大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 023『噂のパリス』

2024-10-25 10:24:48 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
023:『噂のパリス 




 関所は谷間にあり、両側は崖が阻んで、どうしても関所を通らなければ先に進めないようになっている。

「どうしても通らなきゃならないのかぁ」

 面倒なことが嫌いなアルテミスが口を尖らす。

「あっちを見ろ」

 プルートが顎をしゃくって、手前の分かれ道を指す。

「あ、向こうにからでも行けるんじゃ……あ、橋が落ちてる」

 数歩先に進んだベロナが声を落として立ち止まった。

「元々、橋のある方が本道で、谷間の道は間道だったんだ。あれを避けてたら、道はないぞ」

「「ああ~~」」

 ワン!

 ついさっきまで名無しだったポチが薮の方を向いて一声吠えた。

「なに奴だ!」

 シャラン!

 大剣を構えてプルートが誰何する。ふだん無口なプルートが一喝すると大迫力で「待った待った、怪しい者じゃありやせん(^_^;)」と怪しいオヤジが出て来た。

「じつは、もう一本抜け道がありやす。この薮の向こうなんですがね、ほとんど獣道なんで案内無しでは通れやせん。お一人様5ギルいただけりゃ、ご案内いたしやすよ」

「怪しいぞ、おっさん」

「不躾よ、アルテミス」

「いやいや、面目ない。でも、案内するのは、この先に居るやつらです。要所要所で『右』とか『左』とか声で教えますんで」

「いや、俺たちはそのまま行く」

「でも、旦那、パリスの奴は難儀ですぜ」

「いざとなったら、ぶちのめしてでも通る」

「おお、元気のいいお嬢さんだ。でも、パリスには神のご加護があるようで、あいつを傷つけると……」

「望むところだ、この大剣の錆にしてやる。なんなら、その前に……」

 プルートが剣を構えると「いや、だったら、もうお好きにぃ(;'∀')」と後からやってきた旅人たちを相手にしに行った。


 列に並んでみると、前の方にバスケット選手のように背の高い狩人が、不器用そうに質問している。噂のパリスだ。


「……そうか、商品の仕入れか。じゃあ、なんでその商品なんだ? 別のものでも良かったのではないのか?」

「いや、それは……」

「お婆さん、孝行息子に会いに行くと言っていたけど、かえって息子の邪魔をすることにはならないのかい?」

「そげなことは……」

「きみは、都に受験に行くんだね。その勉強は都でなければできないものなんだろうか? そこのご夫婦は……観光かぁ、なにも遠くに行かずとも。 そちらの若者は……」

「だいぶこじらせてやがるなあ……」

「そうね、質問がどれも疑問形の否定ばっかりね」

「やはり、押し通るしかないか」

「そうだな、プルート、いっしょに突っ込むか!」

「ダメよ二人とも!」

「「ウッ」」

 ベロナが腕を伸ばして遮る。持続力は無いが、ベロナの一言には力がある。昴学院高校の生徒会長を二期務めた力は伊達ではない。仲間に加わったばかりのハチが子犬らしく「クゥン?」と首をかしげる。

「パリスは真剣なのよ。見ていれば分かるわ。旅人と真剣に話をして、そこから何かを学ぼうとしている。髪のご加護もあるようだけど、彼のあの姿勢には正面から応えてあげなければいけないわ!」

 そう言うと、ベロナは真っ直ぐ群衆の向こう、必死のパリスに近づいて行った。


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス(再生してハチ)
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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馬鹿に付ける薬 022『子犬に名前を付ける』

2024-10-16 13:59:55 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
022:『子犬に名前を付ける 




「連れていくんだったら名前を付けてやれ」

 前を歩くプルートがボソリと言った。

 ヒュドラの黄金のリンゴを手に入れて、三人は街道を北に歩いている。

「名前はケルベロスだろ」

「元々の名前だし、だめかしら?」

 アルテミスはプルートの背中を見て、ベロナは腕に抱いた子犬をモフモフしながら話を続ける。

「それは魔犬の時の名前だ。再生したことだし別の名前を付けてやった方がいい……それに、ケルベロスというのは微妙に長い」

「でも、カッコいいぞ」

「そのままだと、また首が三つになるかもしれんぞ」

「「それは困る!」」

 ワン!

「まあ、急ぐことでもない、ゆっくり考えろ」


 まあ、これも長い旅の慰めだろうと二人は考え始める。


「あれ?」

 半時間ほど考えて歩いていると、道を行く自分たちの影が一つ増えていることに気づくアルテミス。

 いつの間にかカロンが後ろを歩いている。

 ワンワン

「カロン(^_^;)」

「い、いつの間に(;'▭')」

「さあな」

「何かあったのか?」

 プルートは気づいていたようで、振り向きもせずに普通に聞く。

「この先に関所ができた」

「「「関所?」」」

「イリオス王プリアモスの息子でパリスという若造が冒険者たちに旅の目的を聞いている」

「イリオス王の息子?」

「誰だ、それ?」

 アルテミスとベロナが聞くと子犬も倣って首をかしげる。

「女神共に難儀な判定を迫られている若者だ。どうやら、まだ答えられずに冒険者相手に練習しているようだな」

「そんなの無視して行けばいいんじゃないのか?」

「ここで旅をやめて帰れるか、アルテミス?」

「できるわけないだろ」

「それと同じだ、パリスもゼウスに頼まれたんだ無下にはできん。二人とも、今のうちに考えとけ」

「あぁ、ちょっとぉ」

 子犬が肩の上でモソモソして持て余すベロナ。

「あ、首に札が付いてるぞ」

「え、いつの間に?」

「名札だ、ハチって書いてあるぞ」

「ハハ、カロンのやつだな」

「勝手に名前つけんなよ……あれ?」

「あら、もう居ないわ」

「さあ、犬の名前も決まった。先を急ぐぞ」 

 道の先に人だかりが見えて来た、どうやら、それがパリスの関所のようだ。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス(再生してハチ)
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馬鹿に付ける薬 021・ヒュドラを討つ・6『ヒュドラ昇天』

2024-10-12 11:46:39 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
021:ヒュドラを討つ・6『ヒュドラ昇天』 




「どうやら俺たちが待っていたのはお前たちだったのかもしれねえ」

 意外なことを言う真ん中の首。

「待っていた? わたしたちをですか?」

「ああ、俺たちは『選ばれし勇者』を待って黄金のリンゴを渡すのが使命なんだ」

「「「…………」」」

 にわかには信じがたい冒険者たちはすぐには返事をしない。

「聞いてんのかぁ、お前たちに……」

 ドン

 プルートが大剣を地面に突いた。

「負け惜しみかぁ?」

「「んだとぉ!?」」

「まあまあ」

 二つの首が文句を言いかけるが、真ん中のが目で制して話を続ける。

「俺たちのケルベロス星座は、20世紀にヘラクレス座に取り込まれちまって、もう元気の出しようがねえんだ」

「あらぁ……」

「ケルベロス座なんて聞いたことも無いぞ」

「あああ……(=△=;)」

 アルテミスの一言に再び深いため息をつくケルベロス。しかし、それとわかる溜息は真ん中だけで、両側の首は、もうため息をつく元気さえない。

「ヘラクレス座と白鳥座の間にあったんだ。いまはヘラクレスの中に取り込まれてる」

 商店街のラーメン屋が一軒無くなったように言うプルート。

「まあ、そうだったんですか」

「ごめんな、簡単に言ってしまって」

「まあいい。まぁ、百聞は一見に如かずだ。これを見てくれ」

 ケルベロスが半円を描くように尻尾を振ると数十本のリンゴの木が消えて巨大なインスタントラーメンみたいなのが現れた。

「なんですか、これは?」

「ヒュドラだ、冒険者たち」

「「ええ( ゚Д゚)?」」

「ヒュドラ? 袋から出したばかりのインスタントラーメンみたいだぞ」

「そこのメイジ」

「はい?」

「その杖で叩いてみてくれないか」

「え、ええ」

 少しためらいのあるベロナだったが、蛇の首が見えるわけでもなく、ウロコさえないクネクネの塊は〇〇食品のロゴさえ入れればインスタントラーメンのディスプレイにしか見えず。小さく息を吸うと「エイ!」と掛け声をかけて杖を振るった。

 バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ……

「オオ!」「うわ!」「キャ!」

 崩れの中の方に、それとハッキリわかる蛇の首がゴロゴロと現れた。

「なるほど、首はぜんぶ中心に向かっていたんだな」

「たぶん……」

 ケルベロスが前足で首たちを掻き出すと、真ん中から百個以上の黄金のリンゴが現れた。

「ヒュドラのやつ、最後までリンゴには手を付けなかったんだなぁ」

 三つの首をうなだれさせるケルベロス。

「こいつらがリンゴの番人だったのは本当みたいだな」

「お祈りをさせてもらうわ」

 そう言うと、ベロナは頭の高さほどに浮き上がりヒュドラの欠片の山をグルリと回りながらゆっくりと昇魂の詠唱歌を口ずさむ。

 カケラたちはホロホロと儚く光り、空に昇っていった。


 しばらく欠片たちの昇天を見送る三人。


 最後の光が消えて地上に目を戻すと、ケルベロスの姿が消え、生まれて間もない子犬がスヤスヤと眠っていた。

 三人は黄金のリンゴを回収し、ベロナが子犬を抱き上げると――仕方ないあなあ――儂はしらんぞ――まあまあ――と呟きながら街道に戻って行った。



 
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馬鹿に付ける薬 020・ヒュドラを討つ・5『ケルベロス・2』

2024-10-08 15:48:14 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
019:ヒュドラを討つ・5『ケルベロス・2』 




 ちょっと  待って  くれぇ


 バラバラで元気のない声がした。

 なにやつ!?

 得物を構えた三人が振り返る……と、肩で息をして、今にもへばってしまいそうなケルベロスがよろよろと進み出てくる。

アルテミス:「なんだあ、またやろうってのか(`▢´)!?」

 アルテミスが吠えると、ケルベロスはペタンと腰を落とした。かろうじて突っ張った前脚はガクガクと震え、とても戦える状態ではない。三つの首は、どれもフルマラソンを終えたポンコツ選手のようにゼーゼー喘いで、なんとも情けなく、戦意が無いことは明らかだった。

ベロナ:「なんだか様子がへん」

プルート:「なにか言いたいことがあるのか?」

 ケルベロスの三つの頭は「……ぁ……」「……ぇ……」「そ…の…」と声は発するが息も気力も続かず、一瞬黙ったかと思うと、お座りの姿勢のまま小便を漏らしてしまう。

「おまえぇ(-▭-;)!」「てめえぇ(;'△')」「きさまらぁ(-_-;)」

 言い合いになりそうだが、言葉も気力が続かず、やっと真ん中のが頭を上げてやっと語り始める。

ケルベロス真ん中:「みっともねえとこを見せちまったな、笑ってくれてもいいんだぜ」

ベロナ:「笑うだなんて、そんな……ちょっと待ってね」

 ベロナがロッドをかまえる。

アルテミス:「あ、回復魔法とかダメだぞ!」

 それには答えずに短く詠唱すると漏らした水溜まりが消えて、ケルベロスのお尻は紙おむつにくるまれた。

「「「あああ……(=△=;)」」」

 それまででいちばん情けない溜息を漏らすケルベロス。

アルテミス:「やっちまったな」

プルート:「完全に心を折っちまったな」

ベロナ:「え、あ、まずかった(;'∀')?」

ケルベロス真ん中:「いや、これで、もう一つ吹っ切れた気がしたかもな……」

 左右の頭は完全にうな垂れて覇気も根気も失せ果てている。

 仕方なく、真ん中が声を落としたまま語り始めた……。



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馬鹿に付ける薬 019・ヒュドラを討つ・4『ケルベロス・1』

2024-10-04 12:15:11 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
018:ヒュドラを討つ・4『ケルベロス・1』 




 グガアアアア!

 三人が身構えると同時にケルベロスは飛びかかってきた!

 三つの首は跳躍するまでは、それぞれ三人を睨み据えていたが、跳躍の頂点に差し掛かったときは揃ってメイジのベロナに牙を剥いて襲い掛かった。

 ズサ! ビシ! ハッ!

 プルートの斬撃! アルテミスの弓! ベロナのホーリーブレス!

 三つが同時にヒット! ケルベロスはすんでのところで身を躱し右の薮の中に逃げ込む。

「まだ来るぞ!」

 プルートが叫び、ベロナもアルテミスも得物を構え直す。

「思ったほど強い攻撃じゃなかったわ(;'∀')」

「あたしの矢もちゃんと突き立ったぞ(;'▭')」

「来るぞ!」

 グガアアアア! 

 ズサ! ビシ! ハッ!

 二撃目も危なかったが、自分たちの反撃に手ごたえを感じる三人。

 ザザザザザザザ ザザザザザザザ ザザザザザザザ

 三度薮の中を右に左に駆けまわるケルベロス! その後、三度、合計五回の攻撃をしてくるが、三人の冒険服に爪がかかる程度で、一つもまともにはヒットしていない。
 加えて冒険者三人は、防御にも攻撃にも慣れて、次の攻撃ではケルベロスに致命傷を与えられる気がした。

「くそぉ……」「もう一回……」「ちょっと待て……」

 微妙に異なるテンションの呟きがして、十数メートルの距離を開けて三つ頭の犬が姿を現した。微妙に息が上がって、たぎらせている闘気はハッタリのように感じられる。

「なんだ、もうおしまいかぁ……」

 そう言いながらも、大剣を中段に構え直すプルート。ベロナもアルテミスもそれに倣って弓と杖を構えた。

「待て待てぇ」「やるか!」「逸るな!」「痛い、勝手に首振るな!」「なにを!」「こっち見んな!」「まあまあ」「なあなあで済ますな!」「なあなあじゃねえ、まあまあって言ったんだ」「なにを!」

 三つの頭はさらに意見が合わなくなってきて、頭同士でもめ始める。

「あはは……ほっといて先に行きますか(^_^;)」

「そうだな、こんなのを相手にしても仕方がない」

「リンゴの匂いが強くなってきたし」


 さらに森の奥を進むと、やがて下草を刈って手入れの行き届いたリンゴ畑が見えてきた。


「おや?」

 リンゴ畑はテニスコート三面分ほどの広さがあって、数十本の普通のリンゴの木に取り囲まれて倍ほどの高さのが青々と葉を茂らせていた。

「あの大きいのが黄金のリンゴの木だ」

「でも、プルート、実がなっていないぞ」

「他のは、ちゃんと赤い実を付けているのに」

「おかしい、夕べ偵察した時にはちゃんと実がなっていたんだぞ。それに……」

 プルートが言うまでもなく、ベロナとアルテミスにも分かった。

 禁断の森の主、百の首を持つ蛇の化物ヒュドラの姿が見えないのだ。

「あいつ、ひょっとして早く目が覚めてしまったか……」

 そう言って、プルートは剣を抜き、ベロナとアルテミスも半身に構えてヒュドラの襲撃に備えるのだった。

 
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馬鹿に付ける薬 018・ヒュドラを討つ・3『アンデッド』

2024-09-28 10:37:37 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
018:ヒュドラを討つ・3『アンデッド』 




 ゾワ……のゾ!


 背後に気配の『ゾ』を感じて三人ともに振り返った。

 ジャキン!

 気配がアンデッドのそれだと分かって『ゾワ』っと届ききった時には二人を飛び越えてアンデッドどもの前で大剣を構えているプル-ト!

「アンデッドの気配なんかしなかったぞ!」

 遅れて弓を構えたアルテミスは盗塁を許してしまったピッチャーのように唇を尖らせるが、さすがに矢をつがえている。ベロナは三人の前に防御シールドを張った!

 グワ!

 先頭のアンデッドが闇のような口を開けて飛びかかって来る! その跳躍が放物線の頂点にかかった時にはアルテミスの矢がアンデッドの額を貫いて瞬時に四散させた!

 シュシュシュシュシュ! シュシュシュシュシュ!

 四散した腐肉や骨片が魔素となって蒸発する前に、アルテミスは五連の矢を二斉射して背後の十体のアンデッドを射殺す! プルートは風車のように大剣を振るってアンデッドの群れの中を突き抜ける!

 ジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュ!

 アンデッドどもは、斬撃粉砕の音を立てる間もなく蒸発するように消し飛んでいく。

 グワワワ!

 シールドは十分な広がりを持っていたが、巨大な雪の結晶のように外縁部に隙間があって、そこから数体のアンデッドが侵入。
 アルテミスは弓を剣に変換して越境してきたアンデッドをたちまちのうちに両断する!

 ズサ!

 しかし、その剣をも掻いくぐって襲い掛かる一体のアンデッド!

 キャ!

 ベロナが悲鳴を上げる! 悲鳴は銀色の呼気となって、そいつを瞬間で霧消させ、数秒残った呼気には『ホーリーブレス・レベル1』と出ていた。

 そして、プルートがUターンし、群れの背後を取った時には残ったアンデッド共は森の中に逃げ散っていた。

「ベロナ、シールドを平面にしたのはいいが、それでは中華鍋をプレスしたようなものだ」

 さっそくプルートのダメが入る。

「あ、そうですね。縁に綻びが出てしまったわ(^_^;)」

「しかし、トドメのあれはホーリーブレスだ。咄嗟に出たんだろうが、いい武器になる。シールドと合わせて鍛えておくといい」

「はい」

「見ろ、いまの奴ら、さっきの冒険者のかけらどもだ……」

 アルテミスが指し示した薮や獣道には蒸発しきれなかったカケラが残っていたが、それは、さっき森の入り口辺りで見たものと同じであった。

「支配魔法の痕跡があるわ」

「誰かが操っていたんだな……こういうのは好きじゃない」

「好き嫌いで旅は乗り越えられ……」

「?」

「どうかしました、プルート?」

「ゆっくり振り返ろ、操っていた奴が来ている」


 振り返ると、三頭魔犬のケルベロスが四股を踏んだ横綱のように蟠っていた。


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
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馬鹿に付ける薬 017・ヒュドラを討つ・2『森に踏み込む』

2024-09-23 15:42:36 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
017:ヒュドラを討つ・2『森に踏み込む』 




 峠を下り、北に向かう街道を横目に森に近づくと、甘い香りが漂ってきて思わず足を止めてしまう駆け出しの冒険者とガーディアン。

「こんなにいい香りがするんですねぇ……」

「学食で出てくるリンゴなんて目じゃないなぁ……でも、こんなにいい匂いがしたら街道を通るやつらが取りに来るだろ」

「さっきは、それほどじゃなかった。森の中を進んで果樹園の手前まで行かなきゃ、リンゴの匂いはしなかった……」

 並の勇者や冒険者なら、敬遠して通り過ぎるか、あるいは匂いにつられて森に踏み込んで番人のヒュドラに返り討ちになるかなんだろう。

「じゃあ、入るぞ」

「おお」「はい」

 プルートを先頭に森に足を踏み入れる三人。

 ようやく日が上り始めたと見え、微かに小道が窺える。

 シャワ シャワシャワ……

「なにか変なものを踏みつけていません?」

「枯れ葉……じゃない!?」

「……え!?」

 立ち止まって足元をうかがうと、木の葉や枝の切れに紛れている骨だった。

 獣の骨も混じって入るが、あきらかに人のそれと分かるものも混じっている。

「さっきは獣道を探りながら進んだから気づかなかったが……先客は居たようだな」

「冒険者たちですね、装備や服の切れ端もあります」

「登録書の切れだ……」

「ええ、七級と八級……わたしたちよりもレベルが高いわ!」

「運が悪かったか、ただの間抜けだったかだな」

 それだけ言うと、プルートは「そうか、さっきはあっちを通ったのか……」と小手をかざして薮の向こうを見たりするが、足は緩める様子がない。

「ウン、がんばりましょう!」「おお!」

 ベロナは気合いを入れると髪をひっ詰めにまとめてマントのフードの中に収める。アルテミスも無意識に髪に手をやるが、元がショートカットなので、ペシっと自分の頬を打ってごまかした。

 三人は、さらに森の奥に足を踏み入れた。



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馬鹿に付ける薬 016・ヒュドラを討つ・1『プルートの話し』

2024-09-18 14:54:15 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
016:ヒュドラを討つ・1『プルートの話し』 




 プルートは夜遅くになって帰ってきた。


「あら、いつの間に帰ってきたんですか?」

 自分たちのために森に行ってくれたんだと思って、ベロナは火の番をしながら起きていたのだが、つい睡魔に勝てずにまどろんでしまった。アルテミスはかまわずにブランケットにくるまって寝てしまっている。

「なにを言ってる、もう行くぞ」

「え?」

 帰って来るなり「行くぞ」と言われては混乱する。

「儂も三時間寝た十分だ」

「え、あ、じゃあアルテミスを起こして朝ごはんにしなきゃ」

「それは果樹園の用事が済んでからだ」

「え、あ、ちょっ……」

 熟睡中のアルテミスを起こすと、すでに峠の中ほどまで下ったプルートを追いかけてベロナは坂を下った。まだ東の空に明けの明星が煌々と輝き、目標の森は夜の底に黒々と蟠って空との境目が定かではない。

「森にはヒュドラという蛇の化物がいてな……」

「ヒュドラ!」

 ベロナは思わず立ち止まってしまった。

「ヒュドラ……だってぇ!?」

 寝ぼけ眼のアルテミスも瞬間で目が覚めた。

「知っている様子だな。じゃあ、説明はいらんだろ、行くぞ」

「ちょっと待てよプルート、ヒュドラなんてオレ……あたしでも知ってる100個も頭のある蛇の化物だ、レベルは、ほとんど100だぞ」

「さっき、いえ、夕方にカロンが認定書を持ってきてくれましたけど、わたしのレベルは8でした」

「あたしは10だ」

「とても、レベル100の魔物なんか無理です」

「普通にやればな」

「ヒュドラは眠る時でも一つだけは起きてる。寝込みを襲っても、その起きている一つが、たちまち、残りの99を起こしてしまうから、駆け出しの冒険者じゃ返り討ちになるだけだ」

「年にニ三回は100の頭が全て眠る。それが、今朝の明け方の一時間ほどだ」

「どうして分かるんですかぁ(^_^;)」

 穏やかだが、眉をひきつらせてベロナが聞く。

「ヒュドラの奴が相談しているのを聞いた」

「ヒュドラの相談相手って……」

「100の頭が相談するんだ。前の記録から言って、今夜あたりだろうと、息を殺して聞いていたのさ」

「じゃあ、その一時間の間なら、簡単にやっつけられるというわけなのか?」

「ああ、無防備になるからな」

「おし、それなら勝てるかもしれないな」

「でも、アルテミス。わたしたち曙の谷でチュートリアルみたいな戦いしかしたことないのよ」

「寝てる間は、臨時の魔物が入る。なに、ヒュドラに比べればなんでもない」

「その臨時の魔物って?」

「なんなんだ?」

「たかのしれたケルベロスさ」

「「ケルベロス!?」」

 ケルベロスでも十分すぎる脅威だ。

 プルートに付いていく足どりが目に見えて落ちてくる二人だった。

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭

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馬鹿に付ける薬 015・カロンと晩ご飯

2024-09-15 14:33:29 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
015:カロンと晩ご飯 




「おめえら、こんなもの食ってんのか!?」

 お湯で温めただけのレトルトシチューをコッフェルに入れてやると目を丸くするカロン。

「悪いな、いちいち調理なんかしてられねえ『ダンジョン飯』じゃないんだからな」

「ああ、あれはすごいわね。ドワーフが調理のベテランで、どんな素材からでもご馳走を作ってしまうのよね。あ、でも、旅は始まったばかりだから、パンは、まだ新鮮よ。はい、どうぞ」

「グ、グググ……」

「なんだ、まだなんか文句あるのか!」

「ち、ちげーよ。有機物の……それも白いパンなんて初めて食うぜ……」

 カロンがビックリしているのは、レトルトとかの安直さではない。旅の簡易な食事なのだが、カロンには、とんでもないご馳走に思えるのだ。

「う、うめぇ!」

「カロン、普段はどんなもの食ってるんだぁ?」

「アルテミス、失礼よ」

「別にかまわねえよ。オレたち、太陽系のいちばん外れだし、オヤジが惑星のカテゴリーから外されてからは、そこらへんの星くずとかデブリとかを分子変換して食ってる、ムシャムシャ」

「そ、そうなのか(;'∀')」

「たまに、迷い込んだUFOとかも、ズルズル」

「UFO食うのか!?」

「ああ、中に食料とか積んでるのがあるし、宇宙人て基本有機物だから変換したら、ムシャムシャ……けっこうなご馳走だ」

「「…………」」

「あ、むろん生きてるやつは食わねえぞ。生命だからな。くたばってる奴をいただくんだ。ムシャムシャ」

「そ、そうなのか」

「オヤジはよ、248年かかって太陽の周りを周ってるんだけどよ、人類が発見してからまだ日が浅くって、公転の様子は、まだ半分以上分かってねえ」

「ああ、言語化するには人類の知性を経由しなくちゃならないからな」

「だから、オヤジにはがんばってもらわなくちゃ……オレもがんばるしな。ムシャムシャムシャ……」


 それから、ひとしきり晩ご飯を食べると、空になったコッフェルに手を合わせ、あっという間に消えてしまった。


「いまのアレ、ごちそうさまだよな?」

「意外と礼儀正しい……」

 それから、自分たちはほとんど食べていないことに気づき、それぞれカロンの半分ほどの晩ご飯を食べた。

 プルートは、深夜になって戻ってきたが、しっかり寝ていた二人は朝まで気づくことが無かった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
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馬鹿に付ける薬 014・野営の準備

2024-09-11 13:17:10 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

014:野営の準備 




「ここらで野営にしよう」

 
 峠まで差し掛かったところでプルートが立ち止まった。

「あの木陰がいい。前のパーティーが使った石組が残っている」

「でも、まだ陽が高いですよ」

「そうだ、他のパーティーは峠を越えて行くみたいじゃないか」

 ベロナもアルテミスも少し不満だ。

「やつらは普通の道を行く、もう二時間も歩けばアケメネスの村だからな」

「だったらアケメネスの村まで行こうじゃないか、好き好んで野営することもないだろ」

「我々は違う道を行く、ほら、向こうの森だ」

「わざわざ遠回りして森を通るのか?」

「森の中に果樹園があってな。そこでリンゴを仕入れる」

「まあ、リンゴですかぁ(^〇^)!?」

 ベロナは果物には目が無いようだ。

「果物を仕入れてどうする。足が早いし、かさばる。荷物になるぞ」

 二人のリュックとカバンは勇者のそれで相当なアイテムがしまい込めるが無限ではない、まだまだ旅の序盤、いたずらに中身を増やしたくない二人だ。

「ポーションの代わりになる。それに熟れることはあっても腐ることがない、ちょうどこれくらいのリンゴだ」

「まあ、プチトマトかブドウほどにかわいい」

「でも、そんなにいいアイテムなら、他のパーティーも行くんじゃないのか?」

「森にはいろいろモンスターや魔物が出るんでな」

「そうか、それを先に行って退治しておいてくれるってわけか!?」

「様子を見に行くだけだ。儂はガード、旅の主人公はお前たちだ。じゃあな」

「いってらっしゃーい」

 意外な身軽さで駆けていくと、先行のパーティーを追い越して森へ続く茂みの中へ消えて行った。

 石組みを整えていると、一陣の風が吹いてカロンが戻ってきた。


「オヤジ、行ってきたぞ……なんだ、居ねえのかぁ?」


「あ、カロンさん、町までお使いご苦労さまでした」

「お、おお、オヤジは?」

「向こうの森に行ったぞ、明日、森の果樹園に行く下見って言ってぞ」

「ち、そうか」

「カロンさん、これから晩ご飯の用意するんですけど、いっしょに食べて行きませんか?」

「いらね。オレ、いつも一人だから。ほれ、ギルドの登録書とドロップの代金とレシートだ」

「おう、ありがとう……って、手数料が二つあるぞ、一つは手書きだし」

「ああ、オレの分だ。5%格安だろ」

「そんな話聞いてないぞ」

「文句あんのかぁ、これはオヤジも承知の上だ」

「なんだと」

「なんだぁ、やろうってのか!」

「まあまあ、カロンさんにも事情があるんでしょ。四人も弟妹がいるっておっしゃってましたし」

「ち、なんで知ってんだ!?」

「あ、プル-トさんが……」

「クソオヤジが余計なことを……とにかく、オレは行く!」

 グゥ~~~

「ほらぁ、お腹空いてるんでしょ。すぐにできますから、どうぞ(^▽^)」

「おぉ……食ってやらねえこともねえけど、費用はそっちもちだぞ」

「はいはい」

「火おこすぞ」

「お、おお」


 火を起こし、調理になると、意外に呼吸が合って段取りよくできる三人だった。

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長
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馬鹿に付ける薬 013・カロン

2024-09-07 12:19:57 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

013:カロン 




「さあ、一度町に戻らなきゃですね」

 ベロナが、ギュっとこぶしを握る。

「それには及ばん、代理でいい」

「「代理?」」

 ピュ

 プルートが口笛を吹くと、ショートヘアの小柄な少女が降ってわいたように現れた。

「なにぃ?」

「始まりの町に行って、手続きをしてきてくれ」

「ええぇ(‎ ‎¯ࡇ¯ ) 」

 すごくメンドクサソウな顔をして、赤いショートヘアの頭をゴシゴシ掻く。

「儂らは先に行ってる、ほら、記録とドロップを渡しておく」

「おお」

 ショートヘアが腰のタガーを少しだけ抜くと、プルートのソードの束から小さな三つの光の玉が出てきてタガーに移される。

 パチン

 タガーを鞘に納めると、もう回れ右をするショートヘア。

「挨拶ぐらいしていけ」

「それには及ばん」

 プルートそっくりな捨て台詞を残してショートヘアは消えてしまった。

「なんだ、あいつ(`へ´)」

 アルテミスは機嫌が悪い。

「儂の衛星のカロンだ」

「ちょっとアルテミスに似てましたね」

「ちょ、あそこまで不愛想じゃないぞ(‎ ‎`▢’ ) 」

「下に四人も妹弟がいるんでな」

「まあ、大変なんですねぇ」

「まあな……」


 おお、プルートじゃねえか!


 坂道を上がって行くと谷の上から、ちょっとバカにしたような声が降ってきた。

 見上げると先行のパーティーたちが、バカにしたような顔で見下ろしている。

 三人と四人のパーティーに、もう一つはメンバーは前衛とメイジが二人もいて充実している。どうやら、アルテミス達の戦いを高みの見物と決め込んでいたようだ。

 メイジの一人が――ごめんなさい――というような顔をしているが、残りはどうでもいいような、あるいは、ハッキリとバカにしている。

「ヒヨッコ二人連れて、修学旅行の引率かあ?」

 腹の突き出たアーチャーが皮肉を言うと、前衛の一人が身を乗り出してトドメとばかりに悪態をつく。

「大変だよなあ、惑星のライセンス取り上げられちまっ……」

 シャリーーン!

 鞘走りの音がしたかと思うと、瞬間移動をしたかのように、プルートは前衛の首筋にソードを擬している。

「めったなことを言うな……儂は今でも太陽系の第九惑星だ!」

「あ……あ……そ、そうだったな(;゚Д゚)」

「そこのメイジ、すぐに回復魔法をかけてやれ。このソードを離した途端、こいつの首から致死量の血が噴き出すからな」

「は、はい……わ、我、神の御名において、曙の力もて汝の命を繋がんとす……」

 詠唱の最後の言葉が終わると同時にプルートはソードを引き離し、前衛の首からスイッチ入れたての小便小僧ほどの血が放物線を描き、その先が地面に落ちると同時に停まった。

「少し詠唱の力が弱い、精進するんだな」

「は、はい……」

「行くぞ」

 三人は曙の谷を後にして北に向かった。



 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
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馬鹿に付ける薬 012・曙谷 初めてのダンジョン

2024-09-02 11:25:04 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

012:曙谷 初めてのダンジョン 




 曙の谷に三人は着いた。

 差し渡し50メートル、深さは平均5メートル、深いところでも8メートルほど、谷底への傾斜もさほどには無く、幅の狭い盆地といったところだ。

 谷底には森というほどではないが、所どころに木がまとまっているところがある。そこを避けて通れば手ごろなハイキングコースと呼べるくらいにのどかで、そうと言われなければ分からないくらいの穏やかさだ。

「あの木がまとまっているところがダンジョンだ。いちおう森と呼ばれているが、書類上の名称でな、始まりの町以外で言うと馬鹿にされる。ダンジョン以外でもモンスターは出るが確実ではない」

「森を通るんですね」

「サッサとやっちまおうぜ……って、どこに行くんだ?」

 気の早いアルテミスが下りようとすると、プルートは谷への坂道ではなく、ちょっと横の岩のところに向かった。

「なにかの石碑ですかぁ?」

「メニュー表だ」

 プルートが手で突くと、グルンと石碑が回ってメニューが現れた。

「固定が甘いんで、時どき裏向きになる……日替わりでなあ、何が出ても大したことはないんだが……」

 メニュー表には『Kスライム』と『Kウルフ』と書いてある。

「よし、時どきKスケルトンというのが出るんだが、下手な狩り方をすると粉々になる。服や装備につくと面倒なんだ」

「ああ、クリーニングは町まで戻らなきゃですものね」

「行くぞ」

 プルートは迷わずに一番手前の森の前に飛び降りた。

「ちょ、待てよオッサン!」

 続いてベロナとアルテミスが駆け下りた時には、すでにプルートは森の中に踏み込んでいる。

「闘志満々ですね!」

「え、あれ?」

 ザザザァ

 飛び込んだばかりのプルートが飛び出してきた。

「二人とも離れろ! Kスケルトンだ!」

 ザザ!

 三人が跳び退るのとモンスターが飛び出してくるのが同時だった。

「スケルトンは居ないんじゃねーのか!?」

「よく見て、あれは……」

「Kオオカミがスケルトン化したものだ。アルテミス、距離をとって矢を射かけろ!」

「おお!」

「て、こっちに向かって来ます!」

「儂が引き付ける、ベロナは防御にまわれ!」

「はい!」

 パシ!

 瞬間凍結したような音がすると、アルテミスを庇うベロナの前に半球状の防御結界が現れた。

 シュシュシュシュシュ!

 アルテミスが一瞬で五本の矢を射かける。

 パッシャーーン!

 あやたず五本の矢が付き立って、スケルトンオオカミは粉々になって飛び散った。

「やったあ!」「やりましたあ!」

 初手柄に舞い上がる二人だったが、プルートの表情は険しかった。

「Kスケルトン如きに五本は多すぎる、見ろ、粉々になって、少し被ってしまったぞ」

「あ、ごめん」

「ベロナの防御も優雅すぎる」

「え、優雅じゃいけないんでしょうか?」

「半球状のバリアはきれいだが、不慣れだと脆い。K級のモンスターだからいいが、上級のモンスターなら卵の殻のようにぶち破られる。当分は亀甲バリアでいけ」

「は、はい」

「さあ、次はKスライムだ」

「おお!」「はい!」

 その後は次の森でKスライムを簡単にやっつけた三人だったが、やはり初めてのことで爆砕したスライムを浴びてしまってベトベトになってしまう三人だった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
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馬鹿に付ける薬 011・ガードはソードマンのプルート

2024-08-29 11:20:38 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

011:ガードはソードマンのプルート 



 
 町の北門を三人が出ていく。

 ソードマン(剣士) アーチャー(弓士) メイジ(魔法使い)のナリをした三人なので最低要件を満たした冒険者一行には違いない。

 ソードマンが先頭なのだが、アーチャーのアルテミスもメイジのベロナも、この小柄なソードマンが何者なのかよく分かっていない。

 ジョバンニ教頭が「学校の方から依頼したガードが待っている」と言っていたので間違いはない。しかし「話はあとだ、さっさと手続きを済ませろ」とソードマンが言うので、あっという間に用件を済ませ、取りあえず町を出ていくところだ。


「では、話だ」


 ソードマンが道祖神の前で立ち止まった。

「おう」

 自分よりも小柄なソードマンに素直に返事してしまうアルテミス。ベロナは品よく頷いた。

「ガードのプルート、冥王星のスピリットだ。お前たちが目的を果たして学校に戻るまで付き合う。身分的にはお前たちの方が上だが、冒険に関しては俺の方が遥かに上だ。冒険が終わるまで、このプルートの指示に従ってもらう。いいな」

「はい」「お、おう」

「インタフェイスを開け」

「はい」「おう」

「所持金とアイテムの半分を預かる」

「「え?」」

 ジャキーーン

 反論する間もなく現金とアイテムの半分がインタフェイスから消えていった。

「金とアイテムが欲しければ稼げ。常に稼ぎの半分は俺が管理する。食事、宿泊、アイテムの出し入れは俺がやる」

「あ、オレだって……」

「アルテミス、お前の『オレ』は禁止だ」

「え、なんでだ!?」

「おまえ、一応はかぐやの妹で女なんだろ。女がオレとかボクとか言うもんじゃない」

「オレだって神さまなんだぞぉ……なに見てんだ!」

「……胸を張るな、ほとんど痕跡器官にしか見えんぞ」

「な、なんだとヽ(`Д´)ノ !」

 アハハハ

「わ、笑うな!」

「アルテミスだって、時どきは『あたし』って言ってますよ」

「TPOで使い分けてんだ、こんなオッサンに言われる筋合いはねえ!」

「それから、ベロナ」

「はい」

「最初に行っておく。地球と同じ公転軌道を周ろうなどと思うな」

「え、なぜですか( ゚Д゚)!?」

「惑星というのは、自分の軌道を守ってこその惑星だ」

「でも、それは!」

「いま分からんでもいい。大事なことだから最初に言っておいた。もう、当分は言わん。では、行くぞ。夜までには曙の谷で用事を済ませて、正式に出発するからな……返事!」

「「ハ、ハイ」」

「では、駆け足!」

「「え?」」

 いきなり駆けだしたプルートを追いかけるベロナとアルテミス。

 最低限で妙なパーティーに行きかう冒険者たちが笑っていく。

 異世界を照らす太陽は、そろそろ南中しようとしていた。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
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馬鹿に付ける薬 010・ギルドの扉はめちゃくちゃ重い

2024-08-25 11:45:22 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

010:ギルドの扉はめちゃくちゃ重い 




 ギイイイイ……


 ギルドの扉は思いのほかに重く、でも、重そうに開けては中に居る冒険者やギルドの受付たちに軽く見られてしまうと思って、ポーカーフェイスで押し開けるアルテミス。

 半ばまで開けると視界の端にベロナも押しているのが分かる。

 ザワ

 昼時の学食を思わせる殺気だった賑わいの中、冒険者やクエストの依頼人、ギルドのスタッフたちの視線が集まる。

 半ばは意外そうな、半ばはバカにしたような目だ。

 一瞬たじろぐ二人だが、みんなかかずらってはいられないという感じで、クエストの張り紙、ステータスアップの手続き、ドロップアイテムの査定や買取、苦情の処理などに忙しい。

「目がキョドってますわよ(^_^;)」

「そう言うベロナも手が震えてるぞ(-_-;)」

「ええと……」

「フーー まずは登録だな」

 一つ深呼吸をして登録の窓口に向かう。

「窓口、二つあるわ」

「あ……初回登録の方かな」

「でしょうね」

 自分たちと歳の変わらない若者や自分たちの不向きを悟って転籍したい中年たちが並んでいるBの列に並ぶ。
 隣りのAの窓口は遠くからやってきた冒険者たちで、すでに持っているランクやステータスをこの街の表記に切り替えに来ているベテランたちだ。

 窓口から一メートルほどは仕切りを兼ねた観葉植物が置いてあるが、A列からの圧はハンパではない。ベテランとルーキーの違い以外にも、この街の冒険者たちへの侮蔑や揶揄が感じられる。

――クソ、こいつら舐めてやがる――

 ムカつくアルテミス。

――でも、保険やら年金があって、インフラやら老後の生活に目が向いているんだから、外からは軟弱に見えるんでしょうねえ――

 こないだまで生徒会長をやっていたベロナは冷静に分析する。

「お次の方ぁ」

 眼鏡っこの受付が笑顔で応対してくれる。

「初めての方ですね、スキルとステータスを伺ってもよろしいですかぁ」

「ええと、学生証でいいか?」

「ええと……卒業証明書と単位取得証明などはお持ちではないのでしょうか?」

「あ、それは」

「あ、まだ在学中なんですかぁ?」

「うん」「はい、そうです」

「少々お待ちください」

 眼鏡っこは後ろの課長に伺いに行った。

「次の方、先におうかがいしまーす」

 バレッタで髪をまとめたのが次の受付を始めてしまう。

――学生?――わけありか?――段取り悪ぅ――弱そう――生意気そう――

 揶揄やら馬鹿にしたのやら物珍しげな眼が突き刺さって来て居心地が悪い。

「クソぉ」

「ここは辛抱ですよアルテミス(^_^;)」

 なだめるベロナの目も引きつっているが、さすがにアルテミスは突っ込まない。

「お待たせいたしましたぁ」

 眼鏡っこがバレッタの横から体を斜めにして書類を見せる。

「ええと、曙の谷のあたりに初級のモンスターが出ますので、取りあえずそれを狩ってきていただけますか? その成果でスキルとステータスを決定する運びになります。よろしいでしょうかぁ?」

「あ、ああ」

 曙の谷は広場でも聞いた。大したところではなさそうなので小さく頷く二人。

「それでは、魔石とかドロップアイテムがありましたらぁ、必ずお持ち帰りください。それを元に査定いたしますのでぇ」

「おお」「承知しました」

「ええと、前衛はどうなさいますかぁ?」

「前衛?」

「お見かけしたところ、アーチャーとメイジ(魔法使い)のようにお見受けするんですが?」

「ああ」

「だとしたら、近接防御の戦士とか剣士が必要だと……あ、腕に覚えがおありなら構わないんです。まあ、曙の谷ですからぁ(^_^;)」

 聞こえたのか眼鏡っこの応対で想像がつくのか、フロアーの半分ほどがクスクス笑う。

「お、おう、なんとかする」「はい」

「そうですか、では向こうの窓口で冒険者保険をおかけになってからお出かけください……」

 もう少し話したそうにしていた眼鏡っこだが、バレッタと次の登録者に押されて消えてしまった。

「そうだ、学校で用意したガードがいるって教頭先生がおっしゃってなかったかしら?」

「あ、そういや……ギルドに行って登録のついでに確認しなさいとか言ってたなあ」

「登録のついでなら、ここだなあ……」

「どこに居るんでしょう……」

――ここだ――

 直接頭の中で声がして、振り返ると柱の横にドアーフの戦士が見えて、ビックリする二人だった。



 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
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  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
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馬鹿に付ける薬 009・広場を抜けてギルドに向かう

2024-08-21 12:07:28 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

009:広場を抜けてギルドに向かう 




 活気が無いわけではない。


 伝説の英雄神に胸板を貫かれた魔王の口からは五メートルあまりの水が噴き出て、周囲の魔族や英雄神の弟子たちも互いに刃を交わしながら、それぞれの主神を見上げて水を噴き上げる。
 その噴水のブロンズたちが噴き上げる水は、たちまちのうちにミストになって、広場に集う者たちを潤す。
 集う者たちは、そのミストにびしょ濡れになる前には噴水の周囲を離れ、それぞれの目標の場所に移っていく。

 移っていく者たちは、両手にストックを持ったウォーキング、あるいは散歩の者たち。あるいはマイカートを押した買い物の者たち。
 ミストの届かない木陰では杖に顎をのせたり、大方の体重をベンチの背に預け、UVカットの帽子やサングラス、日焼け防止の腕カバーに身を固めた元冒険者たち。
 彼らは、バザールの安売りや健康法や、かつての話半分の冒険譚に花を咲かせる。元は現役であった彼らは声だけは大きい。

 だから、広場はけっこうな活気ではある。

 活気はあるが、それは沈みゆく夕陽の輝きに過ぎない。若い現役の冒険者たちは待ち受ける初めての、あるいはせいぜい二度目か三度目の冒険の障りになってはかなわぬと足早に通過するか、広場そのものを回避して目的のギルドや素材屋、武器屋、保険の代理店に向かっている。

「夏場の午後五時と言ったところですわねえ」

「え、まだ二時を回ったところだぞ」

「ふふふ、アルテミスは元気いっぱいですね」

「ここは、ざっと見ただけで十分だ。さっさとギルドに行こう、保険ならギルドでも受け付けてくれるだろう」

「すこし、お年寄りの方々とお話してもいいかと思うベロナなんですけど」

『おお、そこのお若いのぉ』

「あ、わたしたちですかぁ?」

『初々しいなあ、初めての冒険かい?』

「はい、これからギルドに向かうところです」

「ち(-_-;)」

 木陰の年寄りたちが一斉にベロナとアルテミスに顔を向ける。

『そうかい、そりゃあいいなあ』

『今からなら、曙の谷ぐらいには行けそうだなあ』

『ダメよ、吊り橋でこじれたら谷底で野営しなきゃならなくなるわよ』

『それも風流なもんじゃないか』

『なに言っとる、最初の野営でションベンちびったのはだれだ』

『それは剣士のなんとかいうやつだ』

『そうよぉ、ヤコブは狼の遠吠えで卒倒しちゃってぇ』

『う、うるせえ』

『あはは、お爺ちゃんたちに付き合ってたらきりが無いわ。行ってちょうだい(^_^;)』

「ありがとうございます。みなさんもお元気で」

『あんたら、ひょっとして馬鹿に……』

 馬鹿の次に来る言葉が気になる二人だったが、老魔法使いの婆さんの注意に従ってギルドを目指すことにした。

 
 ギルドはドイツ風の質実な三階建で、角を曲がって姿が見えた時から特別な感じがする。
 黒ずんだ柱は太々と地面に根を張っているようだし、頑丈そうな窓からは冒険者たちの気炎が溢れるよう、屋根の風見竜は――風向きなど見ていられるか!――と、いまにも戒めを解いて空に舞い上がっていきそうな気配だ。

 建物の前面いっぱいに据えられたポーチには、現役冒険者たちのオーラを浴び、話しかけたり冷やかしたりしようとする年寄りたちがいたが、さすがの二人も、その視線に応えようとはせずに厳めしい金具付きのドアを開けた。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
コメント
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