臨時増刊・SF&青春ラノベ
『レイカの花・1』
本名は立花麗花。
レイカって音も字面が嫌いなんで、子どものころから「ハナ」ってことにしてる。
考えてもみてよ、レイカって漢字変換したら「冷夏」だよ。「零下」ってのもあるけどね、ほんでもって雨女。冬の耐寒登山でも、雪でなくて雨になるくらい。運動会の2/3は雨。で、その時に応じて雨女とか雪女とか言われる。
字で書いても、立花麗花。花が二個も入ってて、どうにもオーバーディスプレー。
だから、小学校で、わりに顔が利くようになってからは「レイカ」とは言わせない。単に「ハナ」ってことにした。漢字はダメ、あくまでカタカナよ。
あたしは身長148……あんまし高くない。ルックスは10段階評価で7。これ意識的にゲンキハツラツして7だからね、ボンヤリしてると、とたんに6とか5に落ちてしまう。
あたしのチャームポイントは鼻だ。ちょっとツンとしてるけど、我ながらかっこいい。鼻だけが体のパーツで自己主張している。
それから、顔がきくようになったのはね、小学校の「文化の集い」ってのでお芝居やって、たまたま準主役になっちゃって、それで主役を食うぐらいの名演技やったわけ。そしたらみんなの見る目が変わってきちゃって、148センチのわりには顔がきくようになったわけ。
「プロダクションにでも入れば」とか「AKBうけなよ」とか言われた。
「あたしは、本格的女優を目指すの。下がり居ろう下郎ども!」
って、感じで、「ハナ」になった。
ほんとは、児童劇団入りたかった……小六のときなんか、乃木坂の願書をこっそり手に入れたりした。
「ハア~」
出るのは、ため息ばっか。
ハナんちは、お母さんがシングルマザーで……原因は内緒。お母さんは小学校の先生。無理言えば児童劇団くらい入れてくれたかもしれないけど。あたしって経済観念発達してるから、うちの収支はよく知っている。爺ちゃん婆ちゃんへの仕送りとかもしていて、今の教師の安月給じゃ、お母さん自身の老後とかも考えると無理は言えない。
中学に入って、隣の小学校から来たユウカと友だちになった。「ユウカ」と「レイカ」二人足したら「ユウレイだね!」で、意気投合して、二人で先生やら友だちの真似しては喜んでいた。
でも、乙女心は複雑で、自分たちで「ユウレイ」というのはかまわない……どころかアゲアゲになるんだけど、人に言われるとサゲサゲ。だから、ハナは、やっぱハナで通した。
「ハナ、タカミナの真似してよ!」
なんて言われると、身長が同じという親近感もあって、ユウカが峯岸のミーちゃんなんかやって、『フライングゲット』から『ギンガムチェック』までテキトーにやって遊んでいた。
ほんとは演劇部に入って本格的にやりたかったんだけど、演劇部は数年前に廃部になっていて、けっきょく文化祭なんかで、ユウカといっしょにAKBの真似なんかして、くすぶっていた。行事も、よく雨になったし。
一度「キンタロウ、モモタロウ」のコンビ名でお笑い路線でオーディション受けようかなんて本気で思ったけど、ユウカが盲腸になって、お流れ。こういうものは勢いで、それを逃しちゃうとなかなか次のステップには進めない。
で、高校生になった今は、本物のキンタロウが現れ、あっと言う間にメジャーになっちゃって、高校も一緒になったユウカと二人で演劇部に入ってがんばっていた……。
神楽坂高校演劇部は、ちょっとしたモノ。
中央大会は5年に3回ぐらいは出てる実力校。でも、このご時世軽音やダンス部に食われて、部員7人と、ちょっと寂しい。
「今年は、これ極めるわよ!」
三年生の村長こと友子先輩が、印刷した台本の元を、ドサっと部室の机に置いた。
「え……『すみれの花さくころ』 これ、中学演劇用の本じゃないですか」
「あなどってはイケマセン。名古屋音大やら、プロの歌劇団が、これでオペレッタをやったって、スグレモノなんだからね……早くまとめて綴じる!」
リャンメン刷りしたA4紙を、ベテランの印刷工のように村長先輩がまとめていく。あとからミサイル(美沙:一年) モグ(素子:一年)が追いかけてきて、とろくさいハナと、ユウは追いつめられていく。
「二十部作るだけなんだから、あせらなくても、村長」
唯一の男子部員であるサン(三平:三年)が、ホッチキス構えて助け船。
「なに言ってんのよ。中央大会の分まで入ってるから、50部はあるわよ」
とカンゴ(リノ:三年)が大きなことを言う。
この7人が演劇部の全て。この新入生歓迎会では、村長をセンターに、以下ハナとユウ、カンゴ。それになんとサンが指原に化けてAKBのフライングゲットをやった。下手な芝居を見せるよりも、ほんの五六分で、目だって面白いパフォーマンスをやった方がウケル。実際、最後にサンが男であることをバラスと、会場は騒然とした。ルックスからプロポ-ションまで、どう見てもサッシーだ。
「こんなのも居ますんで、どうぞ演劇部よろしく!」
サンが、そう言うと、みんなでサッシーを襲い、胸の中に詰め物として隠していた「来たれ演劇部!」の横断幕を広げ、チャンチャン!
この衝撃的なパフォーマンスを見て、5人が入ってきたが村長は、惜しげもなく絞り上げ、ミサイルとモグの二人が残った。
「ハンパな奴はいらねえ、そのかわり、残ったあんた達は義姉妹だからね、小原美沙!」
「は、はい!」
「今日から、あんたはミサイルだ。空気はよめないけど、真っ直ぐ進む敢闘精神は、あたしは買う。だからミサイル。小西素子!」
「は、はい!」
「あんたはモグだ、しょっちゅうなんだか食ってるし、内省的に潜って考えるタイプだからモグ。いいな!」
「はい!」
「あとは、あたしが村長、指原そっくりの男がサン。優しげで実は怖いのがカンゴ。そこのペアがハナとユウ。そう呼んでもらうが、上級生には『さん』を付けること!」
そう言って、七人で水杯を交わし、そのカワラケを床に叩きつけて団結を誓った。去年は、ここまではしなかった。ハナたちの呼び方も本人の申告通り、ハナとユウで通った。
村長は、タッパも168センチと、ハナより20センチも高いせいか、いかにも村長というオーラがあった。しかし、村長……いや友子先輩の背負っている運命とオーラは、そんな「村長」というような生やさしいものではないことを、ハナは思い知ることになる。
そして、ハナを待ち受けている運命も、そんなに生やさしいものでないことを、実感することになる……。
つづく