大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・271『酔っ払いでいっぱいになる前に温泉に』

2025-01-24 12:34:00 | 小説4
・271

『酔っ払いでいっぱいになる前に温泉に』 東鈴 




 そのガキはジョッキと唐揚げを載せた小皿を持つと――気分わるい!――という感じで二つ隣りのテーブルに行ってしまった。

 それから30分ほど配膳やら厨房の手伝いをすると、臨時に召集されたアルバイトの子たちがやってきて、お岩さんたちと小休止。

「さっきの子はねえ、ああ見えても扶桑科学研究所の主任研究員なんだよ。むろん立派な大人さ」

「あのチビッ子が?」

「おお、テルって言ってよ、なんかの調査の為に昨日来たばっかりだ」

「調査?」

「ああ、なんでも、こないだのノモンハン事変の調査をするのに協力して欲しいって、殿下と交渉中なんだよ」

「モンゴルのやつらは気難しい、いきなり火星のチビッ子が行ったって協力なんかしてもらえねえしな」

「ああ、そう言えば、戦場にこっちの元帥……あ、いまはマイさんだったけ来てたわね」

「おお、青銅の騎士が気になるってマイさんが言うもんでよ。ハナもメグさんといっしょに行ってたんだぞ」

「ええ……あ、マイさんのそばでチョロチョロ駆けまわってるのいたあ!」

「チョロチョロ言うなあ」

「ああ、ごめんごめん(^_^;)」

「青銅の騎士って、ちょっと頑丈なだけのポンコツだったんだろ。マイさんも取り越し苦労だったみたいな様子だったし……あ、市長」

 お岩さんが振り向いた先、厨房の裏口から半身を覗かせているバーコードのオッサンが「あ、どうもぉ」という感じで手を振っている。

「紹介しとくよ、こっち西之島市市長の及川軍平さんだ。こちらは孫大人の秘書で東鈴。たった今までフロアのヘルプやってもらってたんだ」

「あ、どうも、市長の及川です……」

「え、リアル名刺! 初めて見ました!」

「アハハ、ちょっとしたこだわりでして。インパクトあるでしょ(^○^;)」

「なんで裏口から入ぇってくんだよ、市長なら堂々と表からくりゃいいのによ」

「いや、厨房から少し観察……いや、変な意味じゃないですよ……よし、じゃあ、いきますか」

「今夜は泊っていきなよ、この分じゃ朝まで飲んでいそうだし」

「はい、いま、その決心をしたところです。素面に戻るのは明後日になりそうですから、またいずれ東鈴さん(^_^;)」

 けして役人的なそれではない笑顔を見せてフロアに行く市長。ググると元は国交省のキャリア官僚。西之島の市長になるにはいろいろあったんだろうなと想像する。

「そうだ、バイトの子たちも来てくれたし、ひとっぷろ温泉に浸かってきたらそうだい。夕方になったら酒臭いやつらでいっぱいになっちまうからさ」

「え、いいのか!?」

「いいさ、神社の方も神主があのざまだし」

 なるほど、シゲジイ神主は真っ赤な顔で孫悟や殿下とできあがってしまってる。


 カッポーーーン  ザザザザーーーー


 それだけで心がほぐれそうな音にひかれて温泉に浸かる。

 西之島は火山島なので、島のどこを掘っても温泉が湧き出そうなものだけど、地下水に限界があるので、自然なままで温泉になるところは意外に少ない。

「ここはよ、落盤事故の始末してる時に見つかった温泉でよ、戦争で整備が遅れてたのをやっと完成させたとこなんだ」

 説明してくれながらクルクルと裸になるハナ。巫女服の時は気づかなかったけど、胸から下、太ももの途中までの肌がツギハギでケロイドになっているところもある。アッケラカンとはしているけど、壮絶な人生を送ってきたことが偲ばれる。

「あ、ごめん。まだ皮膚の再生済んでないとこがあってよ、まあ、風呂に浸かったら見えなくなるからカンベンな(^_^;)」

「あ、ううん」

「メグさんとかは、さっさとやっちまおうって言うんだけど、あの手術は半日以上かかってよ、術後も激しい運動はダメとかカッタルくってよ、ノビノビにしちまって。まあ、性格の方はノビノビしてっからカンベンだ」

「プ( ´艸`)」

「あ、シャレるつもりはなかったんだけどな……東鈴はきれいな肌してんなあ……触っていいか?」

「うん、、いいよ」

「じゃ、ちょっとだけ……スリスリ……スリスリ……このスベスベ感は並のもんじゃねえなあ」

「あ、そうかなぁ」

 と応えながら、自分でもハッとする。鈴麗の一部を移植してから、どうも体の一部が変化しつつある。でも、それはマイナーチェンジ的なもので、自己点検しても特段驚いたりするものでもなく、驚いたり興味を持つものでもないと放ってある。

 入口の方で人の気配、目を向けると湯気の向こうに幼児体形のシルエット。

 一発で分かって、取りあえずお詫びを言う。

「さっきはすみませんでした!」

「ヒ!」

 いきなりだったのでビックリしてツルリンと滑った。

 ザバ!

 ハナがワープするようなスピードで飛び出し、転倒しきる前に幼児体形を助けた!


 
☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)

村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

 
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銀河太平記・270『島守睦仁とアルアル悟兵』

2025-01-21 11:31:22 | 小説4
・270

『島守睦仁とアルアル悟兵』 東鈴 





 にぎやかに氷室神社に参拝した後、そのままお岩食堂で歓迎会になった。


 お岩食堂は、カルチェタランのフロアと同じくらいの広さなんだけども、壁や天井に増改築した跡が見えて、氷室カンパニー(行政区的には南区らしい)発展の様子がうかがえる。

 悟兵が見せびらかすように、ゆっくりと筋斗雲を着陸させたこともあって、食堂は、とりあえず駆けつけた暇人やら、休憩中やら、サボってきたのやら、百人ほどが集まって賑やか。

 カルチェタランのある北大街も国籍不明の怪しい街だけど、ここは、その猥雑さから怪しさを引いた健康な陽気さがある。

「取りあえずはレプリケーターのアテで飲んどくれ! ランチの後で大したものは作れないけど、乾杯してる間に適当に作ってやるから!」

 お岩さんが宣言すると「オオ!」とか「分かった!」とか「了解!」とか返事があって、オッサン、ニイチャン、ネエチャン、ロボットに正体不明やらが酒やビールを注いだりレプリケーターに突進したり、なんとも猥雑で怪しい(^_^;)。

 怪しいんだけども、北大街みたいな落ちついた危なさは感じられない。

 悟兵とあちこち飛び回ったけど、ここの猥雑さは好きになれそうだ。

「みんな、とりあえず酒とアテは確保しただろ。ちょっと注目!」

「おお、サブも一人前になったアル」

「サブ?」

「ああ、昔は元気がいいだけの若造だったけど、フートンの主席代理になって大人になったアル」

「へえ、主席代理ぃ」

「殿下から、話があるから聞くように!」

 大方が静かになって、出入り口に近いテーブルの端っこから人の良さそうなオッサンが立ち上がる。

「申しわけない、一言だけ挨拶を」

 済まなさそうに言っただけで、少し残っていた喧騒も止む。いや、止むどころか全員が端近の、劇場で言えばほとんど立見席のそこに注目する。

「突然ではありますが、孫大人が筋斗雲に乗って戻って来てくれました。あ、つい嬉しいもので『戻ってきた』と言いましたが……本人もご異議がないようなので『戻ってきた』でいきます。西之島もようやく落ち着いて採掘作業やインフラの整備に掛かれるようになりました。島守としてこれほど嬉しいことはありません。ええと……とにかく、乾杯しましょう!」

 オオ!!!!

 すごい雄たけびが上がって乾杯すると、元の猥雑な酒盛りに戻ってしまう(^_^;)。

「済まない、孫大人。わたしだけが挨拶して、大人が話す間もなかった(-_-;)」

「いやいや、酒盛りは悟兵も好きアル。悟兵もあちこちで飲むから気遣いいらないアルよ」

「こちらは、新しい助手さんですか?」

「はいい、東鈴と云います。ちょと口やかましいアルけど、優秀アル。よろしくしてやってくださいアル」

「氷室睦仁です。改まった席では殿下を使っていますが、まあ、氷室鉱山の社長です。よろしく」

「東鈴です。改まった応対は苦手ですので、普通に話してかまいませんか?」

「ああ、むろんです(^_^)」

「あの、島守って呼称を使っていらっしゃったけど、あれは?」

 わたしのアーカイブに『島守』の呼称は無い。

「ああ、殿下という敬称が苦手なので発明しました」

「アハ、発明しちゃったんですか!?」

「自分では気に入ってるんですけどね、島を守るでシマモリ。防人(さきもり)に通じるカッコよさがあります」

「考えたアルね。音読みしたらシマノカミ(島の神)。現人神(あらひとがみ)のニュアンスに通じるアル」

「あ、それは無いですから(''◇'')ゞ」

 慌てて手をワイパーみたく振る。孫悟の十倍は誠実な人物のよう。

「大人も、アルアル語、可愛くていいですね」

「ああ、言ってやってくださいよ。そばで聞いていると気持ち悪くてぇ!」

「アハハ、気持ち悪がられてますよ」

「いいんじゃないですか」

「え、どうしてぇ!?」

「う~ん、距離感がいいと思います」

「距離感?」

「ああ、そうアル!」

「なによ」

「これ、厨房のお岩さんに持って行ってほしいアル」

「え、ああ」

「なんですか、これは?」

「マーマレードある。北京に寄ったら大統領にことづかったアル。あとで悟兵も行く言うといてアル」

「へいへい……あ……ちょっと……ごめんなさいね……通りますぅ……」

 昼時の学食みたいに混雑したホールを抜けて厨房のお岩さんに声をかける。

「お岩さん」

「え、あ、大人の?」

「はい、東鈴です。ボス、島守と話してるんで、預かりもの……」

「すまないね、手が離せないから、そこ置いといて」

「あ、はい」

『餃子10人前、唐揚げ10人前上がったぁ!』

 さっきのサル……ハナが鍋ふって、でもお岩さんは手が離せない、

「あいよ……」

「あ、あたし、手伝いましょうか?」

「え、すまないねえ。じゃ、5番テーブルだから、お願い」

「了解(^^ゞ」

 ヒョイヒョイとテーブルの間を縫って5番のテーブルへ。

「はい、おまち! 餃子10人前、唐揚げ10人前!」

 ドン ドン

 お皿を置いて気が付いた。真っ先にお箸を伸ばしてきた女の子(どう見ても小学生)が片手で生ビールをかっくらってる!

「ちょ、子どもがビール飲んじゃダメでしょ!」

「ム~、あたしは子どもじゃないんりゃから! ビールぐらい飲んでもかまわないのよしゃ~」

「どこがかまわないのしゃ~よ!」

 ギロ(≖△≖)

 ゲ、なんちゅう目つきだ! 




☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)

村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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銀河太平記・269『ハナとシゲジイ』

2025-01-15 11:14:47 | 小説4
・269

『ハナとシゲジイ』 東鈴 




「悟兵のオッサンもよ、フーちゃん連れてねえんだったら、こんな思わせぶりな着陸すんなよな!」

 むかつく言い方なんだけど、目に涙を浮かべ、口をへの字にしてプーたれる姿は純真そのもので、プイと背を向けた巫女服に声をかけてしまう。

「ごめんな。フーちゃんてのは漢明の胡盛媛中尉のことだな。そいつなら、劉宏大統領のとこで任務に就いてる」

「劉宏のとこでか、そうか……」

「そうアルヨ、ハナちゃん。こいつは東鈴、奉天で儂の秘書やってる。勉強のためにいっしょに連れて来た。仲良くしてやって欲しいアルね」

「そ、そうか、それなら仲良くしてやらねえこともねえ……オレ、ハナだ。めちゃくちゃ有能だから、そっちのお岩食堂と、こっちの氷室神社のあれこれを任されてんだ。分からねえことがあったらハナに聞け」

「任せた覚えはないけどな……まあ、こいつが居なきゃ食堂も神社も少々不便ではある」

 神主服のジジイが割って入ってきた。たぶん、シゲジイとかシゲ老人とか呼ばれてる名物爺さんだ。

「重田茂三、孫大人(たいじん)の秘書なら知っておろうが、この神社の神主をやっておる。あとでお参りしてくれると嬉しい」

「はい、心がけておきます」

「このジジイに敬語なんていらねえからな」

「そうなのか?」

「こら、余計なことを言うな」

「お、みんな集まってきたぞ!」

「そうか、じゃあ、まあ、とりあえずは神さまにご挨拶するアルか」

「おお、よい心がけじゃ。おーい、孫大人は最初に神社にお参りだ、お前らもいっしょにお参りせい!」

 シゲジイの声か、神さまの御威光なのか、集まった者たちはわたしらを先頭に境内に入った。

「え?」

 境内に入ってビックリした。 神社のハイデンという祠は、四隅の柱の上に神社らしい屋根が載っているだけでスカスカなのだ。

「この氷室神社の御祭神は、秋宮空子内親王、それと、ここから見える海と空じゃ。空と海がご神体、ゆえに拝殿のどこから拝んでもいいわけじゃ。ま、いまは太陽も南中しておるから、正面からでよいじゃろう」

 な、なるほど考えたもんだ。よく見ると、賽銭箱も正面のほか東西にもあって、どこからお参りしてもお賽銭が受けられるようになっている。

 合理的なような、がめついような。

「では、二礼二拍手一礼でいくからの。おっと、その前に……」

 シゲジイが言葉を呑み込むと、あちこちからお賽銭が投げ込まれる。

 チャリン チャリンチャリン チャチャチャリンリンリン

 みんな――ハメられた(^_^;)――という感じで、それでも人数を超える音がして、この島の陽気さと緩さが感じられる。この雰囲気は好きになれるかもしれない。

「さあ、じゃあ、うちの食堂で歓迎会だよ!」

 オオオオオオオオオオオ!

 大柄なオバサンが腕を振って赤屋根の食堂に誘うと山賊みたいな声が上がった。



☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
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銀河太平記・268『西之島にセスナ機みたいに着陸する』

2025-01-14 15:44:59 | 小説4
・268

『西之島にセスナ機みたいに着陸する』 東鈴 




 もし、地球というものに意識とかソウルとかがあるとしたら、地上の支配者である人類に不満やら期待やら言いたいことがいっぱいあるに違いない。地表に出現して、たかだか百万年あるかないかのクソ虫、目方を計っても世界中のアリンコの総重量ほども無い。そいつらが、三百年前には核を、そして二十三世紀に入ってからはパルスエネルギーを使うようになって、その使いようによっては母なる地球自体をも滅ぼしかねない――何様のつもりだ!?――と噴き出た不満やら期待やらが、堪えきれずに吐き出した毒。それが海上で凝り固まったような島。毒はまだまだ噴き出しきれずにモクモクと煙となって噴き出されているみたい。

 筋斗雲のキャノピーを通して見える西之島は、そんな風に見えた。

「ハハ、東鈴にも毒に見えたか?」

「ん? なんで分かるのよ!?」

「ずっといっしょにいるからなあ、どこか似てきてしまうんだろ」

「気持ち悪いんですけど」

「まあ、そう言うな。毒は使いようによってはクスリにもエネルギーにもなる。だから四万人……いまはそれ以上か……人が住むようになって、日夜パルス鉱を掘り出してる。面白い島アル……」

 ウィーーーン

 筋斗雲はマブチモーターそっくりの音を響かせて着陸態勢に入る。

「え、空港に下りるんじゃないの?」

「表玄関はつまらないアル」

 筋斗雲は垂直離着陸ができるんだけど、悟兵は、まるで大昔のセスナ機みたいにゆっくりと飛行場とも呼べない空き地目指して降りていく。

 空き地の右が海、左が緩い岩場、岩場には何本かの舗装されたのやら未舗装やらの道が見える。道は島の西やら東に伸びて、胡同とかナバホ村とかに繋がって、山の向こうの役所や新興住宅地に及んでいるんだろうね。いくつかの道はカンパニーの鉱山に繋がっているようで、鉱夫らしい人間やロボットが行き来している。

 空き地と海岸の間に『鳥居』と云うんだろうね、略字の門みたいなのがあって、関帝廟に似た、でも関帝廟よりは地味な祠の屋根。祠の向こうには、ささやかに漢明の国旗を立てた二階建て、たぶん漢明の連絡所。

 空き地から、ちょっと岩場に入ったところに小学校の講堂ぐらいの赤屋根。赤屋根には物干し台があって、洗濯ものがたなびいてる。あれが悟兵ご贔屓のお岩食堂。

「なに食っても美味しいぞぉ」

「あ、人がいっぱい出て来たぁ!」

「そりゃあ、孫大人の御来光だからなぁ、みんな心待ちにしてくれてるアルよ~~(^▢^)!」

 真っ先に予想停止位置に駆けつけてきたのは、赤白の巫女服にエプロンを付けたサルみたいなやつ。

「東鈴は初めてだ、愛想よくするアルよ~」

「分かってるわよ」

 カチャ

 キャノピーを開けると、目の前にサル!

「お帰り! 孫大人! お帰り! フーチャ……(☉Д⊙)」

 フーチャまで言って、サルの目が険しくなる。

「だれだ、この女? フーちゃんはいねえのかよ(ー"ー;)!」


 着いた早々、めっちゃ気分悪いんですけど!


 
☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった


※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

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銀河太平記・267『マーマレードを預かって西之島を目指す』

2025-01-09 14:22:05 | 小説4
・267

『マーマレードを預かって西之島を目指す』 東鈴 




「ねえ、これを預けられた意味って分かってる?」


 西之島に向かう筋斗雲のコクピット。

 あたしと悟兵の間には大時代な袱紗に包まれたガラス瓶が収まっている。

「お手間だけど、これを西之島のお岩さんに渡して欲しいの」

 官邸のサンルームで預けられたときは――籠められた意味は何だ?――と勘ぐってしまった。

「フフ、東鈴は深読みしすぎ。作り過ぎたからお知り合いにお裾分けしたいだけなのよ(^▽^)」

「あ、はあ……」

「劉宏大統領に、果醤(コージャン)作る趣味あったアルか?」

「いいえ、作ったのはあの二人ですよ」

 サンルームの外、中庭にはこないだのモンゴル事変で見かけた女性中尉、ええと胡盛媛だったっけ。その中尉が、ホッソリした男の人といっしょに花の世話をしているのが見えた。

「おお、フーちゃんアル!」

「あ、声かけちゃダメよ」

「あ、ああ……」

「男の人は事故で記憶を失っていてね、うちで預かっていて、フーちゃんにお世話を頼んでるの。よろしくお願いするわね、孫大人」

 二人はとても穏やかで、なんだか、生物部の先輩と後輩が学校菜園の世話をしてるみたい。男性の目……が見える距離じゃないんだけど、受ける印象は春の日向のように暖かい。アーカイブから情報を拾えば高い確率で正体を知ることができるんだけど、そんなことは承知の上で「声かけちゃダメ⇒ここでは詮索しないで」と言っている。だからやらない。

 そして、中庭の二人には直接に会うことはしないで筋斗雲で北京を離れた。

 離れるにあたって、大統領は「握手しよう」と手を差し出してきた――ああ、やっぱり――そんな感じがした。

 おそらく、素体としてのあたしと大統領は姉妹の関係。たぶんJR西。

 あたしはJシリーズのロボット、いろんな事情や経緯があってカルチェタランの倉庫に収まっていた。姉妹は他にも数体あったはず……でも詮索はしない。検索禁止のプログラムがされているわけじゃない。なんだろ……ロボットに『言い伝え』というのはおかしいんだけど、そんな感じ。

 一昨日、鈴麗の体の一部を移植した時の記憶があいまい。老婆婆の他にもう一人、孫悟でもない人間が居て、移植のいっさいをやったような気がするんだけど、夢のようにボンヤリしている。

「あそこに居たのは、成治天皇五世孫の森ノ宮親王殿下アルな」

「あ、詮索しちゃダメだって!」

「大っぴらには言わないアルよ。ほんとうにダメアルなら、見せてないアルよ。劉宏も迷ってるみたいアル。ちょい出ししながら様子見てるアル」

「ん~~そうかもだけど、ちょっと下品」

「ええ、東鈴、ワシに下品言うあるかぁ!?」

「うん、で、そのアルアル語やめてくれない。緊急事態でもないんだからさ」

「そうか……それでは、普通に喋ろう(-_-)」

「え、なに、そのオスマシダンディーは!?」

「久しぶりの西之島でもあるからな、島には馴染みも多い、ドンパチも収まった。ゆっくりリゾート気分で羽根を伸ばすとするか……ん? どうして目をつぶるんだい?」

「あ、声だけなら、けっこうイケてるかもだから」

「え、そう……って、目を開けたら台無しってことぉ!?」

「うん」

「ああ、傷つくなア、傷つくアルよお!」

「ああ、もう、だからアルアル語わぁ! あ、目開けちゃったじゃない! もう、着くまでそっち向いててよ!」

「ああ、もう東鈴わあ!」

「もう、わあわあウルさい!」

「うるさいくらい辛抱するアル!」

 ガクンガクン

「キャ!」「うわ!」

『操縦が不安定なので、オートに切り替えますよ』

 しびれを切らした筋斗雲がオートに切り替えて、直近のコースで西之島を目指した。

 でも、オートの声は老婆婆ソックリ。

 島に着いたら、人工音声を切り替えようと、これだけは意見が一致した。



 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・266『孫鎮の空を飛ぶ』

2025-01-07 14:50:32 | 小説4
・266

『孫鎮の空を飛ぶ』 東鈴 




 鈴麗のお骨をお墓に収めて、悟兵とあたしを乗せた筋斗雲は孫鎮の空を旋回している。

「このくらいの集落が悟兵には合っているのかもねぇ……」

 百個余りの戸数は、愛着さえ持っていれば村全員の顔と名前が覚えられそう、そういう規模が悟兵には合っている。正直な感想だし、珍しくシンミリしている悟兵に掛ける言葉として適当だと思った。

「この孫鎮でも手に余る気がするアルよ」

「あら、弱気ねえ」

「鈴麗とは二言三言しか話したことないアル」

「仕方ないでしょ、モンゴルであんなドンパチが始まっちゃうんだもん」

「そうアルけどな……」

「何事も自分の目で見て、自分でやれることは自分でやっておこうという姿勢は悪くないと思うわよ」

「そうアルなあ……」

「そうよ、モンゴルへの足場も補強できたし、劉宏大統領との絆も確かめられたし、なにも間違っていないわよ」

「しかしなあ……連れて行ってやってたら、凛麗はあんな目には遭わせなかったアル」

「鈴麗は可哀そうだけど、まだ小間使い同然の鈴麗を連れていくのは無理だったでしょ。悟兵もそう思ったんじゃない」

「そうアルなあ……」

「それにさぁ、そういう言い方されると、わたしが付いて行ったのがひどく間違いだったように聞こえるんですけど」

「そうアルなあ……」

「もう、 数を言えるようになったばかりの子どもみたいに『そうアル』ばっかし。 いいかげんにしないと『そうアル・三・四大魔王』って呼ぶぞ。あたしだって、悟兵の秘書、相棒なんだからね」

「鈴麗を連れて行かなかったのは、老婆婆が強く勧めたせいもあるかもアル」

「ん、なにそれ?」

「老婆婆に言われると、取りあえず『否』の字が頭に浮かぶアル」

「老婆婆コンプレックス? ちょっとキショク悪いんですけど」

「よし、もう一度墓の上を飛んで北京に向かうぞ!」

「そうよ、劉宏大統領にも呼び出されてるんだから……って、ちょっと小回りし過ぎじゃない? 目が回りそうなんですけどぉ……ウプ(>・<)」

「え、こういう時って口を押えるアルないか?」

 え、思わずお腹を押さえていた。

 鈴麗が頬を染めてクスっと笑ったような気がした。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
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  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・265『鈴麗』

2024-12-26 14:22:22 | 小説4
・265

『鈴麗』 鈴麗 




 満洲というのは辛い土地。

 村の年寄たちは『辛い大地』という。『土地』と『大地』は一字違いだけど、意味の違いは大きい。

 子どもは、自分の村とその周辺しか知らないから、単に土地。

 大人たちは、作物を売りに行ったり出稼ぎに行ったりで地平線の向こうまで知っているんで『大地』っていう。中には火星のマス漢まで稼ぎに行ったり移住したりした人も居て、そういう人が都会や火星の匂いをさせて帰ってくると別の意味で土地って呼ぶ。

「銀河宇宙の規模で言えば満洲の土地なんて、目の前にホワホワ浮いてる小麦のカスみたいなもんさ」

 三年前までニキビ面で麦踏みしてた関石が得意そうに言ったときは、こいつは関石の皮を被った宇宙人かと思った。村の大人たちもたいていは――関石は火星に行って田舎者になった――と言っていた。

 辛い土地なのは主人というか支配者がコロコロ変わるから。

 ロシアが来たり、漢明が来たり、日本が顔を出したり、半島の人が来たり。いちおうはマンチュリアって国になってるけど、奉天以外は、程度の差はあるけど、そういう外国の会社や公司が大きな顔をしている。

 そういう外国の力が強いせいで満洲は大小の争いが絶えない。

 隣りのA鎮とY鎮は20年前だったかの戦争で消えてしまった。関石の父ちゃんはY鎮の出身だったから、あいつが火星に行ったのはそのことも理由なのかもしれない。他にもK鎮という村があったらしいんだけど、K鎮はもっと前の戦争で消えてしまって、いまはロシアの企業農場になってる。すぐ隣が漢明系の農場なんで争いが絶えない。巻き込まれる満州人はいい迷惑。

 他にも鉱山やら工場やらが土地の人間と関わりなく建っていたりして、なんだか荒んでいる。

 そんな中で、うちの孫鎮だけは落ち着いている。

 理由は小爺の孫家が村を守てくれているから。うかつに孫鎮に手を出したらこっちの農園や工場どころか本国の本社が乗っ取られたり潰されたりしかねない。

 孫一族は、もう三百年近く、この村の長を務めて村を守ってくれている。昔々は馬賊っていって、ちょっと妖しい勢力だったらしい。だけど、三百年の間に商売や開発や私設の軍隊やら投資やら観光やら興行やらいろんなことをやるようになった。

 でも、村では、そんな顔は全然見せない。村の真ん中に、それほど大きくないお屋敷があって、陳さんとか孫家の番頭さんが常駐して村の世話をしてくれている。時どきは小爺自身が村に帰って来て、畑や牧場の世話をする。

 小さいころは老孫と呼んでいた。村に一軒だけあるコンビニと同じ発音なんで混乱したけど、コンビニとは関係ないらしい。少し大きくなると、大人たちが呼ぶように小爺って呼んだ。本人は老孫でも小爺でもどちらでもいいらしい。外の世界で孫大人と呼ばれているのは村を出てから気が付いた。

 小爺は気が向くと子どもたちの中に入って遊んでくれたり、外の世界のことを教えてくれたり。楽しいオッサン、オッサンなんだけどサッカーとかやると関石なんかよりも上手くって「小爺はオッサンの皮を被った化物だ」って嬉しそうに言っていた。

 小さい子はサッカーはできないんで『だるまさんがころんだ』をやる。それも世界の『だるまさんがころんだ』をね。

『一、二、三、我们都是 木头人』とか『一二三、紅綠燈、過馬路、要小心 』とか『Un, deux, trois, soleil 』とか『1,2,3, Pollito inglés! 』とか『ぼんさんが 屁をこいた』とかね。世界のだるまさんをやるんだ。他にも鬼ごっことか缶蹴りとかも、いろんな国のバージョンでね。

 ルールはハンベを使っちゃいけないこと。

 子どもの頃はPCとかAIとかは使わないで遊べというのが小爺のコンセプトだった。

 いちど鬼ごっこして、小爺を捕まえた時、見かけによらずタクマシイ背中と、子どもみたいな目の輝きに驚いたことがある。

 年に一二度、小爺は老婆婆を連れてくる。いや、老婆婆が付いてくる。老婆婆が一人でやってくることもある。

 奉天のお店やお屋敷で働く若者を探しに来ているらしい。

 村では御奉公と言ってるけど「いやいや、契約社員。昔流に言えば丁稚とか女中のことさ」と老婆婆は言う。

 実際、二三年働くと「ロシアの企業農場よりはマシ程度の給料だった」と言って帰って来る者がほとんど。

「ねえ、奉天のお屋敷で働かないかい?」

 そう持ち掛けられた時は嬉しかった。

 兄弟や友だちは「ただの女中奉公だよ」って言う。「子どじゃないんだからさ、いまさら老孫と遊んでもねえ」とも言う。

「昔はさ、愛人とかにされるとか言う大人も居たけど、みんな古臭い礼儀作法とか憶えるだけで帰ってくるしい、手ぇ付けられた子なんて一人もいなかったし」

 中には、古い礼儀作法とかが気に入られて、漢明やら日本に嫁いだ子もいるけど、漢明の方は離婚して戻ってきたし、日本に行った子は普通の中産階級の奥さんになってるだけ。村の女の子が思う玉の輿からは遠い。

 でも、わたしは晩熟(おくて)なのか老孫、いや小爺のところで働くのも悪くないと思った。

 そして、奉天のお屋敷に着いて、少し驚いた。

 女中というか奉公人というかの何人かの名前に『鈴』の字が付く。

 老婆婆も本名は小鈴だし。今は空席だけど秘書さんの中には秋鈴や夏鈴という名前もあった。

「じつは、あんたの鈴麗という名前はわたしが付けたんだよ」

「ええ!?」

 ちょっとビックリした。

「鈴麗のお母さんを見ていい人だと思って、それで、このお母さんの娘なら、きっといい娘さんになると思ってね。お父さんもお母さんも喜んでくれて……」

 うん、鈴麗という名前は子どものころから気に入っていた。

「あ、どうもありがとうございました」

 だから、普通にお礼を言った。


 お礼を言うと老婆婆は真剣な顔になって言った。


「実は、鈴麗……折り入っての頼みなんだけど」

「は、はい!」

 今まで見たこともない真顔だったんで、思わず気を付けをしてしまった。

「小爺の子どもを生んでくれないかい?」

「え……ええ……?」

「鈴麗に孫家の跡継ぎを生んで欲しいんだよ」

「そ、それって……!?」

「正式な奥さんにしてやれるかどうかは小爺次第だから、ここで約束はできないんだけどね。いや、無茶な頼みだということは承知の上。生まれた時から、鈴麗には素養があると感じて、ずっと見て来たんだ、どうだろうねえ……」

「そんなの、いま言われて答えられることじゃないわ老婆婆」

「ああ、すまないね、いきなりすぎたね。老婆婆も年だからね……いや、驚かせてごめん。ま、老婆婆の気持ちということで、ま、小爺にはなにも言ってないから、秘書見習いってことで、ま、励んでおくれ」

 そう言うと、気まずそうに後ろ手組んで行ってしまった。

 小爺がカルチェタランに戻って来て「鈴麗はそういう対象ないアル」と、直接ではないけど言われて、いっしょに付いていく東鈴が……ちょっと眩しく見えて。

 その東鈴の姿が眼下に見えて……え、ベッドに寝かされてるのはわたし?

 よく見ると、体はほの白く光ってるんだけど、頭……脳みそのところが黒くて生命を感じない……髪の毛が剃られて、頭の横からだけチューブとケーブルが伸びて……繋がった機械はモニターに横真っ直ぐな線を引いているだけで、やっぱり死んでる?

 あ……意識が飛ぶ…………それから目の前が真っ白になり……気が付いたら、夢の中でぼんやり目覚めたみたいな、途切れ途切れの意識で、わたしは東鈴と重なってしまっていた。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
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  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
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  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
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銀河太平記・264『嗚呼東鈴!』

2024-12-23 12:00:01 | 小説4
・264

『嗚呼東鈴!』 老婆婆小鈴 




 ウィーーーーーーン

 
 かそけき動作音をさせて筋斗雲が降りてくる。

 筋斗雲は小爺自慢のボートで、地球上のどこへでも一時間有れば飛んでっちまうという優れもの。
 しかし、動作音がまるっきりしないので、いつも驚かされていた。ウィーーーーーーンという音は「あまり無音だと老婆婆が腰を抜かすといけないから」と、小爺がわざわざ付けたギミック。音源は200年前のマブチモーターだというんだから恐れ入る。

「哎呀( ゚Д゚) !」

 出かけてから、まだ一週間ほどなのに、筋斗雲のボディーはひどく汚れちまってる。これ一つで火星航路の客船が一隻買える値段だというのに、小爺はほんとうに、ものを大事にしない!

「あれれ?」

 きれいに着地させた筋斗雲から出てきたのは東鈴一人だけだよ。

「小爺は?」

「カルチェタラン。モンゴルで飲み過ぎちゃったから、少し寝るって」

「おまえさんは?」

「うん、筋斗雲を工場に持っていくとこ、ちょっと荒っぽい乗り方したもんで」

「工場なら、ずっと北だろうに」

「なに言ってんの! 老婆婆がしょんぼりしてるから、様子見に降りてきたんじゃないか!」

「そうか……人に見られないように上がってきたのにねえ」

「なにがあったの? なんか、七日ぶりじゃなくて七年ぶりって感じだよ」

「嗚呼……」

「なによ、京劇の台詞みたいな溜息ねえ」

「実は……」

「ええ、鈴麗が!?」

「ああ、まったく運の無い子だよ……この年寄りの、人生最後の希望だったのにさあ……」

「そう、いい子だったけど、老婆婆、なんか適当に便利使いしてなかった?」

「そ、それは」

「うん?」

 東鈴の気安さに、全部話した。もう秘密にしても仕方がないしねえ。

「そうかぁ……老婆婆がぜんぜん義体化してなかったのは、そういう理由だったんだ……」

 東鈴は鈴麗のことよりも、この皺くちゃババアのことを気に掛けてくれている。

「そんなことないよ」

「ん?」

「あ、ごめん。心読んじゃった……でも、頭の半分じゃ鈴麗のことも考えてんだよ」

「ありがとうねえ……」

「大丈夫だよ、きっと……」

 わたしの肩にまわした東鈴の手が停まった。

「どうかしたのかい?」

「義体化しない体って、こんなにか細いもんなんだね……」

「ちょ、止しとくれよ、そういう同情は!」

「そうだ、PIしよう!」

「ピ、ピーアイ!?」

「うん、パーフェクトインストール! ソウルさえ生きてたら鈴麗をあたしに移し替えられるよ!」

「PIなんて、めったに成功しないよ」

「大丈夫よ、東鈴は劉宏大統領や児玉元帥と同じJQシリーズ、きっとうまくいく!」

「ちょ、ちょっと東鈴!」

 東鈴は、屋上から飛び降りて、直接一階から地下の孫房に向かって行ってしまった!

 いくら、早く行ったって、あのセキュリティーは……と、思ったら、それも簡単に潜り抜けて、ラボを兼ねた診療室に入っていた。

「老婆婆、ダメだ。鈴麗の脳波完全に停まって、もう、ソウルが拾える状態じゃないよ」

「……いや、だから言ったろぅ」

「東鈴はJQシリーズの最新だから、少しの間だったら脳波の痕跡からでも拾えると思ったのに……」

「あ、ありがとうよ東鈴。でもね、たとえPIできてもダメなんだよ」

「え、どうして? PIできたら生き返るんだよ、体って義手とか義足とかと同じ道具なんだからさ」

「バカだねえ」

「な、なによ!?」

「義体やロボットじゃ子が産めないだろうが」

「あ……そうか……そうだった(O_O;) 」

 崩おれるようにしゃがみ込む東鈴、その頭を抱いてツールボックスに腰を下ろす。

 やっぱり東鈴、おまえはいい子だよ。情においては人もロボットも関係ないよ、生きるというのは、やっぱり心と心なんだねえ……。

 ブゥーーーーーーン

 これはギミックじゃない。ついさっき脳死したばかりの鈴麗の体に繋いだ生命維持装置の音だよ。昔みたいに、あちこちチューブや電極でつなぐことは無い。外からのパルス信号とエネルギーで一年は体を生かしておくことができる。これを切るのは、せめて小爺にやってもらおう。

 悟勇ちゃん、ごめんね、最後の最後で小鈴は失敗してしまったよ……。

「そうだ!」

 ゴツン

「ウ、急に頭を上げないでおくれ、顎に当っちまったじゃないかぁ……」

「老婆婆、鈴麗の体は、まだ生きてるんだよね?」

「え、ああ、それは……」

「だったらさ!」

「え?」

「耳貸して!」

「え……え……ええ(◎Д◎)!?」

 嗚呼東鈴!?

 とんでもないことを言い出したよ(''◇'')!

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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銀河太平記・263『屋上の老婆婆』

2024-12-22 18:35:50 | 小説4
・263

『屋上の老婆婆』 老婆婆小鈴 




 勇ちゃんごめんね……ごめんね勇ちゃん……勇ちゃんごめんね……


 壊れた玩具人形みたいに詫び言を繰り返す、繰り返しながら真カルチェタランの地下廊下を歩く。

 カチャン

 オートロックのドアが改めて施錠する。

 ここは、出入り共に生体認証しなきゃ通れない。北大街一番と言われるセキュリティーを誇る真カルチェタラン。その中でも孫一族と限られた側近しか足を踏み入れられない孫房。

『小鈴アルカ?』

「小鈴」

 チャカ

 生体認証に加えての音声認証で解錠してくれて、やっと地上に上がれる。

 カルチェタランかお屋敷か……少し迷って、屋上に上がる。

 バンカーバースト級のミサイルの直撃を受けても貫通させない屋上の床……偽装のコンクリだから仕方が無いけど、小さく日本語の『レ』に似た傷が付いている。

 ミサイルの破片が撥ねた痕……もう二センチもズレていたら、あの子に当らず、この老婆婆に当っていたろうに。

 小爺(シャオイェ)が「ああ、もう時間ないから、行くアルヨ!」と回れ右した時に、どうして「鈴麗も付いてお行き!」と強く出なかったんだろ。

 気立ての良さもお頭の具合も遺伝的形質も三代までさかのぼって調べ上げ、孫家の跡継ぎを生むにはもってこいの娘。いいや、生むだけじゃない。三代さかのぼって子育ての技量まで調べ上げたさ。いい子を産んでも、きちんと育てなきゃ意味がない。そのへんの失敗は歴代王朝にいっぱいあるものねえ。秦の始皇帝も、そこで失敗して秦王朝は二代で滅んでしまった。劉備玄徳の蜀も二代しかもたなかった。

 その厳しい条件に見合ったのが鈴麗。

 目立たないよう、それとなく小間使いとして雇い入れ、少しずつ慣らして小爺の世話をさせ、自然に……と思っていた。

 だから、無理はせずに、東鈴と出かけるのにも通り一遍の小言で済ませた。

 東鈴は優秀なJ級ロボットだけども、ロボットに子は生せないからね。


 勇ちゃん……いいえ、小爺、悟勇。

 あなたが息を引き取る時に、この小鈴は誓った。悟兵坊ちゃんは、わたしの手で立派な孫家の跡継ぎにしますからって。

『子どもなんて、親類から養子を取ればいい。この悟勇は跡継ぎを生ませるために小鈴と結婚したいわけじゃないんだ。一生の伴侶になってもらいたい。僕の、この孫悟勇の奥さんになってもらいたい、ただ、それだけなんだ……』

 とっても嬉しかった。

 でも、先祖代々お世話になっている孫家を、わたし一人の気持ちで不安定にするわけにはいかない。勇ちゃんのいいお嫁さんになる自信はあったけど、気持ちもあったけど、孫家を次の時代に伝えていくためには、わたしじゃだめなんだ。

 だから、アンチエイジングとかもやらず、皴も伸ばさず白髪も染めずに、ただただ、孫家の裏方として生きてきた。

 鈴麗を見つけた時は、どんなにうれしかったか。

 嬉しかったから、けして急がず、不自然にもならず……だから、くどくは言わなかった。東鈴も旅の相棒としては十分な子だったしねえ。満洲も漢明も、いや、世界中が不安定な時代。小爺には十分な働きをしてもらわなきゃならない。

 でも、まさか、小爺を見送ったその日に、漢明とロシアのミサイルが奉天の上空で火花を散らすとは……いや、あれはメンツをかけてマンチュリアが飛ばした迎撃ミサイルかも……ああ! どちらにしろ、あのミサイルの欠片が、この屋上に落ちてきて、鈴麗の頭に当るなんて!

 まったく、まったく、なんの因果なんだろう。

 もう二センチ、いや、一センチだけでもズレて、この老婆婆に当っていたら……あそこまで育てたんだ、きっと小爺、悟兵坊ちゃんの眼鏡にもかなって、二年もすれば立派な跡継ぎが……。

 嗚呼…………………

 長い溜息をついていると、虫の鳴くような音がして、振り仰ぐと小爺の筋斗雲が屋上に下りようとお尻を振ったところだった。

 

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・262『サンルームとマーマレード』

2024-12-11 12:08:44 | 小説4
・262

『サンルームとマーマレード』 胡盛媛中尉 




「マー マーマレード!」


「フフ」

「え、おかしい?」

「え、いえ」

「あ、ああ……下手な洒落に聞こえたかしら(^_^;)」

「あ、はい、少し」

「今日は、四軍予算の概算要求の日だったでしょ、宇宙軍なんて用語が全部英語でしょ、漢明語の発音までおかしくなっちゃって」

「あ、果醤(コージャン)と言った方がよかったですか?」

「あぁ、それだとお醤油くさくなる」

「あ、醤(ジャン)は醤油の醤でしたね」

「「アハハハハ( ´艸`)(´∀`*)」」

 サンルームで話していると、大統領では無くて、ちょっと年上のおねえさんと話してるような気になってくる。午後から張り出したシベリア寒気団も、このサンルームでは自然に忘れられる。

「庭の蜜柑は温州みかんなのよ」

「温州、浙江省のですか?」

「あ、そうなんだけど、ちょっと違う。むかしむかしに温州の蜜柑を日本の留学僧が持ち帰って品種改良を重ねたものなの。それを三百年前に、今度は中国の留学生が持ち帰って植えたものなのよ」

「へえ、そうだったんですか!」

「うん、日中国交のシンボルみたいな……でも、この官邸に来て気づく人は、日漢双方でもマレだけどね」

「あ、この話、広報に載せていいですか?」

「うん、いいわよ。でも、殿下のことには触れないでね」

「あ、素性を隠してもダメですか?」

「うん、殿下が自分で思い出されるまでは……最初に言ったことと矛盾かもだけど、もうちょっと時間をかけたいの。ごめんなさいね」

 チン

「あ、ちょうどパンが焼けたわ」

「あ、わたしが……」

「いいのいいの、大統領なんて因果な仕事やってると、こういうことがとても癒しになるのよ……」

 そういうことなら……と、楽しそうにト-ストにマーマレードを塗る大統領の後姿。

 もうPI前の老将軍のイメージは無い。ボディーである王春華は有能な大統領秘書で、緊急時には男の警護官以上の働きをしたと言われてるけど、そういう攻殻機動隊の女隊長の感じでもない。

 トーストにマーマレードを塗っている後姿は、短大を出てやっと一年目くらいのOL。

「あ、垂れてきたぁ~」

「あ!」

 とっさに立ち上がって、トーストから垂れたマーマレードを二人、指で絡めとって口に含む。

「「オオ!」」

 その甘さと香りに同時に唸って、そして、二人で笑ってしまう。

「なんだか、本当の姉といるようです。あ、姉はいませんけど」

「え、そう? 妹という感じにはならないかしらぁ?」

「あ、それは……(^_^;)」

「アハハ、冗談よ……うん、やっぱり果肉が残ってると美味しい」

「殿下、いえ、ゲストさんの腕がいいからです」

「そう……そうねえ……あ、ここでは殿下でいいわよ」

「……殿下が記憶を取り戻されたら、どう処遇するつもりでおられるんですか?」

「殿下は、五代前の成治天皇の五世孫。皇室の伝統では皇位継承権を持っておられる……このことは知っているでしょ?」

「はい、一応のことは」

「今の陛下は女性天皇だけど、陛下ご自身は元来の男系継承が正しいと思われてる」

「そうなんですか?」

「一応の皇位継承者はお妹の須磨の宮さまにされていたけど……」

「先年、お亡くなりになりましたね」

「そう、だから今の決まりでは、フーちゃんも知ってる心子内親王殿下」

「はい、いまは内密に火星の扶桑に御滞在……」

「それが、情報では、もう火星にはおられないらしいの」

「ああ、マッパ病が……」

「それもあるだろうけど、心子内親王殿下を皇位継承のゴタゴタから遠ざけておきたいお気持ち……」

「え、今上陛下がお指図……?」

「それは無いと思う。いろいろ思いを致した人たちが、さまざまに推し量った結果だと思う……日本人の思考法は我々とは違うからねぇ……」

「あのう……その伝で言うと、火星の扶桑将軍も、成治天皇の五世孫では?」

「さすが、漢明の広報、よく知ってるわね」

「あ、いえ、西ノ島に居た時にいろいろ話を聞きましたので……」

 シゲ老人やハナちゃんのことが思い出されて、ちょっと鼻の奥がツンとする。

「フフ、あの島には楽しい思い出があるのね」

「え、あ……」

「ううん、わたしも二度ばかり行ったけど、いいところよ。こんなゴタゴタが全部終わったら、大統領なんてトットとやめて、いっしょに西ノ島で魚釣りしたいものね」

「ハイ!」

「ね、どうだろ、そのマーマレード西ノ島に送ってあげたらぁ? お岩さんとかが、美味しく使ってくれるわ」

「え、あ、いいんですか?」

「いいわよ、そうだ、行き帰りは、あの人に頼もうか……ウフフ( ´艸`)」

 なんだか、いたずらを思いついた女子高生みたい。

 わたしなんか、思いもよらない……怪物なのかもしれない。



 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・261『マーマレードを作る』

2024-12-07 10:12:08 | 小説4
・261

『マーマレードを作る』 胡盛媛中尉 




 三本しか持って来なかった枝だけども、話をすると「もったいないですね」とおっしゃって、大小八個も花瓶を官邸の営繕課から借りてきて剪定したのを全部活けることになった。


「ミカンは日本と中国の懸け橋ですね」

 ミカンを活ける手を休めて殿下がおっしゃる。

「ミカンがですか?」

「はい、徐福という人をご存知ですか?」

「ジョフク……」

「こんな字を書きます」

 メモ用紙にサラサラと書いて示してくださる。

 漢明の有名人を思い浮かべるけど、ちょっと出てこない。

「あ、歴史上の人物です。秦の始皇帝に『不老不死の仙薬を探してまいれ』と命ぜられたお役人です」

「不老不死の薬ですか(^_^;)」

 そんなもの23世紀の現代にも無い、エライものを頼まれたものだ。朱准将の副官を頼まれるよりもキビシイ。

「むろん、そんな薬は無いんですけど、噂を聞いて日本までやって来ましてね。蜜柑を発見して、これが不老不死の仙薬と思ったんです」

「でも、始皇帝は死んじゃいましたね」

「そうですね、始皇帝陵は世界遺産になって三百年ですね」

「漢明の大事な歴史遺産です」

「徐福の墓は日本にあります、蜜柑発見の碑も存在します」

「そうなんですか」

「ミカンの爽やかさや、美味しさ。経験的に風邪の予防になることも知っていたでしょうねえ。蜜柑にはそれだけの魅力があります」

「ですねぇ、鈴なりのミカンをみてるだけで……ああ……ちょっと重たそうですねぇ(^_^;)」

 手当たり次第に活けたので、いくつかは重たそうに枝をしなわせてる。

「そうだ、マーマレードにしましょう!」


 というわけで、官邸の厨房を借りてマーマレードを作ることになった。


 林(りん)さんも他の摘果したミカンをいっぱい持ってきて調理に加わった。

「ジャムは知っていましたが、こいつは知りませんでした」

 大小三つの鍋の火加減を見ながら林さん。

「すみませんねえ、鍋をお任せして」

 わたしは殿下と二人で、ミカンの筋を取っていく。お鍋三つを動員しても一回ではすまないみたい。

「いいえ、船長というのはブリッジに立って、外ばかり見てるのが仕事でしたから」

「ほう、船内を見回ったり、指示を与えたりとか忙しいんじゃないんですか?」

「船長は『よし』と『待て』の二つを知ってればいいんです」

「「ほう」」

 殿下と二人、思わず聞き入ってしまう。

「船には、航海科とか機関科とかセクションがありまして。日ごろの仕事は、そこがやります。うまくいっていれば船長の出る幕はありません。報告を聞いても、たいていは『よし』です。ここいちばん判断をしなければならない時、たまに『待て』と言って指示を与えます。平穏な航海だと、一度も『待て』を言わない時もありますよ」

 そうか、殿下のボートが衝突した時は、とっておきの『待て』だったんだ。

「火加減拙い時は遠慮なく『待て』と言ってください」

「いいえ、林さんの火加減は『よーそろー』です」

「それは光栄です。なんせ、マーマレードを作るのは初めてでして……」

「あ、わたしも作るのは初めてですぅ」

「自分も子供の頃はジャムですよ。マーマレードというのは果肉が残っているでしょ。それが新鮮で自分でも作るようになった……」

 あ、少し記憶が戻ってこられた?

「……あ、だめですねえ……そんな気がする程度で思い出せません」

「あ、いいんですいいんです。いまは、美味しいマーマレードを作ることに専念しましょう。こんなにミカンあるんですから失敗するわけにはいきませんよ」

「そうですね、仕上がったら、いちばんに大統領閣下にお持ちしなければですからね」

「そうですね、がんばりましょう、ゲストさん(^▽^)」

 そう、森之宮茂仁殿下のことはご自分が思い出すまで『ゲスト』さんとお呼びすることになっている。

 わたしたちは『殿下』とお呼びするのが正しく思えるんだけどもね。ご本人の記憶が戻るまでは素性に関わる表現は避けようというのが大統領のお考えでもあるしね。

 あとは冷やすだけというところまでできて、厨房は柑橘に甘さの加わったマーマレードの香りでいっぱいになった。

 

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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銀河太平記・260『ミカンの枝』

2024-12-03 13:23:13 | 小説4
・260

『ミカンの枝』 胡盛媛中尉 




「そうか……そういえば、日本語で考える方が楽かもしれない……」

 目覚めた森之宮殿下には「あなたは日本人なのですよ」ということだけを伝えた。

 乗っていた内火艇から救助され、目覚めた時は周囲が中国語を話していたので、殿下は自然に中国語で受け答えされたらしい。完ぺきな北京語だったので輸送船の乗員は漢明人に違いないと、北京語で応対した。

 衝突の衝撃で壊れてしまったハンベは日本製の高級品。漢明で日本製の高級品を使っているのは党幹部か政府の要人、あるいは財閥のトップクラス。そういう者たちはも普段は漢明製を使っているんだけど、ごくプライベートな時は日本製に付け替える。日本製は漢明の情報カメラやハンベには反応しないからね。

 むろん警察や情報部とかの官憲や幹部級の軍人は日本製でも読み取れるハンベを持っているけど、輸送船は民間の船なのでそういうハンベを装着している者はいないし、船にも、そういう装置は無い。

「林(リン)さんはどうして分かったんですか?」

 額面通りに庭仕事を始めた林さんに聞いてみる。

「戦前、閣下が軍人だったころにね、日本の皇族のお相手をしたことがあるんだ……その時の皇族の方の雰囲気に通じるものがあって、船のAIに調べさせたらドンピシャ。放っとくと他の乗員も気づいてしまうんで、すぐに大統領府に知らせたというわけさ」

 ウウ……林さんはなかなかの人物だ。軍や宙警察にではなく大統領府に連絡するなんて。

「軍や宙警に通報しても船の修理代は出ないしね。この航海で定年だからうっちゃっておいてもよかったんだけど、それじゃ、後任の者も会社も困っちまうから……それに、乗員の中には火星のマッパ病を気に掛ける奴もいたし、火星のマス漢は漢明の政府よりも信用がおけない……あ、このミカンは摘果しないと」

 パチン パチン

「あ、実が付いてますよ!」

 林さんは、立派な実の付いているミカンの枝を惜しげもなく切っていく。

「こっちに小さい実がついてるのがあるでしょ、こっちの方がもっと美味しい実がなるんだよ。そこに栄養を送ってやるために、この程度のは摘んじゃうだ。枝にだって水分も栄養もいっちゃうから、枝ごとバッサリとね……」

 パチン

「それ、もらってもいいですか?」

「いいよ、ジャムにでもする?」

「アハハ、そういうの苦手だから、殿下のお部屋に活けて差し上げようと思います」

「ああ、それはいい。柑橘系は気分をリラックスさせて脳神経にもいいというからね」

「はい、理屈は分かりませんけど、いい香りは、きっと体にもいいです」

「ハハ、お母さんのお仕込かな?」

「あ、わたしに母はいません」

「え?」

「父が孤児だったわたしを引き取って育ててくれたんです」

「あ、ごめん、余計なことを言ってしまったなあ」

「いいえ、では、頂いていきます」

「自分も後でお部屋に行くよ」

「はい」


 殿下にお見せすると、こんなやりとりになった。


「もう一つ思い出しました」

「え、何をですか(°꒳° ) ?」

「僕はミカンが大好きな日本人だったようです(^_^;)」

 
 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
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  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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銀河太平記・259『殿下の到着』

2024-11-30 14:24:22 | 小説4
・259

『殿下の到着』 胡盛媛中尉 




 歴代の大統領で劉宏大統領はピカイチだと思う。

 漢明人として日本語のスラングである『ピカイチ』を使うのは憚られるんだけど、西之島で憶えた『ピカイチ』は親しみと尊敬の心が籠っていて好き。

 それに、これは漢明軍の胡盛媛中尉としてではなく、フーちゃんの感想だからね。

 フーちゃんというのはお岩食堂のお岩さんとハナちゃんが付けてくれた愛称。苗字が『胡』だから漢明の発音で『フー』、それに『ちゃん』を付けただけなんだけど、とても馴染んでる。下の名前だと『シェンエン』でしょ、これに『ちゃん』を付けたら『シェンエンちゃん』。ちょっと舌噛みそう。

 
 そのピカイチ大統領に付き添って、大統領府にいくつかある客室の一つに向かっている。


 廊下の窓から見える庭には出入りの造園業者のバンが停まっていて、それをチラッと見て、大統領は脚を緩めて一番端の客室に入る。もう覚悟を決めているので、わたしもそれに続く。

「ご苦労でした船長」

 まずは、造園業者のお仕着せを着た船長を労って、ベッドのそばに寄る。

「……お眠りになっているのね」

「はい、混乱されるといけませんので、ご本人の了解を得て眠って頂いております」

「ありがとう。行き届いた配慮に感謝します。林船長」

「それでは、これで失礼します」

 ビシッと敬礼する船長、それに何かを感じて大統領は振り返った。

「あ、ちょっと」

「ハ」

「……あ、やっぱり尊宅か、栗尊宅(りつそんたく)!」

「あ……分かってしまいましたか」

「いや、苗字が林に変わって……分からなかったぞ、昔はそんなに恰幅も良くなかったしな」

「ハ、宙軍に入った翌年に養子に出されましたので……輸送船に乗るようになってからは、体重も五割り増しになりましたし」

「あ、紹介しておこう。むかし、うちの運転手をやっていた栗尊宅だ、こちらは殿下の世話をしてくれる胡盛媛中尉だ」

「あ、胡盛徳大佐の……」

「はい、広報部の胡盛媛中尉です」

 造園業者のお仕着せを着ているとはいえ、輸送船の船長、中佐か大佐、あるいは除隊したのかもだけど、それでも中佐か大佐待遇。礼は欠かせない……けども、わたしは、いつ森之宮殿下のお世話係に……まあ、情報を知らされた時点で覚悟はしてたけど(^_^;)。

「しかし、閣下も……承知してはおりましたが、見事にお変わりになられましたなあ」

「え、あ、そうだ、つい昔の喋り方になってしまった(''◇'')」

「自分には、その方が懐かしいであります」

「そうはいかないわ、PIしてからは人格変えたんですからね」

「は、はあ、いずれにしろ大統領に変わりはありません」

 軽く背筋を伸ばす船長。

「たしか、船長は今度の航海で引退だったわね……」

 ハンベで確認する大統領、左手の内側に付けているから、とても女性的な仕草になる。

「はい、ですが、この事故で船はドック入りですし、このまま本社の本部付になって定年になるかと思います」

「そうなのね……じゃ、いっそ今日にでも辞めて、大統領参与にならない?」

「え、大統領参与ですか?」

「うん、このフーちゃんと一緒に殿下のお世話係りやってもらえると嬉しいんだけど」

「……殿下のことでしたら、この尊宅、誓って口外することはありません」

「ごめん、そういう意味じゃないの。殿下のことは遅かれ早かれ漏れてしまう。問題は、殿下に早く穏やかに回復していただくこと。そして、その後、どのように処遇させていただいたらいいのか。殿下と共に考えなければならないわ……将軍や高官たちの中には、殿下を利用しようという者も現れるだろうし。そういう者を寄せ付けないためにもあなたたちのような存在が要ると思うの」

「ハ、そういうことでしたら」

「まずは、フーちゃん。殿下がお目覚めになった時は、あなたがお側に居るようにしてもらえるかしら」

「はい、承知しました」

「尊宅さんは……」

「取りあえずは、庭番の詰所にでも居ります。このなりですから」

「そうね、身分の方はわたしが処理しておきます。夕方にはまた顔を出します。では……」

 大統領は足早に執務室の方角に歩いて行き、数分後には大統領専用のオイドがヘリポートから飛び立っていくのが見えた。


☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・258『大統領のサンルーム』

2024-11-24 12:06:16 | 小説4
・258

『大統領のサンルーム』 胡盛媛中尉 




 モンゴルでの戦闘は無かったことに……なってしまった。

 でも、現実にはロシアとモンゴル双方に千を超える犠牲者、我が漢明軍にも40名の負傷者が出ているので、前哨戦の地名をとってノモンハン事変という呼称になった。

「つまり、あの馬乳酒の乾杯で、本当にチャラになったというわけですか?」

 お茶碗に手をかける前でよかった。お茶碗を手にしていたらひっくりかえしていた。もし、少しでもお茶を口に含んでいたら噴き出すか、盛大にむせかえっている。

「うん、ロシアもモンゴルもメンツが掛かってるし、うちも怪我人出しただけで済んでるしね。じっさい、ノモンハンでもロシアとモンゴルは戦ってるしね」

「はぁ」

「それに、あれを公的に戦闘にしてしまうと、准将は抜け駆けで処罰しなくちゃならない」

「あ……」

「朱元尚准将は、あくまでも、軍広報部長として取材中の事故で頭を打った。それで入院」

「はぁ」

「補任にあたっては、この大統領官邸に呼び出して、昔で言えば勅任官待遇で記念写真まで撮ったから、無下には扱えない」

「そうなんですか」

 実は、あの補任式も釈然としない。軍の中枢からは外したとはいえ、准将に昇格させて特別待遇の大統領とのツーショット。撮ったのはわたしだし。

「准将の一族はね、グノーシス戦争の英雄なのよ」

「ええ!?」

 グノーシス侵略。

 百年前、火星がようやく独立国家群として発展しようかという時に、突如襲った正体不明の侵略。マス漢、扶桑、連合国が中心になって乗り切ったぐらいしか知識は無いけど、マス漢の宗主国である漢明も、いろいろカンでいるんだ。

「マッパ病(マースパルスウィルス感染病、略してマッパウィルス病、もっと略してマッパ病)も収束の兆しを見せ始め、おそらくは、もう数週間で終息宣言が出されるわ」

「あ、それは良かったです(^▽^)」

 戦争も疫病も無いにこしたことは無い。起きてしまったのなら、最大の努力でさっさと終わらせるべきなんだ。

「終結したら、今のフーちゃんみたいに、火星の人たちは喜ぶでしょ」

「はい、いいことですよね!」

「そう、マス漢も官民こぞって喜んで、連日お祝いするでしょうね。でも、終わったばかりの災厄や戦争は総括に時間がかかる。でも、国家や民族でお祝いしたい気持ちは捨てがたい。そこで……フーちゃんが、マス漢の文化大臣とかだったらどうする?」

「あ……それ以前のマース戦争やグノーシス戦争の英雄を、マース戦争は扶桑や連合国に差しさわりがありますから、グノーシス侵略……あ、そうか!」

「マス漢でブームになったら、遅れて、漢明でも注目される」

 そうか、それでグノーシス戦争の英雄の子孫……朱元尚准将を粗略には扱えない。

「まだまだ、この劉宏の体制は盤石とは言えないからねぇ」

「どうされるんですか?」

「履歴に傷が付かないようにして退役させる。退役させれば、取りあえず軍部への影響力は抑えられるでしょう。そして、開発公司からもね……」

 ピピピ ピピピ ピピピ

 大統領のハンベが子どもの防犯ベルのようなアラーム音をさせる。

「はい、わたしだけど……」

「あ、外します」

 腰を浮かせると、大統領は右手で――そのままいてちょうだい――とサイン。

「あ、うん、分かったわ。牽牛が戻り次第連絡をちょうだい。うん、それまでは……うん、このサンルームでお茶してるから。現時点での情報だけ送ってちょうだい。はい、ご苦労さま」

 ハンベを切ると、鼻の付け根を指で挟んで揉んだ……PI以後ほとんどやらなくなっていた大統領の癖だ。

「火星連絡船の牽牛が遭難船とぶつかってねぇ、その遭難船の乗員を保護して戻って来るの」

「衝突ですか?」

「そう、いまどき珍しいんだけど、いきなりワープアライブしてきて制動が間に合わなかったらしいの」

「ワープアライブですか!?」

 実験的には可能だけども(パルスギとかを使えば)船体や人体に影響が出るので、まだ実用化はされていないはずだ。

「旧型の内火艇だし、オートの牽引ビームが効いて大惨事にはならなかったんだけどね……」

 そこまで言うと、大統領はズイっと身を乗り出してきた。

 なんだか、女子高の先輩が後輩に秘密の話をするみたいで、ドキドキする。

「それが、乗っていたのは……日本の皇族なのよ」

「日本の皇族!?」

 そう言われて思い浮かぶのは、わたしが来る前に島を出られた心子内親王殿下。

「森之宮茂仁殿下……まだ、わたしと牽牛の船長しか知らないんだけどね……」

 大統領は期末テストで欠点を三つ取った女子高生のような顔になった。

 

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
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銀河太平記・257『エマージェンシーっす!!』

2024-11-09 13:57:17 | 小説4
・257

『エマージェンシーっす!!』 ツナカン 




 ガピーーーン!!


 もし、モニターに擬音を付ける機能があったら、そういう音!

 そんな感じでココちゃんの1号艇はブイに引っかかって、二時の方角に飛んで行ってしまったっす!

「エマージェンシー! ただちに救命艇を出せ!」

 艦長が鬼のように叫ぶっす!

 その救命艇が始動する前に、すぐ後ろを走っていた2号艇が牽引ビームを撃って接弦したっす。

『シゲです、ココちゃんは2号艇に収容して先に帰します。怪我の具合はわかりませんが、意識がありません。自分は1号艇に乗って戻りますので、2号艇の収容を最優先でお願いします』

 落ち着いた声で伝えてくるシゲさん、いや茂仁殿下っす!

「ココちゃんのバイタル出せ!」

「出しました!」

 ツナカンがモニターに出したバイタルは、血圧が少し低い以外はノーマルっす!

「ボートはオートで帰って来る、収容準備! 医務長、至急中央医務室へ! 医療班待機! それから……ん? だれだ、ひとりで飛び出した奴は!?」

 モニターにランドセル(パーソナルロケット)を背負って2号艇を迎えに行く……サンパチ殿が見えたっす!

「さすがサムライ、黙っていても行動が早いぜ!」

「男は黙ってレスキュー一番ってか!」

「カッケー!」

「オレタチもいくぞ!」

「あたしも!」

「おれも!」

「「「「オオ!」」」」

「勝手に動くな! 受け入れ準備急げえ!」

「左舷二番ゲートの方が一分早く収容できます!」

「救急室も左舷二番が早いです!」

「よし、二番で応急措置! できしだい中央医療室に移送! 取り舵フタジュウ、二番ゲートを2号艇に正対させろ!」

「艦長!」

「なんだ!?」

「1号艇、亜光速で三時方向に飛んで行きます!」

 ええ( ゚Д゚)!?

 ブリッジのみんながビックリしたっす!

 ココちゃんの2号艇ばかりに注意がいって、シゲさんが乗り込んだ1号艇には注意が行ってなかったっす!

「1号艇、光速を超えて突き進んでいきます! 地球の軌道方向です!」

「2号艇の収容急げ! 収容でき次第1号艇を追うぞ! なんで、内火艇が光速なんだ……」

 ヤバイ……自分らが、勝手にチューンしたのが裏目に出たっす。

 ただただ、ココちゃんに一等賞取らせてあげたいって気持ちからだったっすけど、裏目に出まくってしまったっす!

「1号艇進行方向に漢明の輸送艦隊!」

「まずい、急げ!」

「2号艇の収容が済んでいません」

「急げえ!」

「収容まで5分」

「もっと早く!!」

 ああ、船長キレかけ……(-_-;)

「サンパチ殿が取りついて後ろから押してます! 1分縮まります!」

「でかしたサンパチ!」

「しかし、間に合いません!」

「グヌヌヌヌヌ!」

「1号艇から通信『2号艇の収容を優先されたし』です」

「…………………」

 ブリッジに船長の無言の怒気が満ちて、乗員は、ただただ船長の直近の指示とエマージェンシーアクトに従って行動したっす。

 結果、ココちゃんは無事に収容。手当てが早かったので、あくる日には元気になったっす。

 ただ、1号艇は通りかかった漢明船に収容されて、シゲさんを取り返しには行けなかったっす。



 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
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