やくもあやかし物語・91
かるた会をやるのに四畳半では狭い。
えと、机の上に広げた1/12フィギュア用のミニチュアね(^o^;)。
そこで、お習字の下敷きに敷く緑色のフェルトを布いて、四畳半用の襖と床の間を設えてみる。
床の間には、花瓶を置いて本物のカスミソウを三本活けてみる。
カスミソウだから華やかさはないんだけど、かるた会をやる三人(やくも チカコ お地蔵さん)のしるしだ。
「あら、気が利いてる(^▽^)」
さっきまでの不機嫌は忘れたみたいにチカコ。
女の子の機嫌なんて、ちょっとしたきっかけがあれば戻っちゃう。
「わたしのを使って」
チカコが立派な百人一首かるたを出す。
「え、すごい」
それは漆塗りの縦長の箱。
十文字に上品な紐が掛かっていて、それを解くと雪の結晶みたいなのと葵と、二つの紋所が金蒔絵で施されている。
上蓋を開けると、二列に読み札と絵札が積まれている。
「なんか、大河ドラマの小道具みたい!」
「こ、小道具じゃないし(-’’-)」
チカコは黒猫のボディを使っているせいか、そっけない。
わたしは……鏡に姿を映して見ると……あ、田村麻奈美!?
ほら、京介の幼なじみの和菓子屋の娘。
眼鏡っこで、京介から生まれながらのお婆ちゃんなんて呼ばれてる、桐乃には『地味子』なんて言われてる。わたしも、ふだんは出していないフィギュア。
「えと……」
絵札を並べて戸惑った。
「なにか?」
「えと……きれいな札なんだけど」
「当然よ、御所お出入りの一流の職人に作らせたものだから」
ちょっと憎たらしい。
「あ、うん、とっても立派できれいなんだけど……」
「それが?」
言いよどんでいると、頭の上で声した。
「やくもには難しいのよ」
「「え?」」
二人で顔を上げると、桐乃が腕組みして見下ろしている。
「あ、えと……」
「二丁目地蔵よ」
「桐乃の姿なんだ!」
「あ、これが一番活発そうだったから(^_^;)」
「難しそうって、読み札はひらがななんだけど」
「草書体ってか、崩した字だから、今の時代の子には読めないよ」
「え、あ、そうか。やくもは令和生まれなんだ」
「し、失礼ね、平成生まれですぅ(-ε´-。)」
「あ、そ、昭和からこっちはみんないっしょよ」
「なんとかしてやんなさいよ、チカコ」
「わかったわ」
クルリン
チカコが右手の人差し指を回すと、読み札の文字が、お馴染みの教科書体に変わった。
「すごい!」
「ふふ、では、始めましょうか。最初は、わたしが札を読むね」
ちはやふる 神代もきかず 龍田川 唐くれないに 水くくるとは~
二丁目地蔵がお決まりの『ちはやふる』を詠んで、かるた会が始まった。
三回まわって一勝二敗。
一勝は二丁目地蔵さんが譲ってくれたんだと思う。だって、チカコとの勝負には勝っていたものね。
こと勝負にかけては、チカコの方がシビアで、ちょっと不満そう。
「むー(-ε´-)」
「いいじゃない、仲良く一回勝てて」
「だって」
「フフ、こどもっぽ~い」
「なんですって(#`Д´#)!?」
「ところでさ、なんで『東窓』って、お札を貼ったら引きこもりの女の子が外に出られるようになったんだろうね?」
チカコを完無視して、二丁目地蔵さんが指を立てる。
「え?」
「だって、業平さんは東の窓から、お茶屋の娘が大口開けてご飯食べてるのを見て、熱が冷めたんでしょ?」
「あ、そうだよね。茶屋の娘さんが失恋しちゃう話だもんね」
「チカコはどう思う?」
「なによ、わたしにフッてきて」
「気にならない?」
「う~ん……東窓……熱が冷めて……恋が冷める話なのに暗くないわね」
「うん、それそれ! それから高安では東側には窓を付けませんでした……なんて、ちょっと可笑しみがなくない?」
「まあ、平安時代の話でしょ、桓武天皇のお孫さんの話だし。それより、真剣に、もう一勝負しようよ! ね、やくもも!」
「え、あ、うん。二丁目さん、もっかいやろうか?」
「そうね」
「やろうやろう!」
そして、もう二回やって、三回目に突入したところで寝落ちしてしまった。
夜中に目が覚めると、机の上はきれいに片づけられていて、黒猫も桐乃も、元のフィギュアに戻っていたよ。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸