大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・001『今日からやさかいに』

2019-03-31 11:11:23 | ノベル

・001

『今日からやさかいに』   

 

 

 ここで降りるん?

 

 財布を出したお母さんは「そこで停めてください」と運転手さんに言う。

 お祖父ちゃんの家は、ここからやと、まだ五百メートルはある。いつもは、お祖父ちゃんの家の前で降りるんやけど……ひょっとしてタクシー代にまで困ってるんやろか?

「今日から住むとこや、どんな街か知っとかならあかんやろ。ほら、こっちが堺東の駅の方や」

 タクシーでやってきた四車線の北を指さすお母さん。駅に着いた時に降ってた雨は上がってお日さんが顔を出してる。せやけど、道路は、まだまだ水浸し。おニューの靴で歩いて行くのは気が進まへん。

「そんで、そこのファミマの道を西に入っていくんや」

 運転手さんがトランクから荷物を出してくれる間にザックリと説明。「そんなん分かってるわ」と言うてみるけど、ファミマが目印やったのは初めて気ぃついた。お母さんに素直になられへんのは、この四月で中学生になる思春期のせいばっかりやない。ないけど、胸に仕舞い込む。

「信号青になった」

 スマホに意識とられてるお母さんに言う。「分かってる」と返すお母さんも、ちょっとツッケンドン。お母さんは、ええ歳して、どこか思春期を引きずってるようなとこがある。

 信号を渡ると住宅地。

「角を二つ曲がるから、よう覚えときや」

 これまでは、堺東の駅からタクシーで来るばっかりやったから、正直道は分からへん。大人しい付いていく。

 三階建てのマンションが見えたとこで、お母さんがクイっと首を捻る。

 左手にキャリーバッグ、右手にスーツケース持ってるからしゃあないねんけど、せめて「右に曲がる」くらい言うてほしい。

 チラ見したら、ちょっと目尻に力が入ってる。

「今のが、介護喫茶の『ひらり』覚えたか?」

「うん」

 次の曲がり角は駐車場やったけど、今度は言わへん。

 お母さんの胸にも、いろいろ迫ってくるもんがあるんやろと思て、駐車場の『コトブキパーキング』看板をしっかり覚える。

「「ハーーーー」」

 親子そろてため息、ちょっと気まずいけど互いに知らん顔しとく。

 

 わたし、田中さくらは今日から酒井さくらと苗字を変えて堺の街で生きていきます。

 

 ちょっと振り返った道の向こうには小高い山が見えた。

 それが仁徳天皇陵やと思いだしたころにお祖父ちゃんの家の前に着いた。お爺ちゃんの家には大きな屋根付きの門がある。門には『安泰山如来寺』の看板が掛かってる。

「いくで」

 実家に入るのに「いくで」はちゃうやろと思うねんけど「うん」と返事して足を踏み入れる。

 そのとたん。

「ヒヤ!」

「……いや?」

「ちゃうちゃう、屋根の雨水が落ちてきて背中に入った」

 ほんまに水が落ちて来てんやけど、うろんな顔のお母さん。

「そうなんだ」

 口癖の東京弁を言うと、ズンズンと庫裏に向かって歩いて行く。

「ハーーー」

 無意識にため息が出て、またお母さんに睨まれる。

 

 見上げた空は完全に回復して青空が覗いてる。

 わたしの心はお天気ほどには切り替わってはいてません。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら   安泰中学一年 この物語の主人公
  • 酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・16『ソンナワケさんと見た原風景』

2019-03-31 06:56:16 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・16

『ソンナワケさんと見た原風景』     
 

 

 目を開けて驚いた。
 

 半分しか復元されていなかった古墳が完全な姿になっている。  

 完全な石葺きになると、ほんとうに頂上からロケットが飛び出してくるんじゃないかと思ってしまう。

「あれ……」

 山並みに変化はなかったけど、麓の家々が無くなっている……その代り、ほとんどが田んぼで、田んぼの向こうには大小の林が連なっている。四階建ての中河内中学校の校舎も見えない……西に目を転じてぶったまげた!
 

 なんと、古墳の堀の西側は、ほんの百メートルほどしか陸地が無くって、そのまま波が洗う海岸になっているではないか!
 

「え……なんで?」

 思わず声になると、堀の外で槍みたいなのを持って背を向けていた古代の兵士みたいなのが振り返った。

 ――ヤバ!――

  とっさに背を低くして兵士の視界から身を隠す。

「大丈夫だよ、他の人間には、我々の姿は見えないから」

 憶えたばかりの声が降ってきた。

「ソンナワケさん?」

「一時的に古墳ができたばかりの五世紀に戻ってきている……というか、景色だけ戻してある。この方がストレスが無いもんでね、どっこいしょっと……」

 ソンナワケさんはガチャガチャ鎧の音をさせながら、わたしの横に座った。

 わたしは、カエルを潰したような恰好から普通の体育座りにした。

「昔の大阪湾は、ほんのすぐそこまできていたんだよ。だから、海を行く船からは、この古墳は実にかっこよく見える。ほら、向こうに島が見えるだろ」

「あ、えと、淡路島?」

 「それは、もっと向こう」

 ソンナワケさんは、伸ばした手をちょっと上げた。

「あれは、神戸とかの陸地じゃ?」

「シルエットだと重なって見えるけど、右側が神戸六甲の陸地だよ。左側が淡路島」

「え、じゃ……」

「手前のは上町台地、ほとんど島のように見えるけどね」

 「そうなんだ」

 この状況って、とても不思議なんだけど、ソンナワケさんと並んでいると、とても和やかな気分になる。

「あの……京ちゃんは?」

「二十一世紀の、あの時間に居るよ。時間は止まったままだから心配することはない、用件が済めば、あの時あの時間になるから心配はいらないよ」

「そ、そうなんですか」

「ね、なんで六甲っていうか知ってるかい?」

「え、えと……」

「麓の川は武庫川っていうんだよね、ほんとうなら六甲川って言ってもいいはずなのにね」

「は、はあ……」

 「元は同じだったんだよ」

「同じ?」

「ああ、この河内から見ると、向こうの山と川だからね。わたしの時代では、単に向こうの山、向こうの川と呼んでいた」

「むこうの……あ?」

「気が付いたかい?」

「向こうの川で武庫川?」

「ピンポ~ン!」

「あ、でも六甲は?」

「向こうに六と甲って字を当てたんだ、で、時代が進むと音読みされてロッコウになってしまった」

 「なるほど……」

「この時代は、全て、この河内が中心だったんだよ」

 そう言われると、この心合寺山古墳からの眺めが、とても懐かしく、うららうららと体に染み込んでくるような気がした。 「この心合寺山古墳というのはソンナワケさんの古墳なんでしょ?」

「そうだよ、この二十年ほどで研究や発掘、復元が進んでね、わたしの心はこんなに長閑なんだよ……」
 

 海風が心地よく、何分立ったんだろう、気が付くと西の空も海も島影も黄金色に輝いている。
 

「やあ、目が覚めたんだね」

 「あの、えと……」

「そろそろ本題に入らなくちゃね……イリヒコのことなんだけどね」

「あ、ああ……」

 覚めきっていないので、間の抜けた声しかでてこない。

「あの子はね、方墳という小さな古墳でね、あの中河内中学校の前身の高校が出来る時に簡単な調査をしただけで壊されてしまったんだ。それで儚くも寄る辺ない身になってしまって、美智子ちゃんのように分かってくれる人の所に出てくるんだ。イリヒコはわたしの一族なんだ」

「そうなんですか」

「わたしではどうしてやることもできないんだ。時間がかかってもいいから、イリヒコを助けてやってくれないだろうか」

「え、えと、助けるって……」

「わたしにもよく分からない。今さらイリヒコの古墳を元通りにしてやることもできないだろうし、別の場所に復元してやっても意味が無い」

「でも……」

「とりあえず、気にかけてやるだけでいいよ。そのうち、いい考えが浮かんだらね」

「………………」

「そろそろ限界かな……」

 ソンナワケさんは、なにやらハミングし始めた……と思ったら、また眠くなってきた。
 

 ワチャーーーー!
 

 つまづいた京ちゃんを助けるような恰好で、元の時間の元の場所……正確には60メートルほどズレて、京ちゃんを助けるような体勢で戻って来た。

「な、なにしてるんよ!」

「わ、ごめんごめん」  

 二人立ち上がって制服に付いた砂を払う。京ちゃんの縞パンも御開帳にならずに無事な様子。
 

 古墳のテッペンに立って、さっき見た河内の原風景を思い出すわたしでした。

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・16(新しいエロイムエッサイム)

2019-03-31 06:44:07 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・16

 (新しいエロイムエッサイム)
 

 

「わたしは、もう死ぬ気だったんです」
 

 テレビ画面で、疲れ果てたオヤジさん……というよりも、オジイサンが言った。

 フレーム一杯のアップになっていた目から、一筋涙が零れ落ちた。すかさずカメラは、複数の人間の顔をカットバックで映し出す。
 

「昭和32年でした。集団就職で上野に着いた時、社長さんが、まずここに連れてきてくださったんです。半分できかけの東京タワーをはじめ、東京は雨の後の筍みたいに、あちこちで息づいて伸びていっているのが分かりました。この日本の成長を象徴するような息遣いの中に自分も入るのかと思うと、全身が緊張し、青森じゃ感じたことのない昂揚感が溢れてきました……」  

 オジイチャンは、そこで一息深呼吸すると、一気にあとを続けた。

「55の歳まで、しゃにむに働きました。こう言っちゃなんですが、勤めていた会社は、業界の中でも手堅い中堅企業でした。バブルのころにも、余計なことには手を出さずに、本業一本でやってきました。会社は安泰でした、盤石でした。もう若い人たちに任せてもいい……いや、自分でやってみたかったんです……56で独立しました。ささやかな町工場でしたが、長年の信用と技術……そして、家族の理解で。でも限界でした。原材料を輸入に頼る仕事に、この円安は耐えられません。中国に移転する話もありましたが、古い人間なんで、日本にこだわりました。高い原材料を買い、安い価格で提供……もう限界でした。借入金の返済は迫ってくるし、新規借り入れはもうできない。家も工場も抵当に入っていました。わたしが死ねば保険でなんとか、家だけは残せます。そう思って、上野の山に行って、偶然あの人の歌を聞いたんです。みんあ若いころ……いや、幼いころから聞いてきた歌たちを」
 

 クリスマスイブの上野で、真由の歌を聞いて自殺を思いとどまった町工場のオジイサンの言葉だ。
 

「すごいね、昨日から、テレビや動画サイト、真由ちゃんの話題で持ち切りだわよ。あたしは、この線で行くべきだと思う」  

 ウズメが炬燵にあごを載せたまま言った。

「今までの魔法は、戦うだけの魔法だった。いざと言う時も、こっちに来る災いを他のところに持っていくだけ、いわば対処療法。時間はかかるかもしれないけど、じっくり人の心から変えて……いや、助けていく魔法があってもいいんじゃないかと思うわよ」

  清明が、ウズメの口を借りて言った。
 

 なんせ、真由の部屋は六畳一間で、ベッドに机と炬燵で一杯だ。それに、クラスメートに化けた……と言っても制服を着ただけだったが。ウズメは自然に友達として部屋に居れるが、オッサンの清明は無理だ。ギュ-ギューだということもあるが、母親が怪しむ。

 ただでも、家の前には、マスコミやにわかファンで満ちており、先ほどから所轄の警察が交通規制に入ったほどである。
 

「あたし、ただ楽しくて歌ってただけなんだけど。これもウズメさんや清明さんのタクラミ?」

「日本の神さまが言うのもなんだけど、今は、あなたの力が必要なの。ま、日本流に言えば呪術、魔法のグローバリズムってことで。新しいエロイムエッサイムに……どうだろう?」

「うん、歌うことは好きなんだけど……」
 

「真由、もう家の前いっぱいだから。なんとかしてくれって、お巡りさんが!」
 

 階下から母親の悲鳴が聞こえてきた。

「わかった。駅前の公園で記者会見やりますって、そう言って!」

 流されているような気もしたが、自分の決心だと思った。
 

 テレビでは、あのオジイチャンが家族といっしょに、まだテレビに映っていた……。

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高校ライトノベル・時かける少女・54『正念寺の光奈子・4』

2019-03-31 06:32:43 | 時かける少女

 時かける少女・54 

『正念寺の光奈子・4・アミダ現る』        

 

 光奈子の朝は、本堂の阿弥陀さまに御仏飯(オッパン)を供えることから始まる。
 

 いつものようにオッパンを供えると、お盆を胸に抱えた。ここまではいつも通りである。小学校の四年生から、この役は光奈子と決められている。
 

 いつもと違うのは、ここでため息をついたことである。

 クラブのことが気がかりなのだ。シノッチ先生は、ああ言ったが、林田が辞めた先生の役を外すと台本が成り立たない。シノッチ先生も勢いで書き直しを引き受けたが、困っているであろうことは容易に想像できた。明日から三連休。それが過ぎれば、九月も半ば。コンクールまで、実質一カ月しかない。だからため息になった。
 

「ちょっと待ちなよミナコ」

 声がした。
 

 え……振り返っても、本堂のどこにも人影はない。

「ここだよ、ここ」

 須弥壇の宮殿(くうでん)の中から声……すると、阿弥陀さまが、グーッと大きくなりながら宮殿からお出ましになり、光奈子の前にお立ちになった。
 

「あ、阿弥陀さま……!」
 

 光奈子は、思わず正座して手を合わせ、お念仏を唱えてしまった。
 

「そんなカシコマルことはないよ」

 阿弥陀さまは、気楽に光奈子の前でアグラをかいた。

「だけども、やっぱり……南無阿弥陀仏!」

「オレは、ミナコのアミダさんだよ」

「へ……」

 「人様の手前、こんな伝統的なナリはしてるけどね、本名はअमिताभ Amitābha[amitaabha]」

「へ……」

  光奈子は、間の抜けた返事を繰り返すしかなかった。

 「ええと……無量光仏、無量寿仏ともいって。無明の現世をあまねく照らす光の仏にして、空間と時間の制約を受けない仏であることを示すんだけども、本来なら姿は見えない。だから、これはミナコに見えるための仮の姿。まあ、CGかホログラムみたいなものだと思って」

「ホログラム……初音未来のバーチャルコンサートみたいな?」

「そそ、ただ、この姿はミナコにしか見えないから、そのつもりで。時間も止まってるからね、いつまで喋りあっても時間はたたないからね」

 なるほど、本堂の時計は止まったままだし、寺の前を駅へと急ぐ通勤、通学の人たちの喧噪も聞こえない。本堂の戸を開けてみると、世界がフリーズしていた。
 

「分かったかな。オレ、ミナコを助けるために出てきたの。ミナコには、その能力と問題があるから」

「能力と問題?」

 「こうやって、オレってか、あたしと通じる能力。そしてとりあえずは、ミナコが抱えている問題。今はクラブの台本のことだね」

「うん……なんとかしないと、ひなのも浮かばれないもん」

「ひなのは、もう御浄土に行ったからいいんだよ。ただ、ひなのの気持ちを大切にしてやりたい気持ちは大事だと思う」

 「なんか、名案あります?」

「基本は、シノッチ先生も含めて、演劇部の不勉強。部員が何人になろうと、やれる芝居の三つや四つは持っていなきゃ。シノッチ先生も、本書くんだったら、条件に合わせてチャッチャッと書き直す力がなきゃね。そういうとこナイガシロにして、プータレてんのって、ダサイ。だから演劇部って人気がないんだぜ。そもそも……」

「あの、お説教は、またゆっくり聞きますから、なんか対策を」

「スマホで、小規模演劇部用台本ての検索してみな。『クララ ハイジを待ちながら』てのがあるから。主題は、今までの本と同じ。閉じこもって揺れながらも前に進もうって姿と、その道の険しさが、両方出てる」

「クララ ハイジを待ちながら……覚えた!」

「よしよし。じゃあ……」

「あの、一つ聞いていい?」

「いいよ。時間は止まったままだから」

「あたしのこと、なんだかカタカナのミナコって、呼ばれてるような気がするんだけど?」

「そりゃね、光奈子は、世界中……って、まあ主に日本だけどね、ミナコって名前の子の人生をみんな引き受ける運命にあるからさ。ま、それはいい。光奈子は、いまのミナコを一生懸命生きればいいよ。オレ、あたしのことも、カタカナのアミダさんでいいから。じゃあね」
 

 アミダさんが消えると、街の喧噪と、家の日常の音がもどってきた。

 人の世というのは雑音だらけだと光奈子は感じた。
 

 さっそく、朝の支度と通学時間を使って『クララ ハイジを待ちながら』を読んだ。主役のクララは、大変そうな役だけど、面白そうだった。学校に着いたら、昼にでも、学校のパソコンで引き直してプリントアウトしなきゃ!
 

 学校の下足室に着くと、知らない女生徒が立っていた。
 

「これ、印刷して綴じといたから」

 その子は、台本が三十冊ほど入った紙袋をくれた。

「あ、あなた……?」

「アミダ、あたしは、をあまねく照らす光の仏って、言ったでしょ。しばらく網田美保ってことで、ときどき現れるから。あ、それから、ひなのを跳ねた犯人は、午前中には逮捕されるから」

 そう言って網田美保は行ってしまった。
 

 光奈子は、まずシノッチ先生に台本を渡した。
 

「うん、読ませてもらう。正直、書き直しは進んでないんだ」
 

 休み時間に、残り三人、碧(ミドリ) みなみ 美香子にも渡し、放課後の部活では、みんな『クララ』を演るつもりになった。
 

 キャストも決まった。クララが碧、シャルロッテがみなみ、ロッテンマイヤーが美香子。で、演出が光奈子に収まった。

「スタッフ、足りないから、新入部員掴まえてきた!」

 シノッチ先生が、にこやかな顔で入ってきた。

「よろしくお願いします。二年B組の網田美保です!」
 

 サッと部室に光が差し込んだようだった。

 シャクに障ることに部員の誰よりもカワイイのだ。
  

 

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・15『心合寺山古墳のソンナワケ』

2019-03-30 08:05:44 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・15

『心合寺山古墳のソンナワケ』          
 

 

 いやー 知らんかったわ!!
 

 京ちゃんがドラマのオープニングのように感嘆の声を上げた。 通り過ぎる中河内中学の生徒たちが変な目で見ている。 京ちゃんの声が大きすぎるのが直接の原因なんだけど、ここは中河内中学のテリトリー、制服が全然違う中学生がドラマの主人公みたいにキャピキャピしていては、あまり好意的な関心を持たれない。ちょっとアセアセ。
 

 ね 中に入ってみよ!
 

 小気味よく自転車のスタンドを立てると、兎を思わせる足どりで古墳の頂上目指す京ちゃん。

「あ、ちょ、鍵、待ってぇーー!」

 わたしは、京ちゃんの自転車の分まで鍵をかけて追いかける。

 ドジなので、途中で躓き、早くも堀を跨ぐ土橋に差し掛かった京ちゃんがケラケラ笑う。

 背後で中河内中学の男子たちが注目しているのを感じる。やっぱ京ちゃんはヒロイン、わたしはモブ子だ。
 

             
 

「ミッチーが誘ってくれへんかったら、知らんままに卒業してたやろなー」

「ほんとうに知らないの?」

「うん、心合寺山古墳 (しおんじやまこふん)は授業では習たけど、じっさい来るのは初めてや」

「うん、初めてなんだよね」

 あたしには軽い失望があった。京ちゃんなら八尾のネイティブなんで古墳と古墳にまつわる話を知っているんじゃないかと、始業式が終わるのを待ってやってきたのだ。

「ここてビフォーアフターやねんねえー」

「なんか古墳の美容整形の見本だね」

 心合寺山古墳は、西半分が作られた時そのままに石なんかが葺いてあり、そこだけ見ればロケットの発射基地みたい。 東半分は草や木が生えたままで、ボンヤリ見ていると丘にしか見えない。古墳の今と昔が同時に分かる仕掛なんだと、わたしにでも分かる。

「八尾市は貧乏やから、復元するお金ケチったんやろなあ」

 腕組みしてしみじみ言う京ちゃんは、雰囲気の割に身もふたもない。

「そんな理由なの?」

「うん、ゴミ袋は小さなるし保育所は少ななるし、台所事情は苦しいと思うでー」

 そうい言われると、なんだかケチっているようにも見える。

 「ね、ここって、どんな人が葬むられてるんだろ?」

 なるべく自然に聞こえるように声にした。

「そら決まってるやん、昔の偉い人!」

「えと、どんな偉い人なんだろ?」

「そういうのは、ただの偉い人でええねん。それがロマンというやっちゃ!」

 そう言うと、京ちゃんは古墳の頂上に走り出した。

「あ、コケるよ!」 「ダレかさんとはちゃいます~」
 

 そう言いながら、京ちゃんは頂上に上がる階段の途中で見ごとにつまづいた。

「オワーー!」

 女の子らしくない悲鳴を上げた京ちゃん。スカートが翻ってシマシマパンツが見え……っぱなし?

 京ちゃんは、つまづいた直後の姿勢のままストップしてしまった!

「え、え、えー!?」

 京ちゃんの向こう、頂上の上を飛んでいた鳥も停まって……古墳の東側の道を歩いたり走ったりしていた中河内中学の生徒たちもストップモーション。西の眼下を走っていた近鉄電車も上りと下りが交差したまま停まっている。
 

「やあ、よく来たね」
 

 松坂桃李さんの声がした!

 振り返ると、頂上脇の二本の木の前に大魔神みたいな昔の鎧を着た髭面が立っている。わたしは金縛りになって身動きができない。

「驚かしたなら申し訳ない、わたしは、この陵の主でソンナワケという者だ」

 喋りながら髭面は近づいてくる。

「めったなことで昼間に現れることはことはできないんだけどね、君の能力と条件設定がピッタリ合って、君の前に現れることが出来た……」

 そう言いつつ、髭面はむき出しになっている京ちゃんのシマシマパンツをしげしげと見ている。いやらしいオッサンだ。

「あ、あの、京ちゃんのスカート下ろしてやりたいんですけど」

「それはダメだ。この階段のちょうど真ん中で乙女のお尻がむき出しにならなければ、わたしは姿を現せないんだよ」

 声は松坂桃李さんにソックリなのに、言うことがイヤラシイのでムカついてきた。

「他にも条件がある。近鉄電車が高安と山本の間で交差していることも重要な条件なんだ、そして触媒になれるほどの能力を持った君の存在がね」

 なにをこのエロ大魔神が!

「えと、髭面でもエロでも大魔神でもないで、さっきも言ったけどソンナワケと呼んでくれないかなあ」

 「ソンナワケかドンナワケか知らないけど、いったいなんなのよ!?」

「あ、すまない、君のいましめは取らなきゃね……」

 エロ……ソンナワケが手首を振ると、つんのめるようにして金縛りが解けた。
 

 ソンナワケの髭面が迫ってきて、思わず目をつぶってしまった……。

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・15(メリークリスマスフェアリーズ)

2019-03-30 07:52:19 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・15

 (メリークリスマスフェアリーズ)
 

  Dashing through the snow  

  In a one-horse open sleigh,  

  Over the fields we go,  

  Laughing all the way;  

  Bells on bob-tail ring,  

  making spirits bright,  

  What fun it is to ride and sing  

  A sleighing song tonight, O!

 真由の歌声が、上野の山に響いた……☆
 真由は、フィーメルサンタコスで、一人で歌った。条例で決められたマイクのボリュームを守っているのだが、なぜだか上野のほとんどの人の耳に懐かしさとともに響き、心に沁みわたった。

 Jingle bells, jingle bells, jingle all the way!  O what fun it is to ride In a one-horse open sleigh Jingle bells, jingle bells, jingle all the way!  O what fun it is to ride In a one-horse open sleigh!

「なんかポピュラー過ぎて、ジングルベルなんて聞かないよな……」

 「懐かしい……子供のころに聞いて以来だわ」

「初めて聞くけど。新鮮じゃん……」

 クリスマスに上野の山に来るものは、どちらかというと21世紀のキラキラしたクリスマスには縁が無い、あるいは背を向けた人たちが多かった。そういう人たちの心に沁みる、懐かしくも新鮮なジングルベルだった。
 

「ねえ、オネエチャンの後ろに何人もサンタさん。いっしょに踊ってるよ」

 小さな女の子が、手を引いてくれる母親に言った。

「うわー、いっぱいのサンタさんになった!」

 女の子に手をつながれた幼い弟が言った。

 真由の後ろには、数えきれないほどのサンタがバックダンサーとバックコーラスになって滲みだしてきた。
 どうやら、アカハナの魔法のようだ。

 真由は、ジングルベルに続き、『雪の降る街を』『ペチカ』『たき火』『冬の星座』など、有名で、みんながどこかで聞いたことのある曲を歌った。

「なんだか、忘れ物が、ひょっこり出てきたみたいですねえ……」

 美術館帰りの老婦人が、真由を取り巻く人の輪の中で、長年連れ添った夫に言った。
 

「では、みなさん。これから他のところを周って、夕方には戻ってきます。よかったら聞いてください。クリスマスフェアリーズでした」
 

 あっという間に、真由たちは撤収した。観衆の人たちには妖精がフェードダウンするように見えた……。

 真由たちは、あらかわ遊園、代々木公園、駒沢オリンピック公園、葛西臨海公園、井の頭恩賜公園など、ヘブンリーアーティストのメッカとも言える場所を40分程度で周り、夕方には約束通り上野に戻って来た。
 

 朝のパフォーマンスを観た人たち、よそのスポットで観た人たち、YouTubeなどで情報を得た人たちで、二万人ほどの人たちが集まった。
 

「ヘブンリーアーティストなんで、長時間広い場所を占拠できませんので、お巡りさんに注意されるまでの間、出来る限り歌わせてもらいます」  

 アカハナの魔法で、真由の特設ステージがだきた。人々は最新のデジタル技術だと思った。

 真由は、クリスマスソングを中心に、みんなが忘れかけた、古い歌を十数曲歌った。映像は、ほとんどライブで動画サイトに流され、一部は夜のニュース番組でも流された。

「あたしたちは、ヘブンリーアーティストです。ご要望があれば、どこへでもでかけます。今からメアドを送信します。ご用命の節は、ご遠慮なく」

 と、アカハナが大宣伝。
 

「じゃ、あたしとサンタさんは本業に戻る。クリスマスイブだからね。あとは運命で転がっていく。真由は21世紀の魔法使いになってね。いいことばっかじゃないけど、真由ならきっとできるわ」

 そう言い残し、サンタの赤い車は飛び立った。消えて見えなくなるころに、それはトナカイの橇になったような気がした。
 振り返ると家の玄関だった。
 パソコンを立ち上げると、メールがいっぱいきていた。感謝と感動のメールが多かった。中には芸能プロからのお誘いもあった。

「たった一日で、世界は変わるんだ」

 最後に見た幾つかのメールが胸を打った。
 自殺を思いとどまったり、家出していた若者が家に帰る気持ちになった、わたしも人に幸せをあげられる人間になりたい……。
 真由自身、こんなに胸の温まるクリスマスは初めてだった……。
 

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高校ライトノベル・時かける少女・53『正念寺の光奈子・3』

2019-03-30 07:14:46 | 時かける少女

 時かける少女・53 

『正念寺の光奈子・3・地獄に墜ちろ!』        


  よく誤解されるが、浄土真宗には、極楽の概念だけがあって、地獄は存在しない。
 

 子どもの頃から聞かされた教義であるが、光奈子は、たまに「地獄に墜ちろ!」と思う奴がいる。 今回は、三年生の林田先輩だ。演劇部で、たった一人の男子部員。 温厚を旨とする光奈子が「地獄に墜ちろ!」と思うのは、よっぽどである。あの生指の梅沢先生にもそこまでは思わなかった。
 

「おれ、今度の役降りるから」
 

 この一言で、光奈子は、そう思ったのである。 林田は、顧問の篠田先生と春休みにぶつかった。先生に一言もなく地区の合同公演に出たからである。

「なぜ、あたしに言わないのさ。知らないところで事故やケガされても、責任はうちの学校なんだよ、あたしが責任とるんだよ。それに、その間、クラブどうすんの? あんた、もう三年生になるんだよ!?」
 その時は、大げさだなあぐらいに思っていたが、今度のひなのの事では先生は、始末書を書いて訓告処分になった。梅沢先生の「教師公務員論」には、賛成できないけど、扱いは並の公務員のそれである。
 

 もう一つ許せない理由がある。
 

 ひなのは、この芝居の道具に使う布地の見積もりを取りに行って事故に巻き込まれたんだ。林田が降りたら、この芝居は成り立たない。つまり、ひなのは犬死にしたのと同じになる。

「なんで犬死になんだよ。もし、オレが降りないでコンクールに落ちたら、そっちこそ犬死にじゃんか。ひなのだけじゃない、みんな無駄な努力に終わっちまうんだよ」

「それは、違います。やるだけやって、だめだったら、ひなのだって納得します。やらずにやめちゃうなんて、ひなのが浮かばれません」

 「それじゃ、まるで、オレが悪者みたいじゃないか」

「悪者です!」

「なんだと!」

 クラブのみんなは、シンとしてしまった。

「冷静に言うぞ。今の本じゃコンクールで最優秀はとれない。八月のアプレ公演の時に、そう思ったんだ。今なら間に合う。本を変えよう……て、言ったら、みんな、そういう顔するだろ。オレに腹案があるんだ。イヨネスコの『授業』 仲代達也さんが演って大当たり。おれ、もう台詞覚えにかかってるんだ。これなら……」

「分かった、林田は、もうやる気ないんだ!」

 部長の福井さんが、沈黙を破った。

「そんなこと言ってねえよ。ひなのが見積もり取ってきた布地だって、別の芝居で使えるじゃんか」

「それは詭弁です。ひなのは、今の芝居で使いたかったんです。それに林田先輩は、仲代さんにかぶれて主役の教授演りたいだけじゃないですか!」

「藤井!」
「もういい! もう分かった!」

 篠田先生が立ち上がった。
 

「林田君、降りていいわ。あんた無しでも出来るように本書き換えるから。あとどうするか、みんなで話し合って。あたし、本の書き換えしてくる」

 篠田先生は、静かに部室を出て行った。すっかり早くなった西日が部室の中をタソガレ色に染め上げた。
 

「林田。あんたとはいっしょにやれない。退部して」

 福井部長が西日を背中にして言った。
 

「そりゃあ、残念だな。スタッフで残ってやってもよかったんだけどな」

 林田は、そう言うとカバンを持ってドアに手を掛けた。
 

「地獄に墜ちろ……」  福井部長が呟いた。

「地獄、上等じゃね。役者は、何事も経験だしな」
 

 残った部員は四人だったけど、結束を誓って、その日は解散した。
 

 ジャンケンで勝ったので、あたしが篠田先生に報告に行った。四人で行ったら泣き出しそうだったから。

「がんばろうね!」

 先生は、そう言って、手が痛くなるほど握手。シノッチもむかついている。
 

 駅までの帰り道、信号に全部引っかかって、準急に乗り損ねた。

「アチャー……!」

 オッサンみたいに言って、光奈子はベンチに腰掛けた。

「ハハ、乗り遅れか」

 なんと、隣に林田がいた。

「オレも、各停乗り遅れ……おれは地獄行きだからな」

「地獄なんて、ありません。人間死んだらみんな極楽に行くんです」

「ほんとかよ?」

「うちの宗旨じゃ、そうなってます。善人なおもて往生す、言わんや悪人をや……です」

「悪人正機説だな」

 明らかに、バカにした言い方だった。

「極楽、チラ見してみます?」

「チュートリアルか?」

「あの西日の下のあたりを、よーく見て下さい」

 林田は、目を細め、手を庇にして太陽の下を見た……にやついた顔が、恍惚とした表情になった。光奈子も以外だった。極楽なんて、親鸞さんでさえ見たことがない。
 

「ウワ!」
 

 林田は声にならない叫びを上げた。西日の中でもハッキリ分かるほど顔色が悪い。

「どうでした、極楽?」

「と、とんでもねえ……!」

 そう言って林田は、ちょうど入ってきた各停に乗っていってしまった。
 光奈子は、自分の力に、まだ気が付いてはいなかった……。

 

 

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高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・011『よろしくお願いしまーす!』

2019-03-29 14:25:52 | 小説

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・011

『よろしくお願いしまーす!語り手・安倍清美   

 

 

 頼まれごとの一つは常勤講師になってくれちゅうことだった!

 

 同じ講師でも、頭に「非」の字が付くか付かないかで大違いなんだぞ。

 非常勤講師は週に何時間かの授業を教えるだけ、一時間教えていくらっちゅう、まさにアルバイト。月収十万以上を確保しようと思ったら二校以上持たなきゃならない。

 常勤講師ってのは、担任以外の教師の仕事を全部やる。ほとんど本職さんと同じなんだぞ。

 当然ギャラもイッチョマエに頂ける。嬉しい限りだ🎵

 ただ、教科が国語以外に保健体育を受け持つ。国語以外に地歴公民と保健体育の免許を持っているんで、まあ、ラッキーなわけです。免許は身を助けるっちゅうことなんだよ🎵

 

 もう一つの頼まれごとは部活の顧問だ。

 

「安倍先生、一昨日できたばかりなんだけど、調理研究同好会の主顧問やってもらえないかしら?」

 校長室で辞令もらって廊下に出た途端、徳川先生に頼まれた。

 常勤になったからには二つ以上の部活の顧問もやらなければならない。運動部の顧問が回ってきたら大変だと覚悟はしていた。運動部の顧問は休みがないしねえ。

「はい、承知しましたあ!」

 二つ返事で引き受ける。

 なんたってポリコウの女将軍と噂の徳川康子先生なのだ。断ると言う選択肢は無い。

 それに、主顧問ということになれば、もう一つ運動部の口が回ってきても副顧問なのでお気楽なんだ。

 

 いそいそと体育準備室の机を整えていると、先輩の先生の声が掛かった。

「安倍先生、調理研の生徒が来てます」

「はい、ただいまあ」

 額の汗を拭って準備室の外へ……出てみて驚いた。

 二年B組の要海、野々村、藤本、そしてケロケロから頼まれていた魔法少女の渡辺真智香の四人だ!

「徳川先生から、安倍先生が顧問になったと聞いて、ご挨拶に参りました」

「なんだ、B組のお馴染みばっかじゃない」

「はい、よろしくお願いします」

 四人揃って頭を下げる。

「あんたらが作ったのかい、調理研?」

「「「「はい、乙女のたしなみです🎵」」」」

 プハハハハ

 声が揃ったと思ったら、四人とも噴き出して、つられて笑ってしまう。

「実は……」

 

 そう切り出した渡辺真智香の創部理由がふるっていた。

 ひょんなことで、仲良し三人組に真智香が加わって、四人でお弁当を食べたいのだが、真智香以外は料理が苦手。そこで、三人揃ってお弁当を作れるように練習しようということになり、徳川先生の一言で調理研究部が立ち上がってしまったということだ。

「きっかけなんて、なんでもいいじゃん。友だち同士にしろ部活にしろアグレッシブにやるのはいいことだし」

「つきましては、創部会をやりますんで、放課後、調理室に来ていただけますか?」

「うん、べた付きはできないけど、行かせてもらうわ」

「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」

 

 四人を見送って席に戻ると、机に手紙が置いてあった。

 開いてみると真智香からだ。いつの間に……と思ったが、真智香の正体からするとなんでもないことなんだろう。

 便箋は白紙……と思ったら、十センチほどの真智香が現れた。

「ケルベロスから聞きました、先生には分かっているんですね、わたしが魔法少女だということが。わたしは休養の為に渡辺真智香として復活しました。普通に高校生をやっていくつもりですので、魔法少女だということは秘密ということでよろしくお願いします。では、調理室でお待ちしております。失礼しました」

 ペコリとお辞儀をすると、真智香は薄紫の花に変わった。

 え、この花は……?

 花に変わったことは驚かないが、花とか植物には疎い女なのだ、意味が分からない。

 すると、封筒からノソノソと消しゴムほどの大きさのケロケロが出てきた。

「ま、ときどき空回りする奴ですが、よろしくお願いしますよ。あ、その花はビオラと申します、和名は三色すみれ、花言葉は……よかったらググってみてください。それから、わたしはケルベロスですのでよろしく」

 ケロケロもペコリと頭を下げて封筒の中に戻っていった。

 

 

 

 

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・14『イリヒコ』

2019-03-29 06:44:42 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・14

『イリヒコ』         

 

 

 やっぱりやめた。
 

 スマホのディスプレーは自分の息で曇っていた。それを拭いもせずにポケットに突っ込むと、ダイナモのレバーをキックして自転車に跨った。
 

 お弁当を届けに通っていたので、中河内中学校への道は迷わない。 あの男の子のことが気になって、会いに行こう、そう決心したのは目が覚めた六時前。 ちょっとおっかないので、京ちゃんに電話し掛けて止めた。 早朝だからということじゃない、朝の早い京ちゃんは、もう起きているはずだ。
 京ちゃんなら、気持ちよく付いて来てくれる。そのことに疑問は無い。
 でも……たぶん、京ちゃんには、あの子の姿は見えない。 見えなきゃ混乱するし、混乱すれば、あの男の子は二度と現れない。そんな気がしたから。
 

 生駒山が崩れる幻想を見たのは、藤田先生に触発されたからだけど、先生は、あたしにも素養があると言っていた。 だったら、京ちゃんには九分九厘見えないだろう。
 

 外環状線こそは、いつも通りに車が流れていたけど、上り坂に差し掛かると、まだ正月の余韻。東高野街道との交差点に着くまで、誰とも出くわさなかった。 目の前が衝立のような生駒山脈なので、空の底が見えない。登り始めた朝日からは完全な陰。  街灯があるから、山陰とは言え真っ暗じゃない。でも、自分の意志で明るくしているのは、ダイナモで自家発電した数メートル先の道路を照らす愛車のライトだけ。

 もし自転車に乗れていなければ、こんな時間に男の子に会いに行くなんて絶対していない。

――自転車に乗れたら世界が広がるよ――

 京ちゃんが言った言葉そのものだと思う。
 

 中河内中学校の正門は閉まっていた。こんな時間だから当たり前なんだけど、今の今まで思い至らなかった。 蒸気機関車みたいに白い息を吐きだし、サドルに跨ったまま佇んだ。間が抜けてるんだけどミステイクだとは思わない。

――もう少し北に進んで――

 あの子の声が頭に響いた。

「うん、分かった」

 呟くと、北に向かってペダルを漕ぐ。

 十分ほど走ると、左前方にロケットの発射台のようなものが見えてきた。なんだかシュール。 ひょっとして宇宙人の秘密基地!?  ひょっとして、わたしにしか見えない? 宇宙人に連れ去られる?  よく見ると、発射台の周囲には、宇宙人みたいなのが並んでいて、じっとわたしを見つめている。

 ヤ、ヤバイかな……。
 

 ポチャン!
 

 え、な、なに!?
 

 ちょっとパニック。お尻のあたりが、ジーンと痺れたようになる。
 またポチャンと音がする……魚の撥ねた音だ。
 発射台の前が堀になっていて、黒々と水をたたえているのが分かった。ホッとする。 発射台は、コンクリートではなく、小さな石を一面に敷き詰めたものだった。
 

 これって、前方後円墳……。
 

 分かったとたん、二十メートルほど先に男の子の姿が現れる。
 

「ありがとう、ここまで来てくれて」

 少し疲れたような感じで男の子が口を効いた。小さな声だけど、意味はしっかり分かる。

「きれいな声だね……」

「僕はねイリヒコ、あの学校の体育館の下……」

 途中から声が聞こえなくなる。男の子は恨めしそうに山の頂を見る。 山の向こうの空は朝日を孕んで茜色に染まりつつある。

――今度は、僕から会いに行くよ――

 男の子は、声に出さず、直接思念を送って来た。
 

「君って、お日様が苦手なんだね」
 

 残念そうに頷くと、男の子は恥ずかしそうに消えていった。

 お堀の水が、上り始めたお日様にキラキラ輝き始めた……。  

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高校ライトノベル・時かける少女・52『正念寺の光奈子・2』

2019-03-29 06:22:53 | 時かける少女

時かける少女・52 

『正念寺の光奈子・2』         


 

 光奈子は最後まで悩んだ。

 弔辞や、焼香順は、自分ちがお寺なので、簡単に決められたが……。
 

 最後の送り方に迷った。
 

 中学の頃から、卒業式に違和感を持っていた。自分もひなのも。

 中学の時の卒業ソングは、AKBの『GIVE ME FIVE!』だった。前の年が『桜の木になろう』だったので、予想はしていたが、違和感があった。光奈子はAKBは好きだが、卒業式は違うと思った。

 こういう式には型があると思うのだ。

 お寺の娘だからこだわるんじゃない。

 日本人は、結婚式や、お葬式では、実に従順に型に習う。学校でも入学式は国歌斉唱から始まり、校歌の紹介を兼ねた斉唱と型が決まっている。

 卒業式の歌だけが、毎年ころころ変わって異質なのだ。
 

「やっぱ、こういうのいいね」  

 中三のお正月にひなのが遊びに来たとき、YOU TUBEで初音未来の『仰げば尊し』を聞いて新鮮だった。

 そこで、『仰げば尊し』で検索し、ある高校が卒業式で歌っているのを見た。卒業生全員が歌っていた。『二十四の瞳』のそれは、思わず涙が流れた。
 

「型というのは、おろそかには出来ないよ……光男やってみな」

 なにやら、アニキに振った。

「もう、勘弁してくれよ」

「いいから、やれ!」

 お父さんが一喝した。で、アニキがしぶしぶやったのを、二人は大笑いした。 「帰命無量寿如来 南無不可思議光……」

 字で書けばあたりまえの正信偈(しょうしんげ)なんだけど、アニキはこれをレゲエ風にやってのけた。さすがに、最初のところで止めたけど、全く大笑い。

 「いや、寺にも新しい風をさ。ゴスペルなんかレゲエ風のってあるからさ……」

 「今、二人の女子中学生が爆笑した。もう結論だろ」

「まあ……」

 このことがあったんで、卒業式にはこだわりが出てきた。
 

 AKBでいいんだろうか? 『GIVE ME FIVE!』は、メンバーが、本当に楽器をマスターし、演奏しながらアップテンポで歌って、光奈子も好きだ。たかみなのドヤ顔もイケテルと思った。でも、卒業式には合わないと思った。 第一リリースされたばかりで、覚える時間があんまりなくて、おまけに、これをピアノ伴奏でやるもんだから、なんともチグハグ。
 

 で、自分たちの高校の卒業式は、『仰げば尊し』『蛍の光』でいきたいもんだと思った。
 

 葬儀会館と、ご両親はOKだった。

 問題は学校だった。

「いまどき、そんなもの右翼だと思われるぞ!」

 組合バリバリの学年主任の梅沢先生に反対された。

「おまえらは、知らないかも知れないがな、あの二つの歌には三番以降があってな、軍国主義、帝国主義丸出しの歌なんだぞ」

「三番以降があるのは知ってます。それに対しての意見も持ってます。でも二番まででいいんです。入れさせてください」

 「やめとけ、やめとけ」

 「じゃ、自由主義的ならいいんですか。それなら『先生』なんて呼び方は、軍国主義どころか、封建主義です。たった今から自由主義でいきます。梅沢さん!」

「う、梅沢さん……おれは先生だぞ!」

「アメリカでも、先生のことはミスター、ミズって呼んでます。『さん付け』が相応しいんじゃないんですか。それに先生というのは、正式には教育職の公務員です。公務員には『さん付け』です」

「しかしなあ、藤井」

 「なんですか、梅沢さん?」

「……おれ達は、公務員であり、先生であるという特殊な立場なんだ」

「ああ、教師は、労働者か聖職かって、カビの生えた論争ですね」

 光奈子は、いきなりポンと手を叩いた。

「今鳴ったのは、右手ですか、左手ですか?」

 「屁理屈を言うな」

「両手がなきゃ、音は鳴りません。右が聖職者、左が労働者です……という古い言い回しがあります」

 「そう、古い言い回しだ」

「実は、片手でも音は鳴るんです」

 

 パッチン!

 光奈子は、右の指を見事に鳴らした。
 

「右は鳴りますけど、左は利き手じゃないんで鳴りません。梅沢さんは左利きだから右手は鳴らないでしょ?」

 「藤井……」

「なんでしょうか、梅沢さん?」

 「先生と呼べ、先生と!」
 

 で、勝負が付いた。
 

「……ひなのは、ずっと友だちだよ!」

 光奈子は、涙を堪えながら、弔辞を読み終えた。そして付け加えた。

 「これから、ちょっと早いけど、ひなのを卒業式で送り出したいと思います。『仰げば尊し』斉唱、みなさんご起立願います。  同時に曲の前奏が入り、式場いっぱいの『仰げば尊し』『蛍の光』になった。ご年配の方々や、校長先生は自身の思い出と重なるところがあるのだろう、みんな涙を流していた。現役の仲間達も、曲がスローなので、しっかりついて、歌ってくれた。
 

「それでは、御出棺でございます。皆様、合掌にてお送りくださいませ」

 

 パオーーーーーーーーーーーーーーーーン

 

  霊柩車のクラクションが長く伸びて響いた。

 BGになった『蛍の光』はまだ続いている。すると、仲間達は再び『蛍の光』を歌いだした……!
 

 どうやら、合掌と合唱を間違えたようだ。でも正しい間違い方だと、光奈子は思った……。

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・14(楽観的リフレイン・2)

2019-03-29 06:07:25 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・14

 (楽観的リフレイン・2)
 

 

 学校からの帰り道、サンタクロースに出会った。
 

 一見恰幅がいいだけの地味なお爺さんだけど、一見してサンタクロースだと分かった。多分魔力のせい。

 だから、目が合ってニッコリされると、思わず笑顔を返してしまった。

「よかった、一目で分かってもらえて」  

 そう言って、サンタは実のお祖父ちゃんのような気楽さで真由の横を歩き出した。

「そこに車が止めてある。ちょっといっしょに乗ってくれるかな」

 サンタが示したところに、赤い軽自動車が見えた。運転席には、きれいなオネエサンがアイドリング掛けながら待っていた。
 

「ウズメさんから話は聞いていると思うんだけど……」
 

 後部座席のドアを開けながらサンタが言った。

「話は、ゆっくりでいいんじゃないですか?」

 オネエサンが言った。

「そうだね、時間は十分ある。どうも歳を取るとせっかちになっていけない。あ、運転してくれるのは、専属のアカハナさん」

「赤鼻のトナカイ?」

「それは、先々代のお祖父ちゃん。まあ、赤鼻ってのは世襲名みたいなもんだから、それでいいんだけど。ニュアンスとしてはカタカナで呼んでくれると嬉しいわ」

「わしも、カタカナのアカハナに慣れるのには苦労したよ」

「こだわるんですね」

「主義者だと思われるのヤダから。そんなことより肝心の話を」
 

 そのとき、びっくりした。ズラリと渋滞した車列を飛び越して、車が空を飛び始めたからだ。
 

「ウソー、空飛んでる!」

 「もともとサンタの橇だから、空ぐらいは飛ぶ。だけど他の人には見えていないから」

 「飛行機にぶつからんようにな」

「自動衝突防止装置付ですぅ。それよりもお話を」

 「そうそう、まずこれを」

 サンタは、真由にパスのようなものを渡した。

「え……ヘブンリーアーティスト認定証?」

「ああ、本物だよ。東京の指定された場所なら、どこでも自由にパフォーマンスができるという優れものだ」

「あたし、なにもできないわ」

「なにを言っとる。日本のみんなが幸せになるんなら、なんでもしますって、ウズメさんに言ったんだろ?」

 ウズメさんとの話は、いっぱいありすぎて、全部は覚えていない。ただ楽観的リフレインでやって欲しいと言われたことだけを覚えている。希望的リフレインと聞き間違ったからだ。
 

「意味は似たようなもんだが、希望的にすると著作権の問題が絡んでくるんでね」

「どうも年寄りの考える言葉はダサくってさ。楽観的なんて付けると、あたしなんか小林多喜二の『蟹工船』なんか思い出しちゃう」

「あれはあれで、存在価値がある。プロレタリア文学の代表作だ」

「お祖父ちゃんみたいなこと言わないでくださいね。あんなの文学的には、ただのオポチュニズムで、無頼派ほどの価値もない」

「傑作とは、言っとらん。そういうものがかつてあったことは記憶に留めておくべきだ」

 「本題からずれてま~す」

「あ、そうそう。リフレインというのは、一昔前の言葉ではヘビーローテーション。同じ曲を何度も歌ってもらう。今日から年末にかけて、真由くんは超特急でアイドルになってもらう」

「そ、そんな、あたしできない」

「エロイムエッサイムで一発じゃ。あれは敵を倒すためだけの呪文じゃない」

「今の日本は、軸が無いの。だから孫悟嬢みたいなハスッパに式神使われたりすんのよ。団結って言葉は嫌いだけど、なにか拠り所になるものが居る。それをウズメさんは、真由ちゃんに期待したのよ」

「それが、アイドルなんですか?」

「ウズメさんは、芸能の神さまだからね。得意分野できたんだろう」

「あたしは、正攻法だと思う。人の心を掴むのは歌が一番よ」

「とりあえず、上野あたりからいこうか?」

 「そうじゃな。コスは儂からのプレゼントじゃ」

 サンタは、女もののサンタコスをくれた。

「ここで着替えるんですか?」

 「エロイムエッサイムと、唱える」
 

 慣れない真由は、呪文を唱えると、一瞬下着姿になってしまった。着替えはまず脱ぐことからだという固定観念が抜けていない。
 

「アハハ、目の保養だったわね、サンタの爺ちゃん。そういう人間的なところが抜けない魔法使いになってね」
 

「え、あ、あたし魔法使いなんだ」
 

 サンタの車はなごやかに上野についた。

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・13『ガルパン戦車!』

2019-03-28 07:15:14 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・13

『ガルパン戦車!』        
 

 

 おー戦車!
 

 植木職人さんたちは、そう叫んで喜んでくれた。
 

 二十八日は職人さんたちの仕事が混んでいたので、年の明けた一月二日に来てもらったのだ。 石田さんたちは、散髪なんかも済ませて、革ジャンやらイタリア製のジャケットやらまちまちだったけど、仕事中とは違って垢ぬけて粋な姿であるという点では、うちのシゲさんたちと共通。職人魂というのは業種が違っても同じなようで、シゲさんたちとも意気投合している。 石田さんたちは戦車の周りを一回りして、トドメの歓声を上げる。

「ガルパン!」 「「「「「コンバット!」」」」」
 

 トドメの歓声は二種類になった。

「パンとちゃうで、戦車やで!」

 石田さんが言う。

「パンじゃないですよ、ガールズパンツァー!」

「「「「「ガールズパンツ!?」」」」」

 「いや……」

「これのどこを指したらパンツになるねん?」

「じゃなくて、ガールズ……」

「葛西君、リビドー高過ぎやで」

 石田さんたちが、ジト目で葛西さんを見る。
 

「ハハハ、これですよ」
 

 シゲさんが、等身大のポップを持ってくる。わたしでも知っている西住美穂のポップだ。

 「ああ、アニメのキャラですか?」

 と言いながら、まだ分かっていない様子に、葛西さんの熱い説明ト-クがさく裂した。
 

「な~るほど、こんなアニメがあったんですなあ!」
 

 石田さんたちが納得したのは、葛西さんのトークではなく、うちの事務所のプロジェクターで『ガルパン』のプロモを観てからだった。

「これはよろしいなあ」

「あれは、サンダース学園のシャーマン戦車なんですなあ」

 百聞は一見に如かず。プロモを観て納得した石田さんたちは、すんなり納得して外に出て、再びシャーマン戦車を取り囲んだ。

「ミッチャン、ちょっと……」

 シゲさんが耳打ちしてきた。

「え、あ、うん分かった」

 あたしは事務所の奥で着替えることになった。
 プレハブみたいな事務所なんで、着替えていても外の声が聞こえる。
 

「これはレプリカですか?」

「いえ、本物ですよ。うちの社長がアメリカで見つけましてね、やっと年末に届いたんです」

「戦車なんて、何億円もするんとちゃいますか?」

「ピンキリですね、これはエンジンがオリジナルじゃないんで、特価で三百万ほどです」

「えー、ちょっと小マシな自動車程度でんなー!」

「ただ、輸送費が本体価格の二倍もかかりましたがね」

 「あー、そうですやろね! 植木でも大きいのを輸入したりすると、輸送費はバカになりませんからね」

「植木もですか!?」

 「いや、お互い見えない苦労がありますなあ」

「「「「「「そーですなあ!」」」」」」

 戦車屋と植木屋さんが輸送費で共感しあった。

「「「「「「オーーー!」」」」」」
 

 オジサンたちが輸送費以上の感嘆の声を上げた。

 「あ、あははは、ども……」

 恥ずかしいという言葉が続くんだけど、我が家の業務の一環なんだろうと我慢した。

 「ほんまもんのガルパンや!」
 

 わたしが着替えた衣装は、ガルパンあんこうチームの戦車服。  

 アニメじゃ可愛いんだけど、コスプレ衣装は、どうにもスカートの短さが気になる。 戦車に載ったり、オジサンたちと記念写真したり盛り上がる。
 

 砲塔に上がって決めポーズをした時に気配を感じた。
 

 ゲートの柱の陰に隠れて、あの男の子が見えた。

 ほら、高安中学の体育館の角で佇んでいた……。

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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・13(楽観的リフレイン・1)

2019-03-28 07:03:44 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・13 (楽観的リフレイン・1)
 

 

 この角曲がったら……武蔵がいるような気がした。
 

 那覇の国際通りでのバトルが終わって、清明とハチと何か話したような気がしたが、真由はロクに覚えていなかった。 ただ、敵の名前が孫悟嬢で、負けて消滅したのではなく、まだHPに余裕を残しながらの戦略的撤退であることが「ああ、またやるのか……」という気持ちとともに残っているだけだった。 そのあと、清明の山荘にテレポした。今度は、いきなり山荘の中ではなく、山荘に通じる山道だった。
 

 で、柴垣の角を曲がって、山荘の庭に入ると宮本武蔵がいるような気がしたのである。
 

 ちがった。
 

 回遊式日本庭園には似つかわしくない、アイドル姿の女の子が、まるで握手会のようにニコニコして立っていた。

「あ、ウズメさんじゃないですか」

 清明も驚いていたが、真由ほどに意外そうではない。

「どうも、今日は、アマテラス様のお使いでまいりました」

「うん、そういう格好も、ウズメさん、いけますね」

 ハチが、その横でワンワンと吠える。

 「ハチは、古事記通りのトップレスの姿がいいそうです」

 真顔で清明は、真顔で犬語を翻訳した。

「うそ、ハチも似合ってるって言ってます。あたしだって犬語分かりますぅ」

「ハハ、話は面白い方がいいと思って」
 

 気づくと、庭園を回遊し、四阿(あずまや)に向かっている。

「真由さん、ご苦労様でした。思いのほか大変な敵が出てきたので、アマテラス様が、急いで話を付けて来いとおっしゃって、わたしをおつかわしになりました。ご存じだとは思うんですけど、わたし天宇受売命(アメノウズメノミコト)っていいます」

「えと……雨の?」

「ああ、やっぱ、学校で記紀神話習ってないと分かんないわよね」

 ウズメは、軽くため息をついた。

「アマテラスさんが、弟のスサノオの乱暴に腹立てて岩戸に隠れちゃうじゃない。で、世の中真っ暗闇になって、困った神さまが一計を案じ、岩戸の前でヤラセの宴会やるだろ。そのときMCやりながらエキサイトして、日本初のストリップやった女神さん」

「ああ、むかし宮崎駿のドキュメントで、そんなアニメが出てた!」

「芸能の神さまでね。タレントになる子は、みんなお参りにいく庶民的な神さま。でも、そのウズメさんが、なんでまた?」     

 清明が聞いたところで、庭を見晴るかす四阿についた。
 

「国際通りに出ていた式神と孫悟嬢は、琉球独立運動のオルグなの。思った以上に数が多かったのでアマテラスさまも、ご心配でわたしをおつかわしになったのよ」

 「あの、オルグって?」

 「えと……工作員のこと」

「え、中国の?」    

 鹿威しの音がコーンと響いた。
 

「中国の何千万人かの人たちの想いが凝り固まって出てきた変異だと思う」

「割合は低いけど、中国は人口の分母が多いから。思ったよりも強力になってきたみたい」
 

 庭では、ハチがスズメを追い掛け回している。ハチも犬なんだなと、真由は気楽に思った。

 「スズメはね、トキとタンチョウと並んで中国の国鳥候補のベストスリーなの。得点稼ぎのスパイかもね」

「ここの結界は完全だよ」

 「牛乳箱の下に鍵……昭和の感覚ね」

「この四阿にも結界が張ってあるよ」

 「あの、ウズメさんは、あたしに御用が?」

「そう。お願いと覚悟を決めてもらうためにやってきました」

 ウズメは姿勢を正して、真由に向かい合った。
 

「これからは、日本を守るためにリフレインな生活を送ってもらいます」
 

 真由はリフレインの意味を思い出していた……たしか、繰り返しの意味だった。

「もう一つ意味があるわ。refrain from~で、何々を我慢するって意味もね」
 

 そういうウズメは、とびきり可愛かったが、目はびきりの真剣だった。

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高校ライトノベル・時かける少女・51『正念寺の光奈子・1』

2019-03-28 06:39:16 | 時かける少女

時かける少女・51 

『正念寺の光奈子・1』         
 

 

 そぼ降る雨の中、ぼんやり暮れなずんだ通りに面して葬儀会館の灯りが控えめに浮かんできた。
 

 ひなのが死んだ実感は通夜に至っても湧いてこなかった。
 

 その死が、あまりに唐突であったこと。その死に顔が、あまりに安らかだったせいかもしれない。

 ひなのは、中学からの友だちで、二人揃って演劇部だった。
 

「あ、見積書足りない。一っ走り行ってきます」
 

 それが、ひなのの最後の言葉だった。

 道具に使う布地の下見に行って、その種類が多いので、もらったサンプルと見積書を見比べていて、ケコミ用の布地の見積もりが抜けていることに気づいた。 うちの生徒会は、こういうとこに厳しく。ベニヤ一枚、釘一本買うにしても、見積もりを取らないと、予算執行……つまり、買いに行くことができない。
 

 最後の瞬間は笑顔だったそうだ。
 

「おばちゃん、見積もりが……」
 

 そう言いながら、ひなのは道を渡ろうとした。ゆるい三叉路の向こうから、セダンがやってきて、一旦停止もしないでYになった道の右上からやってきて、「く」の字に折れ曲がった角のところで、ひなのを跳ねた。ひなのは、ボンネットに跳ね上げられたあと、お店の柱に体をぶつけ、店内の布地の山につっこんで意識を失った。 救急車が来たときには心肺停止状態で、搬送された病院で死亡が確認された。頸椎が骨折し、中の神経が切れて、ほとんど即死ということだった。
 

 知らせを受けて病院に行ったとき、ひなのは霊安室に寝かされていた。ひなののお母さんは、妹のまなかちゃんを抱きしめて、泣きじゃくっていた。お父さんは青い顔をして、口を一文字に結んでいた。
 

「すみません、わたしが見積もりを取りに行かせたばっかりに」

  顧問の篠田祐理先生が、目を真っ赤にして、頭を下げた。

「先生が悪いんじゃない。悪いのは跳ねた車です!」

 お父さんが、吐き捨てるように言った。そして堰を切ったようにお父さんの頬を涙が濡らしていった。
 

 ひなのを跳ねたのは、白っぽいセダンのレンタカーで、まだ逃走中だということだった。祐理先生は、そのまま、病院に残っていたお巡りさんから事情聴取を受けていた。こういう場合、被害者の行動の原因になった人間は全て事情を聴取される。

「光奈子ちゃん。葬儀会館まで来てもらえないか」

「え、あたしがですか?」

「光奈子ちゃんちお寺さんだろ……それに、オレ失業中で……葬式なんか始めてだから。その……」

「わかりました、じゃ、ひなのをうちのお寺に」

「いや、バイト先の社長が、葬儀会館をとってくれたんで、そっちに……で、こまかい打ち合わせに付き合ってもらえないかな」
 

 そして、光奈子は葬儀会館の営業のオバサンを前に、ひなののお父さんと並ぶことになった。
 予算は、精一杯150万円。正直きつい。

「ひなのは菊の好きな子だったから、祭壇は菊にしてください。受付は、お父さんのお友だち……いけますか。学校関係は、うちの先生がやります。屍衣は制服を着せてやってください。お通夜のお料理は助六、まだ暑い季節ですから……」

 光奈子は、持っている知識を駆使して値切り倒した。

 最後の問題は宗旨である。

「たしか……浄土宗です。お寺さんにはいくらぐらいかかるでしょう……?」  

 営業のオバサンは、黙って指三本を出した。

「三万ですか」 「いえ、その……」 「三十万……」
 

 で、光奈子は宗旨替えを提案した。光奈子の家は浄土真宗である。それぞれの開祖は法然と親鸞で、いわば師匠と弟子の関係、それほどの違和感は無い。
 

 その夜、光奈子は夢を見た。
 

 宇宙戦艦ヤマトの中で、敵と戦っている夢である。艦長はお父さん……でも、今のお父さんではない。謙三という大泥棒、乗り組みは、泥棒仲間のミナミと、あとはよく覚えていないが、自分自身によく似た女の子たちであった。激しい戦いの中、目の前が真っ白になった。
 

「ミナミ、ちょっと思い出すのが早すぎる。別のミナミになってもらうわ」
 

 あたしにそっくりな……でも、あたしとは、まるで違うあたしが命じた。

 夢は三十分ほどで忘れてしまったが、しっかりしなければと思った。
 

 幼なじみといってもいい、ひなののお通夜だ。
 

 受付について、お父さんである正念寺の住職が仏説阿弥陀経を唱え、親族の焼香が始まった。 祭壇のひなのは、きりっと口を結んで正面を向いた顔をしている。この写真は光奈子が選んだ。お母さんは写真を見るだけで泣き崩れてしまうので、お父さんに頼まれて選んだ。
 いつも明るく笑顔を絶やさないひなのだったけど、それが仮面だったことは、親友であるあたしが一番分かってる。そういう思いで選んだ、演劇部に入部したときの写真である。期待と不安。そして、なによりも、ひなのらしい決意がそこには現れていた。イキイキとした決意、これがひなのにはよく似合う。
 

「これは、わしからの香典だ」
 

 通夜が終わった後、お父さんは光奈子を呼び、お布施の中から三万円を抜いて渡した。光奈子はお布施の厚みから、最初の金額は分かっていた。多分十万円。失礼にならず、そして気持ちの伝わる金額を、父は渡したのである。
 光奈子は、明日の葬式も手抜かりなく済ませるために、葬儀会館のコーディネーターとの打ち合わせに臨んだ……。

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・12『戦車が走ってるよ!』

2019-03-27 06:55:01 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・12

『戦車が走ってるよ!』       
 

 

 今日も中河内中学校に向けてペダルを漕ぐ!
 

 要するに気にいっちゃったんだ。

 うちと中河内中学校の標高差は、目測だけど二十五メートルくらい。 やっと自転車に慣れたばかりの身にはきついんだけど、上っていくというのは気持ちがいい。 人生には、いろんな上り坂があって、坂道を上っていくほど簡単じゃないことぐらいは分かっている。 だからこそ、ニ十分ほど奮闘して目的地に着けるのは、なんだか人生の坂道を一つ制覇したみたいで気分がいい。  そして上りきった170号線から見える下界の姿もなかなかだ。

「こんにちは! お弁当ですよ!」
 

 元気に叫ぶと、畑中植木店の職人さんたちが白い歯を見せて喜んでくれる。 畑中のオバサンは「バイト代出すわよ」と言ってくれたけど、わたしは好きでやっていることだからと笑顔でお断りした。 それじゃあ……ということで、オバサンはわたしの分までお弁当を作ってくれている。

「オバサンのお弁当って、ほんとうに美味しいですね!」  

 職人さんたちと並んでお弁当。

「昔は、外環沿いで食堂出してはったからなあ、そこらへんのファミレスなんかより、よっぽど美味いで」

 石田さんというチーフの職人さんが目を細めて言う。

「どのおかずが、一番好きですか?」  

「「「「玉子焼き!」」」」
 

 職人さんたちの声が揃って、みんなで笑った。わたしも玉子焼きが一番好きだ。

 「関西の味付けには馴染めなかったんだけど、オバチャンの弁当食ってからファンになったよ」

 東京から来たという葛西さん、若いので一番早く食べ終わる。

「ハーー、食った食った!」

 立ち上がって、葛西さんは大きく伸びをして、なぜだか屁っ放り腰になる。

 「えと……食後の運動に行ってきまーす」

 葛西さんは、わたしと視線が合うと屁っ放り腰を止めて、グラウンドの方へ走っていった。なぜか、他の職人さんたちが笑う。

 「あいつね、食後屁ぇこく癖があるねん」

「屁!?」

「美智子ちゃん居てるから、ちょっとお上品ぶっとる」

「え、あ、は、そうなんだ(#.ω.#)」

  しばらくすると、葛西さんが興奮して帰って来た。

 

「戦車が走っとる!」

 

「「「「戦車?」」」」

 

  職人さんたちが一斉に、見晴らしのいいグラウンドの西側に走っていく。わたしも付いて走る。

「外環のほうやなあ」

「あれ、ガルパンで見た、たぶんアメリカの戦車だ!」

「ほんまもんやろか!?」

「なんか、映画の撮影かなんかかな?」

 「傍で見てみたいなあ!」

「あ、ホムセンの陰になってしもた」

 職人さんたちは、少しでもよく見えるように、グラウンドの北の方に移動する。

「あ、えと……」

 「美智子ちゃん、見たかったら肩車したげるで」

 肩車されてはかなわないんで、正直に言う。

 「あれ、うちの家のだから、よかったら後で見に来てください」

「「「「え、ほんま!?」」」」
 

 戦車が見られるというので、職人さんたちの午後の仕事ははかどった。
 

 植木職人さんたちの仕事が珍しいので、わたしも、傍で見学してしまう。

 ふと、背後に視線を感じた。

「え…………」

 振り返ると、体育館の角っこに隠れるようにして男の子が立っている。
 

 その子は、どう見ても、今の時代のものではない服装と髪形をしていたのでした……。  

 

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