大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・2・009『言語学の授業』

2023-09-30 13:06:31 | カントリーロード

くもやかし物語・2

009『言語学の授業』 

 

 

 初めに言葉ありき、言葉は神とともにあり、言葉は神であった。

 

 言語学の先生が言った。

 聖書の最初に書いてある言葉らしい。聖書というからキリスト教なんだ。

 わたしはクリスチャンじゃないから、きちんとは分からない。

 でも、それは「言葉と云うのは大切なんだよ」という意味なんだろう。

「ちょっと意味が分かりません」

 ルームメイトのネルが大胆なことを言う(^_^;)。

「はい、どんな風にわからないんですか、コーネリア・アサニエル?」

「わたしはエルフです。エルフはたいていシンパシーでコミニケーションをはかります。だから初めに言葉ありきにはなりません。言うなれば――伝えたい――というパッションではないかと思います」

 そう言うと、クラスの何人かは――そうだね――という顔をした。

 宗教染みた話は、民族とか国とかでいろいろアツレキとかがあるからね、簡単には踏み込めないよ。

「そうね、でも、考えてみて。シンパシーで通じた後はどうかしら?」

「後というと?」

「『お元気?』とか『どこへ行くの?』とか『お腹空いたぁ』とか、情報やら気持ちを伝えるでしょ、それって言葉、シンパシーにしても言葉に置き換えて理解、あるいは、次のコミニケーションに入らない?」

「え、あ……そうですね」

「人間は、感情を整理するにも、何かを伝えるにしろ言葉に寄らなければできないんですねえ」

「あ、分かりました」

 完全には腑に落ちてないみたいなんだけど、そう返事する。

 まあ、もっと先を聞いてみないとね。ちょっと早まって質問してしまったという気持ちもあるみたい。

 

「バベルの塔というのを知っていますか?」

 

 わたしを含めて、みんなイエスと応える。

「天にも届こうかという塔を作ったんで、神さまが『こんな神をも畏れぬ塔を作ってしまって、神としては気分が悪い。よし、これは人間がみんな同じ言葉を喋っているからだ。これからは、人間の言葉をバラバラにしてやる!』と言いました。それ以来、バベルの塔も人間の言葉もバラバラになってしまいました」

 うんうん、頷く者が大半。聖書では有名な話なんだろう。

 えーと、でも、なんだかキリスト教の授業のようになってきた。

「しかし、言葉の中には神がバラバラにしたのにも関わらず、ほとんど同じ言葉が同じ意味で使われることがあるんです。言ってみれば神にも打ち勝った言葉ですね」

 え? え? なんだろ?

「臓器移植で、臓器を提供する人をなんといいますか?」

 ドナーです。

 何人かが口をそろえて、残りのみんなも頷いた。

「そうですね、日本語でお寺にお金や品物を寄付する信者を、どう言うでしょうか?」

 え、ええ?

 みんな分からない。だよね、日本の仏教なんて、世界的規模で言えば完ぺきに少数派だもんね。

「ヤクモ・コイズミ、分かりますか?」

 ヤバイ、フラれちゃった。

「えと……えと……」

 うちは浄土真宗なんだけど、ちょっと分からないよ。

「ハズバンドのことを、ちょっと古い日本語で言ったら? 今でも、ママ友同士の会話では使われているわよ『うちの○○ったら、昔はいい男だったんだけど』とか」

「あ、ああ、亭主? あ、ダンナとも言います!」

「そうダンナ、漢字では、こう書きます」

 旦那

 う、わたしより字がきれいかも(;'∀')

「店の主人なども、この旦那といいました」

 うんうん。

「で、元々は、お寺に寄付、つまり提供する人のことを旦那と言いました」

 ああ!

 みんな――分かった――というような顔をしている。

「元は、インドのサンスクリット語でお寺への提供者をダナーと言ったのが、3000年かけて地球を東西にグルーッと回って、それぞれドナーと旦那という原型を良くとどめた言葉として出会ったわけですね」

 なるほどぉ

「つまり、神さまがバラバラにしたのにも関わらず、籠められた精神の大きさ強さによっては、そのまま残ることもあるんです」

 そうかそうか

「言霊と言ってもいいでしょう、そういう言霊の強い言葉を繋いだものが呪文、あるいは魔法の詠唱になるというわけですが、それは魔法学のソフィー先生から教授してもらってください」

 なるほど、こうやって先生たちは連携しているんだ。

「コーネリアが言う通り、まずは、パッションです。そしてシンパシーによっても伝わりますが、言葉に寄らなければ肝心のところは伝わりません。まずは言葉から始めようということで、次にいきますよぉ」

 

 ちょっとだけ面白くなってきたかもしれない。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン

 

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RE・トモコパラドクス・33『友子暗殺!?』

2023-09-30 07:05:22 | 小説7

RE・友子パラドクス

33『友子暗殺!?』 

 

 


 ピッシャーーーー!!

 閃光が走ったかと思うと友子の体は微塵に粉砕された……!

 

「ごめんね、お母さん……」

 

 アーマードスーツを着た少女が使い捨ての破動砲を投げ出した。

 富士の樹海は広くて深い。直径10メートルのクレーターが出来たが、気づいた者はいないだろう。

 

「あなた、わたしの娘なの……?」

 

 友子は、そう言って、腕に内蔵された小型破動砲の筒先を少女の背中に当てた。

「え、あ……なんだ、今のはダミーだったのね」

「ダミーじゃかわいそう。あの友子は、わたしの分身だったのよ」

「そっか……ざぁんねん」

 そう言うと、少女は自爆装置のスイッチを入れた。

 ブシュッ!!

 焼け石に水滴を落としたような音がして母子共に蒸発するように消し飛び、クレーターはその直径を倍にした……。

 

「これ、どう思う?」

 

 昼休み、友子は情報教室に紀香を呼び出して一部始終の話をした。

「分かることは二つ。未来の政府が動いていることと、友子の娘が心が壊れる寸前まで追い込まれていたこと」

「念のため、これを解析してくれる」

 友子は、少女が自爆する寸前に、うっかり開いてしまった心からインストールした情報を紀香に転送した。

「う……悲しみでいっぱいだ!」

 あまりの悲しみの大きさに、思わず解析を中断した。

「ごめん、この悲しみをダイレクトに感じておかないと、かえって冷静な解析ができないと思って」

 

 紀香は、チラリと友子の顔を見ると自分と情報教室内のコンピューターを繋いで解析を始めた。令和のコンピューターなどおもちゃのようなものなのだが、多少は紀香の負荷を下げるし、強力なエアコンがあるのはこの情報教室しかないのだ。

 ブゥゥゥゥン

 二重に防壁をかけながらやるので、紀香の体温は90度を超え、ラジエーターがうなりを上げ放熱のため全身の毛が逆立ち、室内の温度上昇を検知したエアコンもフルパワーの運転になった。

 

「国防大臣のところまで、行き着いた……」

「国防大臣……紀香の時代の?」

「そう」

「でも、あの子は十五六だった。紀香は五十年後の義体……計算が合わなくない?」

「それは後で……『君は、いずれはC国と戦争を起こす。いや……君が自分の存在を消しても、お母さんは別の娘を生み、その子が義体化して、必ず同じことをやる。解決方法は、ただ一つ。過去に行って、お母さん。いや鈴木友子を抹殺することだ』……ん、最後の「抹殺のあたりは、わたしが最初に命ぜられたときのコピーを貼り付けただけだね?」

「コピーの張り付け?」

「……どうやら、大臣はなにかワケありだね。そのままの言葉で言ったら、本心を見抜かれるんで、わたしに命じた時の大臣が、まだ本気で友子の娘が極東戦争を引き起こすと信じていたときのコピーを使ったんだ」

「と、いうことは、やはり、あの子は極東戦争を起こさないのね?」

「うん、それを娘に気づかれないように、わたしの時のコピーを使ったんだ。友子の娘は、初めて聞く言葉だから気づず、友子を抹殺しようと決意した」

「かわいそう……」

「友子が、オリジナルを学校に置いといたから助かったんだね」

「富士の樹海に呼ばれたんで、危ないと思ってね……でも、あの子が、わたしの娘……」

「もうちょい解析……あの子の名前は……栞(しおり)だ」

「栞……わたしには73S106ってコードナンバーしか分からなかった」

「感情はブロックしていたからね。栞……え! なんてこと!?」

「どうかした?」

 ビューン!

 紀香の体温が限界値の100度を超え、紀香のCPUのシールドが甘くなり、解析された情報がそのまま友子に流れ込んできた。

「ああ……分かっちゃった……?」

 しまった、という顔で紀香が言った。

「あの子は、十五歳で極東戦争を予測して、政府が義体化したのね!?」

「そう……お母さんに会えるという誘惑と、同時に抹殺しなきゃならないという使命感を刷り込まれて」

「その後、極東戦争は国の利益にならないと判断して、わたしを三十年前に襲った」

「そして、スナイパーとして、わたしを送り込んだ。わたしも、最初は使命感に燃えていたけどね。いろいろ連絡取り合っているうちに、いい加減なところが分かってきたってわけ。あたしのアナライザー能力が、ここまで自己成長するとは未来の政府も分かってなかったみたい」

「今回は、C国から日本が極東戦争の準備をしてるってインネンつけられて、その対策のために行われた謀略だったのね。それを、あの子は信じ切って……」

 友子は拳を握りしめ、机の上には涙がこぼれて、すぐに蒸発した。

 

 キンコーンカンコーン……

 

「あ、予鈴鳴ってる。あたし教室戻るね、友子みたいに分身の術使えないから」

「わたしも、戻る。分身したら、その数だけ、たくさん悩まなくちゃならないから」

「じゃ、行こうか」

 

 娘との攻防戦が、まだ続くとは思わない友子であった……情報教室の室温は容易には下がらず、不審に思った学校は、業者に電話して緊急のメンテナンスをするほどだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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銀河太平記・183『アジト閉鎖・2』

2023-09-29 15:47:54 | 小説4

・183

『アジト閉鎖・2』アルルカン 

 

 

 二百年前の地球にクラスター爆弾というものがあった。

 

 砲弾、爆弾、あるいはミサイルで敵の直上に運搬され、設定された高度で炸裂し、数百の子爆弾をばら撒き、それぞれの子爆弾が地上で炸裂する。

 装甲車両には効果は薄いが、対人攻撃には通常爆弾の数十倍から数百倍の威力があって、その残虐さから、その使用は禁止、あるいは制限されていた。

 

「原理的には同じなんだがなあ……」

 

 操縦桿を倒しながらマークが呟く。

 シャトルは機体を左に傾けて旋回し、もう一度新戦場の上を飛ぶ。

 眼下にはマス漢の第一空挺旅団のロボット兵が5人、10人とまとまって寝転がり、そのまとまりが200組近く並んでいる。

 みんな、あおむけの状態で行儀よく並んでいる。水着でも着ていれば砂浜で行儀よく日光浴をしているように見えるのだが、全員完全装備。そして、人間の状態で言えば死んでいる。

「恐るべし、パルスター弾だな、マーク」

「パルス波でCPとメモリーだけを破壊している。マス漢のロボット兵はバックアップなんかとってないから一巻の終わりだ」

「扶桑としては人道的な配慮なんだろが、こうやって放置しているとかえって残酷だ」

「宇宙海賊が言うかぁ」

 扶桑のパルスター弾は、CPとメモリーを焼き切るのだが、遅延プルグラムされていて敵の個体が活動を停止する前に一定の行動を強いるようになっている。

 武器を捨てて、直近の仲間と並んで寝転がる。寝転がったあとに打ち込まれたパルス波は最大になってCPとメモリーを焼き切ってしまう。そのタイムラグは30秒ほどで、結果的に5人から10人のグループになって横たわる。

「扶桑の人道的措置なんだろうが、俺には意趣返しに見える」

「なんの意趣返しだ?」

「先のマース戦争で、マス漢は捕虜の虐待をやりやがった」

「ああ、赤間関の露頭遺跡か」

「ああ、男は首を切られ、女は凌辱されていた。それが、まんまミイラになって発見されたのが五年前」

「森ノ宮親王殿下だったわね、発見者は」

「公式には旅の商人になっているがな」

「それで、戦争をするにも人道的にということなんだろう」

「いったい誰の考案だ?」

「去年就任した大老の発案らしいわよ」

「穴山新右衛門だったか……」

「ああ、バカな爺さんだ」

「そうかぁ、大老と言えば将軍の直轄人事だろ、道隆将軍はなかなかの人物だと俺は見てるぞ。それに……」

「それに、なんだ?」

「いや、なんでもない」

 大老となれば、奥の院のあいつが絡んでいるはずだが、これはマークと云えど軽々には教えてやれない。

 それよりも、もう少し、この火星の争乱を見極めておかなければ撤退もできない。

 こう見えて、アルルカンは優しい宇宙海賊なんだ。

「下りてみよう」

「おいおい、ここは戦場だぞぉ」

「このシャトルはステルスだ」

「光学迷彩はできないんだろ、スイッチに『使用不可』のテープが貼ってあるぞ」

「簡易迷彩ならできる。それに、このアルルカンは、まだ人の弾を受けたことが無いからな」

「ヘイヘイ、大した自信だ」

 歩兵戦闘車が二両擱座している間に着陸すると、簡易迷彩のスイッチを入れてシャトルを出る。

「赤外線で感知されるかもな」

「大丈夫、前後の二両もまだ熱を持ってる。あんまり心配してると禿が広がるぞ」

「俺は禿げてねえ」

「そうかぁ」

「イテ、なにしやがる!」

 後ろから髪の毛を掴んでやると、ちゃんと頭の皮が付いてくる。

「ほんとうだぁ」

「分かったか!」

「ああ、これだけ心配していたら、とうに禿げてるかと思ったがな」

「あんまりオチョクッテると、後ろからケツ揉むぞぉ」

「いやぁ~ん、マークの変態ぃ~」

「気持ち悪い声出すなぁ!」

「………………」

「ん、どうかしたか?」

「こっち!」

 微かに腐敗臭がする。

 ロボットでも外殻は生体組織で出来ていて、本体が機能停止すれば腐敗が始まるが、ヒトのそれよりは数時間から数十時間遅れてやってくる。

 この臭いは、ひょっとして人間が混じっていたか、あるいは……

 

「これは……」

 

 上空から見ていては気が付かなかったが、古い遺棄死体が連なっている。

 状態から見て、十日以上たっているものもあり、ちょっと正視に堪えない。

 戦闘が膠着状態に陥った場合、相互に連絡を取って戦場整頓を行う。

 遺棄死体をそのままにしておいては、士気にかかわるだけではなく、衛生上好ましくない。

 敵の位置が風下である場合は、嫌がらせのためにあえて放置することもあるが、ロボットとはいえ味方の骸をそのままにしていては味方の士気がもたなくなる。

「いったん戻るぞ」

「あ、おい、アルルカン」

 

 アジトは撤退する。

 しかし、もう少し戦争の成り行きは見守ることにする。衛星軌道上の我が母船、ヒンメルからな。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・32『面倒だから奇跡だ!』

2023-09-29 06:19:27 | 小説7

RE・友子パラドクス

32『面倒だから奇跡だ!』 

 

 

「左半身にマヒが残ります。日常生活も介助無しでは無理かもしれません」

 

 まどかの家族を前に、主治医は明日の天気予報が「せっかくの雨です」という程度の残念顔で言った。

 

「甚一、おめえが好子さんにかけた苦労の末だと思え。根性据えて看病すんだぞ!」

 お祖父ちゃんが、小さな声で、でもしっかり、腹に収まる言い方でお父さんを励ました。

「わかってらい。でも、でもよ、こうなるまで気がついてやれなかった自分が情けなくってよ……」

 お父さんは、俯いたまま、声を絞り出した。

「大将、工場のことなら任せてくださいよ。なあに、ヒト月やフタ月、自分がなんとかしますよ」

 柳井のオイチャンがいうと、天気予報を付け加えるような気楽さで、医者が言った。

「まあ、最低でも半年は覚悟してください」

 

 みんな、シーンとしてしまった。

 

「でもね、おまいさん……」

「なんでい、ババアの出る幕じゃねえや」

「いいや、出る幕だよ。甚一が付き添うのはあたりまえだけど、身の回りのことは、やっぱり身内の女でなくちゃ」

「じゃ、おめえが、好子さん担いだり、下の世話ができるってのかよ?」

「あたしだって、やれることはやれるけど。ここは、まどかにも一肌脱いでもらわなくっちゃねえ」

「まどかは、無理だよ。スケジュールいっぱいなんだからさ。芸能界って鉄工所のようなわけにゃいかないんだから」

 兄の健一が、したり顔で注釈する。

「てめえ、鉄工所と芸能界をいっしょにしやがったな!」

「ち、ちがうよ。いっしょには成らないから言ったんじゃないか!」

「あ、そうか……て、なおのこと鉄工所バカにしてんじゃねえか!」

「騒ぐんじゃねえ! ここは病院だ、みなさんのご迷惑も考えろ。なあ看護婦さん」

「あ、今は看護師って言うんですよ、おじいちゃん」

 医者が、天気予報の用語を間違えたように軽く言い添える。昭和一桁のお祖父ちゃんよりは首一つ背の高い医者なので、ひどく上から目線に聞こえる。

「なんだと、いつから、そんな外国語になっちまったんだ!?」

「外国語じゃありませんよ。日本語です。二十一世紀に入って、もう定着してますよ」

 と、医者が鼻で笑うように言う。

「てやんでい、このヒョウロクダマ! カンゴシだなんて、まるで人の身も心もカンカンゴシゴシ扱うような言い方は、おいら認めねえからな。なにかい、それは、また進駐軍かなんかのお達しで、大東亜戦争を太平洋戦争に言い返させられたのと同しデンなんだろい!」

「オジイチャンね、婦の字がいけないんですよ。女偏に帚。女性を侮辱してる言葉なんですよ」

 医者は、噛んで含めるようにいったが、ジイチャンには、これがカンに障った。

「てやんでい、だったら主婦はどうなんだい。ご婦人て、憧れと尊敬の籠もった言葉は、どうしてくれんだよ。やい、下手な言い訳言いやがったら、ただじゃおかねえからな!」

 じいちゃんが、クリカラモンモンの二の腕をまくった。

「祖父ちゃん、相手は先生なんだからよ、オイラたちの言葉はお分かりにはならねえんだ」

「ま。おめえが、そういうなら……でもよ、長生きはしたくねえなぁ。看護師だなんてよぉ、言葉が冷てえよ。四三が十二どころか死産がいっぺえって印象だぜ。だいたい物書きが困るじゃねえか。看護婦っていや、一発で女と分かるけどよ。女性看護師じゃ、情緒もしまりもねえ」

 とんだところに、話がいきそうなので、医者は回れ右してドアに手を掛けた。

 

「わたしが、やるわ!」

 

 ノックもしないで、まどかが入ってきた。

「わたし、学校の火事で死にかけたとき、お母さんが懸命に治してくれたんだもん(『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』参照)その恩返ししなくっちゃ」

「まどか、ずいぶん早いじゃないか」

「うん、新幹線の中で走ってきちゃった」

 と、うけながして主治医に迫った。

「看病って、平たく言えば手当でしょ。人の痛みを分かってあげよう。押さえてあげようって、思わず手をあててしまうことから生まれた言葉なんでしょ?」

「さすが江戸っ子! いいこと言うなあ、まどかぁ」

「したっけ、まどか、仕事の方は?」

「大丈夫、わたしが奇跡をおこすから……」

 

 そして、ほんとうに奇跡がおこった。

 

 いや、起こした。

 まどかは、お母さんの頭に手を当て、生きてる脳細胞を一万倍の速度で活性化して、元通りにした。

「あら、まどか。どうしたのよ? いやだ、ここ病院?」

 きまり悪そうに、お母さんは体を起こした。

「ミラクルおこりましたぁッ!」

 ナースステーションに繋がる通話機に、それまで黙っていた女性看護師は大きな声で言った。

「信じられない、こんなことが……」

 バタリ

 医者は呆然として、カルテのバインダーを落としてしまった。

 

 そして、みんなが喜んでいるうちに、まどかは、本物のまどかとテレポートで入れ替わった。

 

 本物のまどかは、さっき新幹線に乗り、ウツラウツラしかけたところであった。で、本物のまどかも病院にテレポートさせられ奇跡が起こったと思った。

 

――面倒だから、奇跡ってことにしちゃったぁ(≖ᴗ≖ )――

 

 学校に残した本体にもどっても、友子はニヤケが停まらない。

 

「なにやらかしたのよ?」

 紀香が、ニヤニヤしながら、近づいてきた。

「ううん、梅雨の晴れ間もいいもんだなって」

「しおらしいことを。言ってみそ」

「だから、梅雨空がね……」

 

 やがて、この分身の術でも手に負えないことがおこるとは、予想だにしない友子であった……。
 

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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RE・かの世界この世界:208『櫛名田比売と天叢雲剣』

2023-09-28 11:20:26 | 時かける少女

RE・

208『櫛名田比売と天叢雲剣』テル 

 

 

 

 七色に滲んだ瑞雲からは一条の光が差して山頂一帯を荘厳している。

 

 山頂は薄紫の花々に縁どられ、正面に鳥居、右に小さな石の祠、左には剣……おそらくは天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)をかたどった大きな石碑が建っている。

 

桃太郎二号:「ええ、これがアメノムラクモって剣なのかあ? なんか字が彫ってあるぞ」

ヒルデ:「日本の字は難しくて読めんなあ」

イザナギ:「天叢雲剣出顕之地と彫ってあります」

桃太郎二号:「しゅっけん?」

与一:「現れたという意味だ、須佐之男命が八岐大蛇を退治して、尻尾を切ったら、中から天叢雲剣が現れたんだ」

桃太郎二号:「オレの刀にも字が彫ってあるぞ」

ケイト:「そうなのか?」

桃太郎二号:「ほら」

 シャラン

 ちゃんとした効果音をさせて抜き放った刀は、映画村のお土産に売っていそうなビニールの刀だが。本人は立派な本身の刀だと思っている感じなので誰も笑わない。子どもの夢を壊してはいけないからな。

イザナギ:「うん、どれどれ……」

雪舟ねずみ:「桃栗三年柿八年……」

桃太郎二号:「どうだ、カッケーだろ!」

イザナギ:「大器晩成、未来の自分を信じてがんばろうというスローガンですね。立派ですよ桃太郎二号くん」

桃太郎二号:「あはは、それほどでもねえけどな」

ケイト:「祠の方は……なにも入っていないなあ」

 小さな仏壇ほどの祠は立派な石造りなのだが、しめ縄も扁額も無い。前に鳥居が無ければ、ただの灯篭と見間違ってしまう。

タングニョースト:「それに、誰もいませんねえ、白ウサギの話では我々を待っている者がいるという話でしたが」

雪舟ねずみ:「あれ?」

 

 雪舟ねずみが声に少し遅れて、我々も気が付いた。

 無風だった山頂に微かな、でも香しい香りがしたかと思うと、祠の中から気配がする。

 何事かと祠の洞を見ていると香りは薄桃色の光を放ち、祠の前に巫女服姿のきれいな女性が現れた。

 巫女服というのは学校の制服のように体の線を隠してしまうものなのだけど、その女性は170センチはあろうかという長身で、巫女服を通してさえ、ふくよかでメリハリのきいた中身が偲ばれる。

桃太郎二号:「タングのねえちゃんよりもすげえかも……」

ケイト:「おまえ、タングニョーストが好みなのかぁ」

 ポコン

ヒルデ:「静かにしろ」

 桃太郎二号がタングニョーストにしばかれ、ヒルデに注意されて、巫女服は静かに口を開いた。

巫女服:「八雲立つ ~出雲八重垣妻籠みにぃ~八重垣つくる その八重垣を~~~~の櫛名田比売(クシナダヒメ)でございま~す。どうもお待たせいたしました~」

イザナギ:「おお、あなたが櫛名田比売でありますか」

櫛名田比売:「はい、そうです、お義父さま」

 お、おとうさま!?

櫛名田比売:「はい、お義父さまの娘の櫛名田比売でございま~す」

ヒルデ:「え、二人が生んだ神々に、こんなアフロディーテのような女神がいたか?」

イザナギ:「いえ、櫛名田比売は息子の須佐之男命の嫁です。八岐大蛇を退治した縁で嫁になります」

櫛名田比売:「はい、須佐之男さまは、とても愛してくださって、八重の垣根を作って外の空気にも触れさせないほどに大事にしてくださいましたぁ」

イザナギ:「いや、そうなんですか。あんな乱暴者に嫁いでくれて、ほんとうに感謝です」

櫛名田比売:「いえいえ、わたしこそ、八岐大蛇の生贄にされるところを助けていただき感謝の仕様もありません。のろけに聞こえるかもしれませんが、キングギドラの二倍半と恐れられた八岐大蛇を退治するなど並みの勇気で出来ることではありません。それを成し遂げられたのは、かの人の大きな愛情があったればこそなのです。須佐之男さまは、わたしを小さな櫛に変えて髪にさしたままお戦いになられました。か弱い櫛ですので必死に御髪につかまって、弓を射かけ、矛を突かれ、太刀を振るわれる度に『おみごと!』『すてき!』『頼もしいです!』と声援いたしました。須佐之男さまも『いきます!』『次です!』『目に物見せてやります!』『トドメです!』と終始声をかけてくださって安心させてくださいました。あの戦いの最後の一太刀がわたしへのプロポーズ、わたしも、あの方の御髪をギュっと抱きしめることで永久の愛をお誓いしたのです(#*´ω`*#)」

 フワァ~~(n*´▽`*n)

 なんちゅうノロケ、まさか、このノロケを聞かせるために鬼ノ城から呼んだのではないだろうなあ。

櫛名田比売:「しかし、この幸せは、いつにかかってお義父さまのお働きにかかっているのです」

イザナギ:「あ……そうですね。黄泉の国から戻って、わたしが鼻をかんだり目を洗わなければ、須佐之男も天照も生まれてこないんですよね」

櫛名田比売:「はい、それで、少しでもお義父さまのお手伝いに成れればと、これをお持ちいたしました」

 シャラ~ン!

 気合いの入ったエフェクトとともに、櫛名田比売が差し出しのべた手の上に見事な剣が現れた。

イザナギ:「これは……!?」

櫛名田比売:「はい、これこそが天叢雲剣!」

 

 これがああああああ!?

 

櫛名田比売:「どうぞ、これでご本懐をお遂げになって、無事にお戻りくださいませ」

イザナギ:「……そうか、このためにわざわざ……ありがとう、櫛名田比売」

櫛名田比売:「では、これにて……」

 大任を果たして、小さく息を吐くと二歩後ろに下がってから回れ右をする櫛名田比売。

 と、そこで、彼女の美しい足がもつれてしまった。

櫛名田比売:「キャ!」

 

 ズデーーン!

 

 あ!?

 

 倒れたショックで、櫛名田比売の背中が割れて、小学五年生くらいの女の子がこぼれ出てきた。

 

櫛名田比売:「あ、あ、こ、これは違くて! 違うんです! と、とにかく、いってらっしゃいませーー(;゚Д゚#)!!」

 慌てて、元のボディーに潜り込むと、すぐに光になって祠の中に吸い込まれるようにして消えてしまった。

 

イザナギ:「櫛名田比売は八人姉妹の末っ子なんです、七人の姉がみんな生贄にされて、最後に番がまわってくるんですよ。七人の姉たちは十九を筆頭にした年子でしたからねえ……」

ヒルデ:「ということは、たかだか11歳……」

ケイト:「見栄を張ったのかぁ?」

桃太郎二号:「いや、須佐之男がロリコンなのかもなあ」

与一:「それは詮索してはいけません」

雪舟ねずみ:「そろそろ参りましょう、いまなら日のあるうちに米子に着けます」

テル:「よしそうしよう」

 

 頂上を後にすると、吹く風が――八雲立つ ~出雲八重垣妻籠みにぃ~八重垣つくる その八重垣を~――と、櫛名田比売が歌っているように聞こえた。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売

 

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RE・トモコパラドクス・31『友子 複製術に目覚める』

2023-09-28 06:17:46 | 小説7

RE・友子パラドクス

31『友子 複製術に目覚める』 

 

 

「うわーソックリ!」

 

 十分後、友子に連れられてきた影武者を見て、まどかは歓声をあげた。

「じゃ、簡単なテストをやります。いい、マドカ?」

「うん?」

「いや、影武者の方に言ったんです(^_^;)。もう成りきってますから。じゃ、決めぜりふから」

「イェイ!」

 影武者は、本物と寸分狂わぬポーズで決めた。

「あの窓この窓そんな窓、夢と希望を届けます、あなたとみんなのまどかだよ(^▽^)!」

「かんぺき!」

 それから、立ち居振る舞いや、「マネージャーはデベソ」など、基礎知識をチェックして、拝むようにして、まどかは裏口から抜けて行った。

 

「「わたしに、こんな力があったなんてね……」」

 

 友子と、まどかの影武者が同時に言った。

「はい、まどかちゃん、ニッコリ笑ってスピンしてジャンプ……今度は、思い切り両足後ろにあげてジャンプ『あなたとみんなのまどかだよ(^▽^)!』……はい、決まり。あとはモニターにラッシュ出して選びまーす」

 カメラマンの篠山さんもOKを出した。

「うまくいったね」

 と、影武者。

「もう、友子には怖い者なしだね」

 と、友子。

 むろん、だれにも気づかれないように、スタジオの隅でヒソヒソ話している。本当は、こんなヒソヒソの会話もいらない。だけど、今日のこの結果が嬉しいために、わざと会話にしている。

 

「おかしいなあ……」

 

 モニターを見ながら篠山さんが呟いた。

「なにか……」「問題ありますか……」

 父であり弟である一郎と母であり義妹でもある春奈も美粧堂のスタッフとして心配顔。

「いや、いい絵はとれてるんですけどね。ほら、これとか、これとか……」

 大きなモニターに出てる何百枚の写真から、何枚かを指差した。

「さすが、篠山さん。実物以上によく撮れてますね……あ!」

「さすが、まどか、気がついたかい?」

 

 それは、ごくごく微妙な違いだった。

 

「きっかけ出して、ポーズが決まるのが、いつもより0.1~0.3秒遅れてるんですよね……まどか、表情には出てないけど、ちょっと疲れてんぞ。こんな遅れははじめてだ。佐々木さん、ちょっと無理させすぎてないですか?」

「はあ、レギュラーが一本増えただけなんですけどね。気をつけます」 

 マネージャの佐々木はメモを取り、スケジュ-ル帳とにらめっこした。

「大丈夫です、すぐに慣れますから。ほかに問題無かったら、次ぎお願いできますか、テンション高いうちにいきたいと思いますんで」

「よっしゃ、次ぎ、衣装メイク替えて、二十分後再開」

 友子は、控え室でメイクや衣装を替えている影武者を調整した。むろん他の人間には気づかれない。パソコンのソフトのアップグレードのようなものである。

 影武者は、スタジオ近くに捨てられていた自動車のパーツを分子変換して新たに作ったまどかの義体である。

「もう一人まどかがいれば済むことじゃん」

 それがヒントだった。思いついて五秒後には義体ができていた。ただ、友子の意識というかパーソナリティーは一つしかない。

 そこで、意識は、友子とできたての義体の間を毎秒1/100秒で行き来している。だから、篠山の指示があって、表現になるまでに、ごく僅かのタイムラグができてしまうのだ。

 友子は、プログラムを数万回変えて(かかった時間は、ほんの数十秒だが)1/1000秒まで縮めた。

 

 百個ほどのチョンガリコーンが宙に舞った。

 

 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ

 それを、まどかは目にも止まらぬ早業で食べていく。むろんチョンガリコーンはCG、あとで合成する。やろうと思えば毎秒百個ぐらいのチョンガリコーンは食べられるんだけど、やったら、みんなが目を回す。

「うん、動画はメッタに撮らないけど、今のはいけたと思う。静止画の中にほんの二秒の動画だけどインパクトはあると思う。それにしても、まどか、立ち直り早いなあ」

 篠山さんが感心した。

 

 夕方、本物のまどかが戻ってきた。

 

「大丈夫っぽそうね?」

「そちらは?」

「うん、初期治療がよかったんで、なんとか……しばらくはリハビリだけどね」

 明るく言ってはいるが、母の突然の脳梗塞は堪えたようだ。

「心配しないで、それはわたしがやるわ」

 見透かした影武者まどかが身を乗り出す。

「ディズニーランドのミッキーと同じ。同時に違う場所には出現しないけど、何体も同じ着ぐるみがいるから、タイムラグ無しでいけるわ」

「そんなことまで、お願いしていいの?」

「まかせてください。困ったときはお互い様の乃木坂です」

 現に、今も移動中の車の中で、もう一体のまどかの義体が疲れ果てて寝たフリをしている……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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くノ一その一今のうち・77『国境警備司令部は日暮里に似ている』

2023-09-27 14:50:33 | 小説3

くノ一その一今のうち

77『国境警備司令部は日暮里に似ている』そのいち 

 

 

 日暮里に似ている。

 峠から見下ろして、そう思った。

 

 日暮里から東に向けて関東平野は低くなっている。口の悪いお祖母ちゃんは「日暮里から転げ落ちてたどり着いたところが埼玉だ」とか言う。「その高低の境目に山手線を通して東西両方の発展を計ったのは偉いけどね」と鶯谷を過ぎて日暮里に向かう電車の中で言っていた。忍者を引退したお祖母ちゃんは、ひところ日暮里の繊維問屋から真田紐を織る仕事をもらっていた。月に一度品物を納めに行くときに連れて行ってもらって、そういう話を聞いた。

 ここの高低差は山手線から見た、それの十倍はあるだろうし、下った大地の広さは関東平野の比ではないけど地形としては相似形だ。

 旧ソ連の構成国だったA国B国の草原が地平線の向こうまで広がっている。

 山手線に当るのがA国B国との国境線だ。

 日暮里駅は、ざっくり言って、文京区と荒川・台東の二つの区の結節点にある。この日暮里駅に当るのが高原の国の国境警備司令部。その司令部に向かう峠道で馬の足を止めている。

「北がA国、その南がB国、さらに、その北西が草原の国だ。B国はその中でも一番小さな国だが、ここを突破口にして攻められたら厄介だ」

 そう言えば台東区は、東京23区の中でいちばん小さい。

 今の状況は、埼玉県が台東区と荒川区を嚇して山手線の内側に攻め込もうとしているのに似ている。

 そう思って振り返ると、先の方だけ小さく見えている王宮の塔がスカイツリーに見えなくもない。

「B国は小さな国でな、歴年、草原の国や我が高原の国によしみを通じて国を維持してきた。おおむねうまく立ち回ってきたが、二度ほど国策を誤って他国に併合されている。大事になる前に手当てをしたい」

「B国に特別な思いをお持ちなのですか?」

「母上は、B国から嫁がれた……わたしの血の半分はB国だ」

「そうだったんですか……」

「ひいお婆さまが日本人であったことに興味はない。それよりも、この身の半分を形作っているB国を救ってやりたい。いくぞ!」

「了解」

 

 峠を駆け下りて国境警備司令部は目と鼻の先だ。

 対戦車壕と鉄条網が二重になった先、我々の接近に気付いて、司令部のゲートと監視哨で人が動きだした。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女

 

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RE・トモコパラドクス・30『青春ルージュ・48』

2023-09-27 06:43:55 | 小説7

RE・友子パラドクス

30『青春ルージュ・48』 

 

 

 珍しいことに、お父さん(実は弟の一郎)とお母さんがいっしょに帰ってきた。

 一昨日の夜のことである。

 お父さんもお母さんも同じ化粧品会社に勤めているが、部署がまるで違うので帰宅時間がまちまち。それが、おとついに限って、いっしょだった。

 

「二人とも同じチームになっちゃった!」

 

 お母さんはそういうと、なにやら企画書やらコンテを出しながら「晩ご飯お願い」と友子にたたみかけた。

 で、この状態が昨日(土)も続き、友子は合計五食の食事、二回の洗濯、掃除、風呂掃除、生協のあれこれの仕分け、つまり二日分の家事一切をやることになった。

 新発売のルージュの発売コンセプトが変更になったのだ。

 モニターを使った調査で、試作品はターゲットにしていた二十代の他にも十代、アラフォーの女性にも人気があることが分かった。

 ティーンの女性は少し大人っぽく、二十代はあるがままを、三十代四十代はまだまだ若く美しく、という幅広い要求を試作品は満たしてしまったのだ。

 で、お父さんのチームは連日の徹夜で試作品を六種類作った。

 六種類のルージュは重ね塗りすると、また、独特の感じになる。微妙に色は変えてあるが、メインは、ベータエンドルフィン、ドーパミン、セロトニンという、女性が楽しいと感じたときの成分の比率を変えてある。

 一つに付き八通りの塗り方をユーザーに提案。ユーザーは自分好みで、さらに選択肢が増える仕組みになっている。基本は八通りなので、6×8=48ということになる。


『青春ルージュ・48』


 これが、キャッチコピーになった。

 そのキャンペーンチームに、一郎も春奈も加えられたのである。なんでも、社長直々のご指名のようだ。

「なんで、おれたちが!?」ではなく「オレ達がやれるんだ!」の気持ちが強い。

 

 で、日曜の今日はキャンペーンCMの撮影。

 

 友子も、スタジオにいっしょに付いて来ている。それも制服のままで!?

 キャンペーンキャラの十代の代表に、乃木坂学院の先輩である仲まどかが起用されたからである。

 まどかは、先月先輩の女優坂東はるかといっしょに、母校訪問にきていた。友子の教室にも来てくれて二言三言言葉を交わして大ファンになってしまった。

 友子は、五十年未来の技術で作られた義体で、感受性は十六歳の女子高生のままである。学校の帰りなどに、同じ義体で演劇部の先輩ということになっている紀香といっしょに、はるかとまどかに擬態したりして遊んでいる。

「わー、まどかさんだ! 覚えてらっしゃいます、わたしのこと?」

「ああ、学校行ったとき、スケール貸してくれた……ええと……」

「鈴木友子です!」

「ああ、トモちゃん!」

 うわー、売れっ子タレントの仲まどかが「トモちゃん!」なんて呼んでくれた~♪

「まどかさん、仕込み、もう少しかかりますんで、待機願います」

 スタッフが告げに来た。

「へへ、もうちょっと、お喋りできそうね。トモちゃん、ひょっとして、スポンサーのチーフの鈴木さんの?」

「はい、あ……娘です(思わず姉です。と言いかけた)」

「そうなんだ、お父さん似なんだね」

「アハハ、よく言われます(姉弟だもん)。でも、わたし、あんなヘンクツじゃありませんから」

「プ、娘からもそう思われてんだ。鈴木さん、初めて会ったとき寝癖がすごくって。でも御本人は全然気にしてないのね」

「ああいうやつなんです、昔から……」

「アハ、なんだかお姉さんみたい」

 そう言って、まどかはチョンガリコーンを口に放り込んだ。そういえば、控え室にはチョンガリコーンでいっぱいだった。

「チョンガリコーン、好きなんですか?」

「うん。でも、こんどのキャンペーンの共同スポンサーなんだよ。知らなかった?」

「え、そうなんですか!」

「青春ルージュ48にはチョンガリコーンがよく似合う。チョンガリコーンは青春ルージュ48が大好きだ。今度のキャッチコピー。あ、コピーってば、最近、わたしとはるかさんのソックリさんが出没するって。ほら、このシャメ……」

 それは、渋谷で、紀香と擬態して遊んでいたときので、友子はアセアセだ。

「ソックリさんが出るなんて、嬉しいけどね!」

 胸を撫で下ろした友子にまどかはいろんな話をしてくれた。思えば、同じ学校の同じクラブの入れ違い同士、歳も三つしか離れていない(一郎以外の人間には16歳の女子高生である)ので、話に花が咲く。

 ピロロ~ン♪ ピロロ~ン♪

 そのとき、まどかのスマホの着メロが鳴った。どうやら緊急の用件、まどかの顔に緊張が走る。

「……え、お母さん……救急車……脳梗塞っ(;゚Д゚)!?」

 まどかは途方にくれた。

 アイドルと言っても人間である。まして、まどかは十八歳。母の危機を前に、平然とはしていられない。今にも始まろうとしている仕事への焦りもつのる。

「いい考えがあります……」

 友子は、まどかに耳打ちした。

「え、そっくりさんが!?」

「じつは知り合いなんです。幸い、この近所だし、十分もかかりません。今日はスチールだけだから、なんとか(^_^;)」

「でも、そっくりさんでも、マネージャーさんとか、他のことは知らないでしょ?」

「大丈夫、かなりのオタクだから、短時間なら……」

「とにかく呼んでみて、わたしが、自分で判断するわ」

 

 そうやって、十分後、友子と影武者まどかが、まどかの前に現れた。

 そして、友子は、新しい自分の能力を発見した……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・054『隣は「ロミオとジュリエット」』

2023-09-26 15:19:26 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

054『隣は「ロミオとジュリエット」』   

 

 

 君の行く道は~ 果てしなく遠~い(^_^;)♪

 

 自主的に居残って『若者たち』の練習をしている。

 ほら、文化祭の取り組み、合唱コンクールに参加でしょ。

 舞台に立ってみんなで合唱しておしまいかと思ったら、熱の入り方がちがう。

「~さん ~さん ~くん、ちょっとだけ残ってくれる?」

 指揮をかって出た早川さんが5人を指名、で、その中に「時任さん」も入っていたわけ(^_^;)。

 

「加藤君、インターナショナルじゃないんだから、そんなに力まないでくれるぅ」

「え、あ、うん(;'∀')」

 10円男は「~歯を食いしばりぃ~♪」のところで、拳を握って、ほんとに歯を食いしばる。

 早川さんのコンセプトは――自由に!――ということで、あんまり注文はつけない。

 みんな自由に歌って、それが結果的に調和すればいい的に考えている。

「自由はいいけど、不協和音的なのは困ります」

「了解だ、同志早川!」

 ププ(* ´艸`)  みんな噴き出す。

 10円男は留年生で、前の年(1969年)がピークだった学園紛争を引きずってる。

 でも、どこか道化じみていて、それなりにクラスの居場所はあるようなないような(^_^;)。

「それで、他の四人は声ね。地味とか派手とかは個性でいいと思うんだけど、声が出てないと萎んで見える。声さえ出てればフリとか動きとか相応しいものが自然に出てくるわよ」

 なかなか本質をついている。

「「「「メグリ、がんばれ!」」」」

 前から声がかかる。

 言わずと知れたお仲間(真知子 たみ子 佳奈子 ロコ)ですよ。他にも五六人残って見てるしぃ。

 ほんとはね、動画撮って見直しとかできるといいんだけど、スマホ出すわけにもいかないしね。

 

 ウワアア(≧▽≦)

 

 なんだか隣の四組で盛り上がっている。クラスの何人かが――え、なになに!?――と様子を見に行く。

 

 ワハハハハハハ(≧艸≦*)

 

「ええ、なんなのよぉ?」

 早川さんが――もーなんなのよ!?――という感じで腰に手を当てる。

 タタタタ

 こういう時にタイミングを外さないのがロコ、駆け戻って来ると、目をへの字にして報告してくれる。

「す、すごいです! 花園先生がジュリエットやってます!」

 ええ!?

 

 隣りの4組は、舞台で『ロミオとジュリエット』をやることになっている。5組の合唱コンクール参加なんて霞んでしまうほどに前評判も良くて、我が担任の藤田先生も「おまえらも頑張れ!」と、慣れない檄を飛ばすほど。

 主演のロミオは、昔は児童劇団に入っていたという本格派の滝沢君で、もう一人の主役のジュリエットも学年で三本の指に入ろうかという美少女の栗原さん。

 ところが、その栗原さんが居なくて、彼女の衣装を花園先生が着て、台本片手に「おお、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの~(#・ω・#)♡」なんてやっている。

 元々小柄で大学出て二年目ということは、まだ二十代前半の花園先生は、テレまくっているということもあって、滅茶苦茶かわいい!

「本番も花園先生がやるのか?」

 10円男が、こっそり4組男子に聞くと、男子は「ああ、そうだ」と勝ち誇った顔で言うのだった。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)
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RE・トモコパラドクス・29『バニラエッセンズ』

2023-09-26 06:53:28 | 小説7

RE・友子パラドクス

29『バニラエッセンズ』 

 

 

 水島結衣は学校に来るのが早い。八時前には教室で予習のチェックなどをしている。

 これに次いで早いのが王梨香である。

 

 おはよう

 

 静かに挨拶を交わし、それぞれ勉強に没頭するのが、結衣が転校してからの一年A組の習わしになってきた。

 二人に影響されて、他の子たちも勉強に熱を入れてくれればと、ノッキーこと柚木先生も願っている。

 特に、A組の出来が悪いというわけではなかった。学年でも上位のクラスだ。新採三年目で初めてもった一年生。生徒たちには恵まれたと思った。

 思った分、ノッキー先生の生徒たちへの愛情は膨らむばかりであった。「ばかり」の「ばか」で、鈴木友子を連想して少しおかしい。

 友子は、けしてバカではない。だが、いろんなことに気を取られ、集中しきれないでいるところがある。で、このごろは、ほんとうにバカな顔をしていることもある。

 現実の友子は違う。

 頭はスーパーコンピューター以上の能力を持った数十年後の技術で作られた義体で、ノッキーの知らないところで、ダイハードやったり、宇宙人の戦いに巻き込まれたり、幽霊の水島昭二が結衣という女子高生としてやっていけるのを見届けたり、けっこう忙しい。

 たまにアイドルに擬態して、先輩の紀香と街をうろつくのが、ささやかな息抜きであった。勉強は、目立たないようにわざと真ん中の順位をキープしている。

 

―― ピンポンパ~ン♪ 一年A組の水島結衣さん、一年A組の水島結衣さん、理事長室まで至急に来て下さい ――

 

 長閑な校内放送で、結衣は理事長室に呼び出された。

「失礼します……」

 そう言って入った理事長室には、あまり長閑ではない顔つきのノッキーが、先に来て座っていた。

「まあ、掛けたまえ」

「はい」

 理事長は自分の椅子に座ったまま、内容を伝えた。

「一時間ほど前に、東亜テレビから電話があってね。放課後水島さんのことで取材に来たいって言うんだ」

「え……わたしにですか?」

「ああ、これだよ」

 理事長はモニターの電源を入れた。そこには東京ドームの横で、バニラというディユオといっしょに楽しそうに歌っている結衣の姿が映っていた。

「あ、これは……」

「もう、アクセスが四万を超えている。なかなか大したもんだよ」

「わたしは、反対よ」

 ノッキーが先回りした。

「転校してきてから、一週間ちょっとだけど、水島さんの力と熱心さはよく分かっているわ。今は勉強中心にやってもらいたいの」

「まあまあ、柚木先生。水島さん本人の気持ちも聞こうじゃありませんか」

 理事長は、手を頭の後ろで組んで、ノビをした。びっくりするほど若く見える。

「スマホで撮られていたのは、知っていましたけど、こんなに話が大きくなっているなんて……」

「でしょ、だから今のうちに。理事長先生、お願いします」

「ボクは、青春時代、いろいろチャレンジしてみればいいと思う」

「先生」

「柚木先生。ハイティーンというのは、可能性の固まりなんですよ。時に自分で制御できないほどにね。僕は戦時中、そうありたくてもできなかった生徒をたくさん見てきました。生きていくことさえままならない時代でした。年寄りの妄想と笑ってくださってもいいが……時々、生徒の中に見つけてしまうんですよ。こいつは青春をやり直すために生まれ変わってきた奴じゃないかと」

「え、生まれ変わりですか?」

「いや、水島さんがそうだということでは無くて。ほら、つい、こないだも、坂東はるかさんと仲まどかさんが来てくれたでしょ。坂東さんは、この学校は中退だが、転校先の大阪の学校で素晴らしい成績を残し、得難い体験をして、今は女優の道を歩いている。類は友を呼ぶで幼なじみで後輩の仲まどかさんも女優になってしまった」

「ああ、うちのクラスにも入ってくれて、弾けてましたね(^▽^)」

「坂東さんは大阪でも充実した高校生活を送ったようですが、乃木坂に居ても人の何倍もドラマのあった人だと思うんです。で、たった半日でそれを取り戻されたような。仲さんも部活ばかりだった分を柚木先生のクラスで取り戻した。なんというか、乃木坂は中身が濃い。ハハ、いささか我田引水ですかな(^▢^)」

「『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』も『ワケあり転校生の7カ月』も読みました!」

「いささか誇張されているが、ほぼあの通りだよ。水島さんにもそういうところがあるのかもしれない。試してみてはどうかなぁ。向いていなければ、いくらでも方向転換の道はある。でしょ、柚木先生の先輩の貴崎マリ先生には驚きました。先生を辞めてタレントさんになっちまった」

「貴崎マリ?」

「ああ、芸名は上野百合です」

「え、あの上野百合ですか『のどあめカンタービレ』の?」

「そう、柚木先生より五歳は年上……あ、これは業界じゃ秘密だがね」


 そういうわけで、放課後は、東亜テレビが、でっかい中継車とマイクロバスでやってきた。

 

「中継の上野です。スタジオのタムリさん。聞こえてますか?」

 

 驚いたことに、MCでやってきたのは、その上野百合だった。ノッキーは驚き、理事長は、タヌキのような顔でとぼけていた。

――百合ちゃん、なんだか自分の学校みたいにスイスイ行くね――

 スタジオのタムリが本質をついてきた。

「そりゃあ、天下の乃木坂学院ですよ。もう、ネットで、トイレの位置まで確認済みです。ああ、バニラ、早くきて!」

 バニラの二人は生徒たちに取り巻かれ、素人らしく緊張している。

「こんにちは。東京ドーム……の横で、頑張ってますバニラの岩崎広也です」

「あ、西川康志です」

「今、SNSで人気のバニラ……っても、一人足りません。そう、メインボーカルの秘密の彼女が、ここにいます。で、本日の突撃アタックは、その彼女に、正式にメンバーになっていただけるよう、こんな中継車まで用意してコクリにきました。これで断られたら、今日の経費は、このバニラの二人が……」

「ええ、そんなの聞いてないっすよ!」

 マジに聞いた西川がビビリながら抗議した。

「うそよ。タムリさんがもつことになってます」

――え、ええ!?――

 タムリが奇声を発した。

「では、さっそく。ボーカルの彼女いるかなぁ……」

 一瞬生徒たちがシーンとし、結衣がこわごわと手を上げた。みんなからどよめきが起こった。

「すみません……一回歌わせてもらえませんか? それで決めたいと思います」

「よっしゃー、バニラ、いいわね、今月のタムリさんの家賃がかかってるんだからね。しっかりね!」

 この事態を予想していたスタッフによってPAの準備はバッチリだった。結衣はマイクを持つと、ゆっくりバニラの前に立った。もう顔つきがちがう。何かが降りてきた顔になっている。


 《ぼくの おいたち》 作詞:岩崎広也   作曲:西川康志

 ぼくのおいたち ぼくのおいたち ぼくのおいたち

 でも 兄貴と姉貴のむすこじゃなくってね~♪

 

 コミックソングが、きれいなバラードになって、グラウンドにいたみんなの拍手が鳴り響いた。

 すると、ロケバスから業界では名の通ったHIKARIプロの会長・光ミツルが降りてきた。

「はい、じゃ、君たち、ここにサイン」

「え……?」

 当然驚くバニラの二人。

「水島さんは未成年だから、あとで保護者のハンコもらってね」

 結衣は、もう迷うことなくサインした。保護者のはんこ……まあ、なんとかなるだろう。

 陰で見ていた友子は、紀香を振り返った。

「じゃ、新ユニット名を発表します……バニラエッセンス改め……」

 光会長が宣言した。

 そして、ここにHIKARIプロの新ユニット「バニラエッセンズ」が誕生した……。 

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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鳴かぬなら 信長転生記 144『信長版西遊記・羅刹女の岩山・2』

2023-09-25 14:53:58 | ノベル2

ら 信長転生記

144『信長版西遊・羅刹女の岩山・2信長 

 

 

「三蔵法師までかっさらって仏陀エキス搾る準備万端なんだから、励まなきゃだめよ! 牛魔王!」

「お、おう、ガッテンだ羅刹女!」

 

 ギシギシ

 

 熱気を頼りに探し当てた風穴では、羅刹女と牛魔王がやる気満々、ベッドを軋ませながら向き合っている。

『ウ……ちょっと刺激の強い展開になるかもッパ』

『は、はやくやっつける、ブヒ!』

 ゴツン

『痛い! 髪の毛引っ張るな……あ、抜けた! 三本抜けた! ウキィ! 岩にこすり付けるな!』

『だって、サルの毛は汚いし、ブヒ!』

『静かに! 気づかれる! 静かに様子を見るッパ!』

『おお』『うん』

 これからZ指定の展開になるのは確実なのだろうが、どうも様子が変だ。上半身を起こし、見つめ合っているのだが、その先に進まない。

『仏陀エキスの仕上がりを待っているんだウキ』

 三蔵法師や坊主どもをさらってきたのは、そのエッセンスを一種の媚薬にして励もうと言うことなんだろうが、どうも、それだけではない必死さが窺える。

 

「いいこと、こうやっていっしょに居てあげるのは、三国志に立ち向かえる力をつけるためなんだからね。がんばって、強い子をいっぱい産んで、三国志にやっつけられないようにするためなんだからね」

「分かっておるわ、俺たちの子どもで軍隊を作り、お前の芭蕉扇で曹操とかを吹き飛ばすんだからな」

 

『芭蕉扇て、ブヒ?』

『西遊記で有名な秘密兵器ッパ! 一度扇げば関羽・張飛でも吹飛び、二度扇げば家が飛び、三度扇げば山が飛ぶと言われてるッパ!』

『壁に立てかけてある葉っぱみたいなのだろウキ』

『やつらにも秘密の武器と事情があるんだなブヒ』

『仏心を出すんじゃないッパ、三国志のことが無くなったら、また復活して悪さをするに決まってるッパ』

『市、いや八戒、おまえは芭蕉扇を奪え、俺と沙悟浄で二人をやっつけるウキ!』

『分かったブヒ!』

 

『『『ソレ!』』』

 

 今度は神を引っ張られることも、岩に頭をぶつけることもなく飛び込めた!

 

牛魔王:「あ、おまえら!?」

羅刹女:「この覗き魔どもめ!」

八戒:「芭蕉扇とったブヒ!」

悟空:「よし、やっつけるぞ、ウキ!」

羅刹女:「ウフ( ´艸`)」

悟空:「なにが可笑しいウキ!?」

羅刹女:「飛んで火にいるなんとかだからさ」

牛魔王:「貴様らも三蔵法師の弟子、仏陀エッセンスに加えればピリ辛の隠し味程度にはなるだろう」

悟空:「なんだと?」

沙悟浄:「八戒、芭蕉扇をッパ!」

八戒:「ブヒ!」

 八戒が大きく芭蕉扇をふりかぶる!

 芭蕉扇に吹かれれば、この狭い風穴、岩壁にぶち当たってノシイカみたいになるに違いない!

 ビュン! ビュンビュン!

 

 ……あれ?

 

 八戒が立て続けに三度芭蕉扇を扇ぐが、なにも起こらない。

 ベッドのケットが少したなびき、牛魔王と俺の髪の毛がハタハタたなびいただけだ。

 さっき、毛を毟られたところが、ちょっとヒリヒリする。

 要するに効果がない。

羅刹女:「フフフ、それは客寄せのダミーだよ。本物の芭蕉扇は……」

 そう言うと、羅刹女は耳の中からなにかを取り出した……そして、一振りするとフェイクのそれと同じ大きさの姿形になった!

羅刹女:「これこそが本物の芭蕉扇さ!」

牛魔王:「そして……」

 憎たらしくほくそ笑むと、牛魔王は壁のボタンを押した。

 

 ギギギギ

 

 後ろの壁で音がしたと思うと、壁は巨大な剣山を横にしたような剣の壁になった。

牛魔王:「その針の壁は根っこのところがメッシュになって風を通すんだ」

三人:「「「くそ!」」」

 

 不覚!

 

 この状態で芭蕉扇で扇がれれば、三人とも数百本の剣に串刺しにされてしまう!

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

 

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・28『きかんしえん・2』

2023-09-25 08:15:46 | 小説7

RE・友子パラドクス

28『きかんしえん・2』 

 

 

「ええ……期末試験も近いことだし、きょ、今日は自習にします!」

 

 驚いたことに、柚木先生の方から切り出した。

 麻衣、妙子、亮介、結衣、そして友子の五人は肩すかし。他のみんなは驚いた。

 柚木先生は、テストの前日だって自習にしたことがない。それが、唐突に自習だなんて、クラスのみんなは、喜ぶ前にとまどった。

 

 なんというか、良い意味で納得がいかないのだ、ノッキー先生らしくない。

 

「ごめん、正直に言う。放課後出さなきゃならないレポートが、まだ書けてないの。だから先生に時間をちょうだい!」

 やっと歓声が上がり、みんなは大人しく自習(格好だけだど)の体制に入った。

 ノッキー先生は、パソコンを前に無言で唸る。友子は先生の心を覗いた。

 

「机間支援」という言葉に引っかかっていた。

 

 なるほど、これが「きかんしえん」か、と友子は分かった。普通に聞いたら「気管支炎」にしか聞こえない。

 ノッキー先生は、三年目研修で都教委の研修を受けていて、その研修が明日の午後に迫っていて、それに出すレポートで悩んでいた。で、そのテーマが「机間指導」なのだ。

 え、机間支援じゃなくて机間指導?

 よく覗いてみると、他にも「机間観察」「机間巡視」というのもある。

 四つとも、授業中に教師が生徒の机の列に入って指導したり様子を見ることを指す業界用語で、この同じことが時代と共に『机間巡視⇒机間観察⇒机間支援⇒机間指導』と変化したもののようだ。

 

 友子は、先生の心の中にダイブしてみた。

 

――なに、そんなに悩んでるんですか?――

――言葉がインチキだからよ。中身は同じことなのに言葉ばっかりいじって、いい加減なのよ。机間支援てのに一番現れてる。誰が聞いても気管支炎でしょ――

――ですね。『先生、なにウロウロしてるんですか?』『キカンシエンよ』『え、大丈夫ですか!?』になりますね――

――でしょ――

――でも、いまは机間指導なんでしょ?――

――うん、一見まともなんだけど、言葉あそびという点では同じで胡散臭く感じてしまう――

――そうなんですか?――

――看護師って言い方があるじゃない――

――ああ、ナースのことですね――

――これって、性別が分からないでしょ――

――そうですね、昔は看護婦でしたね――

 そうだ、小説とかで「看護婦さんがやさしく脈をみた」は「女性看護師さんがやさしく脈をみた」になって、躓いた表現になってしまう。

――でしょ、うちのお母さんは看護婦だったんだけどね、途中で看護師に変わったけど「仕事のきつさは全然変わらない」って、呼び方変わっても、夜勤明けはいつもしんどそうだった。どうせしんどいんだったら「看護婦さん」とした親しみ込めて呼ばれた方がよかったって――

 そうだ、わたしも最初に殺された時、ずっと傍にいてくれたのは婦警さんだった。意識が無くなるまで手を握ってくれて「婦警さん、ありがとう……」て言ったら「うんうん、だいじょうぶだからね」って優しく微笑んでくれた。あれを「女性警官さん、ありがとう……」では言葉が硬くて雰囲気が壊れる。

――ああ……――

――でも、今は机間指導なんでしょ?――

――もっともらしいんだけど、言葉遊びという点では同じ。言葉ばかりいじっても仕方ないなんて書けないでしょ――

――そうか……――

――試験中や授業中に机の間を歩くのは、教室の秩序を守るためであり、授業が分からない子や、ノッて無い子にカツを入れるためなの。それを言葉だけいじって、さも指導の最先端いってますって立前がねえ――

――てか、心が拒否してますね……え、その指導主事って、ノッキー先生の恩師なんだ!――

――うん、すごく授業の下手くそな先生。授業中、生徒の目も見ないで勝手に進んでいっちゃうし、机間指導はもちろん、教壇から降りることもしない。質問にもろくに答えない。授業は、いつも遅刻してくるし、早く終わっちゃうし、中身は四十分ちょっとしかなかったわ――

――そんな人が指導主事になれるんですか?――

――学歴と毛並みがよかったからね――

――え……?――

――帝都大出身で、家は、三代続いた都議会議員――

――M党の花高議員ですね。わたしが、なんとかします。そんなレポートろくに目も通さないんだから、テキトーでいいんですよ、テキトーで――

――これでも、イッパシの教師なのよ、いいかげんなことはできないわ――

――そういうノッキー先生好きだけど、こんなとこで突っ張っても、時間と気力の無駄遣い。さっさとやっちゃおう――

 友子は、教師の指導法のサイトを開き、ノッキー先生の心に響くキーワードを見つけ、先生の前頭葉にインストールした。

 

「あ……できちゃった!」

 ノッキー先生が声を上げた。

「えー、なんでだろう。頭の中グチャグチャだったのに、自然に書けちゃった……」

 よかったよかった(^_^;)

 

 この話には後日談がある。

 

 指導主事に飽き足らなくなった花高は、父が参議院選挙に出ることをうけ、都議会議員選挙に出ることになった。親子ともに自信満々だったが、議員として……というより、人としてどこか欠けることのある親子は、そろって落選した。

「政治家は、看板でなるもんじゃない。これで分かったろう!」

 初代のお祖父ちゃんから説教された親子は、祖父の命令で、ハローワークに行って仕事を探したのだった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格
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やくもあやかし物語・2・008『先代ボビーの墓参り・2』

2023-09-24 14:13:56 | カントリーロード

くもやかし物語・2

008『先代ボビーの墓参り・2』 

 

 

 王室墓地はまるで小さな森だよ。

 

 王宮の敷地は山手線の内側よりも広い。

 でもね、国王が力に任せて広げたわけじゃないんだよ。

 宮殿の周囲は豊かな自然に恵まれていて、その自然を守るために王宮の敷地にしたんだよ。

 他の国なら国立公園とかにするんだけど、そうすると国立公園法とかの法律を作って、管理するためのお役所とか作って、とうぜんお役人の数も増えて大変。

 それで、百何十年か前に「じゃあ、ぜんぶ王宮の敷地ということにしよう」と王さまが言って今に至っている。

 王宮の敷地は一般の国民もお出入り自由なんだけど、ヤマセンブルグの国民は王室に敬意を払っていて、けして無茶なことはしない。

 無茶っていうのは、勝手に家を建てたり、木を切ったり、地面を掘り返して鉱物資源を取って行ったりしないということよ。

 でもね、木の実を取ったり薪を拾ったり、時期と場所を限って狩りをしたりはOK。

 

「難しい言葉で『慣習法』というんだ」

 

 墓地に向かいつつ、ソフィー先生が教えてくれる。

「かんしゅうほう?」

「ああ、法律には実定法と慣習法がある。実定法は議会で決める普通の法律だ。慣習法とは、昔からある習慣を法律と同じ効力があるとしてみんなで大切にする取り決めだ。例えば、商売の取引の慣習……これはむつかしいなあ」

「日の丸がそうだったじゃない?」

 王女さまが付け加えられる。

「そうそう、日本の日の丸は長い間国旗とは明記されてなかったんだ」

「え、そうなんですか!?」

「ああ、日本人のほとんどが『あたりまえ』と思っていたんで、あえて法律では縛らなかった。でも『法律で定められていないものに敬礼なんかできるか』と、左翼が体制批判の道具にしたんでな、20世紀の終りに法律で国旗にしたんだ。それまで、日の丸を国旗たらしめていたのが慣習法だ」

「他にもあるわよ」

 詩さんが指を立てる。

「え、なんですか?」

「日本語」

「ええ?」

「法律で決めたわけじゃないのに、みんな日本語喋ってるでしょ? べつに国語法とかで縛ってないのによ」

「え、ああ……」

 ちょっと虚を突かれたっぽい。

「もともと、ここいらは農民が薪や木の身を取ったり、羊を放し飼いにしたりする共同の土地、日本の言葉では入会地というんだが、それが半分近く。動物や妖精の棲家とされる森が半分近く。残りの僅かが王宮の敷地だった。しかし、産業革命が起こって土地の所有権をはっきりさせようという風潮が出てきた。所有権をはっきりさせて持ち主が大農場を開いたり、石炭や鉱物資源を漁ったりする動きだ。それを防ぐために全てを王宮の敷地ということにして、乱開発されることから防いできたんだ」

「ちょうど、境目にうち(王室)の墓地もあったしね、王宮と墓地を結ぶ線から北側を、そういうことにしたの……ということで、ここからが墓地の聖域。いちおう、お祈りしてから入るわね」

「お祈りって、どんな……」

「十秒ほど頭を下げてくれるだけでいいから」

 王女さまが先頭で頭を下げる。

 墓地の森の前、ご先祖と精霊に敬意をはらってる感じで、ちょっと清々しい。

 チラ見すると、子犬のボビーまで大人しく俯いて可愛かった(^_^;)。

 

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン

 

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RE・トモコパラドクス・27『きかんしえん・1』

2023-09-24 07:13:44 | 小説7

RE・友子パラドクス

27『きかんしえん・1』 

 


 ゲッフ! ゲップ! ゲッホ! 

 ゲップが派手に三連続した。


 乃木坂学院高校の昼休み、梅雨の中休みと言うよりは、梅雨が早期退職したような晴天続き。友子は、クラスメートといっしょに中庭でお弁当を食べている。

 メンバーは、その日によって入れ替わりはあるが、今日は玉子焼きが美味しい麻子、蛸ウィンナーが見事な妙子。そして、転校してきて、早くも馴染んだ水島結衣。そして、こういうことには頓着しないで混ざってくる保健委員の亮介、亮介はただの自信過剰のオッチョコチョイということが分かってきたので、もうイケメンという冠は付けない。

 で、友子と結衣を除いた三人が、食後のコーラを飲んで、いっせいに派手にゲップをしたところだ。

「もお」「うふふ(* ´艸`)」

 友子は眉をひそめ、結衣はハンカチで口元を隠して品良く笑っている。

「これが、コーラの醍醐味じゃない。なんか、お腹に溜まっていたものがいっぺんに解放されるって感じでいいじゃんꉂꉂ(ᵔᗜᵔ)アハハ!」

 麻衣が、口の端にコーラの泡を付けながら、爽やかに言い放った。考えたら、この三人の共通点は、コーラ愛好者であることに気づいた。

 品の良い、大佛聡(おさらぎさとし)や、資産家令嬢の長峰潤子、華僑の娘の王梨香などは、このグループにはあまり加わらない。その原因が、多分食後の大ゲップであろうかと、友子には思われた。

 

「トモちゃん、いつもカフェオレなんだね?」

 

 亮介が、ナニゲに聞いた、この一言がドラマの発端になるとは、友子にも想像できなかった。

「え、コーヒー牛乳だよ」

「だって、カフェオレって書いてあるよ」

「え……ほんとだ」

 友子のコンピューターには、この時代に生きるため。また、いざというとき本来の能力を発揮するために、無数の情報がインストールされているが、いつも意識しているわけではない。友子の元来の生活習慣にあったことなどは、ノーマルな状態では昔のままであるものも多い。

 で、このコーヒー牛乳が、そうである。

 義体になる三十年前には「コーヒー牛乳」が、当たり前の名前だった。

 それが、2003年の飲用乳の表示に関する公正競争規約により百パーセントの牛乳でなければ「牛乳」の二文字が使えなくなり、友子が飲んでいるそれは、パッケージデザインはそのままで、カフェオレに変わってしまっていたのだ。友子は検索して言葉の上書きをしようとしたが止めた。やっぱコーヒー牛乳はコーヒー牛乳だ。

「ま、わたしは、コーヒー牛乳でいいや」

 すると、後ろで拍手がした。

「あ、理事長先生!」

 亮介がキヲツケした。

「ああ、そのままでいいよ。なーにコーヒー牛乳の言葉に、ちょいと感激したもんでね」

「はあ……」

「コーヒー牛乳というのは、わたしたちの子どものころから定着したものだからね。カフェオレじゃ、鈴木さんの言うようにピンとこないよ」

 理事長は、とうに九十歳を超えているが、心身共に、まだ七十歳程度であった。とくに名前を覚えるのが得意で、全生徒の名前と顔を覚えているという噂だ。

「そして、コーラは高校生が好きなノンアルコールのナンバーワンだね」

「そうなんですか? お茶とか、コーヒーだと思ってました」

「理事長ってのはヒマでね。パソコンで、そんなことばかり見ては喜んでいる。君たちだってボクのことを理事長って呼んでくれるけど、ある日、これがboard chairmanって呼べと言われたら面食らうだろう?」

「英語では、そんな風に言うんですか!?」

「なんか、カッコイイですね!」

「いかにも偉い人って感じ!」

 と、みんなの反応は無邪気だった。

「ハハ、君らにかかっちゃ、しょうがないなあ。鈴木さんは、どうしてコーヒー牛乳?」

「あ、両親がずっとそう言ってますので、家じゃ、これが普通なんです」

「それがいいなあ、なんでも言葉が新しくなれば良いというもんじゃない。学校も、副校長や首席なんてなのが出来て、きみたちも呼び方苦労するだろう」

 友子には、分かっている。理事長先生の中では、ちゃんとカテゴライズされていて、きちんと学校経営の中では生かしていることを。そして、わざわざ、わたしたちの話の輪の中に入ってきたことも。

「そろそろ予鈴か。君たち、次の授業は柚木先生だろ?」

「はい、そうです」

「一つ頼みなんだが、君たちから自習にしてくれと頼んでみてくれないかね。六限は、君たちの苦手な英語でもあるし、ま、理由は適当でいいから」

 友子には、理由が分かった――先生にも、いろんな事情があるんだ。

 でも、いま頭をよぎった『きかんしえん』てなんのことだろう……疑問の残る友子であった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格
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RE・トモコパラドクス・26『バニラエッセンス』

2023-09-23 09:06:14 | 小説7

RE・友子パラドクス

26『バニラエッセンス』 

 

 


 後年言われた結衣のフェロモン騒動はひとまず収まった。

―― 普通で十分だ ――

 昭二の心で結衣は思った。

 やっと人並みの青春が取り戻せる。女子高生としてではあるけれど、七十年以上前にリアルの肉体は失っているので性別などはどうでもいいと思った。自分の足で立ち、自分の手で物を掴み、自分の肌で風を感じる。それがとても素晴らしい。それまでの幽体では何を見ても映画のスクリーンを通して見ているようだったし、なにに触れても軍手をはめて触っているように頼りなかった。それが、今は義体とはいえ感覚は生身の体と変わらない。それだけで十分だ。

 そう噛み締めながら結衣は昭二の心で乃木坂を下った。

 もう、それほど人も振り返らない。でも、これでいい。昼休みまでのわたしに向けられた関心は、宇宙戦艦に残っていたアテンダント義体の魅力でしかない。紀香と友子が、それを程よく抑制してくれた。これで普通。あこがれの普通!

 結衣は駅まで三百メートルの乃木坂をスキップして下った。

 パンケーキの店の前で信号に引っかかってスキップは止んだが、七十二年ぶりの生きた体はリズムをとることをやめなかった。

 そして、そのリズムに弾む姿には、ついさっき走れるようになった幼子のような初々しい嬉しさと可愛さが滲み出て、パンケーキ屋の前の列は乱れ、マスターはパンケーキの鉄板でヤケドをしてしまった。

 信号が青になり、結衣が地下鉄の駅に降りて、パンケーキ屋の騒ぎも、それ以上には大きくならずに済んだ。

 

「大丈夫かなぁ……」

 

 友子はもう少し後をつけてみることにする。

 地下鉄では運転手が見とれてオーバーランしかけて気をもんだ。初々しい感性というものは、多少の外形的な魅力を引き算しても溢れてきてしまうものなんだ。弟の一郎は生まれながらに風采のあがらない三枚目だったが、幼稚園の年長さんのころまでは人から可愛いと言われたものだ。

 そう思い出してみると、向かいのデジタルサイネージが目に入った。

 美粧堂(一郎の会社)のデジタルサイネージだ。一期前のもので、先日発表された若々しいルージュのものではなく、売り上げが芳しくなかった仏頂面の大人の魅力的なやつだ。どうやら、駅の構内広告の切り替えは始まったばかりで、乃木坂までは手が回っていない。

 そうか、この仏頂面だ。

 思念を電気信号に変えてデジタルサイネージ点滅させる。気づいた結衣は――あ、これだ――と真似をしてみる。

 とたんに人の視線を感じなくなった。

 

 住居を設定されている本郷三丁目で降りたところまではよかたっが、結衣は住まいとは反対の東京ドームの方に歩き出した。

 

「あれ?」

 友子は後をつけた。

 東京ドームの周辺には、東京都から「ヘブンリーアーティスト」という資格をもらって、路上パフォーマンスをやっている人たちがいる。美粧堂風の仏頂面にして人の視線が減った分、聴覚が敏感になり、かすかに聞こえてくるサウンドが結衣をひきつけたようだ。

 結衣は一組のユニットに引きつけられている。

「バニラ」という風采の上がらないディユオの前で結衣の足が止まった。

 結衣の様子から、興味があるんだろうと思って友子は聞いてみた。

 

《ぼくの おいたち》 作詞:岩崎広也   作曲:西川康志

 潤んだヒトミ 最後の言葉が尻餅ついて震えるクチビルに

 ぼくは キスキス キス キス ホッチキスー!

 そのとき ぼくは知ったんだ キミのクチビルに付着したタコの焼き青のりにぃ! 零れた前歯の紅ショウガぁ!

 キ・ミ・は ぼくのアルテミス ミスアルテミス! オ~オ アルテミス! 
 


 調子がいいだけのコミックソングにまばらな拍手が起こる。バニラの二人は、ひそかに――もうこれでやめよう――と気弱な笑顔で思った。まばらな聴衆も――そうしたほうがいい――と心の中で思った。

 パチパチパチパチパチパチ!

 そんな中、結衣は一生懸命、目を潤ませて拍手していた。

 周りの人たちは、その拍手にも驚いたが、結衣のかわいさに見とれてしまい、バニラの二人は、なにかテレビ局がドッキリでAKRかどこかの子を仕掛けてきたのかと思った。

 そして、結衣は口走った!

「コードをマイナーにして、わたしに歌わせてください!」

「え、あ、うん……」

 そして、押されたように、結衣にスコアを渡し、マイナーで弾き始めた。

 コミックソングである《ぼくの おいたち》が、とても情感のあるバラードになった。

 観客はしだいに増えていった。

 その様子は、SNSに投稿されて評判になり、翌週にはテレビの取材が入り、週末には中規模のプロダクションにスカウトされ、ユニット名もバニラエッセンスと改名し、夏の終わり頃には忙しいテレビ出演に追われることになった……。    

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格
コメント
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