大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:227『黄泉の国決戦・2』

2024-01-31 09:48:43 | 時かける少女
RE・
227『黄泉の国決戦・2』テル 




 数……数が多い! 多すぎる……!

 力の限り矢を射かけ、石ツブテを投げ、そして呆然とした。もう弓矢や石ツブテでどうこうできる数ではない。逃げるにしても、あの勢いでは数十秒のうちに追いつかれてしまう! 洞窟の出口までは一本道、逃げ込む枝道も無い!

「時間を稼ぎます!」

 そう言うと、イザナギさんは髪を結んでいた紐を解いて鬼ども目がけて投げつけた。

 シュル! シュルシュルシュルシュルシュル!

 紐は、たちまち無数に分裂して、迫りくる鬼たち醜女たちを絡めとっていく。

 バシュ バシュ バシュバシュバシュバシュバシュバシュ!

「今のうちです!」「全速後退!」

 イザナギさんが叫びヒルデが号令をかけ、みんな一目散に洞窟を走った!

「オッチャン、今のはなんだ!?」

「あれは、髪を括っていた蔦カズラです」

「すげえもの持ってんだなぁ」

 こんな時に質問する桃太郎二号の好奇心もすごいが、きちんと答えるイザナギさんも立派だ。

 ギガァ! ギガガガ! ギギギィ! ギギギギギギ!

「え、もう解いて追いかけてくるやつがいるぅ!」

「あの蔦カズラでも足りなかったんだ!」

「あと半分! 頑張って!」

 シュシュシュ!

 与一さんが、皆を励ましながら矢を射る! それに倣ってケイトも、ほかのみんなも手当たり次第に石ころを投げ、僅かに時間を稼ぐ! 稼いではまた駆ける! 逃げる! 全速で駆ける! 全速で逃げる!

「少しは遠のいたかぁ(;'∀')?」

 わずかに鬼ども醜女どもの気配が消えたが、すぐに、それに倍する勢いで追いついてくる。

「オッチャン、追いついてきたぞぉ(;'▢')!」

「まだ手はあります」

 落ち着いて言いながら髪にさした竹櫛を取り、ポキポキ折っては足下と後ろに投げる。

 おお!

 櫛の歯は一本ごとに一叢のタケノコになって、それが瞬くうちに十倍百倍に増えて、一面のタケノコ平原になる。

「そうか、あれを餌にするんだな、オッチャン!?」

「今のうちです!」

 そう、見とれている場合ではない、背後に気を配りながらも距離を稼ぐ。

「すげえよ、オッチャン!」

 醜女や鬼たちは、足もとのタケノコを引っこ抜くと、一瞬で皮を剥いて生のままボリボリと食べ始めた。

 しかし、石の坂道を三つ上がったところでタケノコよりも鬼たち醜女たちの方が多くなって、またまた追いつかれる。

「かくなる上は……」

 シャリン!

 腰に下げているだけで一度も抜かなかった天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)を抜き放つイザナギさん!

「たとえ、妻を取り返すためとはいえ、殺生はしたくなかったんですが……チェストー!!」

 ズシ! ズサ! ズシズサ! ズザザザザ! ビシビシビシ! ズシズサ! ズザザザザ! ビシビシビシ! ズザザザザ! ビシビシビシ! ズシズサ!

「スッゲー!」

 瞬くうちに、百匹あまりの敵を切り伏せ、さしもの鬼と醜女どもも十メートルほどの間合いを取って立ち止まった。

「さすがは天叢雲剣! イザナミ、聞こえているか!? 余計な殺生はしたくない、黄泉の戦闘員たちを退かせて、わたしと一緒に帰……」

 言い切らないうちに、鬼ども醜女どもは斃された以上の数に増殖し、一斉に飛びかかろうと腰をかがめた。

「やはり通じませんか、かくなる上は!」

 ズチャ

「………ウ、剣が持ち上がらない……」

「おっちゃん、電池切れぇ(^_^;)」

 数百匹切ったイザナギさんは、それが限界だったのだろうか、もうまともに剣を構えることもできない様子だ。

「無念……これは使う者の体力、気力を一度に出させるようです」

「ここは退くぞ、テル、イザナギ殿に肩を貸せ! 他の者は、立ち向かって時間を稼ぐぞ!」

「「「オオ!」」」

 来る時には気付かなかったけど、黄泉の国は重層的な構造になっている。

 三つ目を上がったところで風を感じた。

「出口が近い!」

 ヒルデが気づき、タングリスは持てるだけの石ツブテをかき集め、他のみんなもそれに倣う。

 ウワワァ~~~ン

 坂道の下の方から鬼ども醜女どもの声が木霊しながら上って来る。

「よし、体力も戻ってきたようです!」

「さすがは神さま、復活が早いぜ!」

「しかし、天叢雲剣はひかえた方がいい。今度は意識が戻らないかもしれん」

「承知しています……オリャアアアア!」

 ドガガガガガガガガガガガガ!

 ヒルデの心配は承知していたようで、イザナギさんは天叢雲剣を鞘ぐるみのままで、周囲の岩肌を削って大量の石ツブテを作った。

「これを投げましょう!」

「「「「オオ!」」」」

 ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシ!

 再び一層分ほど鬼ども醜女どもを退けたが、数回息を継ぐうちにまた滲みだすようにして満ち溢れてきた!

「くそ、もう上って来やがる!」

 一瞬、天叢雲剣の柄に手をやるイザナギさん。

「イザナギ殿、赤ランプが点いているぞ!」

 見ると、柄頭のところが『危険』の文字を浮かび上がらせて点滅している。

「ああ、もう手の打ちようがありません(#-_-#)」

 さすがのイザナギさんも種切れの様子だ。

「あと一息なのに……」

 ケイトが尻餅をつく。

「オ、オレがなんとかする!」

「なんとかって、桃太郎二号」

 スックと立った桃太郎二号の頬は真っ赤に染まり、見開いた目には涙を浮かべ、ズルリと鼻水まで垂らしているが、それを涙と一緒に拳で拭うと顔の半分を口にして叫んだ。

「オッチャン、いい国作ってくれよな! みんなも元気で!」

 そう言うと、桃太郎は一足飛びに坂の下まで飛び降りた。

「「「「「桃太郎!」」」」」

 一回転して着地すると桃太郎二号は、ニョキニョキと音を立てて一本の桃の木になった!

 ポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワ!

 そして、あっという間に鈴なりの桃の実を付けた!

 ギガァ! ギガガガ! ギギギィ! ギギギギギギ!

 鬼どもは、あれだけのタケノコを喰らいつくしたというのに、あさましく桃の木に群がって、桃の実を喰らい始める。桃の木は食べられても実を実らせて、鬼ども醜女どもの食欲を満たしていく。

 桃太郎オオオオオオオオオオオ! 

「行きましょう!」

 イザナギさんの言葉に、後ろ髪をひかれながらも、まだ少しむこうの出口を目指す!
 
 みなさーーん! こっちぃー!

 雪舟ねずみとヨネコの声がして岩角を曲がると、すぐそこが出口だ!

 ギガァ! ギガガガ! ギギギィ! ギギギギギギ!

 もう追いついてきた!

 セイ! トー! オリャア! 

 それぞれ力を振り絞って最後の一跳び!

 ズザザザ

 ドサッ

 スライディングしたり前転しながら飛び出すと、イザナギさんは素早く傍らの大岩に取りついて、あっという間に黄泉の出入り口を封じてしまった。

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
 
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第67話《爆弾が落ちてくる音》

2024-01-31 06:03:19 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第67話《爆弾が落ちてくる音》さくら 




「反戦の『は』の字も言わないで戦争を表現しようとしてるんだ。僕らには、そうやって伝えなきゃならないもんがあるんだ……」

 監督の一言は痛かった……。

「監督、よかったら、こんなのがありますけど」

 CG担当のディレクターが、ネットショッピングの見本を見せるようにノーパソを持ってきた。

「なんだい、動画サイトのサンプルかい。それなら、たいがいのは見たぞ」

「いいえ、仕事柄世界中の同業者と資料や映像を提供しあってるんです。ま、プロジェクターに出しますんで、見てください」


 で、どんなものが出てくるのか、興味津々だった。


「え……アハハハ」

 思わず笑ってしまった。

「バーター交換で出した、ボクの資料です」

 それは、結果的にはなんのCMか忘れたけど、こんなの。

 四五歳の男の子達がタオルを持ってお風呂にフルチンで行進。仲良く湯船に浸かるところまではニコニコ。
 でも、途中で一人の男の子の側にポカンと泡が立つ。次の瞬間、他の子たちは男の子から離れ、浴槽の隅に固まって、泡の原因になった男の子をジト目で睨んでる。泡の原因になった子は「だって、しかたないもん」という顔で湯船に浸かっている。

「このCM覚えてるよ。たった15秒で、世界中を笑わせた名作。ただ、なんのCMか忘れてしまうのが欠点だったけどな」

「これ、45年前の世界CMグランプリで優勝したやつなんですけど、原版が無くなってて、ボクが見つけてリマスターしたんです。で、ユーゴの友だちが送ってくれたのが、これです……」

 それは、ユーゴの内戦当時の映像だった……と言ってもユーゴの内戦なんて知らないから、あとでディレクターに説明してもらったんだけど。

 不安そうに、街の道路沿いの塀に身を隠す人たち。女の人や子ども、それにお年寄り。若い人も少しは混じっていたけど、みんな身をかがめ寄り添いかばいあっている。

「そう……空襲警報が出て、防空壕に入ったときなんか、こんなだった……」

 所作指導のお婆ちゃんが呟いた。

 しばらくすると、爆弾が落ちてくる音がし始めた。みんな、これ以上できないくらいに体を小さくし、お母さんは、まるでもう一度自分のお腹の中に戻すように子どもを丸抱えにしてお腹に押しつけていた。お祖父ちゃんだろうか、その上を母子共々に覆い被さるようにして目を閉じている。臆病そうなおじいちゃんだけど、その姿は崇高だった。中島みゆきの『地上の星』を思い出した。

「この爆弾は落ちてきませんよ……ヒューヒューっていうのは遠くに落ちる爆弾、まだ大丈夫」

 オバアチャンの言うとおり遠くで爆弾が炸裂する音がした。それが二三回したあと、今度は蒸気機関車が空から走ってくるような音がした。

「あ……」

 オバアチャンは、思わず腰を浮かせた。画面のお祖父ちゃんは悪魔を呪うように顔を空に向けた。お母さんと子供たち、背景の市民の人たちが、アナログの画面を通しても震えているのが分かった。

 そして、次の瞬間画像が乱れ、一面もうもうとしたホコリ、砂煙、そして舞い上がった小石や何かの断片がパラパラと落ちてくる。

 画面は横倒しになったまま動かない……やがてホコリがおさまると、倒れた人たちが縦になっている……?

「これ撮ったカメラマンは即死だったそうです。でも、奇跡的にカメラは無事で回り続けていたんです」

 みんなが縦になっているんじゃない。カメラが持ち主の手に握られたまま横倒しになっているんだ。

「思い出したわ、七十年ぶりに……最後の爆弾が落ちてくるとこ、音だけください」

 オバアチャンは、スタジオの真ん中で、七十年前の自分を再現した。誰かと抱き合うようにしてオバアチャンは小さくなってしゃがんだ。そして爆発の音と共に固まってしまい、ゆっくりと起こした顔は蒼白だった。

「大丈夫ですか、小林さん……?」

 監督が声を掛けた。


「トモチャンの首が無かった……そのおかげで、あたし助かったんだ……」


 小林のオバアチャンは、演技ではない嗚咽を漏らした。

「……すみません。不用意にお見せしてしまって……」

「いいの、これは思い出しておかなきゃならない記憶だったのよ。いっぱしに覚えてるつもりだったけど、自分を守るために忘れてしまっていたのよ……」

 スタジオは声一つたたなかった。

「あたし、やります。今の衝撃が生々しいうちにやってしまいます」


 一発でOKが出た。


「よし、CGのマサカドさんとシンクロさせてみよう」

 わたしは、初めてCGのマサカドさんを見た。しっかりした可愛い女学生だった。今のお人形さんのようなキャラじゃない。違いを探してみた……目と口元が違った。

 良く言えばしっかり今風にいえば「マジな顔」。でも、それだけでは言い表せないなにかがあった。CGのディレクターはたいしたもんだと思った。あたしは、とても、こんな表情はできない。

「今の小林さんを参考に少し手を入れてみます」

「うん、そうしてくれ」


 わたしは十分だと思ったけど、プロ根性というのは大したものだと思った。


「さくらも、そのプロの一人なんだぜ」

「あ……」

 監督に見透かされた。

「その、バカみたいに分かり易いとこが、さくらの長所だ」


 バカだけ余計……。


※ マサカドさん……『はるか わけあり転校生の7カ月』に出てくる傷みつけられた幽霊

☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
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鳴かぬなら 信長転生記 162『テンパる天照大神』

2024-01-30 14:41:47 | ノベル2
ら 信長転生記
162『テンパる天照大神』二宮忠八 




 緊箍児(きんこじ)の花菱紋がキラキラ輝いたかと思うと、超新星爆発のように画面が真っ白になって、ラボのみんなは思わず目をつぶった!

 ホワワァ~~

 音に変換したら、こんな感じで光は3Dになって画面から飛び出してきた!

 シュララララ~~ン ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 ☆いっぱいのエフェクトが満ち満ちて、こんな派手に3Dの星を出したら、グラボの能力が追い付かなくてなる! 画面左上のフレームレートが15まで落ちて、もうフリーズしてしまうと思った時、星々は女性の姿になって、画面の前に現れた。

 え……!?

 みんな息をのんで驚いたけど、信玄さんや謙信さんは見覚えがあるようだ。

信玄:「これは、御山の天照ではないか」

謙信:「本物か……御山の神域以外では姿を現さないのではなかった?」

天照:「これはね、ホログラム。忠八くんのスキルが高いから、こうやって現れることができたわけさ。ありがとう忠八くん」

忠八:「ハ、ハヒ、こ、光栄です!」

乙女:「ご顕現してくださったがはありがたいけんど、なんの御用ですろうか?」

 みなが恐れ入る中、乙女生徒会長は龍馬を彷彿とさせる長閑さで訊ねてくれる。
 こういう状況では緩い対応が一番なんだけど、なかなかできることじゃないからね。

天照:「これから信長くんたちの冒険は山場を迎えるんだけど……」

 シャリン!

武蔵:「やはりか!」

 双剣を抜いて気を吐く武蔵、それにつられて他の学院生や学園生も得物を持って立ち上がる。

信玄:「逸るな!」

 信玄さんが双乳をブルンと振るわせて立ち上がり、瘦身の謙信さんも静かに横に並ぶ。

 その迫力に、みんな半歩下がるけど、恐れ入るところまではいかない。

 みんな、ちょっと火が点いた感じだ(;'∀')。

天照:「そういうところなのよ、あなたたちが前世で失敗したのは。これから信長くんたちは三蔵法師一行のまま、おそらくは魏の曹操と対峙することになる。おそらくは上首尾に終わるとは思うけれど、まだまだ手に汗握ったり、ハラハラしたり……そして、なによりも――ここで介入すれば漁夫の利――と腰を浮かす瞬間があるかもしれないけれど、けっして介入してはいけません。しかし、目を離してもいけません。これまでは機に応じて、最小の介入でうまくいきましたが、これに欲を出してはいけません。止水明鏡の心で見守ってあげて」

乙女:「天照さんが心配するばあ、ちっくと危ないところにきちゅーいうことなんやねや?」

天照:「そうよ、鷹揚に構えすぎても……」

乙女:「龍馬の例もあるということやね」

 あ…………

 みんな息をのんだ、龍馬さんのことは学園ではタブーなんだ。それを生徒会長の乙女さん自ら口にしたことの意味は大きい。

天照:「日本の歴史は、ここ一番の詰めや辛抱が足りずに大崩れしたことが度々ありました……神代の昔、我が父イザナギは妻イザナミの忠告を聞かず玄室を覗いたためイザナミを鬼にしてしまいました。壬申の乱では大友皇子を野に放ったため大海の皇子は皇子でありながら命を失いました。義経は勝つことだけを考えて幕府が信用組合であることを理解できずに平泉で死ぬことになり、後醍醐天皇は鎌倉幕府を滅ぼし足利を九州に追ったことで全能感に陥って建武の新政をオジャンにし。今川義元は調子をこいて田楽狭間で休憩しすぎて信長に討たれるし、その信長も本能寺で光秀にやられるし、秀吉は天下を統一して、やめときゃいいのに朝鮮に出兵して豊臣の土台を台無しにしてしまった。こらえ性の無い浅野内匠頭は殿中で刀を抜いて家来を路頭に迷わせ討ち入りをやらせるは。黒船に腰を抜かして不平等条約を結ぶし、真珠湾では第二次攻撃をやらずに帰って来るし、その反省もなく、ミッドウェーは秘密を守れずに大敗北を喫してしまうし、好景気にうつつを抜かしてバブル崩壊に陥るし……」

 畏れ多いことに、天照さんは、ちょっとテンパっておられる。

 あちこちでクシャミや咳払いや肩を落とす音がする。

乙女:「気持ちは分かるけんど、転生は脛に傷もつ者ばっかりやし、それ以上は未来の話にもなるしぃ、ちっくと容赦してもらえんろうか(^_^;)」

天照:「そうね、そうよね……この御山の神の身をもっても、読み切れないものがある……いいこと、くれぐれも、走らず停まらずにね……信長くんには一番のシホンケーキの型を預けてある。成就の暁には、この天照一番のスィーツを作ってやるからね。それでは……」

 シュボン

 言うだけ言うと天照さんはシフォンケーキが萎むように小さくなって消えてしまった。

利休:「みんな、ちょっとお茶にしようか」

 遅れてやって来ていた利休さんがお茶を勧めて、やっと、少しだけ落ち着いた。



☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
  
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第66話《特認三等陸尉に任ずる》

2024-01-30 06:51:26 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第66話《特認三等陸尉に任ずる》さつき 





 フランスにいるとき、よく夢を見た。


 クロウド君の夢が多かったけど、あの緊急事態を共に乗り越えたためだと思っていた。とくにクロウド君に特別な気持ちを持ったためだとは思わなかった。ミッション・コイビトの時のドキドキは単なる吊り橋効果に過ぎない。
 その証拠と言ってはなんだけど、起きているときに、懐かしく思い出すことはあっても、連絡をとって会いたいとまでは思わなかった。
 第一、夢の細部は覚えていない。なんとなくタクミ君が仕事をしている……そんなことぐらいしか覚えていない。

「それがハッキングなんですよ」

 一佐が言った。

「さつきさんが見た夢はハッキングされると、夢を見た本人の記憶は、とても薄いものになってしまうんです」

「削除されてるってことですか?」

「コンピューターのように完全な削除はできませんが……ほんの一カ月前なんです。NATOの関係者との防衛関係の話がC国に漏れていることが分かりました。まだ協議段階の内容なので、防衛省にさえ入ってきていない内容です。その内容を知っているのは小林一佐と通訳のクロウド・レオタール三曹だけなんです。二人には悪いが身辺調査もやりました。正直行き詰まり、たどり着いたのが、さつきさん、貴女なんです」

「どうして……」

「調査方法は申し上げられませんが、さつきさんの寮の近くにC国の女がアパートを借りたことをつきとめました。そして、この女がC国の工作員だったのです」

「それって、あたしの知っている人ですか?」

 あたしは、クレルモンの大学関係者や近所のアジア系の女性を思い浮かべたが、思い当たる人間はいなかった。

「近所のパン屋で働いていた武藤利加子ですよ」

「え……彼女日本人ですよ。字は違うけど氷室冴子さんの小説の主人公と同じ名前で、それで仲良くなって、よくお店や、休みの日には公園なんかで……でも、ほんの立ち話です」

「そうやって、あなたの心の鍵を開けていたんです。ある程度親しい人間でないと頭脳のハッキングなんかできないんです」

「……そんな」

 武藤利加子は、パン屋でバイトしながら、音楽の勉強をしていた。ときどき公園でギターを弾いて小さな声で歌っていた。歌の趣味はわたしといっしょ……それって!?

「そう、心をシンクロさせていたんですよ」

「でも、まだ、ほんの二十歳くらいの子でしたよ」

「実年齢は40を超えています。さつきさんに合わせたんですよ。それくらいに化ける奴は自衛隊にもいます。梅田のトイレで出くわした女子高生は二人とも見かけの倍は歳くってますから」

「……そんな」

 あたしは、ここに来て、ほとんど「どうして」と「そんな」しか口にしていなかった。

「柿崎君、入ってきてくれ」

 一佐がいうと「失礼します」と声がかかり、一曹の階級章をつけた女性自衛官が入ってきた。

「彼女が、しばらくのあいだ貴女の世話係になります」

「柿崎君子です。よろしくお願いします」

「あの……どういうことなんでしょう?」

「あなたの心をハッキングするためには、あなたの半径500メートル以内にいなければできません。しばらく、この駐屯地内で暮らしていただきます。申し訳ありません」

「あたし……幽閉されるんですか?」

「昼間は自由になさってください。ただ、夜は駐屯地内で過ごしていただきます」

「隊内で日常的に起居出来るのは決まりで自衛官に決まっていますので、三尉待遇の特認自衛官になっていただきます」

「これが辞令です。面倒ですが起立願いますか」

 室内にいる自衛官がみな起立した。

「では、司令、お願いします」

「わたしの前にきてください」

 駐屯地の一佐が、机の前を示した。あたしは兄の記憶を元に気をつけした。

「任。佐倉さつき。特認三等陸尉に任ずる。令和六年五月十七日。防衛大臣某。S駐屯地司令、斉藤元一佐伝達」

「まあ、あとは気楽にやりましょう。わたしのことは柿崎でも君ちゃんでもすきなように呼んでください」

「は、はい……」

「够朋友gòu péngyou!」

「あ、あの時の女子高生!」


 ナンチャッテ女子高生はニヤリと笑った。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
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やくもあやかし物語2・027『御息所のおりいった話・2』

2024-01-29 10:17:37 | カントリーロード
くもやかし物語 2
027『御息所のおりいった話・2』 




 じつは……


 と、少し顔を上げて本題に入る御息所。

 顔を上げると小じわもほうれい線も目立たなくなる。

「去年、二丁目断層がやってきたことがあったでしょ?」

「え、あ、わたしに化けて来た」

「はい、ほんとうはまっくろくろすけなんですけどね」

 二丁目断層というのは、家と学校の間の坂道。一丁目の家から三丁目の学校に行く間に坂道があって、昔々に、断層がズレて坂道になった。
 その断層じしんが妖で、ふだんはまっくろくろすけ。

 その二丁目断層が、わたしに化けて会いに来たことがある(やくもあやかし物語・143『お客は二丁目断層』)。

「チカコの話とかしに来たんだよね」

 そうだ、あれから色んなところに行って、みんな収まるところに収まって、気が付いたらうちの妖たちはわたしの部屋から卒業していったんだよ。チカコももとの親子(ちかこ)、すなわち和宮内親王になって家茂さんと再会してうちを出て行ったんだ。

「あれは、全部やくも、あなたの力があったからできたことなんですよ」

「え、そうなの?」

 いろいろ走り回っていろんな目に遭ったけど、じぶんがやったって自覚はない。なんというか、災難に巻き込まれた感じだったしね。

「やくもの胸には大きなタマが宿っているんです、ソウルとも言います」

 ソウル……デラシネもそんなこと言ってたなぁ。

「ところが、そのタマを実際の力にするためのタマノオが未熟」

「み、みじゅくぅ(;'∀')」

「ところが、やくもの家族は、タマは弱くて小さいんだけども、タマノオは十分以上に持っているんです。まあ、言ってみればデバイスやバッテリーが無いのにケーブルだけがいっぱいあるみたいな」

 ああ、ケーブルって、本体がダメになっても捨てられないよね。

「方や、やくものタマにはタマノオが無い。それで、密かに家族のタマノオをやくもの胸に移植したのです」

「え、ええ!?」

「静かに、ルームメイトが起きてしまいます」

「あ、あ、ごめん(^△^;)」

「だからこそ、チカコもみんなも有るべきところに収まったんですよ」

「そ、そうなんだ……」

「そこで、こんどはデラシネを助けてやって欲しいのです」

「デラシネを……」

「デラシネは森の王の血筋なのです」

「森の王?」

 森の王といえばティターニア、いやオーベロン?

「本来ならばあの子の家系が王の血筋なのですが、さまざまな経緯があって、本来は傍系であったティターニアの家系が王位を継いでいるのです」

「それって……」

 日本での思い出がよみがえる。

 いろんなイザコザに巻き込まれたけど、たとえ妖でも、やっつけたりぶちのめしたりというのは、ちょっとコリゴリなんだよ。

「ぶちのめす的なことでは解決しないと思いますよ」

「え、じゃあ、どうすれば……」

「軽々とは言えません……というか、分かりません」

「そんなぁ」

「ちょっと失礼します……」

「ムグ!?」

 御息所の手が胸の中に入ってきた!

 痛みとかは無いんだけども、ゲームのバグみたい気持ちが悪い。

「よいしょっと……よし、学校関係者にデラシネのことは見えないようにしておきましたから。やくもの周囲一キロ以内では気づかれません。必要なら森の住人からも見えなくできますが、トラブルのもとになりそう……まあ、慣れれば、やくもが自分で操作してくださいな」

「ええ、わたし任せなのぉ!?」

「大事なことは、デラシネに根を下ろす場所を見つけてやることでしょうねえ……あ、そろそろルームメイトがお目覚めになりそう」

 え?

 チラッとネルのベッドに目をやると、ネルはまだ静かに寝息を立てている。

 ハッと思って向きなおったら、もう御息所の姿は無かったよ。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第65話《够朋友gòu péngyou》

2024-01-29 06:32:52 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第65話《够朋友gòu péngyou》さつき 





「够朋友(gòu péngyou)」


 二人の女にトイレから連れ出されると、別の二人の女子高生が声をかけてきた。
 
 最初の二人の女は、うろんな顔した。

――確保しろ!――

 小さな声がした。

 脇の死角から四人のOL風やら学生風やらが現れて、あっという間に二人の女を掴まえた。二人の女子高生は女二人の口に錠剤のようなものを放り込んで、二人の女は、口から泡を吹きだして、ぐったりとした。

「脱水症やわ、救急車呼んでぇ!」

 女二人を確保した一人が、そう言うとあたしは、いっしょに地上に運ばれた。

 大阪の救急隊って手回しいい……ぼんやりした頭で、そう思った。救急車に赤いラインも赤色灯も無いことも不思議にも思わなかった。

 救急車は、そのまま走り出した。女二人は車の中で手錠をはめられそうになったが、リーダーと思われる男が制止した。

「持ち物を調べろ」

「外交官のパスを持ってます」

「じゃ、やっぱり二人は脱水症だ。B地点に救急車。スマホのデータはコピーしとけ」

 しばらくすると、本物の救急車と出くわし、二人の女は救急患者として救急車に乗せられて行ってしまった。

「あの二人はC国の工作員。ただ外交官の資格をもってるので、これ以上の拘束ができないの。さつきさんは、このままS駐屯地に送らせてもらうわね」

 サブリーダーと思われる女性が、そう言った。

「さっきの女子高生は、なんと言ったんですか?」

 やっと、質問する余裕がでてきた。

「够朋友、ゴーパンヨー。『友だち甲斐があるわね』 おかげで気付かれずに、あの二人の脇にまわれた」

「なんで、高校生の女の子が?」

「ハハ、ああ見えてもあたしの先輩。当然年上だけど」


 S駐屯地に着くと、簡素で小振りな隊舎に連れて行かれた。


「途中大変な目に遭われたようですね。警備が後手になって申し訳ない」

 一佐の階級章を付けたオジサンが頭を下げた。

「これって、どういうことなんでしょう?」

「全部話してあげた方がいいでしょう。予想外の展開になってきましたから」

 司令の札が付いたデスクに座っている別の一佐が、優しく言った。

「佐倉さつきさん。あなたを日本によこしたのは大学じゃないんです。陸上自衛隊です」

 理解ができなかった。兄の惣一は自衛隊でも海上自衛隊。陸上はエールフランスの飛行機でスペクタクルをいっしょに体験したクロウドと小林一佐がいるだけだ。二人とも、あれ以来会ってもいない。

「さくらさん、あなた、エールフランスの事故以来、ときどきクロウド三曹と小林一佐のことが頭に浮かぶようになったでしょう?」

「あ、はい……」

 顔が赤くなってきた。

「あの事故では、クロウド君が操縦し、さくらさんと小林一佐が、それを見守った。そして、クロウド君は初めての操縦ながら無事に機体を空港に着陸させた」

「はい、大したものだと思いました。お父さんのシミュレーターで経験はあったみたいですが、あんなに無事にいけるとは思わなかったです。あたしは、ただ彼の肩に手を載せて無事を祈っていただけです」

「それなんですよ。あの危機を三人で乗り切ったことで、さつきさんはクロウド君と心が通じるようになってしまったんです。一種のテレパシーです」

「え、そうなんですか!?」

 驚きの中に、かすかに喜びが混じっていることにうろたえた。

「動揺されるのも無理はない。ただ、わたしたちは困っています」

「え……」

「クロウド・レオタール君は、四ヵ国語に通じ電子機器についても詳しいやつで、専門的な通訳としては実に頼りになります。もうお分かりかと思うんですが、彼はその職責上、機密に触れることが多い」

「はい……」

「それが、あなたの頭の中にも入ってくるんです」

「え、そんな自覚ありません。時々クロウド君のことが頭に浮かんでくるのは確かですけど」

「さつきさん。あなたの頭脳はハッキングされているんです」

 え、ええ…………!?

 あたしは声も出なかった……。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第64話《それからの異変》

2024-01-28 08:42:30 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第64話《それからの異変》さつき 




 また、彼の声が聞こえてきた。


 急いで意識をブロックした。

 幸いはるかちゃんとも別れ、梅田の地下街を歩いていたところなので、誰にも気付かれはしなかった。

 彼とはClaude Leotardのこと。

 日本人の母とフランス人の父を持ちながら自衛隊の兵隊さんをやっているという面白いやつ。渋谷で彼が運転する車に跳ねられてからの付き合い。

 事故そのものはあたしの不注意によるものなんだけど、クロウドは上司と共にお詫びの記者会見までやらされた。兄の惣一が海上自衛隊なので、自衛隊の置かれた立場は分かっているつもりだったけど、あらためて、その厳しさを実感した。

 そして、留学先のクレルモンへの機内で、上司の通訳としてフランスへ行く途中のクロウドと同じになった。

 偶然の再会にびっくりするやら驚くやら。

 乗っていた飛行機のトラブルで、クロウドは二百人余りが乗ったジェット機の操縦をするハメになった。クロウドの父はフランス空軍のパイロットで、クロウドも子どものころから、パソコンのシミュレーターで一通りの操縦をマスターしていたんだ。
 しかし、本物のジェット機の操縦は初めてで、上司とあたしが付き添って、なんとか、この試練を乗り越えた。

 それから異変が起こるようになった。

 時々クロウドの思念が飛び込んでくるようになったのだ。

 最初はイメージだった。ホテルのベッドで高熱を出して寝込んでいるクロウドの姿が浮かび、ついには自分自身も発熱し息苦しくなってきた。

 心配になってホテルに電話して、クロウドの安否を確認してもらった。クロウドはジェット機を操縦したストレスで熱を出していた。
 クロウドは病院に連れて行かれて事なきを得たんだけど、びっくりした。

 わたしはクロウドの泊まっているホテルの名前さえ知らなかったんだよ(;'∀')!


 病院に見舞いに行って、クロウドと話しているうちに、その不思議に気付いた。

 一瞬運命の糸などと思いかけたけど(^_^;)、ちょっと違う。

 なぜならね、一緒にいたクロウドの上官小林一佐の想念も飛び込んでくるようになった! 
 クロウドならともかく、オッサンの小林一佐に、そういう感情をもつことはあり得ない!

 あ、クロウドにそう言う気持ちがあるってことじゃないからね。

 小林一佐は、どうやら、それに気付いたようで、彼の思念は、ほんの希にしか感じなくなっていた。でも、クロウドの思念はしょっちゅうだ。今もヘマをやらかして凹んでいる姿が飛び込んできた。

――凹むんじゃないわよ、ヘマをやるのは仕事をやっている証拠!――

 そうメールを打っておいた。クロウドとは、いいメルトモになったのだ。


 大学からは、留学二カ月目で日本での資料収集を指示された。


 多少の戸惑いはあったけど、教室の顔ぶれをみれば「ありうる」と納得した。
 最初に言われた目的地が大阪で、関空から直行した大阪駅で妹さくらのロケに出くわした。

 大阪だから川端康成、織田作之助、司馬遼太郎、今東光、藤本義一などの名前が浮かんだけど、目的地は自衛隊のS駐屯地だった。最初は意外に思ったけどS駐屯地は敷地も広く、古墳などの遺跡や史跡が駐屯地内にある。で、実際そういうもののリストも大学から渡されている。


 それは突然だった。


 地下街のトイレに入ったところ、急に若い女にスプレーを吹きかけられた。一瞬の差で顔を背けたけど少し吸い込んでしまい、クラクラした。

「ちょっと、陽子大丈夫?」

 え?

 スプレーを吹きかけた本人から声を掛けられた。

――こんな女知らない!――

 声が出なかった、もう一人若い女が入ってきて、まるで友だち二人で具合の悪いあたしを介抱するように連れ出そうとした。

――だ、だれか助けて!――


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド           Claude Leotard  陸自隊員 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・076『メッチャ寒いのに屋上の大掃除』

2024-01-27 11:59:19 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
076『メッチャ寒いのに屋上の大掃除』   





 今日は大掃除。


 令和の今日は土曜日で学校は休み。

 戻り橋を渡ると昭和46年1月27日の水曜日。

 水曜日だから、とうぜん学校はあるんだけど、令和が土日の日に学校へいくのは、ちょっと凹む。

 特に今は真冬だよ。こればっかりは令和でも昭和でも変わらない。

 で、昭和の真冬は令和よりも寒い。令和は2℃だったけど昭和は-2℃!

 水たまりに氷張ってるし!

 パリン バリバリ

 集団登校の小学生が氷を踏みしだいていく。

 ツルン!

 小さいのが滑りそうになって、前の高学年にしがみつく。

 ヨッと助け起こすんだけど、パコンと一発はり倒す。

 イッテェ!

 小さいのがプータレて、みんなが笑う。
 
 小さいのは笑った子をヘッドロック。みんなは構わずに先に行く。

 狭い歩道で遊ぶな!

 仕方なく追い越すと、追い越し際に「いい匂いぃ」と言いやがる。

 で、今度は追い越されて、追い越し際にクンカクンカして行きやがる!

 なんかニヤニヤしながら集団に戻ると、またシバカレて、年長の女の子が振り返ってペコリと頭を下げてくれる。

 昭和のガキは野生児だ。


 やっと、ストーブの周囲が暖まって予鈴が鳴る。

 このチャイムの音だけは令和と変わりがない。

「4時間目は書いてある通り大掃除です、受け持ち場所を貼っておくので、各自確認して持ち場に行ってくださいね」

 保健委員の佳奈子が不貞腐れたような顔で念押し。

 こういうことは生徒任せにしないで、ちゃんと朝礼とかやって先生が言うべきだ。

 女子たちが掲示板のプリントを確認しにいく。

「ええ!?」

 なんと、うちらは本館屋上と外階段だよ!

「ああ……二学期までは3年生の担当だったんだぁ」

 首一つ高いたみ子が確認して溜息をついた。


 おお寒っ(((;"°;ω°;)) !!

 
 お仲間四人で震えあがる。

 寒さを我慢したら屋上なんて楽勝と思っていた。

 さっさと終わって学食でうどんでも食べよう。

 ゲ

 屋上は案に相違してババッチイ!

 枯れ葉や鳥の羽やら埃やらが隅っこに溜まりまくって、排水溝の半分を隠してしまっている。溜まった雨水は氷になってるし、やってらんねえ!

「しばらく掃除なんてやってないわねえ」

 真知子が腕を組んで、あたしたちは立ち尽くしてしまう。

 三年生は一度も掃除なんかやってなかったんだ。

 学生紛争が吹き荒れた明くる年だから、先生たちも腰が引けてるんだろうけど、ちょっとあんまり。

「ゴミ袋足りませんねえ……」

 みんなえらい、投げ出して帰ろうという選択肢はないんだ(^_^;)

「西側がひどいようだから、あっちからやろう」

 佳奈子が箒を突き出して、タラタラと向かう。

 
 ウ!


 階段室を挟んだ西側はいっそうひどかった。

 自然に溜まったゴミだけじゃなくて、スプレー缶やらタオルやら汚いTシャツやら溶けかかったティッシュやら。
 壁には『造反有理』とか『打倒帝国主義』とか東京都のマークみたいなとか、これだけは鮮やかに残ってる。

 ちょっと気後れして外を覗くと、眼下には――今のうちに――という感じで足早に学校を出ていく先生たちがチラホラ、期待を裏切らずに現国の杉野先生も。

「お、10円おと……加藤君がいますよぉ!」

 ロコが10円男を発見。

「「「「加藤クーーン!!」」」」

 みんなで呼ばわってゴミ袋を持ってこさせて、速攻でやっつけた。


 今日のことは、生徒会で提起すると、真知子が拳を上げた。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第63話《海老の尻尾とバッテリー》

2024-01-27 09:44:52 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第63話《海老の尻尾とバッテリー》さつき 




「さつきさんでしょ?」


 なんと、はるかさんから声がかかった……。

 そして、駅ビルのばけ天で天ぷらのコースをゴチになった。

「大阪の食べ物は、たいがい好きなんですけどね。どうも天ぷらは東京風でないと、食べた気がしないの」

 これは同感。クレルモンにいたとき、同じ寮の日本の子が天ぷらパーティーを開いてくれたが、関西風のサラダオイルで揚げたナマッチロイ天ぷらだったので、ちょっとショックだった。
 天ぷらと言えば、ゴマ油で揚げた香しいものだと子どもの頃から思っていた。

「何カ月ぶりだろ、東京の天ぷらなんて」

「ばけ天もね、他のお店じゃ、関西風にサラダオイル混ぜてるんだけどね、この大阪一号店だけ、東京の味のままなの」

 バリバリ

 はるかさんは、そう言ってエビ天を尻尾の先まで食べた。これも同じ習慣なんで嬉しかった。

「エビ天て、尻尾においしさが凝縮されてるんですよね」

「そうよね、残す人多いけど。本当の美味しさって、人が気づかないとこに隠れてるのよね」

「はるかさんみたいに?」

「ねえ、その敬語はやめない? 同い年なんだしさ」

「え、年上かと思ってた( ゜Д゜)!」

「ええぇ( ゜Д゜)!?」

「え、あ、いや……オーラというか、しっかりしてるし、大人びた印象がぁ……(^_^;)」

「あ、ああ……そうねぇ」

 あたしは、役者のオーラについて聞いてみた。

「オーラは、誰にだってあるわ。言ってみれば、その人の職業やら境遇からくるものでしょ。ただ、あたしたちの仕事って、人に夢を売る仕事だから特別に見えるんじゃないかな。さつきちゃんだって、特別なオーラするよ」

「どんな?」

「う~~ん……簡単にはオーラなんか発しませんよぉ的な?」

「プ、なにそれぇ?」

「フル充電したバッテリーみたい……な?」

「え、そんなの分かるの?」

「あ、特技なの。うちのお母さん、リモコンの電池入れ替える時に混ぜこぜにしちゃって新旧が分からなくなっちゃう人なんだけど、わたし、パッと見て分かっちゃう」

「え、超能力っぽい!」

「それでもお母さんはリモコンに入れて再確認するんだけどね」

「ハハ……あ、うちとそっち、お母さん同士知り合いだったよね?」

「そうそう! さくら訪ねてお邪魔した時分かってビックリした!」

「お母さん見直したよぉ、坂東友子のお仲間なら立派な作家だって」

「うちこそ『お母さん釈迦堂一葉(お母さんのペンネーム)の後輩なんだ!』って、そーそー、駆け出しの頃に一葉さんと撮ったって写真見せてくれたんだよ……あれ?」

 はるかちゃんのスマホは電池切れ。

「ヘッヘー、こういう時の為に……」

 バッグからモバイルバッテリーを取り出すはるかちゃん。

「……あ、あはは、こっちも切れてるし(^_^;)」

 アハハハハ(ᵔᗜᵔ*) (ᵔᗜᵔ*) !


 二人で笑って、最後のえび天を尻尾の先までバリバリ食べた。


 
☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 


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魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 小悪魔だけどな(≧ヘ≦)!6『ダークサイドストーリー・2』

2024-01-26 14:06:19 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 悪魔だけどな(≧ヘ≦)!

6『ダークサイドストーリー・2』 
 
 本作は旧作『小悪魔マユ』を改作したものです





 突然時間が止まった( ゚Д゚)。


 チョークを拾い集めている片岡先生も、それを手伝っていた生徒のやつらも、中腰や屈み込んだ姿勢のまま停まってしまった。窓から見える飛行機も空中で止まってやがるし。

「これ、あんたが……?」

「おめえじゃねえのか……?」

「あんたのほうが、一瞬早かったようだけど」

「……良く見ろ、あの飛行機!」

 マユは、窓から見える飛行機を指差したぞ。

「え……ああ」

 利恵も分かったようだ。飛行機は少しブレた写真みたく、かすかに二重になってやがる。

「どうやら、同時に時間を止めてしまったみてえだ。0.01秒マユの方が早かったみたいだけどな」

「みたいね、飛行機のブレてる頭は、ダークサイド色してるもの」

「戻すの大変だなぁ……タイミング合わせねぇと、ブレたままの飛行機がブレたままの飛行場に着陸することになんぞ」

「それって、きっと大事故になる(;'∀')」

「海の向こうじゃ、自由の女神とかが双子になってるかも(;'△')」

「やばいよ……」

「やばいぜ……」
 
 ちょっと説明がいる。

 時間を止める力は天使にも悪魔にもある。複数の天使や悪魔が時間を止めた場合、力の強い方の効果が出るんで、普通はブレるようなことはねえ。

 だけどな、ごくごく、ご~~っく希に、力が同等であった場合、そして時間を止めたタイミングが0.01秒以下であった場合、時間がダブって止まってしまう。それは距離に比例して地球の裏側では、200メートルぐらいのブレになっちまう。
 大昔、若かったころのサタン爺ちゃんとミカエルが戦ったとき、これをやらかしやがった。その時は太陽がダブってしまったらしい。世界各地の神話や言い伝えに「太陽が二つになった」というのがあるのがそれだってよ。

 つまり、落第悪魔のマユと、落第天使の利恵は天地創造以来初の事故をやらかしてしまったみてえだぜ。

「早く修正しないと、またエライサンに大目玉だわよ……」

「ウ……こないだ、校長先生の髪の毛事件やらかしたとこだもんな……」


 二人は、イヤイヤながら手を繋いだぞ。そうしなければ、同時に時間を再起動できねえからだ。


「好きで、手を繋ぐわけじゃないんだからね……」

「あったりまえじゃん!」

「じゃ、いくよ……」

「おお……」

「「3、2、1……GO!!!!」」

 二人の落第生は、目をつぶって互いの神経をシンクロさせて気合いをかけたぜ。


「あんたたちぃ……なにしてんの?」


 階段を降りてきた知井子が不思議そうに聞いた。

 気がつくと、片岡先生も、チョークを拾い集めていた生徒達も、とっくにいなくなっていたぜ。

「な、なんでもないわよ!」

「そ、そう、なんでもねえから!」

 二人は、慌てて手を放したぜ。

 次の便だろうか、空を行く飛行機は無事にダブってはいなかったぜ。


 水道で手を洗いながら、マユは思った。


――あいつの心、意外なほどあたしに似てたかもな――


 手洗いの鏡に写る自分の顔が、落第天使のそれとダブって見えた。

「……あ、あり得ねえ!」

 ピシャリ!!

 自分の頬を叩いて、マユは手洗いをすませたぞ。

 同じ頃、もう一階上の手洗いで、雅部利恵もゴシゴシ手を洗ってやがった……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生 





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銀河太平記・201『え、あ、ちょ(#'∀'#)』

2024-01-26 11:24:46 | 小説4
・201
『え、あ、ちょ(#'∀'#)』メグミ 




 わたしが言うのもなんだけど。


 人間にしろロボットにしろ、コロコロあるいはコロッと外見を変えてしまうのはいかがなものか。

 そう思うよ、この漢明の大統領を見ていると。

 元は大統領の秘書兼ガードであった王春華のボディーにPI(パーフェクトインストール)したので、外見は女性だ。
 それも、サロペットにバッシュなんか履いてるものだから、王春華だったころよりも小柄なツィンテールの少女に化けおおせている。

 連絡を受けて、島の主だったエライさんが食堂前に集合した。

「メグも並んで」

 殿下(氷室社長)に言われて、その一番端っこに立っている。

 殿下から始まって、及川市長、市会議長のマヌエリト、義勇兵部隊の幹部、そしてラボの責任者のわたしがケツにくっついている。他にも島のエライさんで相応しい者がいるんだろうけど、急な訪問なので取りあえず間に合う者を集めた感じ。

「こないだは、心ならず戦うことになってしまいましたが、みなさんの戦いぶりには感心していました」

 握手に差し出した手を両手でくるむように挨拶された義勇兵部隊の幹部は、マジで感動している。大統領は幹部の息子が初戦で戦死したことをちゃんと知っている。また、その息子が親友の息子を引き取った義理の関係であることも承知していて「うちの胡盛媛中尉も同じでした」と言ってフーちゃんを呼んで握手させたり、当意即妙に状況を演出する。

 根っからのナバホインディアンであるマヌエリトさえも驚きの色を目に浮かべている。

「ナバホインディアンはみな戦士、戦士は平等、平等に戦う、平等に互いを気遣う。しかし、劉宏大統領のように完ぺき、できない。こんな小さな少女できてる、感動だ(-_-;)」

 みんなあ、こいつの正体は身の丈190はあろうかというマッチョ将軍なんだぞぉ!

「あ、メグミさんね!」

 ク、テンション上げてきやがった(;'∀')

「はい、あの……」

「知っています、元は天狗党の……でも、今はしっかりとラボの所長で、島の金融界のドンでいらっしゃる!」

「いやぁ、ドンでもないですぅ」

「まあ『ドンでも』だなんて、洒落ていらっしゃる!」

「アハハ、緊張してカンだだけです(^_^;)」

「あのう、うちの連絡員たちの口座を作っていただけないでしょうか?」

「え?」

「連絡員たちの給与や手当、恥ずかしながら漢明の金融を通すとまともには届かないこともあるんです。届いても、すごく時間がかかったりで。西之島銀行は本土の金融からも独立していて信用も高いです。休戦状態とは云え敵同士、無理なお願いだとは思うんですけど、所員の中には実家に仕送りしている者もおります。お願いできませんか?」

「え、ああ……」

 完全に意表を突かれ、殿下たち島のエライさんたちに目配せ。

 みんな、とっくに劉宏にホダされて、速攻でOKが出る。

「はい、あとで頭取に言っておきます」

「うわあ、ありがとう!」

「え、あ、ちょ(#'∀'#)」

 ベッチョリ、ハグされてひたすらオタオタ。

 日漢双方から暖かい笑い声が起こる。

 
 それから、島の人間と漢明連絡所のメンバー、劉宏大統領も加わり、神社裏の岩場で釣り大会。一時間足らずでみんなの魚籠は一杯になって、そのままお岩食堂でさばいてもらい、煮たり焼いたり刺身にしたり、それをみんなで頂いた後は、入江にフロートを浮かべて日漢大ドンケツ大会。

 その間、大統領のオイドは島のみんなに公開され、そのレトロな乗り物を楽しんだり、分解したがったシゲ老人を押しとどめたり、楽しく一日を過ごしてしまった。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 

 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第62話《眩しいよ、さくら・2》

2024-01-26 06:39:46 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第62話《眩しいよ、さくら・2》さつき 





 満開の笑顔のまま、さくらが毒づいた。


「嘘は、もっとうまくつかなきゃ(^▽^)」

「え……分かっちゃった?」

「十七年姉妹やってんだよ。それにお姉ちゃんウソ下手すぎ。ウソ言う前に目線が逃げるんだもん。これからウソつきますって言ってるようなもんだよ」

 そう、あたしは子どもの頃からウソは苦手。だから、あまりウソはついたことがない。バレるから言わないだけなんだけど、おかげで「正直者のさつきちゃん」で通ってきた。

「正直言うと、あたしにもよく分からない。大学から、突然日本での資料収集言われたの。ほんとだよ」

「……それは本当っぽいけど、なにそれ、自分でもよく分かんないって?」

 ルームサービスのコーヒーとフレンチパンケーキが来るまで、妹の質問攻めにあった。

 でも、知らないことは話せない。あたし自身半分は分からないままで日本に帰ってきた。

 で、分かっている残り半分も話せない。

 とても信じられない話だから。

「ま、いいや。なんだか言えないようなことに巻き込まれてるような気がするけど。自分でも良く分かんないんじゃね。それに家族にも内緒じゃねぇ」

「一つだけ言っとく。行きの飛行機が墜ちそうになったことは知ってるよね?」

「うんうん。偶然いっしょに乗っていた自衛隊のニイチャンが、見よう見まねで操縦したって。で、上官のオジサンとお姉ちゃんが、コクピットで立ち会ったんでしょ?」

「あれから、少しおかしいんだ」

「ハハ、そのカレにホの字なのかなあ~?」

「そんなんじゃないわよ」

「どうだろうね、あれ『オペレーション コイビト』とかってマスコミは言ってたよ」

「あれは、いっしょにいた海兵隊のオジサンが適当に言ったのが、マスコミ受けしただけだよ」

「ま、そういうことにしとこう。オネエはやっぱ日本に居たほうがいいってのが、あたしの意見で、それが多少の謎があっても実現したんだから。良しとしとくよ」

 ちょうど、フレンチパンケーキを食べ終わって、さくらは結論づけた。さくらは子どもの頃から、好きなものを食べると、あとはどうでもいいってとこがあるオメデタイやつだ。ま、それにかこつけて話題を切り上げたのかも知れないけど。

「ね、あたしの出番はおわったけど、はるかさんの撮影残ってんの。見ていく?」

「うんうん!」


 やっとミーハー姉妹に戻れた。


 坂東はるかという女優さんは、やはりオーラが違った。

 連絡橋で吉川裕也というモトカレに出くわすシーンと、コーヒーショップで、裕也と話すシーンを見学した。
『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』という本の発売に続いて上演される、はるかさん自身の自伝的な映画だ。
 だから演っている演技は自分自身という特別な映画。映画会社やプロダクションが、彼女にかけている期待の大きさが窺える。

 撮影中も合間を縫ってはマスコミが出演者のVや写真を撮っている。で、撮られてる方は、ほとんど意識もしていないけど、自分が一番素敵に見えるスガタカタチになっている。むろん、我が妹さくらも。

 眩しいよ、さくら……。

「さつきさんでしょ? さくらのお姉さん?」

 撮影後、なんと、はるかさんの方から声がかかった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
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RE・かの世界この世界:226『黄泉の国決戦・1』

2024-01-25 06:56:47 | 時かける少女
RE・
226『黄泉の国決戦・1』テル 




 タングニョーストは!?


「見てきます!」

「「「タングリス!」」」

 止める間もあらばこそ、タングリスは猟犬のような俊敏さで玄室に戻っていく!

 グァラグァラ……ウォォォ……

 ついさっき塞いだばかりの羨道の閊えが崩される音、鬼どもの雄たけびが同時に上がる!

 ただの鬼ではない、女神イザナミの怒りと恨みが籠った女鬼、黄泉醜女なのだ。現世(うつしよ)の常識では測り知れない力がある!

「間に合わない!」
 
 グギ

 さすがにヒルデも歯ぎしり一つして、イザナギさんを庇いながら後退する。その後ろを警戒しつつ、わたしも坑道を走る!

 ズガ! ビシ! ベシ! ドゴ! ベシビシ! ズサ! ビシビシビシ!

 ひしゃぎ、ぶちのめし、ぶっさし、蹴り倒すくぐもった音がすぐそこまで迫って来る!

「急げ!」

 もはやタングリスもやられたか!?

 ヒルデと二人、イザナギさんを挟むようにして後退する!

 シュ! シュシュ! シュシュシュ!

 鋭い音が後ろからしたと思うと、すぐ横や上を通って矢とイシツブテが鬼たちに飛んでいく!

「あれは!?」

 振り返ると中継隊の三人(与一、ケイト、桃太郎二号)が岩陰から弓と石ツブテで応戦してくれている。

「早く!」「こっち!」

 ケイトと桃太郎二号が手招きし、こちらも「オウ!」と返して岩陰に転がり込み、息つく暇もなく石ツブテで応戦する。

 シュシュシュシュシュ! シュシュシュシュシュ! シュシュシュシュシュ!

 与一さんの弓は神がかってきて、一度に五本の矢をつがえては射ちだす! それも毎秒三射! そして、箙の矢は射てども射てども尽きることがない。

 ケイトも負けじと同時に三射! 桃太郎二号の石ツブテも両手を水車のように回して二連装の機関銃のようだ。

 と……鬼どもの背後の方でも、鬼の首やら腕やらが千切れ飛んで攻撃を加えている様子!

 どけぇ! 鬼ども! 醜女ども!

 そう叫びながら飛び出してきたのはタングリス! 全身血まみれで小脇に軍服の切れはしで包んだものを持っている。

「タングリス、こっち!」

 桃太郎二号が呼ばわると、丸めた体を空中で二回転させ、その手を掴んで岩陰に収容!

「敵は怯んでいる、もうひと頑張り!」

 与一さんが叫んで、戻ったばかりのタングリスも加わって迎撃の密度を上げる!

 シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ……!

 合わせて五人の弓と石ツブテが切れまなく鬼どもに降り注ぎ、さしもの鬼ども醜女どもも退き始めた。

「タングリス、よく戻った!」

 ヒルデがガッシとタングリスを抱きしめる。

 昔はタングリスの方が一回り大きかったが、蘇ったタングリスは小柄なJKほどの体格。やっとゴールにたどり着いた後輩を先輩が労わっているように見える。

「タングリス、ちょっと若くなってる(^_^;)」

 ケイトも昔よりは思いやりのある言い方ができるようになったようだ。

「あ、えと……(#*´△`*#)」

 桃太郎二号は、初対面のタングリスに顔赤くして言葉にならない。

「タングニョーストを取り返してきました……」

 え?

 みんな言葉を飲んだ。

 タングリスが差し出したのは、軍服の切れはしに包んだ小さな包み。

「これは……」

「かろうじて、わずかの骨と皮の半分ほどを……」

 ええ!

 あまりの壮絶さに全員身を引いてしまったが、俯くタングリスをヒルデは優しく労った。

「よくやった、よくやった……これだけあれば、時間はかかるだろうが、いつかは元に戻るだろう。大事に持ってやっていてくれ」

「はい、タングリス、この命に代えても!」

「あたしの背嚢使って」
 
「ありがとう、ケイト」

「よかったら、俺のキビダンゴも入れてやってくれ。さっき間違えて投げたら死にかけの鬼が蘇っちまったから。たぶん、効き目があるよ」

「すまん。桃太郎というのはお前だったか」

「う、うん、二号だけどな(^_^;)」

「二号とは縁起のいい名前だ。タングニョーストと乗っていた戦車が二号だった」

「ああ、狭いけど楽しい戦車だったなぁ」

 ケイトも懐かしく思い出す。

「わたしは、那須の住人で那須与一宗隆と言います」

「ああ、よろしく。背嚢の中で意識はあったから、みんな声に覚えがある。初対面という気がしない」

「そうか、それは良か……」

 言い切る前にヒルデが耳をそばだてた。

 すぐにみんなも気が付いた。

 ドドドドドドドドド!

 前に倍する勢いで敵が攻め上ってくる……!!

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第61話《眩しいよ、さくら・1》

2024-01-25 06:49:52 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第61話《眩しいよ、さくら・1》さつき 




 関空快速を降りて三階吹き抜けの乗り換え通路を歩いていると妹のさくらを見かけた。


 驚いた。

 さくらはただの通行人なんかじゃない。周りを沢山のスタッフやカメラに囲まれてロケの最中だった。

 さくらは、あたしがフランスに行く前からマスコミの仕事をしていた。しかし、女子高生がエキストラに毛の生えたようことを始めた程度の認識しかなかった。
 それが、相手役の勝呂勝也とカメラにフォローされながら歩いている姿は、もう立派な女優だ。

 ツーテイク撮る間、あたしは身動きできずに、ずっと妹を見続けていた。


「お姉ちゃん、どうしたのよ!?」


 乗り換えのアナウンスがあって、そろそろと思ったら、さくらが衣装の女子高生姿で駆けてきた。

「あ、ああ。乗り換えで通りかかったら、撮影現場にでくわしちゃって。ビックリしちゃった」

「ビックリは、こっちよ。フランスにいるはずじゃないの!?」

「あ、ちょっと事情があって……」

「あ、ちょっと待ってて。あたしのテイクは終わっちゃったから、マネージャに言って場所確保してもらう」


 五分ほどすると、さくらは上着をひっかけて「こっち」と、あたしに目配せをした。


「ロケで泊まる部屋だから、気楽にしてね。ルームサービス、コーヒーでいいよね?」

「あ、ついでに何か食べたいな」

「だろうと思ってフレンチパンケーキ付けといた」

「アハ、持つべきものは妹だ」

「で、どうしてクレルモンに居るはずのお姉ちゃんが、あたしのロケ見に来るわけ?」

 あたしは、ゆっくりと窓の外を見た。ざっと目に入るだけでも三万人ぐらいの人が歩いたり、早足だったり、人待ち顔で立っていたり、交差点を横断したり、地下街に飲み込まれていったり。この人たちは、ほんの偶然で、大阪駅の北側、ヨドバシカメラの前を行き来している。で、99・9999%なんの関係もなくすれ違っていく。

 あたしは、クレルモンまで行って、交通事故に遭ったようなものだった。

「え、また交通事故に遭ったの?」

 さくらがスカタンを言う。

「違うよ。川端康成とか司馬遼太郎とか、大阪に関係ある作家のこと調べに戻ってきたのよ」

「え……ワケ分かんないよ。そんなのをわざわざ大阪に調べるためにクレルモンから来る?」

「という名目」

「で、本当のところは?」

 こういう時の目の輝かし方は、わが妹ながらチャーミングになったと思う。やっぱり人に見られる仕事というのは大したものだ。

「アラブの大富豪に追いかけ回されてるって言ったら、どんな顔する?」

「え!?……こんな顔」

 さくらは、文字通り桜一輪満開になったような顔になった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
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くノ一その一今のうち・95『等々力渓谷』

2024-01-24 13:52:16 | 小説3
くノ一その一今のうち
95『等々力渓谷』そのいち 




 え……卒業?


「うん、三年生は先週で授業が終わって、あとは卒業式だけだからな」

 嫁持ちさんが、わたしの姿形で言う。

「明日は学年末テストの最終日だけど、自分で行くか?」

「そ、それは……」

 三年生になってからは半分も学校に行けてないし、定期考査は一度も受けていない。
 それが、学年末テストの最終日のテスト受けて何になる!
 忍びの術は格段に上がったけど、学校の勉強はサッパリ。

 任務に就いている間は、主に嫁持ちさんがわたしに化けて学校に行ってくれていた。
 正直クラスメートともほとんど付き合いもない。クラスメートで一番喋ったのは、交換留学生の触れ込みで学校に潜り込んでいたランツクネヒト(傭兵)のミッヒなんだから話にならない。

 で、嫁持ちさんが高校生活最後のテストを受けに行って、わたしのJK生活は幕を閉じた。

 わたしの青春を返せぇ!

 叫べるほど思い入れはないし、致し方ない(-_-;)


「吠えよ剣の続投決まったよ!」

 撮影所に行くと、まあやが目を輝かせて飛びついてきた。

「え?」

 こっちも百地組の先輩たちがわたしに化けて付き人兼キャストをやってくれていたのでノープロブレムなんだけど、まあやの様子が、ちょっと変。

 なんだか、めちゃくちゃ懐かしそうだし、ドラマの続投なら先輩たちが聞いているから風魔そのとしては知っているはず(わたしは聞いていなかったけどね)。それが、初めてッぽく、かつメチャクチャ懐かしそうに言うのは変だ。

「あ……もう気が付いてたよわたし」

「え?」

「百地社長が化けてたのは、ちょっと不自然だったしぃ……でね『本物はどこですか?』って聞いたら、ぜんぶ教えてくれた」

「え、ええ! そうなのぉ!?」

「でもでも、撮影所の人たちは誰も知らないからね、その点は大丈夫。三村さんだって知らなかったからねえ」

 アハハ……作者の三村紘一こそは服部半三って実は課長代理の親玉だからねえ……言わないけど。

「でねでね、千葉さなは明治になっても生きてたからね、明治編で続くんだって!」

 取りあえずは、飯の種には困ら無さそうなので一安心。


「明日からは等々力勤務だ」

 その親玉に命じられた。

「等々力は等々力百人同心の本拠地だ、心して働け」

「え、えと、等々力のどこに行けばいいんでしょうか?」

「東急等々力駅下車、西へすぐの等々力渓谷。そこにある甘味処だ、百地が徳川の姓を許されて以来、その甘味処、昔は茶屋だったが、そこが百人衆の会所になっている。そこに詰めていろ」

「は、はい(;'∀')」

 目力の強さに、それ以上は聞けずに等々力へ出発。

 秘密組織の女子スナイパーが日ごろは喫茶店のウェイトレスやってるアニメがたあけど、そんな感じかなあ……と等々力の駅を降りる。

 西に進むと、神社の森みたいなのが見えてきて進んで行くと、驚いた。

 森みたいなのの下は大きな谷になっていて、木々がワッサカと繁茂して、それがずっと続いている。看板と案内板があって『等々力渓谷公園』とある。

 谷だと言われてもビックリするのに渓谷、渓谷というのは山の中にこそ相応しいもので、日本アルプスとか箱根の山とか、東京なら奥多摩にでも行かなければそぐわない名前。じっさい眼下に広がっているのは幅で二十メートル、深さは十メートルはあろうかという大渓谷。
 振り返ってみると、うちの近所にもありそうな二車線の道路と街並み。すぐむこうは目黒通りで、車がビュンビュン走っている。

 鉄道模型のジオラマがこんな感じ、狭いスペースに山やら街やらを作りこむので、真逆の景色が隣り合っていたりする。

 そういうジオラマか夢の中に潜っていくような気がする。

 谷への石段を下りると、それまでの「小春日和」が「やっぱり冬」に変わる。

 地図と案内板を頼りに、左岸を行ったり右岸を歩いたり。

 五分ほど行ったところで『甘味喫茶とどろき→』の看板。

 二メートルほどの石段を上ると『吠えよ剣』のセットに出てきそうな古寂びた、でも学食ほどの大きさのお店。

「本社からやってきました、風間です」

 ガラス戸を開けて名乗りを上げる。

 はいぃ、ただいまぁ……

 奥の方から声がして、カラコロと下駄の音をさせて現れた女性にびっくりした。


 え、お祖母ちゃん!?


 くノ一そのの第二章が始まった。



 第一章 完

 

☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄


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