大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・066『M資金・3 開店休業』

2019-08-31 13:31:14 | 小説

魔法少女マヂカ・066  

 
『M資金・3 開店休業』語り手:マヂカ 

 

 

 ゲームと言えばゲーム盤とかゲームボードとかカードゲームというものだった。

 

 たいてい二つ折りくらいになったボードの上でコマを進めて、はやくゴールに着いたものが勝ち。というやつで、戦前は福笑いとか、双六とか兵隊将棋、ちょっとハイカラな家ではダイヤモンドゲームとかチェスを意味していた。カードゲームは社会的階層には関わりなくトランプの事だった。何を隠そう、山本五十六にポーカーやらブラックジャックを教えたのはわたしだったりする。

 ノンコが「ゲームやろー!」と手を挙げた時は神経衰弱かババ抜きが頭に浮かんだ。

 見かけは、十七歳の女子高生だが、実年齢は八百を超えるのだから仕方がない。

 しかし、数秒でテレビゲームのことであると理解しなおしたんだから、まあ、よく順応している方だよね。

 

 創部以来四カ月になろうとする調理研は、ちょっと料理に飽きてきた。毎週、新メニューに挑戦しているので、レパ的にも頭打ちの感がある。

「調理室でゲームしてもいいのかなあ……」

 友里がポリ高生としては並以上の倫理観で心配する。

「だいじょーぶ、これなら調理研っぽいから」

 ノンコの鞄から出てきたのは、どこやらの孤島でモンスターをやっつけるというゲーム。四人でチームを組んで、島のあちこちに生息するモンスターを狩る。下手をするとモンスターの返り討ちにあってゲームオーバーになり、強制的にキャンプに転送され、仲間の帰りを待つハメになる。

 これが実戦なら、魔法少女のスキルや技でやっつけられるのだが、テレビゲームというのは、どうも勝手が分からない。魔法少女の実戦のスキルが使えない(高速移動、ワープ、パルス攻撃、等々)だけではなく、画面の中だけなので、敵の気配や周囲の状況が実戦の20%くらいしか分からない。

 敵の直前に飛び込むと同時に高速バック、敵がつんのめったところで上からパルスガ弾を撃ち込む! 気の合わないブリンダとでも、この程度の連携や駆け引きはできる。ところが、ゲームでは飛び込んだ時点でモンスターの前足で薙ぎ払われたり、踏みつぶされたり。ゲームだから即死することはないのだけど、五回も喰らえばゲームオーバーなんだ。タイミングよく敵を釣り出せても、連携が遅れてチャンスを逸してしまう。

 そんなこんなで、二回に一回は、早々にキャンプに転送されて、みんなの戦いを見学するハメになる。見学と言っても、ボーーっと見ているわけではない。

 倒したモンスターは解体して、その場で調理ができる。ここがミソだ。

 調理すると言っても画面の中なんだけども、それを実際に作れないだろうかと頭を使うのが調理研なのだ。

「恐竜の肉って、基本的には鶏肉みたいなもんだからね」

 ヒントを与えてくれるのは、徳川康子先生だ。調理室でゲームをしているのは早々にバレてしまったのだが、さすがは家康から数えて二十代目。ご先祖は鷹狩などで、獲物の調理には長けている。

 狩の仕方も、待ち伏せの仕方や、戦法のあれこれを指示され、それが見事に功を奏すると無邪気に喜んでいらっしゃる。

 

 読者の中には「特務師団の方は?」といぶかる人がいるかもしれない。

 

 ちょっと開店休業状態なのだ。

 立て続けにバルチック魔法少女をやっつけて、ここしばらくは敵も一息ついている状態。

 それに、司令はとぼけているが、どうも高機動車の北斗が不調な様子だ。舞鶴に出撃した時も飛行機と列車を乗り継いで行ったくらいだ。

 北斗が動かなければ、クルーである調理研には出番がない……。

 

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かぐや姫物語・2・Преступление и наказание

2019-08-31 06:33:57 | ライトノベルベスト
かぐや姫物語・2 
Преступление и наказание


 もう、あんなに進んでる……

 駅のホームに立って、姫子は改めて感じた。
 駅を挟んだ商店街とは反対側にあった工場が取り壊されて、大きなショッピングモールができつつあった。
 完成すれば、シネコンやアウトレット、ホームセンターまで入った巨大な商業施設ができる。当然商店街には脅威である。商店街は背後に大きな住宅街や団地を控えているので、人の流れに変わりはないので、なんとかなるだろう……大人達は、そう楽観していた。
 姫子も、大人達の空気に飲み込まれ、そんなものかと思っていた。いや、シネコンなんかが出来たら、自分でも見に行くつもりでいた。行けばファストフードで食事もするだろう。床面積の広い大型の書店にも、大手のファッション量販店にも足を運ぶだろう。
 商店街の娘である自分が、そう思うのだ。普通の人なら……商店街の大人たちは楽観に過ぎる。姫子は、そう思った。つい夕べ、自分が両親の実の娘ではないと……ほとんど分かっていながら、言われたときのショックのように、ショッピングモールができてしまってからみんな思い知るんじゃないだろうか。

 なんの脈絡もなく、宇宙飛行士の姿が思い浮かんだ。

「おい、かぐや姫!」
 宇宙飛行士が言った……と、思ったら、隣の喫茶ムーンライトの美希だった。
「ああ、美希か……」
「どうしたの、深刻な顔して?」
「……ちょっとね」
「言ってみそ」
「整理つかなくて。よかったら放課後話聞いてくれる?」
「あ、うん、いいよ」

「なんだ、そんなことか」
 放課後、部員が自分一人だけの文芸部の部室でもある図書室分室で、姫子は「重大事件」を話した。
「姫子だって、気づいていたんでしょ?」
「まあね、でも実際親から言われるとショック。今朝は、ろくに朝ご飯も食べずに出てきちゃった」
「そうか……姫子のことは、うちの親も知ってる。あ、むろんいい話としてだよ。豆腐屋の秀哉も知ってる。商店街のお馴染みさんもね。でも、もう当たり前ってか、十七年も前の話だし、姫子は、当たり前に家具屋の姫子で定着してるよ」
「でも……戸籍謄本見せられて、じかに言われるとね」
「分からないでもないけど、姫子は赤ちゃんのころから立川の娘なんだからさ、普通そうにしてなよ。ま、修学旅行から帰ってくるころには、元の普通に戻ってるよ。『ただ今』『お帰り』で済んじゃうよ」
「……もっかい、言って」
「え、『ただ今』と『お帰り』?」
「その前」
「えと……普通そうに、かな?」
「そう、それ。無理して普通にしなくていいんだ、普通そうでいいんだ!」

 で、もう一つの話をした。今度は美希が暗くなった。

「そうか、そうだよね……うちの商店街ピンチなんだ……」
「うん。大人たちは、予想される結果から目を背けているだけみたいな気がする」
「かもね……」

 学校の帰り道、駅まで二人は暗かった。

「お、家具屋と喫茶店」
 駅のホームに上がると、豆腐屋の秀哉が準急待ちをしてホームに立っていた。
 秀哉は、もう一つ向こうの各駅しか停まらない都立高校に通っている。姫子たちの櫻女学院よりも偏差値で8ほど低いが、秀哉は、なかなかのアイデアマン。稼業の豆腐屋が正直経営が苦しかった小学校の高学年のころ、親に、こんなアイデアを出した。
「この商店街、練り物屋がないから、天ぷらなんか兼業したら」
 これが当たって秀哉の豆腐屋の利益の半分は天ぷらが占めるようになった。
 それだけではない。秀哉は家にあった茶碗に適当なエピソードを付けて『とんでも鑑定団』に出たり、NHK素人喉自慢に出たりして、その都度店と商店街のPRをやってのけた。で、高校生のくせにテレビのディレクターに知り合いが何人かいて、下町のB級グルメ番組を商店街に呼んできたこともある。

「なるほどなあ……」

 さすがの秀哉も沈黙した……準急がくるまでは。
「そうだ、こんな手がある!」
 準急の中で、秀哉は、とても二流都立高校の生徒とは思えない、有る意味無責任なアイデアを言った。

 地元の駅に着く頃には、三人の幼なじみは、その気になってしまった!

  つづく
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高安女子高生物語・73『夏も近づく百十一夜・3』

2019-08-31 06:19:47 | ノベル2
高安女子高生物語・73
『夏も近づく百十一夜・3』 



 
 通り雨 過ぎたあとに残る香りは夏 このごろ……。

 お父さんの好きな『夏この頃』の歌い出しみたいな昼休みやった。
 
 バラが盛りになって、紫陽花が小さな蕾を付け始めた。ピーカンの夏空の下、となりのオバチャンにホースで水を撒いてもらうと、水のアーチの中にけっこう大きな虹がたつ。その虹の下を水浸しになりながらキャ-キャー言うて、友だちとくぐった。オーバーザレインボウやのうてビヨンドザレインボウ。その時に舞上げられる焼けた土と、跳ねる水の香り。それが、この時期の通り雨の香りといっしょ……というのはお父さんの子どもの頃の話。お母さんも水撒いてもらうとこまではいっしょやけど、お父さんみたいにビチャビチャになりながらビヨンドザレインボウはやらへんかったそう。で、砂埃と水の混じった匂いは、お母さんには臭い。同世代でも、感性がちがうもんやと思う。
 この高安もコンクリートとアスファルトになって、この夏の香りはせえへん。せやけど、夏を予感させる五月の下旬は好きや。

 そんなこと思て、雨上がりのグラウンド見ながら食堂のアイス食べてたら急に校内放送。

――2年3組の佐藤明日香、職員室岩田のところまで来なさい。くりかえします……――

 繰りかえせんでも分かってる。これは、前の校長(パワハラで首になった民間校長)の人事で生指部長から我が担任に天下ってきた(本人曰くけ落とされた)ガンダムの声。
「明日香、なんかやったん?」
「ガンダム、ストレス溜まりまくりやから、このごろ、ちょっとしたことでも怒りよるからな」
「明日香のこっちゃ、ちょっとしたことではないんやろなあ……」
「あ、一昨日南風先生凹ましたん、バレたんちゃう?」
 このデリカシーのない励ましの言葉は美枝とゆかりです。

「失礼します、2年3組の佐藤明日香です……」

 そこまで言うて、うちはびっくりした。よその制服着たメッチャかいらしい子ぉがガンダムの前に座ってた。
 美女と野獣……そんな言葉が頭をよぎった。
「おお、明日香、こっちこっち!」
 ガンダムのデカイ声に職員室の目がいっせいにうちに向く、そんで職員室中の先生らが、うちと、そのかいらしい子の比較して、全員が同じ答を出したのに気ぃついた。
「この子、新垣麻衣さん。来週の月曜からうちのクラスや」
「転校生の人ですか?」
「はい、ブラジルから来ました。どうぞよろしく」
 アイドルみたいな笑顔の挨拶に早くも気後れ。
「住んでるとこが八尾でな。おまえの近所や。ブラジルからの転校生やから、慣れるまで明日香が世話係」
「は、はい」
「喋るのには不自由ないけど、漢字が苦手。とりあえず、ざっと校内案内したってくれるか」
「は、はい」
「どうぞよろしく佐藤さん」
「は、はい」
 あかん、完ぺきに気持ち的に負けてる。
「ほんなら、終わったら、また戻ってきてな」
「は、はい」
「おまえとちゃう。新垣さんに言うてるんや」

 新垣さんは、タブレットを持って付いてきた。チラ見すると学校の見取り図が入ってる。やっぱり緊張してるせいか、職員室出るときに挨拶忘れた。
「コラ、失礼しましたやろ、アスカタン!」
「は、はい」
「失礼しました」
 新垣さんがきれいに挨拶。遅れて続くけど「つれいしました」になる。職員室に、また笑い。ちなみに「アスカタン」いうのは、ガンダムがうちを呼ぶときの符丁。本人は可愛く言うてると言うけど、うちは「スカタン」に不定冠詞の「A」がついたもんやと思てる。

 校内案内してても注目の的や!
 
 本人がかいらしいとこへもってきて、胸が、どう見ても、うちより2カップは大きい。で、他のパーツも、それに釣り合うてイケテる。ブラジルの制服もラテン系らしい華やぎがある。もう、どこをどうまわったんか、分からんうちに終了。新垣さんは部屋の名前を言うたんびに、タブレットの名称をスペイン語に直してた。その手際の良さだけが記憶に残った。

「どうもありがとう。とても分かり易かった。わたしのことは麻衣って呼んで。佐藤さんのことは明日香でいい?」
「え、あ、はい!」
「ハハハ、明日香って、とても可愛い!」
「え、あ、ども」

 そして麻衣は職員室に戻っていった。

 五時間目の休み時間には、麻衣とうちのシャメが校内に出回った。美枝とゆかりも撮ってたんや。
「うちには、おらへんかったタイプやね……」
「明日香と比較すると、よう分かるなあ」
 まるで電化製品の新製品と型オチを比較されてるみたいで、気分が悪い。
「型オチちゃうよ。生産国のちがい」

 それて、もっと傷つくんですけど。国産品を大事にしましょう……もしもし?
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須之内写真館・45『謝恩会の写真』

2019-08-31 06:07:29 | 小説・2
須之内写真館・45
『謝恩会の写真』        


「どうも、こうチグハグなのかねえ……」

 焼き上がった写真を並べながら玄蔵祖父ちゃんが言った。
「そ~お? みんなカワイイじゃない」
 横から覗き込んで、軽く揶揄するような言い回しで直美が言いかえす。
「ちがうよ。写真そのものは、いいできだよ、オレが撮ったんだからな」
「じゃ、なにがチグハグ?」
 できた写真を祖父の感想などお構いなしに表装していく。直美にとっては、商品以上でもなければ以下でもない。うまく撮れて、お客さんに満足してもらえれば、それでいい。

「ナリと表情がさ……振り袖に袴ってのは戦前の女学生のハレの姿だろ。で、表情が軽いんだよな。どうも人生の節目に立ったって顔じゃない。アキバのコスプレと変わりがない。どう思う玄一?」
 ハンパな直美をパスして、玄蔵は息子に聞いた。
「ファッションですよ。父さんのアイビーと同じだろうね」
「あれは、元々チャラさがテーマのファッションだ。ま、今時のダボダボのルーズなやつとは品が違うけどな。でも、振り袖に袴というのはトラディションだろ。もうちょっと神妙にしてもらわんとな」
「ハハ、古いよ祖父ちゃんは」
 直美は、そう言いながら、表装した写真を封筒に入れ、お客さんの名前を書き、シリアルをセンサーで認識させはじめた。
「古いかねえ。しかしな、看護婦さんが白の制服でオチャラケていたら、やっぱ変に思うだろ。思わないか?」
「それとこれは……」
 そう言いかけて、直美は玄蔵の言うことにも一理あるかなと思った。ちなみに直美は大学の卒業写真はリクルートで撮った。社会人の見習いには、それが一番相応しいと思ったからだ。

 そこにお客さんがやってきた、

「謝恩会の写真ですか?」
「はい、わたし一人ですけど」
「かまいませんよ。どうぞ、こちらへ」
 スタジオへ案内しながら、直美は感じた。定番の振り袖に袴なのだが、この女の子には、控えめではあるが凛としたものがある。

「わたしが、撮らせて頂きます」

 なんと玄蔵祖父ちゃんが、自分から名乗り出た。
「お母さまも、わたしが撮らせていただきました。お祖母様は、わたしの父が……光栄に存じます。息子と孫にアシスタントさせます」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 祖父ちゃんは、慣れた様子で、でも、どこかかしこまって写真を撮った。

 直美は、この自分より年下の女子大生に、はるかに年上の感覚がした。うまく表現できないが、先日銀熊賞を受賞した黒木華に似た、昭和の女性の清楚さを感じた。

「あの子は、四ノ宮篤子さんと言ってな。代々うちで撮らせていただいてるんだ。表装は緑にしてくれ、あの家の色なんだ」

 直美は篤子の顧客情報を入力して驚いた。四ノ宮篤子は大学ではなく、高校の卒業であった。
「あの子、十八歳……」
「ああ、旧華族のお嬢さんだ。若い頃は反発して、撮影の手伝いもしなかったが……あの子は本物だよ」

 感心して入力を終えると、スマホにメールが入ってきた。

――今年のリムパックに中国が初参加することに、どう思う?――

 発信は、冷やし中華の宋美麗だった。こいつも直美の理解を超えた存在だった。本物かどうかは別として。
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小悪魔マユの魔法日記・19『知井子の悩み9』

2019-08-31 05:59:44 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・19
『知井子の悩み9』


 空間が、マーブル模様にとぐろを巻いている。
 そのとぐろの中心に向かって、浅野拓美はゆっくりと落ちていく。
 
 歪んではいるけれど、マーブル模様は、拓美の十数年の思い出でできていることが分かった。
 
 今まで受けたオーディションの数々。「いいかげんにしろよ」と叱りながら、心の中では応援してくれていたお父さんの気持ちも、その姿で分かる。「残念だったわね」と、落ちたオーディションを慰めてくれた親友が、心の中ではせせら笑っていたことも。ムスっとシカトするように何も言わない友だちが、痛々しそうに思って心を痛めていてくれたこと。あるユニットのデビューに胸ときめかせ、人生の目標にした中学生だったころの自分。
 音楽の実技テストで、みんなから拍手をもらい、いい気になっている自分。
「拓美ちゃんすごい!」先生もクラスメートも、この時は素直に喜んでくれていた。保育所の生活発表会、拓美は、音程の合わない子を懸命に教えていた。お母さんがお迎えに来ているのに、この子たちみんなと楽しく歌いたいと思っていた純な拓美。
 よちよち歩きだったころ、公園に連れていってもらい、吹く風に歌を感じ、まわらない舌で、そよぐお花といっしょに歌っていたわたし。
「ねえ、この子ったら、お歌、唄ってる!」「ほんとかよ!?」 わたしを抱き上げて、心から嬉しそうにしている、若いお母さんとお父さん……そこで、マーブル模様はとぐろのまま止まってしまった。
 とぐろの中心は、ほの白く、台風の目のように揺らいでいる。多分あそこまでいけば、わたしは、あっちの世界に行ってしまうんだろう……拓美は、そう感じ、覚悟を決めた……でも、とぐろは、それ以上には深くはならない。
「あなたって、本当に唄うことが好きだったのね」
「う……うん……」
 拓美は、涙を溢れさせて、コックリした。
 すると、マーブル模様の回転が緩やかになり、やがてはストップし、さらに逆回転しはじめ、あっと言う間に、もとの小会議室に戻ってしまった。

「わ、わたし……」

「浅野さん……あなたって、歌を唄うために生まれてきたような子なんだね……」
「うん……そうみたい。でも……」
「そう、死んじゃった」
「…………」
 拓美は、うつむいたまま。マユは優しく、拓美の肩に手をかけた。
「半日だけ、生きていることにしよう……」
「え……」

 手にしたA4の白紙が本当の合格通知に変わった。

 えらそうな(でも、実はペーペーの)スタッフが、ヤケクソで配電盤に拳をくらわせた。その拍子で電源が戻った。
「え、お、オレの根性で電源戻ったってか!?」
 会場に安堵の拍手が湧いた。
「では、再開しまーす!」
 ディレクターの声がとぶ。
 審査委員長のオジサンは、手にしたオーディション受験者の書類の束が微妙に厚くなったような気がしたが、フロアーになだれ込んできた受験者たちの熱気に気をとられた。

「審査は、番号順ではなく、ランダムに出てきた番号で行います」
 スタッフが、そう言うと。ビンゴゲームのガラガラが出てきた。HIKARIプロの売り出し中の子が、にこやかにガラガラを回し始めた。
「あの子の笑顔、小悪魔に見える……」
 知井子が呟いた。本物の小悪魔のマユは、思わず笑いそうになった。
 知井子は、びくびくしながらも「一番になれ!」と、思っている。学校では見せたことがない闘争心だ。
「一番、審査番号47!」
 47は知井子の番号だ。ビックリはしていたけども、知井子はおどおどはしていない。マユも驚くほど腹が据わっている。
――たとえ落ちても、こういう気持ちになれたんだから、知井子は大進歩よ!
 マユには、知井子が輝いて見えた。
 知井子は、流行りだしたばかりの「ギンガミチェック」を元気いっぱいに歌い上げた。振りはコピーではなく、自分で考えたオリジナル。イケテル……ここまでイケテルとは、マユは予想もしていなかった。

 おあいそでは無い拍手を受けて、知井子はステージを降りた。

 次の子たちは、知井子に呑まれてしまった。といっても、ここまで勝ち進んできた子たち、萎縮することはなかったけども、どこか力みすぎ、知井子のように自然なノリにはなれなかった。
 マユ自身は、お付き合いのつもりで適当にやっておくつもりだったけど、知井子が作った雰囲気というのは、みんなに伝染し、マユもつい本気になってしまった。

 そして、あの子の番がまわってきた。
 
 審査番号は現実には存在しない48……。
 マユは、改めて魔法をかけ直した。審査が終わったら、関係者一同の記憶、ビデオや、パソコン、カメラの記録も消さなければならない……おちこぼれ小悪魔には、少し荷の重い魔法だった。

 拓美がステージに上がった。審査員、受験者たち、フロアーに居た全ての人たちからため息がもれた。
 マユは、思わず、自分が魅力増進の魔法をかけてしまったのかと慌てるほど、拓美は輝いていた……。
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せやさかい・058『ヤマセンブルグ・4』

2019-08-30 13:30:33 | ノベル
せやさかい・058
『ヤマセンブルグ・4』 

 

 

 な、なにこれ!?

 

 国立墓地を出た途端にびっくりした!

 国立墓地は周囲を感じのいい林が取り巻いてる。出入り口までは林の中を「の」の字に墓参道が巻いているので、外の様子は分からへん。

 これは、お墓に眠る人たちにとっても墓参する者にとっても静謐な環境を保つため……というのはソフィアさんの説明。まだまだ翻訳機を使っての説明やけど、すごく気持ちは通じるようになった。今の説明も、最初の3/1ぐらいのところで中身が分かる。

 で、なににビックリしたかと言うと、行きしなには見かけへんかった国民の人たちが沿道に溢れて、日ヤマ両国の国旗を熱烈に振ってる。

「これもドッキリ!?」

 留美ちゃん、これはドッキリやない。なにかの都合で規制されてたんやと思う。

「墓参りに行く人は静かに送らなければならないって伝統があるの。その反動もあって、帰り道は、ね……」

 説明しながらも、頼子さんはニコヤカに沿道の人らに手を振ってる。感化されやすいわたしはハタハタと両手をパーにして振った。

「プリンセスより目立ってはいけません」

 ソフィアさんに言われて「ごめんなさい」

「え、プリンセス?」

 留美ちゃんが頭から声を出す。

「正式に認め……わけじゃないんだけどね」

 トンネルに差し掛かったとこで、頼子さんは小さく言った。

 

 宮殿に戻ると、ランチを食べながら説明してくれた。ちなみに、ランチはディナーよりも何倍も美味しい!

 

「夕べのディナーはね、ヤマセンブルグの郷土料理。先祖の苦労を知るために、節目の時には食べる慣わしなの」

「それで、プリンセスというのは!?」

 留美ちゃんが身を乗り出す。

「お父さんが皇太子だったの……二年前に亡くなって、それで、わたしが皇位継承者にね……でも、まだ未成年だから、ずっと保留にしてきて、国籍だって……」

「ああ、日本とヤマセンブルグと!」

「イギリスの国籍もね、昔はイギリスの辺境伯も兼ねていたから……うちって、とてもややこしい事情がね……ほんとは千羽鶴だけをジョン・スミスに預けようと思ったんだけど、なんだか無責任な気がして……あなたたちに付いて来てもらったのも、一人じゃ、とても身動きとれなくって。それでも、ミリタリータトゥーの晩までは揺れてて……ヤマセンブルグに立ち寄る決心したのは、前の晩。だから、国民の人たちには連絡が遅れて、空港以外の出迎えの人たちが少なかったの」

 留美ちゃんは目をまん丸にして黙ってしもた。メッチャ感激すると、留美ちゃんは、こうなるらしい。わたしも、言葉が出てこーへんから似たり寄ったり。

「もう、日本には帰らへんのですか?」

「もう、文芸部はおしまいなんですか……?」

「そんなわけないでしょ! 成人するまでは保留ってことで、お婆ちゃんとは話がついた! わたしは、まだまだ安泰中学の三年生で、文芸部の部長なの!」

 偉い剣幕でまくしたてる頼子さん。声をあげなら、折れてしまいそうやいうのが、よう分かる。まだ五カ月ほどやけど、こういう頼子さんの気性はよう分かるようになってきた。

 

「明日は、女王陛下と王室行事に参加していただきます」

 

 三人で友情を誓い合ったところでソフィアさんが用件を伝えに来た。翻訳機も使わんと、きちんと日本語で。

 王室行事という響きに、あたしも留美ちゃんも胸を躍らせる!

 このひと夏の合宿で、新しいことには物怖じよりも期待を持つようになった。ヘヘ、だいぶ進歩したよ。

 

 で、王室行事はジャージに手ぬぐいを首に巻いて行った。

 

 なんと、王室の御用畑でジャガイモの収穫作業!

「天皇陛下だって田植えとか稲刈りとかされるでしょ」

 頼子さんは達観してるけど、あたしらは……イモ! やけど、中腰の芋ほりはきっつい! 夢壊れるう!

「飢饉の年にね、国王もいっしょにイモを育ててしのいだことが伝統になってるの、ほら、もっと腰をいれないと!」

 女王陛下の手が荒れてたのも、このせいか……あたしらの夏季合宿は五キロずつのジャガイモをお土産にして終わりを告げたのであった。

 

追記:ジャガイモは、そのままでは日本に持ち込めないので、イギリス王立試験場の検査を受けて、九月中頃には日本に送られてくるそうです。

 

 

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高校ライトノベル・かぐや姫物語・1・Преступление и наказание」

2019-08-30 08:22:26 | ライトノベルベスト
かぐや姫物語・1
Преступление и наказание 


「いってきま~ふ……!」

 姫子はトーストをくわえたまま家を飛び出した。こんなことは初めてだ。
「しかたのない子ね」
 年老いた母は姫子の気持ちを気づかないまま、苦笑いして姫子の後ろ姿を見送った。
「見てやるんじゃねえ、おめえが見ていたんじゃ、涙も拭けねえや……」
「え……」

 開店準備をしていた父の方が、姫子の気持ちをよく分かっていた。

 姫子は、夕べ、自分が実の子ではないことを、じかに両親から聞かされた。
 姫子は、ほとんどそのことを知っていた。なんと言っても親との年の差が五十三もあるんだから……。

 今から十七年前、泣き声に気づいて、立川亮介は店の戸をパジャマ姿のまま開けた。
 そこには、竹の子の香りが残る段ボール箱に、オクルミにくるまれた赤ん坊が入っていた。
「お、おい、恭子!」
「なんですよ、また捨て犬ですか……?」

 それが始まりだった。

 赤ん坊は大きな声で泣いていたが、筋向かいの豆腐屋のオヤジも隣の喫茶ムーンライトのママも気づかなかった。その赤ん坊の泣き声は、立川家具店の初老の夫婦にしか聞こえなかった。
 夫婦には子どもが無かったが、育てるのには歳をとりすぎていた。
「この子が二十歳になったら、七十三だぞ、二人とも」
 亮介の言葉で恭子も決心し、赤ん坊を児童相談所に預けた。警察も乗りだし『要保護者遺棄』の疑いで捜査した。
「なに、すぐに分かりますよ」
 所轄地域課の秋元巡査部長はタカをくくった。段ボール箱には竹の子の香り、多摩市の農協のロゴもついている。オクルミやベビー服も新品のようで、有名そうなメーカーのロゴが入っていた。その線から当たれば、三日もあれば解決すると思っていた。

 ところが、農協もベビー服のロゴも実在のものではなかった。

 目撃者もおらず、法定期日も過ぎたので赤ちゃんは、児童福祉施設に送られることになった。
「うちの子にします!」
 秋元巡査部長から、そう聞かされたとき、恭子は決然として言った。夫の亮介はたまげた。

 そして、赤ん坊は立川夫婦に引き取られ、恭子の反対にもかかわらず「姫子」と名付けられた。
 家具屋の姫子で、商店街のご近所さんやお客さんたちから、案の定『かぐや姫』と呼ばれるようになった。名前も立川姫子なので、有名ラノベのキャラと一字違い。中学の部活は、ラノベのキャラと同じソフトボール部だった。

 夕べ、修学旅行用の書類を準備するときに、いずれ分かることだからと、父から養女であること伝えられた。
「やっぱし……いいよ、分かっていたから」
 その場は、そう言ったが、やはり直接言われるのは応えた。平気そうにしていたが、寝床に入ると涙が止めどなく流れるのに閉口した。
 姫子は、いつも通りに起きて食卓に着くときには、いつもの顔に戻っていた。

 でも、だめだった。親子三人、あまりにも普通すぎた。
 姫子はたまらなくなり、トーストをくわえたまま家を飛び出すことになったのである。

 そして、姫子本人も両親も気づいていなかった。
 姫子が本物のかぐや姫であることを……。


  つづく………☆
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・72『夏も近づく百十一夜・2』

2019-08-30 06:56:44 | ノベル2

高安女子高生物語・72
『夏も近づく百十一夜・2』



 えらいこっちゃ、ブログが炎上してしもた!

 南風先生のプロットをクソミソに言うてしもたうちは、凹みながら家に帰った。

 帰り道は美枝とゆかりといっしょ。

「どないしたん、なんか食べたいもん食べ損のうたん?」
「ひょっとして、南風先生となんかあったん?……さっき職員室行ったら、先生怖い顔してパソコン叩いてた。前の校長のパワハラのときは敵愾心満々の怖さやったけど、今日の怖さは、なにか人に凹まされたときの顔や。あの先生が凹む言うたら、クラブのことぐらい。で、クラブのことで、凹ませられるのは佐藤明日香ぐらいのもんやからな」

 最初の牧歌的な推論は、ゆかり。あとの鋭いのんが美枝。自分のことは見えへんのに、人の観察は鋭い。ああ、シャクに障る!

 で、うちに帰っても、自己嫌悪と美枝へのいらつきはおさまらへん。馬場さんに描いてもろたうちの肖像画も、なんやうちを非難がましく見てる双子の片割れみたい。いらんこと言い正成のオッサンも、こんなときはうちの中で寝てけつかる!
 そやけど、こんなときでも食欲が落ちひん。晩ご飯はしっかり食べた。そやけど、なに食べたかは五分後には忘れてた。て、ボケてるわけやない。それだけ苛ついてるいうこと。

 うちのお風呂の順番は、お母さん→うち→お父さんの順番(オヤジが最後いうのは、よそもやろなあ)で、お母さんは台所の後始末してから入る。その間、うちは洗濯物入れるのが仕事やけど、昼間はピーカンやった天気が、夕方にはぐずつきだした(うちの気分といっしょ)そんでお母さんが早々と取り込んだんで、することがない。自然にパソコンのウェブを開く。
 O高校のブログが目に止まる。O高校は最近更新が頻繁……やと思たら毎日更新してる。

 エライと思た。毎日コツコツいうのは、人間一番でけへんこっちゃ。そない思うと読み込んでしまう。で、感動は、そこまでで、南風先生と同じようにひっかかってしまう。

「知っていたら、情報があったら観に行ったのに」と思う公演もたくさんあるのです。これって本当にもったいないことだと思いませんか? やはりどれだけ観劇が好きな人でも、情報なしに公演を観に行くことは出来ません。

 一見正論風に見える三行が、まるで南風先生の言葉みたいで、ひっかかった。

 情報は、その気になって探したら、ネットではわりに分かる。要は、その気になって探してる人が少ないいうこと。で、たまさか観たひとは、おもんないんでリピーターにはなれへんいう、ごく当たり前の視点が抜けてる。
 高校演劇は面白いものです。だから情報さえあればみんな観にくる。なんちゅう南風先生式楽観主義! 大阪の高校演劇の観客が少ないのは「おもんないから」いう認識がない。
 情報があったらうまいこといくんやったら、こんなにゲーム業界が不振なわけがない。国会中継はもっと視聴率がとれるはずや。

「大阪の高校演劇に集客力がないのはヘタクソなこと。まともな審査をせんこと」

 簡潔明瞭なコメントを書いた。で、先を読む「稽古やってます」「楽しかったです」「頑張ります」を簡単な描写と写真でつないで埋めただけ。ほんで、この写真があかん。
 役というのは表現するんと違う。受け止めること=リアクションや。それが結果として表現になる。それが、役者がバラバラに表現してるのが写真だけでも分かる。中にはボサーっと立ってるだけで、稽古空間に目的を持って存在してない……これも筆ならぬキーの勢いで書いてしもた。

 で、その明くる日のうちの「無精ブログ(その名の通りめったに更新せえへん)」は炎上した。

――アホ。どれだけ自分が偉いと思てんねん!――
――かれらの前向きな取り組みを、どうして評価しないんですか!――
――去年コンクールで落ちたこと、いつまでネチコイねん!――
――サイトの良い雰囲気が台無し。反省しろ!――
――あなたのは、無用なあおり、誹謗です。ネットリテラシーをまもりましょう――
――サルにルールは通用せえへん!――
――アホ、サルに失礼じゃ!――
――一度精神鑑定うけろ――
――おまえこそ、大阪高校演劇の恥じゃ!――
――PRの大切さを理解していない(広告代理店勤務)――
――あなた一人のことでOGH高校は、また評判を落としますね、それ分かってる?――

 キリないんでこれくらいにしときます。コメントは全部匿名。中には「あなたの心の良心」いうのもあって、うちの中の正成のオッサンが大笑い。

「明日香の心の中には、わいしかおらんのにな。わいやったら明日香のケツのホクロの場所まで知ってるぞ」
「うるさい、オッサン!」
「まあ、聞けや。反応があるいうのは、明日香が働きかけてるからや。それに明日香はえらい」
「なんで?」
「明日香は、ちゃんと名乗ってコメント書いてる。言うてることも正論や」
「それて……」
「分かってるみたいやな。明日香に芝居の未練がなかったら、南風のネエチャンに、あそこまでは言わへんし、この高校のブログにコメント書いたりせえへんかったやろ」
「それは……」

 気ぃついたら、うちはお風呂で体洗うてた。くそ正成!

「おお、発見。明日香怒ると、ケツのほくろがピクンとしよる!」

 うちは、急いで、心のシャッターを閉めた……。
  

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高校ライトノベル・須之内写真館・44『冷やし中華の会・2』

2019-08-30 06:47:37 | 小説・2

須之内写真館・44
『冷やし中華の会・2』
          
 
 

 冷やし中華を食べ終わって気づいた。

「あ……あの人形替わってません……数も違う?」


 店に入った時、店の奥に五十センチほどの中国美人の人形を中心に、十体あまりのかわいい中国の子どもの人形が並んでいた。
 それが、いま気づくと、人の背丈ほどの武将の人形になっていて、子どもの人形は二体に減っていた。
「ああ、あれ、からくり人形だよ」
「見ていてごらん」
 松岡が言って、鈴木が後を続けた。美麗は、あいかわらずニコニコしている。

 人形は、若々しいイケメンの武将だった。見ていると、子どもの人形が近づき、武将の人形に取り込まれたかと思うと、武将は一回り大きくなって、鍾馗さんのようなイカツイ武将に変わった。
「どういうからくりかは分からないんだけど、あんな風に変化するんだ」
「この店の名物」

 すると、厨房から、店の主人が出てきた。

「さすがに冷やし中華の人たちですね。気が付かないで帰ってしまうお客さんも多いんですよ」
「あ、ここの亭主の陳健太。もち、会員ね」
 親子ほど歳の違う亭主をオトモダチのように、美麗が紹介した。
「陳さん、今日は人形の変化早くないかい?」
「ハハ、ばれたか。気づいて欲しいから、少し早くしたんだ。いいかい見てて……」

 陳さんは、中国の気功師のように体を動かし、気を溜めた。

「アイヤー、ハイッ!」

 陳さんが、かけ声をかけると、人形は数秒で、五体ほどの少年と少女の人形に変わった。武装している者もいれば商人風の者、京劇のヒロインのような美少女もいた。

「すごい、どういう仕掛けなんですか!?」

「仕掛けは分からない。先祖伝来のからくり人形だからね」
 大まじめの陳さんの脇で、三人の先輩会員がニヤニヤしている。
「こんな顔して、中華料理屋の亭主に収まってるけど。T大の工学部の出身。食えないオヤジだよ」
「食うのは料理だよ。わたし食べられたら、料理作れないからね」
 マジな顔で言うので、みんな爆笑した。その間に人形は三体の美人に変わっていた。
「この三美人が一番」
 陳さんが手を叩くと、三体のコスがAKBのように変わった。
「おお、新しいバージョンになった!」
 オッサン二人が喜び、美麗は人形のケースの側まで行って、屈んでスカートの中を覗いた。
「ちゃんと、へっちゃらパンツ穿いてる! これ脱いだらどうなってるの?」
 見かけに似合わず、変なことを聞く。
「それは、中国の国家機密」

 すると、三体の人形はAKBの曲で踊り出した。

「すごい、ここまでできるんだ!」
 オッサン二人の感嘆の声。直美は、ただただ驚くばかりだった。
「東大阪の友達が、手伝ってくれたんだ。最新のハイテク」
「すごいんだ!」
 直美は、ただただ感心。
「この人形には意味があるんだ」
 松岡が、真面目な顔で言った。
「これ、中国って国の象徴だね」
 鈴木が後を続けた。

 AKBの曲が終わって、陳さんが、のんびりと言った。

「中国は、この人形みたいに、大きくなったり小さくなったり、まとまったり、バラバラになったり。これがナショナルポリティーなんだな」
 直美は、始めて気づいた。堯舜(ぎょうしゅん)や春秋の昔から、中国は、分裂と統合をくり返してきた。この人形は、それを暗示しているのだ。

「ハハ、直美さん。マジにとられちゃ困るなあ、ただのオッサンのスケベエ根性ですよ。わたしは、このAKBの三体が一番のお気に入り」
「陳さんも、いよいよオタクかな?」
 美麗が冷やかす。
「失礼な。とっくの昔からオタクだよ!」

 一同が、いっせいに笑った……。
 

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小悪魔マユの魔法日記・18『知井子の悩み8』

2019-08-30 06:41:16 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・18
『知井子の悩み8』


 
 浅野さんはうつむいてしまったが、マユはたたみかけるように続けた。

「あなたは、多分一次選考のあとで死んだの。あなたに自覚はないから、原因は分からない。でも、あなたのオーラは生きてる人間のそれじゃない。他の人には見えないけど、受験者が一人多いのに、さっき気づいたわ」
「……それは、他のだれかが間違えているのよ。いや、スタッフかも知れない。わたし、こうやってちゃんと、二次合格の書類だって持っているもの」
 浅野さんが手にした書類は、ただのA4の白紙のコピー用紙だ。

 エアコンの静かな音だけが際だつ間があいた。

「……これは、ただの白紙の紙よ。浅野さんには、これが本当の合格通知に見えるんだ」
「だって、こんなに、はっきりと『二時選抜合格、浅野拓美様』って書いてあるじゃない」
「あなたは、死んだ自覚がないから、それに合わせた都合のいいものしか見えないのよ。無いものだってあるように見えているだけ……」
 
 浅野さんの目が怒りに燃えてきた。マユに本当のことを言われ、当惑が怒りに変わってきた。部屋の中に風がおこり、机や椅子が動き出し、部屋の中はグチャグチャになった。

「あらあら、部屋がこんなになっちゃった」
「……わたしじゃないわ。わたしには、こんな力はないわよ」
「かなり重症ね。とりあえず片づけましょう」
 マユが、指を動かすと、部屋は、あっと言う間に元の姿に戻った。
「あ、あなたって……」
「だから、悪魔。おちこぼれだけどね。はい、もう一度、落ち着いて書類を見て」
「……は、白紙! あ、あなた、わたしの合格通知をどこへやったの、どうしたの!?」
「何もしないわ、浅野さんにも、本当のことが見えてきたのよ」
 再び、部屋のあらゆるものが揺るぎだし、有機ELの照明がパチンと音を立てて割れた。マユは、照明が落ちた時点で浅野さんの霊力を封じた。
「あなたに自覚はないけど、そうやって、二次選考では、何人もの子たちに怪我をさせたのよ。だから、最初にスッタッフのおじさんが注意していたでしょう」
「わ、わたしは……」
「そう、そんなつもりも、自覚もない。人の演技を見て、スゴイと思ったら、無意識のうちに脚をからませたり、転ばせたり……」
 それでも浅野さんは、飲み込むことができず、頭を抱えている。
「仕方ないわね……」
 マユは、部屋の窓を景気よく開けると、浅野さんにオイデオイデをした。
「外になにかあるの……?」
 窓ぎわに来た、マユは浅野さんの脚を、ヒョイとひっかけ、背中を押した。
「キャー!」
 悲鳴を残して、浅野さんは、はるか眼下のコンクリートの歩道に落ちていった。

「……わたし、いったい?」

 歩道で、怪我一つしないで佇んでいる自分に驚いた。
「行くわよ!」
 はるか上の窓から、口も動かしていないのに、マユの言葉が振ってきた。そして、その直後、マユが頭を下にして、真っ逆さまに落ちてきた。で、地面につく直前に一回転して、体操の選手のような決めポーズで着地した。
「す、すごい……」
「足から落ちてもよかったんだけど、それだとおパンツ丸見えでしょう。だからね」
「すごい、超能力!」
「あなただって、今やったとこじゃないの。わたしは悪魔だから、あなたは幽霊だから、怪我一つしないのよ。それに、周りの人を見てごらんなさいよ。だれも、わたし達に無関心でしょ。女の子が二人立て続けに、あんな高いところから、落ちてきたのに」
「どうして……」
「ほら、今、男の人があなたの体をすり抜けていく……」
 浅野さんは、「あ」と声を上げたが、かわす間もなく、男の人は彼女の体をすり抜けていった。
「あ、あの人って、幽霊?」
「幽霊は、浅野さん、あなた」
「で、でも……」
「まだ、分からない? じゃ、もっかい、あの部屋に戻ろう……入り口からじゃないの。戻ると思えば、それでいいの」

「わたし、やっぱり……」
「うん、死んでるのよ」

 もとの部屋に一瞬で戻って、浅野さんはションボリしてしまった。
「……一次選考のあと、交通事故があった。わたしはすんでのところで……」
「そう、多分そこで死んだのよ。可愛そうだけど、それが真実」
「……でも、わたし、このオーディションには受かりたい」
「そうやって、浅野さんが居れば、あなたは無意識のうちに、人に怪我を……いいえ、今日は人を殺してしまうかもしれない。それだけ、あなたは危険な存在なの」
「……じゃ、どうすれば」
「もう、あっちの世界に行きなさい」
「あっちって……?」
「死者の世界……分かった?」

 浅野さんは、しばらく目に大粒の涙を浮かべ、ようやく……コックリした。

「わたしが、送ってあげるわ」
「うん。仕方……ないのよね」
「じゃ、いくわよ。目を閉じて」
「うん……」
「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」

 全てを観念した浅野さん。その姿は、ハンパな小悪魔には、あまりにも心の痛む姿だった……。
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魔法少女マヂカ・065『M資金・2 防衛省食堂の地下』

2019-08-29 14:29:47 | 小説

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・065  

 
『M資金・2 防衛省食堂の地下』語り手:来栖司令  

 

 

 大戦末期、実に国家予算の95%が軍事費であった。

 それでも不安と不足を感じた軍部は、なべ底をさらえるようにして金銀財宝を徴発し、それを活用することもなく終戦を迎えた。その金銀財宝をM資金という。

 父は福井の、ちょっと名の通った真宗寺院の長男だ。子どものころはお盆の帰省で幾度ともなく帰ったが、寺の鐘は御本尊の阿弥陀様や本堂に比べて新しく、十円玉のように初々しい茶色だった。

 父の話では、戦時中の供出で釣鐘を軍に持っていかれて行方不明になった。諦めて新造しようという声もあったが、室町時代に鋳造されたという釣鐘を諦められず、長らく行方を探したが、戦後四半世紀を経ても所在が分からず、檀家や本山と相談して、ようやく新造したのだ。

 寺の釣鐘でさえ返っていないのだ、M資金も、あるいは、いまだに発見されずに眠っているのかもしれない。

「この壁の向こうなんです」

 大臣を蕎麦打ち名人にした、防衛省食堂のおばちゃんは、地下室のドアを開けた。

「市ヶ谷に士官学校があったころから、食堂や酒保(軍隊の売店)を出していた関係で、いろいろ頼まれていたんですよ。上は陸運大臣から士官学校の学生まで。いえね、元をただせば、ここにあった大名屋敷のころからお仕えしていましたからね、初代蕎麦聖の嫁もうちから出てましてね、その縁で、うちは蕎麦打ちがお家芸というわけで……ま、息子も娘も蕎麦にも食堂にも関心がありませんでね、大臣が受け継いでくださって……いえいえ、本題、本題……こっちです」

 おばちゃんの話に付き合っているうちに、地下三階にたどり着いた。

 旧軍の名残のようで、三方の壁はかび臭いレンガ造りである。

「ここをね……」

 おばちゃんが、レンガの幾つかを押し込むと、ゴゴゴ……と音がして、壁の一角が開いた。ハリポタの映画で、こんなシーンがあった……そう思って、足を踏み入れると……。

 教室三つ分ほどの広さであろうか……土の地肌剥き出しの空間であった。

 自然の洞窟などではありえない、方形になっていて、ついこないだまでは、レンガかなんぞで内装されていたことを偲ばせる。

「ここは、母や祖母から開かずの間として伝わっていたんですよ『開け方は教えるが、けっして開けてはいけない』と言われてました。防衛省も、この上のレンガの地下までしか存在を知らなかったんですよ。なんせ、わたしも、ついこないだ開けたばかりで。ほら、先週地震がありましたでしょ。あの時、地下でゴロゴロ音がしましてね、長年の勘で、いちばん地下のここだと思って、こっそり開けてみたら、このありさま」

「何があったかは……」

「生まれて初めて入ったもんで……お気づきだとは思うんですが、確かに。ここには何かがあったんですよ。ほら、突き当りに穴が開いてるでしょ」

 おばちゃんが懐中電灯で照らすと、食パンマンの顔のような穴が開いていて、はるか遠くまで続いている。

「あの、向こうは?」

「いえ、まだ調べてません。防衛省でも、限られた人しかね……」

「これを魔法少女に調べさせようと……」

「大臣は、ただ、お見せするようにって……おやりになります?」

「いやはや……」

 

 もう一度、大臣に掛け合うところからやり直すことにした。

 

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・71『夏も近づく百十一夜・1』

2019-08-29 06:27:06 | ノベル2
高安女子高生物語・71
『夏も近づく百十一夜・1』



「明日香、ちょっと放課後あたしのとこ来てくれる」

 久々で廊下で会うた、南風爽子先生が声かけてきた。
 もう忘れてる人も多いやろから、もっぺん説明。
 うちは、この2月3日で演劇部を辞めた。理由は、バックナンバー読んでください。
「……はい」
 ちょっと抵抗あったけど、もう3カ月も前のことやし、うちも17歳。あんまり子どもっぽい意地はることもないと思て返事した。
 ほんとは、ちょっとムッとした。「来てくれる」に「?」が付いてない。「絶対来いよ」いう顧問と部員やったころの感覚で言うてる。生徒とは言え退部した人間やねんさかい、基本は「来てくれる?」にならならあかん。

「今の教師はマニュアル以上には丁寧にはなられへん」
 うちの元高校教師のお父さんは言う。南風先生は、まさに、その典型。コンビニのアルバイトと大差はない。これが、校長から受けたパワハラなんかには敏感。前の民間校長辞めさせた中心人物の一人が南風のオネエチャンらしい。らしい言うのは、実際に校長が辞めるまでは噂にも出てこうへんかったんが、辞めてからは、自分であちこちで言うてる。校長を辞職に追い込んだ先生は別にいてるけど、この先生は、一切そういうことは言わへん。授業はおもんないけど、人間的にはできた人やと思う。

 で、南風先生。

「失礼します」
 うちは、教官室には恨みないんで、礼を尽くして入る。
「まあ、そこに座って」
 隣の講師の先生の席をアゴでしゃくった。そんで、A4のプリント二枚をうちに付きだした。
「なんですか、これ?」
「今年のコンクールは、これでいこ思てんねん」

 A4のプリントは、戯曲のプロットやった。
「今年は、とっかかり早いやろ」
 うちは演劇部辞めた生徒です……は飲み込んで、二枚のプロットに目ぇ通した。タイトルは「あたしをディズニーリゾートに連れてって」やった。
「先生、これて四番煎じ」
 さすがにムッとした顔になった。
「元ネタは『わたしを野球に連れてって』いう、古いアメリカ映画。二番煎じが『わたしをスキーに連れてって』原田知世が出てたホイチョイ三部作の第1作。似たようなもんに『あたしを花火に連れてって』があります。まあ、有名なんは『わたスキ』松任谷由実の『恋人はサンタクロース』の挿入歌入り。
 で、先生が書いたら、四番煎じになります。まあ、中味があったらインパクトあるでしょうけど、プロット読んだ限りでは、ただ、ディズニーリゾートでキャピキャピやって、最後のショー見てたら大きな花火があがって、それが某国のミサイルやった……ちょっとパターンですね」
「鋭いね明日香は」
「ダテに演劇部辞めたわけやないですから」
「どういう意味?」
「演劇のこと知らんかったら、残ってたかもしれません。分かるさかい、うちは辞めたんです」
「それは、置いといて、作品をやね。とにかく、この時期から創作かかろいうのはエライやろ」

 うちは、この野放図な自意識を、どうなだめよかと考えた。

「確かに、今から創作にかかろいうのはええと思います。大概の学校はコンクール一カ月前の泥縄やさかい」
「せやろ、せやから、まだ玉子のこの作品をやな……」
「ニワトリの玉子は、なんぼ暖めても白鳥のヒナにはなりません」
「そんな、実もフタもないこと……」
「それに、このプロットでは、人物が二人。まさか、うちと美咲先輩あてにしてはるんとちゃいますよね?」

 あかん、やってしもた。南風先生の顔丸つぶれ。それも教官室の中でや……。

「ま、まだプロットなんですね。いっそ一人芝居にしたら道がひらけるかも。それにタイトルもリスペクトすんのはええけど、短こうした方が『あたしを浦安に連れてって』とか」
 ああ、ますます逆効果。
「……勝手なことばっかり言うて、すんませんでした。ほな失礼します」

 あかん、南風先生ボコボコにしてしもた。もっとサラッと受け流さなあかんのに。うちは、やっぱしアホの明日香や。

 そやけど、これは、ドアホの入り口でしかなかった……。
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高校ライトノベル・須之内写真館・43『冷やし中華の会・1』

2019-08-29 06:19:37 | 小説・2
須之内写真館・43
『冷やし中華の会・1』       


 冷やし中華は好きですか?

 そんなメールが鈴木健之助から来た。例の『かが爆破事件』の時に一緒になった写真家である。タイトルの次に、命拾いしたことを記念に中華料理でも食べないかという誘いだった。
 この寒い時期に冷やし中華というのも面白いし、何よりも直美は傷ついていた。高校時代のいい思い出が、その主役である栄美にガタガタにされたからである。
 親のことで虐められていた栄美を助けて学校を辞めるハメになった。あんなことは人生で、そう何度もおこることではない。大事にしていた宝石が、一晩でガラス玉に変わったような喪失感だった。

 だから、乗ってみようと思った。

 鈴木とは、写真家ということ以外に共通点は無い。たまたま仕事の相棒になり、危うく命拾いをした。冷やし中華で始まるコース料理で、ウサバラシもいいと思った。
 決心した理由は、もう一つ。なんと仲間にボヘミアンの松岡秀一がいることでもあった。

「なんだ、普通の中華なんだ」

 松岡が連れてきた店の宋美麗がぼやいた。別に日本名を持っていたが、ガールズバーで働いている間は、この母方からもらった名前を名乗っている。大変な名前であることを知ったのは、ボヘミアンで働きだし、オジサンのお客さんに驚かれてからである。

 メニューは以下の通りだった。


 前 菜 : 季節の前菜4種盛り合わせ
 点 心 :小籠包・尾付き海老のパリパリ春巻き
 料 理 :国産牛ロースの香り炒め ソースセレクト
 特別料理:北京ダック
 料 理 :大海老料理(いずれかチョイス)
[チリソース・マヨネーズ炒め・ピリ辛にんにく炒め・淡雪]
 スープ :ピリ辛北京ダックスープ
 麺 飯 :ふかひれと蟹肉のあんかけチャーハン
 デザート:杏仁豆冨

「おいしい!」

 前菜で、美麗が感激した。
 
 確かに、この蓬莱軒は店構えの割に美味しい。大海老料理のピリ辛にんにく炒めのときに話が出た。
「冷やし中華の会に入らないかい?」
「なんですか、それ?」
 質問したときには、二人のオッサンは、ピリ辛北京ダックスープ に取りかかっていた。
「前から構想はあったんだけどね、今度の件で、松岡と話が進んでさ」
「最初は、七月七日の冷やし中華の日に立ち上げるつもりだったんだけどね」
「それなら、似たようなのがあるんじゃないですか? 1970年代に作家やタレントさんがいっしょになって作った『冷やし中華友の会』が」
「うん、趣旨の半分はいっしょなんだけどね。みんなで美味しい冷やし中華を食べ歩く。未だに季節限定にしている店とか多いからね。その普及と、質的な向上を目指す」

 ふかひれと蟹肉のあんかけチャーハン を平らげたあと、杏仁豆腐ではなくて、本物の冷やし中華が出てきた。特性の酢と、ほんのりした焦がしニンニクが絶妙な味を醸し出していた。

「うーん、絶品ですね」
「ベッピンの口から聞くと、まさに一品モノの絶品だね」
 鈴木がオヤジギャグを飛ばす。
「じゃ、あたしも。絶品ですなあ!」
 美麗がリピートした。
「美麗は、まだカワイイのレベルでベッピンとは、ニュアンスが違う」
「それって、一応誉め言葉なんですよね?」
「当たり前。ボヘミアンで三か月連続のブービー賞の美麗だもん」
「あ、けなしてるー!」
 美麗がふくれる。なんとも言えない愛嬌がある。
「冷やし中華が日本料理だってことは知ってるよね?」
 鈴木がふってきた。
「え、中国にないんですか?」
「最近は、逆輸入で、中国のお店でも出してるところがあるみたいだけど、れっきとした日本料理です。漢字から平仮名作ったのに似てるかなあ」
 美麗が、シラーっと言った。なかなか上手いことを言う。
「で、会長さんはどなたなんですか?」
 直美の質問に、二人のオヤジが箸を置いてかしこまった。

「いちおう、あたしってことになってま~す」

 美麗が、目を「へ」の字にして、なんとも方角違いな言い回しで宣言した……。
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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・17『知井子の悩み・7』

2019-08-29 06:12:04 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・17
『知井子の悩み・7』


 やがて、選考会場であるHIKARIシアターに全員が集められた。

 会場は、いかにもプロダクションのスタッフと思われる人で一杯だった。偉そうなおじさんが、マイクを持って、舞台に現れた。

「簡単に、注意事項を言っておきます。携帯やスマホは持ち込み禁止。持ってる人がいたら直ぐに控え室のロッカーに入れにいくこと(むろん、そんな子は居なかったけど、何人かが、自分のポケットを確認した)全員の選考が終わるまでは、ここを出られません。選考委員はこの会場のどこかにいますが、君たちには内緒です。ここにいる関係者全てを選考委員、いや、観客のつもりでやってください……」

 マユは感じた。スタッフのみんなが、審査用のファイルを持っているが、大半はサクラ。五人が本物だと分かった。黒羽さんはメガネにキャップ、腰にはがち袋を下げて道具のスタッフに化けていた。
 そして、驚いたことに選考委員長は、あの会場整理のしょぼくれたオジサンだった!

「それから、もう一点。二次選考で、演技中に怪我をする人が四人もいました。気合いが入ることは結構だけども、くれぐれも怪我のないように注意するよう」
 選考される子たちから、密かなどよめきが起こった。半分以上の子が、その事故を目にしているようだ。
「知井子、あがり性だから気を付けないと」
「う、うん……ケホン」
 もう、あがっている。

 一番の子が舞台に上がったとき、急に照明と、音響が落ちた。スタッフが慌てて駆け回る。

 マユが、魔法で、照明と音響の電源を落としたのだ。
 照明と音響のチーフが、お手上げのサイン。
「ちょっとトラブルのようなので、しばらく、そのまま……いや、控え室で待機して。復旧しだい再開します」
 偉そうなおじさんが、本来の小心さに戻ってうろたえている。

 マユは、意地悪でやったのではない。ただならぬ邪悪な気配を感じて電源を落としたのである。

 控え室に向かう集団の一人に、マユは静かに声をかけた。
「浅野さん、ちょっと」
 声をかけられた子は、少しびっくりした。胸には受験番号のワッペンしか付いていないからである。
「わたしに付いてきて」
 マユは、前を向いたまま、唇を動かさずに言った。
「マユ、どこにいくのよさ?」
「ちょっと用足し。すぐに戻るから、控え室で待ってて」
 知井子は、一人にされて、少し不安そうだったが、大人しく控え室に向かった。
 知井子には一人で、廊下を歩いていくマユしか見えていなかった……。

「さ、ここがいいわ」

 マユが、ヒョイと指を動かすと、施錠された小会議室のドアが、ガチャリと開いた。
「どうやって……?」
 浅野という子は、目を丸くして驚いた。
「さっさと入って、ドアを閉める」
 浅野という子は、驚いた。部屋の椅子や机が勝手に動き、ちょうど二人が向き合って話しをするのに都合いい配置になったからで、むろんマユの魔法である。
「あ、あなたって……」
 浅野という子は、怯えた目になった。
「座って。わたしはマユ。でもって悪魔。だから、あなたのことが見えるの」
「あ、悪魔……さん?」
「で、浅野さん。あなたは、もう死んでるのよ」

 浅野という子の顔は、困惑に満ちてきた……。

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高校ライトノベル:連載戯曲:ユキとねねことルブランと…… 5

2019-08-29 05:57:56 | 戯曲
ユキとねねことルブランと…… 5
栄町犬猫騒動記
 
大橋むつお
 
 
 
時  ある春の日のある時
所  栄町の公園
人物
ユキ    犬(犬塚まどかの姿)
ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)
ルブラン   猫(貴井幸子と二役)
 
 
携帯電話を奪って、もどってくるユキ。その後を血相を変えたルブランが追ってくる。

ルブラン: この泥棒犬。今度邪魔をしたら、許さないって言ったでしょ!
ユキ: 血相変えて追いかけてきたわね。
ルブラン: 誰でも、大事なものをかっぱらわれたら、頭に血がのぼるわよ。さあ、返しなさい、わたしの携帯電話……
ユキ: よほど大事な携帯ね。でも、いまどき携帯をわざわざケースにしまってる人なんているかしら……
ルブラン: 出すな、ケースから!
麻衣: スンゲー! 見たこともない高級品!
ルブラン: いじくるんじゃない!
ユキ: ルブラン……あなた、幸子さんを携帯に変えたわね?
麻衣: え、その携帯が幸子!?
ユキ: そしてこのケースは、携帯にされた幸子さんが逃げ出さないためのイマシメ。
麻衣:そうか、万一ポロリと落っことして、人が拾っちゃったら……幸子って、携帯になっても、お嬢様なんだ……
ユキ: 考えたものよね、携帯に変えれば、肌身離さず持っていても怪しまれないし。そして、思う存分ネチネチ、ビシバシ言葉のパンチをあびせても自然だものね……ケースにもどしては……かわいそう、必要以上にしめあげたのね、皮ひものあとがこんなに……
ルブラン なにを他愛もないことを……

麻衣、なにかひらめいたらしく、力いっぱい携帯電話に水をかける。携帯といっしょに、ビショビショになるユキ。

ユキ: 麻衣ちゃん……そういうことはヒトコト言ってからしてくれる。
麻衣: ごめん、携帯に薬かけたら、幸子にもどるかなって……だって化代にかけたらもどるって……
ユキ: わたしも、そう思ったんだけど……ハックション!
ルブラン: ハハハ……まるで水に落ちた犬だね。さあ返しな。それは高級品だけど、ただの携帯電話。化代なんかじゃないんだよ!
麻衣: くそ!
ルブラン: 知っているかい、こんな言葉……水に落ちた犬はたたけってね!

しばし、みつどもえの立回り。おされ気味のユキと麻衣(戦いを表す歌と、ダンスになってもいい)

麻衣: ユキ、もうだめだ。こいつにはかなわないよ。
ユキ: あきらめないで。ルブランのこの真剣さ、この携帯、化代に違いない!
麻衣: だって、いくらやっても効き目がないよ……(片隅に追い詰められる二人)
ルブラン: フフフ、バカの知恵もそこまでさ。覚悟をおし……
ユキ: この携帯、高級品……ひょっとして……(携帯の裏側をさわる)
ルブラン: やめろ、さわるな!
ユキ: この携帯は……高級品のウォータープルーフ。つまり防水仕様になっている。
麻衣: さすが、ゼネコン社長のお嬢様!
ユキ: でも、防水仕様は外側だけ、電池ボックスを開けて、内側に、その水鉄砲を……どうやら図星ね……麻衣ちゃん、もう一度この携帯を撃って!
麻衣: よっしゃ!
ルブラン: させるか!

ユキが素早く電池ボックスを開けた携帯に、あやまたず麻衣の水鉄砲が命中!

ルブラン: ギャー!
麻衣: やった!
ユキ: どうやら、正解だったようね。わたしの手の中で、幸子さんが、自分の鼓動をうちはじめている。
ルブラン ……なんてこと……せっかく、せっかく、ルブランの夢がかなうところだったのに……(断末魔のBG、ルブラン倒れる)

暗転。明るくなる。幸子を囲んで麻衣とユキ、「幸子さん」「幸子」と声をかけている。

幸子: わたし……わたし、もとにもどれた……もとの姿にもどれたんだ!
ユキ: 幸子さん、もどれたんですね!
麻衣: ルブランも、もとの猫にもどって逃げていったわ。
幸子: ありがとう、麻衣ちゃん、ユキちゃん。
ユキ ユキでいいです。そう呼ばれなれてるから。
幸子: ううん、ユキちゃんが気づいてくれなかったら、わたし死ぬまで携帯電話のままだった。
麻衣: 水鉄砲撃ったのは、あたしだからね。
幸子: ありがとう。
麻衣: でも、防水仕様には気づかなかった。これは、ユキのお手柄。しかし、ルブランてのは相当の悪だったわね。
幸子: ルブランがこうなったのも、わたしのせいだと思う。甘やかしたり、いじめたり。わたし自身、思いあがって、わがままのしほうだい。そんなわたしを、ルブランはじっと見ていたんだわ……
麻衣: あたしと、ねねこも……
幸子: わたし、ルブランを探しに行く。
麻衣: あたしも、ねねこを……
ユキ: それはよした方がいいわ。
幸子: え……?
麻衣: どうして?
ユキ: 今はまだ、あやまりに気づいたばかり。気づいただけだもん。もう少し時間と努力が必要だと思う。ちゃんとしたパートナーとしてつきあうために二人と二匹には……もう少し、もう少し、人と自分を見つめる時間と努力が……
幸子: そうよね……ユキちゃん、えらい!
麻衣: さすが、まどか御自慢の愛犬ユキだ!……ごめん、まどかはまだ見つかってないんだ……
ユキ: ううん、大丈夫。いずれは……(ユキの骨形の携帯電話が鳴る)もしもし……え、まどか!?
二人: え……!?

ストップモーション。ユキだけが動く。

ユキ: 電話は、わがあるじ犬塚まどかからでした。運よく犬の国へは行けたらしいのですが、見ると聞くとは大違い! たった半日で嫌になり、人間の世界にもどってくると言いました。わたしが、うっかりまどかの前で犬の友だちとなつかしそうにしゃべっていたことが災したようです。この点は、わたしも反省。そして、これで、わが栄町の犬猫騒動は終わりをつげました。どうです、この二人。まどかからの知らせがあった、その瞬間の表情です。麻衣ちゃんなんか、少し間が抜けて見えますが、二人とも、友の無事を知った、その一瞬の驚きと喜びがよくあらわれています……われわれペットは、こういう人間の表情を、実によく見ているものです……今のあなたたちと同じように……犬や猫が、天使になるか悪魔になるか。それはあなたたち次第。わたしは、明日まどかがもどってきたら、またもとの犬の姿にもどります。一歳ちょっとにしては小柄な、しっぽをキリリと巻き上げた、白い、一見紀州犬……もし、町で見かけたら、気軽に声をかけてください。もちろん人間の言葉で。そしてもちろんわたしは犬の言葉でお返しします。ワンワンワン、ワン! わかりました?「今日は、お元気?」ってな意味です。そのうちわかるようになりますよ、バウリンガルとかなしででも。それじゃあみなさん、ワォーン……これ、さよならって意味ね。ワォーン、ワンワンワン……
  
これに和するように、大勢の犬の「ワォーン」重なる。キャスト、スタッフ、出られる者は全員舞台に出て、イヌとネコと人の歌とダンスになる。  
 
みんな(唄う) 桜の花が、舞い散るころは、心はそぞろ。気もそぞろ。
新しいことが始まるような。
新しいものが来るような。
何かが、わたしを待っている。
誰かが、わたしを待っている。
そして、他の、何かを、誰かを忘れてしまう。
どこだ、どこだ、だこだ!?
忘れちゃならない、大切なこと。
忘れちゃならない、大切なひと。
新しきものに、心うつろう、その前に、覚えておこう。

桜の花が、舞い散るころは、心はそぞろ。気もそぞろ。
新しいことが始まる前に。
新しいものが来る前に。
わたしは、立ち止まってみる。
わたしは、耳を澄ましてみる。
そうして、わたしは、何かを、あなたを覚えておこう。
そこだ、そこだ、そこだ!
忘れちゃならない、大切なこと。
忘れちゃならない、大切なあなた。
新しきものに、心うつろう、その時に、覚えておこう。
新しきところ、心ひらける、その時に、忘れぬように。     
   

 
 
 
 
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