大橋むつおのブログ

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銀河太平記・248『モン漢国境沿いで初任務』

2024-09-16 11:35:12 | 小説4
・248

『モン漢国境沿いで初任務』 胡盛媛中尉




 うちの騎兵三個旅団は見せ駒なんだ。


 騎兵旅団というのはナポレオンの昔から馬に乗った兵士の部隊ということなんだけども、三百年前に戦車が現れると、馬に乗ってる分、歩兵よりも速いというだけの騎兵は役目が無い。いや、ロボット兵なら、時速100キロで走るのがザラにいるから、ほんとうに辺境のパトロールやパレードぐらいしか使い道が無い。
 だから、第一次大戦から騎兵は馬の代わりに戦車に乗るようになって騎兵部隊とは機甲部隊、つまり戦車隊のことになった。だから、騎兵と言っても馬に乗るのは健軍祭のパレードで戦車部隊の前に一個中隊分の騎兵を歩かせるだけ。その騎兵も一個小隊を除いてはオートホース、つまりロボット馬。
 リアル馬をたくさん出すと落とし物の心配がある。パレ-ドが通った後に落とし物が残って、後続の部隊がグチャグチャに踏んでは、見た目も臭いもすごいことになる。だから、パレードの時のリアル馬は落とし物のしつけを施した一個小隊だけ。

 いま、その一個小隊のリアル馬を前衛にオートホース一個大隊。その後ろに三個旅団の戦車部隊と自走砲部隊。つまり、パレードの時の編成と同じ。つまり、見かけは立派だけども本気で戦争をやるつもりなないという編成。

 工兵隊や補給部隊、そしてなによりも歩兵部隊を連れていないので本気ではないということが、軍人でなくとも、ミリオタの高校生にだって読み取れる。

 つまりつまり、漢明軍はパレード用の部隊をモン漢国境沿いに並べ、折り目正しく国家的警戒感を示しているだけなんだ。


「中尉、カメラカメラ!」


 大佐、いや准将が手をはためかせてわたしを呼ぶ。

「元帥がお出ましになった、絶好のシャッターチャンス!」

「はい!」

 わたしは、自身でカメラを担いで馬(広報用のポニー)に乗り、頭の上三メートルにはドローンを付き従わせて劉宏元帥の前に出る。

 幕舎の脇には『帥』の元帥旗と、今朝はその半分の『劉』の字を染めだしたのが並んで草原の風にはためいている。背後と左右には一個大隊の騎兵部隊が徒列。

 元帥の野戦服に身を包んで騎乗している姿は、馬が立派な分、ちょっと可愛い。アイドルが一日署長を引き受けたみたいで、なんだかプロモーションビデオを撮っているような気になってくる。

「下から舐めるように、そう、元帥の右から左に抜けて、カメラはあくまでも元帥に。ドローンはちょっと引き気味でフォローさせよう……」

「こんな感じですか?」

「そうそう、元帥旗と被った時はゆる~くズームして、さり気にアップ……よーし、オーケー」

「あと、部隊の全景とかは……」

「まだ撮っとらんのかね」

「あ、整列したのは初めてですから」

「仕方ない、このあと、馬で駆けながら撮ろう」

 他にも二班撮影隊が居るんだけれど、准将は半分以上わたしの横に付いている。別に、旧上司の娘であることをおもんばかってのことじゃない。わたしに付いていれば元帥と接触する機会が多いからだ。

 ウワァァァァァァ  ドーーーーン  ドーーーーン  パチパチパチ

 国境の向こうから吶喊の声やら、銃撃、砲撃の音が聞こえ始めた。

 どうやら、再びモンゴル騎兵とロシア軍の戦いが始まったようだ。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟


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