トモコパラドクス・73
『ジョワ!』
三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……この連休は、ハルといっしょだ。
ボールを目より少し高いところへ持っていってやる。
たったこれだけ。
たったこれだけのことで、ハナはボールを目で追い、首が上がり、お座りの姿勢になる。で、そこですかさず「お座り!」という。あとはイイコイイコをしてやると、ハナは昨日一日でお座りを覚えてしまった。
滝川に教えてもらった方法だけど、こんな簡単にいくとは思わなかった。さすがは歴戦の義体ファイターだ。
それに示唆的でもあった。単にハナの躾だけではなく、これからの友子の生き方も教えられたような気がした。それは、まだ閃きに過ぎなかったが、感覚的なヒントがあった。
「ハ、あたしって犬並みか!?」
そう呟くと、ハナが「ワン!」と言って喜んだ。
台風が接近している。
中部、東海地方では、突風による犠牲も出ていた。
今年は、異常気象で、関東地方でも竜巻が多発して大きな被害を出している。三十年前の人生の中でも、こんなことは無かった。地球は大きく見て温暖化などはしていないが、いささか異常気象であることに違いはない。
新聞によっては、北極海の氷が無くなったらどうなるか、などと心配させる記事が載っていたりする。でも、この新聞社は、友子が生身の女子高生であったころ、こんなことを書いていた。
「二十一世紀の初めには、石油は枯渇するであろう。急がれる原発建設」
石油は、無くなるどころか、技術の進歩により、海底の深層からの採掘も行われ、未だに枯渇の気配はない。論調も変わった。
「原発の廃止を世界の潮流に。火力発電に拍車を!」
新聞の浅はかさはともかく、この台風による被害はなんとかしなければならない。
いくら友子でも、台風そのものを消し去ることは出来ない。とりあえず自分ちとご近所だけは守らなきゃ。真一も、春奈も旅先で、心配しているだろう(こんな時に行く方も、行く方だけど)
友子は、気象衛星や、近隣の気象台のCPUとリンクした。
どうやら、このあたりで竜巻の気配である。「ようし、手を打とう!」と決心した。
物置を探っていると、古いカッパが出てきた。材料としては、少し少ないので、長いゴムホースも流用し、分子変換をして、ウルトラマンの着ぐるみをこさえた。
ホースが少し余ったので、ハナ用のウルトラスーツも作って、着せてやった。
ジョワ!
そう叫んで、ハナといっしょに高度三千メートルを目指しワープした。本物(?)みたいに飛んでいっては、すぐに発進地点が突き止められ、大騒ぎになる。
しかし、かけ声が「ジョワ!」なのには苦笑した。
「ウルトラマンさんは、何がお好きですか?」
「ジョワ!」
という、チョー古いギャグを無意識にかましたからである。当たり前に生きていれば、四十六である。無理もないなあ。そう思う友子であった。
あちこちに積乱雲が出来ていた。すぐに解析して、竜巻を起こしそうなものを選んだ。
積乱雲は、上空に寒気団が入り込み、地上の空気を吸い上げることでできる。だから、積乱雲を小さなうちに熱して、雨にしてしまえばいいのである。
友子は、プラズマ弾の破壊力を、全て発熱に転換して、積乱雲目がけて撃ち出した。地上から見れば、空中で稲光がしたように感じるだろう。
近くで、積乱雲が閃光、続いて轟音がして消滅した。
目を望遠に切り替えると、ウルトラマンメヴィウスが、同じようにプラズマ弾を撃っていた。どうやら紀香も同じことを考えたようだ。
こうして、首都圏で、竜巻の被害は、ほとんど出なかった。ただ、何人かのプロカメラマンが、望遠で、スペシウム光線を発射するウルトラマンを動画サイトに送ったが、良くできたCGであるという評価でおしまいになった。一部の映像専門家が「あれは、本物だ!」と、言ったころには、世間の関心は、とっくに別のところに行っていた。
ただ、ハナだけが、あのときの快感が忘れられず、空が曇るたびに吠えるので、時々ウルトラマンにならなければならない友子であった。