大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・064『三島事件とわたしたち』

2023-11-30 14:03:12 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

064『三島事件とわたしたち』   

 

 

 図書室の窓際のテーブル。

 

 そこに新聞のバインダーを四つ並べ、部活の佳奈子を除くお仲間四人で覗き込んでいる。

 どのバインダーも、11月27日の日付。

「うわぁぁぁ」「気持ち悪いぃ」「ひどいねえぇ」「狂ってるぅ」「ひえぇぇぇ」

 さっきから、同じような感想的悲鳴をあげまくり。

 昼休みの図書室は、休憩を兼ねて入ってる生徒も多いので、多少の会話は大目に見てもらえる。

 ほかの生徒や先生も、わたしたちが何を見ているのかは察しているから――さもありなん――と言う感じ。

 新聞各紙は一面のトップと三面の大半を使って三島事件を書き立てている。

 切腹! 狂気! 無残! 乱入! 割腹自殺! 美学崩壊! 

 そんな単語が特大の活字で書き立てられ、その下や横には三島と弟子の首が転がってる写真まで出てるしぃ(;'∀')。

 令和の新聞だったら、こんな写真はぜったい載せられない。犯人に掛けられた手錠だって隠すよ。

 こんなのを載せている新聞も、なにか狂気じみて見える。

 

 ロコが最初に知らせてくれたときはピンとこなかった。

 

 三島って名詞にはなじみがない。最初に浮かんだのは新幹線、たまに乗っても通過するだけの駅。

 やっと思いついてスマホで検索すると、クッキリ眉毛の下でギョロリとした目がおっかない。

 解説はめちゃくちゃ長くって、超有名な作家というか文学者なんだろうけど読む気がしない。

 ノーベル文学賞にもノミネートされて世界的にも有名人。

 作品はいろいろたくさんだけど、やっと『金閣寺』が聞いたことあるかなというレベルですよ、あたしは。

 その三島由紀夫が盾の会の隊員二人を連れて、陸上自衛隊市ケ谷駐屯地を訪れた。東部方面総監という偉い人を人質に取って自衛隊の人たちに決起を促して演説した後、切腹。その首は弟子の隊員が軍刀で切り落とし、その弟子も切腹の上、もう一人の弟子に首を切らせたというショッキングな事件。

 

「これだけありましたよ!」

 

 ドデン!

 ロコがテーブルに十冊余りを載せたのは、どれも三島由紀夫の作品。

『潮騒』『憂国』『愛の渇き』『豊饒の海』『命売ります』『恋の都』『私の遍歴時代』『肉体の学校』などなど。

「あれ、金閣寺はないのね」

 真知子が不思議がる。

「ああ、文庫のが二冊あるそうなんですけど、貸し出し中だそうです」

「やっぱり、意識の高い子がいるんだ」

 たみ子が腕を組んで感心する。

「でも、うちぐらいだったら単行本があるんじゃないの?」

「はい、初版本があったらしいんですけど、十年も前に盗まれたんだそうです」

「ああ、値打ちあるもんねぇ」

「はい、金閣寺の初版本なんて万札五枚はしますからねえ」

 真知子の質問もすごいけど、ロコの調査能力もたいしたものだわ。

「まあ、こんなことするような人がノーベル賞とらなくてよかったわよ」

「うん……でも、今の世の中三無主義とかもあるからねえ、こんな人も出てくる」

「切腹なんてもってのほか、腹は切るもんじゃなくて減るものよ」

「そうそう、学食いこうよ(^_^;)」

 わたしの唯一の提案に、みんな同意して学食へ。

 

 残り物のうどんをすすって話題はクリスマス。

 

「ねえ、学校でクリスマスやっちゃだめかなあ?」

 お箸をおいて真知子が指を立てる。

「クリスマスですか!?」

 眼鏡を曇らせたままロコが顔を上げる。

 ププ( ̄m ̄〃)

「もう、笑わないでくださいよ」

「あ、ごめんごめん」

 真知子が、わたしとたみ子の分も謝ってくれて本題に入る。

「文化祭とか体育祭で後夜祭やるかと思ったら無かったでしょ」

「ああ、うんうん、昔はやったらしいけど、ちょっと待って……」

 おうどんの出汁を飲み干してたみ子が話を続ける。

「ファイアーストームやったらしいけど、あれやると、グラウンド傷むんだって。それに、煙とか灰とかも飛ぶし、消防のこともあってやらなくなったんだって」

「そうですよね、火を使うのは学校の許可難しいですよね」

「あ、そうか!」

「グッチはピンときたようね」

「うんうん、クリスマスツリーなら火は使わないよね!」

「中庭の楠でやれそう!」

 たみ子もスイッチが入った。

「さっそく、あちこち打診してみましょう!」

「うん、まずは生徒会と先生たちだね」

 三島事件はあっという間にどこかにいって、わたしたちはクリスマスのたくらみに熱中した。

 

 帰り道、商店街を通ったら『三島由紀夫の本あります!』と本屋の前に張り紙がされて、入って直ぐのところに単行本やら文庫本が平積みになっていた。

 電車に乗っても、みんな新聞を四つ折りぐらいにして三島事件の記事を読んでいる。

 昭和45年だから、スマホなんて無いので本や新聞を読んでいるのは普通なんだけど、みんなが三島事件を読んでいるのは、ちょっと異様。

 車窓からチラッと見えたガスタンクは、いつになく満タン状態。

 でも、まあ、昭和の女子高生も図書室で新聞読み比べる程度、頭は早々とクリスマスモードになっちゃったし、寿川を渡ったころには令和の16歳に戻っていたよ。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

 

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版):第6話《拡散、その兆し》

2023-11-30 09:16:19 | 小説7

ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第6話《拡散、その兆し》  

 

  

 ジングルベ~ル ジングルベ~ル スズガナル~♪

 

 改札を出ると歳末商戦のジングルベル、みそな銀行の前まで来ると赤鼻のトナカイに替わって罵声が混じってきた。

 #&%▽¥◇%$#皿٩(๑ò△ó๑)۶!!  〇皿&%▽¥◇%$#血٩(๑`ȏ´๑)۶!!

 水道工事の現場を通りたくなかったので、一本向こうの道を行こうとしたんだけど、もめ事には直ぐに顔と耳が向いてしまうのは江戸っ子の習い性。

 人だかりの向こうで、ガードマンのニイチャンと学生風がつかみ合いっこ。工事のオジサンたちが作業着にメット姿で間に入っている。

「てめえ、しらばっくれやがって!」

「だから、濡れ衣だって。あんたこそガードマンのくせして、交通妨害してんじゃねえよ!」

「忠八、怪我させちゃだめだぞ、すぐにお巡りが……きたきた!」

 工事のオジサンたちが道を空け、駆けつけたお巡りさんが仲裁と交通整理をやり始めた。

「いったい、どうしたんですか?」

 息は弾んでいたが、男女のお巡りさんは穏やかに聞いた。

「こいつ、盗撮犯なんですよ!」

 ガードマンのニイチャンが、学生風の襟首と腰のベルトを掴みながら言った。

「盗撮?」

「金井さん、ちょっと交代」

「あいよ」

 学生風は、オジサンに後ろ手に捻り上げられた。

「イテテ……」

「オジサンこそ怪我させないように(^_^;)」

「すまねえ」

「これなんですよ」

 ガードマンのニイチャンはスマホを出して、お巡りさんに何か見せた。

「これは、え、君のスマホに入ってるってことは……盗撮は君?」

「違いますよ。こいつがアップロードしたのを証拠にコピーしといたんですよ」

 ここまででだいたいの事情が飲み込めた。

 でも、あたしは頭に血が上って動けなくなった(#'∀'#)。

「……なるほど。こちらがこれを撮っていたのに気づいて、記憶していて、今あなたがここで発見したというわけ?」

「オ、オレが撮ったって証拠、どこにあるんだよ!」

「忠八、こっちを見せろ!」

 工事のオジサンが自分のスマホを差し出した。

「オジサンも撮ってたのぉ?」

 女性警官が、微妙な呆れ声。

「女の子の悲鳴が聞こえてよ、スマホ構えてニヤついてるやつがいるから撮っといたんだ」

「そうそう、これが動かぬ証拠だよ。おめえだろうが!」

「なるほど、スマホ見ながらニヤツイているのは、まさしく君だね」

「うん! 服装も同じです。香取巡査」

 女性警官が大きく頷いた。学生風がわめきだした。

「ぼ、ぼくは、単に街のスナップ撮ってただけなんすよ! それを、女の子のスカート跳ね上げたのは、このガードマンの方なんですから! 悪いのは、こ、こいつ!」

「そ、それは事故なんですよ、事故!」

「事故なもんか。あんたこそ、誘導灯振り回して、女の子を!」

「悪いけど、二人とも署まで来てもらえるかな。すぐそこだから」

「「そんなあ!?」」の声だけは仲良く揃った。

 

「ガードマンさんは、悪くないです!」

 

 みんなの視線がいっせいに、あたしに向けられた。

 

 で、四人揃って、近所の北町警察に行くハメになった。

 

「じゃ、佐倉さんは、ガードマンの四ノ宮君が気になって見つめていた。四ノ宮君は、そんな佐倉さんにアガっちゃって、思わず大きく誘導灯を大きく振って佐倉さんのスカート跳ね上げた。それをたまたま街の景色を撮っていた前田君の映像に映りこんだ……というわけか?」

 お巡りさんが、いったんまとめた。

「でも、香取巡査。前田君の映像は、ハナから佐倉さんをフォローしてますよ」

 任意で出させたスマホの映像を見ながら、女性警官は眉をひそめた。

「たまたま、彼女が前を歩いていただけですよ」

 前田は開き直った。

「他にも、女子高生の映像が多いなあ……」

「たまたまですって、時間帯見て下さいよ。通学時間でしょ。女子高生なんか、どこにでも歩いてますよ」

「でも、これは狙ってるなあ、あきらかに……」

「でも、そうだとしても、パンチラは、これだけですよ」

「たしかに……でも、これは制服フェチですね」

「そ、それは違う。単なるリセウォッチングですよ!」

 リセウォッチングぅ!?

「単なる街頭撮影ではないわけだ。今自分で言ったわよね?」

 なかなかの女性警官だ。

「法律には触れません」

「でも、てめえ、サイトに投稿してんじゃんよ!」

 四ノ宮さんの逆襲。

「うん、投稿の記録残ってるね」

「とっくに削除されてます」

「偉そうに言うな!」

「四ノ宮君は落ち着こう。佐倉さん」

「はい!」

 あたしはビックリして、椅子に座ったまま五センチほど飛び上がった。

「あなたは、こんなことされて嬉しかった?」

「とんでもない、恥ずかしいです! 迷惑です!」

「じゃあ……」

「その前に確認です。香取巡査」

「え……?」

「迷惑に思ったのは、投稿されたことだけ? スカートをナニされたことは?」

「恥ずかしいけど、あれは……じ、事故です(#-_-#)」

 ドン!

 香取巡査が、拳で机を叩いた。

「決まり。前田君、都の迷惑防止条例違反。一晩泊まってもらおうか」

「四ノ宮君と、佐倉さんは、ここに署名して帰っていいわよ。連絡先もお願い。で、これは肖像権の侵害で訴えられるから、家に帰って相談してみて」

 梅ヶ丘の駅まで四ノ宮さんと歩いた。

「ごめん、もともとはオレが……」

「いいの、四ノ宮さんのは事故。学校でも言われちゃった。そんな三十メートルも手前から見つめるもんじゃないって」

「オレこそ……」

「ううん、あたしこそ……」

 で、目が合っちゃって、それでおしまい。

 あたしは梅ヶ丘から豪徳寺まで電車。四ノ宮さんは駅まで迎えにきてくれた工事車両に乗ってお別れ。

 普通だったら、番号の交換ぐらいするかなと思ったけど保留。良きにつけ悪いにつけ、あたしは優柔不断。でも「ガードマンさんは悪くないです!」と叫んだ。そんな自分は新発見。

 

 そして、この問題は、これでは終わらなかった……ダスゲマイネ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 香取            北町警察の巡査
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銀河太平記・192『ココちゃんに決めてもらうっす!』

2023-11-29 15:09:26 | 小説4

・192

『ココちゃんに決めてもらうっす!』こころ 

 

 

 大きいのはダメっすからね!

 

 ツナカンさんにくぎを刺されて唇を突き出すアルルカンさんは、とても宇宙海賊のボスには見えない。

 わたしよりも首一つ、胡蝶さんと比べても10センチは高く、主席さんと並んでも遜色がない八頭身の高身長。

 お顔もボディーも申し分のない凹凸で、切れ長の目には、それ自体が生き物ではないかと思うようなまつ毛が戦ぎ、伝説の宇宙戦艦アニメの主要女性キャラみたい。

 艦長席に収まって、進路の先を見つめている時など伯母様に匹敵する神性を感じる時がある……んだけど、今は別人。

 

「だって、ナガトは持っていきたいぞぉ(`へ´)」

 

 腕を組んだままホッペを膨らます。

 そうっと後ろから近寄って、両手でホッペを押したくなる。

 むかし、お母さんにやれれて『プ』って陽気な音がして、みんなで笑ったのを思い出した。

 西之島のメグミさんにならできる(身長もあまり変わらないし)けど、アルルカンさんにはできません。

 背が高いし、タイミングがむつかしいし。

「ナガトは225mもあるんすよ」

「224.95mだ。レプリカだから5000トンしかないしぃ」

「200mを超えるのはダメっす」

「曳航すればいいじゃないかぁ」

「プロキシマまで行くんすよ、レプリカの船は曳航に耐えられないっす。小さいので我慢してほしいっす」

「けち」

「ああ、もう、こういうことになると子どもなんすから、船長はぁ」

 ガチャ

 レトロなエフェクト音をさせて展望室のドアから船務長のアルミカンさんが入って来る。

「……この雰囲気は、まだ悩んでいるんですか、船長(^_^;)?」

「だって、ツナカンが、ナガトはダメだって意地悪を言うんだぞ」

「ああ……」

 ゲンナリという感じで手にしたバインダーを下ろしてしまうアルミカンさん。

「船長のオモチャ……」

「オモチャ!?」

「お持ちになる携帯品が決まれば出航なんです、そろそろお願いしますよぉ」

「だってぇ(๑> ₃ <)」

「よし、それじゃ、ココちゃんに決めてもらうっす!」

「え、わたしですか!?」

「ムググ……そうだな、ここはココちゃんに決めてもらうか」

「え、え、そんな、わたしなんかぁ(;'∀')」

「お願いするっす!」

「自分もです!」

「ええ……」

 振り返ると、胡蝶さんもサンパチさんも聞こえないふりをしている。

 主席さんは、傷が痛むと言ってキャビンに戻ってしまうし。

 

「えと……じゃあ……これでどうでしょう?」

 

 せっかくのプロキシマβへの出発なのだし、できるだけ穏やかに収めたかったので『松』という可愛い船を指さした。

 

「「え、松?」」

 ツナカン、アルミカンのお二人が気の抜けたようなリアクション。

「あ、あれは無いぞ、ココちゃん。松はナガトを買った時にオマケで付いてきた戦時急造艦だ、もともと撮影で悪役のやっつけられ役で払い下げられたスクラップ同然の艦で、日本でも雑木林シリーズって茶化されてたショーモナイ駆潜艇だぞ!」

「船長、あれなら、いっしょに引き取った『竹』と『梅』も残ってるから三つワンセットでOKですよ!」

「そうだ、松竹梅で縁起もいいっす! 船務長、これで決定!」

「おい、おまえら!」

 アルルカンさんの抗議は無視して、テキパキと出航準備が進められる。

「全乗員に告ぐ、松竹梅を収容の後、ただちに抜錨! 冥王星軌道を離脱、プロキシマβに向け最初のワープに入る!」

「かかれ!」

 グィーーン ブルンブルン ズゴゴォォォ

 ヒンメルのあちこちで起動音がして、たちまちのうちに松竹梅の三隻も収容して、ヒンメルは太陽系を後にした。

 

 ナガトぉーーーーーー!

 

 ワープ準備にかかる艦内にアルルカン船長の悲痛な叫び声が響き渡りました(^_^;)

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版):第5話《レイア姫のパンツ》

2023-11-29 06:27:58 | 小説7

ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第5話《レイア姫のパンツ》  

 

 

「ねえ、こんなドジな子がいるよ」

 四限が終わると佐久間まくさが、スマホ片手にぐずぐずしているあたしの席に来た。

 
 ウ……(#°灬° #)!

 
 かろうじて悲鳴にはならなかった。

「アクシデントなんだろうけど、警戒心ってか、用心しなさすぎ。この子、同じ帝都の子として恥ずかしい」

 スマホには、ガードマンの誘導灯にスカートをひっかけられ、派手にめくれておパンツがむき出しになった瞬間の写真が載っていた。後ろ姿なので制服から学校が分かるだけだったけどね。

 これは、あたしだ……( ; ꒪ꈊ꒪ ; )!

「どうかしたん? さくら、顔が青いでぇ」

「なんでもないよ!」

「あ、こんどは赤くなった……」

 恵里奈まで寄ってきた。

「これ……」

 まくさがスマホの画面を恵里奈に見せた。

「あらら……」

「学校のサイトで、これがトップに出てきたんや」

 あたしは、ゆでだこみたくなった。

「ちょっとちっこくて、わからんなあ……」

 恵里奈は、なんとタブレットを持ち出した。バレー部なんで得点やらフォーメーションなんかの記録用に持っているのだ。

「あ、この子のパンツ、レイア姫や!」

 恵里奈は、人差し指と親指で拡大して確認した。

「レイア姫?」

「スターウォーズに出てくるお姫さま……ん……豪徳寺一丁目……」

 恵里奈は電柱の住居表示を拡大……なんかすんなよ!

「さくら、豪徳寺だったわよね……?」

「ひょっとして………………」

 「「さくら…………!?」」

 あたしは、赤のまま壊れた信号みたいになった。

 「さくらの油断もあるけど、こんなシャメ撮るやつ最低や!」

 恵里奈は憤慨して、タブレットを操作した。

「なにやってんの?」

 まくさが覗き込んだ。

「削除要請や。友だちとしても帝都の生徒としても許されへん!」

「ごめん……」

「さくらのこととちゃうよ。この写真撮った奴!」

「削除できるの?」

「ちょっと時間はかかるやろけど……拡散してんとええねんけどな……」

 

「「で、さくら……」」

 

  尋問みたく、親友二人に事情を聞かれた。

 まず、不用心さを指摘された。

 水道工事中とは言え、一メートル半は道幅が残っている。わざわざ、ガードマンのニイチャンの側を通ったうかつさ。

 それから、三十メートルも前からガードマンのニイチャンを見つめた神経質さ。

「さくらは、どっちか言うとカイラシイ子やねんさかい。そんな子が帝都の制服で見つめてきたら、若い男やったら緊張すんで」

 それから、薄着に感心された。

「この寒いのに、スカートの下パンツだけ?」

「モコモコすんのやだから」

 あたしは、暑さには弱いが寒さには強い。それが裏目に出た。

「そやけど、さくらて、かたちのええお尻してんなあ……あ、時間や!?」

 そう言うと、バレーのセッターは部活の準備に走っていった。

 

 まくさと二人で食堂に向かう

 

 「……ねえ、このクリスマス、温泉でも行かない?」

 まくさが、食堂のラーメンをすすりながらスマホに視線を落として提案してきた。

「そんなお金ないよ」

「交通費だけでいいのよ」

「え、なんで?」

「お父さんの会社のなんだけど、箱根の保養所のクーポンが残ってんの。いまお父さんがメール打ってきた」

「あ、それなら行く行く!」

 で、クリスマスの予定が瞬間で決まってしまった。

 もう例のシャメのことは忘れていた。

 しかし、現実は、まだ序の口でしかなかったのだ……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
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RE・かの世界この世界:217『桃太郎二号と薪拾い』

2023-11-28 16:21:10 | 時かける少女

RE・

217『桃太郎二号と薪拾い』テル 

 

 

 桃太郎二号と薪を求めて山に踏み込む。

 

 カテンの森(152回)ほどではないが、繁茂している木々はどれも神社の御神木ほどの高さと太さがあって、日の光の半ば以上を遮っている。

 黄泉の国が間近いせいか、どの木々も枝ぶりや木の肌が醜怪だ。薪にすると、その炎は鬼火のように青く燃えるのかもしれない。

「なるべく乾いたのを選べよ、生乾きの薪は燻るだけだからな」

「おう、少しは日の当たるところもあるから、そこを狙おうぜ」

「足下に気を付けろ、苔で滑りそうだし根っこもウネウネ這ってるからな」

「うん、どの木も鬼の腕とか脚みたいだなぁ……」

「みたいなだけだ、乾いたのを選べばいい薪になる。それなんかいいと思うぞ」

「おう……黄泉の国は鬼もいっぱいなんだろうな」

「鬼退治がしたくなったか?」

「おう、桃太郎だからな」

「しかし、イザナギさんでも中には入れない。イザナミさんが黄泉の神さまの許可を得て出てくるのを待つだけだ」

「お、おう……でも、こうやって、みんなで待ってるのも悪かねえかもな」

「ほう……」

「ただ薪を拾ってるだけでもよ、あとで、みんなで火を囲んで、みんなで暖かい飯を食うのも捨てたもんじゃねえ……かもな」

「へえ、そうなのか」

「岡山に居る時はきび団子ばっかだったからよ、鬼ノ城で焚火囲んで飯食ったじゃねえか」

「ああ、きび団子も櫛にさして焼いたなあ」

「アハハ、あれは在庫整理みたいなもんだ。一人の時は、あんまり焼いて食べたりはしねえんだ」

「そうなのか?」

「焼き冷ましはカチカチで食えたもんじゃねえから、あんまりやらねえ。ま、今夜は人数も多いし、いっぱい焼くつもりだけどな」

「そうか、それは楽しみだな……よし、ここはこれくらいか、つぎ行くぞ」

「お、おう」

 一カ所で拾える薪はしれているが、木漏れ日の日向はけっこうありそうだ。

「テルのねえちゃんは、鬼とか見たことあるのか?」

「厳密には鬼とは言えないかもだけど、クリーチャーとかな……」

 ムヘンで出くわしたクリーチャーたちが頭を巡る。

 シリンダー……プレパラート……メデューサ……エスナルの悪魔……

 クリーチャーだけではない、共に戦った仲間たち……まだ、こっちの世界では姿を見せていない者も多い。

 ロキ……ユーリア……ポチ……またどこかで出会えるんだろうか。

 わたしを、ここに送り出してくれた二人の先輩。

 それに、断末魔に、それこそ鬼の形相を見せた親友。

 そうだ、桃太郎二号だけじゃない。わたしの異世界の旅も、そういう旅なんだ。

 

「テル?」

 

「あ、ああ、ごめん。なんかボーっとしていた」

「これぐらいあれば、とりあえずいいんじゃねえか?」

「あ、ああ、そうだな(^_^;)」

 いつのまにか山ほどの薪をあつめてしまって、桃太郎二号と簡単な橇をつくって、みんなの待つ広場に運んだ。

  

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

  

 

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版):第4話《佐倉さつきの一日》

2023-11-28 07:27:11 | 小説7

ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第4話《佐倉さつきの一日》  

 

 

 また道路工事だ。

 

 年度末の道路工事は、使い残した予算の消化と決まっているけど、十二月の初旬。そんな理由じゃ無いだろう。

 とにかく幅四メートルの生活道路の工事は迷惑だ。つい先月だったかもやっていた。え……あれは電気工事だったっけ? 

 とにかく邪魔になることに違いはない。前を歩いているオバサンは露骨に嫌な顔をしているのが後ろ姿でも分かったけど。わたしは、そんなことはしない。

 働いているのは下請けか孫請け。働いている人たちに罪はない。十字路のジイチャンガードマンと工事現場の若者ガードマンもそつなく誘導してるし。まあ、道幅の1/3は使えるので「ま、いいか」で、おしまい。

 

 あたしの意識は、駅前のみそな銀行でいくら下ろすかで占められている。

 

 先月のバイト代は、まだ手つかずだ。全額は下ろさない。四万にするか五万にするか……角を曲がったところでは、もう決めていた。

 四万五千。悩んだら中間を取る。今のところのあたしの人生訓。

 朝だっちゅうのにATMは混んでいた。やっぱ師走なんだろう。

 大学生になって初めての師走、新発見が多い。

 この春までは、妹のさくらと同じ帝都女学院に三年通っていた。シキタリのうるさい学校で、卒業してせいせいした。あたしの人生は高校卒業から始まったと言っても過言ではない。

 次の次にATMの番が回ってくる。

 今は長い一列だけど、ATMの直前になると、空いたATMに任意に行ける。なんでもない当たり前みたいに見えるシステム。だけど、これは前世紀の末に、ある銀行の女性行員が考えたものだそうだ。それまでは、ATM毎に人が並んで、振り込みの人の後ろなんかに並ぶと大変な時間のロスだったそうな。

 ちょっとした、コロンブスの玉子。こういう発想は女性ならではなんだろうね。

 おっと、順番が回ってきた。さっさとATMのキーを押す。

 ガーー ギコギコ ギコ ギコギコ ガーーーー

 ガンダム的動作音がして、四万五千円分のお札とカードと通帳が吐き出される。

 お金を財布に入れると、直ぐにATMを離れる。

「う……」

 思わず唸った。

 残額九十五万五千円……四万にしときゃ百万の大台のままだった(;'∀')。

 ま、いいか。年内には大台に戻ること間違いだろーし。

 節約と験直しの為にパン屋へ。

「お早うございます!」

 バイトの女の子が元気に迎えてくれる。名札の武藤利加子の名前は好きな小説のヒロインと音がいっしょなので一発で憶えた。
 たいていは「いらっしゃいませ!」なんだけど、入る時に分かっていたら「お早うございます!」とか「おかえりなさい!」とか言ってくれる。天然なのか接客のツボなのか、とにかく気持ちのいい子だ。

 パン二つとドリンク買っても、100円ほどの節約にしかならないけど、まあ気持ちの問題。


 豪徳寺から電車に乗って渋谷へ。

 
 高校時代から変わらない電車。でも世間が狭いというわけではない。リーズナブルだから。バイトも大学も買い物もウサバラシも、たいてい渋谷で間に合う。あたしなりの哲学だ。

 今日は趣味の映画鑑賞。

 あたしは、今の自分を試行錯誤のモラトリアムだと自己規定している。学部もつぶしの効かない文学部。

 クラブも、お気楽な映画研究部。でも、あたしはお気楽じゃない。なんとなく、自分の将来に関わりそうな予感……ちょっとこじつけ。とにかく面白いから。

 今日の映画は忠臣蔵をファンタジーに置き換えたアメリカ映画。


 昼からはバイト。

 
 渋谷の駅前ビルの一つに入っている『ブックスSHIBUYA』でレジと、本棚、在庫管理など。

「あら、サトちゃん、入ってたの?」

「年末は稼ぎ時だからね(^〇^)」

 明るく笑って補充注文カードの整理をしている。

 サトちゃん。本名氷室聡子、都立S高校の三年生。歳は一個下だけど、バイトとしては同期。

 S高は、けして評定平均の高い学校じゃないけど、仕事の呑み込みは早い。時に学校を休んでまでバイトに来るが、もう進路は決めている。精神年齢や人生経験は実年齢を超えている。ある面不幸な子。

「ヘルプお願い!」

 文芸書の方で主任の声。

「いいよ、あたしが行く」

「すみません、サツキさん」

「いいって、体動かさなきゃ、ナイスバディーが保てませんってね。アハハ」

「アハハ」

 サトちゃんは、バイト仲間の秋元君と体の関係がある。

 サトちゃんはおくびにも出さないが、秋元君の態度で分かる。サトちゃんは深入りせず、それっきりのものにしようとしている。秋元君に分からせるのは、お節介かもしれないけどあたしの役目だと思っている。

「秋元君、この返本、バックヤードお願い」

 さりげに、サトちゃんの視界から外す。あと二三回もやれば、秋元君も悟るだろう……。

 

「おーい、お風呂長ぇぞ!」

 

 いつにも増して長いさくらのお風呂に声をかける。

「いま、上がるとこ……!」

 ザップーーン!

――なんか、あったな――

 さくらのお風呂は長いけど、姉妹として長い付き合い。水音だけで気持ちが分かる。

「ちょっと入んなよ」

 風呂上がりのさくらを部屋に呼んだ。

「なによ」

「なんか、あったろ?」

「……テストでヘマやっただけ」

 国語のテストで準備万端の読みを「じゅんびまんたん」と書いたらしい。

「ヘマの原因は?」

「え……」

「心ここにあらずだから、こんなヘマやったんでしょうが」

 それから、さくらが説明したのはマンガみたいなことだった。

「そりゃ、ガードマンのニイチャン緊張させたのは、さくらのせいだよ。見られてたってことは、さくらも見てたってことでしょうが」

「だって」

「帝都の女の子に見つめられてドギマギするのは健康な男子としては普通の神経だよ」

「でも、スカート引っかかっちゃったんだよ。後ろのオッサンに見られちゃったし」

「へこむなよ、そんなことで。オデン美味しかったよ」

「うん、実は……」

「知ってる。犬飼のおいちゃん、亡くなったんだよね……お母さん具合悪いから、お通夜は、さくらと二人だね」

「うん、よろしく……」

「ガードマンのニイチャンも、さくらのこと可愛いと思ったからドギマギしたんだよ。あたしの時は平気だったぞ」

 そうフォローしてお風呂へ。

 カランの棚のとこに下洗いしたレイア姫のおパンツが絞られたまま置き去りにされている。

 いつもなら「パンツ!」と怒鳴ってやるとこだけど、今日は、そっと洗い物のカゴに入れておいてやった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
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くノ一その一今のうち・86『ウンコを避けただけの足としてはうまくいった』

2023-11-27 10:19:15 | 小説3

くノ一その一今のうち

86『ウンコを避けただけの足としてはうまくいった』そのいち 

 

 

 鬼灯(ほおづき)のような炎が立ったかと思うと二秒遅れて衝撃と爆発音。

 

 ドォーーーーン

 

「北に向かって!」

 サマル王子の耳もとで叫ぶ。

「ウワ! と、ととと……トォ!」

 ズザザザザ!

 衝撃と私の声にジープが揺れ、王子は数秒かかってジープを北に北に向けた。

「いまの爆発は( ゚Д゚)!?」

「…………」

 王子は狼狽えながら、アデリヤは無言で左後方に立ち昇る煙を睨んだ。

「仲間が作戦を変更したんです、直接向かいます」

 どう変更したのかは分からない、直接向かってどうするかも、この瞬間には分かっていない。

 視野の端にウンコをとらえ、とっさに跳ぶように北に向かっただけだ。北からは草原の国の戦闘車両が車列を組んでこちらに向かって来る。

「お二人は、ジープで敵の東側を掠め、D国を突き抜け高原の国に戻ってください」

「ノッチは?」

「草原の国に向かいます」

「草原……敵の本拠地だぞ!?」

「行けば、なにか開けるでしょう。えいちゃん、行くよ!」

『はい!』

 丸めたえいちゃんを手に握ると、ジープを飛び降りた。

「ソノッチぃぃぃ!」

 怒ったようなビックリしたような王女にサムズアップ、全力疾走する。

「えいちゃん、敵の車列の上を飛んだら、これを撒いて」

『これは?』

「風魔流癇癪玉、大した打撃は与えられないけど、派手に破裂して煙が出る」

『了解です!』

「いくよ」

『はい!』

 バシュ

 走りながらえいちゃんを手放すと、みるみる数十メートルの高さに舞い上がるえいちゃん。

 ピンと張った糸を少しだけ右に振ると、グンと手ごたえがあって、えいちゃんは砂煙を上げて驀進してくる車列の上に出る。

 シュパン シュパン シュパン シュパン シュパン シュパパパーン

 連続して車列の上で音がして、車列は濛々とした煙に覆われる。

 ダダダダダ ダダダダダ ダダダダダ ダダダダダ ダダダダダ ダダダダダ

 ドローンの襲撃と勘違いした敵が空に向かって、てんでに機銃を撃ちまくる。

 タタタタタ タタタタタ タタタタタタ

 反対側から乾いた音が響く、アデリヤ王女が機転を利かせて車載機銃を撃っているんだ。

 ダダダダダ ダダダダダ

 敵は、アデリヤの方にも撃ち始める。

 こちらに注意を向けさせなきゃ!

 加勢はありがたいけど、二人を危険に晒しておくわけにはいかない。

 シュパン シュパン シュパパパーン

 こちらからも癇癪玉を投げて、煙に巻く。

 キキー! グワッシャーン! ガッシャンガッシャン! ドゲシ! ボコ! グチャ!

 混乱した敵は、砂煙と癇癪玉の煙の中で多重衝突を起こす。

 

 ウンコを避けただけの足としてはうまくいった。

 

 えいちゃんを手繰り戻すと、車列の最後尾で立ち往生しているバイクを奪って北を目指した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄

 

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版):第3話《渋谷ヒマリエでダスゲマイネ》

2023-11-27 06:49:04 | 小説7

ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第3話《渋谷ヒマリエでダスゲマイネ》  

 

 

 夏休みは成果とか成長とかからは無縁で終わってしまった。

 ま、毎年のことだけど。

 

 でも、まったく無かったわけでもない。しいて挙げれば二つある。

 一つがピンクピーナッツを発見したこと。You Tubeを見ていたら偶然「発見」した。

 アカぬけきっていない少女たちが、ピーナッツのヒット曲歌って踊っていたのだ。

 ピーナッツには昭和の力がこもっていると思う。

 根拠はない。

 何年か前にアイドルグループがピーナッツのカバーライブをやって、お父さんが照れ隠しにあたしを連れて行った。「いやあ、娘が見たいって言うもんですから(^_^;)」という言い訳のためにね。

 落語で似たようなのがあった。

 人前でオナラをする癖がある母親が、万一の言い訳のために息子を連れていく。ついていくと十銭の小遣いがもらえるのだ。

 ところが、ある日、母親は二回も訪問先で放屁してしまった。

「まあ、この子は人様の前で二回も。申しわけありません(^_^;)」

「お母ちゃん、二回で十銭は安いよ(○`х´○)!」

 で、バレてしまうという小噺。

 あたしは、大人しくしていたし、お父さんが心配するように人に言い訳しなきゃならない状況にはならなかった。

 で、あたしがハマってしまった。

 ハマるといっても熱烈なおっかけなんかはしない。動画サイトで、ピンクピーナッツを見つけて観たり聞いたり。スマホのマチウケにするほど浅はかでもない。

 言っとくけど、あたしに音楽的才能なんてのは無いんです。

 ただ、なんとなくいいなあと思って聞いている程度。他にもキャンディーズ、中島みゆき、イルカ(名残雪だけ)、かぐや姫、スマップとか、ちょっと古いのが好き。スマップがピンクレディーとコラボした映像見つけた時は、ちょっとだけ興奮した。

 AKBも子どものころはご贔屓だった。イカシテいながら素人っぽいところがいい。

 ピンクピーナッツには、それがある。SNSで呟いたら、十人ぐらいの人がリツイート。ひょっとしたら先見の明があるのかも。

 もう一つの成果は『はるか ワケあり転校生の7カ月』の発見。以前は『はるか 真田山学院高校演劇部物語』でネットに出ていた。タイトルを変えて本物の本になったのでビックリするやら、先見の明がビビッとくるやら。

 主人公のはるかが、今時こんな女子高生いるかって感じなんだけど。ちょっと抜けててピュアなところがいい。で、坂東はるかって女優さんのセミドキュメンタリー風。あたしのアンテナの周波数に合っていた。


 今日はPTA総会のために短縮授業なんで、午後から渋谷ヒマリエの本屋さんに行った。恵里奈は部活があるので、マクサを誘う。

「あ、絵の展示会やってる」

 エレベーターの中でマクサがささやいた。

 見ると印象派っぽい広告が貼ってある。

 印象派は好きだし、タダで観られるので本屋さんの階は飛ばして催事場へ。

 H・大林という人の絵だ。港を海側から見た絵で『魔女の宅急便』の冒頭に似たものを感じる。ヨットの帆柱が林立する向こうに、ローマ時代の水道橋が見えて、その下のあたりが入江か川でがあることを暗示している。印象派的な光の使い方もいいけど、見えないところに空間の奥行きを感じさせるところがいい。

 このコンパクトでツボを押さえた評はマクサ。お茶の家元の娘だけのことはある。

「ちょっと、そのまま、ガラスに目の焦点合わせてみそ」

「え、なに?」

「いいからいいから……」

 あたしが言うとマクサもようやく理解した。

 ガラスには、あたしたちと同じ帝都の制服着た子と、乃木坂学院の制服きたアベックが絵を観ているのが映っていた。

 乃木坂はぜんぜん方角違い。これは、乃木坂の男子が気を使って、渋谷にまで来て絵の鑑賞しながらのつましいデートとにらんだ。

「ウラヤマだなあ……」

 マクサが唸る。

 あたしも、このアベックのありようを好ましく思った。だからして、お邪魔虫にならないよう、二人の視界に入らないように気を使った。

 

 ところが、ここから問題なのよ!

 

 下の本屋さんに行ったら、また、このアベックに出くわした。本屋さんに来ることは問題なし。とっても微笑ましく、あたしのアンテナには好ましく感じられた。

 ところが、ところがよ……あとがダメダメ!

 女の子は、ファッション雑誌のコーナーで若者向きのファッション雑誌見ながら「かわいい(^▽^)!」「いけてる(*^▽^*)!」を連発。よくよく見ると、ゴスロリ特集のページでキャピキャピ。男の子は、スマホでモバゲーとかやってる感じで、テキトーに返事。さっきのつましさはどこ行ったんだ!

「ちょっと、よしなさいよ!」

 マクサの制止をを振り切って横に並ぶ。彼女と同じ雑誌めくって「ダスゲマイネ」と独り言。ダスゲマイネが分かるわけないだろうと思ったら、女の子はムッとして、こちらをチラ見。

「あ、佐倉さん( ゚Д゚)!?」

「あ、(学級委員長の)米井さん( ゚Д゚)!」

 疎遠なクラスメート米井由美と初めて会話を交わした瞬間だった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長

 

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鳴かぬなら 信長転生記 153『西安近郊兵馬俑の行軍』

2023-11-26 14:48:08 | ノベル2

ら 信長転生記

153『西安近郊兵馬俑の行軍』信長 

 

 

 戦国武将は勘が働く。

 

 勘は二種類だ。

 一つは、いつ、誰の味方に付くか、いつ裏切るか、あるいは捨てるか。

 信玄が存命中の俺は子犬のように信玄に媚びていた。「信玄公、ご上洛の折には、この織田上総之介信長めが御馬の轡をとらせていただき、都をご案内する所存にございます」とか手紙を書いて、季節ごとの贈り物も欠かさなかった。他の戦国大名共の五割り増しには金を使っていたぞ。中身がすごいのは言うまでもなく、入れ物のパッケージも、他の大名は業者まかせの段ボールとかだったが、俺は輪島塗の漆器だ。それも、スプレーで二三度噴いておしまいというようなものではない。漆器職人に前の年から注文しておいたもので、数十回塗り重ねたものだ。ある年、俺からのプレゼントが届いた時、信玄は小柄でパッケージの箱を削ってみたら、漆の塗りが丹念どころの騒ぎでは無かったので「信長の奴、ほんとうに儂を好きなのかもしれぬ……」と言っていたって、武田滅亡後に家康の家来になった穴山梅雪が言っていたぞ。足利義昭が奈良の寺を脱出して将軍になりたいと言って、みんな知らんふりをする中、真っ先に保護したのも俺だったし、真っ先に捨てたのも俺だ。

 もう一つの勘は戦だ。

 嗅覚と言ってもいい。まだ敵が準備にもかかっていないのに――攻めてくる!――と感じる勘だ。金ケ崎で市の使いが持ってきた小豆袋を見て、俺は後ろから迫って来る浅井軍の馬蹄の轟きが聞こえたぞ。信玄亡き後、勝頼が武田の家督を継いだと聞いた時、勝頼との決勝戦は長篠、それも鉄砲で打ち破るイメージが浮かんだ。

 

 敦煌を出発したばかりの俺は、その勘が働かなかった。

 

 山の向こうに雲のような砂塵が舞い上がり、それが幾万の軍勢であると知れても幻にしか見えなかった。

 敦煌から東に進んで、さらに西安を過ぎ、三国志の中原(ちゅうげん)に出るまで、妖怪はともかく大軍勢に攻められるなど考えられないからだ。

 距離的に近いのは諸葛茶孔明が軍師を務める蜀の軍勢だが、曹操の魏が活発化しつつある今日、成都をがら空きにしてまで西に軍を進めることはあり得ない。

 呉は、蜀と魏に挟まれているし、いかな曹操も蜀と呉を倒さなければ西域に進軍するなどあり得ることではない。

 

「兵馬俑だ!」

 

 茶姫が沙悟浄に変身しているのも忘れて叫んだ。

「へいばようブヒ?」

 市が八戒のまま問い返す。

「ああ、秦の始皇帝の墓に隣り合って埋められた原寸大のフィギュアどもだ!」

「すごい数だぞウキ」

「発掘されたもので2000余り、未発掘のものを入れれば万に近いと言われている。少し面倒だ……」

「隠れるかウキ?」

「いや、向こうも気づいている。三蔵法師を下ろして、全員で土下座……いや、手を合わせてやり過ごそう」

「じゃ、茶姫もブヒ」

「あ、素に戻っていたッパ(;'∀')」

 沙悟浄に化け直した茶姫共々、三蔵法師を下ろし跪いて合掌する。

 

 ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ

 

 騎兵を先頭に、ざっと数えて5000以上の軍勢が通っていく。

 近くで垣間見ると、プライズ品のフィギュア程度に彩色されたものもあるし素焼きのままのものもある。中には首や腕を欠いているものや、ひびの入ったものもある。

 しかし、その走りっぷりは戦場に赴く軍勢そのものだ。足並みにもザクザク揺れる槍の群れにも長篠の戦場に赴いた織田軍団のような緊張感がある。

 ガラガラガラガラガラガラガラガラ

 けたたましい音を立てて通過していくのは十頭立ての馬車。

 馬車は小屋ほどの大きさがあって、御者の他に警備の兵が前後左右に乗っている。

 普通に考えれば、これに乗っているのが始皇帝だろうが……馬車の後ろ、50騎あまりの騎兵が付いている、その真ん中にいる者こそが始皇帝だろう。オーラが他の騎兵とはまるで違う。

 いかん、ガン見しては気づかれてしまう。

 

 十分以上かかって、ようやく全軍が通過していった。

 

「あれは、いったいなんなのだウキ?」

「世が乱れると、始皇帝は兵馬俑を動かして天下を見回るという噂があった……ッパ」

「天下を見回るブヒ?」

「ああ、始皇帝は、いまだに天下は自分のものだと思っているんだッパ。よく言えば責任感、有体に言えば欲、執着心だッパ」

「でも、あんなものが走り回ったら、大騒ぎにならないブヒ?」

「常人には見えないと言われているッパ」

「俺たちに見えるのは…………きっと西遊記に化けているからだなウキ」

 他の想いがうかんだが、そういうことにした。二人も異議は無さそうで、三蔵法師は、まだ瞑目して念仏を唱えている。

 

「あ、まだなにか来るブヒ!」

 

 猪八戒の指の先、さっきの軍勢に比べれば線香のような砂煙をあげ、ヨタヨタ走って来る騎馬があったぞ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版):第2話《ダスゲマイネ》

2023-11-26 06:40:13 | 小説7

ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第2話《ダスゲマイネ》  

 

 

 国語の試験、準備万端の読みを「じゅんびまんたん」と書いてしまった(;'∀')。

 

 それくらい、昨日の学校では落ち着きが無かった。

 理由は言うまでもない……水道工事のガードマンのニイチャン。

 悪気がないのは「あ!」って声でも分かっている。

 でも後ろを歩いていたサラリーマンのオッサンに「お!」と感動されてしまった。

 誘導灯がスカートにひっかかって派手にスカートが翻り、オッサンに見られてしまったのだ。
 
 あたしは「う!」と唸って走るしか無かった。

 

 ボロボロのテストで、まくさの「マック寄ろうよ!」も断って真っ直ぐ家に帰った。

 

 水道工事が続いているといけないので、いつもの通学路を避け豪徳寺の駅から真っ直ぐみそな銀行の前を通りベスト豪徳寺の前の道に回った。

 みそなの前を通るときチラ見したら、工事は昼休み。お爺ちゃんのガードマンが一人で立っていた。だったら、普通に通ればいいんだけど、回り道するって決めたので、曲がることができない。

 こういう見栄っ張りで、融通の利かないというか、反射神経の鈍さは自己嫌悪。

 ダスゲマイネ

 口を突いて出てくるのは夏休みに嵌った太宰治。ドイツ語のDas Gemeine(俗っぽさ)と、津軽弁の「んだすけまいね」(そんなだからだめなんだ)という音をかけているらしい。

 気持ちがクシャっとしたときに出てしまうようになった。恵里奈みたく「じぇじぇじぇ!」なんて言える子はいいなと思う。

 

 家に帰ると悲惨が二つ。

 

 一つは、お母さんが風邪でひっくり返っていたこと。朝から咳き込んでいたのが本格的な風邪になったみたい。

「ごめん、さつき(姉)も遅いから、晩ご飯お願い……」

「大丈夫?」

「うん、犬飼さんのお見舞いに行って病院で風邪もらってきたみたい。救急箱の風邪薬とお水くれない」

「うん。で、おじさん、どうなの?」

「あたしがお見舞いに行ったときは、少しお元気だったんだけどね……」

 あたしは、お母さんの「けどね……」にひっかかった。

「ひょっとして……」

 二つ目の悲惨。

「うん、今朝方ね……明日お通夜で、明後日お葬式。それまでに治さなくっちゃ」

「そうなんだ……」

「さくら……これ便秘薬だわよ」

 

 ダスゲマイネ(;'∀')

 

 犬飼さんちは、お向かい。

 

 子どもの頃は娘さんたちが手を離れていたこともあって、よく遊んでもらった。

 自転車に乗れたのもおじさんのおかげ。お母さんの知らないうちにお風呂に入れてもらって『さくらが行方不明!』と大騒ぎになったこともある。

 子供心にも職人あがりのおじさんの引き締まった体をよく覚えている。今なら、近所でも幼女をいっしょにお風呂に入れるなんて問題なんだろうけど、うちの桜ヶ丘あたりは、珍しく昔の気風が残っていた。ご町内を大騒ぎと大笑いにさせた懐かしい思い出。

 駅前に行くまではホカ弁に決めていた。

 とてもお料理する気分じゃない。

 ところが、水道工事を一本避けた道を通っていると、風に乗ってオデンの匂いがしてきた。

 あ、そうだった……

 突然の風がページをめくったように記憶をよみがえらせた。

 お風呂に入れてもらったあと、オデンをご馳走になったんだ。出汁の取り方がうちと違って、とても美味しく感じた。竹輪麩と玉子が特に美味しかった。

 で、ホカ弁屋からスーパー・ベスト豪徳寺に切り替えた。


「これ、さくらが作ったのか!?」

「「ホント!?」」

 お父さんも、お姉ちゃんも目を剥いた。

「犬飼さんちのオデン思いだしちゃって……」


 あくる日のお通夜には、お姉ちゃんと二人で行った。

 お母さんは風邪の具合がもうひとつ。お父さんは仕事でお通夜には間に合わないからね。

 

「おじさん言ってた。さつきちゃん、自転車乗れると世界が広がるぞって」

「え……あたしも言われたよ!」

「じゃ、姉妹そろって恩人だ……」

「おでんと自転車見るたびに、思い出しそうだね」

「じ、自転車にしなくてよかったね、今日もおでん……食べたとこだし……」

 お通夜の会場に着いたころは、お姉ちゃんは涙でボロボロだった。

 あたしも十分悲しいんだけど涙が出ない。オデン作りながら十分泣いたからかもしれない。

 内緒だけど、お出汁の味見をしようと思ったら、ポツリと涙がお鍋に落ちてしまった。

 でも、こんな状況と場所で泣けないなんて女の子らしくない。

 

 ダスゲマイネ……

「ん?」

 

 またまた呟いて、お姉ちゃんに変な目で見られた……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
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やくもあやかし物語2・017『木葉隠れのオーベロン』

2023-11-25 14:54:21 | カントリーロード

くもやかし物語 2

017『木葉隠れのオーベロン』 

 

 

「少しだけ後ろめたさはあるみたいだ……」

 

 森の中の獣道を進んで行くと、ネルが呟いた。

「後ろめたい? 誰が?」

「あ、遠くから結界張って見送りに来たやつらか!?」

「そんなこと言うもんじゃないよ、ハイジ」

「ティターニアだよ」

「あ」

「ああん、森の女親分か?」

「獣道とはいえ、ゲームじゃないんだから、こんなに歩きやすい道があるはずがない」

「え、そうなの?」

「かすかに妖力も感じる、ティターニアか、その仲間が作っておいたんだ……そうだろ、オーベロン?」

 ヒッ

 小さくしゃっくりしたような声がしたかと思うと、薮の向こう、木の根元あたりがホワっと光った。

「隠れても無駄だ! 見えてるぞ、オーベロン!」

 シュバ

「「うわ」」

 気が付かなかったのでハイジと二人で驚いてしまった。

 木の葉が舞いあがって……それから何かが現れるのかと思ったら、木の葉は小柄な人の形にわだかまった。

「……やっぱり見えていたかベロン」

 なんか、一昔前の人工音声みたいな声だ。それに「ベロン」てなんだ?

「国は違うがエルフも森の民だからな」

「そうだな、コーネリア・ナサニエルも森の民だったな……ウフフベロン」

「姿を見せたということは、やっぱり後ろめたいか」

「ちがう、めずらしいから見に来たベロン」

「まあ、いいだろ。見に来たのなら、こっちも自己紹介しておこうか」

「あ、それはベロン(;'∀')」

「ヤクモ、おまえから」

「う、うん」

「あ、木の葉の塊に見えているけど、上から5センチくらいのところが目だ、見つめて話してやれ」

「くそ(;'▲')」

 ザワザワザワ

 木の葉が騒いだ。

「下から5センチ、逆立ちしたってダメだからな」

「わ、わかった(;'▢')ベロン」

「元に戻った、上から5センチ」

「あ、えと、小泉やくもです。この度は、森のみなさんにご迷惑をかけて、デラシネのことは責任……どこまで持てるかわかりませんけど、できるだけのことは……」

「よしよしベロン」

「下手に出ることないからね、出てきたっていうことは後ろめたい証拠だから」

「よ、よろしくお願いします(^_^;)」

「お、おう、こちらこそなベロン」

「アルプスのハイジだぞ……で、ネル、あの葉っぱの吹き溜まりみたいなやつはなんだ(ΦωΦ) ?」

「ティターニアの夫のオーベロンだ」

「え、ということは森の王さまなのか!?」

「そうなのだ、エライのだベロン<(`^´)>」

 葉っぱをギュっと寄せ集めて偉そうにすろオーベロン。

「アハハ、なんか蓑虫みたいだぞ」

「み、蓑虫言うな、ベロン!」

「それで、ティターニアじゃなくてオーベロンが出てきたのは、なぜ?」

「お、おう、見届けるためベロン……おっと、もう一人いるだろベロン」

 オーベロンの目(のあたり)が、わたしのポケットのあたりを見ている。

 あ、御息所だ!

『チ……見えてたのぉ、蓑虫ぃ』

 めちゃくちゃ嫌そうに舌打ちしをてポケットから顔を出す御息所。

「ミヤスドコロって言うのか、ベロン」

『六条の御息所よ、憶えといて』

「おまえ、サキュバス ベロン?」

『サキュバスじゃないし』

「……でも、人に夢を観させる系のアヤカシ……ベロン?」

『なによ』

「…………う、ま、まあいい、ベロン。正体もバレたし、少しは助けてやらないこともないベロン。そのかわり、後で一つだけ頼まれて欲しいベロン」

『なんでもってわけじゃ……チ、行ってしまった』

 

 ガサガサガサ……

 

 獣道がいっそう森の奥まで広がっていった……。 

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン

 

 

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版):第1話《佐倉さくらの事情》

2023-11-25 05:55:35 | 小説7

ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第1話《佐倉さくらの事情》  

 

 

 五十メートル手前の十字路のところに『車両通行止め』の看板とオジサンのガードマンが立っている。『車両通行止め』ということは自転車とか歩行者は通っていいんだ。

 迂回するのは面倒だし、期末テストの初日だし。

 それで、いつもの通り十字路を左折すると、四メートル幅の生活道路の半分を塞いで水道工事をやっている。

 五十メートル向こうに工事現場。

 

 で、あたしは視線を感じてしまったのだ。工事現場に立っている若者ガードマンの視線。

 

 明らかにルーキーで、誘導のタイミングを計ってあたしの方をチラチラ見ている。

 これがベテランのオジサンガードマンだったら、程よい距離まで視線なんか送ってこない。四五メートルの距離で、少しだけニッコリして赤いプラスチックの誘導灯を揺らし、あたしは、ほんの少し頭を下げておしまい。

 でも、このルーキー君は、角を曲がった時から、ずっとあたしを見続けている(^_^;)。

 チラチラじゃなくて、メットの下の目でガン見。

 あ、ひょっとして、この制服のせい( ゜Д゜)!?

 あたしは、渋谷にある帝都女学院の一年生。

 東京の女子高のベスト5に入るほど、白を基調としたセーラー服は人気がある。『セーラームーン』のモデルになったほど有名なんだ。

 だから、それだけで目をひく。あたし個人じゃなく帝都の制服が。

 初冬なのでカーディガンは羽織っているけど、前のボタンは開けたままだ。余計に白のセーラーが強調されてるぞ。

 きまりが悪い。

 手前の道で曲がっておけばよかったよ(-_-;)。

 でも、今さら引き返すのは不自然。

 忘れ物したふりとか……ああ、演技には自信ない。

 ああ、意識するぅ……向こうもしてるしぃ。

 意識すると怖い顔になるんだあたしって。

 失礼だと思われるかもしれない。思う、思うよね? あたし個人としてではなく帝都の女生徒として、帝都が失礼だと思われる……学校の看板しょってるんだ、この制服を着ているときは。

 

 あたしはタイミングの悪い子だ。

 

 入学して半年以上になるというのに、まだ入部するクラブを決めかねている。仲良しのマクサと里奈は入学と同時にクラブを決めていたぞ。

 性格改造のために演劇部に入ろうと思ったけど、帝都の演劇部は週二回しか活動していなくて、見学に行ったときもショボかった。

 それでも文化祭の出来次第ではではと思ったんだけど、クラス劇の方が面白いというシロモノだった。

 でも、この状況、演劇部なら忘れ物のふりして引き返せる? 

 せめて、怖い顔やめられる? 無理無理無理(;'∀')!

 いっそ、吹部に入って、中学以来のフルートでもやろうかと思った。

 でも、これは文化祭の演奏見て体中で感じた吹部の迫力と実力に尻込みしてしまった。

 あたしは引っ込み思案というほどじゃないけど、人とテンポが合わない。

 たいていの子は、流れに乗って適当に遊んだり、喋ったり。

 あたしは、それが苦手。

 間違っても、渋谷の駅とかビルのトイレで私服に着替えて遊ぶことなんかできない。

 友だちとのお喋りでも、ほとんど聞き役。

 たまに返事しても気のない「あ、そう」と、間の抜けた「そうなんだ」の二つしかない。「でもさ」とか「ところでさ」などと会話を中断して自己主張したりするのが苦手。

「あいつ嫌い」と誰かが言ったとする。「なんで?」と聞くと、相手の思いに反対か賛成の意を表さなければならない。それは別にいいんだけど、必要以上に同調したり、反発したりはしない。女の子の好き嫌いなんて、ほとんど退屈しのぎか、憂さ晴らしのネタでしかない。で、そういうのが、いつのまにか本当めかしくなって、場合によってはイジメっぽくなったりするんだよ。

 聞いたら考えてしまう。なんで「嫌い」って言うのか。なんであたしに言うのか。だから、とりあえずの返事は「ああ、そう」「そうなんだ」になってしまう。
 

 それかと……あたしには名前コンプレックスがある。

 

 さくらって名前はいい。

 でも苗字が佐倉。

 呼んだら「さくらさくら」になってしまう。アクセントが苗字と名前とじゃ微妙に違うんだけど、ちゃんと区別して呼んでもらったのは保育所の卒園式ぐらい。あとはみんな「さくら」のリフレイン。

 そんなこんなで友だちは少ない。

 出席番号で一つ前の「まくさ」、フルネームで呼ぶと「佐久間まくさ」 

 分かるでしょ、この子も名前コンプレックス。

 四月のクラス開きでは、妙な名前が二人も続いたんで、初日から笑いのタネになってしまった。

 もう一人の友だちは山口恵里奈。

 大阪出身の子で、バレー部でセッターをやっている。ボールも人の気持ちを受け止めてセットするのがうまい。学年の最初で隣同士だったこともあって、恵里奈だけは普通に喋れる。

 もっとも恵里奈はセッターだけあって、たいていの人間とはうまくやっているんだけどね。

 多感な年頃であることを差し引いても、あたしのは、やや度を超している。

 親が女子高に入れたがったのがよく分かる。

 共学ではとてもだろう。男の子と喋るなんて、まるで動物を相手にしているようなものだ。
 
 その男の子と言っていい若者ガードマンが目前に……迫ってきたよ(;'∀')。

 その子も緊張しているのが側を通るとよく分かる。

「狭いっす……気をつけ……」

 彼は誘導灯を大きく振った。あたしはカバンを右手で持っていたので、左側にいる彼との距離は二十センチほどになってしまった。で、彼の誘導灯が、あたしのスカートをひっかけてしまった!

「あ!」「う!」「お!」

 三つの感嘆詞がいっしょになった。

「あ!」はガードマンのニイチャン。「う!」はあたし。「お!」は後ろを歩いていた学生風。

「ご、ごめん(#'∀'#)!!」

 o(≧◇≦)o…………!!

 あたしはミサイルみたいになって豪徳寺駅に走った!

 

 グヌヌ……

 

 その日のテストがさんざんだったのは言うまでもない。

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・063『今朝の寿川は微妙に荒れている』

2023-11-24 15:48:20 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

063『今朝の寿川は微妙に荒れている』   

 

 

 家を出て一分ほどで橋を渡る。

 

 コンクリート製で欄干の親柱に『戻り橋』と彫られている。

 ちなみに、最寄りの橋は『寿橋』で、家からは30秒。

 なんで、わざわざ遠い『戻り橋』を通るのかというと、わたしは毎日半世紀以上の時を遡って1970年の宮之森高校に通っているからだ。

 そのいきさつについては、物語の最初の方にあるから気になる人は読んでくれると嬉しいかな。

 戻り橋は、人の目には見えないんだ。

 袂のところに『M』のシルシがあって、それを足でツンツンすると橋が現れる。

 現れても他の人には見えない。

「ねえ、他の人にはどう見えるの?」

 お祖母ちゃんに聞いてみたことがある。

「見えないって言っただろ、魔法少女とか魔属性のある者にしか見えない」

「そうじゃなくって、渡っている時のわたしの姿」

「……消えたように見える」

「消えたように?」

「うん、だから近くに人が居ないことを確認してから渡るわけよ」

「な、なるほど(;'∀')」

 だから、家を出てから橋を渡るまでは前後の100mぐらいは意識する。

 100m以内に人が居たらやり過ごす。まあ、たいていスマホ見るふりしてタイミングを計る。

 

 今日も、スマホ見るフリして宅配の車をやりすごしてMをツンツン。

 

 ゴォォォォォォォォ

 橋の下を川が流れる。

 

 位置的には寿川なんだけど、渡っているのは時の流れ。

 時の流れなんだから、渡り切ったらいつの時代のいつの時間に行くか分からないだろうと思うんだけど、「そのために橋があるんじゃないか」とお祖母ちゃんの説明。

 なるほど、戻り橋は、わたしがボンヤリしていても、ピッタリ1970年に着くように調整済みなんだ。

 

 グゴォォォォォォォ

 

 あれ?

 微妙に川の流れが違う。

 微妙に荒れている……チラ見すると、流れも少し乱れて小さな渦が出来かけては消えていく。

 こういうのには、あまり気を取られない方がいい。

 本能的にそう思って、速足で渡り切った。

 

 ひょっとして、学校でなにか事件とか起こるのか……少し心配になったけど、なにごともなく授業が始まり、現国の時間もいつものように自習になって、いつものように昼休みになって、いつもの仲間と学食に向かう。

 たみ子一人が国語準備室経由。

 さすがの杉野先生も、なんにもなしでの自習は気が引けると見えて、今日は自習課題を出しいていたんだ。

 それを届けに行ったから、ちょっとだけ遅れる。

 ロコが代わりにB定食を買って四人掛けのテーブルに着く。

 

 ササササと、ちょっと急ぎ足でたみ子が戻って来る。

 

「え、なにかあったですか?」

 ロコが、さっそく顔を寄せる。

「準備室のラジオで言ってたんだけどね、三島由紀夫が切腹したって!」

「「ええ!?」」

 ロコと佳奈子が目を丸くして、ちょうど席に着こうとしていた真知子はあやうくトレーをひっくり返しそうになった。

 わたしは『切腹』の二文字にはビックリしたけど、三島由紀夫という名前にはピンとこなかった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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RE・トモコパラドクス・88『カッパドキアの朝日』

2023-11-24 09:51:15 | 小説7

RE・友子パラドクス

88『カッパドキアの朝日』 

 

 

 いったん撤退せざるを得ない……

 

 司教を捕らえるどころか、このままでは自分たちも無事では済まなくなる。

――いったん撤収しよう――

 滝川も思念を飛ばしてきた。

――それしかないみたい――

――ポチ、ハナ、撤収!――

――ラジャー!――

 ビシャビシャビシャ!

 申し訳ないとは思いながら、アンデッドと化した住民たちを粉砕しつつ出口を目指す。

 トラップの大半は無力化されていたが、それでも僅かに生きているものや、刃や針をむき出しにしたまま固着しているものがあって、岩窟を出たときにはボロボロになってしまった。

 

 ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ

 

 肩で息をして、そして気づいた。

 

「ハナ?」

 ハナの姿が見えない。

「ポチ、ハナはどうした!?」

「え……しまった(;'皿')」

「待て、今戻ったらおまえもやられる」

「だって、ハナがぁ(;'▢')!」

「ハナぁぁぁぁ!!」

 ハナは、まだ四カ月の子犬なのだ、御子母子を助け、アンデッドたちを破壊せずに無力化させ、クリーチャー共を倒し、その上で司教を確保する……無理だった。

 ポチは滝川の腕の中で足掻き、友子は地面に両手をついた。

 

 ピッシャーーーー!!

 

 突然岩窟の中から閃光がほとばしり出て、三人は突然の雷に打たれたように目を庇った。

「ハ、ハナが!」

「待て、なにか出てくる」

 滝川に押しとどめられて、岩窟の入り口を見ると、三人の人影が出てくるのが見えた。

 一人は女性、あるいは女性型の義体あるいはロボットで、二体の男性型を引き連れている。

 余光を残していた岩窟がようやく収まって、三人の姿が明らかになってきた。

 

「し、栞!?」

 

 それは、50年後の未来、黒部峡谷近くの組織本部を壊滅させたとき以来の栞の姿であった。

「お久しぶりお母さん」

「どうして、栞が……」

「あの司教は、わたしたちの時代から越境してきた指名手配犯。トリップシステムをクラッシュさせて逃亡して来ていたの。復旧に時間がかかってしまって。ごめんなさい」

「とぎれとぎれに通信してきたのは、そういうことだったのね」

「うん、古いシステムを構築し直して、なんとかしようと思ったんだけど、あれが精いっぱいで……あ、そうだ」

 後ろの男性型を促すと、抱えていたポッドを示した。

「中でハナを保護したの。でも、怪我がひどくてAEDポッドに入れて保護してる。この時代のスキルじゃ治せないから、しばらく預かるわ」

「そうだったの、ありがとう栞」

 うん……と頷いた栞の視線が滝川に向いた。

「あ、こちら……」

「助かりました中佐」

「中佐?」

「え……言ってないんですか?」

「あ、いや……」

「この人は、特務師団の滝川中佐、除隊してからはあちこちリープしては……」

「それ以上は個人情報だ中尉」

 滝川が退役した義体兵士であることは承知していた友子だが、考えて見れば21世紀の時代に、こんな高度な義体化の技術があるはずもない。

「中佐のお働きが無ければ、この出動はありませんでした」

「滝川さん、いつから、わたしに?」

「気まぐれだから憶えてないよ」

 目線を避ける滝川だったが、友子の頭には、子どもの頃にディズニーランドで撮った写真が浮かんでいた(47『友子のマッタリ渇望症・3』)

「中尉、司教の移送が完了したようです。帰還命令を受信しました」

 後ろの男性型が無機質に告げる。この二人は、ただの部下なのかお目付け役なのか分からない友子だ。

「ハア……じゃ、そろそろ行くわ。ハナは直り次第届けるから」

「うん、頼むわ」

「それじゃ」

「それから……」

「なに、お母さん?」

「お母さんじゃなくて『トモさん』だよ」

「え、あ、ごめん、トモさん!(^_^;)」

 初めて娘らしい笑顔を向けると、部下と共に光の中に消えて行った。

 

「さあ、わたしたちも……あれ?」

 

 滝川の姿も消えて、ポチ一人が気まずそうにお座りしていた。

 

「気まぐれなオッサンでぇ……家まで送るように言いつかってるんで……行こうか、トモさん?」

 

 地球離れした岩山の向こうに、何事も無かったように朝日が昇るカッパドキアの風景が広がって消えていった。

 

 

 友子パラドクス   完

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

 

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RE・トモコパラドクス・87『混戦!乱戦!』

2023-11-23 06:54:10 | 小説7

RE・友子パラドクス

87『混戦!乱戦!』 

 

 

 殺すなら簡単だ。

 

 相手は動きの鈍いアンデッド、クリーチャーも物の数ではない。

 友子は富士の樹海や渋谷で大勢の義体を相手に戦った。滝川も引退したとは言え歴戦の義体戦士。

 千余のアンデッド、多少のクリーチャーなど五分もあれば殲滅できる。

 しかし、御子の女の子と母親が居る。クリーチャーたちも司教によってメタモルフォーゼさせられているとはいえ町の住人、司教を一人を殺すか無力化できれば元に戻せるだろう。アンデッドたちを人として蘇らせることはできないが、倒せば人の亡骸、身体が爆散したり手足がバラバラになるような倒し方はしたくない。手間はかかるが四肢の関節を外すぐらいしか手が無い。

 それに広場とは言え、洞窟の中だ、上下の動きは制約される。

「ポチ、ハナ、司教が逃げないように纏いつけ!」

「「ラジャー!」」

「御子とお母さんは、岩陰にでも隠れて!」

 左右に分かれアンデッドを二分し、御子母子の安全にも気を遣う。

「「………………」」

 しかし、御子親子からは返事は無い。返事どころか、乱戦になろうという状況で身を庇うそぶりすらない。

「マインドコントロール!?」

 グボ! グス! グギ!

 アンデッドたちの関節を攻めながら親子の様子を見る。

「眠らされている!」

 滝川が三体まとめて相手にしながら親子の傍に跳んで確認する。

「ハナ、ポチ、二人を護って!」

「うん!」「でも……」

「あ、すまん!」

 滝川がいなしたアンデッドの隙をついてクリーチャーが飛びかかって来る、そのあおりで、数体のアンデッドが弾き飛ばされて母子の方に飛んで行く。

「「トリャー!」」 

 ハナとポチが身をもって庇う。

「うわ!」「きゃー!」

 しかし、アンデッドの中には100キロ近い体重の者もいて弾き飛ばされてしまう。

 グス! グギ! グボ! グス! グギ!

 ビシバシ! ドゲシ!

「ポチぃ! ハナぁ!」

 数体のアンデッドを無力化し、クリーチャーを叩きのめし、その合間にポチたちと母子に目を向けるが、アンデッドたちに阻まれ、姿も見えない。

「司教が、そっちにぃ!」

 ハナが叫ぶ。

 四人とも司教には気が回らなくなってきている。

「くそ、逃がすか!」

 滝川がジャンプするが、天井が低いために勢いがつけられず、アンデッドたちに引き倒され、すぐに数十体のアンデッドに覆いつくされる。そこへ、二体のクリーチャーが飛ぶ!

 ズビン!

 レベルを3に抑えて破動砲を撃つ!

 クリーチャーの半分が千切れ飛び、その破片は人間の内蔵や手足に戻っていく。

――しまった、殺してしまった――

 ビシャビシャビシャ!

 一瞬たじろいだところをアンデッドたちが襲い掛かってくる!

 セイ!

 横跳びにアンデッドたちを避けるが、そこは洞窟がすぼまったところで行き場がない!

「ごめん!」

 ビシャ! 

 目の前のアンデッドを叩き潰して広間中央を目指すが、そこにもアンデッドたちの壁がはだかり、クリーチャーたちが身を乗り出してくる。

「フフフフフフ、悪の天使ども、身の程を知ったか!?」

 逆転勝利の予感した司教のほくそ笑みさえ聞こえて、もう、為すすべがなくなってきた……

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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