさん、間に合ったの!?」

「はい、三時間ほど寝たら元気になりました。休んだら、お弁当無駄になりますし」

「そうね、じゃ、掛けなさいな。家庭科特性のお味噌汁入れてあげる」

「「ありがとうございます」」

「じゃ、お弁当、見せてくれるかなあ(^▽^)」

 お味噌汁をつぎながら杉本先生。

「じゃ、いくよ」

「はい」

「いち、に、さん、でね」

「はい」

 わたしは巾着袋から、Sさんは通学カバンの他にもう一つ持ったバッグから、それぞれ一人分にしては多すぎるお弁当箱を出した。

「ほほ、たまに作ると量が多くなるのね。はい、お味噌汁」

「「ありがとうございます」」

 わたしのは千代子のお婆ちゃん出してくれた曲げワッパ。Sさんは三段重ねの大型タッパー。

 ワッパとタッパー、取りあえずゴロはいい。

「じゃ、いち、に……」

「「さん!」」

 日米のお弁当が御開帳になった!

 

☆ 主な登場人物

  •  啓介      二年生 演劇部部長 
  •  千歳      一年生 空堀高校を辞めるために入部した
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オフステージ・147『ミリーの頼まれごと・3』

2020-12-11 13:52:51 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)147

『ミリーの頼まれごと・3』ミリー    

 

 

 あくる日の昼休みにSさんの話を聞いてあげることにした。

 きのう、あのまま聞いてあげてもよかったんだけど、あのバタフライ効果の状況では気持ちにバイヤスが掛かってしまって、Sさんの気持ちが飛躍するんじゃないかって思ったのよ。

 ちょっとした憧れ気分(💛レベル10)⇒手紙を書いてみた(💛レベル12!)⇒ロッカーがシャッフルされて啓介のが分からなくなった(💛レベル15!!)⇒救世主のようにわたしが現れた(💛レベル50!!!)⇒わたしが話を聞く(💛レベル100!!!!)

 バタフライ効果であり一種の吊り橋効果でもあるのよ。

 え? わたしが絡んでから💛レベル上がり過ぎ?

 当然よ、わたしはSさんの気持ちに沿って話をする。親身になってね。自分で言うのもなんだけど、わたしが相談にのれば、勇気百倍よ。Sさんの目を見て、微笑みを絶やさず、いちいち頷いてあげて、時には手を握ってあげて、ひょっとしたらハグまでしてあげる。

 シカゴに居たころはケーブルテレビのキッズキャスターとかもしていたし、教会のバザーでもわたしのコーナーは売上一番だったし、タナカさんのお婆ちゃも「ミリーの笑顔はマリアさんみたいや(^▽^)/」って言ってくれるし、教会のペンドラゴン牧師も「ミリーは宣教師に向いている」って留学の推薦書に書いてくれたし。

 とにかく、応援する気持ちで話をするから、Sさんは、さらに自信をもって💛レベルを上げるってわけよ。

 むろん、恋は水物だからOUTになることもある(千歳のこともあるからね)、OUTになるにしても、恋は人を強くしてくれるし、人生を豊かにしてくれる。

 と、まあ、人生前向きのミリーは思う。

 それでね、今日は二人でお弁当食べながら相談しようということになって、ホームステイ先のキッチンを借りてお婆ちゃんの指導で千代子(ホームステイ先の女の子)といっしょにお弁当を作った。まあ、このお弁当だけで、2000字くらいは書いてしまいそうなので、省略するけど、とにかくわたしは前向きだったの!

 で、いつもより早く学校に着いて職員室に学級日誌を取りに行ったら(今日は月に一度の日直)、ちょうど電話に出ていたSさんの担任が目配せしてきてね。

「あ、ミリーさん、うちのクラスのSさん、休みだから」

「ええ、せっかくお弁当つくったのに!」

 話を聞くと、Sさんもお弁当を作ったり、今日わたしと話すことを考えていたら眠れなくなって風邪を引いたらしい。

 しかし、わたしがお弁当を作ったことを家庭科の杉本先生が聞いていた。

「だったら、昼休みに家庭科準備室に来てよ、ミリーのお弁当見てみたい!」

 運命が、また一つ分岐していくようだ。

 

☆ 主な登場人物

  •  啓介      二年生 演劇部部長 
  •  千歳      一年生 空堀高校を辞めるために入部した
  •  ミリー     二年生 啓介と同じクラス アメリカからの交換留学生
  •  須磨      三年生(ただし、六回目の)
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オフステージ・146『ミリーの頼まれごと・2』

2020-12-03 14:24:20 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)146

『ミリーの頼まれごと・2』ミリー    

 

 

 バタフライ効果って知ってるかなあ。

 

 元々はね、アメリカの気象学者が「ブラジルで蝶々が羽ばたけばテキサスで竜巻を起こすだろうか」と投げかけた言葉。

 気象学の理屈は分からないけど、小さな出来事が予想もしない結果を起こすてな意味で使われる。

 日本語の例えなら「風が吹けば桶屋が儲かる」ってことになるのは、シカゴに居たころタナカさんのお婆ちゃんから教わったこと。

 憶えてるかなあ……? 

 思い出してみるね。

 風が吹くと砂埃が舞い上がる⇒砂埃が舞い上がると、それが目に入って、中には失明する人が出てくる⇒失明すると門づけ(戸別訪問の流しシンガー)をする人が増える⇒門づけには楽器の三味線が必需品⇒三味線を作るために猫の皮が必要⇒皮をとるから猫の数が減る⇒猫が減るとネズミが増える⇒ネズミが桶を齧る⇒桶が足りなくなって桶屋が儲かる!

 というわけ。

 

 で、Sさんのお話。

 

 雨上がりの放課後、野球部が練習しようとしたんだけど、グラウンドはぬかるんでグチュグチュなので、グラウンド以外の場所で練習始めたのね。ちょっと前の野球部だったらグチュグチュを口実に練習は中止だっただろうけど、北浜高校の件があってから練習に身を入れるようになった。

 それで、昇降口の前でもピッチングの練習をしていた。

 ヘボなピッチャーの球が暴投になって昇降口に飛び込んで、うちのクラスのロッカーにドッカーンと当たったのよ。

 ヘボなピッチャーでも球速はあったものだから、運悪く当たったロッカーの蓋を凹ましてしまった。

 そのロッカーが、ちょっと潔癖症の女子だったもので、その女子は怒ったわけです。

 担任は学校と掛け合ってくれて、その女子のロッカーの蓋を予備の新品と取り換えてくれた。

 すると、他の女子たちも新品のにして欲しいと言うワケです。

 とても全員分の予備は無いから、担任が折衷案を出して「それじゃ、シャッフルしよう!」ということになりました。

 基本的にロッカーには個人を特定できるしるしは付いていない。だって、いたずらされるかもしれないしさ。

 まあ、半分くらいの者は不便なんで、イニシャルとか番号とかの目印を付けているんだけどね。

 啓介は、そういう目印は付けない派。

 

 そのあくる日、我がクラスのロッカー群の前でアワアワしていたのが一年生のSさん。

 

 ジョージアの公聴会をライブで見ていて、気が付いたら午前5:30になっていた(わたしは断然トランプ押しだから!)。ここで寝たら絶対遅刻するから、いっそ学校に行って授業が始まるまで寝ていようと思ったのよ。

 それで、いつもならあり得ない時間に学校に着いて昇降口に入るとSさんが目についた。

「あ、ちがうんです、ちがうんです!」

 ハタハタとワイパーみたいに振る手には淡いピンク色の封筒がある。

「大統領選挙の投票なら終わったけど?」

 朝まで公聴会を見ていたりしたもんだから、つい、そういうギャグをカマシテしまった。

「あ、ちがうんです! トランプさんは好きだけど、そういうんじゃ(;^_^A」

 なんと、共和党支持者のようなことを言う!

「え、あなたも共和党!?」

 そこから話が始まって、Sさんが啓介のロッカーに手紙を入れようとしていたことが分かった!

「啓介のこと好きなの?」

「いえいえいえ、じゃなくて、じゃなくて、じゃなくて……え、演劇部に入りたくってえ!」

「ホオーーー」

「上級生の教室って入りにくいじゃないですか、ですよね!」

「うんうん」

「だから、手紙に書いて、返事とかもらってからに……とか」

「ところが、ロッカーがシャッフルされて、どれが啓介のか分からなくなって、アセアセのなってる?」

「いや、そうじゃなくて、あ、小山内先輩のロッカーが分からなくて困ってるのは、それはそうなんですけど」

 Sさんは切ない嘘をつく。

 もし、啓介と千歳の間に💛マーク的なことが無かったら、啓介に成り代わって入部を認めて、Sさんの気持ちをフォローしてあげるんだけどね。

 かと言って、Sさんにきっぱり『啓介は売約済み』と言えるほどには進展していないし。

「分かったわ、わたしが相談にのってあげよう!」

 トランプを応援するパウエル弁護士のように胸を叩いてしまった。

 

 ☆ 主な登場人物

  •  啓介      二年生 演劇部部長 
  •  千歳      一年生 空堀高校を辞めるために入部した
  •  ミリー     二年生 啓介と同じクラス アメリカからの交換留学生
  •  須磨      三年生(ただし、六回目の)
  •  美晴      二年生 生徒会副会長
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オフステージ・145『ミリーの頼まれごと・1』

2020-11-24 15:08:24 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)145

『ミリーの頼まれごと・1』ミリー    

 

 

 わたしの日本語は基本的に大阪弁。

 

 シカゴの実家の隣がタナカさんという日系のお婆ちゃんで、大阪出身。

 もう100歳目前という年齢なので、喋る日本語はコテコテの大阪弁。

 物心ついた時からタナカのお婆ちゃんとは大の仲良し。だから自然に身に着いた日本語は大阪弁で、それも70年ほど昔のね。

 お尻のことを「オイド」と言って、ホームステイ先の千代子に通じなかったし。夕べの事を「ゆんべ」と発音して「お婆ちゃんみたい(* ´艸`)」と笑われたり。阪神巨人戦を観に行って「うわあ、さすが阪神ファンはしこっとるなあ!」と感激して千代のパパさんにまで「年寄りみたい」笑われてしまう。

 それからは、どうも「うちの大阪弁は古いらしい」と自覚して、テレビやYouTubeなんかで勉強して、高校二年の現在では現代大阪弁を喋れるだけでなくて、標準語もマスターした。

 その甲斐あってか、今年で五年目になる大阪では、ご近所でも学校でも、みなさんと仲良くやれている。

 心がけているのは――つかず離れず――人には親切にするし、親切にされたら、キチンと感謝の気持ちを伝える。だけど、感謝以上には人の心には踏み込まない。

 まあ、アメリカ人だし、日本に居る限りは『外人さん』で『お客さん』だしね。

 アメリカからやってきた交換留学生のミッキーには油断した。どういう油断かは、まあ、バックナンバー読んでちょうだいな。

 

 なんで、こんな前振りしてるかって言うと、頼まれごとをしたからなのよ。

 頼みごとの主は一年のSさん。

 演劇部に入りたいということだった。

 普通ならね「わ、嬉しい! 今日からでも部室に来てよ!」てことになるんだろうけど、わたしは一歩引いてしまった。

 だってさ、うちの演劇部って演劇しない演劇部なんだよ(;^_^A。

 今までの物語を読んでくれた人には分かると思うんだけど、うちの演劇部って演劇しないことで有名な演劇部なんだよ!

 文化祭で『夕鶴』やったけど、あれは例外的事情からだし(どんな事情かは、これもバックナンバー読んで)、みんな仲良しだけど、放課後マッタリ過ごしたいってだけの、生徒会には絶対内緒のグータラ志向からなんだからね。

 だから、入部希望って聞いて「嬉しい!」じゃなくて「え、どうして!?」になるわけなのよ。

 二人とも、かなりドラマチックの予感だから、次回から改めて経緯(いきさつ)を語ることにするわ。

 次回は。Sさんが、どうやってわたしに接近してきたか、その真の狙いはなにかを語るわ!

 乞うご期待! 刮目して次回を待て!

 

 ヘヘ、むつかしい日本語知ってるでしょ(^▽^)/

 

 

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オフステージ・144『展望室からの視線を感じて』

2020-11-13 14:45:03 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)144

『展望室からの視線を感じて』松井須磨    

 

 

 二人の間に恋が芽生えているのは確かだ。

 

 どちらかが、もう一歩踏み出せば二人は空堀高校の伝説に成れるだろう。

 二人には程よく粉を振ってある。

 二人は同じ演劇部の先輩と後輩だから、コクった後に上手くいかなかったらどうしようかという気持ちがあるんだろうね。

 たった四人の部活で気まずくなったら居場所がないもん。

 もっともな心配よね。

 千歳には下半身まひというハンデがある。

 千歳はね、仮にこの恋が実っても啓介に心配や迷惑をかけるんじゃないかと思っている。

 啓介は一見迷っている。千歳への気持ちが同情心なのか恋なのか区別がつかない。

 いや、本人たちは意識していないけど、それを理由に可愛く立ち止まっているだけだ。

 千歳の障害なんて問題じゃない。一年余りいっしょに部活をやって啓介は分かっている。分かっているから、ヘリコプターの不時着の時も反射的に体が動いて千歳を救助しているんだ。

 啓介の迷いは、結局のところ『臆病』なんだ。

 断られたらどうしよう……告ることで千歳の心に負担をかけたらどうしよう……とかね。

 ちょっとイラつくけど、こういう二人の気持ちは嬉しいんだよ、わたしは。

 高校三年を六回もやってるとね、分かってくるんだよ。

 教師も生徒も上っ面の付き合いなのがね。

 まあ、世間なんて、基本、上っ面でいいんだけどね。上っ面だけって言うのは寂しいっていうか、色彩の抜けたカラー写真のように味気ない。

 

 本館の展望室から美晴が覗いている。

 

 演劇部には天敵みたいな女だけど、それは生徒会副会長という立場だったから、根っこの所では情に厚いところがあると思っている。いや、情に弱いというべきか。

 美晴自身よく分かってるから、それを戒めているんだ。

 先日は十日ほども休んで山梨の田舎に行っていた。ほんの二三日で済む用事だと踏んだんだけど、美晴は十日もね。ひょっとしたら情にほだされて、このまま帰ってこないんだと寂しく思ったわよ。

 美晴が曾祖母のことで思い悩んでいることは知っていた。

 瀬戸内家といえば、武田信玄のころから続く甲州の名族で、元旦の地方紙には県知事と並んで新年の挨拶が載るほどの存在だ。むろん今でもけっこうな山林地主だ。

 その瀬戸内家の実質的な跡継ぎが、あの瀬戸内美晴だ。

 当主は今でも『御屋形さま』と呼ばれている。殿様って江戸時代の呼び方じゃなくて戦国時代だよ。いや、御屋形様って呼称は平安時代からあるから、もっと古いかもね。美晴は跡継ぎだから『姫』とか『姫様』かな?

 あいつが『姫様』って呼ばれて、どんな顔するんだろう。

 プ(´艸`)

 悪い、ちょっと吹き出してしまう。

 六回目の三年生のうち五年はタコ部屋に居た。退屈だからいろんなことに興味持って調べた中でいちばん面白いことだったりするんだよ。

 わたしも素直じゃないから、正面だって話したことは無いけどね。

 だけど、この一年、いろんなことで関わって、思った以上に面白い女だと思ったわよ。

 

 あ!?

 

 いつの間にか二人の姿が無い。

 くそ、あの女のせいだ。

 展望室からの目線を気にしていたら、いろんなことが頭を巡って、つい見落としてしまったぞ(-_-;)!

 コクっていたとしたら、大河ドラマの最終回を見落としたようなもんだ。半沢直樹の決め台詞を聞き落としたようなもんだ。

 くそ、あの女の事なんか考えるんじゃなかった(-$-;)!

 

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オフステージ・143「本館四階の生徒会倉庫」

2020-11-06 12:02:53 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)143

『本館四階の生徒会倉庫』瀬戸内美晴     

 

 

 我が空堀高校の本館校舎は百年以上昔の大正時代に建てられた。

 大正時代は実質15年に満たない短い時代だけど、1918年を境にして様子が異なる。

 1914年に第一次世界大戦が起こって、日本は勝ち組の米英仏側について、しかも戦場は地球の裏側のヨーロッパで行われたので、空前の好景気になったらしいわ。

 その好景気を背景にして作られた学校なので、贅沢で余裕のある造りになっている。

 先日、大阪都構想の投票を前々日に控え、取材の為に上空を飛んでいた民放のヘリコプターが空の上で故障して、迷うことなく不時着を決めたのがうちのグラウンド。なんと言っても府立高校の中で一番広いグラウンドなんだ。

 そのグラウンドでは、大阪一グラウンドの狭い北浜高校の野球部に(貸したくもない)グラウンドを貸す貧乏くじをかけて京橋高校野球部との試合が行われていた。

 北浜高校は第一次大戦後の不景気な時代に作られたので設備も敷地も空堀高校に比べると数段堕ちる。設備は、戦後府下有数の進学校になって集中的な整備が為されたけど、グラウンドの狭さはどうにもならなくて、うちや京橋高校を狙ってきたと言う訳よ。

 試合そのものは、ヘリの不時着もあってお流れとなり、北浜高校も部員の中にコロナウィルスに感染者が:出てしまい、部活そのものが休止になってしまったことは、みなさんご存知よね。

 

 わたしは、本館四階の生徒会倉庫で資料の整理をしている。

 

 本館はグラウンドに負けず劣らずの贅沢な作りで、四階にガラス張りの展望室がある。

 終戦直後は進駐軍がカフェやらダンスパーティーに使っていたと言うから、その贅沢さが分かってもらえると思うわ。

 その展望室は令和に時代の耐震基準を満たしていないので、教室としての使用は禁じられていて、阪神大震災以降は生徒会の倉庫として使用されている。

 甲府の曾祖母のお屋敷から帰って、わたしは生徒会の資料整理を思い立ったのよ。

 甲府では、瀬戸内本家を継ぐ約束をなんとか躱して戻ってきたんだけど、曾祖母、ひいお祖母ちゃんの悩みや大事にしていることも分かるようになった。

 古いから、鬱陶しいからということでお祖母ちゃんもお母さんも本家の事からは逃げてきた。

 でも、ただ逃げてばかりじゃダメなんだ。

 ちゃんと理解したうえで、やれることやれないこと、やってはいけないことを見極めなくちゃならないんだ。

 わたしは、そういう視点で生徒会と空堀高校を見直そうと思っている。だから、この展望室の資料庫を整理して、来し方行く末に思いをいたして、今の生徒会にとって大事なものを見つけようとしている。

「ふう……今日は、ここまでかな」

 一段落つけて、午後の紅茶を飲んで一息つく。

 飛行船の風防のような(飛行船なんて見たこともないんだけどね)丸い凸窓から中庭を見下ろす。

 そこには見慣れた二人がお互いを意識しながらソッポを向いている。

 演劇部の小山内啓介と沢村千歳だ。

 そして渡り廊下の三階の窓から、その二人をニヤニヤと見下ろしているのが超三年生の松井須磨。

 関わるとろくなことが無い演劇部だけど、この二週間余りの彼らは、ちょっと面白い。

 でもって、ちょっと放っておけないところがある。

 あまり、お節介はしたくないんだけどね。

 わたしは、椅子をグルンと回して跨ると、背もたれに顎を載せて三人を見守った……。

 

 

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オフステージ・142「学食の自販機前にて」

2020-10-30 13:41:29 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)142

『学食の自販機前にて』千歳     

 

 

 昇降口を横目に殺して車いすを進めると、学食に通じるスロープになる。開け放ったドアから自販機のサンプルをチラ見。よし、午後の紅茶無糖は残っている。

 

 スロープは健常者用の四段の階段に対し直角に付けられている。

 二段分下りたところでクニっと360度折り返して、さらに二段分下りて学食の前に着く。

 折り返のところは生け垣のスペースに被っていて、学食の入り口からは死角になって見えなくなる。

 

 その折り返しの所で止まってしまった(;^_^A

 

 自販機の前に啓介先輩が立ってしまったのだ。

 ちょっと気まずい。昨日のヘリコプター不時着事件で先輩にお姫様抱っこされて、その時のドキドキがまだ残ってるから。

 先輩が行ってしまうまで待とう。

 ゴトンと音とペットボトルを取り出す気配、足音が遠ざかる。

 よし。

 車いすを超真地旋回(ガルパンで憶えた言葉)させて、下りの勢いのまま自販機へ。

 百円玉二個を握って……固まってしまった。

 ウソ……午後の紅茶無糖は無情の売り切れ赤ランプ。

 

 啓介先輩が最後の一個を買ってしまった……。

 

 ショック…………ついさっきまで買えると思っていた午後の紅茶無糖が売り切れてしまったこと。そして、最後の一個を買ったのが啓介先輩だったこと。

 なんだかドキドキしてきた。

 悲しいから? お目当ての午後の紅茶無糖が無くなったから? それとも?

 え……なんで涙が?

「あ、これ欲しかったのか?」

 声が降ってきたので二度ビックリ! 見上げると啓介先輩。

「え!?」

「あ、ボンヤリしてて、もう一つ買うの忘れてて……俺は、どれでもええから、ほれ、これは千歳にやるわ」

「あ、いや(;'∀')」

「俺は、これ……っと……」

 先輩は缶コーヒーを二つ買って「んじゃ」と顔も見ないで行ってしまった。

 

 あ、お金渡してない。

 

 数秒、ボーっとして気づいた。

 車いすを超真地旋回させて校舎に戻る。

 先輩が向かったのは三年生のブロックだ。

 エレベーターに乗って、三年のフロアを進む。

 二つ目の教室で発見。

 声をかけようと思ったら、先輩の他にもう一人。

 え……須磨先輩。

 急に胸のドキドキが高鳴ってきた……。

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オフステージ・141「先輩のレクチャー」

2020-10-23 14:16:10 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)141

『先輩のレクチャー』小山内啓介 

 

 

 空堀高校のグラウンドは地平線が見えると噂されるくらいに広い。

 その広いグラウンドの真ん中に無事にヘリコプターは不時着した。ごっついヘリだがグラウンドが広いので、そんなには大きく見えない。北浜高校が合同練習を申し込むだけのことはある。

 せやけど、ヘリコプターが巻き起こす風ははんぱやない。

 女子のスカートが翻るのは御愛嬌。グラウンドの砂がトラック一杯分くらいは吹き飛ばされてしもて、白線で引いたダイヤモンドがベースごと吹き飛ばされる。なんとかホームベースは残ったけど、試合再開には時間がかかりそう……と思ったら、警察やら消防やらが来て現場検証があるとかで、九回の裏にして試合は中止。

 試合の相手は京橋高校やった。

 府立高校で一番グラウンドの狭い北浜高校が、校舎の建て替えにともなってうちの学校のグラウンド使うための名目で合同練習を申し込んできて、素直に受けたら実力が違いすぎる空堀の野球部は、北浜のボール拾いにしかなれへん。

 そこで、マネージャーの川島さんらが奮闘して、府立高校の二番目にグラウンドの広い京橋高校との試合になった。負けた方が北浜にグラウンドを使わせる、つまり北浜の球拾いをやることになった。

 昔取った杵柄で、川島さんの策略でピンチヒッターに立ったところでヘリコプターの不時着というわけや。

 緊急の校内放送でグラウンドに居てるもんは校舎に引き上げならあかん。

 さっさと逃げよ!

 そう思ったら、車いすのトラブルで取り残されてる千歳が目に入った!

 ミリーと須磨先輩が付いてるけど、車いすを動かすどころか千歳を連れていくこともでけへん。

 えらいこっちゃ!

 バットを放り出して三人のとこに全力疾走、俺がやる!

 そう言って、千歳を抱え上げて避難した……。

 

「というわけですよ」

「ふーーーん……」

 須磨先輩はつまらなさそうに缶コーヒーを飲み干した。

「こんな感じでええでしょ」

「まあね……」

 

 今度のヘリコプター不時着事件で、PTA新聞から取材を受けることになっているのだ。PTA新聞担当のオバサンは元新聞社勤務だったとかで、取材能力に長けているだけではなく、引退後も系列の週刊誌なんかにも寄稿していて、まあ、その道のプロなんだとか。

 だから、あらかじめ整理しておかないとどこから突っ込まれたり、色の付いた記事を書かれかねないというのが先輩の心配で、先輩相手に予行演習というわけなんだ。

 

「千歳をダッコして、校舎に着くまでのとこ、もうちょっと聞かせてくれる」

「そんなん、ほんの一分ほどやから……無我夢中で、気ぃついたら本館の玄関やったし」

「……でもね、みんな直ぐ近くの南館に避難したのよ。本館まで逃げたのは啓介と啓介に抱っこされた千歳だけ」

「それは……ほ、本館の方がより遠いし、ほら、保健室とかも近いでしょ(;^_^……というか、夢中やったんで憶えてないんですよ」

「じゃあ……わたしの想像でトレースしてみるわね」

 そう言うと、先輩は腕と足をを組んで俺と同じ姿勢をとった。

 

 無我夢中で、そのあと校舎の中に行くまでは記憶がない。

 というのは嘘だ。

 千歳を抱え上げると思いのほかの軽さに衝撃を受けた。

 この年頃の女の子は見かけよりも重たい。妹とケンカするとプロレス技をかけられることがある。本気になってはいけないので、たいていやんわりと投げ飛ばして終わりにするんだけど、妹はもっと重たい。

 やっぱり車いすの生活が長いから腰から下が萎えていて、その分軽くなってるんだろう。

 右の腕(かいな)に感じた千歳の足腰は華奢過ぎて、人形を抱いたみたいに頼りなくて、それでも、血が通っていて暖かくて、それに、なんだかいい匂いがして、ドキドキして。

 クンカクンカ……なんてしちゃいけないから、顔は横向けて息は必要最小限に、でも、人を抱えて走るんだから、やっぱり激しく呼吸はしてしまうわけで。

 千歳も自由の利く手を回してしがみ付いてくるし、もう息のかかる近さに千歳ん顔が迫って、なんか、ちょ、ヤバくって……。

 

「ちょ、先輩!」

 

「なに、もうちょっと描写したいんだけど、千歳のオッパイがムギュって胸に当って狼狽えたとことか」

「う、狼狽えてませんから!」

「狼狽えてたよ、だからトチ狂って本館まで走ったんだし。そんなに否定したら、かえって勘ぐられるわよ」

「いや、だーかーらー(^_^;)」

「啓介、あんた童貞だろ」

「なっ(;'∀')」

「こういうとこ突っ込まれるとオタオタするだけだから。ね、取材で触れられたら、面白おかしく誘導されて、実際以上に熱っぽく書かれてしまうって。思うでしょ?」

「そ、それは……」

「するとね、啓介も千歳も、実際以上に自分の気持ちを誤解してしまうって」

「誤解?」

「あの子を……千歳を好きになるのは、もっと覚悟がいる。あの子の人生丸抱えしてやる勇気がね……」

「そんなことは……」

「アハハ、だーかーらー『夢中やったんで憶えてないんですよ』なんて言わないで、ありのまま喋った方がいいよ。その方が余裕があって、シリアスな突っ込まれ方しないから。ね」

「は、はあ」

「じゃ……あ、飲んじゃったんだ。ごめん、なんか飲むもの買ってきてくれる? できたら午後の紅茶無糖がいいなだけど、 お代はレクチャー代ってことで(o^―^o)」

「はいはい」

 俺は、食堂前の自販機まで走っていくのだった……。

 

 

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オフステージ・140「九回の裏!」

2020-10-15 14:10:29 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)140

『九回の裏!』小山内啓介 

 

 

 大阪都構想の投票を二週間後に控えた日曜日のグラウンド。

 台風が有りっ丈の雨を降らせたあとは、どこにしまい込んでたんやと思うくらいの真っ青な青空が広がって、上空にはなにかの取材のためにヘリコプターがのんびりと飛んでいる。その秋空の下、空堀と京橋二校の練習試合が行われている。

 そして……八回の裏になろうと言うのに双方一点も得点が無い。

 

 甲子園やったら、実力伯仲、双方攻守ともに優れたプレーが続き互いに得点を許さない……てな感じで、選手も応援団も熱が入るんやろうが、この試合はあかん。

 書くことも憚られる凡ミスばっかりで、互いにランナーを出して得点につなげることができない。

 力んでないと言えば多少マシなんかもしれへんけど、とにかく覇気が無い。

 よし とか おお とか かっとばせえ とか どんまい とかの掛け声が散発的に起こるんやけど続かへん。

 かっとばせえ! と、ちょっと厳しい目の声が掛かってなんとかヒット。

 バッターは一塁ベースを踏むんやけど、どうせ得点には結びつかへんいう気持ちがアリアリとしてて、川島さんが手をメガホンにして「よし!」と発声しても――まあまあ――ちゅう感じで手を挙げるだけ。

 次のバッターは易々と三振に取られて――残念!――という感じと違って――やっぱりなあ――になる。

「くっそお!」

 そんな中で、田淵一人が熱い。

 さすがはエース……と思うんやけど、頭だけカッカして、余計にミスが増えるばっかし。

 マネージャーの川島さんはスコアをつけるほかは、さっき「かっとばせえ!」とげきを飛ばした以外はベルリンでもめてる少女像みたいな穏やかさで座ってる。

 しかし、腹の中は煮えくり返ってるのが、ついさっき分かった。

 田淵がツーアウト一二塁の、ひょっとしてという局面であっさり三振に終わった時。

 ボキッ!!

 穏やかなまま、鉛筆を握りつぶしてしもた(^_^;)

 え? 鉛筆の折れを握った手ぇから血が滴り落ちてる……。

――ごめんね、小山内君――

 口の形だけで謝る川島さん。

 俺を代打に使ってたらという思いやねんやろなあ。笑顔を返すんやけど、ちょっと引きつってたかもしれへん。

 ちなみに、空堀に監督は居てない。

 顧問兼監督が春に転勤して以来、顧問は茶道部の女先生。実質的に野球部を引っ張ってるんは川島さんと田淵や。

 ネット脇には演劇部の三人が見に来てくれてる。

 積極的に知らせたわけやないけど、食堂でのイザコザはけっこう話題になってて三人の知るとこになってしまったみたいや。

 ビジュアル的には三人とも目立つ。

 須磨先輩は六回目の三年生で、もう大人の魅力。千歳は車いすにチンマリと収まって可愛らしく、ミリーは掛け値なしの金髪碧眼の美少女。

 三人を見慣れた空堀の生徒はともかく、京橋の生徒はアニメの中から出てきたヒロインみたく眩しいオーディエンス。

 三人は野球部の応援ではない。

 グータラ部長の俺が昔取った杵柄っちゅうか、川島マネージャーの色香に迷って中学以来のバッターボックスに立ついうので、ただただ珍しいもの見たさで来てる。

 せやから、俺がバッターボックスに立つ以外には興味がないんやと思う。

 この三人がキャーキャー言うてくれたら、京橋の連中、気をとられて隙ができるかも。

 

 言うてるうちに九回の裏。気持ちが抜けた空堀は九回の表で京橋に二点を許した。

 

 そして九回の裏、空堀は再びツーアウトランナー一二塁。

 と、川島さんの手が上がった。

「バッター交代、小山内君!」

 ゲ、ここでか!?

「小山内君、お願い、ホームラン打って!」

 バッター交代を宣言した足で俺の前に立って手を合わせた。

 啓介! がんばれええええええええええええええええ!

 演劇部の三人娘も黄色い声をあげて敵味方の注目を集める。

 ち、気楽に言ってくれるぜえ!

 俺は、バットを二回スィングさせて、闘志をフルチャージ!

 バッターボックスに向かうと、絶好のシャッターチャンスと思ったのか、上空で取材中のヘリコプターの爆音が大きくなってきた。

 バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ!!

 え、ちょっと近過ぎひんか!?

 え? え!? 

 グラウンドに居る者みんながビックリしていると、すごいボリュームで校内放送が流れた。

『ヘリコプターが緊急着陸します! 緊急着陸します! グラウンドに居る人は、ただちに校舎内に避難、ただちに避難! 避難してくださいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!』

 俺は、バットを持ったまま呆然とする。

 二秒ほど間があって、京橋も空堀も、一目散に校舎に駆けだす。

 俺も逃げよう……と思ったら、演劇部の三人に目がとまった。

 え!?

 千歳の車いすがトラブって、三人とも身動きが取れなくなっている。

 俺は、バットを振り捨てて、三人の所へ駆けだした!

 

 

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・82「とんでもない事態になってきた!」

2020-08-12 07:23:33 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)82

『とんでもない事態になってきた!』   



 

 運命とか神さまとかは信じない。

 お母さんとは意見の合わないことが多いけど、この点については一致している。

 世の中というのは因果応報、なにか事件が起こったり行動を起こすと、その事件なり行動が変数となって作用しあって事態を変化させる。

 わたしが新しい同居人で悩む羽目になったのは、そういう因果応報の果てのことなんだ。
 
 困ったことに、同居人は、いささかの運命論者。

「運命だと思ったんだけどなあ……」
 結論を聞いたミッキーは、ちょっとしょげている。
「ま、新しい執行部に持ち掛ければいいんだから、気落ちしなくていいわよ」
 いささかのシンパシー有り気な顔で答えておく。

 実は、ミッキーが生徒会活動に参加したいと言い出したのだ。

 ミッキーには悪いけど、これ以上わたしのテリトリーに入ってきてほしくない。

 脳天気なお母さんのお蔭で同居することのなったことだけでも十分すぎるほどトンデモナイことで、ミッキーの運命論を補強してしまっているのにね。

 自分で言うのもなんだけど、ミッキーはわたしに気がある。

 サンフランシスコの三日目、ゴールデンゲートブリッジのビュースポットでキスされそうになった。
 日の暮れで、周り中アベックばっかで十分すぎるほどの雰囲気。雰囲気十分で迫ってくることは理解できる。
 動物的衝動だけで迫って来たのではないことも分かっている。
 ミッキーが、わたしを崇拝してくれるのは嬉しいけども、崇拝されたからと言って、それに100%応えなきゃならない義務はない。
 でも、サンフランシスコからやってきた交換留学生への礼は尽くしてあげなければならない。
 ホスト校の生徒会副会長としての義務と礼節はわきまえている。

 わきまえていなければ、彼の同居が決まった段階で家出してるわよ。

 生徒会規約によって執行部の肩書と人数は決まっている。現状で定員一杯。
 執行部は選挙によって選出された者のみをもって構成する。それに、留学生が執行部に入れる規定も無ければ選挙権の有無についてもうやむやだ。
 そういうことを生徒会顧問と執行部に説いた。
「それに、あんたたちの好きな猥談できなくなるよ」
「「「え!?」」」
 これが会長以下の男子役員には効いた。
「アメリカはね、未成年へのセックスコードはメッチャ厳しいの。この棚に並んでるラノベはみんなアウトよ。体は大人でルックスは幼女のパンチラなんて即刻絞首刑! その下に隠してあるパッケージと中身が違うDVDなんか銃殺刑!」
「そ、それはネトウヨのデマみたいなもんだ!」
 会長の悲鳴は、わたしのハッタリが事実であることを物語っていた。
 そして、ミッキーの「生徒会活動に参加してみたい、いや、そうなる運命だ」という信仰的思い入れは潰えさった。
「残念ね、日本というのは慣例や規約にはやかましい国だから、わたしも応援したんだけどね……まあ、部活とかだったらノープロブレムだから、いっしょに探してあげるわよ」
「うん……頼りにしてるよ」

 よし! 難関をパスした気になっていた。

 ところが、とんでもない事態になってきた!

――ごめん、お祖母ちゃんと一週間泊まりの仕事になっちゃった。留守番よろ!――というメールが飛び込んできた!
――ちょ、お母さん、ミッキーと二人ってことなんですか!?――
――大丈夫よ、ミッキーはいい子だし、念押しにメールしたら「安心してください、神に誓ってミハルを守ります!」って返事きたから――
 で、それがお守りになるかのように奴のメールを転送してきた。

 ウウ……それって、憲法だけで日本の平和が守れますってくらい脳天気なことなんですけど!

コメント
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