大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:231(最終回)『また明日』

2024-02-22 11:35:10 | 時かける少女
RE・
230(最終回)『 また明日』テル 




「アハハ、嘘よ、嘘(*^ω^*) 」


 目をへの字に、口をωにする美空先輩。

 清楚で真面目一方の先輩が、こんなお道化た表情をするのは初めてなので、この表情だけで上手くいったんだと分かった。

「もー、先輩」

「ごめんごめん、時美はね、あそこ」

 先輩が指差したのは模式図の左側、ちょっと不安定でチラチラしているやつだ。

「あそこって……」

「うん、なんとか峠は越えたし、ミッチャン一人に任せておくのも申し訳ないって……」

「一人で飛び込んだんですか?」

「うん、時美、ベテランだしね。心配ないわよ」

「そうだったんですか」

 安心した。

 でも、ちょっと申し訳ない。

 ムヘンと日本神話と二つの異世界を経巡って、どちらも完全には取り戻せてはいない。もう一度あの世界に戻れと言われたら、正直、尻餅ついて立ち上がれないだろう。

 それに、あの、キリリとした時美先輩なら大丈夫だろうし。

 頭を切り替えた。

「ちょっと、外に出てきます」

「それなら、もう帰った方がいいわよ。わたしも、ミッチャンが元気になったら帰るつもりでいたから」

 そうだ、先輩は丸二日、わたしに付き添ってくれていたんだ。

「じゃあ、いっしょに」

「ありがとう、でも後始末があるから、構わないで先にいって」

「そうですか、それでは、お先に失礼します」

 お茶のお点前みたいにお辞儀をして、部室を、旧校舎を出た。


 日差しが傾き始めた中庭は、大団円を予感させるように、微かにセピアが混じる。校舎も木々も草花も穏やかに影を伸ばし、飛行機雲は風に千切れてfineの崩し文字を描きそう。

 なべて世はことも無し。

「「ワ!」」

 中庭を出てピロティーに向かおうとしたら、校舎の向こうから急に人が出てきて、互いにビックリ!

「光子ぉ、もう捜したんだからねぇ」

「さ、冴子……」

「もう、カバンほっぽり出していっちゃうんだもん。ホレ」

 グイッとカバンんを押し付ける。

 見ると、冴子はカバンの他にサブバッグと傘を持っている。

 あの時、階段を転げ落ちて胸を貫いた、あの傘……ちょっと頬が引きつる。

「そんな呪物を見るような目で見ないでよ。てっきり夕方からは雨だと思ったのよ。天気予報も当てにならない、ほら、天気予報、まだ雨のままだよ」

 スマホのお天気画面を見せる冴子。

「あれ、マチウケ変えたの?」

 冴子のは、高校に入って以来、和風アニメの『まほろば戦記』のキャラだった。新キャラが出るたびに変更してお守りのようにしていた。

「なに言ってんの、そんなのは一年で卒業。来年は、もう三年なんだしさ、いつまでも成ろう系やってらんないって、光子が言い出したんじゃない」

「え……」

 言われて、自分の心を探る。

 ブリュンヒルデ……トール……ラグナロク……主神オーディン……タングリスとタングニョ-スト……世界樹ユグドラシル……懐かしい単語とイメージがフワフワ浮んでは消えていく。

 なにかの拍子で、熱中したアニメとか思い出して――そんな時代もあったんだ――と、瘡蓋をカリカリ触ったような感覚。


「あ、ヤックンだ……」

 
 冴子が呟いたのは、降りたばかりのローカル、二両前に乗り込むヤックンに気が付いたんだ。
 電車のドアは『ドアが閉まります』のアナウンスのと共に閉まって、発車ベルが鳴って、ゴミ収集車が次に行くような感じでローカルは出て行った。

「ヤックンも大変ねえ……ね、光子」

「あ、え?」

「神社、工事中だからさぁ、お神楽の練習市民会館でやってるそーよ。交通費は出るらしいけど大変ねえ、去年で終わってて正解だったねぇ、うちらは」

 お神楽しなくていいんだ……それに『ヤックン』ていう冴子の声にはお友だち以上の熱が無い。

 まあ、いいか。

 とにかく、平和なリアルに戻ってきたんだ。

 これが、わたしのリアルなんだ。

 微妙な寂しさはあるけど、それは、レールの彼方、カーブを曲がって姿を消そうとしているローカルのお尻を見ているせいだろう。

 ゴロゴロゴロ……

 ローカルが曲がった向こうで雷が鳴った。

「お、天気予報当たったじゃん」

「でも、こっちに来る頃には家についてるね」

 ヤックンは傘を持っていなかった。

 でも、あいつはモテるから、きっと大丈夫。

 改札を出ると、ロータリーの信号が点滅。

 冴子は――エイ!――と渡って、わたしは渡れなかった。気の早い軽自動車が動き出していたからね。

「先に行ってぇ!」

 手をメガホンにして叫ぶと、冴子は傘を振って行ってしまった。

 うん、どうせ信号を渡ったら家は逆方向。『また明日』とか言って分かれるんだもんね。



 RE・かの世界この世界 第一期 終わり



☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 


 


 
 
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RE・かの世界この世界:230『戻れた!』

2024-02-17 14:29:01 | 時かける少女
RE・
230『 戻れた!』テル 





 部室に戻れたらいいのにと思った。


 だって、前回の旅立ちは駅前だった。

 あの時、駅の改札を出ると、前を冴子が歩いていた。

 ちょっと追い越したぐらいのタイミングで気が付いたことにして、ペコリと頭を下げるくらいの挨拶をしよう。
 少し速足になって、肩が並んだところでペコリとお辞儀して――ああ、昨日の?――という感じで始めようとしていた(169『再びの決意』)。

 そこから、ほんの知り合いから冴子との友だち関係を取り戻そうとしていた。

 でも、後ろから自転車が来て、それを避けようとして、転んだ拍子に犬のウンコの上に手を突いて、おまけに、その手で冴子のスカートを掴んでしまった(;'∀')。

 あそこに戻ったら、周りの人間からエンガチョされまくって最初から破局だ。


 戻るなら部室のお布団の上!


 そう念じていると、白い闇の中にうっすらと四角い灯りが浮かんできて、それが元作法室の部室の灯りだと気が付いて。

 いっしゅんフワってブレーキがかかって、背中に軟らかいけどしっかりしたお布団の感触。

 やったぁ! 

 取りあえずは、ババ掴みになることもなく部室に戻れた。

 ソロっと首を動かす。

 前回戻った時は、覗き込む二人の先輩の顔があった。

 今回……部室に人影は無い。

 覗き込まれるはイヤだけども、誰も居ないのは、ちょっと寂しい。

「先輩……キャ」

 小さく呼んで横を向くと、オデコが中身の前頭葉ごと滑り落ちた。

 よく見ると、オデコに掛けられていたタオルハンカチが落ちたんだ。


「あ、気がついた?」


 死角になっていた足もとから優しい声がした。

「あ、美空先輩!?」

「ああ、よかったぁ。昨日から姿は現れていたんだけど、完全じゃなくて、熱も出てきたから……」

「先輩……」

 一瞬キスされるのかと思ったら、先輩のオデコがくっついた。

「よかったぁ、もう熱は無いみたい」

「あ、ありがとうございます」

「みっちゃん頑張ってくれたから、ほら……」

 モニターの三つのビル、いずれも半分以上が青に変わって、赤い部分はずいぶん減った。

「がんばった甲斐ありました?」

「うん、しばらくは大丈夫でしょうね。ありがとう、みっちゃん」

「あ、いいえ……左の方、ちょっとチラチラしてますね」

「ああ、まだちょっと不安定かなぁ……」

 三つのビルは多次元世界の模式図だ。最初に部室に転がり込んだ時は、赤や橙色が多くて、模式図とは分からなかったけど見るからに不安定だった。

「それに、見て!」

 先輩が拭うように手を振ると、模式図は青空ににたなびく日の丸に変わった。

「あ、白丸じゃなくなった!」

「うん、ちゃんと源氏が勝って、無事に日の丸が受け継がれることになったのよ」

 与一さんの姿が浮かんだ。壇ノ浦からはエスケープしたけど、屋島の活躍、それと黄泉の国までがんばってくれたおかげで日の丸が確定したんだ。

「あのう、もう一つ聞いていいですか?」

「なに?」

 ちょっと緊張した。

 以前、試しにやったら、時美先輩が生まれない世界になってしまったことがあるからだ。
 時美先輩の姿が見えないし、美空先輩は、そのことに触れようとしないし(-_-;)

「あの……時美先輩は?」

「え?」

「あの、志村時美先輩は?」

「え、だれ……それ?」

 え……え……ええ( ゚Д゚)!?



 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 


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RE・かの世界この世界:229『勝利、そして心の準備をする間もなく』

2024-02-12 16:49:32 | 時かける少女
RE・
229『勝利、そして心の準備をする間もなく 』テル 




「ここを開けろぉ! ここを開けろぉ! 開けぬかここをぉ!」

 ドンドンドン!! ドンドンドン!!! ドンドンドン!!!!
 ドンドンドン!! ドンドンドン!!! ドンドンドン!!!!
 ドンドンドン!! ドンドンドン!!! ドンドンドン!!!!
 ドンドンドン!! ドンドンドン!!! ドンドンドン!!!!

 イザナミに加えて無数の鬼や醜女たちが頭突きや体当たりして、内側から千曳の大岩を動かそう、絶ち割ろうとする。
 その度に、大岩はビリビリと震え、イザナギ組というか『黄泉の国を目指す神々の会』の仲間は全員で大岩を押しとどめた。

 ウーーーーーン!!

 力は拮抗して、もう少し頑張れば完全に密封できるかと思った。

 死ぬ気で力を合わせれば、どんなことだってできるんだ!

 ウーーーーーン!!!

 勝利を確信した時、岩の内側から声がした。

「ええい、憎いぃ憎いぃ、憎いぞイザナギぃ……かくなる上は、これからは、日に千の命を奪って黄泉の国にさらってやるからなあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 日に千人の命を奪う……千とは単なる数の問題じゃない。イザナギさんへの怨みの深さを数で表したんだ、この怨み、千尋の海よりも千尋の谷よりも深いという怨みの多寡でしか表せない心の内を胃袋を裏がえすようにして吐き出した毒なんだ(-_-;)!

「千人の命ぃ……上等じゃないですか! それなら、わたしは、このイザナギはぁ! 日に1500の新たな命を生むことにします1500の命をぉぉぉぉぉぉ!」

「1500の命ぃ……1500の命ぃぃぃぃぃ………だとぉぉぉ………」

 イザナミ……イザナミさんの言葉には力が無かった。 

 最後には引きずるような吐息になって、そして千曳の大岩の向こうに、その気配といっしょに消えて行ってしまった。

「最後に名を与えます、これよりはイザナミ、あなたはぁ、あなたはぁ黄泉大神です!!」

 千曳の大岩の奥の奥、もう一つのなにかが閉じる音がしたような気がした。


 ミーンミンミンミーン ミーンミンミンミーン ミーンミンミンミーン


 気が付くと、黄泉平坂をワッサカと覆う森の至る所から蝉の鳴き声。

イザナギ:「みなさん、どうもありがとうございました……イザナミを救うことはできませんでした。それどころかとんでもない鬼にしてしまいました。こちらにも、タングニョーストさん、桃太郎くん、二人の尊い犠牲を出してしまいました。申し訳ありません、ほんとうに不甲斐ない、ダメな神さまで、自分でも嫌になります」

タングリス:「大丈夫ですよイザナギさん、少しだけですが骨と皮を回収できました。いずれまた、きっと回復します。その日まで、タングニョーストはずっと、このタングリスが背負っていきますから」

ヨネコ:「桃太郎の伝説は山陰の方でも伝えていくし」

雪舟ねずみ:「今度のことは、拙いながらも、この雪舟ねずみがイラストを描いて絵本にします」

ケイト:「そうだね、アニメにもなるだろうしサブスクで実写になるかもしれしれないよ」

与一:「わたしは、国に帰って領地を守ります。母も年ですし」

イザナギ:「では、天の斑駒を連れて行ってください」

与一:「天の斑駒は神馬です、わたしにはとても……」

イザナギ:「黄泉の国はあまり使ってやることもできませんでした。元々は高天原の農耕馬、田畑で使ってやるのがいいでしょうから」

与一:「はい、それでは遠慮なく」

イザナギ:「ヒルデさん、タングリスさん、テルさん、ケイトさん……あなた方にもお世話になりましたが、異世界の方々です。どう言葉をかけていいか分からないのですが、とりあえずはオノコロジマにまで戻ってご苦労ご協力に報いたいと思います、ごいっしょしてはくださいませんか?」

雪舟ねずみ:「岡山までは、うちの営業区です、遅らせていただきますよ」

ケイト:「あ、それは嬉しいなあ!」

テル:「お言葉は嬉しいのですが、どうやら、ここでお別れのようです」

 手足の先が消え始めている、どうやら、元の世界か、どこぞの異世界に飛ばされる時がきたみたいだ。

ヒルデ:「あ、わたしも……」
タングリス:「自分も……」
ケイト:「あたしも……」

 ヒルデの他にもタングリスもケイトも消え始めている。

イザナギ:「そうですね、そのようですね……どうか、みなさんの世界も、明るく安らかでありますように、ほんとうにありがとうございました」

テル:「こちらこそ、いままで、みんなあり……が……と……」

 最後の言葉を言い終る前に、視界は白く渦を巻いて、心の準備をする間もなく、みんな遠く滲んで消えていってしまった。



☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
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 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
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―― この世界 ――
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RE・かの世界この世界:228『千引の大岩と桃太郎』

2024-02-05 10:22:54 | 時かける少女
RE・
228『千引の大岩と桃太郎 』テル 


 


 最後は、だれも二号とは呼ばなかった。


 涙と鼻水と涎でグチャグチャになりながら三つの坂道を一気に飛び降りて、迫りくる鬼と醜女たち目がけて桃の木に変身。あっという間に枝いっぱい桃の実を実らせると、その桃の実を鬼と醜女たちに食わせて時間を稼いで、みんなを助けたんだ。

 そんなあいつを、もうだれも桃太郎二号とは呼ばない。呼ばなかった。

「くしょー、なによ、なんなのよ、自分一人カッコつけて(≧◇≦)」

「これから、だれとバカ話すればいいんだよぉ(>△<)」

 齢の近いヨネコとケイトが地団駄踏んで悔しがり、大人たちは虚脱したように蓋をした大岩を見つめる。

「これからは、オオカムヅミノミコトと呼ぶことにしよう」

 イザナギさんが静かに言った。

 ミコト……命……これは神様の尊号だ。

「わたしたちが生んだ神ではありませんが、彼は日の本の神々と並ぶに相応しい男の子です」

 すると、与一さんが矢立てを出し、大岩にサラサラと大神実命 と記した。

「ああ、いいですね。わたしは意富加牟豆美命なんて万葉仮名でしか思い浮かびませんでした。大神実命、大いなる神の実。実に相応しい字です」

「では、わたしは……」

 雪舟ねずみは大神実命の下にきれいな桃の実の絵を描いた。

「桃太郎ぉ……桃太郎ぉぉ……(˚>ᯅ<) 」

 ヨネコは大岩に両手を突くと、オデコをくっつけ嗚咽しながら名前を呼ぶ。

「え……またやってくる!」

 くっつけたオデコに振動を感じて後ずさるヨネコ。すかさず、ヒルデとタングリスが大岩に耳をつける。

「多い……大きい者が混じっている」

「殿下、離れてください!」

 二人が飛び退ると、もう我々にも分かる地響きが大岩を、山を震わせた。


 ドンドンドン!! ドンドンドン!!! ドンドンドン!!!!


 猛烈な力で岩を叩く音!

『憎らしい憎らしいぞよ、恨めしいぞよ恨めしいぞよ、イザナギィィィィ!』

 語尾を歯ぎしりにして怨嗟の声を上げるのは……イザナミだ!!

「ここを破られては後がない!」

 ガッシ!

 与一さんが大岩に取りつき、我々も及ばずながら全力で大岩を押しとどめた!



☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
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 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
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 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
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 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
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RE・かの世界この世界:227『黄泉の国決戦・2』

2024-01-31 09:48:43 | 時かける少女
RE・
227『黄泉の国決戦・2』テル 




 数……数が多い! 多すぎる……!

 力の限り矢を射かけ、石ツブテを投げ、そして呆然とした。もう弓矢や石ツブテでどうこうできる数ではない。逃げるにしても、あの勢いでは数十秒のうちに追いつかれてしまう! 洞窟の出口までは一本道、逃げ込む枝道も無い!

「時間を稼ぎます!」

 そう言うと、イザナギさんは髪を結んでいた紐を解いて鬼ども目がけて投げつけた。

 シュル! シュルシュルシュルシュルシュル!

 紐は、たちまち無数に分裂して、迫りくる鬼たち醜女たちを絡めとっていく。

 バシュ バシュ バシュバシュバシュバシュバシュバシュ!

「今のうちです!」「全速後退!」

 イザナギさんが叫びヒルデが号令をかけ、みんな一目散に洞窟を走った!

「オッチャン、今のはなんだ!?」

「あれは、髪を括っていた蔦カズラです」

「すげえもの持ってんだなぁ」

 こんな時に質問する桃太郎二号の好奇心もすごいが、きちんと答えるイザナギさんも立派だ。

 ギガァ! ギガガガ! ギギギィ! ギギギギギギ!

「え、もう解いて追いかけてくるやつがいるぅ!」

「あの蔦カズラでも足りなかったんだ!」

「あと半分! 頑張って!」

 シュシュシュ!

 与一さんが、皆を励ましながら矢を射る! それに倣ってケイトも、ほかのみんなも手当たり次第に石ころを投げ、僅かに時間を稼ぐ! 稼いではまた駆ける! 逃げる! 全速で駆ける! 全速で逃げる!

「少しは遠のいたかぁ(;'∀')?」

 わずかに鬼ども醜女どもの気配が消えたが、すぐに、それに倍する勢いで追いついてくる。

「オッチャン、追いついてきたぞぉ(;'▢')!」

「まだ手はあります」

 落ち着いて言いながら髪にさした竹櫛を取り、ポキポキ折っては足下と後ろに投げる。

 おお!

 櫛の歯は一本ごとに一叢のタケノコになって、それが瞬くうちに十倍百倍に増えて、一面のタケノコ平原になる。

「そうか、あれを餌にするんだな、オッチャン!?」

「今のうちです!」

 そう、見とれている場合ではない、背後に気を配りながらも距離を稼ぐ。

「すげえよ、オッチャン!」

 醜女や鬼たちは、足もとのタケノコを引っこ抜くと、一瞬で皮を剥いて生のままボリボリと食べ始めた。

 しかし、石の坂道を三つ上がったところでタケノコよりも鬼たち醜女たちの方が多くなって、またまた追いつかれる。

「かくなる上は……」

 シャリン!

 腰に下げているだけで一度も抜かなかった天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)を抜き放つイザナギさん!

「たとえ、妻を取り返すためとはいえ、殺生はしたくなかったんですが……チェストー!!」

 ズシ! ズサ! ズシズサ! ズザザザザ! ビシビシビシ! ズシズサ! ズザザザザ! ビシビシビシ! ズザザザザ! ビシビシビシ! ズシズサ!

「スッゲー!」

 瞬くうちに、百匹あまりの敵を切り伏せ、さしもの鬼と醜女どもも十メートルほどの間合いを取って立ち止まった。

「さすがは天叢雲剣! イザナミ、聞こえているか!? 余計な殺生はしたくない、黄泉の戦闘員たちを退かせて、わたしと一緒に帰……」

 言い切らないうちに、鬼ども醜女どもは斃された以上の数に増殖し、一斉に飛びかかろうと腰をかがめた。

「やはり通じませんか、かくなる上は!」

 ズチャ

「………ウ、剣が持ち上がらない……」

「おっちゃん、電池切れぇ(^_^;)」

 数百匹切ったイザナギさんは、それが限界だったのだろうか、もうまともに剣を構えることもできない様子だ。

「無念……これは使う者の体力、気力を一度に出させるようです」

「ここは退くぞ、テル、イザナギ殿に肩を貸せ! 他の者は、立ち向かって時間を稼ぐぞ!」

「「「オオ!」」」

 来る時には気付かなかったけど、黄泉の国は重層的な構造になっている。

 三つ目を上がったところで風を感じた。

「出口が近い!」

 ヒルデが気づき、タングリスは持てるだけの石ツブテをかき集め、他のみんなもそれに倣う。

 ウワワァ~~~ン

 坂道の下の方から鬼ども醜女どもの声が木霊しながら上って来る。

「よし、体力も戻ってきたようです!」

「さすがは神さま、復活が早いぜ!」

「しかし、天叢雲剣はひかえた方がいい。今度は意識が戻らないかもしれん」

「承知しています……オリャアアアア!」

 ドガガガガガガガガガガガガ!

 ヒルデの心配は承知していたようで、イザナギさんは天叢雲剣を鞘ぐるみのままで、周囲の岩肌を削って大量の石ツブテを作った。

「これを投げましょう!」

「「「「オオ!」」」」

 ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシ!

 再び一層分ほど鬼ども醜女どもを退けたが、数回息を継ぐうちにまた滲みだすようにして満ち溢れてきた!

「くそ、もう上って来やがる!」

 一瞬、天叢雲剣の柄に手をやるイザナギさん。

「イザナギ殿、赤ランプが点いているぞ!」

 見ると、柄頭のところが『危険』の文字を浮かび上がらせて点滅している。

「ああ、もう手の打ちようがありません(#-_-#)」

 さすがのイザナギさんも種切れの様子だ。

「あと一息なのに……」

 ケイトが尻餅をつく。

「オ、オレがなんとかする!」

「なんとかって、桃太郎二号」

 スックと立った桃太郎二号の頬は真っ赤に染まり、見開いた目には涙を浮かべ、ズルリと鼻水まで垂らしているが、それを涙と一緒に拳で拭うと顔の半分を口にして叫んだ。

「オッチャン、いい国作ってくれよな! みんなも元気で!」

 そう言うと、桃太郎は一足飛びに坂の下まで飛び降りた。

「「「「「桃太郎!」」」」」

 一回転して着地すると桃太郎二号は、ニョキニョキと音を立てて一本の桃の木になった!

 ポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワ!

 そして、あっという間に鈴なりの桃の実を付けた!

 ギガァ! ギガガガ! ギギギィ! ギギギギギギ!

 鬼どもは、あれだけのタケノコを喰らいつくしたというのに、あさましく桃の木に群がって、桃の実を喰らい始める。桃の木は食べられても実を実らせて、鬼ども醜女どもの食欲を満たしていく。

 桃太郎オオオオオオオオオオオ! 

「行きましょう!」

 イザナギさんの言葉に、後ろ髪をひかれながらも、まだ少しむこうの出口を目指す!
 
 みなさーーん! こっちぃー!

 雪舟ねずみとヨネコの声がして岩角を曲がると、すぐそこが出口だ!

 ギガァ! ギガガガ! ギギギィ! ギギギギギギ!

 もう追いついてきた!

 セイ! トー! オリャア! 

 それぞれ力を振り絞って最後の一跳び!

 ズザザザ

 ドサッ

 スライディングしたり前転しながら飛び出すと、イザナギさんは素早く傍らの大岩に取りついて、あっという間に黄泉の出入り口を封じてしまった。

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
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 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
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 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
 
 
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RE・かの世界この世界:226『黄泉の国決戦・1』

2024-01-25 06:56:47 | 時かける少女
RE・
226『黄泉の国決戦・1』テル 




 タングニョーストは!?


「見てきます!」

「「「タングリス!」」」

 止める間もあらばこそ、タングリスは猟犬のような俊敏さで玄室に戻っていく!

 グァラグァラ……ウォォォ……

 ついさっき塞いだばかりの羨道の閊えが崩される音、鬼どもの雄たけびが同時に上がる!

 ただの鬼ではない、女神イザナミの怒りと恨みが籠った女鬼、黄泉醜女なのだ。現世(うつしよ)の常識では測り知れない力がある!

「間に合わない!」
 
 グギ

 さすがにヒルデも歯ぎしり一つして、イザナギさんを庇いながら後退する。その後ろを警戒しつつ、わたしも坑道を走る!

 ズガ! ビシ! ベシ! ドゴ! ベシビシ! ズサ! ビシビシビシ!

 ひしゃぎ、ぶちのめし、ぶっさし、蹴り倒すくぐもった音がすぐそこまで迫って来る!

「急げ!」

 もはやタングリスもやられたか!?

 ヒルデと二人、イザナギさんを挟むようにして後退する!

 シュ! シュシュ! シュシュシュ!

 鋭い音が後ろからしたと思うと、すぐ横や上を通って矢とイシツブテが鬼たちに飛んでいく!

「あれは!?」

 振り返ると中継隊の三人(与一、ケイト、桃太郎二号)が岩陰から弓と石ツブテで応戦してくれている。

「早く!」「こっち!」

 ケイトと桃太郎二号が手招きし、こちらも「オウ!」と返して岩陰に転がり込み、息つく暇もなく石ツブテで応戦する。

 シュシュシュシュシュ! シュシュシュシュシュ! シュシュシュシュシュ!

 与一さんの弓は神がかってきて、一度に五本の矢をつがえては射ちだす! それも毎秒三射! そして、箙の矢は射てども射てども尽きることがない。

 ケイトも負けじと同時に三射! 桃太郎二号の石ツブテも両手を水車のように回して二連装の機関銃のようだ。

 と……鬼どもの背後の方でも、鬼の首やら腕やらが千切れ飛んで攻撃を加えている様子!

 どけぇ! 鬼ども! 醜女ども!

 そう叫びながら飛び出してきたのはタングリス! 全身血まみれで小脇に軍服の切れはしで包んだものを持っている。

「タングリス、こっち!」

 桃太郎二号が呼ばわると、丸めた体を空中で二回転させ、その手を掴んで岩陰に収容!

「敵は怯んでいる、もうひと頑張り!」

 与一さんが叫んで、戻ったばかりのタングリスも加わって迎撃の密度を上げる!

 シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ……!

 合わせて五人の弓と石ツブテが切れまなく鬼どもに降り注ぎ、さしもの鬼ども醜女どもも退き始めた。

「タングリス、よく戻った!」

 ヒルデがガッシとタングリスを抱きしめる。

 昔はタングリスの方が一回り大きかったが、蘇ったタングリスは小柄なJKほどの体格。やっとゴールにたどり着いた後輩を先輩が労わっているように見える。

「タングリス、ちょっと若くなってる(^_^;)」

 ケイトも昔よりは思いやりのある言い方ができるようになったようだ。

「あ、えと……(#*´△`*#)」

 桃太郎二号は、初対面のタングリスに顔赤くして言葉にならない。

「タングニョーストを取り返してきました……」

 え?

 みんな言葉を飲んだ。

 タングリスが差し出したのは、軍服の切れはしに包んだ小さな包み。

「これは……」

「かろうじて、わずかの骨と皮の半分ほどを……」

 ええ!

 あまりの壮絶さに全員身を引いてしまったが、俯くタングリスをヒルデは優しく労った。

「よくやった、よくやった……これだけあれば、時間はかかるだろうが、いつかは元に戻るだろう。大事に持ってやっていてくれ」

「はい、タングリス、この命に代えても!」

「あたしの背嚢使って」
 
「ありがとう、ケイト」

「よかったら、俺のキビダンゴも入れてやってくれ。さっき間違えて投げたら死にかけの鬼が蘇っちまったから。たぶん、効き目があるよ」

「すまん。桃太郎というのはお前だったか」

「う、うん、二号だけどな(^_^;)」

「二号とは縁起のいい名前だ。タングニョーストと乗っていた戦車が二号だった」

「ああ、狭いけど楽しい戦車だったなぁ」

 ケイトも懐かしく思い出す。

「わたしは、那須の住人で那須与一宗隆と言います」

「ああ、よろしく。背嚢の中で意識はあったから、みんな声に覚えがある。初対面という気がしない」

「そうか、それは良か……」

 言い切る前にヒルデが耳をそばだてた。

 すぐにみんなも気が付いた。

 ドドドドドドドドド!

 前に倍する勢いで敵が攻め上ってくる……!!

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
 
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RE・かの世界この世界:225『タングリス吠える』

2024-01-19 07:29:59 | 時かける少女
RE・
225『タングリス吠える』テル 


 

「背嚢の中で話しは聞いた、戻ろう!」

 手早く衣類を身に着け装具を整えるとタングリスは吠えた!

 お産で言えば、いささかの早産。入学したての高校一年生ほどの体格に、軍服の袖も裾もまくり上げ、凛々しくも可愛いマナジリを上げた姿は、頼もしいというよりは痛々しい。

「ダメだ! まだ蘇えったばかり、それではまともに戦うことなんて……」

「できるできないではない! 姫とタングニョーストが体を張って……!?」

 ウオーーン……グギャァァン……カキンカキーンカキーン……

 そこまでタングリスが吠えた時、洞窟の奥の方から雄たけびと剣戟の音が木霊してきた!

「戦闘になっている!」

「待てタングリス!」

 伸ばした手は空を掴む。

 未熟で再生したぶん身が軽くなっている。あっという間にタングリスは奥に進んで行く。

 羨道の奥、剣戟や打撃の閃光が花火のように煌めき、鬼どもの影が明滅する! 四人の姿はほとんど見えない!

 ウワ!

 玄室の戦いはたけなわ、玄室から男神とヒルデが押し出されてくる。

「テル、タングリスが中へ! タングニョーストも!」

「戻りましょう! 助けなければ!」

 自分の立場も忘れてイザナギさんが目を血走らせる。

『二人を頼むぞー!!』『逃げろーテル!』

 タングリス、タングニョ-ストの声が響く。

「時間を稼いでくれている、ここは逃げるんだイザナギ殿!」

「見捨てることはできない!」

「たとえ一人になろうと、国生み神生みは道半ばではないか! 創造神としての自覚を持たれよ!」

「それはそれ、これはこれです!」

「ヒルデ、わたしが二人を連れ戻す、イザナギさんを外に!」

「すまん! 無理はするな!」

「テルさん!」

「イザナギ殿っ!」

 イザナギさんをヒルデに任せ、玄室に走る!

 人一人がやっとの羨道に雄たけびと鬼どもの奇声、イザナミの怒声が響く。

 まだ無事なようだが、鬼どもの方が勢いづいている。

 急がなければ!

 オリャアアアアアアア!!

 渾身の雄たけびを上げ、弾丸のように空を切って突き進む!

 ズガ! ビシベシ! ドゲシ! ドゴ! ベシビシ! ズサ! ビシビシビシ!

 我ながら、電光石火! 乾坤一擲! 獅子奮迅!

 二秒足らずで数十匹の鬼を切り伏せぶちのめして活路を開く。

「逃げろ二人とも!」

 ビシビシビシ!

 声は無いが了解という感じでソードが一閃、鬼どもがわずかに身を引いた!

 今だ!

 シャキン! シャキン!

 後ろざまに羨道に駆け戻り、ソードにXを描かせて天井と側壁を切り崩す!

 ムヘン以来さまざまな危機を乗り越えてきた。とは云え本性は文系のJK、我ながらどこにそんな力があったのかと驚くが、トラック一杯分ほどには岩を切り崩して羨道を塞いだ。

 ……無我夢中、やっとの思いで開けたところに戻る。

 身に着けたばかりの軍服を血みどろのズタボロにしたタングリスは戻っていた。

 だが、タングニョーストの姿が無かった。


 
☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
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 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
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RE・かの世界この世界:224『玄室・2』

2024-01-13 10:28:13 | 時かける少女
RE・
224『玄室・2』ブリュンヒルデ 




「あれほど約束をしたのに……来てしまったのね……」

「すまない、しかし、これ以上国生み神生みを遅らせることはできないんだ」

「それは現世の理り。ここは幽世のどん底、黄泉の国。黄泉の国には黄泉の国の理りと時の流れがある、それを蔑ろにして……」

「それも重々承知のこと、役目が終われば、このイザナギも共に黄泉の国の民に成ろう。どうかイザナミ、いま一度わたしのところに……」

「戻れと言われるか……しかし、しかしそれならば、なぜ、この妻の顔をご覧にならぬ。目と目を合わせ、心の底からお頼みにならぬ。それに、なぜに異世界の者たちがいっしょなのじゃ、異世界の者に恥を晒されるのじゃ……」

「ここにいるのはブリュンヒルデ殿とその警護の者。ヒルデ殿は、我々の国生みを陰に陽に見守って助けてくれたお方です。向こうには、同様にオノコロジマから助けてくれているテルさんを始め、旅の途中で仲間になってくれた人たちも控えています。みんな心配し、力になろうと……」

「力になろうと……ならば……なぜ、顔を、妾の顔を見てお話にはならぬのじゃ? わたしは、それを先に問うたぞ」

「ならば……」

 しっかと面を上げるイザナギ殿。わたしはタングニョーストと共にわずかに頭を上げるのみ。ここは、腹を割った夫婦の会話であろうと思う。

「なぜに、そのように平然と笑顔を向ける?」

「だって夫婦ではないか」

「異世界の姫は、正直に面を伏せたままではないか……膿み腐れた者に対しては、そちらこそ、正直な反応……イザナギ殿、その笑顔は偽善じゃ、偽りじゃ!」

 顔を見ろと言ったのはイザナミの方ではないか、鳥頭か、こいつは……つい顔を上げてしまう。

「見るな! 夫に見られてさえ、このように腹が立つ、異世界、蛮族の姫ごときにコケにされる謂れはない! 立った腹が弾けてしまいそうじゃあ!」

 !!

 いかん、ほとばしる怒りと殺気の前にタングニョーストが身構える。軍人としてのあるべき反射行動なのだろうが、ここは拙い!

「おのれえ、やはり妾を愚弄するか! 害そうとするかあ!」

 ゾワゾワゾワ!

 イザナミのオーラが騒めいたかと思うと、その騒めきは一瞬で数十の鬼を生み出した。

「イザナミ!」

 イザナギ殿は、叫びながら鬼夜叉と化した妻を抱きしめようと身を乗り出す!

「「危ない!」」

 タングニョーストと二人、男神を引き留め、同時に剣を抜き矢をつがえる。

「もう話にならない、ここは退こう! タングニョースト、イザナギ殿を!」

「ここは、わたしが食い止めます! 姫こそ……」

 言い終る前に五本の矢を放ち、ソードを抜いて三匹の鬼の首を払った!

 ビシュ! ドガ! シュビビ! バシュ! ビシュ! バシ!

 わたしも、ソードを抜いてたちまちのうちに七匹の鬼を切る。

 間近で見る鬼は、その体つきから女の鬼だと分かる。

「女だと舐めるではない、この鬼どもは黄泉醜女(よもつしこめ)、数においても力においても汝(うぬ)らの敵う相手ではないわ、それえ!」

 ゾワゾワゾワ

 イザナミが袖を振ると死臭とともに打ち倒した以上の黄泉醜女が湧いて出て、その一部は退路を断とうと後ろに周り始める。

「囲まれます!」

 そう叫ぶと、両手でわたしとイザナギ殿を羨道方向に突き飛ばし、振り返りながらフレームレート100以下では描画できないほどの早業で黄泉醜女どもを切り伏せるヒルデの忠臣。

 タングニョーストオオオオオオオオオオオ!!

 羨道を半ばまで戻って戻る途中では玄室からの雄たけびや剣戟の音や閃光がしていたが、元の通路に達した時には間遠になり、やがては途切れてしまった。



☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
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 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
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RE・かの世界この世界:223『玄室・1』

2024-01-04 10:33:04 | 時かける少女
RE・
223『玄室・1』ブリュンヒルデ 




「さあ、行きましょう」


 背嚢を担いだテルを見送ると、イザナギ殿は静かに腰を上げた。

 けして逸ることなく、しかし断固とした決意が伺える。

 これは将領が出陣する時の姿だ。

――臆してはなりません、しかし、将たる者、逸ってもなりません。臆しては兵を動揺させ、逸り過ぎては躓かせてしまいます。漁師が海の色を見て船を出すごとく、農夫が麦を刈に畑に牛や馬を入れるがごとく泰然として采配を振るわなくてはなりませんぞ――

 初陣のころからトールが言っていた将の戒めを体現している。

 玄室に続く羨道は、やっと背の高さ、横幅はなんとか人一人が前を向いて歩ける程度だ。

「狭いところも慣れているみたいですね」

「戦車に乗っていることが多かったし、ドワーフとの戦いは洞窟戦ばかりだったから大丈夫だ」

「それは心強い。タングニョーストさんもよろしくお願いします」

「心得ています」

 短い会話、いや、言葉を発することで三人の気息を整えているんだ。

 トールはこんな話もしていた。

 異世界に西郷隆盛という英雄が居て、敵に夜襲をかけようと夜の林の中を進んでいた。初陣の者も多く、みなガチガチに緊張していた。
 隆盛はボソッと、こう言った。

「まるで、好いた女に夜這いをかけにいくみたいだなぁ……」

 みんな思わず「プ( ´艸`)」と噴き出しかけて、いっぺんに緊張が解れたという。イザナギ殿の言葉には隆盛のような面白さは無いが、その分、誠実さが滲み出ていて好ましい。
 

 それからは、無言で羨道を進む。

 ……二分ほど進んだところで、微かに空間の広がりを感じる。

 玄室が近い。

 三人揃って腰を落とし目を細める。

 薄闇に順応し、この先の状況を把握するためだ。

 慣れると、僅かに青い鬼火が四方に燃えているのが分かる。

 玄室の中央には石の台があって、人が横たわっている。

 夜明け前、ようやく白み始めた空の下に浮かび上がった山の稜線のようで、その輪郭の内は知ることができない。

 だが、微かに臭う。

 救援の要請を受け、野を超え山を越え半月余りもかけてたどり着いた戦場の臭いだ。ただれて膿み崩れた腐肉の臭い。死者の体臭だ。

 正視してはならない。死者を辱めることになる。

 タングニョーストもイザナギ殿も、その機微は承知して、輪郭をとらえた後は、羨道と玄室の狭間で、ただただ俯いて待っている。

 根競べになるかと思った時、イザナギ殿が俯いたまま言葉を発した。

「悪いと思いましたが、ここまで来ました。この沈黙は、イザナミ、あなたの抗議であろうと思います。戒めを破ってここまでやってきた無礼を咎めているのが分かります」

「……………」

「しかし、もう待てません。この国は、時の流れを乱したまま前に進んでいます。神代の時と、源平合戦の時代と、はるか二千余年先の時代とが……いや、まだ見てはいないけれど、他の時代も現れているかもしれません。わたしは、いくつもの時代が時の理を超えて現出しているのを、そのままに受け入れ寿いできました。寿ぐことが天之御中主神 (あめのみなかぬしのかみ)はじめ八百万の神々に託された役目だと信じるからです」

「……………」

「どうか、戻ってきてください。黄泉の神々にもお願いいたします、どうかわたしの妻を戻してください。国生み神生みさえ済めば、妻を……いえ、このイザナギも共にこの黄泉の幽世に参りましょう、この国の弥栄のために、どうかどうか、どうか……」

 イザナギ殿は飄々と旅をしてこられた。時を超え時空の理りさえ乱して現れてしまった我々を喜んで受け入れてくれているように思えた。だが、実は、こんなにも苦悩していたんだ。
 わたしは、このブリュンヒルデは、自分の世界の乱れも争いも収められず満足に浄化も出来ず、繕うことさえできず、ヴァルハラに戻り父オーディンと対決することもせずに、この世界に来てしまった。

 恥じていないわけではないが、もっと努めなければならない!
 
 ここでブリュンヒルデがなすべきことは、イザナギ殿を助けることだ。

 なんとしても、イザナギ・イザナミの神を元に戻してあげることだ!

 体が熱くなってきた。

 思わず思いが迸りそうになった! と……イザナギ殿が顔を上げた!

 同時に四方の鬼火が照度を増して石台を照らすと、イザナミ殿が身を起こした!

 
☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
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 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
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 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
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RE・かの世界この世界:222『タングリス復活』

2023-12-28 09:44:58 | 時かける少女
RE・
222『タングリス復活』テル 




「ここではまずいぞ」


 ヒルデが眉を寄せた。

 もっともだ。イザナミさんが居る玄室は、まだ少し距離があるというものの、一本道の羨道を挟んでいるだけだ。

 カテンの森でトール元帥の非常食になってから、タングリスは骨と皮だけになってタングニョ-ストの背嚢に詰められたままだ。彼女の記憶はカテンの森で途切れている。

 ここは、カテンの森があった『かの世界』ではない。新旧入り混じりながら、新しく生まれた神話の日本、それも生者の立ち入りが許されない幽世。それも、イザナミさんを取り戻せるかどうかの瀬戸際なんだ。

 ここで、復活し終えたタングリスが出てきても事態を理解できずに混乱するだけだろう。

イザナギ:「いやあ、目出度いではありませんか。妻の玄室を目前にしてタングリスさんが蘇る、まさに吉兆ですよ(^▽^)」

 なんと良い神さまだろう、自分と国の大事を目の前にして、異世界の兵士の復活を寿いでくださる。

 ただし、めちゃくちゃ声を潜めてだけれど(^_^;)

ヒルデ:「すまない、イザナギ殿」

 ヒルデも声を潜めてお詫びを言う。

イザナギ:「ええと……タングリスさんは骨と皮に肉が付いて……つまり、裸で復活するんですよね」

 あ……男はイザナギさん一人だ。

「すこし戻ったところに小さな岩室がありました、そう、30mほど戻った左側です、こちらから向かって左側。全員で戻るわけにはいきませんが、テルさん、そこでタングリスさんの復活を見守ってあげてください」

 よく考えている……タングニョーストに付き添えと言っても、元来はヒルデのガード、ヒルデから離れることはしない。
 ヒルデが付き添えば、同じ理由でタングニョーストもイザナギさんの傍を離れざるを得ず、付き添いはわたし一人になる。ここに及んでヴァルキリーの者が付き添わないのはヒルデのプライドが許さない。
 控えのガードは人数から言っても実力から言っても、わたし一人よりは、ヒルデとタングニョ-ストがいいに決まっている。

 あれこれ勘案すると、わたしがタングリスに付き添うのがベストなんだ。イザナギさんは、迷いも見せずに一瞬で判断したんだ。

タングニョースト:「衣類や装備は背嚢の中に入っている。復活してしばらくは体を動かせないと思う、よろしく頼む」

テル:「分かった、間に合うようなら駆けつけます」

イザナギ:「ありがとう、では、お互いの無事と成功を祈って……」

 イザナギさんが出した手に三人の手を重ねて、わたしは背嚢を抱えて岩室のある場所まで戻った。

テル:「間に合えば、タングリス共々戻ってきます」

イザナギ:「ありがとう、でも、無理はしないでください」


 押し入れほどの岩室に身を寄せると、背嚢の動きはいっそう繁くなってきて、わたしは背嚢の口を緩めた。

 その直後、ニュルリと音がしたかと思うと、タングリスが出てきた。

 ハーハーハーハーハー(>口<)

 膝を丸めたタングリスは、思いのほかに息が荒い。

 ハーハーハーハーハー(>△<)

 そして、知っている彼女の姿よりも十歳近く若い。

 ハーハーハーハーハー(>ロ<)

 その、予想よりも若い姿と、思いのほかの苦し気な様子に狼狽えたわたしは、用意していた「おかえり」という言葉もかけてやることが出来なかった。

 
☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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RE・かの世界この世界:221『羨道を前にして』

2023-12-22 13:34:26 | 時かける少女
RE・
221『羨道を前にして』テル 



 先遣隊・中継隊・ベースキャンプ隊の三つに分かれた。


 先遣隊――イザナギ ヒルデ タングニョ-スト テル 

 中継隊――ケイト 与一 桃太郎二号 

 ベースキャンプ隊――ヨネコ 雪舟ねずみ


 先遣隊もイザナミさんの気配がしたら、その場で待機する。

 イザナミさんや黄泉の神々と話すのは、神であり夫であるイザナギさん一人でなくてはならない。

 本当ならば、イザナギさん以外は黄泉の岩戸に踏み込むべきではないだろう。

 イザナギ・イザナミお二人で約束されたことであり、幽世の国にはどのような穢れが潜んでいるか分かったものではない。穢れを払うのは神の身としても大変なことで、まして人の身では相当な負担になる。帰りを考えると、ここで無理をすべきではないと思う。

 
「この先、通路が狭くなっています」


 篝を持って先頭を進んでいるタングニョ-ストが手を挙げて立ち止まった。

 少しの異変や変化でも立ち止まって様子を探ろうというのは歴戦の下士官らしい振舞だ。以前の世界ではタングリスと二人で任に当たってくれていた。こちらの世界に転移してきたのは何か大きな力が働いているのかもしれないが、タングニョ-ストに関しては、軍人として、ガードとしての責任感だったのかもしれない。

イザナギ:「羨道のようですね」

ヒルデ:「センドウ……passageのようだな、言葉は違うが、墓室に続く通路のことだろうか?」

イザナギ:「ヒルデさんの国でも同じなのですか?」

ヒルデ:「種族、部族によって違うのだが、石組みを組んで墓とする場合は、この形式が多いように思う」

イザナギ:「そうですか、どこの世界でも人の死を悼むと似たような形になるのかもしれませんねえ」

テル:「わずかだけれど、羨道には篝があります。拒絶はされていないようです」

 三人とイザナギ殿に顔を向ける。

 冷静にイザナギ殿の判断を仰ごうとしているんだ。

 気は逸るが、みんなそれぞれのポジションと目的を理解している。

 単位は小さいが、いいパーティーだ。

イザナギ:「おそらくは、黄泉の神々も気づいていると思います。進んで迎えようと言う様子もありませんが拒まれているようにも思えません。いま少し様子を伺って、だいじょうぶと思えたところで、わたし一人でこの先に向かいます」

テル:「分かりました、小休止にしましょう」

 ドサ

 腰を下ろす音が微妙に響く、周囲の岩壁に反射したものか、微妙に疲れが現れているのか。

ヒルデ:「タングニョースト、貴様の背嚢……」

タングニョースト:「重くなってきました……これは……タングリスの復活が近い……いや、復活します!」

 タングニョ-ストが背嚢を下ろすと、まるで生き物のようにモゾモゾと動き始めた!


☆ ステータス
 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
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RE・かの世界この世界:220『和を以て……敵中の作戦会議』

2023-12-17 17:03:41 | 時かける少女
RE・
220『和を以て……敵中の作戦会議』テル 



 振り返ったイザナギ殿は、カッと目を見開いて一瞬で顔を赤くした。


 ブチギレる寸前の父、オーディンにソックリで、思わず腰を落としてしまった。
 ブチギレた父は、その直後には四方八方に憤怒の気を放射させ、接見の間であれ、宮殿の大広間であれ、麗しの神苑であれ、爆砕してしまう。
 そのために、ヴァルハラ(父の宮殿)に務める者や近侍の者は腰を落として、憤怒の気の爆発と共に後ろに跳び退る。
 むろん、憤怒爆散の速度に追いつける者は多くはない。慈悲と医療の女神エイルとその弟子たちは治療の為に三日は働きづめになった。

 わたしは四歳で爆散の速度に追いつけるようになったが、着ている服を保護するところまではいかず、十歳で――オヤジに呼ばれた時はボロを着ていく――という知恵が付いた。「ヒルデ、おまえはいくつになっても女らしくならん」とボヤいていたが、それは、そう言う訳なのだ。
 しかし、わたしのトレードマークである漆黒の甲冑を作るにあたっては大いに役に立ったがな。

「主神オーディンの娘にしてヴァルキリアの主将! 堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士! 我が名はブリュンヒルデなるぞ!」

 この名乗りは伊達ではない、親父の憤怒の爆散に耐えてきた苦労と忍耐との歴史が染みついているのだ。弱小の魔族どもは、この名乗りを耳にしただけで泡を吹いて悶絶したものだ。

 だから、このイザナギ殿の表情に、わたしは脊髄反射で腰を落としてしまったのだ。

 しかし、イザナギ殿の反応は意表を突いた。


 なんと、この創造神は、次の瞬間双眼に大粒の涙を漲らせ、深々と頭を下げたのだった。


「申しわけない、心配をかけてしまいました。オノコロジマから幾月、わたしと行動を共にしていただき、やっと黄泉の国にたどり着きました。やっと妻とも出会えました。妻は黄泉戸喫(よもつへぐい)をしてしまい、現世に戻るには黄泉の神々との協議が必要……しかし、あまりに時間がかかり過ぎです。春闘だってこんなにはかかりません、20世紀の大学の大衆団交だってここまで時間を取りません。ラインを送ったのにずっと既読マークが付かないようなものです。人の世なら縁を切って終わりにも出来ましょうが、わたしたちは神です。天之御中主神 (アメノミナカヌシの神)以来いく柱もの神々に創造を託された身として、これ以上遅延を忍ぶわけにはいかず……申し訳ありません」

「大丈夫だイザナギ殿。我々は苦情を言いに来たのではない。みんな心配なのだ、自分のことのようにな。オノコロジマからここまで一緒に来て、イザナミさんのことは、もう私たち自身のことでもあるんだ」

 わたしの言葉を受けて、テルも顔を上げた。

「そうですよ、ここに来るまでにこの国の様々な姿も見ました。なんだか予告編を飛ばして本編を観てしまった感じですが、この黄泉の国のミッションをクリアーしなければ、全てが幻になってしまいます。みんなで駆け抜けましょう」

「テルのねえちゃんの言う通りだ、二号だけど、桃太郎だ。鬼退治しなきゃカッコつかねえ」

「退治するとは決まってないぞ」

「そういうケイトだって、矢をつがえたままじゃねえか!」

「うっせえ!」

「イザナギ殿、一度状況を分析して、役割と持ち場を考えて対処してはどうでしょうか。義経公は、その点を見逃されたため、手柄の割には……いや、余計なことを言う所でした。まあ、共通理解と申しましょうか……」

「ネット的に言いますと、並列化ということでしょうか」

「お、雪舟ねずみも進んだこと言うじゃない。わたしが言おうと思ったのに」

「すみません、ヨネコさん(^_^;)」

「ありがとうございます……聖徳太子のために残しておこうと思ったのですが『和を以て貴しとなす』というところですね」

「では、作戦会議ということにしましょう」

 タングニョ-ストが締めくくり、初めての作戦会議。

 すでに、黄泉の国、声を潜めながらも団結の気を漲らせる『黄泉の国を目指す神々の会』であったぞ。


 
☆ ステータス
 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
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RE・かの世界この世界:219『イザナギ踏み込む』

2023-12-10 10:03:25 | 時かける少女
RE・
219『イザナギ踏み込む』テル 



 いい人たちばかりだ。


 元々はわたしの過失だ。

 もう少し慎重にやるべきだったんだ。

 国生み神生みは神聖で大事なものだ。それを若さに任せ、あまりに性急にいたしすぎた。わたしとイザナミは、この地上、人々が生きるに必要なものをすべて生み出す使命を与えられていた。

 むろん、辞令とかをもらって、研修期間があってというような悠長なものではない。

 ヤマトの国は萌え出る息吹に満ち満ちていた。わたしとイザナミは、その息吹を国生み神生みの交わいによって生きた形になすことであった。

 当然、やがては人の営みにとって欠くべからざる火、あるいは火の神を生むことは分かっていた。そのためには、うだつを立てるとか、ファイアーウォールを設けるとか、火災保険に入るとか……最低でも互いの体を不燃性にしてから臨むべきであった。

 どう考えても、わたしに100%の過失があっての不始末だ。

 それなのに、テルとヒルデは我がことのように心配して、オノコロジマからずっとついてきてくれている。この黄泉比良坂にいたるまでに、二人の縁でケイトやタングニョーストが加わり、早くも動き出した歴史の中から与一殿が加わわってくれ、瀬戸の海を渡ってからは、桃太郎二号、雪舟ねずみにヨネコまで加わって『黄泉の国を目指す神々の会』はまことに賑やかになった。

 できることなら、このままこの九人で日の本のあちこち旅して周れたらと思うくらいだ。

 しかし、イザナギよ、お前には使命がある。

 わたしは用を足すふりをして、小さな松明一つを持って岩戸に踏み込んだ。

 もし、イザナミが黄泉の神々との交渉に難渋しているのなら、わたしも加わらなければ。火の神を生んで焼け死んでしまった責任の半分、いや、全てがわたしにあると言っていい。イザナミは「けして覗かないで」と言っていたが、あれは、イザナミらしい責任感からだ――子を産むというのは女にしかできない神聖な使命、男は産室の前で、ただオロオロと祈って下さればよいのです――それぐらいのプライドを持っている、わたしには過ぎた嫁なのだ。

 しかし、もう七日になろうとしている。外つ国 の神なら世界を作り終えて安息日を迎えているころだ。

 あそこを曲がれば大きな岩室……空気の流れで予感された。

 よし、行くぞ!

「イザナギ殿、一人でいくとは水くさいぞ」

 !?

 声に振り返ると、ヒルデさんを先頭に神々の会のみんながついて来ていた!

 
☆ ステータス
 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
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RE・かの世界この世界:218『キャンプは続くよ岩戸前』

2023-12-04 10:58:56 | 時かける少女
RE・
218『キャンプは続くよ岩戸前』テル 




 岩戸の前は広場とは名ばかりの三十坪ほどの空き地だ。


 三十坪というと、家の前の私道部分を含んだ我が家の敷地と同じ。

 近所も似たような家ばかりで、三十坪というのは、やっと十七年の人生の全てが詰まっている単位。車庫付き三階建てで、四人家族で住むにはまずまずの広さ。

 しかし、九人の人間と一頭の馬が焚火を囲んでキャンプするには少し狭い。

桃太郎二号:「でも、ギューギューしてて楽しいぞ(^▽^)」

ケイト:「うん、なんだか秘密基地みたいでワクワクするなあ」

雪舟ねずみ:「ムヘンでは戦車に乗っておられたのでしょう、普通の車でも車中泊はこたえますが、大変だったんじゃないんですか?」

タングニョ-スト:「寝る時は戦車の外だ。砲身にキャンバスをかけて、あちこち結わえると、けっこうなテントになるんだ」

ヒルデ:「ああ、エンジンルームの上なんか暖かくて四号なら三人は寝られたな」

ヨネコ:「なんか、おもしろそう」

ヒルデ:「でも、それは戦争をしている時だ。普段は兵舎のベッドで寝ている」

桃太郎二号:「そうなんだ。与一のおじさんは?」

与一:「馬次第だな」

ヨネコ:「馬?」

与一:「ああ、慣れた馬だと腹に寄りかかって寝させてくれる」

ヒルデ:「そうだな、馬にひっついて寝ると暖かいぞ」

タングニョ-スト:「よっぽど慣れていないとできないがな」

ヒルデ:「馬と言うのは三十分もすると起きてしまうんだ。起きると立ち上がってしまう。野生生物だったころの名残だ」

タングニョ-スト:「常に警戒していないと、天敵の獣に襲われてしまうからな」

テル:「馬は立ったまま寝ると聞いたことがあるけど」

与一:「ちゃんと横になるよ、よっぽど慣れてくると、人が寄りかかって寝いる間は起きたりしないがね……斑駒はどうかなあ……」

 与一殿が近寄って、首のあたりを小さく叩くと、それがスイッチだったみたいに膝を折って就寝の態勢になる斑駒。

イザナギ:「さすがは高天原の馬だ」

桃太郎二号:「オレ、斑駒といっしょに寝る!」

ヨネコ:「あ、あたしもぉ!」

ケイト:「自分もぉ!」

与一:「三人一緒でも十分いけるだろ」

三人:「わーーい(^▽^)」

テル:「与一殿はいいのか?」

与一:「わたしは鎧を着たままですからね、馬が嫌がる」

ヒルデ:「常在戦場の心がけだな」

与一:「いやあ、大鎧というのは着脱が大変でしてね、武将の無精です」

桃太郎二号:「下手な洒落ぇ( ´艸`)」

テル:「譲ってもらって失礼だろ」

 ポコ!

桃太郎二号:「イッテー!」

与一:「いいさ、待つのも戦の内、肩に力が入っていてはもたないさ」

ヨネコ:「桃太郎にはもったいないさぁ」

桃太郎二号:「ヨネコ、日和やがって!」

 アハハハハハハハハ(^▽^)( ´艸`)((´∀`))


 和やかに最初の夜が更けていった。


 ある程度の覚悟はしていたが、三日経っても四日経ってもイザナミさんは姿を現さなかった。

 少しでもキャンプを快適にしようと、周囲の草や木を刈り取り、刈り取った木は自然に乾いて薪になって、いつしか広場は百坪近くになった。

 与一殿も鎧を脱いで小具足姿(鎧の胴を脱いで、小手と脛当てだけの姿)で過ごすようになった。


 そんな夜半、夜明けに近いころ、異変に気付いて目が覚めてしまった……。


☆ ステータス
 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
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☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
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 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
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RE・かの世界この世界:217『桃太郎二号と薪拾い』

2023-11-28 16:21:10 | 時かける少女

RE・

217『桃太郎二号と薪拾い』テル 

 

 

 桃太郎二号と薪を求めて山に踏み込む。

 

 カテンの森(152回)ほどではないが、繁茂している木々はどれも神社の御神木ほどの高さと太さがあって、日の光の半ば以上を遮っている。

 黄泉の国が間近いせいか、どの木々も枝ぶりや木の肌が醜怪だ。薪にすると、その炎は鬼火のように青く燃えるのかもしれない。

「なるべく乾いたのを選べよ、生乾きの薪は燻るだけだからな」

「おう、少しは日の当たるところもあるから、そこを狙おうぜ」

「足下に気を付けろ、苔で滑りそうだし根っこもウネウネ這ってるからな」

「うん、どの木も鬼の腕とか脚みたいだなぁ……」

「みたいなだけだ、乾いたのを選べばいい薪になる。それなんかいいと思うぞ」

「おう……黄泉の国は鬼もいっぱいなんだろうな」

「鬼退治がしたくなったか?」

「おう、桃太郎だからな」

「しかし、イザナギさんでも中には入れない。イザナミさんが黄泉の神さまの許可を得て出てくるのを待つだけだ」

「お、おう……でも、こうやって、みんなで待ってるのも悪かねえかもな」

「ほう……」

「ただ薪を拾ってるだけでもよ、あとで、みんなで火を囲んで、みんなで暖かい飯を食うのも捨てたもんじゃねえ……かもな」

「へえ、そうなのか」

「岡山に居る時はきび団子ばっかだったからよ、鬼ノ城で焚火囲んで飯食ったじゃねえか」

「ああ、きび団子も櫛にさして焼いたなあ」

「アハハ、あれは在庫整理みたいなもんだ。一人の時は、あんまり焼いて食べたりはしねえんだ」

「そうなのか?」

「焼き冷ましはカチカチで食えたもんじゃねえから、あんまりやらねえ。ま、今夜は人数も多いし、いっぱい焼くつもりだけどな」

「そうか、それは楽しみだな……よし、ここはこれくらいか、つぎ行くぞ」

「お、おう」

 一カ所で拾える薪はしれているが、木漏れ日の日向はけっこうありそうだ。

「テルのねえちゃんは、鬼とか見たことあるのか?」

「厳密には鬼とは言えないかもだけど、クリーチャーとかな……」

 ムヘンで出くわしたクリーチャーたちが頭を巡る。

 シリンダー……プレパラート……メデューサ……エスナルの悪魔……

 クリーチャーだけではない、共に戦った仲間たち……まだ、こっちの世界では姿を見せていない者も多い。

 ロキ……ユーリア……ポチ……またどこかで出会えるんだろうか。

 わたしを、ここに送り出してくれた二人の先輩。

 それに、断末魔に、それこそ鬼の形相を見せた親友。

 そうだ、桃太郎二号だけじゃない。わたしの異世界の旅も、そういう旅なんだ。

 

「テル?」

 

「あ、ああ、ごめん。なんかボーっとしていた」

「これぐらいあれば、とりあえずいいんじゃねえか?」

「あ、ああ、そうだな(^_^;)」

 いつのまにか山ほどの薪をあつめてしまって、桃太郎二号と簡単な橇をつくって、みんなの待つ広場に運んだ。

  

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
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 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ

―― この世界 ――

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 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

  

 

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