REオフステージ (惣堀高校演劇部)
147・香里菜が遅れた理由 啓介
「アハハ、そうやったんか(^□^)」
かえって話しやすくなった。
伊藤香里菜は、約束場所の屋上に来るについてツインテールを解いてロン毛にしてて時間がかかったらしい。
「鏡を見たら、なんか子どもっぽくって、先輩に会うんならロングにしようって、思ったのはいいんですけど、クセが付いてしまって。あ、朝シャンして、十分乾かさないうちにツインにしたからなんです。あ、こんなこと先輩には関係ないんですけど。それで、水で濡らしてブラシ掛けてたら、ちょっと時間がかかってしまって、遅れてしまって、すみませんでした(>▢<)!」
「いいや、それはかめへんよ、こうやって間に合ったんやから」
我ながら優しい。これがミリーとかやったら「冷やし中華一杯の貸しやぞ」くらいの文句は言うてる。
いや、じっさい、予想外のロン毛の姿を見ると、ツインテールよりも清楚系の美人に見える。いや、本人に自覚は無いのかもしれへんけど、この方が魅力的やと思うぞ。
「あ、あ……それで、それで、用件なんですけど」
「あ、うん」
「せ、先輩のことは、文化祭の『夕鶴』も観てました、あ、たまたまなんですけどリハーサルから見てました。文化委員で設営係りにあたってましたし、すごくリーダーシップのある人だと感心しました。こないだの野球部の件とかも、男らしい対応をされて、ヘリコプターが不時着した時も、身を挺して沢村さんを助けて、すごく立派だと感動しました!」
「あ、そうなん? あ、まあ、あれは、まあ、あの立場であそこに居たら、まあ、一応部長やしなあ」
「食堂の件も知ってるんです! て、いうか、あの時先輩の後ろに居ましたし」
「え、あ、ああ……」
そうか、俺の後ろに並んでて田淵に横入りされてた一年の女子!
「横入りされたのはわたしたちの方なのに、先輩は毅然としてらっしゃって……」
「え、あ、いや。オレも、腹減って気ぃ短なってたしなあ(^_^;)」
「でも、あのあと野球部の窮状を知って、ピンチヒッターを引き受けられたのは立派です!」
「あ、ああ」
ああ、尊敬のまなざしで見てくれてる。なんかワタワタしてきた。
「それに、河内長野の温泉で人命救助もされたじゃないですか!」
「ええ、それも知ってんのん!?」
「はい、あの時、先輩が人工呼吸して助けたのは、わたしのお祖母ちゃんなんです!」
「え、ええ!?」
あ、たしか『サワちゃん』と呼ばれてた……あ……目の前の伊藤香里菜のプックリした唇と、もう忘れようとしていたサワちゃん婆さんのお湯でふやけた唇が重なって、クラっとしてしもた……。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- 小山内啓介 演劇部部長
- 沢村千歳 車いすの一年生
- 沢村留美 千歳の姉
- ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
- 松井須磨 停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
- 瀬戸内美春 生徒会副会長
- ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
- シンディ― サンフランシスコの高校生
- 生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
- 先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
- 惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)