ポナの季節・49
『ちょっと、あんたねえ!』
ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名
「ちょっと、あんたねえ!」
四時間目の数学の時間が退屈だったので、つい居眠り。で、自分で「ちょっと、あんたねえ!」と大きな寝言を言ってポナは恥をかきながら目が覚めた。
覚えてはいないけど、安祐美のせいだ。
安祐美の夢の中でのレッスンは日ごとに厳しくなっている。もうヘブンリーアーティストに合格しようというレベルではない。なんだかレコード大賞でも獲ろうかという迫力……なんだと思う。
思うというのは夢の事は覚えていないけど、起きた時の疲労感がハンパではないからだ。
で、今の「ちょっと、あんたねえ!」は確定的だった。
「あんたって、誰の事よ!?」と数学の先生には誤解されるし、散々だった。
「ちょっと食べ過ぎじゃね?」
由紀が言うくらい、そのあとの昼ご飯はすごかった。
いつものララランチではあるが、ランチのご飯もラーメンも大盛りの上にアイスキャンディー。それもララランチに手を付ける前に食べてしまった。
「順序逆……」
「とりあえず頭と、煮えくり返ったお腹鎮めなきゃ、ララランチが収まらないの!」
と言いながら、脚がプリプリの16ビートのリズムをとっている。
「ひょっとして、安祐美の特訓?」
「そうでなきゃ、あんな寝言言わないし、こんなに昼飯増量しないわよ……てか、あんたたちは、どうよ?」
由紀も奈菜もかぶりをふる。
「なんだって、あたしだけ」
「ポナ、脚がリズムとってる……」
「くそ……!」
すると目の前に、とうの安祐美が実体化して現れた。姿は同じ世田女の制服なので、まるで違和感がない。
「あのね、ドラムはパンチが命なの。ポナは、歌に熱中すると、ドラムがお留守になるし、だいたいドラムだけが、微妙に違和感」
「違和感でもいいじゃん。とりあえずヘブンリー合格すりゃいいんだからさ」
「でもね、どうせやるんなら、プリプリの再来くらい言われてみたいじゃん」
「再来の前に災難だわよさ!」
「さて、あたしも」
「ちょっと、どこ行くのよさ!?」
「ランチ食べんの。実体化するとお腹空くのよね……」
「さっさと食べて、行こう。この調子じゃリアルに稽古させられないよ!」
安祐美はリアルの稽古までは要求しなかった。なんとか無事に午後を過ごして帰宅の途中……。
「ちょっと、あんたねえ!」
今度は、駅の改札を出たところで叫んでしまった。
振り返ったそこにいたのは修学院の蟹江大輔であった。
「ごめん、こんなとこまで付いて来て」
「ちょっと、ストーカーだわよ」
「ごめん。でも返事、まだ聞いてないから……」
「好きになってくれるのはいいけど、名前しか書いてないんじゃ返事のしようもないでしょ!」
「え、メアドとか書いてなかったけ!?」
「なーんも。それで、付きまとわれてもキモイだけなんですけど!」
「じゃ、よかったら、ここでメアド書くから」
大輔は律儀にメモ用紙を取り出した。
「バカね。メアドなんか交換したらしまいじゃない」
「え……じゃあ?」
「まあ、メル友の一人ってことで。しつこいと、すぐに切っちゃうからね」
メアドを交換すると、いいとこの子どもが品よく喜んだように、意外に素直な笑顔を返してきた。
「と、いうことで、今日はここまで」
ポナは回れ右をして、さっさと行きかけた。
「電車の中で口ずさんでいた曲、最高だから」
「え……!?」
「プリプリのダイアモンズ。いかしてた!」
「そ、それはどうも」
――安祐美めえ!――
ポナはプリプリだった……。
ポナの周辺の人たち
父 寺沢達孝(59歳) 定年間近の高校教師
母 寺沢豊子(49歳) 父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男 寺沢達幸(30歳) 海上自衛隊 一等海尉
次男 寺沢孝史(28歳) 元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女 寺沢優奈(26歳) 横浜中央署の女性警官
次女 寺沢優里(19歳) 城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女 寺沢新子(15歳) 世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ 寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。
高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜 ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀 ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生 美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智 父の演劇部の部長
蟹江大輔 ポナを好きな修学院高校の生徒