大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

まりあ戦記・053『今度のウズメは三人乗り』

2021-01-24 09:50:50 | ボクの妹

・053

『今度のウズメは三人乗り』   

 

 

 ウズメにそっくり。

 

 でも、比較にならないほど大きい!

 わたしが乗っているウズメが三階建てくらいだとすると、目の前に横たわっているソックリは十階建てぐらいはある。

「なんで、こんなに大きいの?」

 素朴な質問をすると、ナユタがあとを続ける。

「って、ゆーか、なんでマンションの下に、こんなのがあるの?」

「職住近接というやつですか(^_^;)」

 中原さんが締めくくる。さすがは現役っていうか、本物少尉。

「今度のウズメは三人で操作するんです(^▽^)/」

 徳川曹長が、新型ワンボックスカーを納車しにきた自動車販売会社の営業のようなことを言う。

 

 床下からの振動と騒音がひどいので「いったいなんなのよ!?」とみなみ大尉がヒスを起こし、金剛少佐が「しかたない、飯の前に見ておくか」と、みんなをクローゼットに入るように指示して「あ、エレベーターになってるんだ!」と感動したのは、ほんのつかの間で、十秒後には、マンション地下のハンガー(格納庫)に来ているってわけ。

 横たわったウズメは、ほとんど完成しているところもあれば、手首や膝とかは欠損というか、まだ取り付けられていなくて、大きいだけに、進捗状況が部分によってひどく差があるように思える。

「作りながら更新してる様子だな」

 金剛少佐がニヤニヤ、このオッサンのニヤニヤは、みなみ大尉ほどじゃないけど、ちょっとムカつく。

「搭乗するのは背中からです。胸部にコクピットがあります」

「「「う~ん」」」

 三人そろって唸る。

 十階建ての大きさとは言え、それは全長のことで、コクピットの胸部は外径で三メートルあまり。装甲やコクピット内のコンソールや機器の容積を考えると、シート部分は一メートルちょっと。三人が乗り組むには、ちょっと狭くはないかなあ……。

「大丈夫ですよ、搭乗すると睡眠状態になって、三人の思念を融合させてオペレートすることになります。手足を動かしての操作は、どうしてもタイムロスが出るし、体を動かせば疲労するのも早いですからね。そういうところを考えた、次世代機であるわけです」

 エンジニアらしく、徳川曹長はとくとくと解説する。

 少佐とみなみ大尉は、ウズメ以外にも各部のチェックをしたいと言うので、わたしたちは姉妹(?)三人で部屋に戻ることにする。

「こっちから行きましょ」

「中原さん?」

「ここに来るには、他のルートもあるみたい。確認しながら行きましょ。それから、わたしのことは姉さんとか呼んでください、そういう設定ですから」

 さすがは現役軍人、わりきりが早い。

 別ルートでマンションの一階に出て廊下を歩いて本来のエレベーターに向かう。

 途中、数人の住人に出くわす。みんな、旧知の間柄みたいに「こんにちは」とか「あら、金剛さんちのお嬢さん」とか挨拶してくれる。

 ちょっと不思議。

「あれだけの騒音があるのに、みなさん普通なんだ……」

「住人は全員が改アクト地雷のロボットね。いざという時には我々をガードするセキュリティーになんだと思う」

 え、えええ……

 ちょっと、言葉が出てこなかった。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まりあ戦記・052『ちょっと、なに、これえ!?』

2021-01-17 09:20:02 | ボクの妹

・052

『ちょっと、なに、これえ!?』   

 

 

 わたしの家はカルデラ(特務旅団の基地)の中にある。

 

 最初は、わたしのボディーガード兼影武者のマリア(ロボット)と暮らしていたんだけど、マリアがテロに遭って影武者の任務に付けなくなってからは高安みなみ大尉のマンションに同居している。

 わたしと同居するにあたってみなみ大尉の部屋は拡張された。

 それが、観音(かのん)のお寺から帰ってみると、また拡張されていた!!

「ちょっと、なに、これえ!?」

 驚きの声をあげたのはみなみ大尉。

 今朝までは、わたしと大尉の部屋以外はキッチンとリビングがあるきりだったのが、お隣りの壁をぶち抜いて三つも部屋が増えている。

 わたしの部屋はそのままで、同じ規模の部屋が二つ。

『光子の部屋』と『ナユタの部屋』

「うわあーーーナユタの部屋だあ(#^▽^#)!」

 ナユタは走り回って喜ぶ。光子さんは諦めたようにため息をつく。

「今日からは姉妹なんだからな、一つ屋根の下に住んで当たり前だ」

「でも、少佐! わたしの部屋が倍の広さになって、ダブルベッドというのは、どういわけですか!?」

「そりゃあ、俺と大尉は夫婦なんだから、ダブルベッドで当然だろ(#^▽^#)」

「あ、ありえないんですけどおおお!」

 その時、開けっぱなしにしていたドアから徳川曹長が顔をのぞかせた。

「少佐、こんなもんでよかったですか?」

「上出来だ、感謝するぞ曹長」

「と、徳川くん、あ、あんたの仕業だったのかあ!?」

「仕業なんて言わないでくださいよ、任務としてやったんですから」

「に、任務う!?」

「はい、舵司令の。あ、書類はこれです」

 徳川さんが出した書類を見て、みなみ大尉の怒りと驚きはマックスになった。

「これって、婚姻届けえ!?」

「はい、大尉と少佐は晴れて夫婦になられ、中原、まりあ、ナユタの三少尉はお二人の娘です。こちらが戸籍謄本、こちらが住民票、これが健康保険で……」

「ちょ、徳川くん(#'='#)!」

「大尉、おまえも任官の時に服務宣誓をやったろうがあ」

「服務宣誓……」

「曹長、聞かせてやってくれ」

「ハッ!」

 徳川さんは胸ポケットから軍人手帳を出し、姿勢を正して朗読した。

「『事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います』で、あります!」

「ということだ。まりあの面倒をみろというのは、みなみ、君の願いでもあったんだからな。そうだろ~」

「ググググ……」

「住居と法的手続きについては完了ですが、作戦に関わる工事が未了です。少々騒音や振動がありますが、ご承知おきください」

「ああ、そっちの方は、住居をセットするようなわけにはいかんだろうからな」

 ドドドドドドド!

 少佐の言葉が合図であったかのように、足もとから騒音がし始めた……!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まりあ戦記・051『みんないっしょの過去帳』

2021-01-08 12:53:12 | ボクの妹

・051

『みんないっしょの過去帳』   

 

 

 これは、もう阿弥陀様のお導きだね!

 

 放課後にいたるまで、なにくれと世話を焼いてくれた観音(かのん)が感心した。

 三人揃って昇降口に向かって、これまた三つ並んだロッカーからおソロのローファー出して履き替えて、正門を出たところで、ごっついRV車がシズシズとわたしたちの前に止まった。

「おお、ちょうど通りかかったところだ、家まで乗せてってやろう、そっちは友だちの釈迦堂さんだな、いっしょに乗っていきなさい。大尉、前に回ってくれ」

 不機嫌なオーラが後部座席から前に回って来る。

「え、みなみさん?」

「さっさと乗りなさい、家に着くまでは任務だから」

「え、任務?」

 疑問に思ったのは、わたし一人で、中原少尉はポーカーフェイスで、ナユタはニコニコと、観音は「ヤッター」と嬉しそうに乗り込んだ。

「釈迦堂さんの家は、浄土真宗のお寺さんだったな……」

 ニコニコとハンドルをさばきながら金剛少佐が呟く。

「はい、ここいらでは珍しい仏光寺派です」

「おお、それは良かった。わたしの家も仏光寺派の門徒なんだがね、うちを檀家にしてくれんかね?」

「ああ、それは願ってもないことです!」

「月参りもお願いしたい。そうだ、これからご本尊様に挨拶にいこう!」

 ギューーン

 うわ!

 少佐は急ハンドルを切って、道を観音のお寺に車を向けた。

 

「うわあ、これがお寺なんだ(^▽^)/」

 ナユタが子どものように境内を駆けまわる。

 なんだか悪い予感がするという点ではみなみ大尉といっしょなんだけど、わたしは、ちょっと面白くなりはじめている。

「あの、おっきな鐘はなんなの!?」

「えと、お寺の鐘……あ!」

 ゴーーーーーーーーーーーーーーン!!

 観音の注意も間に合わずに、ナユタは力任せに鐘をついた。

「あ、近所迷惑になるから、普段はつかないんだよ(^_^;)」

「え、鳴らさない鐘なんて意味ないじゃん?」

「もー、勝手にチョロチョロすんな!」

「あ、痛いよ、おねえちゃん(n*´△`*n)!」

 耳を引っ張って釣鐘から引き剥がすけど、なんだか喜んじゃってカックン。

 大尉は、相変わらずの不機嫌、中原さんは達観したポーカーフェイスで揃って本堂の階段を上がる。

「うわあ、ピッカピカ! あ、ズコ!」

 ご本尊や仏具のピカピカに感動して走り回りそうなナユタを早手回しに座らせる。

「じゃあ、これがうちの過去帳」

 将校鞄から出したのは過去帳の形をした箱で、表には『金剛家』と漆で書かれている。

「お寺の娘ですけど、箱になってるのは初めてみました。開けていいですか」

「どうぞ」

「あら」

 箱を開けて観音ちゃんは、明るい声をあげた。

 なんと、箱の中には『金剛家』『舵家』『中原家』の過去帳が入っている。

「え、いつの間に!?」

 うちの過去帳は、カルデラに来て買ったお仏壇の中に収めてある。油断がならない(^_^;)。

「ナユタのはないのかなあ……」

 純粋なナユタは、寂しそうだ。

「心配するな、ナユタはわたしの金剛家に入れてある」

「わーーい、見せて見せて!」

「ほら」

「どれどれ……あ、あったあった!」

 え、過去帳って死ななきゃ載せないはずだよ。その表情を読んだのか、少佐がしたり顔で言う。

「特殊なインクで、紫外線をあてると消える。死んだら正式に法名で書いてやる」

「え、でも、命日とか……」

「とりあえずは誕生日にしてある」

「ナユタ、ちょっと貸してくれる」

「はい」

「……え? なんで、あたしの名前が入ってんの!? それも少佐の横にぃ!?」

「お、知らなかったのか、俺と大尉は一日違いの誕生日なんだぞ」

「そーゆーことじゃなくってぇ!!」

「怒るなよ、夫婦なんだから(^▽^)/」

「え、え、そんなあヽ(`#Д#´)ノ]

「え、ご夫婦だったんですか!」

「あ、ちが……」

「と、いうことだか五人揃ってよろしく!」

 観音は困った顔をしながら、わたしの知らないお経をあげてくれる。

 なんだか、メチャクチャだけど、うちのお兄ちゃんは喜んでくれるかもしれない。 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まりあ戦記・050『三人姉妹』

2020-12-30 10:54:25 | ボクの妹

・050

『三人姉妹』   

 

 

 今日からは中原君といっしょに学校に行ってもらう。

 

 それだけ言うと金剛特務少佐は回れ右してエレベーターの方に歩き出した。

「え、ええ?」

 それだけ言うのが精いっぱい。ズカズカ進む後姿は『だまって俺に付いてこい』オーラが燦然と輝いていて、グイグイ引っ張って行かれる感じになる。

 ガチャリと音がしたかと思うと、中原少尉がドアを施錠。いつのまに入ったのか、手にはわたしの通学カバンとローファー。わたしは、ちょっと顔を出すぐらいのつもりだったからサンダルを履いているんだ。

 エレベーターの中では無言だったけど、エントランスから駐車場に行く間に少佐はガンガン説明……というよりは命じてくる。

「今日からは中原少尉ともいっしょに通ってもらう」

「え、どこに?」

「学校に決まってる。少尉、カバンを渡せ」

「はい!」

「あ、ども…中原さん、その姿!?」

 通学カバンを渡してくれた中原少尉は、いつの間にかトレンチコートを脱いでいて、あろうことか、わたしと同じ第二首都高の制服になっている。

「今日から同じクラスです、よろしくお願いします!」

「は、はあ……」

「高安大尉からくれぐれもと警護を頼まれている。いくらなんでも、わたしが高校生になるのは無理があるからなア」

「は、はあ……」

「同じ学校に通えば、おのずと気心も知れて万全の警護ができる。少尉、靴も履き替えさせろ」

「は!」

 ローファーを差し出され、その場で履き替える。

「人は足元を見る、まりあは少尉の足元を見過ぎたしな」

 ウウ……たしかに、中原少尉には迷惑かけた。

「今日は俺が学校まで送っていく、明日からはおまえたちだけで行くんだ」

 おまえたち……なんか違和感。

「さ、あれに乗れ」

 少佐は、駐車場の隅に停めたRV車を顎でしゃくった。

 ドアを開けて驚いた( ゚Д゚)!

 

「おはよう、おねえちゃん(^▽^)!」

 

 ビックリした! 後部座席にナユタが同じ首都高の制服を着てニコニコ笑っているしい!

「なんで、あんたが……」

 車に右足入れたまま固まってしまった。

「おまえたちって言ったろう、今日から、三人姉妹だ。はやく乗れ」

「三人姉妹?」

「さすがはまりあおねえちゃん!」

「な、なにが?」

「清純派の白パンだ」

「う(#'∀'#)」

 反射で左足も車内に突っ込んで、車に乗り込んでしまう。

「うお!」

 同時にRV車は急発進、反動でドアが閉まって、あっという間に駐車場を飛び出していく。

「さすがにアグレッシブ!」

「なにがあ!?」

「ふつう、ああ言われると、右足ひいて車から出ちゃうんだけど、まりあおねえちゃんは、とっさに乗り込んだ!」

「あ、ああ、たまたま、たまたまよ(^_^;)」

「グ、グフフフ」

 中原少尉が笑いをこらえている。今まで、あれこれやられたことをナユタが仕返ししているようでうれしいんだろうなあ……クソ!

 学校に着いて、さらに驚いた。

「なんで、着いてくるの!?」

 中原少尉とナユタがいっしょに階段を上がって来るのだ。

「同じクラスですから」

 少尉は緊張した笑顔で、ナユタは、その横でピースサインをしている。

 で、さらに驚いたのは階段を上がって角を曲がったところ。

「な、なんで……(;'∀')」

 教室の前に担任と並んで少佐が立っているのよ!?

「保護者として挨拶するんだ」

「え、ええ!?」

 保護者?

「じゃ、中に入ってください」

 担任がドアを開けると、クラスメートみんなの視線が集まる。

「今日から、安倍まりあが復帰します。それと、転入生が二人、このクラスに入ります。じゃ、お父さんから、お話を」

「特務旅団の金剛少佐だ、今日から娘三人が世話になる。向かって左から長女の阿部まりあは知ってるな、病気が治って復帰だからよろしく。その横が次女の中原光子、そのまた横が三女の冷泉なゆただ。三人とも苗字が違うのは養女だからだ。養父は、このわたし、金剛武。事情は察してくれ、じゃ、よろしくな」

 そこまで言うと、少佐はビシッと敬礼を決めて、さっさと教室を出て行った。

 教室のみんなは呆気にとられ、そのあと、三人それぞれ挨拶したんだけど、もう、なにがなんやら憶えていない。

 その中で、親友の釈迦堂さんだけが、興味津々と目を輝かせていたよ……。

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まりあ戦記・049『ドアスコープ』

2020-12-13 14:52:23 | ボクの妹

・049

『ドアスコープ』   

 

 

 久々に通学カバンを開ける。

 ハンドル(取っ手)に汚れの膜が張っているような感触。ファスナーも微妙に硬い。

 しばらく学校に行っていないので、脂や汚れやらに雑菌が繁殖したのかもしれない。アルコール消毒してもいいんだけど、学校に着くまでに手に馴染ませれば、すぐに元に戻るだろう。

 生きてた頃のお兄ちゃんみたいに無精。

 でも、いいんだ。

 ちょっと、あわただしく過ぎて行った月日を感じてみたい。

 ここに来てからは、ヨミとの戦いに明け暮れて、時間の感覚が無くなるほどのあわただしさだった。

 みなみ大尉にあたって脱走したり、担当の中原少尉を困らせたり。

 昨日、カルデラの切り欠きまで足を延ばしてナユタに出会った。

 ナユタは四菱のソメティのパイロット。いきなりヨミとの戦いに割り込んできて撃破すると、子どものようにハシャギまくって、正直ムカつくやつだった。

 そいつが、切込みに自転車を飛ばすと「せんぱーい(^▽^)/」と懐きながら付いて来て、石英の穴場を教えてくれたりして、無遠慮な奴だと思ったけど、ちょっといい奴だと思ったりした。

 久々の学校なので、気合いを入れてお弁当を作る。お弁当箱は、みなみ大尉からもらったケティちゃん。ちょっと子どもっぽいけど、ケティちゃんは中高生にも人気だ。これぐらいハズレたアイテムを使っている方がクラスのみんなには馴染みやすいだろ。

 スマホを出して自分の3Dホログラムを出す。

 1/6サイズの自分の姿が浮かび上がる。これだと鏡じゃや見えないところまでチェックできる。ちょっとナルシスティックだけど、久々の学校なんだからね。

 ……うん、ホログラムで見る限りは今どきの女子高生だ。

 二度ばかり肩の力を抜いて「よし」と声をかけて玄関へ、ノブに手をかけようとすると……

 ピンポーーン

 後ろでドアホンの鳴る音。

 どっちにしようと悩んでドアスコープを覗く。

 ドアホンの映像はフェイクをかますことができて、出てみたら全然ちがう人だったりするので、みなみ大尉から、必ずドアスコープでも確認するように言われているのだ。

 ドアスコープの向こうに居るのは中原光子少尉(^_^;)。

 ほら、わたしの監視役というか世話係というか、担当さん。訓練中にかんしゃくを起こしては、何度も困らせてしまった。軍用のトレンチコートを着て律儀に敬礼して、精一杯の作り笑顔。全身から任務に忠実であろうとする軍人精神と、持って生まれた人の良さがせめぎ合っていて、気の毒という気持ちと面白いという好奇心の両方が湧いてくる。

 ドア一枚隔てて、五十センチに満たないところに立たれては居留守もできないよ。学校に行く時間も迫ってるしね。笑顔を作ってドアノブに手を掛ける。

 ガチャリ。

「中原さ……」

 笑顔が引きつった。

 ドアスコープからは死角になったところに金剛少佐が立っているではないか(;^_^。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まりあ戦記・048『ナユタのおへそ』

2020-12-06 14:42:32 | ボクの妹

・048

『ナユタのおへそ』   

 

 

 カルデラの天辺まで5メートルという岩場のテラスまで上がった。

 

「天辺までは上がらないの?」

「天辺だと、夕日が強すぎて石英の輝きが鈍くなるの、ここらへんが一番きれい。ほら、あそこ」

 ナユタが指差した谷底には、谷底の筋に沿ってキラキラ光る石英の群落が見える。

「ああ……」

 ビックリマークが出るほどには驚かない。

 期待が大きすぎたのか、夕陽を含んで茜色に輝く石英群を、それほどきれいだとは思わない。手をかざしながら西の地平線に迫りつつある夕陽が雲を染めているほうがきれいに思える。

「あ、もう十二月だっけ……?」

「うん、えと……」

 とっさに日付までは出てこないので、スマホを出して確認する。

「あ、もう六日」

「そっか……日差しの入射角とかが影響するらしくって、冬の間は輝きが弱いんだよ。また、こんどかな」

「そうなんだ」

「先輩『もう六日』ってゆったけど、知らないうちに日付が進んだって感じ?」

「うん、いろいろ忙しかったしね」

「いっしょだね、所属は違うけど、ヨミのためにこき使われてるってのは同じだもんね」

「あんたは、どこの所属なの?」

「ヨツビシだよ」

「民間なの?」

「まあね、特務旅団でもやりにくいような開発とか実験とかをやるセクション。開発室って呼んでる」

「あんた……」

「ああ、その『あんた』ってのは止してほしいかな」

「あ、じゃあ、ナユタ」

「それもコードネームなんだけどね、ま、いいや」

「本名じゃなかった?」

「えと……本名はカンベンってことで」

「うん、いいよ」

「ここに来るまでは、京都に住んでてね、鞍馬の麓んとこ」

「京都にしては、訛ってないんだ」

「うん、あんまり人と付き合いなかったし。あ、今度、メールとかしていいっすか?」

「うん、いいよ、番号交換しとこうか」

「うん」

「あれ?」

 ホルダーを開いてみると、すでに『ナユタ』の名前で番号が入っている。

「てへ、ちょっとフライングしちゃった」

「ハッキングの能力とか?」

「ちょっと、嬉しくなっちゃったりするとね(n*´ω`*n)。あ、先輩のは送ってくれないと登録できないし」

「そう、じゃ……スマホは?」

「ナユタのはウェアラブルみたいなもんだから、送ってくれるだけでいい」

「そう、じゃ、送るよ……」

「はい、受け取りました」

 用事がすんだスマホを戻そうとしたら、バッグがパンパンで入らない。

「キツキツなんだ」

「仕方がない……」

 ポケットの過去帳と入れ替えにすることにする。

「え、それ、なんですか?」

「あ、過去帳」

「過去帳? 先輩の黒歴史とかっすか!?」

「違うわよ。うち浄土真宗だから、亡くなった身内は、ここに書いておくのよ」

「見せてもらっていいっすか?」

「え、あ、うん、いいわよ」

 手をパンツの脇で拭くと、気を付けして両手で受け取った。

「なんか、月別になってるんですね……え、先輩って中国の人だったんすか?」

「え、なんで?」

「釋 善実……読み方分かんないけど、こういうのって中国とか半島とか?」

「アハハ、法名って言ってね、死んだらお坊さんが付けてくれる、まあ、戒名みたいなもの」

「そうなんだ……で、なんて読むんですか?」

「シャクゼンジツ、あたしのお兄ちゃん」

「お兄ちゃんっすか!?」

「うん、生きてたらいっこ歳上なんだけどね」

 ナユタは顔を近づけ、指で愛しむように俺の法名を撫でやがる(n*´ω`*n)。間近で見ると、まだまだ幼さの残る顔立ちをしていやがる……か、かわいいぜ!

「ありがとう」

 過去帳の俺はスマホと交代にバッグの中に押し込まれてしまう。

「そうだ、この辺にも石英の欠片があって……ほら、あそこ!」

 見上げると、二メートルちょっとのところに光るものがある。

「あれ?」

「うん、ヨミのパルスショックで出来たものだから、飛び散ったのがね…手に取ってかざしてみると、とてもきれいで、ちょっと取って来る!」

「あ、大丈夫?」

「へいきへいき!」

 猿のように岩肌をよじ登るナユタ。

 カットソーがめくれ上がって、下から見守っているとブラまで見えそう……石英を取ろうとして体を捻ると笑いそうになる。なにのお呪いか、おへその所が絆創膏が✖の形に張り付けてあった。

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まりあ戦記・047『ナユタといっしょにヽ(#`Д´#)ノ』

2020-11-30 13:32:56 | ボクの妹

・047

『ナユタといっしょにヽ(#`Д´#)ノ』   

 

 

 自転車の腕は、わたしよりも上のようだ。

 

 追いついてくるとニコニコしながら、ピッタリとわたしのオレンジの横に付けてきた。

 コノヤローと思って、グッとペダルを踏み込むと、ナユタも同時に加速して、十センチも引き離せない。

 ギュンとブレーキをかけても、ほんの五センチほど飛び出すだけで、一秒もかからずに横に並ぶ。

「アハハ、意地悪だなあ先輩!」

 先輩になった覚えは無いので、グイッと左に寄せてから急激に右に戻して右側の路側に寄せる。路側は崖っぷちになっていて、寄せすぎると落ちそうになる。

「おっと」

 さすがに後退……したかと思うと、グイッと加速してクイっとハンドルを操作して、わたしの左側にせり上がって並走。その勢いのままにわたしを路側に追い詰めてくる。

「フン」

 させてたまるか……ポーカーフェイスで減速してナユタのケツに回って、再びやつの左側に迫る。

「アハハ、二人で編隊組んだら、無敵になると思わないっすか!?」

「なんで四菱のソメティなんかと!」

「だって、ピッタリ呼吸合ってるしぃ!」

「もう、向こう行けよ! 今日は散歩で走ってるだけなんだから!」

「先輩、切り欠きの石英観に行くんでしょ?」

「だったら、どうなの!?」

「案内するしぃ! 初めてだと本命のは見つけられないっすよ!」

「なんでだ?」

「まあ、あたしに付いて来て!」

 言うと、グッとペダルを踏み込んで、あたしの前に出る。

 これをチャンスにオサラバしてもいいんだけど、ここでブレーキをかけては負けたことになるような気がした。

 

 え、谷底じゃないのか?

 

 谷底で自転車のスタンドを立てると、ナユタは、左側の岩場をヒョイヒョイと登っていく。

「物は谷底にあるんだけど、きれいに見えるのは、この上なんだ。あ、崖がきびしかったら、下からオケツ押すけど?」

「どうってことないわよ!」

「じゃ、この上五十メートルほど登ったとこだから、ほら、あの木が茂った岩のテラス!」

 目的地点を指さすと、おまえは猿か!? という素早さで登っていく。

 こいつ、ただのモテカワじゃないなあ、クソ!

 ナユタの尻を見ながら登っていくのは忌々しいけど、ここまで来たんだ、目的の石英、いや、石英の輝きは見て行こうと思う。

 頭上の岩を掴もうと手を伸ばすと胸に圧迫感を感じる。

 そうだ、お兄ちゃん(過去帳)を胸ポケットに入れてきたんだ。

 むむ……ここからだとテラスに着くまでナユタのオケツばかり見ることになる。

「せんぱーい! 早くう!」

「すぐに追いつく!」

 お兄ちゃんをボディバッグに入れ直して、テラスに着くころにはナユタと並ぶあたしだった。

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まりあ戦記・046『B区の切り欠きを目指して』

2020-11-20 06:04:50 | ボクの妹

・046

『B区の切り欠きを目指して』   

 

 

 ま、いいんだけども釈然としない。

 

 釈迦堂観音(しゃかどうかのん)からのメールに――ありがとう、また会いたいね――と返事を打ってため息をついた。

 影武者のマリアが学校で襲撃を受けた。あれから半年、まりあは学校に行っていない。

 だって、あの襲撃で死んだことになっている。

 影武者のマリアは損傷が激しいので、リペアしてもソックリと言うわけにはいかずに退役してしまった。

 家がお寺で、自身副住職でもあるカノンは、僧侶の勘だろうか、まりあの生存に気づいて連絡をくれる。

 

 先日のヨミを撃破したのは『そいつ』……あれからナユタだという名前とツインテールが良く似合う高校一年生だということが分かった。

 四菱のソメティという機体に乗ってヨミを蹴散らしたということで、そのモテカワのルックスと相まって学校の人気者だというこらしい。

 え、学校に通ってるの?

 疑問に思うと、タイミングよく写真が送られてきた。

 なるほどね。

 ソメティの搭乗者でなくても、これなら男子は放っておかないだろう。

 

 いやいや、そういう意味じゃないんだ(^_^;)

 

 あの戦いはウズメがヨミHPを削り倒し行動不能にしたところにトドメを刺したというのが事実だ。

 それが、まるでソメティが小気味よく攻撃を仕掛け、鈍重なウズメは、ほとんど後れを取ってる的な報道になっている。

 テレビやネットの動画を観ても、ほとんどソメティのアタックばかりが報じられている。

 真実を報じないことに違和感を感じるのであって……ああ、もうやめた!

 

 みなみ大尉に連絡をして二時間の外出許可をもらった。久々に愛車のオレンジを引っ張り出し、ベースの周辺を走ってみることにしたのだ。

 ベースの周辺と言ってもカルデラの中、周囲は外輪山に囲まれていて、巨大なんだけども、すり鉢の底を走っている窮屈さは否めない。

――今日も一周は無理か――

 ヨミの浸食と言ってもいい攻撃で、カルデラのあちこちは穴ぼこだらけ。運用に差し障りのあるものは直ぐに修復されるが、そうでないものは『危険 立ち入り禁止 特務旅団』の札が立つだけで事実上放置されている。規模の大きすぎるものはベースの施設を移転した方が早いので、これも放置されている。

 まあ、B区まで行って引き返すか。運が良ければ外輪の切りかきに沈む夕日が拝めるかもしれない。

 ベース内には様々なジンクスがあって、その一つがB区の切り欠きだ。

 きれいなV字になっていて、Vの底に大きな石英があるとかで、季節と時間と運が良ければ虹のように煌めく夕陽が拝めるんだそうだ。

――いっちょう、行ってみるか!――

 決心してペダルを踏む足に力を入れる。

――わたしもおおおお!!――

 後ろで声が掛かる。

 ちょっと驚いて振り返る。

 ゲゲ!?

 そいつ……ナユタがツインテールをはためかせながら付いてくるではないか!?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まりあ戦記・045『――どんなもんよ!――』

2020-11-19 05:51:04 | ボクの妹

戦記・045

『――どんなもんよ!――』    

 

 

 ヨミの狙撃を避けるために、ほとんどトップスピードのまま地上スレスレを飛び回り、指定されたポッドを掠めるようにしてアサルトライフルをキャッチする。

 そいつのアサルトよりもイカツクて、ほとんどウズメの全長ほどもある。

 ちなみに型式は四菱38式、通称サンパチ。

 77ミリ徹甲弾500発、フルオートで速射すれば二十秒ほどで撃ち尽くしてしまう。カートリッジを三つ持てば2000発撃てるが、重量過多で動きが鈍くなるし、リセットの時間が新らしいアサルトをキャッチするよりも時間がかかる。

 本当を言えば内蔵されているパルスを使いたい。レベルは使ったことのないギガパルスも含めて四段階。

 いちいちポッドからキャッチすることもなく連続使用できる。

 しかし、様々な理由から装着武器を使わざるを得ない。

 パルスを使うことによるエネルギーの消耗、わずかに姿勢制御が甘くなり、強力であるがゆえに外れ弾の影響、機体の損耗等々。

 真の理由は、無視できない産軍複合体への思惑……。

 

 食らえ!

 

 カルデラの山腹を蹴った勢いで、ほとんど180度の進路変更をしてヨミとの反航戦に持ち込む。

 彼我の合成速度はマッハ3を超える。

 つまり、アサルトの77ミリ弾は弾速のマッハ2を加えたマッハ5でヨミを捉え、やつのボディーをイカヅチのごとくに叩いて数秒間の行動不能に陥らせる。

 そこでダメ押しのアタックを掛けられればいいのだが、たいてい弾切れになり新しい携帯兵器をキャッチしなくてはならなくなる。

 ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド

 軸線が合ったところで十二連射! 全弾命中!

 そこで弾切れ、逆放物線を描いて次のアサルトをキャッチ。

 今の全弾命中でヨミは三秒は静止している。数発はコアをぶち抜いているので、運が良ければ次で仕留められる。

 キャッチしたアサルトのセーフティーを解除したところで熱線を感じた。

 ズガーーーン!

 続いて衝撃! ヨミのリペア機能が追い付かず爆砕したのだ。

 え……まだ撃ってないぞ?

 三時の方向に首をめぐらすと、そいつが空中でガッツポーズをとっている。

 

――どんなもんよ!――

 ダダダダダダダダダダダダ(^▽^)/ ダダダダダダダダダダダダ(^▽^)/ ダダダダダダダダダダダダ(^▽^)/

 

 そいつはアサルトの残弾を空に向かって打ち上げて、子どものように飛び回っている。

 なんなんだあいつは!?

 

 まだ一発も撃っていないアサルトが、とてもお荷物に感じるまりあであった。 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まりあ戦記・044『そいつ!?』

2020-11-18 06:54:12 | ボクの妹

まりあ・044

『そいつ!?』   

 

 

 四菱のCM撮影に付き合ったので三十秒のロスが出た。

 

 むろん進んで付き合ったんじゃない、司令さえ従わざるを得ない軍産複合体への屈折したイラ立ちからであった。

 えーーと……。

 三十秒前には目視できたヨミの姿が見えない。

 0.5秒遅れて、バイザーコンソールの隅、ヨミの存在を示すドットに気づいた。

 三十秒前とは逆方向の丘の陰になっていたのだ。

 なんで?

 これまでの戦闘でヨミを見失ったことなど無かった。ぬかったか!?

 CM撮影と、それに付き合ってしまった自分がが恨めしい。

 一瞬思ったが、すぐに気を取り直しアサルトライフルを構え直す。

 

 ゴーーーーーーーー!

 

 構え直したライフルの先端を何かがかすめた。

 ドーーーーーーーン!

 反射的に首をすくめると、丘の向こうから衝撃波がやってきた。

 衝撃波に続いてヨミが煙を吐きながら燕のように急上昇、その後ろを赤い人型兵器が追っていく。

 人型兵器はウズメよりも二回りほども小さく、蜂を思わせる軌道を描きながらヨミに迫っていく。両手で抱えたアサルトはウズメのそれよりも小型に見えたが、それでも子供が大人用のそれを構えているような滑稽さがある。

 それに、なによりそいつはバイザーコンソールには映っていない。

 

 なに? ステルス!?

 

 ステルス効果はヨミに対しても有効なようで、ヨミが発する対空ビームは大きくバラけている。

 そいつはヨミと並行になって初めてアサルトの引き金を引いた。

 

 ドドドドドドドドド!

 

 速射タイプのアサルトは確実にコアに当てているようで、シールドの破片が飛び散る。

 ヨミのシールドは高いリペア機能があるので、小口径の弾を食らわせても回復が早い。早いが、この局面だけを見ていると、圧倒的にそいつが強いように見える。

 数発がリペアの間隙を縫ってコアを貫通、ヨミのコアからは血しぶきが上がり二筋ほど煙が尾を引いている。

――あれじゃ、バレルが焼きついて使い物にならない、弾だって……――

 懸念した通り、そいつはアサルトをパージして、直近のポッド目がけて急降下に入った。

 

――なにボサっとしてんのよ! 次はあんたの番でしょ!――

 

 え、ええ!?

 

 いきなり、そいつの思念が飛び込んできて、まりあは、そいつとヨミの間に割り込んだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まりあ戦記・043『三か所のカメラ 二機のドローン』

2020-11-17 05:24:39 | ボクの妹

・043

『三か所のカメラ 二機のドローン』   

 

 

 イラ立ちの原因は予感だ。

 

 ウズメはパルスという固有兵器を内蔵している。パルスの出力は臨機応変に変えられる。

 肌に密着するコネクトスーツはまりあの筋電や脳波をリアルタイムで拾って、ウズメのアクティビティーを制御している。

 だからこそ、まりあはウズメを意のままに動かせる。

 リアルで喧嘩したとして、相手のパンチを屈んでかわしながら、お返しのフックを炸裂させるとかするのは、ほとんど反射運動だ。

 パルス攻撃も同様で、呼吸するような自然さの中で発揮される。

 しかし、まりあは、その自然さを封じられているのだ。

 カルデラの周辺に配置された携帯兵器をリリースすることを義務付けられている。

 いちいち拾って装着し、攻撃姿勢をとらなければ使えないので、タイムロスが大きいだけではなく、戦いのテンポを崩されて、はなはだ精神衛生に良くない。

「今度のヨミは成熟体ではない、二度ほど装備を替えれば仕留められる」

 司令は、そう言って出現したばかりのヨミが映されているモニターを指さした。

 確かに、体のあちこちがいびつでバランスが取れていない。装甲も均一ではなく、一部はムーブメントが透けて見えるほどに薄い。

 

――アサルトライフル装着!――

 

 指令が届くと同時にカルデラ南端のポッドからライフルが射出された。

 ライフルが高度二百メートルに達し、上昇速度を失う寸前にキャッチし、セーフティーを解除すると同時に初弾を装填する。

 反動をつけて高度をとろうとすると指令が入る。

――もう一つリリースする、二丁拳銃でやってくれ――

 

 チ!

 

 舌打ちはしたが、分かってる。

 地上のポッド周辺に三か所カメラの反応がある。ドローンも二機待機していて映像を撮っている。

 ライフルを製造している四菱工業がPR映像を撮っているのだ。

 たぶん司令の横にはディレクターが居て「二丁拳銃でいきましょう!」とか言い出したんだろう。

 

 じゃ、サービスしてあげる! 

 セイ!

 

 背筋を伸ばすとウズメは跳躍して二丁のライフルを放り上げ、新体操のバトントワリングのように旋回を加えた前転でキャッチして決めポーズ!

 周囲のカメラが撮りやすいように、それぞれのカメラに向かって三度決めてやった。

 地上でカメラマンが親指を立てるのが分かった。

 まりあも親指を立てて応えたが、このまま親指でカメラマンをダニのように潰してやりたい衝動に駆られるのであった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まりあ戦記・042『大尉とまりあのイラ立ち』

2020-11-16 06:28:31 | ボクの妹

・042

『大尉とまりあのイラ立ち』    

 

 

 疑似ペーパーチケットは、ゲート横のマシンにスマホをかざせば記録され、列で待っている家族や恋人の所に戻ってゲートを潜ると、自動改札に似たディスペンサーから疑似チケットが吐き出される。

 これだと、ほんの数分列に並んで入場を待つという体験ができる。

 たいていの客は、それで入場する。

 金剛少佐は完全アナログで、チケットを買うところから並んで、アナログチケット専用のゲートを使う。

 おかげで待ち時間は十五分ほどと、疑似ペーパーチケット組の五倍ほどの時間がかかる。

「だって、おかしいだろ。入場してからチケットを受け取るなんてさ。親とか恋人が列に並んで買ってきたチケットを手に取って『ああ、これから入場するんだ!』というワクワクを感じて入るのが仕来りだ。な、これから楽しむんだって気になってきたろ?」

 少佐の言うことは分かったが、I lobe You! のネオンサインが背中で点滅するスタジャンを着せられているみなみ大尉は面白くない。

 

 ウズメの発進を数分後に控え、数日前のサンオリデートのことを思い出していたのは、やっぱり腹立たしかったのか、意識の底で楽しかったと思っているのか区別がつかなくなってきているせいかもしれない。

――システムオールグリーン、インターフェースクリアー、リリースインジェクション完了――

 ヨミの変異体が数週間ぶりに出現。バージョンアップしたCISからのオペレーションは快適でさえあったが、先日サンオリで並んだ時のようなイライラがある。

 リリースチーフの自分がこんなことではいけないと思う大尉であったが――おや?――と思った。

 

 まりあのコクピットコンソールも、まりあのイラ立ちを示すゲージが上がっているではないか……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まりあ戦記・041『ケティのスタンドバイミー』

2020-11-15 06:21:31 | ボクの妹

・041
『ケティのスタンドバイミー』    


 

 えーーーなに考えてんのよ!

 頭のてっぺんから声が出てしまったみなみ大尉だった。


 金剛武特務少佐が、いそいそと大尉を誘ったのはサンオリのケティランド、そのデコレーションケーキのようなゲートの前だ。

「小さいころにケティちゃんで遊んだことないかい?」
「ないわよ! 五歳の時にヨミの浸食が始まって、逃げ回ってばかりだったんだから!」
「だったら、ちょうどいい。オレ入場券買ってくるから」

 

 意外だった。たいていのアミューズメント施設はスマホなどの携帯端末で入場券を買うのが常識だ。
 チケット売り場に列をなして入場券を買うなんて古典的な設定は映画やドラマの世界にしかない。

 それでもスマホのデジタルチケットをアナログなペーパーチケットにしたい人はいるので、それなりの列は出来ている。

 でも、金剛少佐のように一からチケットを買おうというのは、システムを理解していない八十歳以上の老人か、よほどの好事家である。

 で、ゲートの前には、お父さんや彼氏が疑似アナログチケットに交換するのに並んでいる間、ワクワクしながら待っている家族連れやローティーンの女の子が結構いる。
 実際より若く見えるとはいえ、自分と同じ年頃の女性は、みんな子供連れの母親だ。
『ね、あの人のスタジャン『ケティのスタンドバイミー』の……』
『ほんとだ、あれはシブイよねー』
 そんな会話が聞こえてきた。どうやら自分のことを言っているらしい。さりげなくゲートのガラスに映る姿をチェックする。

 大尉が着ているのは、先日、少佐に押し付けられたデート用の衣装だ。

 スタジャンは、裏地こそピンクのチェック柄だが、表はカーキ色のタンカースジャケットだ。ちょっとレトロだけども、年齢に関係なく着られるアイテムで、ここで待っている人たちの中にも似たようなものを着ている人が結構いる。あまり目立たない衣装なので、すっかり安心していた。

 

「あのう、突然ですみません!」
 高校生ぐらいの二人連れの女の子が声を掛けた。
「え、あ、はい!」
 女子高生みたいな返事をしてしまった。
「そのスタジャン、どこで買ったんですか?」
「ぶしつけですみません!」
 二人は目をキラキラさせていて、周囲の人たちも憧れのまなざしで見ている。なんとも居心地が悪い。
「あ、えと、人からもらったものなんで……」
「そーなんですか!」
「ひょっとしてプレゼントしてくれた人って、いっしょに来てます?」
「あ、えと、それは……ていうか、この地味なタンカースジャケットが、なんで?」
 周囲の人たちから笑い声が上がった。
「あの、そのスタジャンはですね『ケティのスタンドバイミー』って不朽の名作でですね、あーーー思っただけで涙があーーー」
「えと、ケティちゃんが家出してですね、家出にはふかーい訳があるんですけど、ウウウウウ……」
「グス、けつろん言いますとね、ケティちゃんが彼の愛情に気づいた時に、なんでもないスタジャンに愛のシグナルが現れるんです」
「シグナルは、気づいて現れるんですけど、彼氏が、すぐそばにやってくると輝きを増すんです!」
「あーーー、でも、これはただの……」
 大尉が見た限り、ただのタンカースジャケットなのだ。

 オーーー!!

 その時、周りの人たちから感嘆の声があがった。
「せ、背中です、背中!」
「いま、輝きが!」
 大尉は、ジャケットを脱いで背中を見てみた。

 背中には、ケティの満面の笑みと I love You! の文字がキラキラ輝いていたのだ!

 人だかりの向こうには、少佐がニタニタ笑って二枚の入場券をヒラヒラ振っていた……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まりあ戦記・040『金剛武特務少佐』

2020-11-14 05:33:40 | ボクの妹

戦記・040
『金剛武特務少佐』     



「わかったわ、あたしがなんとかする」

 大尉は、そう言ってやるしかなかった。


「ありがとうございます、やっと本務に戻れます」
 中原光子少尉は、せいいっぱい微笑んで礼を言ったつもりだが、くぼんだ目は、その疲れたクマに縁どられ痛々しいばかりである。
 まりあの御守りと尾行を頼まれてひと月になるが、毎度振り回されてばかり。かと言って責任感の強い少尉は、いいかげんなこともできず憔悴していくばかりであったのだ。

 ドタン!

 デスクに向き直ったところで、ドアの外で倒れる音がした。
「中原少尉?」
 廊下に出ると中原少尉が気絶している。まりあの任務から解放された安堵から気を失ってしまったのだ。
「急を要するなあ……」
 軍用スマホを取り出すと、大きなため息をついて、あの男を呼び出した。

「おう、みなみ、嫁になる決心がついたか」

 士官用サロンに入ってくると、ガムを噛みながら大尉の横に腰を掛ける男。
 軍服を着ていなければ、このニヤケタおっさんは、とっくに保安隊に身柄を拘束されていたであろう。

「肩に手を回すの止めてもらえます」
「やれやれ、プロポーズの返事じゃないようだ」
「横じゃなくて、前に座ってください」
「気乗りはしないが、仕事の話だな」
「少佐、まりあの監督をお願いします」
「未成年には興味はないんだが」
「任務です。なんなら司令の命令書を用意しますが」
「そういうシャッチョコバッタことは御免だね。高安みなみの頼みでなきゃいやだ」
「だったら、高安みなみとしてお願いします。まりあの面倒みてやってください」
「まあ……いいだろ。でもな、結婚の約束をしろとは言わないけども、一度、その軍服を脱いで付き合ってもらえないかなあ」
「考えときます」
「そりゃないよ、半日でいいから付き合えよ」
「半年先まで任務で埋まってますから」
「空きができればいいんだね」
「だから、半年先まで……」
「大丈夫」
 少佐は軍用スマホを取り出すと、軽くタッチをして、画面を大尉に見せた。
「四日後、みなみ君は一日休暇だ」
「あーーーダメじゃないですか、師団のCPに侵入なんかしちゃーーーー!」
「僕は、ベースのCPの保守点検を任されているんだ」
「それって公私混同!」
「任務の目的は、旅団全体の任務処理の円滑化だ。君の休暇は、その円滑化に無くてはならないものなんだよ。この金剛武特務少佐のやることに無駄は無いぜ。なんなら正式な命令書にするけど」
「もーー、じゃ、二時間だけ付き合います」
「え、休暇は丸一日なんだぜ」
「久々の休みなら、美容院にも行きたいし、その、だいいち着ていく服もないから買いに行かないと」
「なら、この服を着ればいい」
 少佐は、シートの横から紙袋を取り出した。
「え、えーーー!」
「この流れは想定していたから用意しておいた。美容院はこれ……」
 なんと美容院のメンバーズカードを出した。
「みなみ君の名前になってる。サロンマツコ、当たり前なら三か月待ちだよ。時間は三日後の三時、その日の演習プログラムの確認はもうやっておいたから、六時までは時間が空くはずだ」
 みなみ大尉は歯ぎしりした。
「でも、半日、三時間が限度です!」
「どーして? 丸一日休暇なんだぜ」
「あたしの心の限界なんです!」
「そっか……ま、それでいいよ」
 少佐は、しょんぼりと肩を落とした。
「あ、いや、その間はきっちりお付き合いします。高安みなみに二言はありません」
「それはよかった! 三時間あれば子どもを作るのには十分だ!」
「しょ、少佐あーーーーヽ(`#Д#´)ノ!」
「じゃ楽しみにしている、お互い任務に戻ろう!」

 金剛武特務少佐はスキップしながらサロンを出て行った。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まりあ戦記・039『司令の息抜き・2』

2020-11-13 05:29:27 | ボクの妹

・039
『司令の息抜き・2』   



 酔っぱらい⇒飲み屋のアルバイト女子⇒飲み客⇒コンビニ店員男子⇒コンビニ客の少女

 まりあが後をつけている間も四回入れ替わった。
 いずれもアクト地雷(炸薬は抜いてあるので、ただのアンドロイド)で、司令が捨てた後は、普通に初期設定の人物として行動している。

 いま司令はコンビニ客の少女になっている。

 少女はレジ袋をプラプラさせながら公園を斜めに横断しようとしている。
――今だ!――
 まりあはダッシュすると少女を捕まえて、公園で一番大きな木の上に跳躍した。
「なにするのよ!」
 少女は文句を言ったが、逃げようとはしなかった。どうやら、この高さから落ちれば故障のおそれがあるようだ。
「普通、こういう状況では、悲鳴をあげるわよね」
 少女はシマッタというように表情をゆがめた。
「司令だと言うことは分かってます」
「……どこで気づいた?」
「それは言えません。あたしの脱走ルートが分かっちゃうから」
「まりあも賢くなったな」
「司令の娘だもん」
「わたしはとんだ間抜けだったな」
「お兄ちゃんの父親だもん」
「口も上手くなった」
「司令も脱走ですか?」
「見逃してくれたら、今夜のことは黙っていてやるが」
「聞きたいことがあるんです」
「もう一回乗り換えたら、今夜の目的が達せられるんだがな」
「質問に答えてくれたら、この木から下ろしてあげます」
「やれやれ、半年ぶりの息抜きなのになあ」
 司令は髪をかきあげた。実に様になっていて、仕草だけならヤンチャな中三くらいの少女だ。
 まりあは、この仕草が答えてくれるサインのように思えた。

「どうして効率の悪いレールガンなんか使わせるの?」

「特務師団がアマテラス(日本政府のマザーコンピューター)の支配から独立していることは知っているだろう」
「うん、だから余計に思うの。なんでまどろっこしく携帯兵器を取り換えるのか。デフォルトのパルス弾を使えば時間もかからないし犠牲も出さずにすむでしょ」
「それがアマテラスとの交換条件なんだよ」
「交換条件?」
「旅団の独立性を保証する代わりに、最先端通常兵器であるレールガンを使うという」
「それって、軍需産業との癒着?」
「これ以上は勘弁してくれ、これが現状では最高の体制であることは確かなんだ。さ、もう下ろしてくれないか」
 司令の目は――ここまでだ――という光を放っていた。
「分かった」
 一言言うと、まりあは木の上から司令を突き落とした。
「ノワーーーー!」
 素早く飛び降りたまりあは落下してくる司令を木の下で受け止めた。
「こういう時は『キャーーーー!』って悲鳴を上げるもんよ」
「化けているのはカタチだけだ」
 司令はスタスタと公園の出口を目指した。
「最後にひとつ」
「なんだ?」
「その義体の名前はなんていうの?」
「……時子だよ」

 意外な名前に言葉を失うまりあだった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする